ウルトラマンエレメント   作:ネフタリウム光線

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 市民が抱くIRISへの不信は日を追うごとに激しくなる一方であった。本部長はほとぼりが冷めるまで無期限のIRIS活動禁止を発表したが、それはさらに情勢を悪化させる。そんな中で、マスコミを交えた世界会議を目前にして、イクタとエレメントの考えがすれ違い、仲違いしてしまった。IRISに、いよいよ「解散」の2文字が迫るー


第16話「亀裂」

第16話「亀裂」

 

「イクタチーフからのお届け物……ですか?」

 地下世界の平和と治安を守る非営利組織、『IRIS』のTK-18支部のサイエンスチームの研究室に、珍しい来客があった。彼の名はオニヤマ。彼も同じく『IRIS』の一員ではあるのだが、支部とは別の施設で法に関わる仕事をこなす『リーガライザー』であるため、あまり接点がないのである。研究者と公務員のような職柄なのだ、それもそのはずであろう。

「そうだ。どうやら、かなり重要なものらしいが。」

 オニヤマの持ってきた届け物を手にしたのは、チーフであるイクタの右腕、エンドウである。エンドウは袋に入れられたその中身を確認すると驚いた。

「これって、怪獣兵器じゃないですか!?なぜ?チーフが自宅で研究すると…」

「俺にはよくわからんが、あいつには急に別の研究要件が発生したらしい。怪獣兵器に関しては、やはり全ての環境が揃っているここで、続けて欲しいらしいな。」

オニヤマは簡潔に説明した。

「まぁ、わかりました。わざわざ届けてもらってすみません。チーフには今度きつく言っておきますので。」

エンドウは頭を下げた。オニヤマは犯罪者や受刑者たちから恐れられているリーガライザーなのだが、その恐れらている理由の大半が、この威圧感のある顔にある。エンドウも、この男を不機嫌にさせてはいけないという、何か本能のようなものが働いたのであろう。

「気にするな。あ、それともう一つ、ある。」

オニヤマは思い出したように言うと、銃の写真を取り出した。

「これは…?」

「このモデルの銃で、怪獣兵器を起動できたという前例がある。あのカットフの事件だ。この怪獣兵器も同じように扱えるのかどうか、実験して欲しいとのことだ。」

なるほど、恐らくは、実験のためにカプセルを研究室に届けたのだろう。

「じゃ、用が済んだから、俺は帰るぞ。」

オニヤマはそう言って、研究室を離れていった。

「いやぁ、噂通り怖そうな人ですねぇ、オニヤマさんは。」

エンドウにそう話しかける研究員

「まぁ、そうね。でも実は良い人…だったりして?」

「犯罪者をシバく人ですから、少なくとも悪い人じゃあないと思いますよ。」

「それもそうね。」

エンドウは手短にオニヤマに関する話を終わらせると、部屋中央にあるメインコンピュータの前に立った。このコンピュータには本部の科学班をも超えるデータ量と解析能力がある。直径は大人が7人輪になってようやく囲めるほどのもので、その高さも3メートルはある。さすがに、大きさは半端ではない。

 エンドウはその前に設置されている椅子に腰をかけると、解析装置に怪獣兵器をセットした。

モニターに、数式の羅列が表示される。自動で分析をしているようだ。

「やっぱり、未だによくわからないわねこれ。本当にこれが、地下世界にある極普通の鉄砲で起動できるのかしら?」

エンドウは首をかしげる。

「イクタチーフの報告書によれば、敵の組織には最低2人、リディオ・アクティブ・ヒューマンがいるであろうとのことでしたが、もしかしたら、何かしらのアビリティがなければ作成できない、という可能性も無くはないですね。でも実は、作成が困難なのはこのカプセルだけ、とか?」

隣に座っていたスタッフがそう言った。

「えぇ、そうね。だとしたら、どのみち私たちには作れないものということになるわ。あれだけの犠牲を出してようやく手に入れたのに、それじゃあ市民はますます納得しないわ。」

エンドウは嘆いた。

「まぁ、敵も我々には作れないことをわかっていて、この怪獣兵器を交渉用のアイテムとして使用したのかもしれません。仮にそうだとすれば……いえ、悪いことばかりを考えてはいけませんね。まだ不可能と決まったわけではないですし。」

「そうよ。不可能を可能にするのが、科学の役割よね。」

エンドウは自分に言い聞かせるようにつぶやくと、モニターとの睨めっこを始めた。

「…その意気込みに水を差す用ですまないがー」

突如、研究室に男性の声が響いた。聞き覚えのある声だ。職員が、一斉に声の方向へと顔を向ける。声の正体は、フクハラ支部長であった。

「只今から、IRISは一切の活動が禁止とされた。本部長が特別権利で、そのような命令を出された。今すぐ作業を中止してくれ。」

支部長は、はぁとため息をついた。

「……え?」

突如としての活動禁止という予想外の処置に、スタッフたちはただただ困惑していた。

 

