よ、四十までにはなんとか終わりを……。
子供達に遅れることしばし。母親二人も咲夜が消えていった扉に全速力で向かっていた。並走している彼女等は譲り合うなどという言葉とは全く無縁なようで、ただただ一直線に扉へと駆ける。
ちなみに、逃げるように咲夜が生み出した扉は拒絶を表していた為に、当然の如く二人が並んで入れる大きさではなかった。
「おぶっ!」
「あだぁっ!」
はみ出ていた部分が見事に激突、扉の空間の部分はそのまますり抜ける。そんな体勢で通り抜けた飲子とレミリアは、当たり前のようにもんどり打ってゴロゴロと床を転がった。そのまま逆ハの字に転がり続けた二人は壁にぶつかるとようやく止まる。どうやらレミリアは頭部をしたたかに打ち付けたようで、蹲って両手で頭を抑えプルプルと震えていた。
一方の飲子は壁面と盛大にディープキスをしたらしく、両手と顔面を壁にくっつけたまま動かない。
そんな二人を見て何か感想を述べてくれる者は生憎とおらず、お互い無言でゆっくりと立ち上がると服についた汚れを手で払った。今度はゆっくりとした足取りで歩を進めると、どちらともなく口を開く。
「譲れよ」
「嫌だよ」
「私の咲夜がピンチなんだぞ! ここは母親である私を優先させるだろうが! 親子の愛で万事解決なのよ!」
「何言ってんのさ! 私の霊夢が解決しようと頑張ってんだよ! 母親である私が一目散に援護に行くに決まってるじゃん!」
「娘に役立たず宣言されてた奴が何を抜かす」
「そっちだって咲夜ちゃんに置いてかれてるくせに」
無言でレミリアは横にいる飲子に拳を放った。そして飲子も同タイミングで隣のレミリアに拳を放った。お互いにカウンターになったそれは、同時に顔面に叩き込まれ二人揃って崩れ落ちる。
「って、こんなことしてる場合じゃない!」
「……確かにそうね。ところであんたは本当に人間なの?」
吸血鬼の渾身の拳を顔面に食らい倒れたものの、何事もなかったかのように立ち上がり話を進める博麗の巫女をジト目で眺めつつ、もう考えても仕方ないかとレミリアは肩を竦めた。今はとにかく自身の愛娘を助ける方が先だ。
そんなレミリアの同意の言葉を聞き、飲子も気合を入れるように拳を握り笑みを浮かべた。のであるが。
「とは言っても」
視線を真っ直ぐ前に向ける。いつの間にか無限に思えるほど歪められた空間は、そこまで進んでいないはずの霊夢達の姿ですら見失わせていた。選択肢は無数にあり、その中からただ一つの正解を今すぐに見つけ出さなくてはいけない。そんな不可能とも思えるようなこの状況を見て、どうしたものかと飲子は頭を悩ませた。
だが、隣の小柄な吸血鬼は何だそんなことかと彼女の悩みを鼻で笑う。どういうことだよ、と詰め寄ると、いいから黙って見ていろと飲子を後ろに下がらせた。
「このレミリア・スカーレットの目は、この程度の選択肢など無いに等しい」
目を見開き、眼前の空間を睨み付ける。何が見えているのか飲子にはさっぱり分からないが、しかし何をしようとしているのかは分かった。
答えを、手繰り寄せている。
「……こっちよ、ついてきなさい」
「う、うん」
自信満々でそう述べる彼女に若干気圧されつつ、飲子はレミリアの後を追い駆けた。
打撃音が響く。斬撃の音が聞こえる。何かを抉るような音が耳に届く。
「……ちぃ」
思わず舌打ちをした。だが戦意は衰えず、錫杖を構え直すと襲い掛かってくる妖怪の攻撃をいなし一撃を叩き込む。衝撃で相手は吹き飛ぶものの、何事もなかったかのように立ち上がると下卑た笑みを浮かべた。
