ウルトラマンエレメント   作:ネフタリウム光線

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 戦死した隊員たちの告別式後、イクタ等精鋭部隊の生存隊員には、2週間の休暇を取れとの命令が出た。これから、来たるべき決戦に備えなければいけないイクタは、休暇を快く受け入れることができなかったが、それを逆手に取り動き始めたー


第15話「休暇」

第15話「休暇」

 

 ホームであるTKー18地区へと帰還し、トキエダ等この支部所属隊員の告別式の準備を進めているイクタたち。遺族の方とも既に面会を済ませているが、その時の遺族の方々の反応は、イクタの予想外のものであった。

「……そうですか…。息子はこの仕事が大好きでした。息子もその任務中に、人類の未来のために死ぬことができたのです…。きっと、本望でしたよ。わざわざご連絡くださり、本当にありがとうございます…。」

そう話していたのはトキエダの母であった。厳しい非難を受けると予想していたため、驚きはあったが、面会中はずっと涙を流していた。あの言葉は、本当に本心から述べたものだったのだろうか。我々に気を使って、そのような言葉を選んだかのようにも捉えることができた。だが、やはり親族の想いなのだ。深い詮索などをするなど、無礼にもほどがあるだろう。

 思えば、大きな犠牲を出したレジオン戦でも、多くの遺族の言葉が似たようなものであった。この地区では、それだけの覚悟で隊員になる人間や、またその親族が多いということなのだろう。まるで軍隊のような思い入れだ。しかしそれは嬉しい点でもある。少なくともこの地区は、この組織のあり方や、今回の遠征計画に対して好意的に考えてくれていたということだろう。

 ではあるが、やはり満場一致でそういう意見というわけではない。長らく危険にさらされてきたこの地区だからこそ、脅威を排除し続けてきた我が支部の支持が大きいだけで、世界各地で見れば当たり前ながら、この組織の必要性そのものから疑っている市民は多くいる。

 しかし今は、そのようなことを考えるのは後だ。今考えたところで、死んだ隊員たちが帰ってくるわけではないのだ。まずは、彼らが安らかに眠れるように努めなければならない。

「フクハラ支部長!少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

支部長にそう話しかけたのは、この地区で一番大きな葬儀屋のスタッフだ。

「何かね?」

「恐縮ではございますが、こちらへ…。」

支部長は椅子から腰をあげると、スタッフが案内する方へと歩き出した。まぁ葬儀に関して、一般隊員にはまだ話せない、確認することなどがあるのだろう。

「さて、と。俺はこれからどうすればいいのかねぇ。」

イクタはため息をつくように嘆いた。

『君が今のように落ち込んだり、悩んだりした時には、いつもあのトキエダという男が励ましてくれていたな。』

エレメントが声をかける。

「そうだな。俺には友人と呼べる友人がいないからな。唯一の話し相手だったよ。俺をIRISに入れてくれたのもトキエダさんだったしな。」

『確か、そんな話をしていたな。私も友人は少ない方だった。わずかな人数である心を開いた人間を失う辛さは、よくわかるつもりだ……。』

「そうか。俺たち、似た者同士かもしれんな。まぁ、ここは結構差がついてるがな?」

イクタは自分の頭を指差しながらニヤリと笑った。

『ムムゥ…。君は私に対して好き勝手言ってくれるが、その昔は私も君ほどまでにはいかずとも、それは優秀な科学者として尊敬されていた日々もあったのだぞ?』「過去の自慢話を語る奴は、現在の自分に自信がないという話を聞いたことがあるがな。」

イクタがぼやく。

『…君には勝てないようだ。』

エレメントはミキサーの中で苦笑いを見せた。

 

 それから数日が経ち、隊員たちの告別式が行われた。いつもの白衣ではなく、喪服に身を包んだイクタは、終始会場の隅っこで壁に寄りかかる様に立っていた。

『…やはりこういう儀式は、何度も経験しても嫌なものだ。』

「そりゃ、この場で喜ぶ様な奴は神経疑われるレベルでやばいだろうな。」

イクタは冷たく言った。

『しかし、惜しい人物を失った。彼の指揮力には眼を見張るものがあった。後釜が見つかればのいいのだが、やはり簡単には見つからんだろう。何人たりとも代わりを務めることができないというのは、相当にすごいことだ。改めて、彼という人間の偉大さがわかったよ。』

