先代巫女と六人の仲間達   作:負け狐

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復活ボスは案外さっくり倒されますよね。


参拾壱 木瓜の花の花言葉

「こ、こんなところで私は終れないのよ!」

 

 必死で逃げながら、ミスティア・ローレライは歯を食いしばりそう叫んだ。せっかく九死に一生を得て、異変の効果により強者との立場は逆転した。これで今まで自分を馬鹿にしていた連中を見返すことが出来る。そう思い、気も大きくなった為に柄にもなく妖怪助けをしようとここまでノコノコやって来て。

 結果がこれである。数刻前の自分をぶん殴ってやりたい衝動に駆られるのも無理はあるまい。

 

「そう、そうよ。私は今はあいつらより強い、だから怖がる必要なんかない。うん、無い、と思う」

 

 よし、と足を止め、振り返る。拳を握り鉄拳制裁をしようとしている華扇を睨み付ける。

 負けるか、と繰り出された正拳を受け止めた。そのまま思い切り握り締め、力の限り放り投げる。ふわりと目の前の女性の体が宙に浮き、思わずやったと声を上げた。

 

「まったく、さっきからどれだけ木っ端妖怪に同じことをされたと思ってるんですか」

 

 ふん、と目の前の華扇は鼻を鳴らす。同時にミスティアが握っていた腕、包帯の巻かれていた右手がグシャリとひしゃげた。布が解け、煙のようなものが中から溢れるのと同時、握っていた感触が消え失せる。

 え、と間抜けな声を上げるのと、そのまま華扇が体勢を立て直すのが同時であった。ミスティアの目の前に着地すると、解けていた包帯が元に戻り右手を形作る。

 

「ひっ……」

「驕れる者は久しからず。急に降って湧いた強さに胡座をかいているようでは、貴女も木っ端妖怪と同等よ」

「な、何よ! あんたみたいな強い奴に私の気持ちなんか分からないわ! ちょっと強いからって馬鹿にして、見下して……。そんな連中に復讐する機会が出来たのよ、調子に乗って当然じゃない!」

 

 まるで泣いているように。華扇の目の前の夜雀の少女はそう叫ぶ。これは自分たちの正当な権利だ。そう言って、真っ直ぐに仙人を、否、最強の妖怪の一角を睨む。

 ふぅ、と華扇は溜息を吐いた。少なくとも向こうでオブジェになっている連中よりはまとものようね。そう言って肩を竦めると、でも、と彼女の目を真っ直ぐに見た。

 

「まだ甘い。自分が強者になったのならば、まず持つべきものは自信ではなく、相手との距離よ」

「は? 何を言って」

「この場合は、実際の距離というだけではないわ。実力にどれくらいの差があるのか、相手に隠し球はないか、そういった全てを見渡すのが重要よ」

 

 それが貴女には出来ていない。そう言って指を突き付ける華扇を見て、ミスティアは怪訝な表情を益々強くした。突然何を言い出すのか、何故急にこちらに説教をするような真似をするのか。

 そんなことが頭をグルグルと回り、それがどうしたと言い放ちながら自身の爪を突き立てようと手を振り上げる。距離がどうしたというのだ、実力差はこちらが上、隠し球などあるわけがない。大体さっきから一人で喋っているだけではないか。

 そんなことを思いながら、その首筋に狙いを付け。

 

「窮鼠猫を噛む。弱い者でも、強者に牙を突き立てることは出来る。――鼠は、猫を噛み殺せるの」

「だから何を――」

「ねえ貴女。後ろ、確認した?」

「――え?」

 

 肩を掴まれ、吐息が耳に掛かる。ああ、そうだ、と。そこで彼女はようやく思い出した。

 自分が相手をしていたのは、二人だった。もう一人、自分を食らうとか言っていた輩がいたのを、忘れていたのだ。

 彼女はこの時ほど、自分の記憶力のなさを恨んだことはなかった。そして同時に、背後から聞こえる料理名が無性に嫌になった。

 

