第11話「目的」
その村では、至る所から火の手が上がっていた。建物は木造建築のものが多いため、その火の勢いは止まることを知らない。一酸化炭素中毒なのか、そこら中に倒れて動けなくなった人々が転がっていた。そこに、1人途方にくれた様に立ち尽くすひとつの巨大な影があった。その巨人の身体は赤と銀で彩られていた。
「……ははっ!実験は成功だぁぁぁ!!これがぁ!これこそが私の求めていた人類の最終ステージィ!ウルトラマンの力なのだぁぁ!!」
巨大な影の肩の上に立つ、放射能防護服を纏った男がそう叫んだ。
「どうだドクターセンゲツ!!この光景を見てどう思う!?お前がやったんだぞ!?素晴らしい!なんと美しい景色だとは思わないか!?」
『……私は……私はなんということを……』
巨大な影は今にも消えそうな声で呟いた。
「この野郎、面白いやつだな。ここまで来て偽善者ぶるつもりか?」
白衣の男は失笑した。
『違う……こんなやり方は間違っている!目を覚ませリディオ!!お前は私と同じ、平和を愛する科学者だったはずだ!』
ドクターセンゲツはそう言った。それを聞いて、リディオと呼ばれた男はさらに笑い声をあげた。
「はははっ!お前本当に面白いな。目を覚ますのはお前の方だろう?なにを他人事みたいに言ってやがる。これをやったのは、お前だ。いっそもっとそのウルトラマンの力を楽しむべきだと思うな。これは私とお前とで開発した、平和の象徴じゃないか。この村には我が国を狙うテロ組織が潜伏していた。お前はウルトラマンの力を使い、そのテロリスト達を拠点ごと焼き尽くしたわけだ。次に狙うのは敵国である共産主義どもだ。お前がいれば、味方の兵士をほとんど死なせることなく、圧倒的な力で戦争を片付けることができるさ。大統領も国民も、そして私たちも早くこの戦争が終わり、平和が訪れることを願っている。お前が必要なんだよ。下手に偽善者ぶるのをやめろ。罪悪感なんか捨てちまえ。いや、むしろ自らの行動を誇るべきだ。」
リディオはそう語った。
『違う……!私が望んだのは、こんな力で押さえつけるだけの建前としての平和ではない!確かに争いはしばらく鎮まるかもしれない。だが、こんな平和は人々の心に憎しみを植え付けるだけだ!テロリストだって、ただ暴れまわっている集団とは限らない。彼らには彼らの思想があったり、我が国に対する憎しみから行動しているものもいるはずだ。私の存在や行動は、将来の平和を脅かすことに関わるのだ!お前はこの戦争から何も学んでいないのか!?平和のための抑止力であった核兵器が、この状況を生み出したことを忘れたのか!?』
「はぁ……ピーピーピーピーうるさいな本当。その核兵器のおかげで、私は放射能強化人間…そうだな、開発者である私の名をとってリディオ・アクティブ・ヒューマンとしよう。彼らを生み出し、さらにウルトラマンの実験にも成功しているんだよ。まあ、お前のことだからそう言うとは思ったけど。だからしばらく黙っててくれ。」
リディオは、ポケットからコントローラーの様なものを取り出した。
『なんだそれは?』
「黙ってろって言ってるだろ?」
リディオはスイッチを押した。
『う……あぁぁぁぁぁぁ!!』
巨人はもがき、片膝をついた。
「バカなやつだな。こんな恐ろしい生物兵器を自我が存在した状態だけで動かせるはずがないだろう。……おや?まだ生き残っているガキがいやがったか。」
リディオは地面に降り立つと、怯えて震えている4人の子供の前に歩み寄った。
「被爆地で採取するにはもってこいのサンプルだな。ガキだから実験も行いやすい。いや、その成長そのものが実験とも言える。」
リディオはウルトラマンを操り、その背中に子供達を乗せた。
「大人しくしておけガキども。こんなチンケな焼け野原で孤児生活を送るよりは、快適な空間をプレゼントしてやろう。おいズラかるぞ。まぁお前みたいなデカイ秘密兵器をいつまでも秘密にできるとは思ってはないが、敵に見つかるとマズい。そろそろ現地の軍が来てもおかしくない時間だ。」
『シャアァァ!!』
巨人は、リディオと4人の子供を乗せ、その場を飛び去った。
「その4人の子供。それが俺の…いや、俺たちの祖先にあたる。」
ローレンはそう言った。ミキサーの中のエレメントが何の反論もしないあたり、この話は真実を見て良さそうだ。
「ドクターリディオが生み出した人類の最終進化、ウルトラマンは俺らの祖先が静かに、平和に暮らしていた村を一瞬で地獄へ変えた。テロリストの潜伏というのも、本当は建前にすぎなかった。証拠は一切なく、実際問題として、遂に焼け跡から指名手配犯の遺体やアジトらしき跡は発見されなかった。リディオはウルトラマンの力の実験場が欲しかっただけだ。」
ローレンは淡々と語った。
「ここまで聞いてどう思う、イクタ?」
「………気の毒だとは思うよ。強大な力は大切なのものを一瞬で失わせるんだ。痛いほどわかるぜ。俺は、お前らのせいでそれを思い知っているからな。」
イクタは最後は皮肉の様に言った。
