第12話「再会」〜甲獣ビードル、甲獣王コーレス、地龍グラド、地の覇獣グランガオウ登場〜
ズドドドドド…という地響きが森を揺らす。突然現れた謎の巨大な影により、ビードルの群れを追っていた怪獣が吹き飛ばされた衝撃音だ。
『コガァァァァァァ!』
謎の陰から発せられたのであろう唸り声が、空気を振動させる。
「こちらオリバー!新たに怪獣の出現を確認!ビードルそっくりの怪獣です!」
その怪獣は、ビードルよりもふた回り大きく、長く立派な角を持っていた。
「くそっ、地上が危険なことは覚悟していたが、まさかここまでとは…」
トキエダが舌打ちをする。こう次から次へと怪獣が現れるのでは、いよいよ生きて帰れるかどうかが怪しくなる。
「しかし奴はビードルを追っていた怪獣を攻撃した!うまくいけば、互いに戦わせ、その間にこの森を脱出できるかもしれん!いや、それだけじゃない。この森での任務続行だって可能だ!」
エドガー隊員が言った。
「うむ…とにかく、今はこの巨大怪獣同士をぶつける他ない。その後は安全な距離を取り、巻き込まれないようにするんだ。そしてしばらく見守り、勢いのある方に加勢し、片方を撃破。その後に疲弊したもう片方を撃破、この作戦でいこう。プランCだ。」
トキエダが冷静に指示を出した。
「了解!では我々が誘導を…」
と、4機ほどのアイリスバードが進路を変えたその時だった。虫のような姿をした怪獣が、起き上がった四足歩行型へと突っ込んで行ったのだ。大きく伸びた三本の角でその巨体を抱え上げ、自由を奪うと、羽を広げ、空高く飛んだ。さらに、そこから地上へ向かって急降下し、大ダメージを与える。
『ガアァァァァァァァァ』
大型四足歩行が大きく悲鳴をあげた。
「…どうやら、ハナから戦う気満々のようですね。」
「あぁ助かるぜ。無駄な動きをしなくて済む。総員、距離を取れ!巻き込まれるなよ!」
「了解!」
アイリスバードが飛散していく。その間、四足歩行の怪獣は再び起き上がると、大きく口を開けた。背中にある背びれのようなものが、赤色に変色されていく。次の瞬間、眩い光線を吐いた。これが奴の得意技のようだ。一筋の赤い閃光が虫型の怪獣を襲う。だが少し狙いが外れたのか、左に逸れ、ビードルの群れを直撃した。ビードルたちの悲鳴が聞こえる。
「あぁ!ビードルちゃんたちが!」
同じくキャサリン隊員も嘆く。虫型の怪獣は、直撃を免れホッとしたのかと思いきや、なにやら怒声のような咆哮を上げ、四足歩行型に突撃して行った。巨大怪獣が再び交錯する。
「もしかしたらこの怪獣、ビードルたちを守っている可能性があります。」
クワハラ隊員が言った。
「確かに、同じ虫のフォルムだしな。ご立派な角も生えてるし、もしかしたらこの森の王様的な怪獣だったり。」
トキエダも同調した。
「なら、あの怪獣は甲獣王コーレスという名前にしましょう!ビードルたち甲虫の怪獣バージョン、甲獣の王様で、コーカサスとヘラクレスを混ぜ合わせたみたいな外見してますし!」
キャサリン隊員が提案した。
「そのコーカサス……とかヘラクレスってのも、カブトムシの仲間なのか?」
ゴームズ隊員が訊ねる。
「なんだ、知らないんですか?コーカサスオオカブトっていうのはー」
「わかったわかった。とりあえずあいつの名前はコーレスだ。それでいいな?」
トキエダがキャサリンの声を遮った。
「じゃあ、もう一体はどうします?やはり名前がないと作戦の時とかにも呼びづらいですよ。」
イケコマがそう言う。
「そうだな。なんか強そうで獰猛な漢字の名前がいいや。ゴームズ、なんかお前っぽいし名前つけろ。」
「俺っぽいってどういうことっすか…?まぁいいでしょう。そうですね……背びれがあって火のような光線を吐きますし、地を這うドラゴン、地龍グラドってのはどうでしょう?」
「ほう。悪くはないな。よし、あいつの名前はグラドだ。」
IRISの名付けが終わる頃、コーレス優勢だった戦いに起点が訪れようとしていた。グラドがコーレスの体当たりをかわすため、地中へと潜ったのだ。グラドを見失い、辺りを見渡すコーレスの後方から再び浮上したグラドが、赤い光線を放った。今度はコーレスの背中を直撃する。