 それは約2時間ほど前の話だ。IRIS本部は、早朝に、本部の首脳陣だけを招集し、緊急会議を開いていたのだ。本部周辺や、一部の地区では、市民による隊員や、隊員の家族への迫害行為が少数であるとはいえ発生しているという事実を重く受け止め、全世界での活動を、無期限の禁止とする緊急的な処置を取らざるを得なかった。現状下せる中で、最も重い対応とも言えよう。

 フクハラ支部長は、この命令が出るに至った経緯を、そのように説明した。

「で、でも、マスコミの立ち入りを許可した世界会議はもうすぐですよ!?なぜこのタイミングで、この命令が出るんですか!?」

エンドウはやはり納得がいかないという風であった。当然、他のスタッフも同じ考えのようだ。

「そうですよ!わけわかんないですよ!市民からの迫害から逃れるための措置なんですか!?我々は市民を守る立場なんですよ!?おかしいですって!」

エンドウの部下がそう言った。

「落ち着け。もちろんだが、この対応に納得している者など、内部にはいないだろう。だが、世論的には、こうせざるを得ないのだ。活動を停止という態度を見せれば、市民の怒りの感情も少しは抑制できるだろうという判断だ。我々への信頼は、もうそのレベルまで低下している。」

「そんな……」

「活動を停止した上での世界会議となれば、我々はマスコミに対して消極的にならざるを得なくなります。それはかなり不利ですよ!」

「そんなこと、本部長が一番理解なさっている。情けない話だが、あとは神に祈るまでだ。」

フクハラは天を仰いだ。

「……事は、僕らが思っているよりもずっと深刻だったということですか…。」

そのスタッフの一言が、多くのIRIS関係者の本音であっただろう。敵は怪獣や黒ローブだけではない。今回の敵は、考えようによっては、それらよりも遥かに強力な難敵であろう。

 

「活動禁止!?」

フクハラからの通信を受け取ったイクタは、驚きの声を発していた。

「おいおい冗談じゃない。こちらじゃできない仕事を、支部に渡したばかりなんだぞ!?」

「まぁ仕方がないことだ。ほとぼりが冷めるまで待つんだ。」

「バカかよ、何のための半年だ。これじゃあ、戦えるだけの戦力が揃わねーよ。」

イクタはいつになく苛立っていた。

「イクタ、隊員だって市民の家族であり、大切な存在なのだ。その隊員があれだけ戦死した。資金だって、市民からの寄付金もある。いいか、市民の本音というものは、要するにもう戦いはよせ、ということなんだ。」

フクハラはそう言った。

「そうかいそうかい。つまり市民の皆様は、IRISに怪獣や黒ローブから身を守ってはもらうけど、戦うなって言いたいのか。戦いをゲームだとでも思っているのか。何の犠牲も生まれない戦いなんて存在しない。」

イクタは早口でまくし立てた。

「その通りではあるが、その犠牲が大きすぎたから問題になっているんだ!世の中は正論だけで動いてるわけじゃないんだ。だが任せておけ、この危機を乗り越えるのが、組織首脳の仕事だ。」

「……俺は支部長や本部長たちを信じている。それでも、マスコミを交える際には、俺の力が必要不可欠だと思うぜ。まだ公表していない事実もある。下手に扱えば、さらなる悪化を招きかねないが、俺ならうまくやれる。俺を会議に呼んでくれることを願っておくよ。」

イクタはそう言うと、一方的に通信を切った。

『しかし、予想外に早く動いたようだな、IRISは。』

エレメントも驚いた様子であった。

「…まぁ、気持ちはわからんじゃないよ。でも、市民を守る立場の人間が、守る対象にビビっててどうするんだ。最悪解散になってもいい、最後まで、俺たちはあんた方のために今まで命を懸けて戦ってきたんだという姿勢を見せなければ。これまでの戦いや活動を否定された上に、舐められ、解散となったら、死んでいった隊員たちにこれほどの不名誉な事はないぜ。」

イクタはかなり苛立っていた。

『その通りだな。……だが、活動停止をポジティブにとらえる事だってできるだろう?』

「…どういう事だ?」

『昨日、君と約束したではないか?手が空いたら、地下街を見せてくれるってな。』

エレメントはニヤニヤと笑っていた。

 

 地下街とはいっても、地から天井までかなりの高さがあるので、50メートル程度の高層ビルなら普通に並んでいる(それ以上の高さは、航空機の飛行の妨げとなるため規制されている)。かつて地上で栄えていた文明と同じように、都市部から田舎まで、幅広い構造となっているようだ。特に、TKエリアは旧日本地区の経済の中心であることから、その街の規模は頭一つ抜けている。

『何だ、かつての東京とあまり変わらないな。空に制限がある以上、ビルの高さも控えめになることを除けば、地上文明の大都市と何ら変わりない。』

エレメントは感心しながら呟いた。なるほど、道理で、地下市民はこれ以上の生活ー地上奪還ーをそこまで望んではいないわけだ。現在手にしている生活で、十分幸せだということなのだろう。

