一方、時を同じくして、地上、火星ともに決戦への準備を進めていた。遂に力が戻ったダーム、そしてその力を見せつけるマフレーズ。彼らの脅威が、知らずのうちに地下に迫っているのであった。
第19話「就任」
地下世界の人里離れた地帯の1つ。このエリアには、地下世界では他にはないあるモノが、観光名所として名を走らせていた。天井から吊るされるように構えている、通称『ハンギングマウンテン』という、大きな山である。
上述の通り、山といっても、地上にあるような物ではない。地下世界の構築における過程で、偶然生まれた、まるで山を逆さにしたような地形をそう呼んでいるだけだ。
もちろん、小さなものを含めれば各地で確認されているが、ここは少し特別なのである。まずはその大きさだ。天井とは、平均にして1000メートルと、充分な距離はある。しかしこの大きな「突起物」の全長はおおよそ600メートル。訪れた者は皆、異様な圧迫感を覚えるのだ。
そして何より、先端に噴火口のような窪みがあることが最大の特徴である。真下から見上げるその景色を求めて、多くの人々がやって来る。
無論この窪みは、学術的には何の価値もなく、所詮噴火口のような形をしているだけに過ぎない。数十年前にIRISが行った調査では、確かに、この山の最奥部ーといっても天井からさらに、地上に向かって数十キロ進んだところではあるがーに膨大なエネルギーを観測することができた。おそらく、マグマ溜まりではないのかと言われ、当時の学者により、きっと地上の線対称の部に、本物の火山があるのだろうと結論付けされていた。噴火のメカニズムから考えても、逆さにぶら下げられたこの窪みから、勢いよく噴火の起こる可能性はありえないのだ。そうでもなければ、とても真下に観光客を誘導することなどできない。
だがそんな場所で、明らかに異常な「何か」が蠢めいていた。
『ギュエェーーー!!』
真夜中、誰もいなくなったこの場所に、謎の咆哮が響き渡った。
「これがゲフールのエネルギー、ね。確かに少ない。」
研究室で、先日採取した怪獣兵器の元となるエネルギーを見つめ、そう言ったのはイクタである。
「でもまぁ、使おうと思えば何にでも使えるはずだよ、0じゃないんだし。」
自分に言い聞かせるようにそう呟くと、自らのデスクへと戻っていく。
「チーフ!次の改良案、できました!」
そこに駆け込んできたのは、彼の部下の1人である。彼らには、怪獣を生きたまま怪獣兵器に収容できるエネルギーに変換するための技術の開発を任せているのだ。
「お、早いじゃん。具体的にどこを改良するの?」
イクタは部下の持参していた資料を受け取り、軽く目を通した後にそう言った。
「エレメントの光線と反応させることが可能なことは先日判明しましたが、前回はエレメントの成分が占める割合の方が圧倒的に多く、あのような結果となりました。エレメントの発する光線の威力さえ抑えれば、こちら側の占める割合も相対的に増え、今の段階でもより良い結果を残すことはできるかと。しかし、威力を抑えるということは、怪獣を生け捕るため、前もってさらに多くのダメージを蓄積させなければなりませんので、それは厳しいです。よって、反応速度を限界まで早め、爆発的に光線内の成分割合を高める必要があります。」
「まぁ、そりゃそうだろうな。」
「なので、式から変更させるという案なのですが…いかがしょう?」
「その質問は間違ってる。はてなが浮かんだら気が済むまで実験しろ。それが俺らの仕事だろ。」
イクタはそう答えた。
「お、おっしゃる通りです!早速、試します!」
部下は慌てて、実験室へと走って行った。
「さてさてと、実験したいことが山積みだよ、まったくね。」
頭をぽりぽりと掻きながら、資料の山の一部を右手で掴み、流し読みしながらデスクを離れる。
「チーフ、どこに行かれるのでしょうか?」
イクタの右腕、エンドウがそう訊ねる。
「支部長んところだよ。すぐ戻るわ。」
短くそう返事をすると、そのまま研究室を退室した。
「ふんっ!!」
力を込められた右拳の中で、リンゴが弾け、果肉と果汁が飛散する。
「…力、かなり戻ってきたようだな、ダーム。」
その様子を見ていた銀色の長髪が特徴の青年、ローレンが声をかける。