エレメントは、式に陳列する人々の多さからも、トキエダの人望の高さも再認識している様だ。

「俺にだって、トキエダさんの代わりにはなれない。まぁ、仮に誰か代わりになるような人が出てきたとしても、俺は受け入れないかもな。」

『君のような性格なら、ありえそうなことだ。』

「そんなことより、トキエダさん、前に言っていたよ。こういう事態では、関係者はみんなさも自分だけが悪いかの様に責任を感じて、背負いこむ。だが生き残った者はいつまでもクヨクヨしてないで、死んで行った者たちの分まで、自分に今出来ることをやれってな。」

イクタはレジオン戦後、励ましてくれたトキエダの言葉を思い出しながら語った。

『まぁ、死んで行った者たちへの悲しみが消えることはない。だが、悲しんでいるだけではダメだ。トキエダの言っていたことは、実践するのは難しいが正論だ。でも君なら出来る。そうだろう?』「あったりまえだろ。それを今からやるんだよ。まずは怪獣兵器だ。」

イクタは、音を立てずに会場から去って行った。

 

「休暇!?」

支部長室に呼ばれていた、イクタ、イケコマ、クワハラは支部長からの指示に声を揃えて驚いた。

「そうだ。遠征部隊に参加していた隊員には、本部長の命令により、全世界の支部で2週間の休暇を取ることが義務付けられた。」

支部長はさらに続けた。

「肉体的な疲労に加え…その…なんだ、精神的な疲労もあるだろう。この2週間は当然ながら有給休暇になる。まずは第一線から離れ、身も心もリフレッシュさせてくるのだ。」

「…気遣いは嬉しいけど、言っただろ?やらなきゃいけない事が、サイエンスチームには山ほどあるんだ。休戦期間は半年しかない。いや、敵がいつ約束を破棄するかもわからない。……他の隊員はともかく、俺は休みなんて1日2日でいいよ。」

イクタは訴えた。一刻を争う軍事科学分野の仕事で、2週間の作業ストップはかなりの痛手になる。

「別に、休暇を取るのはうちの支部ではお前たち3人だけだ。エンドウ等に指示して、彼女らの出来る範囲で作業を進めてもらえばいいだろう。」

「そうだぞイクタ。そもそも、お前は働きすぎだ。このIRISは全隊員、スタッフが週休2日制でシフトを組んでいるが、お前はほぼ毎日ここにいるだろ。」

イケコマも、休みを取ることを促してくる。

「そうは言っても、2週間は長すぎだろ。」

「お前にとってはな。俺ら普通の神経の人間には、そのくらいなきゃやってられんわい。」

「俺が普通の神経じゃないとでも言いたいのかよ?イケコマさん。」

睨み合うイクタとイケコマ。

「ま、まぁ。とにかく、家にいればいいんですよ、ね?」

クワハラが仲裁に入る。

「そうだ。IRIS関連の施設に入らなければ、法に触れない限り何をしても良い。」

支部長は、後半を意味深に強調しながらそう言った。

「…なるほど。そういうことか…。ありがとな支部長!」

イクタは礼を言うと、サッと部屋を飛び出して行った。

「…流石に気の変わりようが激しくないですかね?あいつ。」

「まぁ元よりそんな感じのやつだろ。さぁさぁ、君達もとっとと帰宅したまえ。」

「あ、あぁ、ちょっと…」

イケコマとクワハラは、支部長に背中を押され、部屋から追い出された。

「な、なかなか強引な休暇の取らせ方ですね…。」

「そうだな…。」

2人は苦笑いをしながら帰って行った。

 

 イクタはサイエンスチームの研究室を訪れていた。自分のデスクに向かうと、足早に荷物を整理していく。

「あ、チーフ。お疲れ様です。……って何をなさっておられるのでしょうか…?」

イクタの行動を不審がるように訊ねるエンドウ。

「あぁ。俺2週間の休暇……というよりはこの施設への立ち入り禁止令が出たからさ。しばらくこれねぇんだわ。度々留守にして、お前には悪いと思ってるよ。本当にすまん。」

イクタは改まって、エンドウに頭を下げた。

「い、いやいやそんなことないですって!チーフが多忙であることは、みんな重々承知してます。遠征でもお疲れでしょうし、ゆっくり休んで……って、なんでコンピュータとか、デスクのもの全部持って帰ろうとしてるんですか…?」

