ウルトラマンエレメント   作:ネフタリウム光線

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 砂漠の戦場ではその正体を明かした『異人』ラザホーと、エレメントが対峙する。『異人』の実力とはいかに。そして森で怪獣と遭遇したIRIS一行は、さらなる事態に巻き込まれてー


第10話「異人」

第10話「異人」〜異人ラザホー、甲獣ビードル登場〜

 

「俺も君も、そしてエレメントも、同種族ってことだ。同じ、『地球人』というカテゴリーにおける、同種族なんだよ!!」

『異人ラザホー。これが俺の…いや、俺たちの真の姿だ。そうだろう?リディオ・アクティブ・ヒューマン、イクタ・トシツキ…。』

『異人』とは、この姿のことを指しているのだろうか。怪人化し、エレメントと同身長にまで巨大化していたラザホーはそう言った。

「お前……何を言っているんだ?」

イクタは訳が分からずそう訊ねる。

『なんだ、知らないのか?ならそのデカブツに聞くといいさ。何か知ってそうな顔してるぜ?』

ラザホーは不敵な笑みを浮かべた。

『……話はあとだイクタ。まずはこの化け物を…』

「話してくれエレメント!」

エレメントの声を、イクタが遮った。

『………』

「あんたはいつも肝心な話を後回しにしやがる。こんなんで、あんたのことを心から信頼できる訳ないだろ。……知ってることを全て教えてくれ。ついでに、この姿の秘密もな。」

この姿、とは、現在変身しているエレメントネイチャーモードのことを指す。

『俺は待っておいてやるぜ?少年、君の反応が楽しみだからな。』

ラザホーは、地べたにあぐらをかいて座った。

『………わかった。話そう。だが私の持つ知識やデーターでは説明のつかない事態も起こっている。全てを語れるわけではないが、足りない部分は己で補充してくれ。無責任で申し訳ない。』

イクタは頷いた。

『では、まずはリディオ・アクティブ・ヒューマンについてだ。話は200年ほど前の地上文明にまで遡るー」

エレメントは語り始めた。

 

 

「緊急報告!中東紛争において、核兵器と思わしき兵器が使用された疑いがあります!」

軍の司令部のような空間に、1人の兵士がそう報告しにきた。

「なに!?状況を詳しく説明しろ!」

司令官らしき男がそう叫んだ。

「はい!現地時間で昨夜20時ごろ、六芒軍の領域である市街地で、キノコ雲を発生させた巨大爆発がありました。市街地は一瞬として焼け野原となり、市民の多くが犠牲になっていると推測できます。軍の司令部や基地のなく、戦争孤児や難民のキャンプのある街だったので、攻撃を被る可能性は極めて低いと予想されていたため、現地には駐屯兵も少なく、情報の伝達や状況の把握が不十分であるようです!」

「孤児や難民だと………!核の使用そのものが許されない行為だというのに、なんという卑劣なやり口だ!我が国も、この戦いに介入する!六坊軍を援護!生存している市民は直ちに保護せよ!奴らを…テロリストを殲滅する!」

この時代、中東では宗教戦争が頻発に起っていた。だが中には、過激派などのテロリスト集団が紛争に便乗しているケースもあり、国連を持ってしても鎮圧できずにいたのだ。

 

「大統領!被爆した市街地で保護した市民たちを、この数週間検査し続けてきたのですが、数名にある異常が現れています。」

それから数週間後、とある大国の研究機関を訪れていた大統領に、研究員はそう報告した。

「どのような異常だ?」

「はい、通常被爆した場合、放射線に細胞が破壊されるなどして髪が抜ける、吐血するなど、様々な症状が現れるのは有名な話ですが、そのどれにも当てはまらないのです。」

「……詳しく聞こう。」

「まず1名は高校生くらいの方なんですが、定期的に行なっている体力検査の数値が突然として大幅に上昇しました。例えば跳躍力や握力は、数日で3倍ほどに強化されています。1名はまだ小学生くらいの子で、我が施設で毎日義務教育を続けさせているんですが、突如として急に学力が上がり始めました。このように、マイナスの影響ではなく、プラスの影響が見られるケースがあるのです。これは過去の放射能研究にはない、新たなデータです。我々も、どう扱ったらいいのか…。」大統領は腕を組むと、部屋の壁にもたれかかった。