「焼き鳥なんか……大っ嫌い!」

 

 この言葉を最後に、彼女の意識は闇に落ちる。

 

 

 

 

 

 

 やれやれ、と華扇は伸びたミスティアを引きずりながら肩を竦める。腕っ節がいくら強かろうが、そこに精神が追い付いていなければご覧の有様だ。そんなことを思いつつ、まだまだよね、と呟いた。

 

「あっさり気絶しちゃったからねー」

 

 あはは、とルーミアが笑う。物理で倒せないのならば、心を攻める。そうした考えから取った行動がこれであったが、思った以上に上手く行ってしまって二人揃って拍子抜けしてしまっていた。

 まあ、残りの面々はそう簡単にはいかないでしょうけど。ミスティアの襟首を掴んだまま視線をそれぞれの方向に移動させつつ華扇はポツリと呟く。ルーミアも同じように、赤蛮奇と水蜜を眺め、そうかもね、と呟いた。

 

「まあ、私達は一足先に館に入っておこうか」

「……確かに、今がら空きですしね」

 

 他の面々を待っている意味も特に無いし。そう結論付けた二人は、適当な場所にミスティアを置き、お先に、と館の扉を開けた。その先が迷宮へと化しているのを知らずに、である。

 そんな扉の向こうに消えていく二人を横目で見つつ、命蓮はまったく、と一人毒吐いた。しかしすぐに意識を目の前に戻し、振り下ろされる錨を錫杖で受け流す。明らかに錫杖では折れてしまうほどのその質量とぶつかり合って尚、彼の得物はその身にろくすっぽ傷がない。

 そのことを水蜜も分かっているようで、苦い顔をしながら少しだけ距離を取った。

 

「どうした? もう気が済んだのか?」

「まさか。これからですよこれから」

 

 錨を地面に突き立てると、命蓮の足元から水柱がいくつも上がった。む、とそこに意識を向けてしまった彼に対し、水蜜が一気に肉薄する。彼の虚を突いた体勢になったそれは、土手っ腹に気持ちいいほどの一撃を叩き込んでいた。

 体が「く」の字に曲がり、思い切り後方まで吹き飛んでいく。植え込みの中へと突っ込み、木々をへし折る音と共にドスンと大きな音が響いた。

 さて、これで終わりかそれとも続くか。そんなことを思いながら水蜜が突き出した錨を肩に担ぐのと同時、ガサガサと植え込みから音がし、頭に葉を付けた命蓮が顔を出した。その表情は少々苦いものに変わっており、今の一撃は彼にとって予想外であったようだ。それを確認した彼女は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 

「あらあら。どうしたんですか弟さん。私ごときに苦戦しているじゃないですか」

「……ああ、そうだな」

 

 否定をせず、ただ真っ直ぐに錫杖を構えた。この程度の挑発に乗るようでは到底あの神社で生活など出来ない。それを知ってか知らずか、水蜜はまあそうですよねと肩を竦めた。

 あの聖の弟だ。こんな簡単にやられて、単純な挑発に引っ掛かって。そんなことになどなるはずもない。むしろこうでなくては失望だ。彼女の中に浮かんでいる思いはそんな感じであり、つまるところ目の前の男に勝とうとなど思っていないのだ。

 それを命蓮も感じ取っているのか、自分から攻めることはせずに相手の出方を窺うに留めている。奇しくも天子と無縁塚で相対した時と同じ構図であり、そしてあの時とは違い双方の考えが一致していた。

 

「まあ、気が済むまで、相手してやる」

「そうこなくては!」

 

 破顔し、今度は彼女は自身の足元から水柱を生み出した。行け、という言葉と共に複数の水柱が光線のように命蓮へと襲い掛かる。水圧はかなりのものであり、おそらく直撃すれば人はただでは済まないだろうということを感じさせた。無論天人である彼は命がどうこうということはないであろうが、だからといってわざわざ食らってやる義理はない。