「決まってるだろ。自宅で作業するんだよ。俺の作業の進行具合とか、過程で生じた問題点や結果はここのメインコンピュータに共有するから、実質俺がこの部屋にいないだけで、他は通常時と変わりないと思ってくれていいぞ。」

イクタはいつも通りの表情で淡々と説明していく。

「ちょちょ、ちょい!それじゃあ休暇の意味ないじゃないですか!?」

「まぁそう言うなよ。自宅にいるんだし、休みたい時には勝手に休むから余計な心配はするな。」

「しかし…!」

「いいかエンドウ。ここには、本部科学班のものよりも充実した研究、実験環境があるんだ。言うなら、俺たちはIRIS軍事の心臓だ。手に入れた怪獣兵器を分析、そしてオリジナルの製作、実戦配備までの段階を迅速に踏むには、俺たちサイエンスチームが必要不可欠なんだ。休暇は必要最小限に抑えなくてはならん。それは部下であるお前達もそうだし、俺だって同じだ。」

イクタはそう言いながら、荷物をまとめると、背中に背負った。

「じゃ、そういうことだ。無論、働きすぎて倒れたら本末転倒だ。俺はそこらへんしっかりわかってるし、さっきも言ったが余計な心配はするな。では、また2週間後だな。バイバイ〜。」

イクタはさっさと退室して行った。

「あ、ちょっと……。はぁ、変わらないわねぇ、チーフも。」

エンドウは諦めたようにため息をついた。

「まぁ良いじゃないですか。実際、イクタさんはオンとオフが結構メリハリついてますし、今まで一度も疲れや病気で倒れたこともありません。心配すべきは、イクタさんに振り回されてる僕らの方ですよ…。」

部下の1人がそう言った。

「それもそうね…。ささ、切り替えて仕事仕事!念願の怪獣兵器を作り上げるのよ!」

エンドウが両手を叩いてパンパンという音を出し、スタッフ達にハッパをかけた。

 

 自宅への帰り道の途中、エレメントはイクタに声をかけた。

『そういえば、君の家に入ったことはないな。』

「まぁ、お前が来てからというもの、忙しくなったからな。ずっと支部で寝泊まりしてたし。」

嫌味たっぷりに呟いたイクタ。

『な、なんかこう…申し訳ない気持ちになるからやめてくれ…。』

「冗談だよ。お前が来る前から、自宅にはあまり帰ってないんだ。なにもないしな。両親の顔だって知らないし、親族がいるわけでもない。友人もいなければ当然彼女なんてものも存在しない。お前、そんな家に帰るのが楽しいと思うか?」

『……君はどこまでも、私と似たような人種のようだ。』

「察するに、あんたも人間だった頃はそんな感じだったということか。」

イクタは苦笑した。

『そうだイクタ。せっかく2週間もの休みをもらったんだ。作業もいいが、少し頼みたいことがある。』

「なんだよ。あんたが俺に願い事なんて珍しいな。」

イクタは目を丸くして驚いた。

『まぁその…なんだ。言い方は変だが、この地下で人々はどのようにして暮らしているのかを知りたいんだ。だからその…、市街地を案内してくれないか?』

「…あんたが作った世界だしな。別にいいけど、俺もそこまで詳しくはないぞ。支部の施設なら、いくらでも案内してやれるが。」

『構わない。私はただ、人々の様子を見ることができればそれでいい。』

「…わかった。作業がキリのいいところまで進んだらな。」

『感謝する。』

そのような会話を交わしているうちに、イクタは自宅であるマンションへと辿り着いた。軽く1年は戻って来ていないだろう。だが、IRISには、ある程度特別な階級になる(イクタの場合、サイエンスチームのチーフという階級がある)と、家に帰れないほど忙しくなる事も増えてくるため、組織のスタッフが一定間隔で掃除などをしてくれるという福利厚生の一環がある。そのため、1年ぶりの帰宅ではあるが、部屋はさほど汚れていない。