「なるほど。だがそれが放射能による影響だとすると、これは面白いデータが取れるかもしれない。そのまま、しばらく同じように生活させ、随時記録を取れ。人類に新たな可能性が見えてくるかもしれん。」

「………と、おっしゃいますと?」

研究員が、怪訝そうな顔で訊ねる。

「そのままの意味さ。人為的に被爆させ、強化人類を作ることが可能になるかもしれない。ということだよ。」

「そ、そんなバカな!そのような非人道的な研究は許されません!」

研究員は、机を両手で叩きながら怒鳴った。

「誰が許さないというのだ?この国の、いや、世界のリーダーは私だ。これは大統領命令だ。わかったな?」

大統領はそう言うと、部屋から去っていった。

 

 

『この出来事から、リディオ・アクティブ・ヒューマンの歴史は始まった。あとは、君ならどのような展開になるのか、察しがつくだろう。』

「…つまり俺たちは、人工的に生み出された新人類、ってことなのかよ?」

『私は君の出生については知らない。先ほどの出来事のように、核爆発により天然的に現れる例もあるし、先祖の誰かが能力者なら、遺伝で突如遠く離れた子孫が目覚める事例もあるらしい。』

イクタは黙り込んでしまった。そういえば気にしたことは少なかったが、自分は両親を知らない。

『だが君も知っている通り、彼らの寿命は持って30年。ラザホーというあの男はどう若く見ても40代というところだろう。つまりあいつは、リディオ・アクティブ・ヒューマンではない。』

『……その通りだな。俺は能力者じゃない。』

「……?それじゃあ答えになってないじゃねえか。」

イクタは苛立ちながらそう言った。

『申し訳ない。だが、ラザホーが能力者ならばこのような現象もあり得るのかもしれないが、そうじゃない。私にも、この現象は理解できないのだ。』

エレメントはそう言った。

『なんだ、本当に知らないのかよ。なら、ヒントを与えてやる。今この地球を支配している生物は、ズバリなんだ?』

ラザホーが問いかける。

「怪獣だろ。」

イクタが答えた。

『ピンポーン!では、その怪獣はどのような過程で誕生した?』

「そりゃお前、この異常なまでの放射能が生物の遺伝子や生態系に異変を与え………!?」

イクタは何かに気づき、顔を上げた。

『流石だ。頭のキレはエレメント以上かもな。』

ラザホーはニヤリと笑った。

「そうだ…。確かに考えてもみればおかしな話ではない。他の生物がここまで異常進化をしているというのに、人類だってそれは不可能ではないはず。つまり、あんたら『異人』というのは…」

『ご名答。お前ら人類の次のステージに立つ、新人類というわけだ。まぁ、お前らにしてみれば怪獣の人間バージョン、いわゆる怪人にしか見えないだろうがな。』

『ちょ、ちょっと待て!それはDr.リディオが研究していた、あくまでもリディオ・アクティブ・ヒューマンの進化先のはずだ!!まさかこの150年という時は、異常細胞を持たない一般人類をも進化させたというのか!?』

エレメントは焦ったように訊ねた。

『もう話はあとだ。この姿はエレメント、貴様同様に長くは維持できない。とっととケリをつけようぜ?』

ラザホーはゆっくりと立ち上がると、右手を空に掲げた。その手の中に、グレネードランチャーのような銃器が現れる。

「……どうやら、戦うしかないみたいだな。」

『くっ……、仕方がない。いくぞっ!シェア!』

エレメントが、ラザホーを目指して走りだす。

『フハハハハハ!そうこなくては!』

ラザホーが銃を乱射する。大粒の弾丸がエレメントの周囲に着弾し、爆発を起こす。

『グワッ!』

エレメントはよろめいた。そこにすかさず距離を詰めてきたラザホーが、思い切り蹴りを入れる。数百メートルほど吹き飛ばされ、仰向けに転がるエレメント。

『ジャッ!』

しかしすぐに起き上がり、追撃に備えた。ラザホーの拳を、胸の前で交差した両腕でガードすると、その衝撃でフラついき、隙の生まれた奴の腹へと左ジャブを入れた。さらに間を空けずキックを繰り出そうとするエレメントだったが、一瞬早く動いたラザホーがこれを回避。数百メートルの距離をとった。すぐに接近して得意の肉弾戦に持ち込みたいところではあったのだが、再び銃を放たれたため、近づくことは容易ではない。

