ウルトラマンエレメント   作:ネフタリウム光線

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 強力な怪獣、ゲフールの前に戦闘不能に陥ってしまったウルトラマンエレメント。絶対的ピンチの中、イクタはとある秘策を披露するがー?


第18話「採取」

第18話「採取」〜氷獣ゲフール登場〜

 

 HK地区からの通報を受け、潰されていた村付近の調査及び消えたその住民たちの捜索という任務にあたっていた隊員たちの元へ、『怪獣が出現する可能性がある』とのことから増援に駆けつけたイクタとエレメント。その後、彼らの前にやはり怪獣が現れたのだが、その予想を超える力の前に、エレメントは冷凍され、戦闘不能状態へと陥っていたー

「おい起きろよ!エレメント!!……くそっ!」

イクタは先ほどから何度も呼びかけているが、それに対する反応は見られない。こうしている間にも、怪獣はエレメントへと着実に距離を縮めている。

「サイエンスチームは到着にまだ時間がかかる……。奥の手がないわけじゃねぇが、ネイチャーモード同様に隊員たちを巻き添えにしない保証はない…。」

 だがここで力を出し惜しみにして、エレメントの命が奪われるという最悪の事態を迎えることだけは避けなくてはならない。

「…すまない、みんな。どうにか生き延びてくれよ!」

イクタは、そう決断せざるを得なかった。

「丁度この力を試しておきたかったしな。これからの決戦には必ず必要になる力だ。ここで、実験といこうじゃないか。」

 イクタは、エレメントミキサーが装着されている左腕を、右肩の位置まで持って来た後、そのまま斜めに素早く振り下ろした。それが合図となり、変身が解け、エレメントは光となって消えた。そのエネルギーは、ミキサーへと帰っていく。

「エレメントが…消えた…!?」

 隊員たちの方角からは、エレメントは分厚い氷の中に移るため、光の屈折でよくは見えなかったのだが、その存在が消滅したことは確認できたようだ。

 イクタの体は、エレメントの頭部に近いところにあったため、変身を解くと同時に、当然落下を開始する。分厚い氷山になっているとはいえ、先ほどまでエレメントが存在していたこの空間には、彼の体積分の空洞ができていたのだ。

「…あの感覚…自分でもどうやって“変身”したのか、わからないが、するしかない…!」

 イクタは地上から撤退する際のことを思い出そうとしていた。トキエダの亡骸を見た後の記憶がしばらくないが、おそらくその期間は“変身”できていたのだろう。

「……この状況を…打破できるだけの力を…!」

 イクタは全神経を研ぎ澄まし、集中力を高めていく。そうしていく過程の中で、突然として左腕の感覚が消えた。

「…!?腕が…?」

イクタはハッと左腕を見た。その腕は、もはや人間のものではなくなっていた。

「これだ…!…だが感覚がない…。どうやって動かせば…」

焦るイクタ。目の前には怪獣が、そして目下には氷の面が近づいて来ている。あの高さから落下である。無事ではすまないだろう。

「くそっ!どうにでもなりやがれ!」

その時、イクタの左腕が、無意識に氷を砕こうとして動作を開始した。そしてインパクトの瞬間には、イクタの左半身が、イクタの身長を保ったままで人外のものへと変化していた。左腕の拳だけは、エレメントのそれとほぼ同じ大きさまでに巨大化している。

 ドゴォォォォ…という音と共に、氷山は砕けた。その氷の破片が、怪獣に襲いかかる。

『キィィィィィィ…!』

右目に破片が突き刺さったようで、悲鳴を上げる怪獣。その顔の横を、元の姿に戻っていたイクタが通過し、そのまま着水した。

「な、何がどうなったんだ…?」

傍観することしかできない隊員たちは、次々に変わる目の前の光景にただ唖然としていた。巨大な氷山は、今も崩壊を続けている。せっかく脱出したイクタも、このままでは下敷きになってどのみち死んでしまう。

「この氷は、あの怪獣の特別製だ…。重さが違う…やばい。」

 再び『異人化』しようとするイクタだったが、その性質を理解しているわけではないため、思うように体が動かない。氷を砕いた時も、何が引き金となって変身できたのかもわからないのだ。それに先ほどは偶然的に、力が暴走せずに『氷を砕く』という目的だけを果たせたが、次の異人化では、また地上の時のように歯止めが効かなくなる可能性もある。