 リビングのソファに腰を下ろしたイクタは、その脇に荷物をドサっと置くと、ぐったりと背もたれにもたれた。

「うは〜疲れた。コンピュータとか、色々準備するのは後からだな。」

と、テーブルに置いてあったテレビのリモコンを手にする。

「何か面白い番組でもあってりゃ、暇つぶしにはなるんだが。」

リモコンのスイッチを押した。テレビに電源が入り、液晶画面に映像が流れ出す。ちょうど、昼のニュースの時間帯だったようだ。

「…ですからね、やはり今回IRISが出した損害というものは、かなり大きいんですよ。」

経済評論家、との立て札が置いてあるコメンテーターのような人物がそう語っていた。どうやら、ワイドショーのようである。

「どうやら、ある程度の情報は報道されているようだな。」

『あぁ。どの程度かはわからんが、隠しきれる内容ではないからな。』

「あの局長押しに弱いし、最悪全部喋ってるかもな。」

イクタはキヨミズ情報局長の顔を思い浮かべながら呟いた。

「それでも、IRIS大きな戦果を出しているようですよ。これはこれから再び地上に上がるために、無駄な計画ではなかったという事でしょう?」

今度は軍事評論家がそう言った。なぜこのご時世に、そんな評論家がいるのだろうか。軍といっても、戦闘、戦略兵器を所持している公的組織はIRISしか存在していないのだが。さしずめ、IRISを軍隊とでも呼びたいのだろう。まぁ、大間違いというわけではないし仕方ないか。

「ですが、その代償が大きすぎます。経済的な数字で表すと450億円の損害ですよ?ただの遠征でです。果たして地上とは、そのような損害を出してまで目指すものなのでしょうか?我々人類は、この地下で平和に暮らせておるのです。無理をしてまで、行くところではないでしょう。」

経済評論家はそう述べた。そういえば、この地下へ放射能が到達するまで後50年しかないという事実は公表していなかったな。これは組織存続のためのカードになれるかもしれない。

 しかしワイドショーとは思っていたよりも面白いものだ。テレビを見ているだけで、今の世論というものがよくわかる。やはり大方が、IRISの存在意義を疑い始めているという事だ。そしてこの市民の少数意見を代弁している形の軍事評論家というのも、番組の台本通りに喋っているにすぎないはずだ。要するに、IRIS反対という世論の声を強めるための番組に過ぎないのだろう。

「えぇ、ゲストの皆様、ありがとうございました。では続いてのニュースですが、こちらもIRIS関連のものです。次回のIRIS本部で行われる世界会議では、一般メディア、そして数に制限がございますが一般市民も傍聴可能であるということを、ルイーズ本部長が発表しました。これに関しては、どう思われますか?」

司会がそう進行させた。それは初耳だ。

「そうですねぇ。これはIRISは大きな賭けに出たと思いますよ。」

「と、言いますと?」

「今はほとんどの市民が、IRISの今回の遠征計画、及びその在り方について疑問を持っておるわけです。当然、反対派からの野次などが飛び交うことも予想されます。が、それは同時に、反対派を説得させる大きなチャンスでもあるのです。IRISの今後は、その会議次第と言えますね。」

なるほどその通りだろう。

「そういうことですか。えー、反対の声高まる中、どのような会議を行うのか、注目していきたいところですね。では、続いてのニュースです…」

イクタはIRIS関連の話題が終わったのを確認すると、テレビの電源を切った。

『もういいのか?』

「あぁ。まぁ、大方予想通りってところかな。やっぱり茨の道だぜ。」

『わかりきっていたことだろう。ここは上層部に任せて、やれることをやろう。』

「お前にいちいち言われなくてもわかってるよ。」

イクタはカバンを開けると、デスクから持ち出した道具を、自室の机の上に並べ始めた。ものの10分ほどで、全てのコードをつなぎ、準備を完了させる。

 コンピュータに電源を入れると、それらに繋がれた、見慣れない装置に怪獣兵器である小型カプセルをセットした。

『なんだ?これは?』

すかさずエレメントが訊ねる。

「小型の装置などを解析するもんだ。あんまり使ったことないから、動くか心配だが…。」

しばらくすると、モニター画面にセット完了という文字が現れた。どうやら、ちゃんと稼働してくれるようだ。

「んじゃ、やってみるかねぇ…。」

イクタはカチャカチャと、多くの機械を並列して動かしていく。

「流石に簡単な代物じゃあないな。中央に大きなエネルギー反応があるが、これが怪獣だ。だが、どうやって怪獣をエネルギー体として保存してるんだ?」

『その昔、モンスターをボールに収めて集めるコンピュータゲームが流行ったそうだが、それっぽいのが現実に存在するとはな。』

イクタは頭を掻いた。予想以上に複雑な構造や仕組みをしている。これほどの物となれば、ローレンたちでも製造は容易ではないだろう。特に、イニシアやグランガオンなどといった覇獣クラスを収容するとなるとさらに高度な技術が必要なはずだ。もしかしたら、敵の手駒は想定よりも少ないという可能性まである。

