先代巫女と六人の仲間達   作:負け狐

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そういえば前も一話完結じゃなかったりしてたんでもう前後編ならいいやと思い直しました。


捌 鬼の目にも涙橋

 博麗飲子は焦っていた。どうしてこうなってしまったのかと自問自答し、そして自分以外に原因が見付からない事を確認して絶望した。

 そもそも、道を尋ねるのに手当たり次第というのがそもそもの間違いだったのだ。ある程度そういう問い掛けに答えてくれそうな者を選ぶべきであったのだ。そんなことを思っても時間は戻らず、覆水は盆に返らない。今の状況をそのまま受け入れ、それでいてどうにかしないといけないのだ。

 ガラの悪い妖怪連中に囲まれているこの状況を、である。

 

「何でこんなことになっちゃってんの……」

 

 半べそをかきながら辺りを見渡すが、下卑た笑みを浮かべてこちらににじり寄ってくる相手の顔しか見えない。場所はおあつらえ向きのような路地裏。後は、若い少女が野郎共に囲まれているのならば答えは一つである。

 

「私人間! そっち妖怪! オーケー?」

「あのなぁ嬢ちゃん。俺達は別にお前さんを取って食おうってわけじゃないんだ」

 

 ちょーっと気持ちいいことをしてくれればそれでいい。そう言って酒臭い息を出しながら笑う妖怪の男共を見て、予想通りだよちくしょーと彼女は叫んだ。

 まあ抵抗したけりゃしてもいいぞ。そう言いながら一人の男が足を踏み出す。この旧都の荒くれ共をどうにか出来るってんならな。余裕の笑みを浮かべて、男は飲子の服に手を掛けて。

 

「ひっ! や、ちょ、やめ、変態!」

 

 そんな情けない悲鳴と共に突き出された拳によって宙を舞った。放物線を描き地面に落ちる男をぽかんとした表情で見ていた一行(加害者含む)は、ドサリという音で我に返る。

 

「テメェ! 何しやがる!」

「いやいやいや! 私悪くない! っていうかそっちが最初に襲い掛かってきたのが――」

 

 彼女が言葉を言い終わる前に、妖怪の男共は手を出した。相手を傷付ける為のその動作は、逆に飲子にとっては慣れたもの。素早く体を屈めると、低い姿勢のまま一気に男達の合間を縫って包囲から飛び出した。逃げるのか、という声が聞こえるが、当たり前だと返しながら彼女は旧都を走り抜ける。

 こうなったらもう誰にも頼れない。自分の勘を頼りに地霊殿まで突っ走る。そんな結論を出した彼女は、とりあえず適当に路地を走り開けた場所を目指す為全力で足を動かした。

 そういえば飛べば早いじゃないか、ということを思い出したのは、その目的である開けた場所に辿り着いてからである。

 

「ま、まあとりあえずこれであのガラの悪い連中は撒いたみたいだし」

 

 後はここがどこか分かれば。そんなことを呟いた飲子に声を掛ける者が一人。さっきの連中がまだいたのか、と思わず身構えた彼女だったが、そこにいたのはこの旧都へやって来た際に最初に出会った橋姫であった。

 あら、用事は済んだの? という彼女の言葉に、飲子はえ、と首を傾げる。

 

「あ、ここって旧都の入り口!?」

「ええ、そうよ。……その口ぶりからすると用事はまだ終わってないみたいね」

 

 出来れば早いところ帰って欲しいのだけど。そんなことを言いながら橋姫は肩を竦める。まあそりゃ余所者だし仕方ないか、と頬を掻きながら頭を垂れた飲子は、そこでふと思い付いた。ひょっとして、彼女ならば場所を知っているのではないか、と。

 

「地霊殿の場所? そりゃあ知っているけど」

「ホント!? 教えて! あ、じゃない、教えてください!」

 

 その迫力に思わず引き気味になりつつ、まあ別に構わないわよと彼女は頷く。やったー、と体全体を使って喜びを表現する飲子を見ながら、子供ね、と溜息を吐いた。

 じゃあちょっと待ちなさい、と飲子に伝えると紙と万年筆で簡単な地図を書いていく。ある程度の道が分かれば問題ないだろうと考えて必要最低限の道を記すと、これで辿り着けるはずよと紙を差し出した。