『コガァァァァァァァ…』
さすがに強烈だったのか、その場に崩れてしまうコーレス。
「おいおい、森の王者の方がやばいぞ。」
「隊長、どうしましょう?」
「慌てるな。…でもそうだな。もしかしたら、コーレスに加勢し、奴に我々が敵ではないことをアピールできれば、奴がこの森で活動するにはこれ以上にない守護神となりうる可能性もある。」
トキエダはそう言った。
「いやいや、あいつらには言葉が通じない。そんなに上手くいくわけがないだろう。」
エドガーが呆れたように言った。
「ですが獣は本性で動きます。今はグラドが明らかに敵であるために交戦しているのでしょう。もし、我々が味方であることを示唆すれば、本性で協力してくれる可能性は存在します。」
クワハラ隊員がエドガーに反論する。
「むむぅ…だが相手は巨大怪獣、やはり危険だ。」
エドガーの考えは変わらないようだ。
「まぁ何であれ、我々にはもうしばらく、見守ることしかできそうにないようだな。」
トキエダのその言葉で、このちょっとした論争は終わった。森での怪獣バトルは続いている。
青い空を横切り飛行する大きな影があった。ウルトラマンエレメントである。
「探すって言ったって、まず俺たちが今どこにいるかもわからないのにどうする気だ?」
イクタがエレメントに訊ねる。
『そうだな。まずエレメントブースターを使いネイチャーモードへ変身するのだ。自然の力を操り、場所を探ることができる。』
エレメントが短く答えた。
「相変わらず便利な体だな、ウルトラマンってのは。」
とぼやきながら、イクタは右腕のエレメントブースターを掲げた。
『デュアルケミストリウム!ネイチャーエレメント!!』
エレメントの体に緑色に光るストライブが走る。強化形態ネイチャーエレメントだ。
「そういえば、お前まだ隠してることあるだろ?ローレンって野郎の話だけでは納得できない部分もあるぞ。」
『あぁ、その通りだ。だが話せば長くなる。まずはIRISと合流し、戦闘態勢を整えてからだ。実際、君と私がいない状態では、いくら精鋭部隊とはいえど、危険な状況が続いているはずだ。』
「まぁ、そうだな。仕方ない、今はお前の話より、みんなの安全の確保が先だ。」
エレメントはさらに加速し、青空を横切って行った。
そよ風が、乾いた砂を巻き上げる砂漠地帯。ここに、1人の男の体が転がっていた。
「派手にやられたようですな、ラザホー殿。」
その隣に立っていたのはダームであった。ラザホーは、ダームの呼びかけにわずかに反応したようだが、既に虫の息である。そこに、ローレンとキュリが現れた。キュリの空間移動能力である。
「容体はどうだ?」
ローレンが訊ねる。
「えぇ、これはもうダメでしょう。惜しい戦力を失いましたなぁ。」
ダームはそう答えた。
「うむ。怪獣兵器を生み出せるのはこいつだけだ。もう新規に怪獣兵器を作ることは叶わないな。」
ローレンも腕を組んだ。
「しかしローレン殿、流石にこの男、タダでは死なないようですぞ。」
ダームは、ラザホーのローブのポケットから、一つの弾丸を拾い上げた。それをローレンに手渡す
「…あいつ…まだこんなものを隠していたのか…。これを使えばエレメントなど敵ではないはずだが、なぜ出し惜しみなんかしたのだ。」
ローレンは弾丸を見つめながら言った。
「おそらく、自身での制御は不可能と察したのでしょう。彼は兵器は作れますが、怪獣を自在に操れるわけではない。私と違いまして。」
「ならばダーム、お前ならこれを操れるというのか?」
「もちろんでございます。怪獣の身体を自在に操るのが、私の力ですゆえ。この『地の覇獣グランガオウ』も例外ではございません。」
ダームは自身たっぷりにそう答えた。
「グランガオウ、俺ですら敵に回したくはない怪獣だ。この地球で最強怪獣といっても過言ではなかろう。よし、これを使って、この地上にいる場違いな地下人類、そしてエレメントを殺せ。」
「御意。では、お任せを。」