「でもちょっと待てよ。要するにエレメントはそのウルトラマンって奴で、そのウルトラマンは人間だ…ということか?」
「まぁそうなるな。そのミキサーに封じられているエレメントも、元々はただの人間だ。」
ローレンは表情を変えずに答えた。
「では俺の話を続けよう。」
「ドクター、子供達の細胞の分析、心理テストや体力テストなど指示を仰いでいた項目は全て終了しました。それで、面白い結果が出ています。」
リディオの元に、部下が報告しに来た。これは、あの事件から4ヶ月後のことである。
「ほう。それで?」
「はい、1人の子は右脳が異常発達しており、我々にはない発想力や感性を持っています。空間認知力も、あの歳で我々科学者を超えています。」
「…ふむ。続けてくれ。」
「2人目も右脳に異常があり、動物と意思の疎通がはかれている可能性があります。これも異常感性の作用かと思われます。3人目も右脳です。たまに夢で見た内容を話してくれるのですが、その内容が数日後に現実となったケースが少数ですが確認されています。4人目は唯一左脳に異常が見られます。3人を超えるIQを叩き出しましたが、孤立しているのを見る限り、コミュニケーション能力に欠如があるかと。」
「なるほどな。特に3人目だ。その夢に関するデータをもっと取れ。私が生み出した放射能強化人間にはないデータだ。興味がある。だが他の子供達の研究も忘れるなよ。どれも軍事科学に応用できる何かがあるかもしれん。」
リディオはそう指示をした。
「了解です。そういえば、例のウルトラマンは今どうしているんです?」
「あぁ、あいつか。この間も俺の命令に背きやがったから、今度は完全に自我を捨てさせ今はロシアで大暴れさ。大統領は大喜びだよ。さらに成果を出せば、俺は大統領に認められ政府の科学者になれる。一度はその立場を追われたが、再び奪い返すことができるのさ。さもすれば研究予算も増額され、ウルトラマンの量産、そして商品化も夢ではなくなる。新たな平和の抑止力となるのだ。世界は平和、俺はぼろ儲け。こんなに美味い話はないさ。」
リディオは唇を舌で舐めながら話した。
「しかしドクター、なぜまだウルトラマンに自我の存在を許しているんです?あの強大な力が一瞬でも我々に向けられたら…。」
部下は最悪の事態を想像しながら訊ねた。
「まぁ私がコントロールしているんだ、まずくなったらすぐに自我を消去する。だが、あいつに心が残っている状態で、あいつに人殺しをさせるって行為そのものが、楽しいだろう?理想だけの平和を謳う偽善科学者が、己の意思で、己の手で人を殺める街を壊すそして国を滅ぼす。あいつの心情を思うとたまらないね。」
リディオは、今にも大声で笑い出しそうな歪んだ顔でそう答えた。
「そうだ、あいつに名前をつけよう。ウルトラマンはいずれ大量生産品になるんだ。遅かれ早かれ固有名が必要だろう。そうだな……この最終兵器の元祖であり平和のための1ピース、そしてその能力から、『エレメント』ってのはどうだ?『ウルトラマンエレメント』だ。」
「なるほど。平和を構成するひとつの元素、という意味もかけているんですね。」
「そうだ。なかなかいい名前だろう。あのバカ野郎にはもったいないくらいだ。」
「では、今日よりウルトラマンの正式兵器名称を『ウルトラマンエレメント』とすると、軍部や政府に伝えます。」
「うむ。」
部下は退室した。
「だが結果的にはリディオの野望は果たされなかった。現にウルトラマンは、そこにいるエレメントしか存在していない。」
ローレンはまたも無表情で語る。
「戦争も研究も順調に進んでいた。当時の世界で奴ほどの勢いがあった者はいなかったであろうな。だが、結果を見ろ。地球は、こうなっている。」
「……なぜだ?何が起こったんだ!?」
イクタが食いつく。
「リディオの失脚。それがダイレクトに、今の地球の有り様に繋がっている。」
ローレンは再び話を始めた。
リディオはホワイトハウスに呼び出されていた。あれからさらに2年が経過していた。遂に政府専属の科学者になれるのだと、鼻歌を歌いながら大統領室へ向かっていた彼のテンションと表情は、その数分後に豹変した。
「……今……なんとおっしゃられたのですか…?」
あまりに予想外の命令に耳を疑い、聞き返すリディオ。
「ではもう一度言おう。ドクターリディオ、貴様を死刑とする。」
大統領は冷たく言い放った。
「ば……バカな!なんということだそんなの有り得ない!大統領閣下も、私のウルトラマンを高く評価してくださっていたはずです!なのになぜ…」
「シャラップ!そのウルトラマンが、我が国の国益に甚大な被害を与えたのだ!!」
さらに予想外なことを言われ、顔がぐしゃぐしゃになるリディオ。
「は……?それはどういう…」
「研究室に籠もりきりとはいえ、戦況も理解していないのか。先日、同盟国である日本の首都東京が、共産主義の連合に核攻撃を伴う激しい空爆を被った。ウルトラマンが仕留め損ねた部隊の生き残りだった。さらに共産軍は、追撃として大量の核ミサイルの標準を我が国の主要都市へと向けている。日本国民や政府はウルトラマンを強く非難している。ウルトラマンさえいなければ、東京は報復を受けることはなかったとな。同盟国も敵も、参戦していない国も国連も、世界が全ての元凶は力を持ちすぎたウルトラマンにあると言っているのだ。」
