先代巫女と六人の仲間達   作:負け狐

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一応続きました。

そして初めて主人公?が活躍するようなしないような。


伍 子供遊び

「成程ね」

 

 自称古道具屋『香霖堂』店内。そこで霖之助は来客、アリス・マーガトロイドと名乗った少女の話を聞いて納得したように頷いた。確かにそれはなるべく早く探した方がいいな、そう言いながら立ち上がる。

 

「何か当てがあるの?」

 

 そう問い掛けるアリスに向かい、霖之助はああと答える。これでも博麗の巫女の一員だからね、そう続けると笑みを浮かべた。

 その答えにアリスは首を傾げる。博麗の巫女とはなんぞや、というか男なのに巫女なのか。そんな疑問が頭をグルグルと回った。自分の知識にないものをいくら考えても答えは出ない。暫しの思考の末そう結論付けた彼女はとりあえずもう一度問い掛けた。さっきの疑問をほぼそのまま。

 

「ああ、そういえばここに来たばかりだとか言っていたね」

 

 納得したように彼は頷き、博麗の巫女というものについて説明を始める。色々と無駄な部分が多かったが、短く纏めればこの幻想郷を保つ為の役職の一つで、今現在は人側の管理者であるということらしい。そして、現在の博麗の巫女はその周りに強力な妖怪変化を従えており、彼はその中の一人だということだ。自分なりに噛み砕いた理解をしたアリスはよく分かったわと礼を述べ、じゃあその博麗の巫女に頼めばいいのねと続けた。

 それを聞いた霖之助はあからさまに視線を逸らす。その態度はどう考えても今の彼女の言葉に同意出来ないということであり、しかし彼の先程やろうとした行動と照らし合わせると矛盾する行為であった。

 

「ちょっと香霖堂さん、何か隠してない?」

「……いや、そういうわけじゃない。ただ」

 

 ただ、何よ。そうアリスが詰め寄ると同時に店のドアが開く。ただいま、という呑気な声を出しながら店内へとやってくる巫女装束の少女に視線を向けた彼女は、そのまま少女が椅子に座るまでを目で追って、そして再び霖之助に意識を戻した。

 質問を変えるわ。若干目が据わったアリスを見て大体の予想が出来た霖之助は頬を掻きながらどうぞと促す。

 

「そこの馬鹿っぽい小娘が博麗の巫女?」

「失礼な!」

「違う、彼女は馬鹿っぽいんじゃない。馬鹿だ」

「酷い!?」

「博麗の巫女を辞めると宣言し神社を追い出されてここの丁稚に転職した君のどこが馬鹿じゃないのか、僕は逆に聞きたいくらいだが」

「……うわぁ」

「ド直球!? っていうか見知らぬ人ドン引きしないで!?」

 

 元・博麗の巫女、現・香霖堂丁稚の博麗飲子。アリス・マーガトロイドの彼女の第一印象はこれでほぼ確定した。

 

 

 

 

 

 

「はぁ!? 家出!?」

 

 所変わって博麗神社。そこであんぐりと口を開けあっけにとられた表情を浮かべているのは妖怪の賢者の式、八雲藍その人である。ついこの間新たな幻想郷の住人が増えたのでその報告と結界の管理状況を見に来た彼女が神社にたむろする妖怪変化共から聞いた話がそれであった。

 ちょっと待て、と藍は眉間を揉みほぐしながらもう一度尋ねた。家出とはどういうことだ、と。

 

「そのままよ。博麗の巫女を辞めるんですって」

「……は?」

「何でも普通の女の子に戻りたいんだってさー」

「…………」

 

 幽香とルーミアの説明を聞いて最早何も言えなくなった藍は無言でその場に佇む。暫し無表情で視線を落としていた彼女は、やがて盛大に溜息を吐くとその場に蹲った。小さく乾いた笑いが聞こえてくるところからすると、どうやら割と精神にキてしまったらしい。

 そんな妖怪としては割と致命的な状態になった彼女へと声が掛かる。心配しなくても大丈夫ですよ、そんなことを言いながら美鈴は藍の肩を叩いた。

 

「何だかんだ言って博麗の巫女を捨てきれないみたいでしたし」

 