「…っ!?」

 追い討ちをかけるように、彼の身体にズキンッと激痛が走った。特に、変身した左半身が酷い。3秒にも満たない変身ですら、これだけのリスクがあるようだ。

 当たり前ではあるが、氷はそんなイクタにも御構い無しに降り注いでくるものである。

「やばい…!」

 反射的に、両腕を胸の前で交差させ、ガードの体勢に入った。こんなものでは、気休めにもならないがー

 

 その時、彼の目前に、柔らかな光の膜が現れたのだ。いや、目の前にというよりかは、身体を包むようにと言った方が正しいであろう。

『エレメントシールド!!』

光の壁が、イクタの身を氷から守り抜いた。全ての落下物を遮蔽し終えた頃には、イクタの身体は水面にプカプカと浮いていた。

『どうにか間に合った……。ミキサーには万が一のための予備エネルギーがある。常時ケミストリウム光線の一発くらいは、変身せずとも放てるようにな…。』

「…あぁ、助かったぜ…。それより、あの怪獣は?」

『消えた…。行方不明だ。あの自然エネルギーはもう探知できないし、霧も晴れたようだ。今なら、しっかりと動けるだろう。今のうちに、退避すべきだ。』

「そうだな。…ったく、目覚めんのがおせーんだよ。そもそも、あんたが氷漬けになんかならなかったら、もっと簡単にいってたもんだろ。」

『申し訳ない。だが、君の一度変身を解くという発想があったからこそ、私はあの氷から解放され、意識を取り戻すことができたのだ。感謝しているよ。しかしだな…』

エレメントは、いつにない凄みのある声で、セリフを続ける。

『異人化だけは、もう二度とやってはならん。』

「……。」

イクタははぁ…とため息をついた。

「ま、そういうとは思ったけど。」

『あの身体のリスクは、改めて身を以て感じたはずだ。タダでさえ寿命の短い君が行うのは、自殺行為と言っても過言ではない。それに、能力者といえど、君の身体そのものの強度は並の人間と変わりはしない。もしあの力に頼り続ければ、決戦を迎える前に死ぬぞ。だいたいなー』

そこに、霧による状態異常から解放された、隊員たちが駆けつけてきた。

「おーい、イクタ!無事か!?」

「あ、あぁ。なんとかな。」

イクタにとっては、エレメントの説教から解放されるいいタイミングであった。起き上がって、隊員たちと向き合う。

「それより驚いたぜ!まさかお前が、あのエレメントだったってな!!なんで教えてくれなかったんだよ!?」

隊員たちは大はしゃぎしているようだ。

「まぁ、な。でも怪獣は取り逃がしちまった。片目に傷を与えたし、そう遠くへは逃げられないとは思うが…。体制を整えて、確実に仕留める必要があ……る…。」

真剣な面持ちで話していたイクタだったが、再び左半身に激痛が走り、その場に崩れ込んでしまう。

「お、おい大丈夫か!?お前も手傷を負っているみたいじゃないか。焦らなくていい。まずは身体を休めるんだ。」

「へっ…余計なお世話だよ。奴は相当な強敵だよ。奴が回復しきる前に倒さなくちゃならん。心配するな、俺はイクタ・トシツキなんだぜ。」

 イクタはよろよろと立ち上がると、乗ってきたアイリスバードの方へと歩き始めた。アイリスバードには多くの機械が搭載してある。その中には、水中の索敵に優れたものもある。ひとまずは、機内で身体を休めながら、怪獣を追わなければならないだろう。

「さて、霧も晴れた。今なら、サイエンスチームも無事に合流できる。それに…」

イクタはミキサーを持ち上げた。

「あんたその中に、わずかでも奴の氷のエネルギーなりなんなり、含まれてないか?」

エレメントにそう訊ねる。

『調べてみる……うむ、微かな量ではあるが、紛れ込んでいるようだ。ミキサーに戻る際、身体に付着していた分だろう。余計なものは取り込まないようにしている設計なんだが、粒子レベルになると、難しいからな。…それで、それがどうかしたのか?』「あんたも科学者の端くれだろ…。」

イクタは呆れたようにそう言った。

『あ、あぁそういうことか。もちろん最初からわかってはいたのだぞ。サイエンスチームに分析させて、あの怪獣に対抗する何かを生み出すのだろう?』エレメントは慌てた様子でそう話した。