 気が済むまで相手をするというのは、黙って殴られるというのとはわけが違うのだ。

 

「生憎と」

 

 錫杖を眼前で回転させる。放り投げられた糸が絡まるように、その動きによって水流はその全てが巻き取られた。そのまま錫杖を一振りすると、幾重の水柱が一つになった巨大な水流が水蜜へと返される。

 な、と目を見開いた彼女は、錨を盾にするように前面に構えた。襲い掛かる水流を自身の得物で受け止めると、余波でずぶ濡れになった帽子を取り髪を掻き上げながらジト目で目の前の男を睨む。何が気の済むまで相手してやるですか、と述べると、盾にしていた錨を真っ直ぐ突き付けた。

 

「ぶっ倒す気満々じゃない」

「ん? 何だ、この程度で音を上げる程度の修行しかしていないのか。まったく、姉上も甘い」

「言いやがりましたねこんちくしょー!」

 

 がぁ、と吠えながら真っ直ぐ向かってくる水蜜を眺め、命蓮はやれやれと肩を竦める。そっちこそ、こんな簡単に挑発に引っ掛かってどうするんだ。そんなことを思いつつ、彼は攻撃を受け流す為に錫杖を構えた。

 

 

 

 

 

 

「向こうは派手ですねぇ」

「地味で悪かったわね」

「あ、いや。そういうわけじゃないです。というか、それだったら私も充分地味ですし」

 

 言いながら、短刀の背を拳ではじき刃が体に触れるのを防ぐ。妖怪の体で打たれ強いとはいっても、そうそう斬られてもいいものではないのだ。物にもよるが、目の前のろくろ首――赤蛮奇の持つ得物ならば容易く美鈴の肌を切り裂けるであろう。彼女の知る限りの例外を除いて。

 そこ、と相手の体勢を崩したところで蹴りを放つ。赤蛮奇の胴体に叩き込まれたそれは彼女の体を宙に舞わせ、しかし空中で体勢を立て直すと二本の足でしっかりと着地した。そんな彼女の姿を見て美鈴はむう、と苦い顔を浮かべる。あんまりダメージ入ってませんね、と問い掛けるわけでもなく独りごちた。

 問題なのは、その理由だ。先程まで戦っていた木っ端妖怪達のように『ひっくり返った』強さの特性に任せて立ち上がっているだけではなく、明確に攻撃を受け止めダメージを逃している技術がある。

 

「この間戦った時より強くなってません?」

「それはそうでしょう。この館の結界があるんだし」

「いや、そうじゃなくて。何て言うんですかね、技術的な問題ですよ」

「技術?」

 

 小首を傾げる。まあ確かに非力な妖怪なりに渡り合えるように戦い方を試行錯誤したけど、と続けると、その表情を鋭いものに変えた。再び姿勢を低くし、真っ直ぐに美鈴を、否、美鈴の喉元を睨み付ける。

 美鈴もそんな彼女の視線を察し、緩めていた表情を引き締めた。元より油断などしていなかったが、これは益々もって本腰を入れなくてはいけない。気合を込め、その両手をゆっくりと前に上げると、勢い良く腕を振り半身に構えた。そこから放たれる気が周囲の木々を揺らし、重圧は目の前の赤蛮奇の前髪を舞い上がらせる。木っ端妖怪ならば裸足で逃げ出すその空気の中で、彼女は小さく口角を上げ、舌で唇を湿らせた。

 先に動いたのは赤蛮奇。大地に寝転ぶかの如く低い位置を疾駆する。その早さと位置により、目の前から消え失せたと錯覚させるそれは、あっという間に美鈴の懐へと移動していた。狙いを付けたその場所へ、喉元へと刃を振り上げる。

 その直前に、彼女の腕は美鈴に絡め取られていた。円を描くように動かされたそれは、一直線に進んだ刃よりも早く目的を達してしまう。そんな奇妙な光景に目を見開いた赤蛮奇は自身の動きを一瞬だけ止めてしまった。