 ならば尚更、この半年でできる限りの怪獣兵器を製造しなければならない。目には目を、怪獣には怪獣をだ。エレメントは強大な力を持つが活動制限がある。対して怪獣は、エネルギー制限がない。もちろん、生物である以上疲れがたまると良いパフォーマンスを発揮することができなくなるが、1体でIRIS隊員数十人以上の戦力になれることは間違いない。

 だが、地上のように採取できる怪獣に制限がないわけではない。地下に迷い込んだ、地上で生き抜くことのできない怪獣しか採取できないというハンデのようなものはあるが、逆にそれだけ制御しやすい戦力が手に入るということだ。

「…そういえば、ラザホーは怪獣兵器を使うとき、何やら銃のようなものに、これを弾丸としてセットし、発射することで使用していたな。」

イクタがふと思い出したように言った。

『あぁ、確かそうだ。もしかしたら、ここから怪獣を出し入れするためのシステムや構造は、銃の方にあるのかもしれん。だが、それは持ち合わせていない。』

確かにローレンも、怪獣兵器を手渡す時に、専用の銃身までは渡せないが、と似たようなニュアンスの発言をしていた。

「いや……まてよ?おい、前にカットフというテロ組織が暴れていたのを覚えているか?」

『カットフ?あぁ、あれか。今も何人かがIRISのリーガライザーの拘置されているはずだな。まぁ、死刑の執行を待つだけだとは思うが。』

カットフとは、IRISを憎む反社会組織だ。以前ラザホーに利用された挙句、ボスを失い、今度こそ壊滅したはずである。

『今更、そんなことを思い出したように話して、どうしたんだ?』

当然の疑問を投げかけるエレメント

「…俺の勘違いかもしれんが…探ってみる価値はある。」

エレメントを無視して、コメカミを弾き、リーガライザーであるオニヤマに通信を飛ばすイクタ。

「はいこちらオニヤマ。……なんだイクタか。お前から通信が入るなんて珍しい。何の用だ?」

「おっちゃん、確かめたいことがあるんだ。15分ほど俺のために時間を割いて欲しいんだが、次はいつ暇が作れる?」

「なんだ?いきなり…。まぁ最近は目立った事件も少ないし、忙しいわけではないが…。急ぎの用か?」

「まぁ、できる限り早い方が嬉しいね。」

「うーむ。」

オニヤマはスケジュールを確認しているのか、しばらく沈黙が続いた。

「いや、良い。これから30分後、会ってやろう。お前は休暇中らしいし、構わないだろう?」

「こっちは良いけど、大丈夫なの?そんないきなり。」

「あぁ。俺くらいの立場になれば、暇な時間を無理やり生み出すこともできるしな。手ぶらで良いのか?」

「持ってきて欲しい資料がある。カットフ事件の時の取り調べの記録や、押収した証拠品類、頼める?」

オニヤマはさらに唸った。IRISの内部関係者とはいえ、支部は支部、関連施設は関連施設である。事件に関する資料を持ち出しても良いのだろうか。

「ちょっと待て、確認を取る。」

オニヤマは近くにいた部下に、司法長官へ連絡を取らせた。司法長官はIRISリーガライザーのトップであり、各支部の関連施設に1人ずつ配置されている。地下世界の法は全てIRISが定め、今でもなお時たまに改正などがされている。司法長官はそれらに関し最高責任者である。

「今確認を取らせた結果だ。地下法第3章の2項目に、IRISに関する、本部長、及び支部長により非公開の命が出されているものは、原則としてIRIS関係者以外に公開してはならないとある。これはIRIS発足時から訂正はされていない。つまり、俺がお前に公開しても大丈夫ということだ。」