「まぁ、だいたい正解だが、分析するのは俺だ。あいつらには、別の目的で来てもらっているからな。」

そう話しているうちに、アイリスバードへとたどり着いた。コクピットに乗り込み、座席の背もたれにもたれかかり、とりあえず一息ついた。

『別の目的?』

「試したいことがあるんだよ。次の戦闘も、おそらく実験になる。」

そう言いながら、イクタはエンジンはかけないまま、コクピット内の電源を入れた。全ての機器が一斉に起動し、ランプが灯っていく。イクタの機は、通常よりもさらに多くの科学的装備が施してあるのだ。空を飛ぶ小さな研究室とも言える。だがしかし、飛行中はそんなものを操作している暇はないため、このようなケースでしか使用できない。故に使い勝手はすこぶる悪い。

「その前に、怪獣怪獣と呼んでいるようじゃ、やりにくいだろ。あいつにもコードネームが必要だ。…そうだな、氷を使う怪獣だし氷獣、氷獣ゲフールでいいだろう。とりあえず、ゲフールの索敵だ。……どうやらあの湖、さらに地下深くの地下水道と繋がっているな。その中に、奴の反応がある。…動く様子はない。身体を癒しているんだろう。」

ちなみに地下世界には、海はなくともこのような湖ならいくつか存在している。天然の地下水道を弄り、人為的に大きな水溜めを作っているようなものなので、それはそれはとんでもない費用がかかったとか。絶対的に必要なものではないのだが、当時のIRISの幹部たちは、景観を重視したかったらしい。

『となると、早めに動いた方がいい。幸い私はまだエネルギーを温存できている。今この瞬間に変身した場合、全力で飛ばしても2分は身体を維持できるはずだ。』

「が、かなり深くにいるし、近づけたとしても、氷で俺たちを遮ることなんざ奴にとっては容易なこと。俺たちだけで突っ込むのは大きなリスクが伴う。」

『つまり、陽動が必要だということだな。それも、あの氷を砕けるだけの火力がなければ、さほど意味を持たない。』

「そういうことだ。」

その直後、通信機に電波が飛んで来た。エンドウからのものである。

「チーフ、只今到着いたしました。」

「いやぁ丁度いいタイミングだぜ。助かった。俺のいる場所、わかるだろ?とりあえず近場に来てくれ。」

「了解。」

イクタは通信を切ると、エレメントミキサーから取り出した怪獣の成分を、測定器にセットした。『しかし、彼らにはどのような目的を与えているのだ?』

エレメントが、先ほどの質問の続きを聞くように訊ねる。

「怪獣兵器を、現存の2種類共に持って来てもらっていてね。怪獣の出現時、俺もあんたも、奴が相当な部類に入るだろうと予測していただろ?万一に備えて、最高の戦力を用意させた。それに、俺はゲフールを、オリジナル怪獣兵器1号にしてやろうとも考えている。だから、まだ研究段階の怪獣兵器のカプセルも、ここへ運ばせた。」

イクタはそう答えた。

『た、確かにコマは多い方がいいだろうが、奴を怪獣兵器にだと?あれは覇獣とも渡り合えるかもしれないほど強い。そんなものを、まだ研究段階で、臨床実験すら行えていないサンプルで手懐けられるわけがなかろう!それに、奴は黒ローブの手持ちの可能性も捨てきれない。第一に、あんなのが今まで発見されていないというのはおかしいだろう?野生の可能性は低いぞ?』

エレメントはそうまくしたてた。

「…俺的には、逆に黒ローブの手持ちの可能性の方が低いと思うね。今、このレーダーに映っている奴を見てみろ。エネルギーを限りなく0に近づけている。軽く冬眠状態だぜ?これはおそらく、他の怪獣に見つからないようにしているのか、そんなところだろう。だから、今まで発見されていなかったんだ。」

『だがそれでは答えになっていない。君の考えた仮説に過ぎないじゃないか。』

「まぁ聞けよ。あんた、戦闘中に黒ローブの気配を感じたか?奴らは皆隠したくても隠しきれないほどの固有の気配を持っていただろう。俺はともかく、ウルトラマンのあんたが感知できていないのなら、この場にはいなかったということだ。それに、奴らの仕業にしちゃあ、村2つ潰した程度で、さらに、その住民を殺したような様子が見られないのはおかしい。レジオンの時みたいに、ド派手に奇襲して、放射能という置き土産だってプレゼントして来ても驚きやしねーぜ。それに比べれば、地味すぎる。」