ダームはラザホーの持っていたグレネードランチャーのような銃に装填し、近くに向けて発射した。着弾点が大きく光、稲妻が落ちたような轟音が鳴り響く。その場に、体長役65メートルはあるであろう巨大な四足歩行の怪獣が現れた。凶悪な顔つき、そして長く鋭い無数の牙、まるで岩山のような胴体、そしてたくましく太い足。いたるところに棘の生えたふと長い尻尾。どれを取っても、これが強そうに見えないわけがない。
「ラザホーのやつ、いつの間にこのレベルの怪獣を兵器に閉じ込めていたのだ。下手すればその過程で死んでいたぞ。」
ローレンは改めて驚いていた。
「よっこらしょ。」
ダームはグランガオウの頭上に腰掛けると、その杖を振るった。グランガオウの瞳が、黄色から紫色に変色する。
「トランスモードに移行しました。では、行ってきます。」
ダームが杖を振るうと、それを合図に、グランガオウは歩き始めた。
「…それで?あんたの目には今何が見えているの?」
キュリが、ダームの姿が見えなくなってからローレンに訊ねた。
「さぁな。どうせイクタがいるのだ、あいつの前では長期的な未来予知は意味をなさない。」
「まぁ確かに。でも短期的な未来はわかるんでしょ?」
「あぁ。あいつが能力を使って俺の未来を書き換えることにより、その予知が崩れてきたのがこれまでの流れだ。だが、あいつの上書きが間に合わない程度の短時間予知なら可能だ。」
「そんなの、役に立つの?」
キュリは呆れたように言った。
「たつ。この微妙な境界線が、あいつにとっては致命的なものになる。今にわかる。」
そう言うと、ローレンはローブのマントを翻し、ダームとは逆方向に歩き出した。
「どこに行くんだよ?」
「敵の兵隊どもはダームに任せる。俺たちはやるべきことが他にある。」
「なんだよ、それって。」
「地下への強襲作戦を立てるのだ。エレメントも兵の精鋭もいない今の地下は、ガラ空きだ。」
「なるほどね。」
2人はアジトへと戻って行った。
森の戦いは、次第に戦況が変わりつつあった。グラドによる地中も駆使した広いレンジからの攻撃に振り回され、コーレスの部が悪くなり始めていたのだ。
「隊長、このままコーレスがやられれば、奴の次の標的は我々になります!この森を捨て避難するか、コーレスに加勢するか、選択肢は二つです!」
オリバーが叫んだ。
「何を言っている!隊長のプランCは優勢な怪獣に加勢するというものだ!グラドに加勢するのが正しい行動のはずだ!」
イケコマは反論した。
「いや、コーレスに加勢しよう。この森はやはり重要な場所だ。簡単に手放すわけにはいかない。いくら、他に目処の立つ場所があったとしてもだ。」
隊長であるトキエダはそう決断した。
「しかし…!」
「これは隊長命令だ。総員!フォーメーションA!コーレスを援護し、グラドを撃破せよ!」
「了解!」
待機状態だったアイリスバードマーク2の編隊は、上空で陣形を組み、グラドへと急襲する。グラドの背に向け、無数のレーザー機銃を発射。大量の火花が散り、グラドが仰け反り悲鳴をあげた。その隙に、コーレスが突進し、グラドを突き飛ばす。
『コガァァァァァァァァ!』
『ガァァァァァァァァァ!』2体の唸り声が森中に響く。
「奴が背びれを光らせた時が、あの必殺光線の合図です!そのような兆候が見られた場合はすぐに離れてください!」
「なら、その背びれを吹っ飛ばす!行くぞ!」
第1波の攻撃を終了した編隊は、グラドを飛び越し、大きく旋回すると、再びグラドの背中を目指し突撃体制に入る。
「総員!ミサイル発射を発射せよ!!」
全19機からミサイルが発射された。次々にミサイルを食らったグラドの背びれは、ついに耐えきれずに吹っ飛んでいった。
「作戦成功!これで奴はもうあの光線を使えない!」
「しかし流石の性能だぜ、アイリスバードマーク2!この戦闘力なら、最初から何も恐れるものはなかったな!」
イケコマが高笑いをする。
「あまり調子にのるなよイケコマ。油断したら即死の世界だぞ、ここは。」
トキエダがけん制を入れた。
「わかってますよ…」
そしてすかさずコーレスが突進した。一方的な攻撃をくらい、ボロボロであったグラドであったが、最後の抵抗か、口を大きく開き始めた。
