ウルトラマンエレメント   作:ネフタリウム光線

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 地下はもう目の前ーそんな撤退中のIRISを襲った、まさかの事態。この危機を乗り越えたところで、地下世界は快く我々の帰還を喜んでくれるのであろうか?物語は、新たな局面を迎えようとしているー


第3章 地下編第2部〜組織と怪獣兵器〜
第14話「帰還」


第14話「帰還」

 

『殺す…!』

身体の一部に既に異人化が進行しているのは、地下世界で確認されている唯一の『リディオ・アクティブ・ヒューマン』であり、地下唯一の武装組織『IRIS』に所属するエリート隊員、イクタ・トシツキであった。

『まずい…ここでイクタが異人化すれば…1人残らず死ぬ…!!』

「何!?」

地上へ遠征していた、IRISの精鋭部隊を襲うのは、絶え間のない地獄、そして絶望。頼れる隊長は戦死し、最強の戦力であるイクタが、今最大の脅威に生まれ変わろうともしている。

「エレメント!どうにかならないのか!?」

『……イクタを信じるほかない!』

 敵の異人化を目撃しているのは、イクタとエレメントだけである。それも、ただの一度だけ。だが、ラザホーは自分の意思で異人態となり、その力も制御できていた。つまりこれは、当事者の意思でコントロールできる力であるはずなのだ。イクタが我に帰ることさえできれば…しかし、やはり最も信頼し、恩人でもあるトキエダの死に直面してしまっているのだ、そう簡単に我に帰れるはずもない。

 思い返せば、ローレンの持ちかけた取引はイクタが戦闘で疲弊し、仲間の死からも離れ、精神も安定している中で行われた。そして、彼らは早々に瀕死の仲間を救出し、住処へと帰還している。それに対して我々は、まだ地上にいるどころか、ここに来て全滅の可能性さえ生まれた。今のこの状況は、ローレンの思惑通りの展開になっていると言っても過言ではないだろう。半年の休戦を約束したが、それまでに、こうして彼ら精鋭部隊が全滅してしまえば、地下への侵攻は容易になるばかりか、カプセルを研究される危険性も消え去り、もういつ取引を破棄されようとも、こちら側からは何も手が出せないという、完全体制を整えることができることになるのだ。

 この事から推測するに、未来を読むというアビリティはローレンに引き継がれていると見て間違いないだろう。IRISが地上に現れたその瞬間から、いや、もっと前から、彼には圧倒的勝利のビジョンが見えていたという事だ。

 この戦いは、まぎれもなくIRISの大敗北に終わった。これほどまでに屈辱的な敗北があるのか。自身にもっと力があれば、結果は変わっていたかもしれない。エレメントは、自分自身を責めることしかできなかった。

「…総員、アイリスリボルバーを抜け。」

残っている6人の隊員たちにそう指示を出したイケコマ。

「イ、イケコマさん!相手はイクタですよ!」

キャサリンは指示に従えない様子だ。他の隊員も同じようなことを思ったのか、なかなか銃を抜けないでいた。

「わかっておる!だが!我々は地下の平和を守るIRISだ!地下の脅威になるのなら、立ち向かう!それが我々の使命だ!」

大きな声で気を張るイケコマの銃を握る手も震えていた。おそらく、自らをも鼓舞しようとしているのだろう。

『いや…その手はありかもしれないな。』

エレメントが呟いた。

「…どういうことだ?」

『弾丸の一発でも浴びれば、目を覚ますかもしれない。強引なやり方だが、悠長なことは言ってられないだろう。』

「なるほど……いや、まぁ、俺もそういう目的でな、お前らに指示を出したんだよ。」

慌てて話すイケコマ。

「嘘でしょ……でもまぁ、ここは俺に任せてください。射撃の腕なら、イクタの次ですよ俺は。」

オリバーが銃を抜いた。

『致命傷は避けろ。使う弾丸は電撃弾だ。』

「わかってます。許せ、イクタ!」

オリバーは銃を構え、照準を合わせると、引き金を引いた。バリバリバリッという音を立て、弾丸がイクタへと迫る。イクタの腕に着弾すると、電気ショックがイクタの身体を駆け巡った。