 ほら、あそこの棚にある人形を見て下さい、と彼女は神社の一角を指差す。さっきわざわざここに仕舞いに来たんですよあれ。そう言って笑う美鈴は、どこか保護者のような雰囲気を漂わせていた。

 

「きっと博麗の巫女に失せ物探しの依頼が来るだろうからって考えたんでしょうね」

「……成程。巫女としての本分は失っていない、か」

 

 どこか安堵したように藍は呟く。なら、結界の方も大丈夫そうだな。そう続けると気力を取り戻したのかゆっくりと立ち上がった。

 では私は紫様に報告に戻る。そう述べると彼女は空に浮かび上がる。その途中、ああそうだと思い出したように一枚の紙を取り出し美鈴へと投げ付けた。彼女がそれを手に取ると、どうやらある人物の事を記した書類か何かのようで。

 

「それが新しく幻想郷に来た住人だ。木っ端妖怪とは桁が違うので一応報告しておくけれど、まあ何か害がある者ではなし。余程のことがない限りは大丈夫だと思う」

 

 そう告げると、今度こそ彼女は博麗神社から去っていった。そんな彼女を目で追っていた美鈴は、貰った書類がいつの間にか手の中から消えていることに気付く。辺りを見渡すと、幽香を筆頭に揃ってそれを眺める面々が。

 

「……インコのこと言えないじゃないですか」

「私は今のこの見た目子供だしー」

「乙女は常に子供の心を持つものよ」

 

 ルーミアと幽香の予想通りの言葉を聞いた美鈴はそれを流し、残りの二人に目を向けた。何やってるんですか二人共。そう言いながら彼女は詰め寄る。

 詰め寄られた二人、命蓮と華扇は少しだけバツの悪そうな表情を浮かべ、まあ落ち着けと彼女を宥めた。

 

「どのみち知っておかなくてはいかんだろう?」

「まあそりゃそうですけど、でも」

「早いに越したことはない、まあ、そういうわけです」

「……もういいです」

 

 とりあえず私にも見せて下さい。そう言って彼女は手を突き出す。そこに渡された書類を眺めた美鈴は、少しだけ眉を潜めた。

 アリス・マーガトロイド。種族は魔法使いで、人形師。ここには修行を兼ねてやってきた。自分で完全自立人形を制作するのが目標であり、そのための見本として故郷から完成品を持ち出している。

 

「……完成品?」

 

 何だか嫌な予感がした。思わずその方向へと視線を向けた彼女が見たのは、いつの間にか棚から消失している一体の人形。

 一体何処へ? そんなことを思いながら視線を巡らせた美鈴は、命蓮の「下だ!」という言葉で足元を見た。

 

「ケケケケケケケッ!」

「うっひゃぁ!?」

 

 巨大なハサミを持った人形が真下から真上に飛び上がる。咄嗟に避けたが、そうでなければ普通の人間や妖怪ならば真っ二つであっただろう。蛇足だが、彼女の場合避けずともそこまで問題はなかった。気分的な話なのだろう。

 ともあれ、先程置いてあったものと同一とはとても思えないような異形な表情を浮かべた人形は、その瞳孔の開き切った目をギョロリと彼女に向ける。構えを取り、どこからでも迎撃出来るよう美鈴は意識を人形に向けた。

 

「壊したらマズイんじゃないの?」

「え?」

 

 ルーミアが呑気にそんなことをのたまったので、思わず美鈴は集中を切らし間抜けな声を上げた。勿論その隙を逃す人形ではない。瞬時に懐に飛び込み、彼女の眉間に向かってハサミを突き立てる。

 肉の抉れる音と、血の噴き出す音が辺りに響いた。

 

 

 

 

「で、本当にここに私の人形があるのね?」

「特徴を聞く限り、間違いないね」

 

 そんなことを言いながらアリスと飲子は博麗神社の石段を上がる。その後ろでは難しい顔をした霖之助が続いていた。

 アリスの依頼は単純明快で、こちらに来た際に落としてしまったお手本の人形を探して欲しいとのことだった。故郷にあった完全自立人形の見本だというそれは、彼女の制御が切れてしまえば暴走しかねない危険な代物であるとのこと。