「えぇ、お陰様で。もうしばらくお待ちいただければ、戦闘に出ることも可能でしょう。」
ダームと呼ばれた老人は、ウエットティッシュのような紙で、右掌に付着したリンゴの残骸を拭き取りながらそう言った。
「思ってたより早かったじゃねーの。じじいだから、時間がかかるもんだと思ってたぜ。」
ローレンの背後から、紫色の短髪の少女、キュリが現れた。
「私も驚いていますよ。やはりこの特異細胞の恩恵でしょうかね。」
ダームは右腕に視線を移しながら、そう話す。
「どのみち長くはない人生。あなた方と共に目的を達せられるのならば、この細胞の力を使うことによるリスクなど怖くはありませぬ。死ぬその瞬間まで、私の命はローレン殿、あなたのものでもあります。」
「良い心がけだ。…だが、後2週間は休んでいてもらおう。お前には万全の状態でいてもらわなければ困るからな。そこら中に転がっている無数の天然兵器、怪獣という生物も、お前がいなければ俺たちにも牙を剥くただの脅威だ。…ところで、同時に何体まで操ることができる?」
「そうですねぇ…。異人化を開放すれば、100までは大丈夫でしょう。その中に覇獣も含まれるとなると、少し減りますがね。奴らを制御するには、普通の3倍ほどの集中力が必要ですし。」
「でも、それをやったらすぐ死ぬだろ?ラザホーの馬鹿野郎だって、エレメントの戦いでは3分程度でバテていた気がするが。」
キュリがそう口を挟んだ。
「ラザホー殿は私よりも若かった。細胞も元気だったことでしょう。それに比べ私はもうこの齢。3分も持たないかもしれませんの。」
「ラザホーとお前はリディオ・アクティブ・ヒューマンになりきれていない存在だからな。開放状態を長く維持することはできないだろう。それに、せっかく100を操れるのに、秒でコロッと逝ってしまわれたら本末転倒だ。対策を練らなければならん。」
ローレンは腕を組み、そばにあったに豪勢で大きな椅子に座り、背もたれにぐでんと、全身をもたれさせた。
「思ったんだけどさ、無理に怪獣大軍団を用意する必要はないんじゃないか?」
そう言ったのはキュリだ。
「…お前はどう考えている?」
「その前に、ローレンの目には何が見えてるんだ?もうある程度結果もわかってるだろ。」
「いや…そういうわけでもない。未来予知は立派なリディオ・アビリティだ。自分の意思で使う使わないは選択できる。それにアビリティは使えば使うほどを死に近づく。イクタはいくらでも未来を書き換えていくから直前以外の予知はほぼ無意味だし、寿命の無駄使いにもなる。」
「前はあんなに予知しまくってたくせに。」
「人は失敗から学ぶ。それだけのことだ。」
あっさりと、これまでの行為が失敗であったということを認めるローレン。
「…で、お前の考えを聞きたい。」
ローレンは改めて、先ほどと同じ問いをキュリに投げかける。
「うちらは最初から少数の兵力しか持ってない。対して向こうは相当な科学兵力があるし、エレメントまで付いていやがる。でも、初戦、レジオンを送り込んだときは、たった1匹の怪獣だったのにも関わらず、大きな損害を与えることができた。もっとも、一番厄介な邪魔は入ったが。」
「そうだな。」
「でも当然ながらエレメントは世界にたった1人しかいない存在だ。だから考え方を変えれば、地下世界ってのはある意味、主砲が一門しかない超弩級戦艦みたいなもんよ。この表現で伝わるかどうかはわかんねーけど。」
キュリも頭が悪いなりに、懸命に表現を考えているようだった。
「なるほど。それに、撃てる砲弾にも限りがありますし、キュリ殿のように瞬時に別空間へ移動することもできない。しかしこちらは、地下の科学を大いに凌ぐ機動力がある。」
ダームには伝わっているようであった。
「つまり、だ。まずは怪獣を1匹送り込んで、エレメントをおびき出す。その隙に、各地にある敵の基地を1つずつ潰す作戦だ。これなら、じじいが同時に操る怪獣も少なくて済むし、私の移動回数も最小限に抑えると仮定するなら問題ないだろ。燃費良く潰せるはずだ。」
「…なるほどな。良い案だ。だがそれにはひとつだけリスクがある。」
ローレンは肯定しながらも、そう切り出した。
「リスク?」