「よかった。じゃあ、資料を頼む。俺の家知ってる?関係者以外に漏らさないためには、俺の家がベストだとは思うが。」

「そうだな。だが生憎お前の家の場所は知らない。住所を俺の端末に送ってくれ。すぐに向かう。」

「了解。」

イクタは通信を切った。

『…それで、君は私の質問に答えてくれなかったが、今更そんな話を持ち出して、どうしたのだ?』エレメントが再度訊ねた。

「おっちゃんがきたら話すよ。同じことを二回も三回も話したくはないしね。」

イクタはオニヤマを待つ間、束の間の仮眠をとることにした。

 

 ローレンたちの住処では、ダームがエレメントとやりあって以来に目を覚ました。無論まだ重傷で、治療カプセル内から顔を出したり、起き上がることはできないようだ。

「よぉじじい、生きてたか。」

それに気づいたキュリが声をかける。

「………」

何か口をパクパクとはさせているが、声までは聞き取れない。

「黙って寝ときな。まだ意識が戻ったに過ぎないんだから。ったく、年寄りってのは回復が遅くて困ったもんだぜ。」

 その一方でローレンは、安置されているラザホーの遺体をいじっていた。

「何してるんだ?」

キュリが訊ねる。

「そういえば、こいつの細胞を回収していなかったからな。忘れないうちに。」

「今更そんなことしても、細胞なんてとっくに死んでんだろ?意味あんの?」

「ただの細胞ならな。こいつは右腕に異常発達細胞が埋め込まれてる。困ったことに、こいつは個別に意図的に殺さなければいつまでも生き続けるものだ。」

そう言い終わる頃には、作業が完了したのか、遺体から離れた。

「これで、ラザホーは普通の人間になった。あとは白骨化するだけだな。」

「体の一部分に埋め込まれてるだけで、体全体を腐敗から守れてたってわけか。やっぱ、とんでもない代物だな。」

「あぁ。だが、ただの人間を『異人態』の力を持つ怪人に変貌させることができる、我々の持てる最強の武器とも言える。」

ローレンはスポイドのような装置に収容された、ラザホーの細胞を見つめながら言った。

「リディオ・アビリティ並みの力を持つ能力は得られないが、特に寿命制限もなしに異人として活動できる。ドクターリディオが最終的に生み出したかったのは、ラザホーやダームのような人間だろうな。」

ローレンは呟いた。

「…かもね。幸い、ここにはたくさんの実験用細胞があった。ま、それでも拒絶反応を起こして死んだ奴は多かったけど。」

キュリは幼少期を思い出しながら言った。小さい頃は、ローレンの他にも結構な数の同世代がいた。ローレン以外の子供たちは皆、血の繋がった兄弟であったが。

「当たり前だろう。どんな移植手術にも、拒絶反応くらい発生する。特に放射能に汚染されてる異常細胞なんだ。リスクはでかい。お前は運よく兄弟の中で唯一アビリティを受け継いだ。もしそうでなければ、あいつらのように死んでいたかもしれんな。」

地上に取り残された人間は、当初は僅かに数人しかいなかった。それでもこの劣悪な環境下で、150年も命を繋いできた。その繋ぎ方は、例えるならウミガメのような、多くの命を産み、選ばれたものだけが育っていくといった形式ではあったが。

 だがそれは、地上で生きる人間を少しづつ強くしていった。この地上は放射能汚染により、能力者ではない人間には害でしかないのだが、長い月日により、少しづつ耐性が付いてきたのだ。その証拠に、少しづつ寿命も伸びてきているのか、ラザホーも50半ばまでは生きたし、ダームはもう65に近い。異常細胞移植による恩恵もあるのではあろうが、それだけではないはずだ。

 地上人が、なぜ危険を冒してその身に異常細胞を埋め込み始めたのか。それは単に、いつか地下への復讐を叶えるためである。

「しかし、ここにある実験用細胞も、もう残り少なくなってきている。…だが敵の優秀な兵士はある程度削ぐことができたし、兵団そのものが潰れる可能性もある。どんな手を使ってでも、俺らの代で、この復讐を終わらせるしかない。」

そう誓ったローレンの足元には、割れたガラス瓶が落ちていた。随分と前に割れてそのまま放置されているように見える。その瓶の側面には「Dr.Ladio」と表記されたラベルが貼られてあった。