 無論、そこを見逃す美鈴ではない。手首を返し、肩を回し、腰を、腿を、足を。その全身で円を描くように、巨大な球を生み出すように体を動かす。決して途切れぬその動きから、拳を赤蛮奇の胴へと押し当てた。

 叩き込む、のではなく、押し当てる。そう表現するのが適切なほど、それは柔らかい一撃であった。

 

「……か、はっ」

 

 それでも、それを打ち込まれた赤蛮奇は体の中から響いてくる衝撃によりその身を震わせた。息が止まるような感覚と、全身に重りを付けられたような感触が襲い掛かり、そのままガクリと膝を着いた。持っていた短刀を取り落とし、胴を押さえ、ぶれる視界で目の前の女性を見上げる。

 ちょっとやり過ぎた、とオロオロするその顔が見え、彼女は思わず笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 周囲を見渡す。館の壁に放置してある夜雀。ぶつかり合って満足したように笑っている船幽霊。気を内側に叩き込まれてダウンしてしまったろくろ首。それらを目にすると、小悪魔はなんてこったと頭を振った。

 私の選んだ精鋭陣が負けるなんて。そんなことを言いながら自身が相手をしている者を睨み付ける。

 

「あら、じゃあきっと精鋭じゃなかったのよ」

「バッサリ!?」

 

 日傘を肩に担ぎながら幽香は笑顔のままそう述べる。隣ではそれは流石にどうかと、と苦笑しているフランドールがいた。彼女のその表情を見てそうですよね、と頷いた小悪魔は、気合を入れ直すように自身の頬を張る。こうなったらせめて自分は勝ちを頂く。そんなことを思いつつ、自分の持つ翼を大きく広げた。

 

「まあ、確かに決め手がないのよね」

「さっきみたいな花は?」

「駄目よ。あんまりお花に無理はさせられないもの」

 

 そんなこと言ってる場合じゃないだろうとフランドールは思ったが、しかし彼女のその言葉が全て真実ではないだろうということも同時に思った。何かしら出来ない理由があるのだろう。そう結論付け、じゃあ何か他の方法を、と視線を幽香に向ける。

 その視線を受けた幽香は、だから決め手がないって言ったでしょうと微笑んだ。

 

「そんな呑気に――」

「来るわよ、貴女のところの従者の攻撃」

 

 とん、と軽くフランドールの背を押した。同時に幽香もその場を飛び退る。二人が立っていた場所に強烈な妖気の塊が叩き込まれ、紅魔館中庭の石畳が盛大に弾け飛んだ。

 先程までの小競り合いとは更に威力を上げたそれを見たフランドールは目を見開き、苦い顔で小悪魔を見やる。どうだ、と言わんばかりの表情を浮かべているのが視界に映り、それが無性に癇に障った。

 

「小悪魔」

「はい? 何ですかフランさ――」

「吹き飛べ」

 

 ボン、と空中に浮かんでいた小悪魔のいた空間が弾け飛んだ。爆煙で何も見えなくなったその場所を一瞥し、彼女はフンと鼻を鳴らす。まあどうせこの程度じゃ死なないんでしょうけど。そんなことを思いつつ、右手をゆっくりと爆煙に掲げた。

 瞬間、煙が突風により瞬時に晴れる。予想外のその状況に一瞬虚を突かれたフランドールは、お返しですと光弾を発している小悪魔への反応が遅れた。気付いた時には既に目の前、回避は間に合わない。

 

「呆けてちゃ駄目よ」

 

 日傘が開かれる。跳ねる水飛沫を受け止めるがごとく真っ直ぐ前に突き出されたそれは、光弾を受け止めてそのまま霧散させた。否、正確には直撃を受けて耐え切った。そして、その日傘の持ち主は開いたままの日傘をくるりと回すと、ゆっくりと閉じる。再びそれを肩に担ぐと、笑顔を頭上の小悪魔に向けた。