気持ちを整え直したものの、この堂々巡りを延々と繰り返していては再びぐらついてくるのも無理は無い。そう自己判断をしつつ、しかしそれではいけないと命蓮は自身の頬を軽く叩いた。視線を周囲に向けると、同じように戦意を奮い立たせている三人の姿が見える。残り二人は変わらずのようであった。
「お前達はどうしてそこまで脳天気でいられるんだ」
思わず言葉が口をつく。それが耳に入ったのか、調子の変わらない二人――幽香とルーミアは彼に顔を向けると決っているじゃないかと笑みを浮かべた。同時に襲い掛かってくる妖怪の攻撃を受け止め押し返す。
「だって、別にピンチじゃないもの」
「さっきも言ったじゃない。この程度で焦っちゃうほど私達は弱くないでしょーって」
まあ、いい加減倒せないのはストレス溜まるけど。そう言いながら二人は命蓮に指を突き付ける。そっちだってそうだろう、と不敵な笑みを浮かべる。
結局、急いで先に向かわなくてはいけないという気持ちが先行し過ぎているから、そんなことになるのだ。彼以外の三人にも聞こえるようにそう述べると、幽香はくるりと日傘を弄ぶ。
「のんびり、楽しみましょう?」
「……でも、私はお姉様達が」
フランドールが何かを言い掛けたが、隣の美鈴がそんな彼女の肩に手を置いた。フランドールが視線を彼女に向けると、何が可笑しいのかクスクスと笑ってなだめるように手をひらひらとさせている。
「何? 美鈴、気でも触れちゃった?」
「意外と毒舌ですね。違いますよ、幽香さんの言葉がちょっとツボに入っちゃいまして」
「それこそ何で? あの言葉の何処にそんな要素が」
「いや、だって」
あれ、要はインコを信じてるってことですから。そこまで言うと堪え切れなかったのか腹を抱えて笑い出した。ポカンとした表情で美鈴を眺めていたフランドールであったが、その笑いが残りの二人にも伝染しているのを見て表情を益々怪訝なものに変える。
さっきまであれだけボロクソに言っていて、しかも照れ隠しでも何でもなく明らかに自分達より下に見ている。人格的にはまだしも、ことこういう場合において信頼出来るかといえば答えは否。少なくともフランドールの中の博麗の巫女像はそうであった。
「分からない。何でそこで笑えるの?」
「んー、そうですね……とりあえず、今から霊夢が年頃になるくらいまで一緒にいれば何となく分かってきますよ」
そこまで言うと、じゃあもう少し気合入れますかと美鈴は再び拳を構えた。どうにも納得がいかないが、しかし隣の彼女が言うのならば信用してみよう。そう結論付け、フランドールもその隣に立った。
「……さて、じゃあどうしましょうか」
「うん、そうだと思った」
やれやれ、と肩を竦める。しょうがないじゃないですかと抗議をする美鈴を尻目に、フランドールは何かを観察するように眼前を見た。じっくりと品定めをするかのごとく眺めると、何かを考え込むように腕組みをする。
そんな彼女の行動を不思議に思ったのか、美鈴が一体どうしたんですかとフランドールに尋ねた。まあちょっとね、と返すと、視線を目の前の妖怪から地面に移す。
「よ、っと」
軽い調子で呟き、そして右手を軽く握りしめた。瞬間、妖怪の立っていた地面が爆発したように吹き飛び、盛大な土煙を上げながら陥没していく。突然の天変地異にパニックを行こした妖怪達はその場から這々の体で逃げ出すと、何かを警戒するように一行から距離を取った。
「とりあえず時間稼ぎは出来たかな」
「は、はぁ……」
