先代巫女と六人の仲間達   作:負け狐

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気付いたら凄い間が開いてる。

そのくせ短いし進んでない。


参拾弐 本棚巨像

 紅魔館。現在迷宮と化しているそこを彷徨う迷子二人。他の面々を置いてさっさと中に入ったのが運の尽きとでも言うべきであろうか。一体全体ここはどこだとキョロキョロ辺りを見渡すが、何か目印になるようなものはなし。そもそも初めて来た場所にそんな心当たりなどあるはずもなく。

 

「あーもう! 何なんですかここは!」

「迷路?」

「そんな見たままの感想はいらない!」

 

 あくまでマイペースを崩さない迷子の片割れ、ルーミアに、もう片方の自称仙人華扇が吠える。そんなこと言われてもな、とやはり堪えた様子もなく、ルーミアはぐるりと周囲を眺めた。

 明らかに空間が歪んでいる。出口も入り口も、そもそも道すらあるか怪しいここは、明らかに平時とは違うのだろう。そんなことを思いつつ、ならばどうすればいいのかと問われると。

 

「行きはよいよい帰りは怖い。この場合は行きも帰りも怖いのかな」

「……素直に、皆を待っていれば良かった……」

 

 肩を震わせ視線を落とし心から悔やむように呟く華扇であったが、生憎と隣の彼女にはそんな言葉を聞いたところで何か気の利いた返しをすることなどするはずもなく。

 ケラケラと笑いながら、何も考えていないようにただただ道を歩く。どこが答えなのか、どこに間違いがあるのか。そんなことは知ったことではないと言わんばかりに歩く。

 

「ま、とりあえず進もう。そーすりゃ分かるよ、何にしろ」

「……そうですね」

「そーなのだー」

 

 いえい、と腕を振り上げ呑気に鼻歌を奏でるルーミアを見ながら、まあもうどうでもいいやと華扇は思い直した。

 

 

 

 

 一方の残り四人である。一歩踏み込んだ時点で迷宮化した内部の探索をどうするかと頭を悩ませた。無闇矢鱈に進むなどということは決してしない。

 とりあえずこの場所の情報を知っている唯一の相手に皆は視線を向けた。が、向けられたフランドールは力なく頭を横に振るのみである。これは多分住人の誰にも分からない、そう述べると、はぁ、と溜息を吐いた。

 

「お姉様もあれね、駄目吸血鬼よね」

「ば、バッサリいきますね……」

「それはそうよ。自分の館をこんな状況にしちゃうなんて、主失格だと思わない?」

 

 ねえ、と美鈴に視線を向けるが、彼女はあははと曖昧に笑うのみでお茶を濁した。それより、と話題を変えるように咳払いを一つすると、ならば一体どうすればいいのかと問い掛ける。

 

「フランドールの情報が役に立たないとなると、ちょっと厄介ね」

 

 先の見えない空間を眺めながら幽香はそう呟いたが、それについて何か反論を行う者はいない。遠回しに役立たず宣言をされたフランドールでさえ、そうよね、と頷いている。

 とはいえ、と命蓮が彼女に返す。ここで突っ立っていても何にもならんぞ。そう続けると、そうなのよね、と幽香は頬に手を当て首を傾げた。

 

「もうとりあえず進むしかないかしら」

「そういうのはルーミアと華扇にやらせておけ」

「もうやってるんじゃないですか?」

「まあ、ルーミアはノリで動くしな」

「華扇は考える前に動くタイプだし、ね」

「……あの二人の扱いって」

 

 若干引き気味に、しかしまあ友人同士というのは案外こんなものなのかもしれないと思い直したフランドールは少しだけ羨ましそうな表情を浮かべた。自分もそういう相手がいたら、そんなことを思ったのだ。そういえば、姉と喘息気味の魔法使いも遠慮なくものを言い合っていたような。

 

「フランさん」

「ん? どうしたの美鈴」

「いや、ですから。こういう風になる原因に心当たりはありますか?」

 

 そんな美鈴の問い掛けにフランドールは首を傾げた。『全てがひっくり返る』、という状況に陥っているからこそこうなっているのではないのか。既に周知の事実のはずのそれを再び問うたことが彼女は不思議だったのだ。