 

 その頃火星では『ウルトラマンマフレーズ』に関する科学実験が行われていた。従来の人間兵器を凌駕する存在なのだと、大統領は豪語しているが、その分当然だがリスクも高い。幸い『適合者』は1人も死人を出しておらず、計画当初から同じ人間での実験が続いているのだが、例えば地下施設で行われた火力実験では、施設が吹き飛び、辺り一帯の大地が陥没。優秀な科学者の多くが犠牲になった。エネルギー制御実験でも、研究施設が灰と化すなど、大変な損害を出し続けている恐ろしい代物だ。それらのせいで、完成予定日が大幅に延長されている。

 だがそれでも、開発をやめられない理由が彼らにはあった。

「ええい!マフレーズの完成はまだか!?」

流石にこれ以上完成が遅れるようでは、当然他国との合同訓練や、戦略兵器としての実戦配備まで遅れる。半年で作戦遂行可能なレベルにする、と公の場で発言した以上、これでは他国に示しがつかない。大統領は焦っていた。

「如何せんパワーがでかすぎます。彼を上手く扱える施設が存在しません。あと2つほど、段階を踏まなければいけないテストがあるのですが、場所が見つからないのです。」

研究者のリーダーらしき人物が嘆いた。

「嬉しい誤算といったところなのか?それは。ならば少しパワーを落とせ。」

「エネルギーの供給量をいじれば、パワーは落とせますが、大統領は、右に出るものがない超兵器を作れとおっしゃいました。実験可能なレベルまで削ると、瞬間破壊力は核兵器に劣ることになります。」

「瞬間とかそんなことはどうでもいい!結果的に地球をあの卑しく、汚く、犯罪者予備軍であった人間の子孫どもから取り返すのが目的なのだ!地球丸々消し飛ぶようなパワーでは、本末転倒であろう!パワーを落とすのだ!」

大統領は大声で命令を下した。科学者たちは、慌てて作業に取り掛かっていく。

「無能どもめ。そうだ、マフレーズに会わせろ。今なら、少しくらい時間の余裕もあろう。」

「はい。エネルギー調整には15分ほどかかりますので、そのくらいなら。こちらへ。」

スタッフの1人が、大統領を奥へと案内していく。最奥部のフロアには、身体に無数のコードを繋がれた、上半身裸の少年が、機械と一体化している大きな台座に座っていた。

「やぁ、マフレーズ。気分はどうだ?」

大統領が笑顔で話しかける。

「…悪くない。」

マフレーズは機械のように冷たい声で、反射的に答えた。

「ならいい。いいか?お前には我々優秀な民族である地球人類の期待や願いがかかっているのだ。これからも辛いことが多くあるだろうが、乗り越えて欲しいところだ。」

「…わかっている。私は選ばれた者。救世主となる者。そして忌々しい悪の民族の歴史に終止符を打つ者。」

機械的に、処理を行うように淡々と述べるマフレーズ。

「その通りだ。お前は全知全能の神、ウルトラマンマフレーズだ。特別な存在なのだ。これからも今まで以上に、自分にそう言い聞かせていけ。」

大統領はそう言い終えると、マフレーズから数歩離れた。

「承知。」

マフレーズは短く答えると、目を閉じ、身体の活動を停止させた。『スリープモード』だ。大量のエネルギーを消費する過酷な実験の数々に耐えるため、自己学習により身につけた休養法らしい。大統領は、彼がスリープモードに移行したことを確認すると、部屋を退室していった。

 

 オニヤマは時間に厳しい男だ。部下へは1秒の遅刻も許さないが、自身も生まれてこのかた遅刻などという行為をしたことがない。イクタには30分後に会う約束をしていたが、イクタの自宅には、その約束の時間の5分前に姿を見せた。

「俺だ。オニヤマだ。」

ドアをノックしながら、声を発するオニヤマ。ドアがガチャリと開く。

「流石に早かったね。20分程度しか寝れてないよ。」

イクタがぼやいた。

「なんだ、寝ていたのか。これから客が来るというのに相変わらずマイペースなやつだな。」

オニヤマは呆れたように言い放つと、そのままイクタの部屋へと足を進める。

「それで、なんで今更あの事件の資料を欲しがるわけだ?」

彼はそうは訊ねた。エレメントと全く同じような内容の質問だ。まぁ当然の疑問であろう。

「…俺らサイエンスチームは、戦利品である怪獣兵器を研究して、こちらの戦力にしようと考えている。だが、弾丸も特殊な構造であるため、これを発射する装置も、特別なものがあるんだろうと思い込んでいたが。…がー」