『……!』イクタは気を失ったのか、その場にドサっと倒れた。異人化が止まったのか、身体が元の姿へと戻っていく。

「……ふぅ。どうにかなりましたね。」

「うむ。幸いなことに、俺たちの乗って来たアイリスバードはまだ動ける。燃料も足りているしな。貨物室へ遺体を運んでくれ。そして砂を撤去するぞ。特に、エンジン付近は念入りな。」

イケコマが指示を出していく。やはりトキエダと同じ小隊で長らく死線を掻い潜って来た歴戦の隊員だ。そのトキエダたちが目の前で戦死している状況から目を逸らさず、的確に指示を出していく。この男にも、部隊を率いる才能があるのかもしれない。

「それと、詳しい被害報告をまとめておいてくれ。地下に帰還したら、まずはそれを本部長に通達しなければならない。まぁ、20あったアイリスバードが、たったの1機で帰ってくるんじゃ、みんな度肝を抜かれるな…。悪い意味で。」

「あれだけの大金を使い、あれだけの市民の期待と信頼を背負って、この大失敗。俺たち、責任問われてクビかもしれませんね。」

ゴームズがため息を吐いた。

「俺たちがクビになるようなことになる前に、まずは本部長が辞職に追い込まれるだろう。最悪の場合、組織そのものが解散だ。改めて自覚しなければならないが、我々は、そのレベルの失態を犯した。敵の規模が想定外、そんなものは言い訳にはならない。それが、任務というものだ。」イケコマは厳しい顔をしていた。これから、我々を待ち受けるのはどのような未来なのだろうか。隊員やその家族は市民からの厳しい弾圧や迫害も覚悟しなければいけない。この事をめぐっての内戦の勃発も覚悟しなければいけない。人類は、地下へと侵食している放射能での絶滅を待つ前に、互いに殺し合っての絶滅を果たすかもしれない。地上だろうが、地下だろうが、人間は同じ過ちを繰り返すだけの、悲しい生物なのだ。

「砂の撤去作業と、簡単な修理作業が完了しました。気休め程度の修理ですが、基地に帰還する程度の飛行ならば、問題なく可能です。」

しばらくして、クワハラ隊員がそう報告に来た。

「うむ。では早いところ帰還しよう。また怪獣に襲われるんじゃ、たまったものじゃない。」

イケコマたちはアイリスバードへと乗り込んでいった。廊下の脇には、睡眠薬を飲まされ、安置されているイクタが、布団の上に寝かされていた。

「操縦は俺に任せてくれ。オリバー、君はイクタの見張りだ。またあのような現象が生じれば、電撃弾を放て。」

「了解。」

アイリスバードはエンジンを吹かし、垂直に離陸した。ゆっくりと方向を変えると、砂漠の穴へと向かい、発進した。

 地上遠征、及び地上サンプルの回収、補給基地の設置作戦は、これにて撤退という形で収束した。回収できたサンプルは、計750グラム、うち125グラムの持ち帰りに成功。補給基地や拠点の設置は遂に叶わなかった。物的被害は、アイリスバード19機が破損、飛行不可のため帰還できず。それに伴い、19機の放射能クリーナー及び搭載されていた爆薬などの兵器を失った。人的被害は、死亡6名、行方不明者7名。死亡者には小隊の長であるトキエダが含まれている。

 戦果としては、驚異的な怪獣である『天の覇獣イニシア』の撃破。黒ローブの1人ラザホーを殺害、そして怪獣兵器である小型カプセルの入手。ただこれだけではあるが、覇獣の撃破と、おそらく少数規模の組織である黒ローブから、1人を除去することができた。大敗北に変わりはないが、これは大きな結果とも言えるだろう。特に、取引によって手に入れた怪獣兵器は、今後のIRISの科学力、戦力に大きく貢献するであろう貴重な財産となった。もちろん、組織が存続すればの話ではあるが。この結果をどう捉えるのかは、本部長と市民に委ねられている。