 小悪魔は顔を顰める。あの攻撃はそう簡単に防げるような代物ではない。だというのにああもあっさり耐えられると、自分の今持っている自信がぐらついてしまう。なにくそ、と吠えると、まだまだと言わんばかりに光弾を連続して放った。そのどれもが先程の一撃と同等かそれ以上で。

 

「ねえフランドール、手助けはいるかしら?」

「いらない!」

 

 笑みを浮かべたまま、幽香はそれを日傘で弾き飛ばした。隣のフランドールも同様に、背中の奇妙な翼を展開させ悉くを弾いている。連打の全てを、効かんとばかりに弾き続ける。

 そんな光景を見ても尚、小悪魔は攻撃の手を緩めなかった。どちらが先に音を上げるか、根比べだ。そう決意し、力の続く限り妖気の続く限り光弾を放ち続ける。

 それはさながら弾幕。先程ルーミアと幽香が提案していた新しい勝負方法と重なって見えて。

 

「ねえ幽香」

「何?」

「さっき言ってた命名決闘法とかいうのだけれど。向こうの攻撃をこっちはどうすればいいの?」

「攻略出来るか出来ないか、だから……躱すのが一般的かしら」

「なら、これを躱して、こっちが逆に攻撃を当てれば」

「……そうね。私達の勝ち、かしら」

 

 顔を見合わせ、クスクスと笑った。じゃあそうしましょうかとお互い頷くと、弾くのを止め回避行動に入る。小悪魔の放つ光弾の隙間を縫って、直撃しないように体を動かす。

 無論急に回避行動へと変化したのを見た小悪魔は、一体何事だと疑問符を浮かべた。が、そんなことの答えを出すより攻めた方が早い、という脳筋な答えに行き着くとまだまだ増えますよと放つ光弾の力を増した。

 

「む、これはちょっと避けにくい」

「そうね。私はのんびり屋だから、ちょっと大変ね」

「余裕の表情でよく言う」

 

 そう言い捨てたフランドールは、この際だから自分も反撃をしようと意識を目の前の小悪魔に向ける。とはいえ、これで普通に攻撃をしては先程のやり取りを無駄にしたみたいで癪である。そう考えた彼女は、ではどうするかと首を捻った。

 

「いっそルーミアみたいに考えるのもいいかな」

 

 呟くが、それをこの場で考えるのは少々酷である。何より、どうせなら華のあるものにしたいではないか。

 ではどうするか。今回は諦めて別の機会にする、あるいは、自分の特技を応用させて無理矢理華を作る。

 

「……あは」

 

 彼女はとりあえず後者を選んだ。まあ試作品だし、こんな感じでいいわよね。そんなことを言いつつ、一枚の札を取り出し左手を少しだけ噛み切る。滲んだ血を使い、自身の姿を四つと、そこから放たれる光弾を描く。

 出来た、と笑みを浮かべると、目の前の従者に向かって声を掛けた。

 

「何ですかフラン様! 私今忙しいんです!」

「そうね。だから決着付けましょう」

「は?」

「貴女の攻撃を私は躱した、だから今度は私の番。私の宣言するこの攻撃、躱し切ったら貴女の勝ちよ」

「……何回勝負ですか?」

「一回に決まってるでしょう? コンティニューは受け付けないわ」

 

 言い放ち、先程作った札を掲げた。じゃあ行くわよ、という言葉と共に、小悪魔の目の前にいるフランドールが四人に増える。

 何をする気だ、と身構えた小悪魔は、しかし逃げることなく留まった。今の強さは自分の方が上、そんな自信があったからだ。

 

「じゃあ行くわよ……名前は、えっと、そうね『フォーオブアカインド』、とかどうかしら」

「何か上に付けなさいな」

「細かいわね……。じゃあ、禁忌『フォーオブアカインド』!」

 