「まぁここら辺は企業ビルばかりで面白くないだろ。もう少し歩けば、繁華街に出る。」

イクタはあまり、高層ビルには興味がなさそうだ。

『繁華街…か。私も昔は君みたいに、大学に通っていた頃から研究室に籠もりっぱなしだったからな。高校生時代以来かもしれん。』

「寂しい人生送ってたんだなぁ、あんたも。ま、他人のこと言えんが。そういえばずっと気になっていたんだが、あんたは何の研究をしていたんだ?」

『その話は今じゃなくてもいいさ。思い出したくもない。』

「そうか。」

イクタはエレメントのその重そうな声色から、この話を掘り下げることをやめた。 

 そうやってしばらく歩いているうちに、中心地である繁華街まで辿り着いた。同じくビルが並んではいるのだが、先ほどの区域とは打って変わり、そのほとんどが商業施設である。

『ほう、素晴らしいじゃないか。今もローレンの組織や怪獣からの恐怖に晒されているとは思えないくらいに、平和な日常じゃないか。』

多くの人々が行き交う光景を見て、そう声をあげたエレメント。

「…誰のおかげでこうやって楽しく過ごせているのか、少しは考えてほしいけどね。」

『ハハハ、まあそう言うな。』

エレメントは苦笑いをした。

『だがイクタ、連れてきてくれて感謝する。私も何だか、少し肩の荷が下りたような感覚だよ。私が私の罪滅ぼしという身勝手な正義で生み出したこんな世界でも、皆楽しく、幸せに生きていてくれているんだ。』

「人間ってのは、与えられた環境がどんな場所であろうと、本能的に生き抜くもんだよ。そこに技術があれば、その生活は次第に発展していく。百数年も経てば、そのうちその生活は幸せと呼べるものに変わるもんだ。」

『そうかもな。……いよいよ私の決意も改めて固まった。ローレンたちは、私が生み出したと言っても正しい、そんな人間たちだ。罪があるのは、私の方にだろう。だが、だからといって、私自身の命も、ここにいる人々の命も、彼らに差し出していいというわけではない。私は私のけじめをつけるために戦う。……半年も経てば、また体も再生する。いつまでも君を巻き込んでばかりではいけない。君が望むのならば、一体化を解くのも可能だ。』

「まーたバカなこと言ってるなお前は。俺も、あいつらには個人的な恨みが山ほどあるんだ。俺は俺のためにお前と共に戦う。それだけのことだろ。」

イクタはそう言った。1人は殺された仲間や親友のために、1人は自らが元凶となっているこの戦いにけじめをつけるために。各々思惑は違うかもしれないが、共通の敵、そして人類の未来のためにという共通の目的がある以上、彼らは一心同体となり戦い続けることであろう。

 時計の針は午後4時を刺していた。天井が照らしているLED照明も、橙色に切り替わる時間だ。

「そろそろ帰るぞ。もう十分だろ?」

『あぁ。本当に感謝しているよ。』

「もういいって。とっとと帰るぞ。」

イクタたちが帰路につこうとしたその時だった。

「ねぇあの人、度々テレビで見るIRISの人じゃないかしら?」

中年のふっくらとした女性が、並んで歩いていた友人と思わしき女性に、ひそひそと話しかけている声が、イクタの耳に入った。イクタは、構わず歩き続ける。

「えぇ、確か、イクタ隊員って人よ。」

「まぁよくも、こんな状況下でノコノコと街を出歩いていられるわね。前にテレビで見たときにも、態度がおかしい人だとは思っていたけど、IRISはそういう教育とかは、していないのかしらねぇ?」

イクタの眉がピクンと動く。

『イクタ、無視しておけばいい。』

その様子を見たエレメントが、そうなだめる。だが、奥様方のひそひそ話は、自然に周囲へと伝染していった。

「あれがIRISの…」

「確か、遠征部隊のメンバーだぜ?仲間がたくさん死んでるのに、よくこんなところにいるよな。」

「隊員があんなんじゃあなぁ、組織が潰れるのも時間の問題だぜ。」

騒ぎが大きくなってきたのか、次第に人だかりが増え始める。

「……ちっ。」

イクタは舌打ちを打つと、ビルの谷間に逃げ込んだ。路地裏を伝いながら、街からの脱出を図る。

「何でこの俺が、市民相手にコソコソしなくちゃなんねーんだよ!」

『落ち着け。今だけの辛抱だ。市民は世界会議で、IRISの必要性に気づきはずだ。またすぐに、手のひらを返してくれるはずだ。今を凌げばー』

「……なんかさ、あいつらの未来なんかどーてもいいわな。リュウザキやトキエダさんの仇は必ず討つ。…でも、その後のことは知らねーよ。もうバカみたいじゃねーか。」

エレメントの声を遮り、毒を吐くイクタ。

『それはだなー』

「俺以外の隊員、それこそ迫害を受けた人たちは、みんな俺と同じこと思ってんじゃないの?言ってしまえば、市民が俺たちを必要としていないのなら、俺らも市民に必要とされる人間になることなんてないっていう理屈だ。いっそこのまま、本当に解散してしまった方がいいのかもな。あんな奴ら、守ってやる価値もない。」

再び声を遮り、早口で屁理屈をこねたイクタ。

『……まさか君が、そのような浅はかな思考回路を持った、軽薄で薄情な人間だとは思わなかったよ。君という人間はよく理解していたつもりだ。もちろん、今君がとても辛いことはわかる。だがそれでも、君という人間にはガッカリだ。』