「なんだ?もう背びれはない、光線を吐けないはずだが…?」
グラドの体全体が、光のウェーブに包まれて行く。
「す、すごいエネルギー数値です!この森が消し飛ぶレベルですよ!?」
オリバーが、コクピットの計測器を見て驚いた。
「なんだって!?」
「どういうことだ!なぜそのレベルの光線が、まだ吐けるというのだ!」
エドガーが訳も分からずに叫んでいた。
「不明です!ですが…!エネルギーの上昇が止まりました!きます!」
「総員退避!上に逃げろ!」
トキエダがそう命令した時だった。その上空から、巨大な影が目にも留まらぬ速さで降ってき他のだ。その物体はグラドの背中に、とんでもない勢いで着地した。同時に、グラドの体が爆発し、破片が散らばった。
「……?」
あっけにとられたIRIS隊員たちとコーレス。土煙が収まり、その物体の正体が確認できた。エレメントであった。
「…おぉ!エレメントか!?」
歓喜の声を上げる隊員たち。
「どういうことだ…?エレメントは地上への移動はできないと言っていた。ならなぜここに…?」
喜ぶ隊員たちの中でトキエダは1人、疑問に思っていた。それに、エレメントの体には見知らぬ緑色の線が走っている。
『危ないところだったようだな、IRISの諸君。』
エレメントはそう口を開いた。その声はまさしく、以前聞いたエレメントの声であった。
『これで無事に再合流を果たせた訳だ。』
エレメントはイクタに語りかける。
「あぁ、それに1人として欠けてない。戦力は地上に出て来た時となんら変わりはない。これなら、黒ローブ共とも戦えるはずだ。」
『いや、戦力的には少しマイナスだ。君の戦闘機が行方不明だからな。』
「あ、忘れてたぜ…。まぁ、なんとかなるだろ。」
イクタは頭をかいた。
「エレメント!うちの隊員を1人、地上で見かけなかったか?イクタという隊員だ!行方が分からなくなっている!」
トキエダが、エレメントに問いかけた。
『うむ、そのイクタという隊員は私が救出した。今は私の体内で休養している。』
「そんなことまでできるのか…。しかしとにかく良かったよ。これで遠征部隊が全員揃い、おまけにエレメントという強力すぎる助っ人まで来た!これならこの遠征作戦、どうにかなりますね!」
「あぁ、我々が拠点の設置やサンプルの回収をしている間、彼に怪獣から身を守ってもらえばいい。」
隊員たちの表情が、みるみる明るくなっていく。
「おいおい、これじゃ、俺はお前なんかに2回も命を救われた設定になってるじゃんか。」
イクタは不遇そうだ。
『この言い訳が1番しっくりくるであろう。現に、誰も違和感を抱いていない。』
「…まぁそうだけど。」
『では私は、次の戦闘に備える。詳しい話は、イクタ本人から聞くといい。』
エレメントは、姿を消した。その跡地に、寝たふりをしたイクタが転がっていた。
「バレないための演技とはわかっていても、ムカつくぜ。あの野郎、覚えとけよ…。」
イクタはエレメントへのささやかな復讐を誓った。
「おいイクタ!どこか怪我とかはないか!?」
「あ、あぁ、大丈夫だ。俺のことは心配すんな。だって俺は俺だしな。」
と、むくりと起き上がりながら答えるイクタ。
「そんなことより、1つ戦果がある。あの黒ローブの1人、ラザホーって男を葬れた…という可能性が高い。」
イクタは曖昧だが、確かな手応えを感じていたのか、トキエダにそう報告した。
「本当か!?」
「あぁ、あいつがもし生きていたとしても、相当な致命傷でしばらくは動けないはずだ。そして間違い無く言えるのは、あいつが操っていたイニシアというあの怪獣は撃破した。ちゃんと俺の手柄だって上に報告しておいてくれよ〜。」
イクタはそう言いながら、トキエダの戦闘機の貨物室に乗り込んでいく。
「おい、それは俺のアイリスバードだぞ?」
「まぁそう言うなって。俺のアイリスバード行方不明でさ。気がつけばエレメントに助けられていたんだよ。なに、トキエダさんの迷惑にはならないからさ。」