「連射はそこまでじゃないが、一発一発の威力がバカじゃねぇ。一瞬で距離を詰めなくては!」

『待て!よく見ろ!奴の銃は鈍器としても振り回せるように細工がしてあるようだ。ただ詰めただけでは殴り飛ばされてしまう。』

確かに、銃身はやけにふと長く、鋭利なトゲまでついている。ここまで扱いにくそうな銃は、あの『異人』という姿だからこそ使いこなせるのであろう。

「じゃあどうするんだ!?」

『慌てるなイクタ。これはこの姿の真の力を見せる絶好の機会だ。』

エレメントは、右腕に装着されているエレメントブースターを掲げた。

『プリローダケミスト!』

機会音声を発し、ブースターが青く光る。どうやら、ブースターにエネルギーが集まっているようだがー

『ケミスト!ジルカロイ!』

いくつかの元素を合成したのか、ジルカロイという新たな物質が生まれた。

「なんだこれ?聞いたことがない物質だな。」

イクタが首をかしげる。

『なにやってんだあいつ?舐めてやがんのか?喰らえ!』

ラザホーが銃を構える。しかしエレメントはそれを気に留めず、今度は左腕のエレメントミキサーを構えた。

『ケミスト!ハイドロ!』

そしてエレメントは、その両腕を胸の前で交差させた。

『ケミストリーラッシュ!ハイドロエクスプロージョン!』

するとエレメントの前で小規模な爆発が生じた。だがその爆発は何度も連鎖爆発を起こしながら、確実にラザホーの元へと向かっていく。

『な、なんだ!?なにがどうなって…!?』

次の瞬間、ラザホーは最後の大爆発に飲まれた。ドドーンという音ともに、衝撃波が発生し、辺りに砂嵐を巻き起こす。

「今のは一体…?」

イクタも、なにが起きているのか掴めていなかった。

『ブースターはミキサーと違い、何種類もの元素を同時に合成できる優れものだ。その数に限りはない。まぁ、多く合成するほどエネルギーを消費するから多用はできないのだが…』

そう言いながら、エレメントは片膝をついた。いつのまにか、胸のランプが音を立てて点滅している。イニシア戦を含めると二連戦なのだ。

『今のように、ミキサーとブースター、それぞれで生み出した物質同士をさらに化学反応させることもできるのだ。今回は、水素爆発を起こした。』

「なるほどな。身体能力の大幅な向上に加え新能力…。なんでここまでのパワーアップが前触れもなく可能になったんだ…?」

『それは後からでもいい。まだあいつは生きているぞ!』

砂や土煙が少しずつはれ、視界が良くなってくると、その中にフラフラと立ち上がるラザホーの姿が確認できた。

『はぁ…はぁ…恐ろしい強さだな。近距離も遠距離も隙なしかよ……。嫌になるぜ全く。』

足取りはフラついてはいるが、構えた銃口は確実にエレメントへと向けられていた。

『残存体力から考えて、次の攻撃がお互い最後になるはずだ。確実に仕留めるぞ!』

「あぁ!」

エレメントは再びブースターにエネルギーを込めていく。ラザホーも、グレネードランチャーにパワーをチャージしていく。お互いに準備が完了した瞬間、互いの必殺技を繰り出した。

『ケミストリウムブラスター!!』

『ラザホージウム光線!!』二つの光線が、ぶつかり合った。大爆発を起こし、その爆風に両者はのまれた。爆発が収まった頃、砂漠に二つの巨大な影はもう存在していなかった。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁ」