珍しく、重い口調で、一言一言をゆっくりと確実に発したエレメント。

「…何が言いたいんだ?」

『やはり私は私の力だけで戦う。君も、君の戦いを君自身ですればいいのさ。』

そう言うと、エレメントはイクタのベルトのホルダーから離れ、宙に浮き、どこかへと飛び去ってしまった。

「おい!どこ行くんだよ!」

その声に応じることなく、エレメントミキサーは彼方へと姿を消した。

「ったく、どいつもこいつもなんなんだよ…!」

イクタは近くに置いてあったドラム缶を思い切り蹴り飛ばすと、人目につかない道を選び、自宅へと戻って行った。

 

 その帰宅途中であった。夕飯の買い出しを終えたのだろうか、買い物袋をひっさげた、親子がイクタの前方を歩いていた。子供の方は、まだ幼い女の子であった。

「おかーさん!今日は何作るの!?」

「そうねぇ、ユウコの大好きなカレーよ。」

「わーい!やったー!!」

 ありきたりだ。このような風景は、こうして現実にも、小説でも映画でもよく見かける、ありきたりな光景だった。この光景は、決して現実でも、そして物語の世界でも、大きな影響力はない。親子が夕飯に何を作ろうが、展開は変わらないのである。

 だが、イクタにとってこの風景は、ありきたりなものではなかった。両親に関する記憶など一切ない。親の手料理を食べたことはあるのだろうか?自分自身でもわからない。幼少期から天才とうたわれ、特別扱いされてきたため、ごく普通の子供たちと、ごく普通の生活を送ったことすらない。むしろこの光景は、非日常なのである。

「……」

笑顔で会話を交わす親子と同じ道を歩いているはずなのに、今のイクタの顔に、笑顔はなかった。

 

 世界会議の日は、あっという間に訪れた。結局、最後までイクタに招集の連絡が来ることはなかった。会場には、本部長や各支部長をはじめとする、IRISの幹部、そして各マスコミ社が既に腰をかけていた。もちろん、会議の様子は全世界に放送される。

「…さて、どうしたものかね…。」

本部首脳の1人がため息をついた。もちろん、彼ら幹部はIRISでの活動により、給料を得ている。職を手放すわけにもいかないため、この会議には本気の心構えで挑んではいる。しかし、やはり現状は、世論という兵器を搭載した、マスコミの方が完全に有利だ。 

 会議の時期を早めることには、準備が疎かになるなど大きなリスクはあるが、先延ばしにすればするほど不利になるのは火を見るよりも明らか。少しでも、まだ希望があるうちに実施しておきたかったのだ。

「本部長!本日の出席者は全員揃いました。そろそろ、始めませんか?」

マスコミの1人が、そう声をあげた。

「そうですな。ではこれより、IRIS世界会議を始める。今回は特例として、報道関係者の方々にもお越しいただいている。まずは、そちらの皆様からの、ご質問を伺いたい。」

本部長が切り出した。

「…質問から始める…とは、またユニークですね、本部長。いきなりそう振られても、何から質問すればいいのか、わかりませんね。」

「おや、私どもはてっきり、皆様はこの会議に参加するというよりも、我々を質問攻めにするために、お越しいただいていたとばかり、認識しておりましたが。」

本部長は、あくまで強気な姿勢であることをアピールするかのように、そう言った。

「……ではお言葉に甘えて、私から一つ。」

女性記者が手を挙げた。

「どうぞ。」

「KG新聞の者です。ずばり聞きますが、本部長は、IRISの今後について、どのようなお考えをお持ちなのでしょうか?」

「今後、ですか。そうですね、これからも市民の皆様に必要とされる、そんな組織を運営していければ本望であります。」

用意していた回答だろう。

「…そうおっしゃられるということは、IRISは存続させる、そういった方針であるということでしょうか?」

「もちろん。解散など、考えてもおりません。」

記者席がざわつく。

「私からも質問よろしいでしょうか?CH地区のテレビ局、CHTの者です。」

「どうぞ。」

「つまりIRISは、先の地上遠征計画で被った損害に対しての責任は負わない姿勢である、と理解してもよろしいのでしょうか?」

「何をおっしゃられる。我々が地上遠征計画で被った損害は、皆様ご存知の通りのもので、大変大きかった。そのことに責任を感じないような輩は、我が組織には1人として存在しません!そのような組織を侮辱するかのような質問は、お控えいただきたい。」

本部長は、強く語った。

「答えになっていません!先ほど本部長の発表なさったIRISの方針は、つまり責任を感じていないと言っているに等しいのです!それとも、今回の活動禁止で、誠意を現したおつもりなんですか!?」

「そうです。私たちは今回の被害に対する責任として、無期限の活動禁止を発表致しました。あなたの質問には、まるで我々が一切の責を感じていないという前提があるようですが、それは誤解でございます。」

これは意地の張り合いになりそうだ。

「本部長は、この度の被害をあまりに軽く捉えられてはいませんか!?これでは、亡くなった隊員の方々や、そのご遺族の方々、そして計画に出資してくださった方々に、失礼だとはお思いにならないのでしょうか!?甚だ疑問です。」