大統領の秘書が、口調を荒げながら言った。
「ウルトラマンによる攻撃の影響を受けて破損した原子力発電所も多くあるとの報告も出ている。もっとも、これは便乗によるデマであろうがな。とにかく、今世界はそうなっているんだ。ウルトラマン、そして開発者である君を抹殺する。そうするしか、この国を核から守る方法はない。」大統領が、静かだが強い口調で、改めて死刑を告げた。
「そんな……」
リディオはその場に崩れ落ちた。
「こんなことって許されるのか…?」
リディオは蚊の羽音ほどの小さな声で呟く。
「…何か言ったかね?」
秘書が聞き返す。
「こんなことが許されるのか!?私はぁ!この国のために放射能という命に関わる危険なしろもを取り扱い研究を続けてきたのだぁ!そしてこの国の利益になる成果を上げ続けた!そして生み出したのだ!人類を超える人類放射能強化人間と、その最終進化体、つまりは人類の最終ステージウルトラマンを!!そう!私は地球史上最高の科学者!!故に殺される理由がない!死すべきは私の研究を理解できない貴様らだ!全人類だ!!……そうだ…地球から人っ子1人いなくなれば、この世界は平和になる……私の夢が叶うのだ……」
狂気に満ちたその怒声とヒステリックな声にその場にいた全員が怯んだが、秘書が一瞬の硬直ののちに素早く銃を抜いた。
「黙れ!今この場で撃ち殺すぞ!!」
「あぁやってみるがいいさ!できるのならなぁ!」
その瞬間、秘書の背後に人影が現れ、秘書のうなじに手刀を入れた。彼は一瞬にして気を失い、その場に倒れてしまう。
「ドクター、この場の全員を殺しますか?」
秘書を倒した少年が訊ねた。
「あぁ、殺せ。」
「な、なんだあいつは!?」
大統領が驚き、椅子から転げ落ちながら叫んだ。
「何って、数年前に報告した人間兵器、『リディオ・アクティブ・ヒューマン』ですよ?お忘れになったのですか?あなたの命令で生み出したのに?まぁ最も、この子はウルトラマンの初回実験で手に入れた副産物ですが。」
リディオが爽やかな笑顔で答えた。
「能力は空間移動ですよ。右脳の異常で発達した人知を超える空間認識力。それがこんな能力に発展するんですよ。面白いでしょう?放射能強化人間は。私も驚きましたよ。あーあと、未来が読める子もいますね。きっとこの子は、彼のおかげで私の危機を知り、私が死刑になるという未来を変えてくれたんでしょう。持つべきものは、実験サンプルですね。」
リディオは笑顔のまま続けた。大統領のSPたちも突然の出来事、そして狂気に満ちたリディオの前に怯えて尻餅をつき、全く頼りがなく情けない姿を見せている。
「……狂っている……このマッドサイエンティストめ!」
大統領は、今にも泣き出しそうな声で叫んだ。
「よく言われますよ。かつての友人であったエレメントからも言われる始末ですわ。まぁいい。どうせみんな死ぬんだ。他人からの評価など、気にするだけ無駄だ。」
そして、リディオの指示で少年はピストルを取り出し、その引き金を引いた。大統領の眉間に、赤紫色の空洞ができる。
「ここに私の求める平和はない。こんな星、核の炎にでも包まれてしまえばいいさ。私は新たな惑星で新たな世界を作り、その星の神となる。そこは争いのない平和な世界だ。夢のようだろう?」
リディオは少年に語りかけた。
「はい、ドクター。」
「争いとは、金のないものが起こすものだ。貧しさゆえに金を求める。金は全ての争いのエレメントと言ってもいいだろう。そして貧しい者は宗教にすがる。だがその宗教も、思想の違いから争いの火種になる。そして貧しい者は、己の貧しさを裕福な者のせいにするのだ。それが己の無能がゆえに招いた事態だということを、奴らの多くは理解していない。いや、理解することを拒んでいる。そして裕福な者を襲い、新たな戦いを生む。もうわかるだろう。争いのない世界を作るには、奴らはどうしても邪魔な分子だ。だが神は平等だ。世界のバランスを保つために、無能を世界を構成する一つの元素として取り入れた。その成れの果てが、今の地球文明だ。しかし私は、新たな惑星で、その地球文明を構成している元素を厳選し、新たな文明を構築することができる。裕福で有能な者しかいない世界を生み出せる。私にはそれができる!」
「はい、ドクターならできます。」
少年は機械が処理を行うように答える。
「では行こう。理想を現実にするために。」
2人は部屋に残っていたSP達を撃ち殺すと、ホワイトハウスを後にした。
「こうして、大統領を失ったその国は、敵国からの核から身を守ることができなかった。主要都市は焼けた。そして、核への応酬はもちろん核だ。核の撃ち合い、それによって今の地球はできたのだ。全ての元凶は、『ウルトラマンエレメント』だった。リディオはその後、何者かに暗殺されている。世界の敵そのものだったからな。犯人は不明だ。そして、世界はリディオの理想と同じ道を歩もうとする。富や権力のあるごく少数の地球人類だけを連れて、奴らは火星へと旅立った。多くの人類が、放射能のゴミの中に取り残されたのだー」