イクタはそう続けた。

『それは…そうかもしれんが…』

「もちろん、あんたの意見を全否定しているわけじゃあない。警戒は怠らないよ。でも、その可能性は低いってだけの話だ。」

そう言い終えたタイミングで、測定が完了したようだ。解析結果が、モニターに表示される。

『これは…尋常じゃない密度のエネルギーだな。奴が湖内の巣のような場所に氷を張ったとするならば、まず、ネイチャーモードか、新型のミサイルでなければ破壊することはできないだろう。』「そのミサイルにも、この氷対策用の特製の弾頭を積まないと大きな効果は期待できないな。」

『となると、やはり私たちだけで特攻しなければならん。こんなところで、隊員たちを危険に晒すわけにもいかんだろう。』

エレメントはそう言った。ただでさえ、優秀な隊員の多くを失ったばかりなのだ。特に、この場にいる隊員というのは実戦経験の少ないものばかりである。

「…まぁそうなるが、別の方法もあるだろ?あいつを、再び水上に誘き出すんだよ。」

『確かにそれならば、陽動役という危険な仕事は必要なくなるが、具体的にどうするつもりだ?』「うーむ。まぁ、考えがないことはないんだが。」

イクタは頭を掻いた。やはり、あのゲフールが一方的に優位なのが現状であろう。

 

「チーフ!エンドウです!」

そこに、コクピットからのガラス越しに、エンドウらサイエンスチームの面々が確認できた。どうやら無事に合流できたようだ。

「よし。」

イクタは機体から降りると、彼女らの前に立った。

「では、とりあえず怪獣兵器の方をこちらに渡してくれ。」

「わかりました。」

エンドウは鞄から小型のカプセルを二つ取り出し、イクタに手渡した。

「ボムレットに、会議で大活躍の怪獣か。そういや、こいつにはまだ名前がなかったな。」

「一応、サンプルNo.238という、他の怪獣と区別するための呼び名はあります。」

「かたっ苦しいな。まぁそれは後から考えてもいいことだ。それより、もっと大事なことがある。例の準備は完了しているんだろうな?」

「もちろんです。終わってなければ、ここには来ていません。ケース3ですね?」

エンドウはノートパソコンを取り出すと、とある画面をイクタに見えるように表示した。

「……うむよくやった。じゃあ、実験開始といこうぜ?」

『もう始めるのか?戦闘員はあそこにいる数名だけだぞ?』

エレメントが、イクタにしか聞こえないよう、小声でそう言った。確かに、まだあれだけの強敵と戦うだけの準備が整ったようには見えない。

「いいからやるんだよ。まずは、ゲフールを再び俺らの視界に入るところまで浮上させる。俺の仮説の上では、あいつはあの湖の奥深くで、他の怪獣から身を守るために巣を作っている。そうしてずっと大人しくしていたはずなんだ。だが、今回は奴が現れ、村まで襲っている。原因として考えられるのは、まずはこの地球上で起こっている異変。あと50年で星が滅ぶ計算だからな。どんな異常が起きているのかわからない。それが何らかの影響を与え、奴が引きこもりをやめたわけだ。」

「…確かに、そう考えるのが一番妥当ですね。」

「都合のいいことに、我らがTK-18支部は、常に地球の動きを観察している。その中で稀に、いつもとは違うおかしな信号をキャッチすることがある。念のため、それら信号のコピーと保存は行なっているからな。ここにそのサンプルのデータもある。」

イクタは、ポケットからUSBのようなものをとりだし、サイエンスチームの部下たちに見せつけた。

「ここから、それを流すんだよ。そのうちのどれかに、奴が反応するかもしれない。」

「なるほどですね。しかし、万が一ですが、チーフの仮説が見当外れだった場合、どうなさるのでしょう?」

エンドウはそう訊ねた。目上の人物に対して、なかなかはっきりと物を申すタイプでもある。

「そん時は、怪獣兵器に特攻させるまでよ。俺らの最終目標は、ケース3の実験成功、つまりはゲフールの獲得なんだからな。」

「了解です。」

「んじゃ、始めるぞ。」

イクタはUSBメモリをコンピュータに差し込み、データを取り出すと、それを起動させた。1分ごとに、様々な信号や電波が交代で放たれていくようにプログラムされている。

「…ここまで、まだ反応はないようですね。」

30分が経過した頃、エンドウがそう言った。

「何しろ地球という惑星そのものが狂い始めてるからな。異常なサンプルは山ほどある。最悪、丸一日はかかるぜ。」

「しらみ潰しってことですね…。」

さらに30分が経過した。未だに、ゲフールが行動を起こすような素ぶりは見られないがー

「…そろそろ、かな。」

その時だった。大地が大きく揺れ、あの他を圧倒するかのような自然エネルギーが、場を支配し始めたのは。

「これは…っ!?」

『ゲフールが目を覚ましたんだ!この電波に反応していたのだな!』

ザァァァァァァァァという大きな音ともに、津波のような水しぶきをあげ、水面にゲフールが現れた。

 