「お言葉だが、あなたが今話の中で挙げられた方々に最も失礼なのは、あなた自身では?」

場の流れが僅かだが変化したような気がした。

「…意味がわかりません。」

「…我が組織の隊員やスタッフは、当然ながら一人一人に、市民としての生活があります。家族があります。彼らは、その市民や家族を守るため、日々命をかけて仕事をしている。特にこの度の遠征メンバーとなった隊員たちは、その思いが特別強い者ばかりでした。そして彼らは、その命を賭してでも、人類の未来のための成果を上げようと、貴重な戦利品を持ち帰ってきてくれた。あなたは、彼らの命がけの任務や生き様、そして彼らを誇りにしていた遺族の方々を、侮辱しているのではないでしょうかね?」

記者は押し黙ってしまった。本部長や、その他幹部の顔色を伺うに、どうやらこの展開に持ち込みたかったようだ。にしても、流れが自然すぎる。

「…先ほどのKG新聞の者です。本来IRISの存在意義とは、地下世界や市民を、あらゆる脅威から保護することにあるはずです。そこから脱した、今回の地上遠征で被害を出したわけです。やはり、今後の方針について、見直す箇所は複数存在するのではないでしょうか?」

そうだそうだ、と声が上がる。再び流れはマスコミ側に移ったようだ。

「えー、私は、今回の遠征も、地下世界や市民を守るための、『防衛活動』だと認識しております。」

「…根拠はどこにあるのでしょうか?」

「前回、皆様をお集めした時、あの遠征報告会の時に、発表済みだと思います。地上には、TK-18支部を怪獣が襲ったあの日より、怪獣兵器で我々の生活を脅かし続けてきた組織があります。遠征には、奴らの規模の把握や、調査なども任務に含まれていました。現に、その正体を白昼の元に晒し、敵の1人を殺害、敵の怪獣兵器まで手に入れています。そして半年の休戦協定まで結びました。これは、『防衛』には当たらないのでしょうか?」

本部長は、逆に質問返しをするように語った。

「しかし世論だ!世論はIRISは必要ないと言っている!民間団体だろ?世論の声に合わせ、解散するのが妥当だ!」

返ってきたのは、もう暴論としか言えない、まるでマスコミの断末魔のような声だった。

「えー、かなり話が逸れました。もともと今会議での議題は、これではありません。一度報告済みですからね。まずは、この活動禁止の期間、今は無期限ですが、いつまで持続させるのか。誰か、意見はないか?」

本部長はマスコミを視界から消すと、幹部たちに視線を向けた。

「まぁ、ほとぼりが冷めるまで、でしょう。ですが、本部長、少々やりすぎではないかと。これは市民も画面を通じて視聴しているのです。あまり高圧的ですと…。」

幹部の1人は、冷や汗で背中をぐっしょりと濡らしていた。

「……案ずるな。ここまでは私の作戦通り。これからもな。」

本部長は耳元に、小声で囁いた。

 その次の瞬間だった。会議室を、猛々しい警報音とともに、赤い色の光線が駆け抜けた。非常時に灯る警灯である。

「な、なんだ!?」

報道陣たちが慌てて、辺りを見渡している。

「これは…怪獣警報のようですね。本部に発令されたとなると、敵はここから半径10キロ以内に現れたということになります。」

本部長が説明した。

「しかし、見ものですな。市民の皆様が、どのようにしてその身を守られるのか。」

その言葉を聞いて、記者の1人が信じられない、という顔をして、本部長に食い下がった。

「何を言っているんですか!!怪獣が出たら、市民を守るために出動するのが!!IRISの……義務…」

威勢がよかった記者だが、自己矛盾を起こしていることに気がついたのか、後半はゴモゴモと聞き取りにくい声であった。

「義務?しかしIRISは只今活動禁止状態です。どこにも、待機している隊員やスタッフはいません。ですが、あなた方が言うには、これからIRISは解散するのでしょう?ならば、IRISが存在しなくなったらどうするのか、考えてみるいい機会でしょう。もちろん、助言や協力はさせていただきます。」

「な…!」

記者を含め、その場にいる全員が絶句していた。強気な姿勢を崩さず、質問者の揚げ足を取り攻め、最後には開き直る。これは、本部長のやり方ではない。イクタのやり方だったのだ。

 

 その数日前であった。本部長の元に、エレメントが訪ねてきたのは。

「これはこれはウルトラマンエレメント、私に何か用かな?イクタ隊員は一緒じゃないようだが。」

『本部長、あなたが私についてどれだけのことを知っているのか、いろいろ問いただしたいところではあるのだが、今日は別の要件で来たのだ。』

「…というと?」

本部長は椅子に座ると、足を組み、ゆったりと構えた。

『本部長は、どのような作戦を立てて、会議に臨むつもりなのだ?』

「…ふむ。特に考えてはいないな。だがこれでもこの大きな組織の長だ。間違っても、解散などさせない。マスコミは世論を武器にしているつもりかもしれんが、単に私たちを自分たちの給料の糧にしたいだけだ。故に何か策があれば、芯のない奴らを一網打尽にできるかもしれんが。」