ローレンの話は、終局を迎えようとしていた。
「ふざけるなぁぁぁ!!お前らが起こした戦争のせいでこんな目にあってるってのに、全てを投げ出して自分達だけ逃げるだとぉ!?」
火星へと飛ぼうとする宇宙船の周囲には、暴徒と化した市民達が群がっていた。
「こんな、こんな無責任なことってあるのか!?クソッタレ!」
ある者は石を投げ、ある者は銃を乱射した。だが、宇宙船はおかまいなしにエンジンを吹かせる。突風を巻き上げ上昇する船から、市民達が吹き飛ばされていく。その数十分後、ついに機体は空の彼方へと消えた。
残された市民達は、わずかな食料と水を求めて争いを起こし始めた。法的機関が一切存在せず、政治的な指導者もいない。こうなってしまうのは必然だった。その地球内戦で重宝されたのが、リディオ・アクティブ・ヒューマンだった。彼らは貧しい村の出身だったため、選民思想により取り残されていたのだ。そして地球には、あの巨大生物兵器も置き去りにされていた。『ウルトラマンエレメント』である。
「………私はリディオの友として、リディオを止めることができなかった。あいつの野望に気づけなかった。その結果が、このザマだよ。」
センゲツはがっくりと腰を落として呟いた。隣には、空間移動の能力を持つ青年が立っていた。
「聞いてくれバーク。私の能力を君に託したい。私はリディオがこの世を去ってから、このウルトラマンの力をコントロールする研究を続けていたんだ。それが、この姿だ。」
センゲツは両手を広げた。すると彼の身体が光、機械のような姿になった。
『私の力を制御、保存するエレメントミキサーだ。放射能強化人間だけが、これを使いウルトラマンの力を継承することができる。だが暴走しないように、エネルギーを一定以上消費すると自然消滅する仕組みにしてある。』
「……なぜ俺なんだ?」
バークと呼ばれた青年は訊ねる。
『君には空間移動の力がある。ウルトラマンとなりさらに強化されたその能力で、生き残っている人類を全て地下へと避難させることができる。地下には、今後あらかじめ空洞を作ればいい。』
エレメントはそう答えた。
「……随分と勝手な話じゃないか。要するに、俺に尻拭いと後始末の手伝いをしろだと?生憎だが俺には赤ん坊がいる。俺たちにだって、子孫を繁栄させる権利があるはずだ。だからその話には乗れない。」
バークはそう吐き捨てた。
『だがこのままでは!……このままでは人類は地球と共に死を待つだけだ!紛争が続けば、君たちの子供達だって命の保証はないんだぞ!』
「……じゃあその地下の世界ってところには、争いはないのか!?ドクターは争いは貧しきものが起こすのだとの持論を述べていた。現にそれは当たっているじゃないか!争いの場が地上から地下に変わるだけだ。ならばここで滅ぶを待つのが無駄がなくていい。」
バークはそう言うと、歩き始めた。
「話はそれだけか?なら帰る。」
『待ってくれ!君にしかできないことなんだ!君にしか、今の人類を救うことはできない!』
エレメントは必死に説得を試みる。
「………そこまで言うのなら、ただ一つ条件がある。それを呑んでくれたら、協力するさ。」
『おぉ、そうか!わかった!なんでも言ってみてくれ!』
「……その力で俺の仲間を、家族を守れ。そして俺もヤバくなったらこの力を私情のために使うだろう。それでもいいのなら、俺はウルトラマンになる。」
『構わないさ。人類も、君の仲間も家族も助ける。私の力を正しく使えば、可能なはずだ。』
エレメントは嬉しそうに言った。
「だが、地下への移住計画は一筋縄ではない。俺はドクターの部下で、お前はこの世界を生み出した元凶。二人とも、人類の敵だ。」
『その通りだ。だから、これから信頼を取り戻す。たとえこの身が亡ぼうとも、私は私の罪を償う。それが、今こうして命のある私の為すべきことだ。』
エレメントはそう言うと、ミキサーの姿のまま、バークの左腕へと近づいた。
『私を腕に装着するんだ。そうすることで、君は好きなタイミングで私と一体化し、力を継承することができる。』
バークは言われるがままに腕にミキサーを装着し、その腕を掲げた。その瞬間、その身体は光に包まれた。みるみると、その光は拡張し、50メートルを超える人型のフォルムに変化した。光の中から現れたのは、銀と赤をベースとした体色に、緑色のストライブが走る巨人だった。
「これがウルトラマン……。だが身体の色が前と少し違うな。」
『うむ。それに力も以前以上のモノを感じる。これは新たな発見だ。他人と一体化すると、パワーアップするのかもしれないな。』
「まずは手始めに地下に空洞を作る。」
エレメントは、瞬間的に姿を消した。その姿は、地球のコアへと移動していた。
『あっつ!なんで急にこんな場所へ…』
「俺の移動能力も便利なものではない。ターゲットが明確ではない場合、大きな力に吸い寄せられるだけだ。まぁ、さすがにこれは驚いたが。だがウルトラマンだ、この程度、大したことはあるまい。」