 だが、美鈴のそこじゃないんです、という言葉にフランドールは更に首を傾げる。

 

「流石に『鬼』の能力だけでこんなことが出来るとは貴女も考えていないでしょう? 館の魔力や妖力を使って力を増幅させているとしても、それでもやっぱり足りないのよ」

「足りない?」

「ええ。基点、触媒、生贄。まあそういったものが足りないわ」

 

 ここでそういうものになる心当たりは、そう幽香に問われた瞬間、フランドールの顔色がサッと青くなった。何故か、そんなものは決まっている。

 古今東西、その手のものに使われるのは『人間』と相場が決まっているのだから。それも、特別な人間が。

 例えば、吸血鬼に育てられ溺愛された少女、とか。

 

「咲夜!」

「どうした?」

「……さっきの答えよ。基点や触媒になるような心当たりはあるわ」

 

 咲夜・スカーレット。レミリア・スカーレットの養女であり、何だかんだでフランドールも可愛がっていた姪の名前。

 

「そう。じゃあ急ぎましょうか」

「え?」

「友人の姪の危機なんだろう? 急がない理由がない」

「え? 友人?」

「ここで私達なんか友達じゃないとか言われると流石に傷付きますよ」

「あ……うん」

 

 では行きますか、と幽香が述べ、三人は応と声を上げる。目指すは館のどこかにいる咲夜の場所。恐らく事態の中心となっている場所。

 既に飲子や霊夢、魔理沙まで巻き込んで広がっているその状況を、まだ彼女達は知らない。

 

 

 

 

 

 

「お?」

「あ」

「あら」

「あらら」

「あれ?」

「え? 知り合い?」

 

 紅魔迷宮を彷徨い歩いていたルーミアと華扇は、自分達とすれ違う一行を眺めて素っ頓狂な声を上げた。同様にすれ違った面々も同じような声を上げる。

 最後の一人の疑問にそうね、と答えたすれ違った面々の一人は、一体全体どうしたのだと二人に問うた。その問い掛けにどうにもバツの悪さを感じた華扇は、とりあえず適当な理由をでっち上げようと口を開く。開こうとする。

 が、それよりも問い掛けた者が胸の目で彼女の心を覗き見る早さの方が若干上回った。

 

「成程。勢いで中に突入して見事に迷ったのね。で、他の面々を置いてきぼりにしたせいで打破する方法も分からなかった、と」

「……ええそうですよ! 悪いか!」

「良いか悪いかで判断するならば確実に悪いと思うけど」

「あー、もう少し優しい言葉を掛けてあげてもいいと思うな、私」

 

 さとりとアリスの容赦無い言葉にガクリと膝を付く華扇を見て、橙がそう擁護をする。そんな彼女の言葉に、そうだねー、とルーミアは呑気に同意をした。

 そんなことより、と華扇はさとり達同行していたもう一人を指差す。彼女は一体何者ですか、そう問い掛けると、ああ何だそんなことかと一行は軽く言い放った。

 

「新しい友人よ」

「あ、そーなんだ」

「へぇ、そうですか」

「いやあの、私が言うのも何だけど、貴女達それでいいの?」

 

 一言で納得されたその人物、パチュリーはそのあまりにもあっさりした反応に苦い顔を浮かべる。が、よくよく考えるとこの連中の知り合いなのだから同じような考えを持っていても不思議ではないと思い直し、まあもうどうでもいいやと考えるのをやめた。

 こほん、と咳払いをすると、パチュリー・ノーレッジよと二人に自己紹介を行う。それを聞いた二人はそれぞれルーミアと茨木華扇だと名乗り返した。

 

「さて、それじゃあ六人になったところで」

「何にも変わらないんじゃないの?」

「ええ、そうね。どうしましょうか」

「……ねえさとり、そういうところはあのバカを参考にすることないのよ」

 

 さとりの発言を聞いたアリスがそう溜息混じりに返す。言われた方はまあいいじゃないと何処吹く風で、その態度が余計にアリスの表情を曇らせる。分かっていてやっているのなら余計に質が悪い。そんなことを思いながらもう一度溜息を吐くと、覚妖怪は質が悪いものよ、と微笑まれた。

 