情けない声が森に響く。その声を聞きつけて、トキエダとイケコマが銃を構え、やってきた。

「おいおい、どうしたってんだ?」

「た、隊長!かかか、怪獣です!!」

そう叫んだオリバーの後方に、大きなカブトムシのような怪獣の姿があった。

「ったく、あれだけのサイズの怪獣に、どうしてここまで接近されるまで気づかなかったんだ。」

イケコマが呆れたように言った。

「す、すいません!サンプル回収に夢中になり…。」

「まぁいい、動きを止めるぞ。威嚇射撃!」

トキエダとイケコマが、怪獣の顔の近くに向かって威嚇射撃を行なった。怪獣の動きが止まる。

「……どうやら、攻撃的な怪獣ではなさそうだな。不幸中の幸いだ。」

しかしその後ろから、同種類と思われる怪獣が多数、飛んできた。だが隊員たちには目もくれず、ぐんぐんと飛行を進めていく。

「……何かおかしいですね。怪獣が群れをなして行動しているんでしょうか?」

「カブトムシが群れで行動するのか?地下に残されていた過去の文献によれば、そんなことはないはずなんだが……。」

考え込むトキエダとイケコマ。その時、遠くから獣の吠えるような大きな声が聞こえた。

「…どうやら、このカブトムシの鳴き声ではなさそうだ。」

再び銃を構えるトキエダ。

「そのようですな。もしかすると、こいつらは今の声に追われているのかもしれません。」

「となると、俺たちもここにいては巻き添えを食らうだろう。怪獣同士の戦闘ともなれば、無事ではすまん。」

トキエダはポケットから、無線を取り出した。

「現在正体不明の怪獣がこの森に向かって進行中と思われる。ここでの任務続行は不可能と判断した!直ちにアイリスバードへ戻れ!場所を変更するぞ!」

トキエダが無線で指示を出す。

「し、しかしイクタ隊員は!?彼は連絡の取れない場所にいます!場所を変更すれば、合流が難しくなります!」

そう反応したのは、クワハラ隊員だった。

「ちっ……そういえばそうだ。あいつ、何やってやがる…。まさか、死んではいないだろうな?」

「ちょっと待ってくださいよ!ビードルちゃんたちを見殺しにしちゃうんですか!?」

キャサリン隊員が会話に割り込んできた。

「ビードル?」

「このカブトムシに名前つけてあげんたんですよ。攻撃的な性格でもなさそうですし、この子のおかげで私たちは危機に気づけたわけです!この子達だけを置いて逃げるなんて…。」

キャサリンはそう訴えた。

「かと言って、ここに残りカブトム…ビードルを狙う怪獣と戦闘する道をとっても、我々の生存確率を著しく低下させるだけです!無駄な戦闘は避けるべきだ!」

イケコマ隊員がそう答えた。

「……くそっ、どう行動するのが正解なんだ…!」

トキエダが苛立ったように言った。

「とにかくアイリスバードに乗りましょう!それなら怪獣との接触のその瞬間まで、戦闘か避難かの選択肢を選ぶことができます。このままここでじーっとしてても無意味です!」

無線から、ゴームズ隊員の声が聞こえた。

「……その通りだな。早く戻るぞ!」

隊員たちは駆け出した。

 

 

「おーい、戻ったぞー!」

キュリとダームは、アジトに帰還した。だが、ローレンの返事はない。

「おーい!あたしだー!キュリだー!」

やはり返事はない。

「どうやら、まだお眠りのようですな。」

ダームがそう言った。

「また寝てんのかよ!この非常時に……。」

「まぁ大丈夫でしょう。ローレン殿が何もせずに寝てるだけ、ということは、イコール勝利の未来が見えているということになります。ラザホー殿が活躍なされたのでしょう。」

「あのクソオヤジで大丈夫かな。最後の切り札まで使い切る、とか言ってたけど。」

「ほほう。まぁ、異人化するとなるとエレメントと同等の力を手に入れるはずですから、なおさら問題はないでしょう。彼の寿命が著しく削られはしますが。」

そんな会話をしながら歩いているうちに、ローレンの部屋の扉の前にたどり着いた。

「失礼しますぞ。」

ダームが扉をノックし、そーっと開けた。だがそこに、ローレンの姿はなかった。

「…!ローレン殿…?」

「どうした!?」

「いえ……ご不在のようです…。」

「はぁ!?あいつがあたしたちに黙って1人で外出したってのか!?ありえねーぞそんなの!」

「ですが現に………。」

まさかの思いがけぬ事態に右往左往する2人。

「……となると話は違ってきますな。彼が1人で行動せざるをえない状況が発生したとしか考えられません。すなわち、ラザホー殿の身に何かあったんでしょうな。」

「やっぱり予知は避けられなかった、ということか……。となると爺さん、あんたも…。」

「えぇ。どうやら、死が近いようです。」

空間にしばらくの静寂が訪れる。

「とにかく探すぞ。」

キュリの言葉が静寂を裂いた。

「…どういうことでしょうか?」

「ローレンとラザホーに決まってるだろ!ラザホーの場合、死体なら尚更地下のやつらに渡すわけにはいかない!あたしはローレンを探す!探知さえできれば一瞬で移動できるからな。」