 

 地下トンネルを潜り抜け、アイリスバードは、地下世界へと帰還した。あれから1週間と経っていないのに、とても懐かしく感じる光景だ。青空や太陽ではなく、天井に張りつめられたLEDライトで生み出す人工的な日光も、こうして見てみると悪くはない。そんなアイリスバードの元に、すぐに通信が入ってきた。

「こちら本部管制塔!そちらの機体を確認した!応答頼む!」

「こちら地上遠征部隊のイケコマだ。本部への誘導を願いたい。」

「了解。他の機も一緒に誘導しよう。遅れて来ているのか?」

管制塔からの問いかけに、しばらく答えきれずにいるイケコマ。しばらくの間静寂が訪れる。

「どうした?イケコマ隊員、聞こえているか?応答頼む。」

「…あ、あぁ聞こえている。すまない。帰還したのは…この機だけだ。」

イケコマは自分を落ち着かせて発言した。わかっていても、この結果を報告するには相当な勇気が必要だ。

「…それはどういう…?」

管制塔もドタついてきたのか、通信機の向こうからは、この男の声だけでなく、後ろで騒ついているスタッフたちの声も聞こえてきた。

「…全ては、本部に帰還後報告する。まずは、誘導を頼む…。」

「…わかった。」

スタッフもただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、それ以上は何も追及しなかった。

 こうして、無事に本部基地の滑走路へとたどり着いたアイリスバード。その元に、本部長を含めた本部の首脳陣が駆け寄ってくる。

「一体どういういことだ!?なぜ1機だけしかいない!?」

慌てた様子のこの初老の男が、本部長であるジェイミー・ルイーズだ。

「……」

隊員たちは、誰1人としてその口を開くことができなかった。

「…今から、緊急のIRIS世界会議を開くことは可能ですか?」

イケコマが切り出す。

「君たちの戦闘機を確認した段階で、もう各支部の支部長たちには連絡済みだ。あと3時間も経てば、会議も始められるはずだ。その場で、きっちりと説明してもらおう。」

本部長は、この事態を深刻に考えている様子であるかと聞かれれば、そうではないようにも見えた。おそらく、都合の良い妄想でもしているのだろう。例えば、地上に基地を建設することに成功し、そのことを、こうして我々に報告に向かわせた、とか。

 確かに、こちらが待つ側の立場であれば、そうあってほしいと願うであろう。隊員たちは、もはや結果を報告することそのものが罪なのではないのかと考え始めていた。

 だが、会議までは3時間もある。その間に、この機体に積んである遺体を隠し通すことはできないだろう。どのみち報告しなければならない事案だ。イケコマは、意を決して本部長に話しかけた。

「本部長!…その、会議の前にお耳に入れておかなければならない話があります!」

「……何かね?」

イケコマの声を聞き、少し不安そうな顔を見せる本部長。

「……我が…我が小隊は!隊長であるトキエダをはじめ、13名の勇気ある隊員を失いました!!補給用の拠点を設置することも叶いませんでした!!」

「……そうか…。」

本部長の表情に、目立った変化はなかった。ただ大きく息を吐き、肩をガックリと落とし、その場に座り込んだだけであった。大方、予想はついていたのだろうか。それに対し、その周囲の人々の顔は、真っ青に染まっていた。

「ト、トキエダ隊長が戦死……?」

「なんということだ…!」

中には文字通り腰を抜かし、その場にガクンと腰を落とす者までいた。規模がそこまで大きくない遠征計画とはいえ、たったの1週間もせずに引き返してきたのだ。少なくとも良い報告は聞けまいと、ある程度の覚悟はあったのかもしれないが、さすがに、その報告は彼らの予想以上に酷いものだったということだろう。