「あぁ。前回の戦いは、戦場が地上だった。だからこそ、我々は終始有利にことを運べた。が、お前の作戦を採用するならば、戦場は当然地下となる。今度は敵が終始有利になる可能性もある。たった1つにして致命的なリスクだ。」
「…けど、どんな戦争にもノーリスクはありえねえ。その程度のものなら、力でねじ伏せるまで、でしょ?」
「あぁ……と言いたいところだが、今度の戦いばかりはそうもいかん。なぜなら、最後のチャンスかもしれないからだ。敵地に全力を注ぎ込むということは、万が一失敗した場合、ホームで防戦に徹していた奴らに最大の反撃の機会を与えることにつながる。一歩間違えれば、夢半ばに全滅だ。」
ローレンはそう語った。確かにその通りである。
「敵地に攻め込むには、大きな準備が必要だ。敵の基地の数、そして正確な座標を掴むことは言うまでもない。そして各基地の有する戦力、戦術的に有利な地形の先制獲得、駐留兵が最も少なくなる最高のタイミングなどなどだ。多くの情報を得なければならない。それはもちろん、地下の奴らがこちらに攻め込む場合も同じだ。だが、我々が得なければいけない情報の方が圧倒的に多いだろうな。奴らは前回の地上遠征で、多くのことを掴んでいるであろうし、奴らが出てくれば、我々は目的のため、必然的に出向かなければならない。このアジトを探る必要がないというわけだ。」
「そうか…。」
キュリも腕を組み、首を傾げた。考え込んでいるのだろう。
「…しかし、最も現実的な案でもある。情報は得れば良いだけの話だ。そうだろう?」
ローレンは立ち上がると、部屋の中央にある大机に、大きな地上世界の地図を広げた。
「分かっている敵の基地をおさらいしよう。まずはレジオンが襲撃し、エレメントが現れたこの基地だ。ちょうど、このエリアの真下にある。エレメントの到着時間の早さから考えうるに、イクタの在籍している可能性は高い。それに、大した数の戦術兵器を有していた。大きな場所なのだろう。そうしてもう一つが、キュリ、そしてラザホーがエレメントの大きなエネルギーを頼りに空間移動した先にあった、ここの真下にある基地だ。」
ローレンが、各地を指でさしながら説明していく。
「イニシアを連れて行った場所だろ?あそこはかなり広大な土地だった。それに奴らの言動や、最新モデルの戦闘機があったことからするに…本部の可能性が高い。」
キュリがそう言った。
「基地が二つ、場所まで分かっているというのは大きな強みだ。そこでキュリ、お前に今から任務を言い渡す。」
「なんだよ、任務とか言って改まっちゃって?」
「このデカい方の基地に行け。仮に本部ならば、全基地の情報が保管してあるに違いない。潜入し、それを奪い取るのだ。データとしてが叶わぬのなら、お前が頭の中に暗記してくるだけでも良い。正確なものを得られるのなら、お前に任せる。」
「け、結構失敗が許されない感じのマジなやつじゃん…。やり方も、私の勝手ってか?…こういうのはラザホーの役目だったのにな…。」
はぁ、とため息をつくキュリ。
「言い出しっぺなんだ。このくらいやれ。そしてダーム、万が一の場合はキュリをサポートしてもらうが、さっきも言ったが基本は休養だ。寝てろ。」
「了解いたしました。」
片膝をつき、そう返事をするダーム。
「と、いうわけだ。作戦開始!」
「へいへい。」
面倒そうに短く返事をすると、キュリは瞬時に姿を消した。
IRISTK-18支部の最上階、支部長室へとエレベーターで向かうイクタ。報告として上げなければならない、重大な仮説があるのだが、もしそれが真実だとしたら…厄介である。同時に、大きなチャンスでもあるのだが。
その道中、同じエレベーターに、とある人物が乗り合わせてきた。イケコマ隊員である。
「おう、イクタじゃないか。久しいな。」
実はトキエダの葬式以降、顔すら合わせていなかったのである。
「やぁイケコマさん、久しぶり。」
互いに軽く挨拶を交わした程度で、その後はしばらく沈黙が場を支配する。
「…お前には色々と驚かされたよ。大体の事情は、あの後支部長に聞いたさ。」
最初に切り出したのはイケコマであった。
「…そう。じゃあだいたい知ってるんだ?」
「まぁな…。文字通り、お前が最後の希望にして切り札だったってわけだ。こんな生意気なガキが…と癪には触るがな。」
イケコマは微笑みながらそう言った。