「わかりました。では私はラザホー殿を。確かに、死体が渡り研究でもされたらたまったもんじゃない。」

2人は急いでアジトを飛び出して行った。

 

 

 その頃、廃墟となった都市部を1人で歩く黒ローブの男の姿があった。その廃墟はツタや草の生い茂ったビルが崩れ落ち、かつては舗装されていたはずのコンクリート製の道路はすっかり草原のようになるなど、ここに人類の文明があったとは思えない見るも無残な光景が広がっていた。男は歩みを進めいていく。その先に、仰向けに倒れている人影があった。

「……派手に飛ばされたな。エレメント。」

男は深くかぶっていたローブを取り、頭部を露わにした。ローレンであった。倒れていたのはイクタだ。気を失っているのか、一向に目を覚ます気配がない。

「……エレメントはどうやら放射能に触れることによって新たな力を得たようだが、お前はどうだ?イクタ。地下で温室暮らしだったお前が、防護服も着ずに放射能に晒されている。さて、お前の体にはどんな現象が現れる…?」

ローレンはニヤリと笑った。

 

 

 イクタはどうやら夢を見ているようであった。身に覚えのない風景が目の前に広がっているのだ。夢じゃなければなんだというのだ。目前には、高くそびえ立つビルの群れ、行き交う無数の自動車、そして人々があった。

「……どこだここ?」

夢とはいえここまで鮮明な映像が流れ込むのも珍しい。そういえば、ラザホーと必殺の光線を撃ち合った後からの記憶がない。見知らぬ街に吹っ飛ばされたのかもしれない。だが、その可能性はすぐに否定された。今地上には、人類は存在しないからである。とにかく現在地を把握すべく、イクタは歩き出した。

「…あれは…」

歩いているうちに、ビルの側面に設置された巨大モニターが目に入った。街のど真ん中にあれほどの大きさのモニターがあるとは、と感心するイクタ。その画面は、すぐにニュース番組のようなものに切り替わった。

「こんにちは。7月30日の昼のニュースです。先ほど午前11時、首相官邸で緊急会見を行ったミズノ総理は……。」

イクタですら瞬時には理解できない情報が並べられるニュース。

「7月……30日…?今日はまだ6月のはずなんだが…。ていうか総理大臣って、何百年前のお偉いさんだよ。」

首をかしげるイクタだったが、その耳に猛々しい警報音が鋭く聞こえた。怪獣警報にそっくりだ。ここでも怪獣が出たのか?だが、現れたのは怪獣ではなく、無数の戦闘機だった。

「逃げろ!!空襲だ!!」

道を行き交っていた人々が一斉に同じ方向へ駆け出した。それにまみれ、身動きが取れなくなるイクタ。

「ちょ、な、なんだってんだよ!」

逃げ惑う人々、崩れ落ちる建物、至る所で火の手が上がる街並み。賑やかだった大都市は、一瞬にして地獄のような空間になってしまった。

「随分と趣味が悪い夢だな…疲れてんのか俺…。」

途方にくれるイクタ。

「助けてー!まだ夫が、子供も見当たらないんです!!」

助けを求めて泣き叫ぶ女性の声が、イクタの耳に入った。

「…くそっ!」

思わず駆け出し、女性の元へと向かうイクタ。

「大丈夫ですか!?こっちです!」

自分自身もわけがわからないまま、彼は女性を抱えて走り出した。

「それで、旦那さんとお子さんはどこに!?」

「職場と学校です!でも、両方とも飛行機が来た方角にあって…。」

泣き出しそうな声で訴える女性。

「くそっ!なんてこった。どうしてこんなことに…!」

悪態をつくイクタ。

「全部エレメントのせいです!」

女性は叫んだ。

「…え?」

「この大戦を圧倒的な武力で終結に導く最後の最凶兵器、ウルトラマンエレメントの登場が、この戦争を…世界を狂わせたのよ!」

「ウルトラマン……?なんですかそれは!?」

聞き返すイクタ。だが、彼らの近くに落ちた爆弾の爆風と衝撃が、彼に答えを与えてくれなかった。吹っ飛ばされたイクタ達だったが、今ので頭を打ったのか、女性の息は止まっていた。