『キィィィィィィィィィ!!』

「こ、ここまで威圧的なオーラを放つ怪獣は見たことが…。こんなのが地下に住み着いていたなんて…。」

エンドウたちは唖然としている。

「よし、総員、とりあえずこれを着用しろ。」

イクタが、見慣れぬスーツのようなものを取り出し、全員に渡した。

「これはなんでしょうか?」

「さっき解析した奴の成分から生み出した抗体で作った対策スーツだ。これなら、奴の放つ霧の中でも動ける。」

「流石はチーフ、お仕事が早い。」

「仕事が早いんじゃない。要領が良いだけだ。何せ、1時間近くも待ってたんだからな。それだけの時間があれば、ある程度の作業はできる。そんな事より、あそこにいる戦闘員たちにも渡してきてくれ。ある程度の距離にまで避難してもらわないと。それに、飛行機はおそらく使えない。まだ、機体を守る装置はないからな。お前らも、徒歩で安全圏まで後退しろ。」

「チーフは!?」

「あいつを怪獣兵器にしてやる。後方支援を頼みたい。早く行け。」

「了解!お気をつけて!」

サイエンスチームの部下たちは、指示通りに動き始めた。アイリスバードの中に残ったのは、イクタとエレメントだけである。

『さて、私の身体も少しの休息を取ることができた。完全回復とまではいかないが、ネイチャーモードでも3分は持つはずだ。その間に蹴りをつけるぞ。』

「あぁ。それに、思い切り戦っても味方を巻き込むことはない。あいつは殺す気で行かないと、生け捕りなんて無理な野郎だからな。」

『…私の休息に、特製スーツの作成。もしかして君は、わざと時間を稼いでいたのではないか?最初から、ゲフールが反応していた信号のことをわかっていた…。違うか?』

「…まぁな、わかっていた…とまではいかないが、大体の目星はついてた。スーツができる前に奴の目を覚ましても、逃げ遅れで死人が出る可能性があったからな。確かに、わざと時間稼ぎはした。奴の傷が癒えきれない程度の時間をね。あんたも察しが良くなってきたじゃないの。」

『当たり前だ。何度君と共に戦ってきたと思っている。それより、早く変身しろ。』

エレメントは、イクタを急かした。

「わーってるよ。」

イクタは、いつものミキサーが装着されている左腕ではなく、右腕を天に掲げた。

「デュアルケミストリウム!!」

右腕の装置、『エレメントブースター』が真白き閃光を放つ。

『ネイチャーエレメント!!』

赤と銀が主体の身体に、緑色のストライブが走る光の巨人。エレメントの強化形態、ネイチャーエレメントだ。

『シェア!!』

エレメントが、再びゲフールと対峙する。

『キィィィィィィィィィ!!』

ゲフールも大きく咆哮した。

「エ、エンドウさん!!あれ!チーフが…!」

「…えぇ、まさかね…。でもまぁ、今までのチーフの行動をよくよく思い出してみれば、チーフがエレメントだった、ということの裏づけもあったような、なかったような…。」

今まで散々、イクタに良い意味でも悪い意味でも振り回されてきたエンドウなのだ。もう今更、そこまで驚いている、という様子ではなさそうだ。

「さて、あんたのリベンジマッチだ。今度は上手くやってくれよ。」

『ふん。言われなくてもだ!ジャッ!』

エレメントは、姿勢を低くしたまま走り出し、ゲフールの懐へと突っ込んでいく。

『氷漬けは御免なのでな。水場から引き離す!』

しかしゲフールが大急ぎで水中に潜ってしまったため、この突進は外れてしまう。

「そうなんども、同じ手は食らってはくれないそうだ。」

『だが、それは私とて同じ』

エレメントはサッと飛び上がり、宙に浮かび上がり、そこで停止した。

『何度も、水を使った陽動の攻撃からの氷漬けという手順を、みすみすと受ける私ではない。』

「なるほど。あいつが水から離れてくれないなら、こっちが距離を置くという手法か。」

『ネイチャーモードの私は遠距離攻撃にも長けている。この私に隙はない。』

エレメントは両腕を大きく広角に広げ、両掌に力を込めていく。

『セヤッ!』

その両腕を、同時に、じわじわと天へと持ち上げ始めた。すると、湖そのものが、ゆっくりと上昇を始めた。

『ハァァァァァ…!』

さらにゆっくりと、しかし確実に腕を上げていくエレメント。直接手こそ触れてないものの、湖を持ち上げようとしているのだ。

「…こりゃすげぇや。」

流石のイクタも、目の前の光景に驚いている。

『ムムゥ……流石に重いな…。だが…シェア!!』

ついに、その両腕がピンっと天へと伸びきった。さっきまで湖だった、とてつもなく大きな水球体が、今目の前に浮かんでいる。ゲフールは、何が起きているのか理解できていない様子で、未だに水の中を泳ぎ回っている。