 何故そんなものを持ってきたのかと問い掛ければ、それが一番良く出来ているからという答えが返ってきた。制御をしていれば問題ないから大丈夫という根拠のない自信もおまけで付いてきている。

 

「結局落としてるのにねぇ」

「何が言いたいのよ」

「べっつにー」

「無能に馬鹿にされると腹立つわね」

「誰が無能じゃい!」

 

 また始まった、と霖之助は肩を竦める。香霖堂からここに来るまでにもう二桁以上彼女達はいがみあっている。幽香とのものとはまた違うこれは、どちらかというと同レベルの子供同士の喧嘩のような、そんな微笑ましさが残っていた。それがある為に霖之助としても強くは言えず、結果として仕方ないと見守るに留めてしまう。

 そんな二人が口喧嘩をしている間にも石段は一歩一歩上られていき。神社の鳥居を視認すると、そのまま一気に二人は駆け上がった。どうやら相手より先に着こうとしているらしい。完全に子供だな、と思いながら彼も後を追う。

 そして上り切った先で三人が見た光景は、頭にハサミを突き立てられる美鈴の姿であった。盛大に血飛沫が上がる中、突如視界に入ったスプラッタに思わずアリスは青褪める。何より、その加害者は自分が探していた人形だという事も拍車を掛けた。

 

「あ、あ、あ……」

 

 言葉が出ない。自分の不始末で、死人が出た。そのことが彼女の中で大きくのしかかった。決して消えない傷跡となった。

 そうなりかけた矢先、隣の飲子が無言で飛び出したのを見てふと我に返った。そうだ、まずはあの人形をどうにかしなくては。後悔するのはそれからでいい。そう思い彼女は飲子を援護する為に呪文を唱える。

 

「美鈴、大丈夫かい?」

「いや、正直ごっつ痛いです」

「――え?」

 

 唱えようとしたアリスは、その声の方へと振り向いた。頭に大きな穴が開いている美鈴が、参ったなぁと呑気に頬を掻いていた。その光景に思わず目を見開き、そして次の瞬間理解する。ああそうだ、ここは幻想郷、妖怪変化が跋扈する世界なのだ。あの程度で死なないのはむしろ当たり前なのだ。

 

「マーガトロイド。一応言っておくが、彼女が特別なだけで、普通はこのダメージだと妖怪もアウトだからな」

「あ、やっぱりそうなの?」

「当たり前だよ。これで平然と出来るのはここにいる六人と妖怪の賢者関係や一部の鬼、後は――」

 

 そこで人形と戦っている小娘くらいさ。そう言って霖之助が指差した先は、人形の繰り出すハサミでザクザクと斬られている博麗の巫女が。普通の人間であれば明らかに致命傷であるその攻撃を受けた飲子は、しかし痛いと叫ぶだけで平然と反撃を繰り出していた。

 それを見たアリスは目を瞬かせる。視線を逸らさず、横にいる霖之助に疑問を投げ掛けた。

 

「何? あの娘妖怪なの?」

「人間だよ。僕みたいな半人半妖でもない、正真正銘混じりっけなしの人間さ」

 

 毎日毎日ケタ違いの強さの妖怪と騒いでいる内に異常に打たれ強くなっただけのね。そう言って彼は笑う。笑い事ではない、とアリスはそんな彼に向かって疲れたように言葉を返した。

 

「あーもう! 何で私一人で相手してんの!?」

「めんどくさーい」

「貴女が持ってきたんだから、貴女がやるのは当たり前でしょう?」

「お前らには聞いてない!」

 

 毎度おなじみルーミアと幽香に向かってそう吐き捨てると、飲子は人形のハサミを札で受け止め蹴り飛ばした。元々それほどの大きさではない人形はあっさりと吹き飛び神社に生えている大木へと激突する。

 

「で、命さんと華扇! 何で見てるだけ!?」

「ん? 加勢いるのか?」

「貴女一人で充分でしょう? たまには見せ場をあげるわ」

「うわぁ、嬉しくねー」

 