 

「ありがとうございます、橋姫さん!」

「……パルスィよ。水橋パルスィ」

「あ、はい。ありがとうパルスィさん!」

 

 裏も何も無い笑顔でそう返すと、飲子は踵を返して再び旧都へと駆け出す。そんな彼女の背中を見て、パルスィはやれやれと溜息を吐いた。

 あの脳天気さ、妬ましいわね。そんなことを呟きつつ、彼女はほんの少しだけ笑みを浮かべ、そしてふと気が付いた。

 あの娘の名前を聞いていない、と。

 

「……確か博麗の巫女だとかって話は聞いたけど」

 

 まあ、仕方ないか。そう割り切ってパルスィは彼女の走っていった方から背を向けた。

 

 

 

 

「何でさ!」

 

 博麗飲子は絶叫した。自身に振りかかる理不尽に向かって吠えた。パルスィに出会い地霊殿への道のりを教えてもらったところまではよかった。その直前にガラの悪いのに絡まれたのを差し引いても結果オーライだった。

 問題は、その絡んできた連中がしつこく自分を捜していたという部分だ。それも、さあ地霊殿に行こうと気合を入れた瞬間に見付かるというおまけ付きである。

 何でこんな目に遭わなくてはいけないのか。そう思い返した飲子は、ふつふつと怒りが湧いてくるのが分かった。もう知らん、暴れてやる。そんなことを思いながら拳を握った。

 元々手当たり次第に声を掛けた自分が悪いということを失念してである。

 

「っしゃー! かかってこんかーい!」

 

 札を取り出し、お祓い棒を構える。完全な臨戦態勢を取った博麗の巫女に一瞬気圧されるものの、男達はそれがどうしたと彼女に襲い掛かった。彼等は地下に追いやられた荒くれ者、腑抜けている地上の連中などに負けはしない。そんな自信を持っていた。

 が、いかんせん目の前の彼女はそんな腑抜けた妖怪とは比べ物にならない連中と毎日殴りあっている少々特殊な人間なわけで。

 

「はぁ、はぁ。ったく、もう」

 

 気付くと男共は揃って地面に倒れ伏していた。コキコキと首と肩を鳴らしながら、喧嘩は疲れるんだから嫌なんだってば、とその惨状を作った本人がぼやく。

 とりあえず全員のしたから、これでもういいよね。そう言うと、彼女は倒れている男達にじゃあねと手を振りそこから立ち去る。今度こそ地霊殿に向かうんだ。そんなことを言いながら再び駆け出そうと足に力を込め。

 

「ちょいと待ちな」

 

 背中に掛けられた声に足を止めた。まだ誰かいるのか、と振り向くと、そこには着崩した着物姿の長身の女性が一人。そして、その女性の正体が何者か一目瞭然とばかりに、一本の角が生えていた。

 

「この惨状はあんたがやったのかい?」

 

 倒れて伸びている妖怪の男連中を一瞥して鬼の女性は飲子に問い掛ける。文句でも言われるのだろうかとゲンナリしつつ彼女はそうだけど、と返し、でも向こうが襲い掛かってきたんだからと続けた。

 ああそれは知ってる、と鬼の女性は笑いながら答え、持っていた盃に酒を注いだ。それを一気に飲み干すと、別に責めようってわけじゃないさと述べた。

 

「ちょいとその腕っ節が気になってね。どうだい? 私と一勝負」

「いや、今急いでるんで」

「そうかい、じゃあ仕方ない」

 

 そう言うと鬼の女性は飲子が持っていた紙を素早く奪うと自身の懐に仕舞いこんだ。何をする、と叫ぶ彼女に向かい、簡単な話さと笑う。

 返して欲しければ、一勝負してもらおうか。そう言うと彼女は再び盃に酒を注いだ。

 

「なーに、簡単な話さ。この盃の酒を零すことが出来たらそっちの勝ちだ」

「……零せば、いいわけだね?」

「お、やる気になったかい」

「いやまあ、こんだけ暴れりゃこういう事態になるのも仕方ないかなってね」

 