よしよし、と頷くフランドールと目の前の巨大なクレーターを交互に見やりながら、向こうの妖怪達と同じように状況が掴めず美鈴は曖昧な返事を述べる。助けを求めるように視線をフランドールから他の面々へと移したが、何かを感心するように頷く華扇と頭痛を堪えるような命蓮の姿が目に入り、彼女は本人以外から答えを聞くのを諦めた。
「綺麗に破壊されてるわね」
「うん、何かドカーンって感じ」
分かっているのかいないのか不明だがやはり調子を崩さない幽香とルーミアは、しかしその光景に何かを見出したようで、お互いに顔を見合わせるとコクリと頷いた。
せーの、とルーミアが両手を広げ水平に伸ばす。そのままゆっくりと宙に浮かび、自分達から距離を取った妖怪共を視界に入れた。ペロリ、と舌で唇を舐めると、ゆっくりとその口角を上げる。
「……何をする気だ?」
そんな彼女を見上げながら、命蓮は怪訝な表情を浮かべた。先程のフランドールが行ったと思われる行動で何を見出したのか。それが彼には分からず、疑問が思わず口から零れたのだ。
「十進法でも採用したのかしら?」
「だったら今まで何を使っていたんだあいつは」
呑気に感想を述べた華扇にそう返し、命蓮はルーミアの行動を注意深く観察する。どちらにせよ、こちらに何か影響があるのならば警戒しなくては。そんなことを思いながら浮かんでいる彼女を見詰め。
「……っ!?」
瞬間、視界が真っ暗になった。視線を落とし、左右を見渡しても眼前に広がるのは暗闇ばかり。華扇、と隣にいたはずの女性の名を呼ぶと、何ですかという声が返ってきた。その声色は何やら慌てているようで、恐らく自分と同じ状況に陥っているだろうと予見させた。
「何だこれは」
「私に聞かないでくださいよ。あ、いや、十中八九ルーミアよ」
「いや、それは分かっている」
問題は、彼女が何をやらかしたか、だ。自分の感覚としては視覚を奪われたのかとあたりは付けられるが、果たして他の面々も同じ状態であるかどうかの確信が持てない。持てないが、とりあえず会話という手段があるのでそうであるかの確認は出来る。もう一度隣の女性の名を呼び、そっちはどういう状況だと尋ねた。
「真っ暗」
「同じか」
少し離れた場所にいる美鈴とフランドールにも確認を取りたいところではあるが、ルーミアが何をやろうとしているか分からない以上大声を張り上げたり無闇に移動したりするのは得策ではない。そう判断した命蓮は息を吐くと、錫杖を杖代わりに地面へと突き立てた。
さて、何をやらかす。そんなことを思いつつ、見えない頭上へと視線を向ける。
「んー、全然見えないや」
「ふざけるな」
当の本人の脳天気なその言葉を耳にした彼は思わず毒吐く。何か考えがあってこの状況を作ったのではないのか。そう続け、見えないその方向に向かって指を突き付けた。
まあ、そうなんだけどさ。命蓮の言葉にそう返した彼女は、ケラケラと何が面白いのか笑い声を上げた。彼からは全く見えないが、しかしそれは普段彼女が行っている姿だろうなと頭に浮かぶ。そして同時に、彼女がそんな笑い方をした後に決まってもう一人が笑うのだ。
「大丈夫。上出来よルーミア」
「あ、やっぱり?」
そう言って幽香とルーミアは二人で笑い合う。見えていないお互いの顔を見合わせ、笑う。
さてさて、では次ね、と幽香が日傘をくるりと回す。他の者には見えないその動作を行うのと同時、彼女の足元の土が芝生へと変わった。ゆっくりと傘を前に向けると、まるで意思を持っているかのように芝生が真っ直ぐ伸びていく。そんな奇妙な光景は、当の本人である幽香以外、認識することが出来ない。もし出来るとするならば、それは。
「花は、とてもか弱い生き物なの」