「…はぁ、全く、突然単独行動には出るわ、帰ってこないわ、やっと帰って来たかと思えばこの調子やら、お前には振り回されてばかりだ。」
トキエダがため息をついた。
「まぁ何より無事で良かった。最悪の場合を想像しただけでも恐ろしい。情けない話だが、この任務はお前抜きでは遂行不可能だ。あの怪獣との戦闘時には確かに俺もそのような指示を下したが、これからはなるべく単独行動を避けてもらおう。」
「了解。でも敵側の戦力を大きく削ることができたのは不変の事実。完全アウェーなこの地上でも、少しは有利に進められるはずだ。…それでも拭い切れない不安要素は残るが…。」
イクタはトキエダに敵のリーダーのことを報告するかしまいかを迷いながらそう言った。
「当たり前だ。ここは怪獣の巣窟なんだ。今この瞬間だって、安心することはできない。」
トキエダには、イクタの言葉はそのような意味として伝わっていたようだ。イクタはそれ以上何も言わないことにしておいた。要は、敵が次の動きを見せる前に任務を完了させ、地下へと帰還すれば済む話だ。サンプルなどの回収の件については、おそらく既に小隊はある程度遂行しているであろう。だが拠点建設が大きな課題だ。敵は怪獣を駒のように使ってくる可能性が高いため、敵に拠点の位置を知られてしまっては、地下でさらなる計画を練っている間に破壊されることだって有り得る。拠点の設置だけは、さらに慎重に行わなければいけない。
「…なぁトキエダさん、この任務に関して、俺の意見を言わせてもらってもいいか?」
トキエダは、突然真剣な面持ちになったイクタを見て、目を合わせた。
「あぁ。むしろ大歓迎だ。」
「みんながこの森に重点を置いて、これまで色々と試行錯誤して来たことは想像できる。その努力を水の泡にするようなこと言って悪いけど、ここから離れるべきだ。」
「…と、言うと?」
「敵の考えていることを、俺がその立場になって考えてみた。もし俺らが攻め込まれる立場だったら、地下世界に敵の小隊が現れたとして、まずはどう思う?」
イクタはトキエダに問いかける。
「そうだな。まずは偵察か、それに近い目的での侵攻と考えるだろうな。怪獣軍団を引き連れてくるなら話は別だが。」
「俺もそう考えるだろうな。つまりはあいつらも似たようなことを考えている。まさか、いくら地下の精鋭を集めたとしても、この程度の戦力で大規模に地上を取り戻そうとやって来た、とは思わないだろうね。」
「当たり前だろう。こちら側としても、そんな無謀な作戦は組めない。お前は何を言いたい?」
回りくどく話していくイクタに苛立ちを覚えたのか、トキエダの口調が強くなる。
「要するに、だよ。敵側も、まずはこちら側が今後の地上奪還作戦を有利に進める手立てを打ちに来たと考えるはずだ。例えば、地上にIRISの補給基地を建設するとかな。今まさに俺たちがやろうとしていることだ。そこに考えを絞れば、この地上をよく知るあいつらは、その拠点の建設場所候補を片っ端から潰しに来る可能性がある。このように、身を隠しやすい森ならなおさら、敵の標準に真っ先に入るかもしれないってことよ。」
「なるほど。言いたいことはわかった。よって、あいつらが候補から外しそうな場所に移動するってことか。だがそれは自ずと拠点の設置が難しい場所になる。もしくは、身を隠すのが困難な場所だ。それならば、見つからないことを祈り、今すぐここで作業を進める方がいいと思うがな。」
トキエダはイクタの意見を理解した上で、この森での任務続行を提案した。
「確かに地球は広い。片っ端から、とさっき言ったけど、あいつらはどうみても大軍とは思えない。そもそも、この人間が生身で生きることさえ過酷な環境で統率を取ろうと思えば、多くてもその人数は5人だ。いくら怪獣を使用したとしても、それだけじゃ、地球全てをくまなく探すだけで天文学的な時間がかかるかもしれない。けど、この森は危ない。」
「どうして、そう言い切れる?」
「俺とラザホーが戦闘を繰り広げたところからあまり距離が離れていないからだ。隊員が1人でも欠けている未踏の地に踏み込んだ小隊が、その1人を置いて遠くに行くとは考えないだろう。その隊員を待つため、近場の少しでも安全な場所で待機する、とほぼ確証を持っているに違いない。」