『いやいやいや、流石に長居したら死ぬわ。とっとと終わらせよう。』
エレメントはフルパワーで光線を放った。
「しかし、本当にこんなに簡単に空洞が作れるとはな。」
地上へ帰ってきたバークは驚いていた。
『あぁ。だがヘトヘトだ。これじゃあ、人類の引越しが終わる前に私が力尽きそうだ。』
エレメントは嘆いた。
「何弱音を吐いている。言い出したのはお前だ。だが、どうやって人類を運ぶかが問題だ。」
バークは腕を組んだ。
『うむ。まずは少しづつでも信頼関係を築くしかない。私には、元素を操る能力がある。それが私のリディオ・アビリティだった。この力で、何か人類の役に立つことはできないか。』
「そうだな。では水をうんと生み出すのはどうだ?今の世界はどこでも汚染されていない水を求めている。それも大量にな。」
バークはそう提案した。
『なるほど。それは名案だ。もっとも、私の生み出した水を快く受け取ってくれるかだが…』
「だから、少しづつ信頼を取り戻すんだろ?時間がないぞ。善は急げという言葉を知らんのか?」
『……君の言う通りだよ。よし、なら早速やってみるんだ。』
「こうしてエレメントと、青年バークは世界を飛び回り、困っている人々を助けて回った。紛争続きで疲弊していた彼らを無差別に救い続けることで、エレメントたちは本当に人類の信頼を得ることに成功した。そして、いよいよ地下への移住が始まる。だがそこに、こうして俺らが地下人類を殲滅させようとする行為の動機があることになる」
ローレンはそう言った。
「………どういうことだ?」
「聞けばわかるさ」
ウルトラマンエレメントとバークは、遂に人類を地下に移動させる計画を始めることにした。人々は、エレメントを恐れなくなっていた。いや、むしろ救済を与えるエレメントを神と崇める宗教団体もいくつか生まれるほどになっていた。極限状態に陥った人々を一方的に助けて回っていたのだから、この結果にも納得はいく。
計画は、まず多くの人々を平地に集め、何人かがエレメントの体に触れ、そしてその人の手をまた誰かが握ってーと、最大3000人を同時に地下に運ぶ、という行為を繰り返すというものだった。だが、この計画には思わぬ盲点があった。地下との12回目の往復を終え、変身を解いたバークは、突然として吐血した。
『おい、大丈夫か!?』
エレメントが心配そうに声を上げる。
「………あ、あぁ…」
自分の血で赤く染められた両手の平を見つめるバーク。自分でも吐血の原因がわかっていないらしかった。
『ウルトラマンの力が相当な負荷になっているのだろう。少し休もう。もう休まずに12回も往復してるんだ。計24回の長距離空間移動なんだぞ。』
エレメントはそう言った。
『自身がウルトラマンになれば、リディオ・アクティブ・ヒューマンの最大のデメリットは消え去る。このような姿になるのと引き換えに、寿命で死ぬことはなくなるんだ。まぁ、殺されれば話は別だがな。だが君は私の力を、生身で受動的に引き継いでいるだけに過ぎない。だからー』
「なら尚更、休んでる暇はない!」
バークが、エレメントの言葉を遮った。
「俺らリディオ・アクティブ・ヒューマンの寿命は30年だ。だがこれは最長での話。そのアビリティを使えば使うほど、その代償として寿命はぐんぐんと縮まっていく。俺は自分のアビリティを、ウルトラマンの力で何度も使ってきた。俺の寿命はもうかなり削られているはずだ。」
『………』
エレメントは黙り込んでしまった。
「お前、本当は俺の死が早まることをわかっていたんじゃないのか?それらを踏まえた上で、俺1人の命を生贄にし、人類を救おうとした。自分の尻拭いのためにな。」
バークはそう続けた。
「まぁいい。あれほどの力をノーリスクで使えるとは俺も思っていなかったし、こうなるかもしれないとは薄々予想していたさ。」
『そう……だ。この姿の力の強大さ、そしてリスクは世界でたった1人のウルトラマンとして、私が一番わかっていた。それを隠し、君に協力を求めた。だが、なぜ君はリスクを予想しながらも協力してくれたんだ?』
「言っただろう。俺には子供がいる。遺伝的に、あの子も能力者だろうな。ドクターから、アビリティの遺伝については聞いていた。能力者の子供は能力者、だ。でも俺は、せめてその30年という短い寿命でも、その全てをあいつには生きて欲しいと思ってる。そのためには、アビリティを使わなくてもいい世界が必要だ。…だから、まずは目の前の終わりの見えない戦いを終わらせたかった。……俺も、目先のことしか考えられないクズだよ。これからどうなるかもわからないのに、目先のことを解決するために、親として子供の成長を見届けずに、こうやって近くに迫った死を待つだけの無責任なクズさ。」
バークは吐き捨てるように語った。
『いや、君は立派な父親だ。それにもう充分な数の人々を送り届けた。残された者には申し訳ないが、もうやめてもいいんだ』
エレメントはそう言った。