 げんなりした顔を浮かべつつ、しかしまあ言われたからにはやりますかと飲子は札を扇状に広げて人形へと投げ付けた。飛来した札は人形を取り囲むように展開し、そして捕縛する。身動きの取れなくなった人形は首をユラユラと揺らしながら尚もケタケタと笑っていた。

 刹那、人形のぶつかった木の後ろから何かが飛び出してくる。先程捕縛したものと同じ姿をした人形が五体、巨大なハサミを持って飲子に襲い掛かってきた。てっきり終わったと思っていた彼女は、その攻撃に反応出来ない。へ、と間抜けな声を上げるだけで、自身の体に突き立てられるハサミをどうすることも出来ない。

 

「何よ。結局ダメダメじゃない」

「仕方ないさ、それが博麗だからね」

 

 そんな彼女と人形の間に割り込んだのがアリスと霖之助である。分厚い魔導書でハサミを弾くアリスと、銃のような形状の何だか分からない謎の道具でハサミを撃ち抜く霖之助。そんな二人を呆然と見ながら、飲子は二の句が繋げず突っ立っているばかり。

 いいからとっとと仕上げをしろ。そんな怒号を聞いてようやく我に返った彼女は、慌てて捕縛展開している札に向かってお祓い棒を突き付けた。

 

 

 

 

 

 

「まあ、そうね、一応言っておくわ。ありがと」

「素直じゃないなぁ」

「あんたに言われたくないわよ」

 

 封印された人形を抱えながらアリスはそう悪態をつく。一応博麗の巫女の実力は分かったし、次からは何か依頼を持ち込んでもいいかもしれないわね。そんなことを呟きながら、彼女は踵を返した。

 

「じゃあ。またね、飲子」

「ん。またね、アリス」

 

 軽く手を上げるだけの挨拶を交わすと、彼女は神社を後にする。その背中を見ていた飲子は、そこで多数の視線が自分に向いているのに気が付いた。振り向くと、何だかとても生温かい目で彼女を見つめる六人が。

 

「何さ」

「青春ねぇ」

「青春なのかー」

「青春ですねぇ」

「青春ね」

「青春だなぁ」

「青春だな」

「やかましい!」

 

 何だか無性にこっ恥ずかしくなった飲子は顔を真っ赤にしながら六人に向かって声を張り上げる。しかし六人の生暖かい視線は変わらない。むしろ余計に酷くなる始末である。

 しばらくそうやって飲子をからかった六人は、じゃあお遊びはこのくらいにして、と視線を元に戻した。

 

「で、博麗の巫女はまだ辞めたままかい?」

 

 霖之助のその言葉に、飲子はぐっと言葉に詰まる。先程のアリスの言葉が頭に浮かび、そして消えていった。博麗の巫女である自分に次は依頼を持ち込むかもしれない、そう述べた彼女の顔がちらつく。

 

「丁稚じゃ彼女の期待に答えられませんよねぇ」

 

 額に絆創膏を当てた美鈴がそう言って微笑む。むむむ、と飲子は唸った。丁稚のままではアリスの依頼を受けられない。それは分かっているのだが、しかし。

 

「別にこちらとしても博麗の巫女を本気で辞めたなんて思ってませんし」

「巫女の本分は忘れていなかっただろう? なら充分だ」

 

 華扇と命蓮のその言葉に、少し照れくさそうに視線を逸らした。何だかんだでここの皆は自分のことを分かってくれている、そんなことをどことなく感じた。

 

「ごめんなさい。私、博麗の巫女に――」

「あ、戻るの?」

「早かったわね、流石はインコ」

「――意地でも戻ってやるもんか! 私は新たな道を探すもんね!」

 

 狙ってやったと言わんばかり、というか完全に狙ってやったルーミアと幽香のその言葉により、飲子はもうしばらく住所不定無職を続けることと相成るのだった。

 ちなみに後日呆れた藍に淡々と説教されたことにより、彼女は博麗の巫女に復帰した。その顔は泣き顔であったが、しかし本気で説教してくれたのが若干嬉しかったのだとか何とか。

 




美鈴・命蓮 まとめ役
華扇・霖之助 中立
ルーミア・幽香 煽る役

大体こんな感じ。
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