「何がどうなっていやがる……!なんなんだよこれは!!」

そこで夢は終わった。

[newpage]

 気がつき、バッと起き上がったイクタ。その目の前には、見たことのない少年が立っていた。

「気がついたか。イクタ・トシツキ…。いや、エレメント。」

少年はそう言った。その言葉に反応し、反射的に銃を抜くイクタ。

「誰だ!?何で俺のことを知っている!?」

「そうだな。お前らが言う所の、黒ローブってやつのリーダー、とだけ言おう。名はローレン。お前と同じリディオ・アクティブ・ヒューマンの運命を背負いし者だ。」

「!!」

イクタは銃を握る手に力を込めた。

「………お前が本当にそうなら、聞きたいことが山ほどある…!どうもうちのエレメントは、喋るのを渋ってくれるからな。」

「俺が簡単に答えそうな男に見えるか?」

「………答えなければ戦う!」

「ならば聞こう。お前は何の為に戦う。自分の都合のためか?それとも俺が地下の世界を脅かす存在だからか?」

ローレンは感情のこもっていない声で、淡々と訊ねる。

「…それは……主に後者のためだ!」

「そうか。では、こう考えたことはないのか?何故俺たちがお前達の世界に脅威を与えているのか。」

「そんなこと知ったところでどうなるよ。もちろん興味がないわけじゃないけど、どんな理由があれ、平和を乱すことは罪でしかない!」

イクタは力強く答えた。

「全くもってその通りだな。お前は正論者だ。そうだ。どんな理由があれ、平和を乱すことは許されないことだ。だから俺はその悪と戦う。」

ローレンはそう言った。

「………は?何言ってんだお前?」

「まぁわからないだろうな。………いいだろう。お前には俺の知っていることすべてを教えてやる。いや、お前には知っておいてもらいたい、それに近いだろう。お前は地下の人間とはいえ、俺の数少ない『仲間』なのだからな。では、まず何から聞きたい?答えてやる。」

「そうだな……。じゃあエレメントについてだ。エレメントとは何者だ!?それに、あの急激なパワーアップは一体なんだってんだ。かつて人類文明がここで栄えていた頃、奴は何をしたんだ。」後半は夢の内容を思い出しながらそう言ったイクタ。

「わかった。結論から言おう。エレメント、それは俺たちが最も憎むべき悪の化身だ。」

『いかんイクタ!そいつの言葉に耳を貸すな!』

エレメントミキサーから、エレメントがそう口を挟んだ。

「あんたは黙ってろよ。こいつの話が真実なのかそうでないのか、それは聞いた後に照合すればいいだけだ。」

『…しかし…!』

「元々あんたが素直に答えてくれないのが悪いんだろう。それとも、何か話されてマズイことでもあるのかよ?」

イクタが高圧的に言う。

『それは………だがイクタ!考え直せ!これまで共に戦ってきた私と、その初めましての男と、どちらが信用できる存在なのかを!それとも、私と君の信頼関係なんて、その程度のものだったのか!?』

懸命に訴えるエレメント。

「……」

それを聞いて、返答に迷うイクタ。

「もちろん、俺は今まであんたに何度も助けられてきた。俺だけじゃない、地下の人類全てがだ。だからこそ、ローレンがいくらあんたを悪と言おうと簡単には信じない。けど、俺はとにかく真実が知りたいんだ。その為に地上に来た。そしたら、目の前に一番今の地上を知る者がいて、わざわざ喋ってくれるらしいじゃないか。なら俺はその話を聞く。心配すんな。あんたを裏切るわけじゃない。」

『……わかった…。』

エレメントは渋々承諾すると、もう何も話さなくなった。

「それで、もう話してもいいのか?」

ローレンが訊ねる。

「あぁ。待たせちまって悪いな。」

イクタはあくまですぐに戦闘が開始できるよう、警戒態勢のまま、ローレンの言葉に耳を傾ける準備をした。

「エレメントの話をするには、まずは俺や俺の仲間達の先祖の話をしなければいけない。あれは150年前まで遡るー」

ローレンは話し始めた。

 

 

 森の中、急いでアイリスバードへと駆け込んだ隊員達は、いつでも発進できるように態勢を整えていた。

「レーダーに例の進行中の怪獣と思われる物体が映りこみました!距離は70キロメートルほど離れていますが、結構なスピードを出しています。十分もあれば、ここにたどり着くでしょう。」