「おっしゃる通り、地下の切り札は生憎生意気でね。それでも、俺を頼らざるを得ないわけだ。悲しいことにね。」
少しニヤけながらそう返すイクタ。
「ふん。」
イケコマは苦笑した。ちょうど、彼の目的地である階まで登ってきたようだった。彼はそのまま、イクタには何も言うことなく、この小さな箱を降りて行った。
それから少し経ち、エレベーターは最上階へと辿り着いた。
「うーっす。」
支部長室の扉を、そう軽く挨拶のような何かをしながら開け、入室するイクタ。部屋の中には、なぜか情報局長、パイロット司令官も支部長のデスクの両脇に立っていた。
「おぉイクタか。都合がいい。ちょうど私たちも、お前を呼び出そうとしていたところだ。」
デスクに両肘をつき、重ねた両手の甲で鼻から下を隠したままで、支部長がそう口を開いた。
「局長に司令もいるのか…。何の用かな?」
「まぁ待て。まずはお前の用を聞こう。」
支部長等の顔は、決して険しいわけではないように思えた。ならば、大した用件ではないのかもしれないがーにしても、わざわざ支部の幹部を並べていることからーと、思考を巡らせていくイクタ。今それを考えても仕方がないと思ったのか、少し間を開けた後、イクタから話し始める。
「この前の霧の村事件に関しての報告書をまとめたから、それを持ってきたよ。ただ、気になることがあってね。」
「…順を追って、説明してもらおう。」
「そのつもりだよ。まず、消えた村人だが、怪獣の処理後の調査で湖の中にあった怪獣の巣の中から、氷漬けにされていた状態で発見された。餌にでもするつもりだったんだろうな。残念ながら、生存者はいなかった。」
「こ、この件はマスコミには伏せておきましょう。幸い、大きな話題にもなりませんでしたし…。これからという時に、また信頼が揺らぐようなことは…。」
いつものように、冷や汗をかいてはハンカチを当てているのは情報局長キヨミズである。
「局長、君は毎度毎度ビクビクしすぎだ…。イクタ、続けてくれ。」
支部長が半ばあきれた様子で、イクタを促す。全く、ここまでメンタルが弱いのに、よく情報局長という重要なポストが務まるものだ。いや、しっかりと勤めている姿はほとんど見たことがないがー
「例のその怪獣は、並みの怪獣とは力が大きく違った。エレメントだって、1度やられかけたほどだ。」
「ふむ、やはり、地上の奴らの関与の可能性が高いのか?」
支部長はそのことを懸念していたようだ。当然と言えばそうだが。
「いや、その可能性は著しく低いというのが俺の意見だ。」
意外な返答に、少々驚いたような顔を見せる幹部たち。
「と、いうと、あの怪獣は野生のものだっというわけなのか?だが、天井にはどこにも穴などなかったはずだ。」
「あぁ。つまり、この地下世界に棲みついている怪獣だったってわけさ。」
「何!?」
彼らの顔は面食らったような表情に変わった。そんな考えは微塵も持っていなかったのだろう。
「バカなことを言うな!この地下世界ができて150年、そんな話は聞いたこともない!」
司令がそう口を挟んだ。無理もないかもしれない。
「まぁまぁ、お前のことだ。しっかりと理屈をつけて、その仮説に至ったのだろうということはわかる。ただ、我々は科学者ではない。わかるように、簡潔に説明してくれないか?」
司令を宥めながら、話が脱線しないように調整していく。
「…まず、俺もあの怪獣が黒ローブの差し金である線も考えたさ。だが、索敵を仕掛けても、怪しい人影はキャッチできなかった。それに、あの巣を調査した結果だ、あれは1日や2日で作られたものでもないし、かなりの年季が入っていた。生物がそこで何年過ごしていたのか、という簡単な測定をする機械で実証済みだ。」
「…なるほど。何かのタイミングで地下にやって来ていた怪獣が、これまで長い間、そこに潜伏していたということかな?ではなぜ、このタイミングで…。」
支部長の表情が険しいものへと変化していた。もしイクタの仮説が正しければ、IRISは地下に眠る強大な脅威に全く気づいていなかったということになる。管理体制の欠陥が指摘されても返す言葉がないであろう。