「わかった。詳しいことは会議で改めて話してもらおう。戦死した隊員たちの遺体などはあるのかね?」

本部長が訊ねた。

「…はい。遺体とは言っても、全てバラバラになっていて、誰が誰だかもわかりませんが…。」

クワハラ隊員とオリバー隊員が、遺体の安置してある布団を2人で抱えて運び出してきた。覆いかぶさっていた白い布をめくると、そこには言葉では表しきれない残酷な光景が広がっていた。

「…!」

本部長たちは思わず目を背けた。その隣で、本部長の秘書が嘔吐する。

「13名のうち、7名は行方不明です。」

イケコマが付け加えた。

「……」

本部長は言葉にならない言葉を発した後、現実を受け入れるように再び視線を遺体に向けると、その前で合掌した。それに続き、取り巻きたちや隊員たちも同じく手を合わせた。皆暫くの間、深く頭を下げていた。

 

 機体の収納や、戦利品のまとめ、会議の準備などを行なっているうちに、あっという間に三時間が経過した。その間に叩き起こされ、目を覚ましたイクタは、1人ボーッと天井を見上げていた。

『少しは落ち着いたか?イクタ?』

イケコマの配慮により、イクタの元へと返されていたエレメントミキサーの中から、エレメントが話しかける。

「…あぁ。イケコマさんたちに聞いたよ。この俺が、怪物みたいになったってな…。」

『覚えていないのか?』

「うん。…でも前向きに捉えるよ。俺の身体を調べ尽くせば、あいつらの秘密も同時にわかるということだ。ローレンは俺らを甘く見過ぎだ。あいつは、自分で自分の首を締めてるんだ。」

イクタは断言した。

『確かに、同意できる。取引のためとはいえ、敵に最高機密であろう怪獣兵器を与え、君の異人化さえ仕組んでいた。おそらく君が異人化し暴走すれば、あの時あの場所で我々が全滅し、全てを無かったことにできると思っていたのだろう。ああ見えてローレンという男は、意外と考えが浅はかな奴かもしれないな。』

自分もその浅はかな心配をしていたことは棚に上げ、エレメントがそう推測した。

「その可能性は出てきた。未だに俺のアビリティについて知らないし、あれはただの馬鹿だ。知っていれば、あんな行動には出ない。だが、あいつのアビリティはおそらく俺たちにとって最も障害となりうるものだ。」

『やはり君も、彼のアビリティは未来予知と思うのか?』

「いや、少し違うな。あれはただ未来が見えるってだけのものじゃない。あれには複雑なカラクリがありそうだ。」

『どういういことだ?』

エレメントがそう訊ねた時だった。イクタの元に、本部のスタッフが駆け寄ってきた。

「イクタ隊員、会議の時間です。」

「あぁ、わかった。今行く。」

イクタはスタッフの後を追うように歩き始めた。

「続きはまた今度だ。」

エレメントの問いに対してそう答えると、ミキサーをポケットの中にしまった。

 

 IRISの緊急世界会議の時間が訪れた。会議室には各支部の支部長に加え、本部長の許可を得ている新聞社、テレビ局などメディア関係者も入室していた。

「ではこれより、緊急会議を行う。本来であればこの会議は機密であるため、メディアに晒すなど到底考えられないものではあるが、今回は地上遠征部隊が帰還し、彼らの任務の結果報告がメインの議題となることから、特別に一部メディアの入室を許している。各支部長等にはご了承願いたい。」