 妖怪ってのは基本喧嘩っ早いし。苦笑しながらそう述べると、飲子は再び札とお祓い棒を構えた。

 対する鬼の女性は左の盃をクルクルと回しながら楽しそうに笑う。久々に面白い喧嘩が出来そうだ。そう言うと右の拳を握りこんだ。

 先手必勝、と飲子が一気に距離を詰める。狙いは盃でも何でもなく、鬼の女性の土手っ腹。札で強化した拳を叩き付けるように振り抜いた。が、そんなものは先刻承知と言わんばかりに右拳を振り上げている鬼の女性の姿が彼女の目に映る。

 そして、旧都全体に響くほどの轟音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 まだ来ないのですか、と地霊殿の主は二人の男性に問い掛けた。その問いに男性、霖之助と命蓮はまだみたいですねと即答する。念の為に自身の能力で心を覗いたが、別段嘘を吐いているわけでもなく、本当に知らないようであった。

 

「失礼ですが、その博麗の巫女は本当に信用出来るのですか?」

 

 主の少女の言葉に、霖之助も命蓮も少し考えこむ仕草を取る。信用か、と呟いているところを見る限り、当の本人達が信じ切っていないように見えた。

 が、いかんせん彼等の目の前にいる少女は覚妖怪。表面上のそんなものなどに惑わされたりはしない。薄く笑うと、少し羨ましいですねと呟いた。

 

「何がだい?」

「そうやって心の底ではちゃんと信頼で繋がっている間柄が、です。私はこの能力のおかげで、そういう相手はいませんから」

 

 どこか自嘲気味にそう述べた少女を見て、ふむ、と命蓮が彼女に視線を向けた。ならば丁度いいな、そう言って少女から霖之助に視線を移す。ああ、成程ね、とその動きの意図を察した彼も薄く笑いながら頷いた。

 そして、そんな二人の心の中を読める少女は訝しげな視線を向ける。

 

「……その博麗の巫女が私にとってそういう相手になると? 本気で思っているんですか?」

「心を読んだのならば本気なのは分かるだろう?」

「まあ、会ってみれば分かる。心を読む程度でどうにかなるような相手ではないからな」

 

 阿呆だから、とか単純だから、という心の声の追加を聞きながら、主の少女は溜息を吐く。何から何まで変な人達だ、そんなことを思いながら、その変人が評価している無能な巫女とやらの到着を待った。

 丁度その時である。何やら館のすぐ近くで轟音が響いた。何事だ、と部屋の窓から外を見ると、見覚えのある鬼の女性が地霊殿の門付近で楽しそうに笑っている。

 また何かやらかしたのか。そんなことを思いながら窓を開けそこへと飛ぶと、どうやら彼女一人ではないようであった。門の柱に激突してひっくり返っている巫女装束の少女の姿が見える。

 

「勇儀さん、今度は一体何を」

「おお、さとり。悪い、少し騒がしくしちゃったな」

「いえ、まあそれはそれでしょうがないんですけど」

 

 その理由を聞きたい。自身の能力を併用しながらそう問い掛けると、まあちょっとした勝負をしたんだという返答が来た。どうやらその勝負の相手とやらがそこで倒れている少女のようで、鬼の一撃を食らって五体満足でいる貴重な人間らしい。

 

「……人間の肉体はそこまで頑丈ではないと思うんですが」

「そう言われても、ほれ」

 

 勇儀が指差した先、そこではまだまだ、と叫びながら立ち上がる巫女の少女が。

 そのまま飛び上がり勇儀へと突っ込む飲子は、相打ち上等の拳を食らって盛大に宙を舞った。そのまま猛スピードで地霊殿の塀に激突する。建物の破片が飛び散る中、死ぬでも気絶するでもなく平然と立ち上がった彼女が勇儀の持つ盃を指差していた。

 

「どうだ! そこの酒全部零してやったぞ!」

「ん? ……おお、本当だ、いつの間に」

「さっきからずっと攻撃の衝撃で零してたじゃんか! 気付けよ!」

「いや、悪い悪い。久々に楽しい喧嘩だったからつい」

「私は楽しくない! 一方的にやられただけだし」

 

 いいから地図返せ。そう言って手を突き出した飲子に勇儀はほれ、と紙を渡す。それを受け取った彼女はよしこれで今度こそ地霊殿に行ける、と埃を払いながら地図と現在地を比べ。