「…原因は明確だよ。この地球に起きている異常のせいだ。前にも話したと思うけど、地球は50年もすれば、星としての機能を停止する。滅びるってわけだ。その予兆として、磁場やら何やらが狂い始めているんだろう。事実、巣に引きこもったあいつは、こちらが意図的に発信した異常信号に反応し、姿を現したからな。」
「磁場やら何やらって、そこをもう少し具体的に掴めないのかね?聞いたよ、異常信号を探知したら、全て保存してーという原始的な方法を使っているんだって?君なら、もっと効率と要領の良い案を生み出せるはずだ。」
キヨミズがそう口を挟んだ。腐っても情報局長である。イクタともあろう優秀な科学者が、最も重大な点を不透明なままにしているのが気に食わないのであろうか。
「そりゃ、少しでも解明しようと研究はしてるよ。ただ、俺は地球ってものに詳しくないんでな。何でかわかるか?資料がほとんど残っていないからだよ。教科書も参考書もなしに、専門学が学べるわけあるかってんだ。」
イクタはそう嘆いた。地球に関する情報は地下世界では最重要機密事項の1つに当たっているため、例えそれが幹部クラスの役員と雖も、全く知らされていないのである。地下最高の頭脳を持つ彼ですら、エレメントから話を聞くまでは、偽りの歴史を堂々と語っていたほどだ。
「…現本部長、ルイーズさんでさえ、その資料の中身を…いや、保存されている場所すら知らないともされているものだ。まして幹部ですらないイクタがそれを知ることはあり得ないだろう。具体的なものを掴むには時間がかかる。さて、少し脱線したが、君の話はまだ終わっていないのだろう?」
支部長が、レールからそれた話の軌道を修正する。
「とりあえず、報告の方は終了だ。でも話の続きはあるね。今回の事件は、地下に生息する野生の怪獣という不意をつく存在にしてやられたものだ。今後、同じような事件を起こすわけにはいかない。と、思ってな。地下全体に大きなエネルギーを探知するための大きな索敵を、コンピュータに現在進行形でやらせている。」
「んん?その口ぶりだと、まだ怪獣が地下に眠っているということか?」
司令官が眉を立てて、そう問いかけた。
「俺の予想の中ではな。一応、そう考えていた方がいいだろう。星という規模で狂い始めているんだ。まだ他にいるとしたら、そろそろ目を覚ましても何らおかしくない状況だしな。」
「むむぅ…。全体を通して、仮説であってほしいと願うばかりの件ですな…。しかしなぜ、こうも悪い知らせばかりがコンスタントにやってくるのか…。安息の暇もない。」
ため息を吐き、ハンカチで汗を拭き取っていくキヨミズ局長。
「運の悪い時代に生まれてきたことを恨むのだな。…報告ご苦労。地下に怪獣が眠っているという前提で、我が支部も動いていこう。コンピュータが何かを探知した箇所に、調査隊を送ることも必要になるだろうな。」
「そうしてくれると助かるよ。」
「…さて、次はこちら側からの用件を話すことになるが、いいかね?」
「あー…まぁいいけど。」
そういえばそうだった、と面倒臭そうに頭を搔くイクタ。
「すぐに終わる話だ。イクタ隊員、君の新たな配属先が決まった。」
司令官から、そう切り出した。
「配属先?俺サイエンスチームを離れるのか!?」
今度は彼が面を食らう番であった。思いがけない言葉に目を丸くする。
「そうではない。新たな小隊ということだ。故トキエダ隊長、リュウザキ隊員を含め、旧トキエダ隊は人員不足により解体された。君は今日付けで結成された『イクタ隊』の隊長に就任してもらう。これは命令だ。新エースとしての活躍を期待している。」
淡々と述べ終えた司令官。彼の顔はあいも変わらず無表情である。
「…俺が隊長?まじかよ…サイエンスの方のチーフもやってるんだ。給料上げてくれるんだよね?」
「それは、次回の給料日の振込額を見て貰えばわかる話だ。」
支部長はニヤニヤとしていた。これはおそらく、給与は現状維持ということだろう。イクタはため息をついた。
「そして肝心の隊員だが、昨季ルーキーの中から、特に成績が優秀なものを5人集めてきた。」
「全員去年の新人!?イケコマさんたちはどうなるんだ?」
「イケコマ等は既に別の小隊に組み込まれている。我が支部は特に人員被害の大きな支部だからな。大きな戦闘員編成を行なった結果だ。理解してほしい。」