本部長の挨拶から、会議が始まった。

「ではまずは、地上遠征部隊からの報告だ。イケコマ隊員、イクタ隊員、前へ。」

イケコマとイクタが、天井から吊るされているスクリーンの横に立った。

「イクタ隊員はわかるが…その隣の隊員は知らないな…。トキエダ隊長はどうしたのだろうか?」

「あれ…トキエダ隊長ではないのか?」

会議室は瞬く間に騒がしくなった。

「静かに!…では、隊員諸君、報告を。」

「はい。まずは、良い結果から。イクタ。」

イケコマはイクタに任せた。

「今回の遠征で得られたものは大きい。まずは、地上で採取したサンプルだ。」

サンプルの画像がスクリーンに映される。

「植物から、昆虫などの小動物がある。これは現在の地上の生態系を知る手がかりになる、非常に貴重なものだ。」

おおお、と傍聴者たちが嬉しそうな声を上げる。イクタとイケコマは、絶え間のないカメラのフラッシュにさらされる。

「次に、これだ。」

スクリーンが切り替わり、小型のカプセルが映される。

「見覚えのないものだろう。事実、これは地下世界には存在しないものだ。このカプセルの正体こそ、地下に脅威を与えてきた怪獣兵器なのだ。」

再びフラッシュが焚かれる。支部長たちから質問が飛んでくる。

「怪獣兵器を手に入れたというのか!?」

「本当に…ここから怪獣が飛び出すのか!?」

多くの質問があったが、だいたいが同じような内容だ。

「これを手に入れることができた経緯には、敵の組織に大きな被害を与えることができたという背景がある。まず、敵の1人を戦闘により殺害、同時に脅威的な力を持つ怪獣をも撃破。さらに、1人の人間と、1体の怪獣に瀕死のダメージを与えた。その結果として、敵のリーダーから、休戦協定の条件の一つとして、これを渡さざるを得ない状況を生み出した。」

「なるほど。やはり怪獣兵器を操る黒ローブの組織は実在していたのか。」

EGー04地区の支部長エリオットは、まだ心のどこかでその存在を否定いていたようである。

「その、敵の規模というのはどの程度なのかね?そして、休戦協定とは?」

CHー34支部のヤン支部長が訊ねた。

「順を追って説明する。これまで黒ローブと称してきた、謎の組織だが、その人数規模は推測だが多くても10人、現状5人くらいであるとも思える。だが、そのうち最低2人は、俺と同じリディオ・アクティブ・ヒューマンだ。能力も大雑把ではあるが割れている。しかし人数は少なくても、あいつらには地上の強力な怪獣たちという戦闘員がいる。やはり簡単に崩せるような奴らではない。少数のメリットの一つとして、統制が取りやすいのもある。仲間割れを狙うのも厳しいだろうな。」

「そうか…。」

「そして休戦協定というものだが、これは敵側から持ち出してきたものだ。敵は1人の犠牲という人員被害、そして銃という戦闘能力を所持する俺から瀕死の仲間を守るために、持ち出してきたと思われる。その内容だが、半年の間、お互いに地下を、地上を攻め込まない事を約束するものだ。それだけ、相手側に痛手を負わせることができたという裏返しでもある。」

「そんな口約束が、信用できるのか?」

フクハラ支部長の疑問は当然のものだった。この場にいる誰もが、同じ事を思っただろう。

「奴はそのために怪獣兵器まで渡している。もちろん、だからと言って信憑性が増すわけではないが、我々側には、この協定を呑むために良い条件を提示されたと見て良い。無論、万が一に備えて、自動固定砲などの無人兵器を大量生産、配備して警戒態勢は整えなければいけない。」

「だが……これから3ヶ月は十分な資金を出すことができん。それだけ、この計画につぎ込んだからな。最新鋭の戦闘機20機に、放射能クリーナーを弾頭設置型から据え置き型まで多く配備、この出費の分だけを補充するにはかなりの時間が必要だ。」

本部長はそう言った。

「それに、これは組織が現状のまま、運営できればの話だ。そうはいかないことになるかもしれないのだろう?イクタ隊員。」

本部長はそう続けた。つまり、被害の件を話せということだろう。

「ん?どういうことですか本部長?」

再び会場が騒々しくなった。

「続けて俺が話す。えー、今述べたように、今回の遠征は失敗には終わったものの、大きな成果を得ることができた。しかし我々には、同時にこの度の休戦協定をありがたく呑まなければならないのほどの、大きなダメージも残った。」