「バカか。まだ多くの人が残っている。さっきはお前の尻拭いと言ったが、これは俺の罪滅ぼしでもあるんだ。たとえ死んででも、全員助ける。」
『……わかった』
こうして、エレメントたちは再び世界を飛び回った。そして最後の空間移動を行うため、東南アジアを訪れていた時だった。
『ここにいる全員で、地上にいる者は全て、だ。この移動で、計画は終わる。まだ飛べるか?』
「あぁ……それに…ここは俺たちの故郷だ……俺の子供もいる…。覚えてるかエレメント、お前が焼き尽くしたあの村だよ。思えば、あの時からお前と俺には何かの運命があったのかもな……。」
バークはすっかり疲弊しきっていた声でそう語った。
『そう…かもしれないな。……では、手っ取り早く済ませよう。』
エレメントが準備態勢に入った。
『……エレメントトランサー!!』エレメントと、人々を青白い光が包んだ。次の瞬間、彼らは地下にいた。
「おぉ……」
「やった!俺たち、助かったんだな!!」
人々は驚きながらも、無事に避難が完了したことを喜び合っていた。
『よく頑張ってくれた、バーク。さぁ、私たちもここでしばらく休もう』
エレメントが、ミキサーに還ろうとしたその時だった。
「俺の……子供がいない……いやそれだけじゃない……」
バークが蒼白した顔で呟いた。
『なんだって?』「村の南に住んでいた人々がいない!」
『なに!?』
バークは予想外のことで頭が混乱しているのか、目を泳がせたが、すぐに気を取り戻した。
「地上に戻る!村の南には、俺の家族や仲間が住んでいるんだ!置いておくわけにはいかない!」
『だが今移動を行なったばかりなんだぞ!もし今飛べば、確実に君は死ぬ!そうなってしまったら、地上に戻れても、彼らをここへ連れてくることができない!』
「…くそっ!なんでだ!お前ら、なぜ南の奴らを!」
バークはエレメントの口を通して怒鳴った。
「いや…俺たちも声をかけたんだが、南に誰もいなくてよ…」
若い男性が答えた。
「もちろんあたりを探してはみたんだが、見つからなくて。てっきりもう集合場所に集まっていたものかと…」
他の若い男もそう続いた。
「……よく聞けエレメント。俺、お前と一体化することを決めた時、その条件としてなんと言ったか覚えているか?ヤバくなったら私情のためにこの力を使う、そう言ったんだ!そしてお前はそれを承諾したんだ!文句は言わせない!エレメントトランサー!!」
『お、おい待て!それでは君は…』
エレメントがいい終わらないうちに、再び青白い光がエレメントを包み、消えた。
次に目を開けた時には、地上に戻っていた。バークの危機を表しているのか、エレメントのエネルギー残量は充分なはずなのに、カラータイマーが点滅していた。
『なんて無茶なことを………』
「これで……いいんだ………。あいつらを探すぞ…」
エレメントは、その巨体をゆっくりと、足を引きずるように動かした。ドスン、ドスンと地響きをあげながら歩いているうちに、バークはある異変に気がついた。
「おい……何か変な音がしないか…?」
『うん?我々の足音ではないのか?』エレメントは何も気づいていない様子だ。
「いや違う。……これは…ゾウが歩く音に似ている……」
『ゾウだって?あのパオーンと鳴く鼻が長いやつか?まさか、戦争でアジアゾウは死滅したはずだ。』
エレメントはそう言った。確かに、大型動物は環境の激変に耐えられず、多くが姿を消している。バークもそれは知っていた。だがー
「だが、確かに似ているんだ。……まぁ、見ればわかるさ…」
エレメントは、怪しげな音のする方を目指して歩き出した。
『……おい、なんだあれは?』
しばらく歩いて、エレメントがそう声をあげた。
「うん?何か見えたのか?」
『うむ。ここから6キロ先だ。確かに、ゾウみたいな生物がいるぞ。』
「何言ってんだ、ゾウは大型動物とはいえ、6キロも離れてて、こっから視界に入るわけ…」
バークはそう言いながら目を凝らし、絶句した。確かに、ゾウが見えるのだ。それも、とても常識的には考えられないサイズのものだ。
「なんだありゃ……もはやゾウじゃない…バケモノだろあんなの…。」
『しかし、あれほど遠くに離れた足音を、よく聞き分けたな。』「まぁ、もとより耳はいいし、ウルトラマンの超人的な五感もあるからな……って、そういう問題じゃない。もしかしたら、あの化け物が村の南の人々が消えたことに関わっていたとしたら…」
バークの背中に冷たい汗が流れ出す。
『…可能性としては存在する。行ってみ…るべきなんだろうが、何度も言うがもう君の体は…』
「いらん世話だ。俺は奴らを地下に届けるまで、死にはしない。いや、死ねない。」
『…君には参ったよ。わかった、最期まで付き合おう。』
エレメントは説得を諦めて、そう言った。
「助かる。」
バークは短く感謝を述べると、怪物のいる方向へと走り出した。
『オォォォォォォン!!』
近づいてみると、そのゾウのような化け物がそう咆哮するのが聞こえた。その背中には、数人の人影が伺えた。
「…!やはりあいつが!許さねぇ!俺の家族と仲間を返せ!」