『水を扱いし怪獣め、その水でもがき苦しむがいい!ハァァァァ!!』

エレメントは、今度はその両腕の間隔を狭め始めた。それに連れて、水の塊も、側面から押しつぶされるかのように動き出した。まん丸だった球体が、徐々に楕円形へと変形していく。

『キィィィィィィィ!!』

突如加わった凄まじい水圧に、悲鳴をあげるゲフール。

「よし、このまま気絶させれば、俺らの勝ちだぜ!」

『……む!?』

エレメントは何かの異変を感じ取った。水の体積が、先ほどより僅かに増量したような気がしたのだ。

「どうした?」

次の瞬間、水の塊が、一瞬にして氷の塊へと変化した。その中から、ゲフールが顔を出す。

『キィィィィィィィィ!!』

「あの野郎、とっさに水を氷に!」

『…だが、何も変わらぬ!液体が固体になっただけだ。このまま押し潰す!』

「気をつけろ!あいつは、水より氷を巧みに扱うんだぞ!」

イクタの忠告が終わる前に、ゲフールが纏っている氷の塊から無数の氷柱のミサイルが飛んできた

「外側の氷から順に…。自らへの圧力を軽減しつつ、さらにそれを武器にするとはな。」

『くっ!だが、そんなつららが私に効くものか。』

エレメントは超音速でミサイルを回避し続ける。それに伴い、エレメントの腕からの拘束から逃れた氷の塊が、ドスンと地へ落ちた。同時に、圧からも解放される。

 全ての攻撃をかわしきったエレメントは、すぐに攻撃態勢に入る。

『圧がダメならば、氷を砕き奴を引き出すまでだ。君の腕でも砕けたものだろう。私なら、一撃で木っ端微塵だ。』

エレメントは利き腕である左腕にエネルギーを込めると、ゲフールへと突撃していく。

『シュワ!』

その拳を、思い切り叩き込んだ。しかし確かに大きなヒビを入れることには成功したのだが、粉砕とはお世辞にも言えたもんじゃないダメージしか通っていないようだ。

『…エネルギーの密度を上げ、硬度を高めていたか…。この私のパンチをも防ぐとは。』

「あんたってやつは、いつも美味しいところでこけるよな…ったく。ここは俺に任せろ。」

イクタは呆れながらそう言うと、カプセルを取り出した。

「ボムレット、頼むぜ。」

カプセルをアイリスリボルバーにセットし、引き金を引く。放たれた怪獣兵器はエレメントの胸の前でピカリと光ると、そこで実体化し、みるみると大きくなっていく。機械的で、銀色の、翼のない竜のような姿を持つ、ボムレットの登場だ。

「エンドウ!ボムレットに指示信号だ!行動パターンプログラム2を頼む!」

「了解!」

『おい、なんだその、指示信号ってのは?』

「怪獣兵器はどうやら、そいつを呼び出した者しか指示が出せないらしくってな。それじゃあ不便なこともあろうかと思い、怪獣の行動を予めプログラムして、それを電気信号として怪獣に飛ばせるように、専用のコンピュータを開発したんだよ。兵器とはいえ、生きている動物だからな。外からそういうのを流すことでもコントロールできる。まぁこりゃ、ある種の洗脳行為だがな。」

『…科学者とは時に残酷なものだな。他人のことは言えんが。』

「心配するなって。残虐な真似はしないよ。奴らは大事な戦力だからな。丁寧に扱うさ。」

そう言い終えた頃に、プログラムが開始されたのか、ボムレットが動き出した。

「ボムレットの爆破攻撃で、ゲフールの氷を破ります。エレメント、後退してください。巻き込まれますよ。」

エンドウが、マイクを通してそう言った。エレメントは無言で頷くと、数百メートルほどの距離を、後ろ向きにジャンプし引き下がった。

「ではいきます。」

『ギュルルルルルル!!』

ボムレットは大きく口を開け、顔の前にエネルギーの球体を生み出した。それを、ゲフールへと吐きつける。球体はゲフールに直撃する少し前方で、ピカッと光り、ドォォォォンという爆音を唸り上げ、爆発した。だが、決定的なダメージは通っていないようだ。