イクタはうーむと唸った。部下という存在を扱うのは苦手なのだ。サイエンスの方は、彼の無茶振りや破天荒振りに唯一付いてこられるエンドウを重宝しているが、そのほかのスタッフの扱いは基本エンドウに任せている。新人ともなれば、付いてこられる人間などまずいないだろう。そうなると、どう接せればいいのかわからないのである。
「環境が大きく変わる。即答で返事ができないのも仕方があるまい。だが、君に時間を与えているほどの余裕はない。……丁度いい、支部長、その調査隊とやらが必要になった場合には、イクタ隊を行かせましょう。」
司令官がそう提案する。
「いい案だ。お前は不器用だからな。口であれこれと言うよりは、実際に部隊として任務に着任した方が、親睦も深まりやすいだろう。」
支部長は笑顔で、彼による意見に賛成した。
「…まぁ、俺に拒否権はないし、従いはするけど…。何だかなぁ。後になって、あんた等が人選をミスったことを後悔しないことを願っとくよ。」
イクタはそう捨てセリフを吐くと、支部長室を出て行った。トキエダ隊に所属している期間や、地上遠征の際には、時に隊長のように仲間に指示を出したことはある。それに、戦闘時の指揮力については、彼自身もある程度の自信を持っている。だがそれはあくまで、『優秀な一般隊員』としての立場でだからこそ取れた行動に過ぎない。
部隊の責任者がいかに大変なのか、トキエダの背中を長きにわたって見続けてきた彼にはよくわかっていた。周囲と比べ、頭10個ほど抜けた能力を有する彼が、ペーペーの新米部下を担当する。彼はこれを、どんな研究や実験よりも難易度の高いもののように感じていた。
地球から遠く離れた火星。赤い砂で覆われ、常に乾いた風が吹き抜けている、広大な砂漠地帯。ここでは、とある実験が最終段階を迎えようとしていた。
『マフレシウム光線!!』
身の丈60メートルはあるであろう、赤と青の巨人が、両腕を十字に組んだ。組まれた腕から発射された眩い光の筋が、遥か遠く、大きな岩を撃ち砕く。
「…合格だ。申し分のない威力だな。」
紺色のスーツに赤いネクタイという格好で身を包む、大柄な男が、満足気な表情を見せる。
「しかし大統領。今の光線は、そうなんども使えるものではありません。エネルギー補給の難しい敵地での戦闘が予想されます。機会をよく狙わなければなりません。」
彼の補佐官のような男が、そう話した。
「わかっている。だが、マフレーズはDr.リディオの遺産のデータに基づき、改良に改良を重ねた、全く新しいウルトラマンなのだ。地球でNo.13らしき反応が確認されたらしいが、奴では歯が立たんだろう。」
「…本当に謎だらけですよ、このウルトラマンという生物兵器は。未だに、No.13が存命だと聞いて耳を疑いました。奴らは不死身なのでしょうか?」
「さぁな。まぁ、我々の計画がうまくいけば何でもいい。我々のウルトラマンは、再び地球に秩序をもたらす。いわば神のような存在なのだ。人類は核を生み出した時、『太陽をも生成できる』と揶揄されたようだが、ついに『神』を人工的に生み出せるようになったのだ!ククク…。」
いつもはあまり表情を表に出さない彼であったが、今回ばかりは、笑いを隠しきれないほどに気持ちが高ぶっている様子だ。
「Dr.リディオにセンゲツ。奴らは地球を滅ぼした悪魔だ。悪のマッドサイエンティストさ。だが、感謝はしているよ!奴らの研究がなければ、私のウルトラマン、マフレーズは誕生しなかったのだからな!」
「その研究を指示したのも、当時のわが政府です。結果的には、奴らの成果ではありません。国の成果ですよ。」
補佐官が、高揚している大統領とは正反対に、落ち着いた様子でそう言った。だが、それを聞いた大統領の表情が一転、険しいものに変化する。
「そんな歴史は捨てろ。結果的にだ?地球が死の星になったのだ。もしそれが、我々政府による指示がもたらしたものだと知られたら、他の大国からの視線も異なったものになる。今、そのような状況を作るのはまずい。ウルトラマンは、奴らが勝手に生み出したもの。それでいい。」
顔をしかめたまま、大統領はそう言った。そんな彼の元に、等身サイズへと変身したマフレーズが、駆け寄ってきた。
『大統領、時間です。』
マフレーズの活動限界はおおよそ5分。それを過ぎてしまうと、どんな誤作動が発生するかわからない。