本部長のデスクには、過去の報告書など、多くの資料が積み上げられていた。おそらく、会議に向けて試行錯誤していたのだろう。

『…その策を提案しに来た、と言ったら?』

「何?」

本部長は目を丸くした。思いもよらなかった来客から、さらに想像すらできなかった言葉が飛び出したのだ。

『恥ずかしい話だが、イクタと少し揉めてしまった。あいつは、思っていたよりデリケートだったのかもしれない。市民に対して、相当に苛立っていて、まともな判断ができない様子だ。だから、会議には彼を呼ばないでほしい。』

「そんなことは私がよくわかっている。無論、呼ばないつもりだ。」

『だがあいつは、必ず会議場に現れる。そういう性格だろう?』

エレメントはニヤリと笑った。

「……まぁ、そうだろうな。」

『そこを利用する。TK-18支部のサイエンスチームも、本部の敷地内に待機させておくのだ。たった一つの怪獣兵器は今、彼らが所持している。ちょうど、彼らも怪獣兵器を使用するための実験をやりたがっている。その許可を出すのだ。』

「待て待て、今は活動禁止期間だぞ。それに、会議中に怪獣の実験だと?正気か?」

本部長はさらに目を丸くしていた。

『まぁ最後まで聞いてくれ。会議では、必ずIRISの存在意義が問われるシーンがある。相手の武器は世論だ。必要がない、解散しろだとも、平気で謳ってくるであろう。だがそこに、怪獣兵器という制御可能な怪獣を出現させる。彼らはペンやカメラを持てば強いが、怪獣から身を守る術を所持していない。』

「そうなればIRISが出動するほかない…。つまり、強引にIRISの存在意義を示すということか。」

『そうだ。そしてその場には必ずイクタが来る。私はもう一度、彼に気づいて欲しいのだ。IRISやイクタを必要としている存在があることを。そのことに気づいてくれれば、彼はまたさらに強くなれる。』

「……随分と肩入れしているな。ウルトラマンから見ても、あいつは特別ってわけか。」

本部長は葉巻を口にくわえると、火をつけた。

『……どうだろうな?彼が地下にとってどれほど特別な存在なのか、それを一番理解しているのは、本部長、あなたであると、私は思うがね。』

「…まぁわかった。君の策を使わせてもらおう。君の描いたストーリーになるように、上手く立ち回ってみせるさ。まずはどんな手を使ってでも、組織を存続させる。」

本部長は一瞬意味深な間をとったあと、そう述べた。

『感謝する。では、私は消える。』

エレメントミキサーは、本部長室の窓から飛び去って行った。

 

 そのような背景もあり、サイエンスチームは本部敷地内で、怪獣兵器の実験の準備をしていた。

「本当にやっちゃっていいんですかね…?」

スタッフの1人は半信半疑である。

「…本部長からの命令よ。むしろ、やらなくてはいけないわ。」

エンドウはそういうと、あの証拠写真に写っていたモデルと同じ銃を取り出した。

「でも、本当にこんなので怪獣兵器を起動させることができるのかしら?」

エンドウはまじまじと銃身を見つめている。

「……そろそろ実験開始予定の時間ですよ。とりあえず、やってみるしかありません。」

「そうね。それこそが実験だもの。よし、みんな配置について!」

エンドウが銃にカプセルを装填し、構えた。スタッフが20メートルほど後退し、計測器などの機械を並べる。

「スタンバイオーケーです!」

エンドウの後方で、1人が叫んだ。

「了解!実験……開始!」

エンドウは恐る恐る引き金を引いた。キュンッという銃声と共に、放たれた弾丸が、100メートルほど先に着弾した。すると、大きな閃光と共に、怪獣が姿を現したのだ。

『オォォォォォォム!』

姿を現すなり、すぐに大声で叫んだ怪獣。

「まさか本当に……あっ!」

エンドウは確認を忘れていた。再び弾丸を装填するためのマガジンを開いた。中には、空になった怪獣兵器のカプセルがあった。

「カプセル確認!やはり、中身だけこうして発射して、あとは好きなタイミングで、このカプセルの中に収容できるようね。」

「いえ、それは少し違います。出現したてほやほやの怪獣は、かなりのエネルギーを有しています。カプセルの容量を超えているため、少し体力を削らなければなりません。」

「あぁ、確かにそうだったわ。……え?じゃこれどうするの?」

実験班たちは、ポカーンと怪獣を見つめていた。二足歩行型で、体長は45メートルほど。大きな瞳と鋭い牙が特徴的な、狼のような顔つきをしていた。体は全身、ふかふかとした体毛に覆われている。

「……えーっと、この怪獣を再びカプセルに収容するまでが実験ですよね?」

「…と、とりあえず離れて!離れるのよ!」

慌てて退避するスタッフたち。

「エ、エンドウさん落ち着いてください!怪獣兵器は、使用者がある程度までなら動きを制御できます!怪獣の力が小さければ小さいほど、細かな指示も聞いてくれるみたいです!ちなみにこれは、過去の敵の怪獣兵器使用を分析して発覚したデータですが、確証はありません!」