オリバーが報告した。

「思いの外離れてたな。ビードル達が騒ぐくらいだから、もっと近くにいるかと思っていたよ。」

エドガーがそう言った。

「それで、空を飛ぶタイプか?それとも歩行するタイプか?」

トキエダが訊ねる。

「レーダーではそこまではわかりませんが…スピードから察するに飛行型と考えるのが妥当かと。」「ふむ。では今から二つの作戦を言い渡す。しっかりと聞いておけよ。まずはプランAだ。怪獣との戦闘を避けるパターンの作戦だ。この戦闘機のスピードなら、怪獣をまくのは容易だ。だからあらかじめ、次の目的地を定めておく。キャサリン隊員には気の毒だが、この作戦ではビードルの群れを囮に使う場面も出てくるだろう。だがこれも生き残るため、任務を続行させるためだ。理解してくれ。」

「……了解。」

キャサリンが返事をした。

「では次にプランBだ。これは怪獣との戦闘を選んだパターンだ。なるべく森への被害を出さぬように怪獣を撃退し、この森で任務を続行させる。だが怪獣がイニシアのようにヤバそうな奴ならこの作戦はなしだ。わかったな!?」

「了解!」

「では総員しばらく待機!」

 そしてその十分後、その謎の怪獣が姿を現した。四足歩行の大きな怪獣で、身の丈は目測でも65メートルはありそうだ。その小さな頭部に比べると胴体は太く逞しく、気休め程度の翼が生えてはいるが、これで飛行するなど考えられないほど小さなものだ。その鋭く、赤い眼差しからは、どうもこれが攻撃的な性格ではないとは判断できない。大きく鋭い牙が無数に生えている口からは、常に蒸気の様なものがモクモクと上がっており、体全体から、いかにも『猛獣』というオーラを放つ、そんな怪獣だった。

「こ、このサイズの四足歩行型が、あのスピードでここまで来てたんですか!?」

桑原隊員が驚きの声を上げる。

「なんてこった!こりゃどう見ても簡単に仕留めることができる代物じゃねぇ!総員、プランAだ。あらかじめの目標は決まっているだろうな!?」

トキエダが大きく叫ぶ様に言った。

「はい!すぐ近くに昔都市部だった場所がある様です!腐敗しているとはいえ、建物が多いこの地帯ならすぐに拠点を築くことも可能でしょう!サンプル回収は期待できませんが。」

オリバーが答えた。

「わかった。全機にその地点までのマップを送信しろ!作戦開始!」

「了解!」

19のアイリスバードマーク2が、一斉に同じ方向にめがけて勢いよく発進した。その動きに興味を持ったのか、大怪獣は隊員達に視線を移し返すと、猛ダッシュで追い始めた。

「怪獣、こちらを追って来ます!」

「止むを得ん!ちょっと待ってろ!」

トキエダの乗る飛行機が隊から離れ、怪獣の方へと向かって行った。

「隊長!!何を!?」

「こいつの気を俺が引く!そしてビードルの群れへと誘導する!」

「そんな!!それってつまり、彼らを犠牲にして私たちは逃げ延びるってことですか!?」

キャサリンが叫んだ。

「さっきも理解してくれと言っただろ!俺だって無害な怪獣を踏み台に生き延びようってことには子心が痛むし罪悪感だってある!だがな、それしか方法がないんだよ!」

珍しく声を荒げたトキエダ。その気迫に押され、キャサリンは何も言えなくなってしまう。トキエダの乗る機体が、怪獣の顔の前を横切った。怪獣は振り返り、トキエダを凝視すると、そちらを追い始めた。

「あいつが好奇心旺盛な怪獣で助かったぜ。あとは隊長のことだ。うまくやってくれるさ。さ、先に行くぞ!」

イケコマがハッパをかける。トキエダはビードルの群れを追う様に飛行をしている。ビードルも、怪獣が追って来てるのを再確認し、避難のスピードを上げていく。

「お前達…すまない…!」

飛行機と怪獣が群れに追いつくその瞬間だった。森の影から飛び出したもう一つの巨大な影が、怪獣を捉え、真横に吹き飛ばしたのは。

 

 

        

                                                      続く。

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