「まだだ。威力を上げろ。」

「了解。」

『ギュルルルルルル!!』

今度は、先ほどよりも大きな球体を連続で吐き出した。大地を揺るがす大爆発が、容赦なく、何度もゲフールを襲う。

『キィィィィィィィィィ!!』しかしゲフールも、一方的に攻撃されっぱなしではない。口から、あのエレメントを氷漬けにした光線を吐き出した。さらに、先ほどの氷柱ミサイル攻撃も同時に行なっている。

「避けて!」

エンドウの指示も虚しく、攻撃態勢に入っていたボムレットは、そう簡単に動作を解除し、敵の攻撃を回避するという行動は取れなかった。全ての反撃が、ボムレットを直撃する。あっという間に、大きな氷の像が完成してしまった。

『お、おい。ダメではないか。それに私の活動限界も近い…。イクタ、どうする!?』

胸のランプが赤く点滅し始めた中、エレメントがそう言った。

「もう大分弱らせた。氷の塊も、随分ともろくなっているはずだ。一気にカタをつける。ケミストリウムバーストだ。」

『か、構わんが、それだと奴を殺してしまうぞ?良いのか?』

「あぁ。ただし、ちょっとした細工をさせてもらうがな。エンドウ!エレメントの腕に、例のアレを!」

「了解!」

 

イクタの指示を受け取ったエンドウによる指示で、スタッフたちが動き始める。なにやら大きな装置を運び出してきたようだ。

『なにをする気だ?』

「今にわかるさ。おい、早くしてくれ!」

真っ白な箱のような構造で、先端には大きなパラボラアンテナのような部品が装着してある。スタッフの1人がスイッチを作動させると、そのアンテナ部の突起部に、エネルギーのような光体が、目視できるほどの大きさにまで膨らみ始める。

「発射!」

その掛け声とともに、エネルギーの球体は瞬く間に光線に変化し、エレメントの右腕へとまっすぐに飛んで行った。

『な、なんだこれは?』

その光線を受け、銀色のオーラに包まれた腕を見て、驚くエレメント。

「怪獣兵器から実体化させた怪獣を、再びカプセル内に戻す光線があっただろ。それを応用して、どうにか野生の怪獣をカプセルに収めることができないのか、研究をしていた。しかし、それは俺らの科学力だけでは無理だった。だが、俺らには、あんたがついていた。あんたの必殺光線の主要成分からその成分を担う元素の役割…全て調べ尽くしたさ。その結果、生まれたのがあの装置から放たれる光線だ。」

『…要はどういうことだ?』

「つまり、あんたの光線の成分と化学反応を起こさせることによって、怪獣をエネルギーに返還させる新たな必殺光線へと変化したんだよ。…とはいえ、もちろんまだ実験すら行っていない代物だ。なにも起きず、ただ普通にゲフールを殺すだけになるかもしれない。なにせ、完成したのが、ついさっき、だもんな?」

イクタが、エンドウに確認する。

「ええ。完成次第、こちらに持って来いとの命令でしたので。」

エンドウが返答する。

「ケース3ってのは、サイエンスチームの臨時作業のことを指すんだ。試験段階でも良いから、とりあえず大まかに完成次第、戦場に駆り出すということだ。」

『…この戦闘が初の実践実験…ということか。賭けに出たな、イクタ。確かに成功すれば大きい。それに仮に失敗したとしても、この強大な怪獣を駆除できる上に、その失敗から、より高度な新光線を開発できる。…わかった。このまま、ケミストリウムバーストを放つ!ハァァァァ…!』 

エレメントは、両腕を胸の前で交差させた。ミキサーとブースターが重なり、大きな光の球を生み出していく。ある程度膨らんだところで、腕の交差を解き、両腕を腰の位置まで下げ、腰を落とし重心を低くする。その瞬間、エレメントの周囲の大地がゴゴゴゴゴ…という音と共に震え、砂塵や大地の欠けらが宙に浮き始めた。それらは竜巻のように吹き上げ、エレメントの胸の前に浮いていた光球にも、稲妻のようなものが走り始めた。輝きと大きさがさらに増していく。