女性スタッフが、エンドウに向かって叫んだ。

「な、なるほどね。つまり、今そのことも実験しちゃえばいいのよ。…で、どうやって指示を送るの?」

「とりあえず叫んでみたらどうですか?」

「そうね…。オーーイ!怪獣さん!そのまま歩いてみてーー!!」

エンドウの声が聞こえたのか、怪獣はゆっくりと歩き始めた。

「おおー!」

スタッフたちの歓声が湧く。

「次は…止まって!右向け〜右!」

立ち止まった怪獣は、方向転換をした。

「おおお!!いけるじゃないこれ!どこまでできるのかしら!?火を吹いてみて〜!」

しかし怪獣は動かなかった。

「…動きませんね。」

「もしかしたら、あの怪獣は火は吹けないのかも。」

「なるほどね。人間に向かって、空を飛べ!と命令しているようなものってことか…。」

「そんなことより、本部からの命令が今届きました。会議場に向かって、怪獣を進行させよとのことです。」

ファックスで届いたプリントを、読み上げた部下。

「会議場に…?…でも、いちいち疑問に思ってたらラチがあかないわね。よし、命令通りにやるわよ。おい怪獣!あの建物に向かって進めー!」

エンドウの叫びで、怪獣は走り出した。やはりかなりの速度が出ている。これならば、5分もすれば会議場に到達するはずだ。

「私たちも後を追うわ。」

エンドウたちは専用車両に乗り込むと、怪獣の後ろに付いて行った。

 

「ったく、結局俺を呼ばなかったな…あのおっさんどもめ…。」

本部敷地内には、やはりこの男の影があった。イクタである。レンタルジェットを利用し、ここまですっ飛んできたのだ。

「…しかし、なんだか騒がしいような…。」

今も会議中のはずだ。IRISは活動禁止中のため、敷地内にも人間はいない。それにしては、遠くから微かに人の悲鳴のような声が聞こえてくるのだ。

『オォォォォォ』

 その時、イクタの耳にも怪獣の鳴き声のようなものが聞こえてきたのだ。

「……おいおい、一体何がどうなってやがる…。」

思わず苦笑いをしてしまうイクタ。遠くで聞こえていた悲鳴のようなものは、次第に近くで聞こえるようになり、遂にその発声源であった人々の群れが、イクタの元へとなだれてきたのだ。

「た、助けてくれー!」

その身なりや持ち物を見る限り、会議に参加していたマスコミたちとみて間違いはないだろう。

「あぁ!!そこにいるのはイクタ隊員ですか!?」

1人の若い男性記者が、イクタを見かけると、膝にまとわりついてきた。

「お、おうそうだが…。なんの騒ぎだよこれは?」

「か、怪獣が!!怪獣が出たんです!」

イクタは呆れてしまって、声が出なかった。あれだけIRISに対して文句を言ってきた連中が、IRISの隊員に泣きついてきているのだ。

「…IRISは必要ないだのなんだのと、言ってたのはあんたらじゃないか。もちろん、あんたらなりの防衛策とか、考えがあっての発言だったんだよなぁ?自分たちでどうにかしみたら?こっち側の気持ちが、少しはわかるんじゃないの?」

イクタは記者を振り払うと、怪獣がいる方向とは逆方向、自分が来た方へと歩き始めた。

「ま、待ってください!まだ死にたくない!!俺にはまだやりたいことがある!家族だっているんだ!見捨てないでくれ!!」

泣きながら訴える男性記者。それにつられて、周囲の人間たちも、イクタに救いを求める声を発し始めた。

「……随分と勝手な話じゃん。これだから市民ってのは…。」

イクタは頭をかいた。その脳裏に、先日見た親子の光景が蘇る。市民は無力だ。自分たちの力では、襲い来る脅威に立ち向かうことはできない。故に、まだIRISを必要としている人間だって、多くいるはずなのだ。現にこうして、敵対していた彼らも今では掌を返している。

「…わーったよ。あんたらみたいに、情けなくて、自分勝手で、都合の良い奴らだって、俺たちが守らなくちゃいけない市民、らしいからな。ムカつくけど、それが仕事だ。」

イクタは、怪獣の声がする方向へと走り出した。そこに、エレメントミキサーがどこからともなく飛来する。

『よく言ったぞイクタ!やはり君は、立派なIRISの隊員だ!』

「…今までどこで何してたんだよあんたは。」

『良いかイクタ。世の中いろんな人間がいる。もちろん大多数が普通の人間だが、中にはどうしようもない犯罪を犯す奴もいるし、あのマスコミたちのような人種もいれば、君とは真反対な性格の人間だってゴロゴロいる。でも、そんな奴らにも人権はある。だからこそ、それを全部一つにひっくるめて、守るべき市民なんだ。守る価値のない市民など、存在しない。』