距離を取り、そして暗闇に包まれた妖怪達の足元に突如出現した芝生。その草がゆっくりと、しかし急激に成長を遂げ、まるで拘束するように足へと絡みついた。それでも尚勢いは止まらず、次第に草は妖怪の体全体を縛り付けるように伸びていく。
ひぃ、と妖怪の誰かが悲鳴を上げた。逃げようと懸命に足を動かすが、既に大地に根を張った木のごとくその身はビクともしない。強くなったはずなのに、どうして。そんな疑問が頭をもたげている間にもどんどんと植物は侵食し、先程まで下卑た笑みを浮かべていた妖怪は一つの花のオブジェとなる。
「だから、貴方達みたいな強い妖怪には、決して負けないわ。なんてね」
手で口元を隠しながらクスクスと笑みを浮かべた。日傘をくるりと眼前で回し、もういわよと頭上に声を掛ける。了解、という声をと共に、先程まで周囲を覆っていた暗闇はあっさりと消えてなくなった。
急に明るくなった視界に思わず目を瞑った四人は、ゆっくりと光に目を慣らすように瞼を上げ、そして眼前に広がる光景を目にする。そのまま目を見開き、それを見る。
「……花?」
「そう、花」
誰かの呟きに幽香は笑みを浮かべたまま答えた。いつの間にか花畑のようになった紅魔館の門前では、何かを諦めたように頭を垂れる茎の群れ。
朝顔の支柱となった妖怪が、身動き取れずに立ち尽くしていた。
「……どういうことなんでしょう?」
「俺に聞くな」
無抵抗で花に巻かれるままになっている妖怪共を眺めるが、答えはとんと出てこない。命蓮も華扇の言葉に疲れたように答えるのみである。だが、その後すぐにいや待てよと顎に手を当てた。
先程幽香の言っていた言葉を思い出したのだ。花はか弱い生き物、だから、強い妖怪には決して負けない。ほとんどただの戯言なのは間違いないだろうが、しかし。
ちらりと彼女を見る。こういう部分があるかないかで、結局妖怪の強弱というのは決まるのだろうな、と一人納得したように彼は頷いた。力の強い弱いではない、折れるか折れないかだ。
「さ、そろそろ中に向かいましょうか」
「そだねー」
「……らしいですよ、フランさん」
「まあ、お姉様達のところに行けるならもう何でもいいわ」
色々考えるのをやめた美鈴とフランドールは幽香達二人の言葉に頷くと後に続いて門をくぐる。ついさっきまで威勢の良かった門番共は形成を逆転されたのがショックであったのか、何を言うことなくそれをただ黙って見送るのみ。
「たまには、こうやって力比べじゃない決着もいいかもしれないわね」
「こう、何か変わった感じの勝負方法ってこと?」
先頭を歩く幽香とルーミアは呑気にそんな会話を続けている。ちらりと朝顔の支柱を見ながら、だってそうすればこういう輩にも勝機があるでしょうと微笑んだ。
「ねえ、そう思わないかしら?」
振り返り、どうにも煮え切らない表情の四人を見る。華扇は知るかと肩を竦め、美鈴はあははと曖昧な笑みを浮かべた。フランドールは成程、とどこか気になる様子であり、そして命蓮は。
「言うからには、お前達にはもう案があるということか?」
「あら、鋭いわね」
「寺生まれは凄いねー」
言いながらルーミアが一枚の札を取り出した。まあ今考えたんだけど、と前置きをすると、そこに書かれている絵柄を見せびらかすように掲げる。ルーミアらしき姿を中心に、光弾がばらまかれているそれは、何を表しているのかがよく分からなかった。
何だそれは、と彼が訊ねると、ふっふっふとルーミアが笑う。
「……何だろう」
「とっとと行くぞ」
「あー、違う違う。こう、名前がまだないってこと。仕組み自体は説明出来るよ」
幽香が、と隣に目配せをする。はぁ、と若干呆れたように息を吐くと、ちょっと貸しなさいとルーミアから絵札を奪い取った。