 幽香に茶々を入れられつつ、フランドールは宣言した攻撃を放つ。四人の同じ姿をした吸血鬼が、目の前の小悪魔一人を撃墜させんと弾幕を放つ。一見避ける隙間など無いように見えるその光弾の嵐は、しかしちゃんと目を凝らせば躱すだけの道が空いており。

 もっとも、それをちゃんと見極められるようなものは生憎その弾幕を観戦している幽香くらいしかいなかった。対峙している小悪魔には、どう頑張っても避けられないような無数の弾が飛んでくるようにしか見えない。

 

「え、ちょ、これ当たったらどうな――」

「ん? まあ、今はそっちの方が強いんだから」

 

 死ぬほど痛いくらいで済むんじゃないかしら。そう言ってフランドールが口角を上げるのと、小悪魔が無数の弾幕に蹂躙されるのが同時であった。

 

 

 

 

 

 

 さてと、と幽香は辺りを見渡す。先に中に入っていった二人はともかく、命蓮も美鈴もフランドールもどうしたものかと一旦集合をしている。邪魔者はいなくなったのだから先へ行こう、というフランドールの意見に、まあそうね、と幽香は頬を掻いた。

 そんな四人を眺める先程撃墜された小悪魔は、やはりダメージ自体はそれほどでもなかったようで、ぶうたれた表情を浮かべている。結局、肝心の相手にはリベンジを果たせず、主の友人の妹であるフランドールにのされてしまった。それがどうにも彼女の中では不完全燃焼なのだ。

 ふと、そんな彼女へと幽香が振り向いた。何ですか、とやさぐれた口調で小悪魔が問い掛けると、しょうがないわねという返事が来る。

 

「ほら、一発勝負よ」

「へ?」

「貴女の全力を撃ちなさい。私はそれを弾き返すわ」

 

 出来なかったら私の負け。そう続けると、幽香はニコリと笑みを浮かべた。やるのかやらないのか、そんな問い掛けに、小悪魔は勿論やりますよと気合を入れる。

 全力全開で、目の前の妖怪を吹き飛ばす。そんな思いを込めながら、彼女は両手にありったけの妖気を集め。そして、思い切りそれを放つ。

 

「うん……中々ね」

「うぇ!?」

 

 満足そうな笑みを浮かべたまま、幽香はそれを弾いてみせた。肩に担いだ日傘を、今までとは違い振り抜いて。

 小悪魔の頬を掠め飛んで行く音を聞きながら、彼女はぺたりと座り込む。そのままガクリと頭を垂れ、やっぱり駄目だったと呟いた。こうなるような予感はしていたが、しかしどうしても諦めきれなかったのだ。今この状態、相手と自分の強弱が逆転している今しか出来ないことだから。

 

「誤解しているみたいだから言っておくけれど」

「はえ?」

「少なくとも貴女を含めた四人は、地力が底上げされただけみたいよ。そこらで転がっている木っ端妖怪とは違うわ」

 

 だから、そう自分を卑下しては駄目よ。そう言うと、幽香はくるりと踵を返す。さあ行きましょう、と三人を伴って館の中に入っていった。

 残されたのは、今の言葉を理解するのに時間がかかっている小悪魔が一人。後野次馬二人。

 

「え、えへへへ。私、私強くなってるんですよ。えっへへへぇ」

「単純」

「まあまあ。嘘も方便ですよ」

 

 ん? と水蜜の言葉に赤蛮奇は首を傾げた。そんな彼女を見て、内緒ですよ、と耳打ちをする。

 いい具合に丸め込むための嘘です、あれ。そう述べると、人差し指を口に当てた。

 

「向こうが酷いのか、こっちが単純なのか」

「さっき自分で言ってたじゃないですか」

 

 単純なんですよ。そう言うと水蜜は肩を竦めて笑い、そしてそれにつられて赤蛮奇も笑みを浮かべた。

 




みすちーは焼き鳥の悪夢にうなされています。
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