 ここがその目的地だということにようやく気が付いた。

 

「……ま、いいか。結果オーライ」

「本当に脳天気というか、前向きというか」

 

 そう言ってカラカラと笑った勇儀は、また暇な時でも遊びに来なよと手を振りながら踵を返す。その途中に、後で修理はするから怒りなさんなとさとりに向かい笑みを見せた。

 そんな彼女を眺めていた飲子は、隣に立つさとりに気が付くとあ、と声を上げた。

 

「ええ、私がここの主、古明地さとりです」

「ひょっとして貴女がここの――ってあれ?」

「まあいいや、とにかく仕事を済ませなきゃ、ですか。大雑把なのか几帳面なのか測りかねますね」

 

 とりあえず外で立ち話もなんですから、とさとりは館の中に飲子を案内する。首を傾げながらもその後についていった彼女は、通された部屋に霖之助と命蓮がいるのを見て安堵の溜息を吐いた。

 さて、ではその封書を頂きます。その言葉に飲子は持っていたその紙を懐から取り出しさとりに渡す。それを開き中身を見た彼女は、少し訝しげな表情を浮かべた。

 

「あ、ひょっとして運び方悪くて読めなくなってるとか」

「まあ、博麗ならやりかねないな」

「相変わらずだな飲子」

「違います。というかそこのお二人は煽り担当がいないからやらなくてはなどと妙な義務感を持たないで下さい」

 

 少し内容が気になっただけです。そう続けると、まあこの返事はまた後日使いを出しますと述べて封書を畳んだ。

 じゃあこれで仕事は終了かな。そう飲子は呟くと、さてこれからどうしようかと思考を巡らせた。別にこのまま帰ればいいのだが、せっかく来たのだからもう少し見て回るのもいいかもしれない。そんなことを思ったのだ。

 その思考を読んださとりは、不思議な人ですねと彼女に声を掛ける。

 

「え? 何で?」

「貴女は博麗の巫女ですよね? 普通は妖怪と相容れない存在であるはずなのに、こうして平然と妖怪の住処を見て回ろうとしている」

 

 その言葉に彼女は首を傾げた。そもそも妖怪と人間って相容れないものだっけ? そんなことを口にしながら視線を霖之助と命蓮に向けた。普通はそうだ、という二人の言葉を聞いて、へーそーなのかー、と神社の半居候である誰かさんのような言葉を述べる。

 

「……成程、貴女の周りには妖怪がいるのが当たり前なんですね」

「まあね。何だかんだで、長い付き合いだし」

「からかわれたり、いじめられたり、殴り飛ばされたりしても、ですか」

「好き好んでやられてるわけじゃないやい」

 

 そう言ってふんと鼻を鳴らす飲子を見て、さとりは思わず笑みを浮かべる。成程確かに、この博麗の巫女は心を読める程度ではどうにも出来ないほどに面白い。そんなことを思いながら、博麗さんと声を掛けた。

 

「私と、友人になってもらえませんか?」

「え? いいの? 私なんかと友達で?」

「ええ。私は貴女と友人になりたいんです」

 

 そう言ってさとりは手を差し出す。飲子はその手をしっかりと握りしめて、こちらこそよろしくさとりさんと笑顔を見せた。

 

「ああ、どうせなら呼び捨てで行きましょう。私も貴女を飲子と――呼ばれるのは少し嫌なんですね」

「あー、いや、うん。いいんだけどさ、こう、ね」

「鳥を連想させる自分の名前にコンプレックスを持っている、と。しかしそれを言ってしまえば、私など覚妖怪のさとりですよ」

 

 その言葉を聞いた飲子は成程、と手を叩いた。そして、やっぱり名前を呼び捨てにして欲しいと笑みを浮かべる。私もさとりって呼ぶから、と続けた彼女の言葉を聞いて、さとりも同じように笑みを浮かべた。

 

「では改めて、よろしくお願いします、飲子」

「うん、よろしく、さとり」

 

 こうして博麗飲子に遠く離れた友人が出来たとさ。

 ついでに博麗の巫女の後ろ盾に地霊殿が加わったとか加わらなかったとか。まあ、その辺りは当事者にしか分からない。

 




名前が気になる同盟結成(大嘘
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