そこに二本の線を付け足し、これでよしと満足そうに頷く。
「命名決闘法、とかどうかしら」
「おお、何だかかっこいい」
「……いい加減命蓮が限界なんで先を話してくれない?」
「あら、ごめんなさい」
華扇の言葉を聞いて絵札をルーミアに返し、幽香は微笑む。館に向かう足は止めずに、所詮まだただの思い付きよと前置きをした。
一言で言ってしまえば、こういう攻撃をするから、攻略出来るか出来ないかで勝負しよう、という遊びだ。そう、彼女は述べる。
「これで無理に切った張ったをやらなくても済むし、妖怪も暴れやすくなる。紫も似たようなこと考えてるんじゃないかしらね」
「別に私は今のままでも気にしないんですけどねぇ」
「それは強者であり、人との融和を良しとする貴女だから言える言葉よ美鈴。あそこでオブジェになっている連中みたいなのはゴロゴロいる」
「確かに、今回の騒ぎでその辺が炙り出された結果になったわね」
「だからこその新しいルール、か」
何だ、案外色々考えてるじゃないか。そんなことを思いつつ、命蓮は少しだけ関心したように頷いた。詳しいことは妖怪の賢者や博麗の巫女と相談するとして、今の段階では具体的にどうなのか。そう問い掛けると、ルーミアが自信たっぷりに胸を張った。
「こう、札を掲げて、これを使うよーって宣言するわけよ」
「ほう」
「名前は――んー、そうだなー」
考え込むように空を見上げた。既に月が高く上がっており、月光が自身を照らしている。その明るさを見て少しだけ目を細めると、よし決めた、と彼女は叫んだ。
同時に、どこかに隠れていたらしい門番とは別の妖怪が向かってくるのを視界に入れ、丁度いいと口角を上げる。
「その名も、ムーンライ――」
「どうせならもう少し頭に付けましょうよ。そうね、カードなのだから、札にまつわるのがいいわ」
幽香にそう言われ、しょうがない、と彼女は掲げた絵札を下ろした。くるりと一回転すると、じゃあ改めて、と持っていたそれを頭上に掲げる。
「月符『ムーンライトレイ』!」
宣言と同時、ルーミアから光弾がいくつも生み出され、相手に向かう。何だ、とそれに目を見開いている相手に向かって、両手から光線を生み出した。先程の説明では攻略を出来るか出来ないかで競う為の行動なのだから、当然の如く殺傷能力は普段の彼女の行動と比べれば天と地もある。避けることも十分可能で、はっきり言ってしまえば隙だらけだ。
だが、相手の妖怪は『ひっくり返って』いる己を過信していたために直撃しても問題ないと判断しその光弾と光線に突っ込んだ。
瞬間、弾幕に蹂躙された妖怪はボロ雑巾のように吹き飛び、そして地面に叩きつけられるとピクリとも動かなくなった。これにはルーミアも予想外だったようで、あれ、と首を傾げている。
「あー、成程」
「『相手を必要以上に傷付けない攻撃』が、『ひっくり返った』のか」
あちゃぁ、と華扇は手で顔を覆う。これじゃあその提案を実際に確認することが出来ないではないか。そんなことを思いながらも、まあとりあえず厄介な後続を断ったのだからよしとしよう。前向きに考え命蓮に同意を求めるように視線を移した。
「いや、そう簡単にはいかなそうだな」
ほれ、と彼が指差した先には、木っ端妖怪とは少々趣の違う存在が三人ほど館の入り口に立っている。それぞれの顔に思い当たりがあった面々は、少しだけ首を傾げながら何故ここに、と疑問を浮かべた。
「私の強力な助っ人ですよ」