「そうか。そう言われると至極簡単なことだな。そんな単純なことにも気づけなかったのか…。」
トキエダは自分を責めるように頭を抱えた。
「無理もないよ。地図さえない場所で、怪獣との戦闘が続けば冷静な判断力を保てと言う方が困難だ。この俺でさえも、多分な。」
それに、あの男のーローレンの話から今推測できること。それは、奴らの仲間の中に1人、未来を予測できるアビリティの継承者がいる恐れがある。だが、それを気にしていたら何も行動が取れない。ここは、少しでも敵の思いつかないような一手を打ち、このまま有利な戦局を保たなければならない。
ここで敵の戦力を改めて分析する必要があるだろう。まずは、あのリーダーであるローレンという男。自身が認めるように、間違いなく能力者だ。そしてあの少女。確かローレンはキュリ、と呼んでいたはずだ。彼女は能力が割れている。エレメントの過去話でも登場した空間移動のアビリティ、あれは確実に彼女に継承されている。そのタネまでほぼ明かされているため、対策は比較的容易に立てられるはずだ。そして撃破したラザホー。彼はその年齢から能力者ではないと断定できるのではあるが、怪人化、さらには巨大化までしてのけた。おそらく、この過酷な環境下で見せた、人間の進化の一部…つまり、奴は天然の放射能の中で限りなくリディオ・アクティブ・ヒューマンに近づいた男ということになる。ローレンも一瞬だけ、怪人化の兆候を見せた。あまり考えたくはないことだが、敵側の人間は全員が『異人態』への変身が可能であると断定した方がいい。
もちろん、敵がまだ温存している戦力は確実に存在する。それが能力者でないことを願うほかない。彼ら2人の他に、何人の能力者がいるのか。その数で地下が勝つか、地上が勝つかが決まる。一番こちらに有利なのは、あの2人の他に能力者が存在しないこと、なのだが…。
「…とにかくだ。ここを動こうぜ。」
イクタが隊員たちに出発の連絡をしようとしたその時だった。ズシン、ズシンという重い音が聞こえて来たのは。ビードルたちは再び怯え、森の奥へと逃げて行ってしまう。
「イクタ、お前が恐れていた事態になったようだぞ…。」
コーレスは、森を守るべく、奮い立つために咆哮したが、やはり先ほどのダメージがまだ残っているのか、グラドに飛びかかった時のような威勢はない。
「野生の怪獣であれば、そりゃ不幸中の幸いなんだが、これはタイミングが良すぎる…。トキエダさん、ここからは隊長さんの仕事だぜ。指示を。」
「…。あぁ。お前はそのままここに乗っていろ。総員!我々は再び戦闘に入る!今回は最初から怪獣との真っ向勝負だ!全ての搭載兵器の安全装置をあらかじめ解除しておくように!ミサイル発射に関する許可はたった今この場で下す。以後各員必要に応じて使用しろ!」
「了解!」
19機の戦闘機が上昇し、木々の上空へ顔を出す。その正面にいたのは、グラドよりもさらに一回り大きい、四足歩行の怪獣だった。
「でかいな…。相当な戦闘能力を有するか、ただの見掛け倒しなのか…。」
「隊長!怪獣の頭上にまたがる人間のような影が確認できます!」
オリバーが報告する。
「…あれは黒いローブ…!イクタ!」
コクピットの扉が開き、貨物室から走って来たイクタがトキエダの横に立つ。
「つまりあの怪獣は敵側の駒だ!こんなところに中途半端な戦力は送り込まないだろう。おそらくは、俺らを本気で潰しにきた可能性がある。」
「拠点の設置など、させる前から俺たちをここで殺す。そのつもりで来たということか。」
「だろうね。もう下手な読み合いは意味がないってことだ。」
「総員!敵はかなり強力だと思われるが怯むな!人類の未来のために戦え!」
トキエダが隊員たちを鼓舞する。
「おおおおおおお!!」
それに応えるように叫ぶ隊員たち。
「攻撃開始!」
アイリスバードたちが、怪獣に突っ込んでいく。
「私の読み通り、ここに身を隠していましたか。自分たちから顔を出して突っ込んでくるとは、探す手間が省けるというものですわ。」