「……悔しいがそうみたいだな。あんたに説教されるとは心外だが。」

『…しかし実はあの怪獣は私の仕込みだ。適当にやって、とりあえず解決したことにしよう。』

「は…?」

エレメントのその一言は、先ほどの説教よりも、イクタを驚かせた。

「そりゃ一体…」

『後から説明する。とりあえず、ここで変身するのだ。今やれることはそれだけだぞ。』

「…はぁ…。まぁ良いけど。」

イクタはエレメントミキサーを掴むと、走りながらそれを天井へと掲げた。

「ケミスト!エレメントーー!!」

『シェアアア!!』

任務を終えてからは、これが初めての変身となる。久々に地下世界にその姿を見せたエレメントに、マスコミたちは盛り上がりを見せる。相も変わらず起伏の激しい人たちだ。

「……んで、どうすればいい?」

怪獣の前に立ちはだかったエレメントだが、どう戦えば良いのやら。相手は貴重なIRISの戦力でもあるのだ。

『私に考えがある。怪獣兵器は、起動直後はエネルギーの膨張が激しく、カプセルの容量を超えてしまうため、容易にカプセルに戻すことができないらしい。だから、こう、良い感じに体力を削るのだ。そのうち、サイエンスチームが、こいつを元の居場所に還してくれるはずだ。』

「ならプロレスみたく、そこらへんのギャラリーを喜ばせる格闘技でも演じておけば良いだろう。」

エレメントは腰を低くして構えると、怪獣へと抱きつくように飛び込んだ。怪獣の腰をガッチリと抱え込むと、そのままの勢いで地面に倒れ込み、数百メートル転がると、怪獣の上にまたがり、顔のあたりを殴打していく。

『ジャッ!シェア!』

特にその必要はないのだが、あえて大きめに発声しながら、パンチを入れていく。だが流石に怪獣も生き物である。こうも一方的に殴られ続けるわけにもいかまいと、力を込めてエレメントの体を押しのけ、ポジションを入れ替えた。今度は怪獣の猛攻が始まる。

『オオォォォォ!』

「こいつ、思ったよりやるじゃねぇか。これなら戦力にもなってくれそうだぜ。」

イクタはニヤッと笑うと、両足で同時に怪獣の腹を蹴り上げ、そのまま体操選手のように後転し、立ち上がり体勢を整えた。

『ジャッ!!』

叫んだエレメントは、再び起き上がったばかりの怪獣へと突進していく。そして勢いのままに繰り出した拳で、怪獣の頰を殴り飛ばした。

『オオォォォォォ…』

地面に叩きつけられた怪獣はうめき声をあげた。

「そろそろ良いだろ。こいつの力は大体わかった。もう戻してやろうぜ。」

『うむ。ちょうど良いところに、彼らも駆けつけたようだ。』

イクタはエレメント視点からでは見落としていたが、どうやらもうすぐ近くにサイエンスチームがやってきていたらしい。

「エネルギーはかなり消費しています。今なら、余裕でカプセルにぶち込めそうです!」

エンドウにそう報告をする部下の1人。その後方には、すでに空のカプセルを仕込んである謎の装置が設置してあった。

「この機械のスイッチを押せば、あの怪獣をエネルギー体に変換して、このカプセルの中に吸引させることができます。イクタチーフが2日で作り上げたとか。」

「…あの人いつの間に…。まぁ確かに、怪獣兵器そのものを作るよりは簡単なのだろうけど…。まぁそんなことはどうでも良いわ。早く起動させて。」

「了解。」

スイッチを入れると、機械から謎のビームのようなものが発射され、怪獣に命中した。怪獣はみるみるとその形状を失っていき、遂に気体のような状態になり、そのままキュポンとカプセルの中に吸い込まれていった。

「これで一件落着。全ての作戦が終了しました。」

「…そのようね…。はぁ…なんか色々と疲れたわ…。」

エンドウはホッとして全身の力が抜けたのか、その場に腰を落とした。

 

 変身を解き、イクタはエレメントから簡潔にここに至るまでの経緯を聞かされていた。

「なるほど。お前にしちゃあ良い策だったよ。まんまと嵌められたぜ。」

『嵌めたとは人聞きの悪いな。それに会議をうまく運んだのは本部長だ。記者の中にサクラを仕込むとは、流石だったな。』

道理で、不自然なほど自然に話が流れたわけだ。

『まぁ良いじゃないか。これで私にもIRISにも、地下には敵がいなくなった。決戦に万全の状態で備えることができる。』

「…そうだな。今回ばかりはお前のおかげと言っても過言じゃない。組織を代表して礼を言わせてもらうぜ。その…ありがとうな。」

イクタから礼を言われるという思わぬ事態に、エレメントはしばらく驚きから声が出なかったが、気を取り直したようだ。

「なんだよ。」

『いやまぁ、びっくりしてな。君も人に感謝の気持ちを述べるのか、と。』

「そいつは失礼な話だ。俺だって言うべきところでは礼くらい言う。」

『そうか…そうだよな…。』

「んなことどうでも良いだろ。課題は山積みなんだ。とっとと支部に戻るぞ。」

イクタは振り返り、乗ってきた飛行機の方へと歩き始めた。

『……。あぁ。』

雨降って地固まるとはよく言ったものだ。たった数日間の間に、イクタとエレメントには様々な心情変化があった。一度はその関係に亀裂が走ったが、それを経て繋がりはさらに強まることとなった。本当の戦いは、これからであろう。

 

                                                  続く。

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