「それで二人共。ここに来るまでのルートは覚えているかしら?」

「覚えていたところで参考になんかなりませんよ。この空間、常に変わっているもの」

「だよねぇ」

 

 華扇の言葉に橙が肩を落とす。元々の侵入者撃退の為に歪めてあった空間に加え、『鬼』の罠が発動してしまったこの場所は誰の手にも負えない状態となっていた。どうにかするには術者か発動の基点になっているものを処理するしか無い。

 そして、ルーミアと華扇は術者の正体が、さとり達四人には基点の大凡の正体が分かっている。

 

「意外と、私達が一番真相に近付いているのかもしれないわね」

 

 おもわずさとりは呟いた。え、と視線を彼女に向けた一行に向かい、だってそうでしょう、と笑みを浮かべる。今現在の重要な情報の二つ共を把握しているのだから。そう続けると、さて、と視線を一行から廊下の先の空間へと移した。

 

「問題は、それを分かったところでここを抜ける手段がないことかしらね」

 

 そう言いつつも、視線は真っ直ぐに空間の先へと向いている。それが分かったからアリスも華扇も何か言うことなく彼女の見ている先へと目を向けた。橙はよく分からんと首を傾げ、ルーミアとパチュリーは傍観を貫く。

 何を見ているのか、もしくは何が見えるのか。不意に振り向いたさとりは、そのままその方向へ、華扇達が歩いてきた方向へと進み始めた。どういうことだと首を傾げる者は華扇と橙の二人になり、訝しげながらも何となく察したアリスとパチュリーは後に続く。

 

「はいはいお二人さん。置いてかれるよー」

「あ、はい」

「あ、うん」

 

 ほれほれ、とルーミアに押され、首を傾げていた二人もそのままさとりの背を追うことになるのだった。

 

 

 

 

 辿り着いた場所を見て、パチュリーは間の抜けたような声を出した。自身のよく知っている場所、というよりも自室も兼ねている空間であったからだ。

 他の面々はその場所、大図書館を見てその広さにどこか感心したような声を上げていたが。そんなことは気にせず、パチュリーはここに来た理由は何だとさとりに問い掛けた。てっきり首謀者である『鬼』の場所か咲夜のいる場所、あるいはそれに準じる場所を探し当てたのだと思っていたのだ。

 が、さとりはそんな彼女を見て、その予想の通りよ、と微笑んでいる。

 

「どういうこと?」

「この空間や『全てをひっくり返す』結界、それを維持しているのは何も『鬼』や触媒になった咲夜という子だけではないわ。元々この館に満ちていた魔力、それも一因になっているの」

「……そうね、それは分かるわ。でも何故――」

 

 そこでパチュリーは目を見開く。その通り、と笑みを強めたさとりを見て、はぁと溜息を吐いた。

 視線をさとりから図書館の本の山へと向ける。無数にあると言っても過言ではないその量を眺め、どうしたものかと彼女は頭を掻いた。

 

「え? 何? ひょっとしてここからこの空間に魔力を供給している本を探し出せってこと?」

「まあ、有り体に言えばそうなるわね」

 

 アリスの言葉にさらりとそう返したさとりは涼しい顔。対するアリスはあからさまにげんなりした表情で本の山を眺めた。この中から探し出すのは容易ではない。加えるのならば、戦力になりそうな輩が自分を合わせて三人しかいない。

 

「……何かバカにされた気がするんですけど」

「気がするんじゃなくて、バカにされたんでしょ?」

「ちょっとルーミア、そんなはっきり言ったらダメよ」

「貴女達も同類でしょうが! 何でそんな勝ち誇った顔してるのよ特にルーミア」

「こういう空間での魔力の探知はお手の物だよ? これでも宵闇の妖怪やってるし」

「え? じゃ、じゃあ橙、貴女は――」

「一応藍様に仕込まれてるから、それなりに」

「な、な、な」

 

 どうやら意外と戦力になる連中だったようだ、とアリスは三人のやり取りを聞きながら顎に手を当てる。とはいえ、三人が五人になったところで膨大な量には変わりない。時間も惜しいしやるならとっととやってしまおう。そう結論付け彼女はじゃあ始めましょうかと本に近付く。

 瞬間、背中に悪寒が走りとっさに本棚から距離を取った。

 