バークの操るエレメントの巨大が宙を舞い、巨大ゾウの横腹へと突っ込んだ。エレメントのタックルをくらい、横っ飛びする巨大ゾウ。その背中から振り落とされた人々を、エレメントは両手の平で掬った。
「大丈夫か!?」
『ダメだ、気を失っている。だが命までは取られてなさそうだ。とにかく手っ取り早く地下へ帰るんだ!この化け物の力量は計り知れない!』
エレメントはそう催促した。
「わかっている!エレメントトランサー!!」
バークはそう叫んだ。だが、光は現れなかった。
『何をしているんだ、全く。エレメントトランサー!』
今度はエレメントが叫んだ。だが、あの青い光は生じない。
『まさか、もう飛べるだけのエネルギーが残って………』
そのセリフが言い終わらないうちに、エレメントは消滅した。その跡地には、力尽きたバークと、気を失っているその家族と仲間、エレメントミキサーが取り残されていた。そこに、起き上がり体勢を整えたゾウの化け物が、のっそりと近づいてくる。
『お、おい……これはマズいぞ…。この姿の私では、誰1人として抱えて逃げることができない…。いやそもそも、私が身動きを取ることができない!』
そうこうしているうちにも、ゾウは確実にこちらへと歩みを寄せてくる。
『ま、まぁこんな大ピンチが訪れるのも想定済みだ。制限を設けて私の力を使わせているのだ、このようなケースになるのも計算のうち。斯くなる上はこの手段を……』
ブツブツと独り言を垂れるエレメントは、ミキサーの中でエネルギーをチャージしていく。
『喰らえ!』
エネルギーの充填が完了したのか、エレメントはミキサーから眩い光を放った。それに驚いたゾウは、怯えて反対方向へと走り去って行った。
『むぅ、本当はケミストリウム光線程度の技を発動するつもりが、目眩しのフラッシュ程度か……。私も休息を取らねば、私自身のエネルギーもそろそろ限界にきているのかもしれん。』
そう自己分析をするエレメントの隣で、今の光で意識を取り戻したのか、バークの家族や仲間が目を覚ました。
「ここは……」
最初に声をあげたのは、銀色の長髪の青年だった。
「俺たち確か、化け物に襲われて……」
と、辺りを見渡す青年。
『……!君は、バークと同じ、あの村の……レントか!?』
その顔に見覚えがあったのか、エレメントが驚嘆の声をあげる。
『そうか。あの後はバークと共に故郷に戻っていたのか。』
「……何が喋ってるのかと思えば、その機械か。その声はエレメント、随分と様変わりしたみたいだが、よく抜け抜けと俺らの前に平気で姿を表す気になったな。」
と、レントと呼ばれた青年は近くに落ちていた、そこそこの大きさの岩を持ち上げ、それを凶器にミキサーをカチ割ろうとする。
「悪魔め、死ね!」
『ちょ、ちょっと待て!』
エレメントの声に耳も傾けず、最初の一撃を与えた。ミキサーから火花が散る。
「お前が何やら良いことをしているらしいことは知っている。だがな、そもそもこんな最悪な世界を生み出したのはお前なんだよ!罪を償いたいならなぁ、その死をもって償ってもらおうか!?人類のことを思っているお前なら、本望だろうが!」
二度、三度と岩を打ち付けるレント。その度に火花が散り、ミキサーに亀裂が生じていく。エレメントはその間何も言い返さず、ただ殴られ続けていた。そして四度目の攻撃をしようとするレントの両腕に、何者かがしがみつき、その動作を止める。
「は、放せ!」
とその何かを振り落とそうとするレントだったが、その正体に気づき、動きを止めた。
「バーク……何故ここに…。」
「……待つんだ…こいつは確かに俺等の敵だが、今はそれを悔やみ罪を償おうとしている……。俺と一体化することでな…今ここでこいつを殺しても助からない…」
今にも消え入りそうな声で訴えるバークを見て、岩を投げ捨てたレント。
「ちっ…。」
彼は状況こそよくわかっていなさそうだが、仕方なく引き下がった。
『だがバーク。君はもう死ぬ。やはりあの移動で限界が来ていたのだろう……。このままでは皆死を待つだけだ。』
「おい…どういうことだ…俺等にわかるように説明しろ…」
そう口を開いたのは、別の村人だった。エレメントはそれに応え、これまでの経緯を全て話した。
「……そうか。ウルトラマンにはそのような使い方も…。」
『レント、今君には、どんな未来が見える?』
エレメントはレントに話を振った。
「あぁ、最悪だぜ。俺等はこの高濃度の放射能に汚染された世界で、どデカイ怪物に踏み潰されて死ぬだけだよ。」
『…放射能は一部の人間の遺伝子データを書き換え、とんでもない生物へと進化させることができた。私や君等リディオ・アクティブ・ヒューマンのようにな。だがもしかしたら、それは動物も例外ではないのかもしれない。現に、君等は人知を超える大きさのゾウに連れ去られた。』
「つまり、地球はもう人間の住むところではなくて怪物の楽園になる、ということか。」
『もちろん、放射能は動物にとって毒だ。8割方が死滅すると見て良い。だが、残る2割は怪獣となる可能性があるということだ。』
皆静まり返ってしまう。