「が?」

「あのテロ事件の時も、怪獣兵器による怪獣が現れた。覚えているか?」

「あぁ、ボムレット、とかいう名前の。今でもそっちの施設で研究中なんじゃないか?」

過去を思い出しながらそう答える。

「そうだ。俺たちのオリジナルの怪獣兵器第一号候補に挙がっている。まぁそれは今は置いておいて、その後、おっちゃんは下っ端どもに取り調べをしていたはずだ。」

「あぁそうだ。それが何かー」

そう言いかけてハッと気づいた。

「そういえば、あいつら、自身で所持していた銃で、その怪獣兵器とやらを発射していたはずだ。記録も残っている。」

手持ちの資料を取り出し、取り調べの記録、そして証拠写真などを確認する。

「やはりな。あいつらの証言を信じるのなら、少なくとも、このモデルの銃でなら怪獣兵器を扱えるということだ。」

オニヤマは、写真に写っている大型口径の突撃銃を指差した。

「それならIRISも所持しているな。…あらゆる仮説を立証するには実験しかない。だが運悪く俺は休暇中で、怪獣兵器は俺が持っている。おっちゃんに面倒ふっかけて悪いけど、これを俺の部下まで届けてくれないか?」

イクタはオニヤマに怪獣兵器を渡す。

「……ふん、相変わらず図々しい奴だ。」

呆れたように笑う強面の男。失礼だが、笑顔はあまり似合わない。

「だがまぁいい。明日には、向こうに届いているだろう。」

「サンキュー。助かるぜ。」

「用は済んだようだな?なら、俺は戻るぞ。」

オニヤマはくるりとイクタに背を向けると、カバンを持ち上げ、部屋を出て行こうとした。

「あぁ、わざわざ悪かったな。」

イクタも礼を述べると、彼を見送った。退室し、扉が閉まったところで、エレメントミキサーがイクタのポケットから飛び出し、イクタの顔の前に現れた。

『なるほど、そういうことだったか。だが、あのカプセルを渡しても良かったのか?まだ解析中だろう?』

「まぁ、よくよく考えれば、研究室のやつらに任せた方が早い気がするし、コンピュータで情報も共有できる。昼間は焦りすぎて、そんなことにも気づかなかったというわけだ。」

イクタは自身に呆れたのか、そう嘆いた。

『でも良いじゃないか。結果的に、怪獣兵器に関することが一歩前進したのだ。そんなことより、一つ頼みがあるんだが、聞いてくれるか?』

エレメントはそう言った。

「……今日はお願いしてばっかりだな。頭でもおかしくなったか?」

イクタが冷たく答える。

『まぁまぁ、話だけでも聞いてくれ。』

「……良いけど。」

『こんな時に言うのは今更感があるが、君、私を保管する場所がポケットというのはないだろう。暑苦しくてしょうがない。もう君と私がケミストしていることは、イケコマたち仲間にはバレているのだ。少なくとも出撃時くらいは、ベルトにホルダーでも作って、そこに保管しておいてくれないかな?』

エレメントはそう訴えた。

「…なんだ、その程度のことか。そんなことならお安い御用だ。」

イクタはそう言うと、早速何やら材料を組み立てて、ものの数分でピッタリなサイズのホルダーを作り出した。

「これで良いだろ?」

『相変わらず早いな。うむ、これなら良い。』満足そうに答えた。

「さて、これから忙しくなるな。」

イクタはバルコニーに立つと、そこから、視線の先にある地下の天井を見つめた。

「ローレン、あんたが何を考えているかは知らんが、お前の予想外の出来事を見せてやるぜ。その余裕そうな顔に焦りが走るのを想像するだけで、笑えてきたよ。」

イクタは少しだけ笑うと、再びリビング戻った。

 その一方で、何やら地下市街で怪しい影が暗躍していたことに気付くのは、その翌日を迎えてからになるのであった。

 

                                                        続く

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