ダームはニヤリと笑った。
イクタは貨物室に戻ると、ミキサーを取り出した。
「今はどれくらいのエネルギーが残っている!?」
『そうだな、あのクラスの怪獣と戦闘するには心許ない残量だ。今下手に変身すれば、逆にIRISに迷惑がかかるだろう。』
「どのくらいの時間があればいい?」
『そうだな。…15分だ。あと15分あれば、いつも通り戦えるだけ回復する。』
「わかった。」
イクタは再びコクピットへと向かった。
「トキエダさん!15分稼げるか!?」
「…よくわからないが、何か考えがあるようだな!わかった!やってみよう!総員!一定の距離を保て!まずは敵の攻撃を避けることに専念しろ!」
怪獣、グランガオウから離れて、控えめな攻撃を続けるIRIS
「おや…思ったより消極的ですね…。こちらの出方を伺っているのか、或いはエレメントの回復待ちか…。どちらにせよ、もしエレメントが現れればあの飛行機どもが邪魔になる。相手から来ないのなら、こちらから行きますよ!」
ダームは杖を振り回す。グランガオウはそれに合わせて、口からとてつもない連射速度でエネルギー弾を吐き出していく。
「避けろ!」
しかし流石に精鋭部隊は、かすり傷さえ負うことなく、避け続けていく。
「…地下で戦った兵士もそこそこでしたが、やはりここにくる兵士のレベルは違うようですな。なら、これなら如何いたす?」
口からの攻撃に加え、岩山のような背中からミサイルのような飛行物体を次々に繰り出すグランガオウ。
「!敵の弾数が多すぎる!避けきれない!磁力シールド展開!」
トキエダの指示がギリギリ間に合ったのか、避けきれなかったぶんの弾をシールドで凌ぎ切ったアイリスバードの編隊。だがー
「隊長!威力が高すぎます!シールドのエネルギー残量が既に半分になりました!」
「何!?たった一撃程度で…?」
凌げるのはあと一発だけ。隊員たちに冷や汗が流れ始める。
「イクタ!15分は無理だ!その時間を待つ間に、俺たちは全滅するぞ!」
トキエダがイクタに向かって叫ぶ。そうしている間にも、グランガオウは次の攻撃の準備に入っていた。
「…次元が違う…。」
クワハラ隊員がそう呟く。
「やられ放題では話にならん!何か決定的な一撃を与えるのだ!例えば、あのミサイルを放つ背中を吹き飛ばすとか、な!」
イケコマが叫ぶ。
「簡単に言ってくれるな!敵側にはあれほどの飛び道具がある。いや、使用していないだけでもっとあるかもしれない。こんな遠くから火力兵器を放ったところで、消し飛ばされてしまう!」
エドガーが反論する。
「かと言って迂闊に接近することもできません。…エレメントがいれば、戦況が少しは好転するかもしれませんが…。」
オリバーが嘆く。
「そういえば、エレメントは何をしている!近くにいるはずだろう!助けてはくれないのか!」
「馬鹿者!これは俺たちIRISの任務の一環だ。最初からエレメント頼りでどうする気だ!」
トキエダの一声で、IRISの内輪揉めは少し収まった。
「…面白くない、ですな。戦う前からこちら側の王手だったとは。」
ダームはつまらなさそうにため息をついた。
「まぁ、いいでしょう。今楽にしてあげましょうか。」
グランガオウはダームの合図で、口を開き、破壊光線を繰り出した。慌てて避けた戦闘機たちだったが、その後ろで森が焼き払われていき、ビードルたちの悲鳴も聞こえてきた。
「ビードルちゃんたちが!」
キャサリンも同じく悲鳴をあげる。
「くそっ!」
トキエダは悔しそうに壁に拳を打ち付ける。しかし、聞こえてきたのはビードルの悲鳴だけではなかった。コーレスの鳴き声だ。
『コガァァァァァァァァァ!』
恐れずにまっすぐにグランガオウへと突進していくコーレス。光線を吐き終え、硬直状態だったグランガオウに体当たりをすると、自慢のツノで抱え上げ、投げ飛ばしたのだ。
「おおっと!?」
バランスを崩すダーム。背中から地面に叩きつけられたグランガオウ。衝撃で、どうやら何門かのミサイル砲台が潰れてしまったようだ。
「おおっ!!いいぞコーレス!」