『ケミストリウム!バーストォ!』

エレメントは、光球を右腕で殴りつけた。殴られた面と対称な面が破裂し、その亀裂から必殺の光線が勢いよく飛び出し、ゲフールへと一直線に駆け抜けていく。

『キィィィィィィィ!!』

光線が直撃し、悲鳴を上げるゲフール。

「今よ!回収用のカプセルを、あの装置にセットしなさい!怪獣のエネルギーの吸引用意!」

エンドウが部下たちに、怒鳴るように命令を下す。

「わかってます!」

その直後、大きな爆発が起こり、周囲の木々や、ボムレットの氷像が吹き飛ばされた。

『…!失敗か!?…わ、私も限界だ…!』

爆風に耐えるために、姿勢を低くし、両腕を顔の前でクロスさせていたエレメントだったが、そのまま姿を消してしまった。

 

「お、おい!ぬおお!?」

爆風が収束しないうちに、上空へと放り出されてしまったイクタも、数百メートル飛ばされてしまう。しばらく飛翔したのち、大きな木にぶつかり、そこで停止した。

「いってぇな…テメェ、覚えとけよ。」

木にぶつかる瞬間、ミキサーから放たれたエレメントシールドの効力で、衝撃はだいぶ和らいでいたようだったが、それでも背中が痺れて、立つことすらままならない。

『すまない。ケミストリウムバーストはどうも、尋常じゃない範囲を巻き込む爆発を生み出す技のようだ。今回は私の力の残量も少なく、この程度で収まったが。』

「その上、一瞬でエネルギーを枯らす大技かよ。使い勝手悪いな、全く。」

『なにを、今回使えといったのは君だぞ。…まぁいい、それより、ゲフールはどうなった?』

「あぁ、確認しなきゃな。エンドウ!」

どうやら、まだ無線は繋がる範囲であるようだ。エンドウたちがいた場所は、ギリギリで爆風の圏外だったらしい。

「ボムレットは、寸前に回収できました。無事です。それに、微量ではありますが、ゲフールのものらしきエネルギーが、装置内に確認されています!」

「本当か!?実験は成功だったってわけか!」

「とはいえ…再び怪獣化させるのは難しそうです。本当に、僅かなものでして…。果たして成功と呼べるかは…。」

「…いいんだよ、それで。怪獣『兵器』って言うくらいだしな。怪獣化ができなくとも、何かしら用途はあるはずだ。科学ってのは、そうやって進歩していくものだろ?焦ることはない。」

「…そうですね。」

「これで、怪獣のエネルギー化には成功したんだ。次こそ、完璧な成果を出せば良い。エレメント、あんたにもフル回転してもらうぜ。」

『あぁ。ちなみに今、先ほどの君らの放った光線の解析中だ。いちいち、支援を受けているのではやりにくい。私もいずれは、自身の意思で、自身の力だけでもアレを撃てるようにしなくてはならんだろうな。』

「わかってんじゃねえか。でもまだ気がはやい。それは未完成のデータだからな。さて、帰るか。課題はまだまだ残ってる。」

イクタはアイリスバードに戻るために、痛む背中を気にしながらも立ち上がった。

『そういえば、ここの湖はなかなか見事なものだったがな。なくなってしまったな。』

水がなくなり、ただの大きな窪みとなってしまった、先ほどまで湖だった場所を見て、エレメントがそう言った。

「あんたがやったんだろ。あんた、俺にはエネルギーは節約しろと言うくせに、大分燃費の悪い、無茶な戦い方をするよな?」

『ははっ、すまないすまない。だがそれもあるが、最近対峙する怪獣が強力になっているというのもある。出し渋っていたら、こちらが負けてしまうのでな。』

「…それもそうだな。ネイチャーは確かに強いが、燃費が悪すぎるのが課題だ。今のままじゃ、いつか勝てなくなる時が来るぜ。」

『うむ……。』

「……やっぱり、あの力を自在に使えるようにならなきゃな…。いつまでもエレメントに頼っているばかりでは…。」

イクタは、自身の左腕を見つめながら、エレメントに聞こえない程度の小声で、そう呟いた。

『何か言ったか?』

「いや、なにも。」

異人の力、未知なるその力には、一つだけわかっていることがある。ただせさえ短いイクタの寿命を、さらに縮める、いや、最悪の場合は手を染めようとしただけで死に至る可能性だってある。強力な力というものには、必ずリスクが伴うのだ。だが、迫り来る決戦に備えるためにも、軽視できるものではない。イクタは、悩んでいた。

 

 

                                                    続く

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