「ちょ、ちょっとパチュリー! 何よこれ」

「こっちが聞きたいわよ!」

 

 叫びながら振り向くと、別の方向でパチュリーも同じ状況に陥りながら叫び返していた。じゃあ、と視線を移すとやはり同じように苦い顔でさとりもそれと対峙している。

 本棚の本が怪物となりこちらに襲い掛かろうとしている、その状況と。

 

「ということは、これ貴女の図書館の罠とかそういうのじゃないわけね」

「そうよ。この状況で嘘を吐く必要も理由もないわ」

 

 ということは、と目の前の本の怪物を睨む。これも紅魔館の罠が作動した結果の産物だということになる。あるいは、ここの魔力の供給を絶たれない為の番人か何かか。どちらにせよ、ただ単に探せばいいというものではなくなったらしいということを確認したアリスは表情を苦いものに変えながら溜息を吐いた。

 

「探索は後回し、とりあえずこいつらを倒してから、ってことね」

「そうなるわね」

「一応言っておくけど、なるべく本を傷付けないで欲しいわね。私物なんだから」

 

 アリスとさとりとパチュリーはそう言いながらお互いに目の前の怪物へと踏み出す。

 それに合わせるように、後ろで騒いでいた残りの三人もそれぞれの加勢へと飛び出した。

 

「別に、この程度なら」

「いーのいーの。……おかわり来そうだし」

 

 ケラケラと笑いつつもどこか表情を真剣なものに変えたルーミアはアリスの隣に。

 

「勇儀さんや萃香さんの代わり、ですか?」

「別にそういうわけじゃないですよ。でもまあ、それでもいいか」

 

 まったく、と頭を掻きながら真っ直ぐに前を睨む華扇はさとりの隣に。

 

「まあ、よろしく頼むわよ」

「まっかせなさい。友人は大切にするもんだからね」

 

 ニッ、と笑みを浮かべてサムズアップをする橙はパチュリーの隣に。

 それぞれ並び立ち、巨大な大図書館の内部にいて尚巨大だと認識してしまうような、そんな本の巨像へと足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 少し厄介だな、と正邪は呟く。あそこの魔力はこの結界を維持するのにそこそこ必要なものだ。無いと問題だというわけでもないが、有るに越したことはない。

 魔本の巨像が作動しているものの、あれを撃破するような連中だということはこれまでの行動でよく知っている。その後にもたつくだろうから余裕はあるが、しかし少し時間が押してしまうのは確かだ。

 別の空間に目をやる。現在館の住人は三箇所に分かれており、その全てが博麗の巫女の関係者と共に行動している。これは非常に由々しき事態だ。このままでは基点へ一堂に会するのも時間の問題かもしれない。

 もしそうなってしまったら。

 

「そうなってしまったら、私の計画が成功してしまう」

 

 ニヤリ、と彼女は笑う。今すぐではなく、時間の問題ならば。集まるのに時間が掛かるのならば。

 自分の予想図通りに、この幻想郷をひっくり返せる。

 

「まあ、でも」

 

 とりあえず、念には念を。そんなことを呟きながら、正邪は三箇所の内の一つに目をやった。恐らく今ここにいる人間妖怪合わせて一番凶悪な集まりとなっている四人組を眺めた。

 アレの足止めは、多少なりともしなければならないな。そうとだけ述べると、傍らに置いてある袋を手に取り立ち上がった。

 

「反則的な強さを持つ妖怪だ。こっちもそれなりに反則させてもらうさ」

 

 ケタケタと笑いながら、鬼人正邪は歩みを進める。目指す空間は館を解析しながら進もうとしている連中。まだ何かにぶつかっていない四人組。風見幽香、命蓮、紅美鈴、フランドール・スカーレットのいる空間。

 ゆっくりとそこに向かいながら、悪く思うなよ、と彼女は舌を出す。笑いながら、持っている袋を振り回しながら、ぺろりと自身の唇を舐める。

 まあ、あれだ、と一人楽しそうに肩を竦める。

 

「どんな手を使っても、生き残ったもんが勝ちなんだよ」

 

 ついでに目的も達成しちゃうけどな。盛大に高笑いを上げながら、鬼人正邪は目的地に向かって進む。

 




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