「回りくどく話すな。何を言いたい?」

苛立ったように声を上げるエリオット支部長。

「では具体的な数字で、今回の遠征で被った被害について説明する。まずは、物的被害だ。我々はアイリスバードマーク2を19機、及びそれらに搭載されていた火力兵器、装置などを失った。全て、戦闘の結果だ。」

メディア関係者に衝撃が走ったのか、彼らのいる場所からザワッという音が聞こえる。

「次に、人員被害だ。我々は敵組織の男の1人と、地球最強の怪獣『地の覇獣グランガオン』との戦闘により、実に13名の隊員の命を失った。」

イクタは構わず、そう続けた。だが、会場の反応は彼の予想に反し、静まり返っていた。おそらく、現状が飲み込めていないのか、それともそれを拒んでいるのか、どちらかであろう。

「…我々精鋭部隊は、その長であるトキエダ隊長を始めとする、13名の若い命を失った。彼らは死の直前まで全力で戦った、誇るべき勇気を持った青年たちであった。生存隊員は、イクタ、クワハラ、イケコマ、オリバー、ゴームズ、そしてキャサリンの以上隊員だ。俺からの報告は以上。」

イクタは壇上から去って行った。

 

「ちょ、ちょっと待て!精鋭部隊が!?IRISでトップレベルの技術や腕を持ったあの隊員たちが、13名も死んだというのか!?」

「しかもトキエダ隊長までが……。IRISが受けた被害は尋常じゃないぞ…。」

「これを市民が知ったらどうなる!?戦果どうこうの前に、大変な事態になるぞ…。」

慌てふためくメディア関係者たち。そこへ、TKー18支部のキヨミズ情報局長が駆け寄ってきた。

「み、みなさん!ひとまず私についてきてください!私はTKー18支部の情報局長キヨミズと申します!」

局長は、彼らを別室へと誘導して行った。おそらく、これからの報道に関する何らかのことを話すのであろうが、とりあえずこの会議室から外に追いやったその行動は褒められるべきものだ。あの局長に、そのような気を使うことができたとは。

 しかし、会場内は次第に騒がしくなるばかりだ。精鋭部隊は、IRISが全世界各地の支部からトップレベルの隊員を総集して結成した小隊だ。これは今までのように支部単位での問題ではなく、世界単位での問題となっている。当然、各支部長は自らが統治する支部から死者を出したという事実を突きつけられたわけである。

「何ということだ…!我が支部のエドガーが死んだというのか!?」

エリオット支部長は怒りで顔を真っ赤にしていた。

「エドガーはな!我が地区では誰もがその名を知る、絶対的な隊員だったのだ!民衆からの信頼も、一般隊員とは格が違うものを寄せられていたのだ!私は、私の地区にどんな顔をして戻り、どんな説明をすればいいのだ!教えてくれ!」

エリオットは会議室の机を蹴り上げた。大きな音が響き、会場は静かになり、視線がエリオットに集中する。

「……ちっ」

エリオットは、手荷物を抱え、退室した。

「そうか…。トキエダは死んだか…。」

フクハラ支部長も、がっくりと肩を落としていた。

「…戦いというのは、どこが勝とうが負けようが、双方の兵士に必ず死人が出る。」

フクハラは、隣にいた司令官に話しかけるように語り出した。

「兵士が戦い、死ぬからこそ、戦いには勝敗という結果が現れる。だが、戦というのはそんなに単純なものじゃあない。その兵士1人1人に家族がいて、友人がいて、大切な人間がいる。1人が死ぬだけで、その何倍という数の人間が悲しみを背負うことになる。司令官、君ならわかるだろう。」

「もちろん。ですが、そんなことをいちいち気にしていたら、戦はできません。」

「その通りだ。それが兵を統制する立場として正しいあり方だろう。ではあるが、市民はどう思う。隊員たちは、隊員であって兵士ではない。今回の遠征の企画が通るまでの過程で、一番の障害となったのは金の問題ではない。市民の反対の声だ。」