「んなことどうでも良いんだよ!とにかく、どうすれば地下に避難できるんだ!!」
誰かが叫んだ。
「バークがこの様子じゃ、空間移動もできないんだろ?もうおしまいだよ…」
『……最終手段は残されている。』
エレメントが呟いた。
「なに!?」
『バークの赤ん坊だ。あの子なら、バークと同じ能力を使える可能性がある。ウルトラマンの力を使えば、ここにいる人数程度なら運べるはずだ』
エレメントはそう言った。
「貴様…!ふざけているのか!?言ったはずだ!この子には能力は使わせない。少ない寿命でもその全てを生きて欲しいと!」
バークは、今出せる最大音量の声で怒鳴った。
『わかっているさ。だが、助かりたいのならそれしか方法はない。』
「……そんなことをするくらいなら、俺はこの地上に残る。どうせもう死ぬんだから俺は地下だろうが地上だろうが関係ない。」
バークはそう言った。
「俺だって残るさ。俺等はリディオ・アクティブ・ヒューマンなんだ!放射能汚染なんか怖くはない。怪物だって追い払いながら生きていく!」
レントも続いた。しかし、能力者ではない一般人の村人たちは渋った顔をしていた。
「でも、俺らは……こんな環境で生き残る自信は…」
「責任は俺たちが取る!俺ら能力者がお前たちを全力で守る!」
レントはそう言い切った。
『だがしかし、望みは薄い。その赤ん坊を使い地下へー』
そのエレメントのセリフは最後まで続かなかった。
「お前、本当は自分が助かりたいだけなんじゃないのか?」
レントの言葉がエレメントに刺さる。
『そ、そんなことは決してありえない!私は人類のために罪を償ってきたはずだ!』
「確かにそれはそうだ。でもそれはお前のエゴだ。お前のおかげで人類の大半は助かったのかもしれんが、それと同じ数の人間に大きな痛みを残している。そして此の期に及んで、バークの子供を利用しようとするのか。やはりお前は我々の敵だ。二度とその面を見せるな。」
レントはそう吐き捨てると、バークを背負い、仲間を率いて歩き出した。エレメントの視界から彼らが消えるまで、レントは一度もこちらを振り返らなかった。
「こうして、我々の先祖はこの地上という名の地獄を生き抜くことを選んだ。全て、エレメントのせいでな。あいつは罪滅ぼしと言いながら、自分で破壊した世界を中途半端に救うことしかできなかった。俺が知る地球の歴史はここまでだ。」
ローレンは長い時間の語りに疲れたのか、その場に座り込んだ。
「ここまで話せば俺の目的はわかるだろ?イクタ。」
「……エレメントへの復讐か?」
「半分正解だ。俺の目的はエレメントだけではない。我が先祖を残して地下へ逃げた臆病で卑怯な人類全てだ。俺はエレメントと地下の人類全てを抹殺する。探していたエレメントが突然姿を現したんだからな。俺の代でその目的が果たされそうでよかったよ。」
ローレンは笑顔で答えた。
「……本当に、それがお前の先祖が望む結果なのか?」
「さぁな。だが、俺が望む最高の未来に間違いはない。エレメント、何か言いたいことはあるか?」
『…確かにあの時のレントの言葉は真実だ。私は私の行動を勝手に正義と思い込んでいた。自分が犯した罪の大きさもマトモに測れないままな。』
エレメントはそう言った。
「わかっているではないか。なら、おとなしく殺されてくれるか?」
ローレンは重ねて質問した。
『…悪いがそれはできない。私には、私が作った地下世界を責任を持って守る義務がある。君たちが本気なら、私も本気で迎え討たねばならん。150年前の決着をつける覚悟はある。』
エレメントははっきりと答えた。
「お前……。」
イクタは驚いていた。いつも口数の少ないエレメントが、はっきりと言い切ったのだ。
「まぁそう言うことはわかっていた。その方が面白い。」
ローレンは立ち上がった。
「今ここで、決着をつけるか…?」
力を込めるローレン。その姿が、みるみると異形のものへと化していく。
「待って!」
その目前に、突如としてキュリが現れた。ローレンは変身を中断する。
「キュリ、何の用だ。」
「何の用だじゃねーよバカ。今のエレメントには少年の頭脳がある。簡単に倒せるような相手じゃない。それにラザホーも殺されてるのならなお状況が良くねーよ。引くぞ。」
「……まぁいい。お楽しみは後に残しておいてやるか。ついでに現時点でのお前らの未来を教えてやる。」
ローレンはイクタたちに背を向けながら続けた。
「誰1人、地下には帰れない。死を覚悟しておくんだな。」
そう言うと、ローレンはキュリとともに姿を消した。
『イクタ、とりあえず変身するんだ。防護服のない状態で長居すると危険だ。それに、君の仲間の様子も気になる、探さなければならない。』
「……そうだな。俺の地上に来た目的は、あいつのおかげで果たせた。あとは、IRISが地上に来た目的を果たさなければならない。ケミスト!エレメントーー!」
イクタはミキサーを掲げて、ウルトラマンエレメントへと変身した。エレメントは両腕をまっすぐに空へと伸ばすと、シュワッという掛け声とともに飛び立った。
続く。