コーレスの決死の攻撃を見て、再び奮い立った隊員たち。
「あいたたたた…。この歳だと腰に響きますなぁ…。」
よろよろと起き上がったダーム。
「でも嬉しいですよ。どうやら、詰将棋程度には楽しめそうですね…。」
それでもなお、余裕の表情が崩れることはなかった。
コーレスの参戦は、イクタにとっては好都合だった。使える駒は多いほうが良いに決まっている。時間稼ぎには大きく貢献してくれることだろう。
「さて、あれをどう使ったものか…。」
戦闘が始まって10分が経過していた。あと5分待てば、エレメントは動ける。もし撃破が叶わなくとも、戦闘不能に追いやることはできるはずだ。怪獣だって生き物である。戦うための体力、戦意、どちらかさえ失えば、敵はひとまず撤退するしかない。問題は、コーレスがどこまで戦えるのか、だ。傷の具合を見るに、先ほど撃破したグラドという怪獣にかなり体力を削られている様子だ。いくらこの森では最強クラスといえど、あの途轍もないスケールの怪獣相手には、おそらく2分と持たない。今の攻撃だって、硬直状態でなければ返り討ちを喰らっていたに違いない。
ならば、IRISがあの怪獣を硬直状態に持ち込めば良いのだ。火力兵器を直撃させるより、体重のある巨大生物からの攻撃を喰らう方が体力は削られる。エレメント復活までの5分間、この策でいく他ないが、これには犠牲が必要だ。次に破壊光線を放つとなれば、対象は間違いなく邪魔であるコーレスだろう。機動力のない巨大生物にあれを回避するのは不可能。よって、光線の軌道を変えさせなければいけない。気休め程度の残存磁力シールドを張った、アイリスバードを使うことで、だ。時間稼ぎのために1人の命を捨てるか、それを懸念して全滅するか。どちらが有益かは決まっている。トキエダも、この考えには至っているはずだ。
だが、トキエダがそんな非人道的な作戦をとるとは考えられない。しかし今打てる最善の一手はこれしかないのだ。
イクタはコクピットに入ると、トキエダにそのことを切り出そうと声をかけた。
「なぁトキエダさん。言いにくいが作戦が…。」
「イクタか。一つ作戦を思いついたんだが。」
2人の声が重なった。しばらく沈黙が訪れる。
「先に話してくれ。お前の方が頭の回転が速いからな。」
「…この小隊で、俺やトキエダさんの次に腕が立つのは誰?」
「エドガーだろうな。」
トキエダは即答で答えた。
「なら、エドガーさんにしかできない仕事だ。まずは先ほどのように、ある程度敵の飛び道具をかわしながら攻撃、破壊光線の発射を待つ。そしてその光線からコーレスを守るように、シールドを張ったエドガーさんが突っ込み、光線の軌道を変えてもらう。」
「腕の立つエドガーならば、正確に光線のシールドとなり、寸前で脱出することもできるかもしれない。エドガー!聞いていたか!?」
「あぁ、素直に受諾したい話ではないが、脱出の可能性が少しでもあるのなら、俺は乗るぜ。俺は兵士として任務に貢献する。それだけだ。」
イクタの予想に反し、トキエダはあっさり作戦を受け入れ、実行人であるエドガーも快く受諾した。これも、今目の前にいる敵の恐ろしさからなのだろうか。ベテラン兵である彼らには、現状で最善を尽くすことなど、当たり前の行為だったというわけか。
「でも命の保証はできないよ?それでもやってくれるの?」
イクタは念を押す。
「構わん。もし死んだとしても、俺はこの偉大なる地上奪還計画の一環で、初めて地上で死んだ英霊となれる。名誉なことよ。」
「…全く、あんたには頭が上がらないよ。トキエダさん、指示を。」
「おう。総員!もう一度同じ流れで攻撃をする!いいな!?」
「…了解!」
隊員たちはこの作戦に心から賛成、というわけではないだろうが、決断したエドガーの意思を尊重する意も込めて、返事をした。
「…さぁ、どうする?地下の兵士たちよ?」
ダームの乗るグランガオウは、ゆっくりとその重い体を起き上がらせ、IRISを睨んだ。
『ゴォォォォォォォォォォォォ』
空気を揺るがす低い声で吠えたグランガオウ。戦闘機たちは、それを目指して突撃して行った。
続く