「…それは…そうでしたね。」

「本来IRISの役目は、地下で暮らす市民を守ることにある。地上に行くことは、その役割を逸脱したものだと、非難されていたのは覚えているかね?計画当時から存在していた反対の声、そしてこの戦果。要するに、この組織は解散の時を待つだけなんだよ。どれだけの市民が悲しみに暮れ、このIRISへ不信感を抱き始めるのか。もう、結果は見えている。」

フクハラは再びため息をついた。

「しかし支部長!IRISが解散すれば、それこそ地下を守るという役目を果たすことができません!敵や怪獣と戦えるのは、我々だけなのです!」

司令官は力強く言い放った。

「君の言う通りだ。だからだ。この解散の危機を乗り越え、IRISは存続しなければならない。」

『その通りだな。』その会話に割って入ってきたのはエレメントだった。エレメントとはいっても、イクタの腰にぶら下がったエレメントミキサーの中からなのだが。

「…その声は、エレメント…ウルトラマンエレメントかな?」

フクハラが訊ねた。

「…支部長のおっさん、エレメントのこと知ってたのか。」

イクタは、驚いた様子ではなく、平然とした様子で呟いた。

「あぁ、そうだ。その顔を見ると、お前はお前の知りたがっていたことを全て知ったようだな。」

「まぁ、ね。だがそれと引き換えに、トキエダさんが死んじまった。俺が、俺の正体をもう少し早く明かしていたら、こんな結果にはならなかった。全員無事に帰ってこれたんだ。」

『自分を責めるなイクタ!あれは私のせいだ!この忌々しいエネルギー制限さえなければ…!或いは君の指示に従っておけば、もっと言うなら、あの爆発さえ起こさなければ!』

エレメントは戦闘の時の行動を思い返しながら叫んだ。

「自分を責めるなって、そりゃブーメランだよ。」

その会話の輪の中で、唯一、内容が理解できていない様子の人間がいた。司令官である。

「ちょっと待ってくれ、イクタ。なんでお前そんなにエレメントと自然に会話している?そしてなんだ、お前の正体ってのは?」

「あぁ、俺がエレメントに変身するってことだよ。要するに、あんたらが今まで見てきたエレメントは俺だ。」

「……?な、なにぃ!?」

思わず大声で叫んでしまった司令官。視線がこちらに集まってくる。

「おいおい、注目集めたらやばいだろ。静かにしてくれよな。」

「イ、イクタ!なぜそのことをあの場で公表しなかった?我が組織へのダメージを軽減させることができたのかもしれんのだぞ!」

司令官はイクタの耳に顔を近づけ、囁くように訊ねた。

「どうだろうね。逆に、なぜ今までそれを隠蔽してきたのか、公表しておけば被害は食い止められたのではないのか、とか、メディアの好き勝手に言われるぜ?」

「そ、それはそうかもしれんが……!」

「でもね…」

今度はイクタが、顔を司令官の耳に近づけた。

「公表するタイミング次第では、組織存続への大きな決定打になりうる。つまりこれは、諸刃の剣ってわけ。」

「そ、そのタイミングとはいつだ?」

「さぁ?でも、その時は必ずやってくる。俺に任せておいてよ。俺に任せて、困ったことが一度でもあるか?」

「………わかった。元より俺は、戦闘の指揮以外はてんでダメだしな。」

「司令官は話が早くて助かるよ。局長とは大違いだ。」

イクタは司令官から顔を話すと、支部長の方へと向き直した。

「支部長、こんな時に悪いけど、一つだけ頼みがあるんだ。」

「…言ってみろ。」

「俺はサイエンスチームに戻る。これから行う実験には一切口を挟まないで欲しい。できれば、支部長にも知られたくはない機密実験になる。」

「無茶を言うなイクタ!支部長が把握できない実験を、支部でできるわけがあるか!?」

早速司令官が口を挟んだ。

「まぁ待て。いいだろう、それは人類の未来に役立つものなのだろう?」

「もちろん。俺は黒ローブを許さない。あいつらを叩き潰し、地上を手に入れるために欠かせない実験だ。」

「わかった。さて、とりあえず支部に帰るぞ。トキエダたちの追悼式の日程も立てねばならんし、部隊の編成から市民への説明。やることが山のようにできてしまった。」

支部長は立ち上がった。

「了解。」

イクタと司令官は、歩き始めた支部長の後ろを追うように付いて行った。

 