頭上から声。顔を上げると、吸血鬼とは違うコウモリの羽を付けた赤毛の少女が六人を見下ろし仁王立ちをしていた。幽香は彼女を見てあら、と声を上げ、フランドールは何やってんだコイツという目で睨み付ける。
「おおっとフラン様。その目はやめて下さい、ちょっと心に来ます。でも貴女様がいけないんです。お嬢様達を裏切ってそっちについちゃうのが悪いんです。私のリベンジタイムに居合わせたのが悪いんです!」
「……多少手荒に扱ってでも正気に戻そうか」
いちいちポーズを付けながら自信満々に叫ぶ頭上の彼女――小悪魔を更に呆れた目で見ながら、フランドールは拳を握り締めた。そんなフランドールの肩に手がポンと置かれる。
まあまあ、向こうのお目当ては私のようだし。そんなことを言いながら、幽香が柔らかな笑みを浮かべた。
「なら、半々で」
「いいわよ。多少は『ひっくり返った』影響もあるでしょうし」
奇妙な羽を揺らしながらフランドールは笑う。じゃあ行きましょうか、と幽香は日傘をくるりと回した。
「向こうは向こう、こっちはこっち、ですかね」
言いながら美鈴は目の前の赤いマントの少女を睨む。吸血鬼の手下じゃないって言ってませんでしたっけ、と皮肉交じりに述べると、勿論その通り、と少女は頷いた。
「そこの小悪魔に助っ人を頼まれただけ。他意はない」
「律儀な……」
「後は、そうね」
貴女ともう一度勝負したかった。そう言うと少女は短刀を逆手に構えて姿勢を低く構えた。館の結界の影響で差は縮まっているはずだから、と眼光を鋭くさせ真っ直ぐに美鈴を睨む。
「向こうで徒党を組んでた木っ端妖怪に聞かせたいほどの意気込みですねぇ」
「流石にあれと一緒にされると私も傷付くなぁ……」
「ですよね」
じゃあ紅美鈴、参ります。拳を握り、彼女も相応の構えを取った。上等、と少女は満足そうに口角を上げる。
美鈴が地を蹴る足に力を込める。同時に、少女もその両足に力を込めた。
「草の根妖怪赤蛮奇、参る!」
「さて弟さん、私の愚痴を聞いてもらおうじゃありませんか」
「後にしてくれ、とはいかんだろうな」
「ええ勿論」
水兵服の少女は命蓮に向かって錨を突き付ける。あんな情報だけでいなくなったんで捜すの大変でしたよ、と少しだけ彼女は苦笑した。
確かにあの時は言いたいだけ言って去ったな、と思い出した命蓮は済まなかったと頭を下げた。そして同時に、そういうことならば仕方ないと多少諦めに似た感情で錫杖を構える。
それを肯定と取ったのか、少女は満足そうに頷くと突き付けた錨を方に担いだ。
「ナズーリンから聞きましたよ。私の残留思念を払ったそうじゃないですか」
「……ああ、あの時のあれはお前だったのか」
というかあの鼠少女は何故それを知っているんだ。そんなことが頭をもたげたが、まあ些細な事だと切って捨てた。そもそもとして、目の前の少女と繋がっている時点で色々と影で動いていたであろうことは容易に察せられる。
「ではこの船幽霊村沙水蜜、じっくりたっぷり聖の弟さんに説教しますよ」
「生憎と説教は僧である俺の領分だ、一筋縄ではいかんぞ」
「上等!」
振り下ろした錨と、振り上げた錫杖がぶつかり合い、甲高い音を響かせた。
残りの一人は華扇とルーミアに一方的に攻め立てられているので省略。
「何でこうなるの!? 私の扱い酷い!」
「当たり前よ。せっかくあのアホ天魔が見逃すって言ったのにまた敵対なんてね。しょうがない、この仙人がお灸を据えてやります」
「夜雀、夜雀、焼っき鳥ぃー」
「食われる!?」
哀れなミスティア・ローレライさんの明日はどっちだ。
赤蛮奇は草の根じゃない、のだろうけど響きがかっこいい気がしたので名乗ってもらいました。
復活ボスはお約束。