「そうだな。今日のところはこれで終わりだ。」
マフレーズをエネルギー供給装置に取り付けるために、彼を抱え、近接の施設へと向かう一行。マフレーズは、常に装置に体を繋いでいなければ、エネルギーの補給ができないのだ。ミキサーを自身で作成したエレメント=センゲツのようには自由に扱えないのがネックだろう。
砂漠の向こうに、その砂以上に赤く染めあがった小さな太陽が沈もうとしていた。
広大な敷地を持つIRISの本部基地。その中でも特に、土地の占有率が高い工場地帯の一角に、突如としてキュリが姿を現した。
「ふーい、着いた着いた。」
工場は主にロボットがメインで稼働している。その上、ここは基地の施設の中でも、生活必需品から軍需品など、多くのものを作り続ける最重要な地帯ではあるが、地上からの唯一の出入口である正面入り口から実に23キロメートルも離れており、さらには周囲を大きな壁に囲むという厳重体制であるため、人間による監視は少ないのだ。よって、人気は恐ろしいほどに感じられない。
「…なんだよ、やってきて5秒で即バトルみたいな展開かと思ってたのにな。誰もいないってか。拍子抜けだよ。…まぁ、見た感じ、結構奥地だな。ここくらいになれば、私でもなければ侵入できない場所っぽい。監視員を置かないことは、無能采配とは言えないか。」
周囲を見渡しながら、そうブツブツと独り言を呟く。
「さーて、何からしようかしらね。そこら辺の工場をぶっ壊せば、大きな痛手を負わせられるけど…。私1人だしな。派手なことして見つかったら任務どころじゃなくなるか。情報を奪い取るその瞬間まで、正体を晒すわけにもいかない…。」
しばらく、その場で考え込む彼女。
「…そうだ、その手があるか!私、思ったより頭いいのかもな!」
何やら名案が思いついたのか、1人ではしゃぐキュリ。誰も見ていないからいいものの、側から見ればただの変人である。普段はクールだが、感情の起伏が激しいようだ。
「そうと決まったら、すぐにやるわ。」
キュリは再び、姿を消した。
「チーフ!反応です!それも、かなり大きい!」
イクタが隊長に就任してから数日が経過した頃の出来事だった。研究室内に、エンドウの声が響く。それを聞きつけた職員たちが、エンドウのいるメインコンピュータ付近へと、何事かとぞろぞろと集まってくる。
「どうした?」
少し遅れて、イクタもやってきた。
「ハンギングマウンテンのエリアに、巨大生物反応です!おそらく、ゲフールクラスの怪獣かと!」
「…ふむ、やっぱりまだいやがったか…。すぐに支部長に報告しろ。それと、怪獣エネルギー化装置はどのくらいまで精度を上げている?」
「先日報告した改善点ですが、それを試し終えた段階です!しかし、まだ実験は…。」
数日前にイクタに報告をしていた部下が、そう答えた。
「また現場で試すだけさ。どうせ、俺が行くことになっているからな。」
イクタはそう言いながら、白衣を脱いだ。戦闘員でもある彼は、常に白衣の下に隊員服を着用しているのだ。
「あ、遅かれながら、隊長就任、おめでとうございます。」
「そんな大層なことじゃあない。むしろ、面倒ごとが増えるだけだ。めでたいものか。」
はぁ、ため息をつく。そう言えば、まだ隊員たちと顔合わせをしていない。何かと都合が合わなかったからである。それにしても、部隊での訓練もなしに即実践、しかもかなり強力な怪獣が相手となると、やはり不安以外何もない。
「ま、最悪俺とエレメントだけでどうにかするしかないな…。とりあえず行ってくるわ。」
準備が整ったイクタは、足早に部屋を退室しようとする。
「あ、待ってください!」
部下の1人が、彼を呼び止めた。
「ゲフールのエネルギーから作った、新しいアイリスリボルバー用の弾丸です。お役に立つかと。」
そう言いながら、水色に塗装された小さなかカプセルを手渡した。
「お、サンキュー。もらってくぜ。」
それをポケットにしまうと、今度こそ部屋を出て行った。廊下を小走りで駆けて行く。TK-18支部も結構大きめの施設である。研究室からは、ダッシュでも戦闘機格納庫まで3分はかかる。
「まぁ、色々と不安だけど、今度こそ、怪獣を俺のペットにしてやるぜ。」
そう意気込みながら、彼の新たな部下が待つ格納庫へと、真っ直ぐに走って行った。
続く。