 ローレンたちのアジトは、すっかり静かになっていた。いつもはうるさいくらいであったラザホーの声も、なくなると結構寂しいものだ。ローレンの世話係のような位置付けにあったダームも、瀕死のため治療カプセルに放り込まれている。最低でも2週間はあのままだろう。

「しっかし、やっぱ納得いかねーよ!」

キュリはどうも、イライラしているようだ。

「何が不満だ?」

ローレンは彼女を落ち着かせるように言った。

「休戦の取引は百歩譲ってまぁ良いとして、怪獣兵器まで渡したことだよ!もううちにラザホーはいないんだ!あれが最後のカプセルだっただろ!」

「あぁ、そのことか。」

ローレンはドサっと椅子に腰をかけ、背もたれにもたれた。

「あぁ、そのことか。って何余裕かましてやがんだよ!」

「逆に聞くが、お前は何をそんなことで苛立っている?」

「あんただってわかってるだろ!?地下の科学力は想定以上だった。レジオンを投入した時に既にわかったはずだ。そんな奴らに怪獣兵器なんか渡したら、すぐに複製されるぞ!こっちには操れる怪獣がグランガオンしかいないのに、向こうにはたくさんいまーす!なんて事態になったらどうしてくれる気だ!?」

キュリは早口でまくし立てた。

「落ち着け。むしろそうなれば、こっちの思う壺だ。」

ローレンの言葉は、意外なものだった。

「……どういうことだ?」

「奴らと再び戦う時には、その意味もわかるだろう。俺は疲れた。寝るぞ。」

ローレンはそのまま、すぐに眠りについてしまった。

「……未来を予知した上での行動だったのか……?いや、でもそれはイクタに関する未来だから正確に見通すことができないはず…。ローレン、お前一体何を…?」

キュリの頭では、いくら考えても答えは出なかった。

 

 その地には高度な文明が存在していた。そう、火星である。火星にあるとある大国のホワイトハウスに、各国の要人が集っていた。

「大統領、その後、地球の様子は?」

黄色の肌の男性が訊ねた。

「将主席か。うむ、監視衛星の映像から見るに、地下の人間どもが地上へ出て、怪獣たちと一戦交えたらしいな。」

「ほほう。遂に奴らが地上に…。思ったより早かったですな。どうやら、我々の世代で計画が遂行できそうだ。」

将と呼ばれた男性はニヤリと笑った。

「あぁ。各国準備を急いで欲しい。だが、タイミングが早すぎてもいけない。」

「そのセリフから察するに、まだ『マフレーズ』が完成していないということですかな?完成予定は今月だったはずだが。」

黒人の男性がそう訊ねた。

「そういうことだ。思ったより手こずってな。もうしばらくかかりそうだ。実戦配備となれば、半年はかかる。」

「半年…ですか。また、随分と長くなりましたね。」

「しかし楽しみですな。『ウルトラマンマフレーズ』の完成は…。我々がこの火星で過ごした150年は、全てこの計画のためにあったのだ。つまりその計画が、半年後には実行できるということ。いやはや嬉しいものです。」

将は満面の笑みを浮かべた。

「そうだな。では、もうしばらく地球の監視を続けさせよう。今日は解散だ。」

会議室のような部屋から、要人たちが退室して行った。『ウルトラマンマフレーズ』とは、一体何なのであろうか。どうやら地下人類の敵は、ローレンたちだけではなさそうだ。

 

 

                                                      続く

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