ウルトラマンエレメント   作:ネフタリウム光線

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第2話「責任」

第2話  「責任」〜放射怪獣レジオン、迷子怪獣マヨエール登場〜

 

『シャァァッ!』

 

 大きく声をあげた光の巨人は、基地を守るように、怪獣の前に立ち塞がった。

 

『ガァァァァァァァ!』

 

 怪獣も吠えかえす。

「な、なんだあれは…?」

 二号機から、その光景を眺めていたイケコマは呆気にとられていた。それは基地内の首脳陣たちも同じであった。

「一体どこから現れたんだ…?」

 パイロット司令官が、誰に訊ねるわけでもなく独り言のように呟く。生き残ったアイリスバードはその隙に全機着陸を果たした。隊員たちが銃を構え、飛行機を降りる。

「今のうちに、市民避難の援護をしましょう!」

「そうだな。全員、避難援護に当たれ!」

「了解!」

隊員たちが市街地へと走りだした。

 

 

 

 その少し前であった。イクタはふと目を覚ました。無限に続いているのではないかとすら思える、光の中にその身を漂わせていた。

「…生きて…いるのか?」

イクタは自身の体を眺め回す。怪獣の光線に、アイリスバード諸共飲み込まれたはずなのだが、全身には傷一つ見当たらない。

 

『君は私が助けた』

その時、聞き覚えのある声がそう囁いた。夢の中に出てきた声だ。確かその名は…

 

「…エレ…メント…?」

イクタが記憶を掘り返しながら呟く。

 

『そうだ。私はとある人物に、君を救うように頼まれてやってきた。だが申し訳ない。君の友人を助けることは敵わなかった』

「友人……?…!リュウザキか!?あいつはどうなった!?」

『残念だが…』

 エレメントはそれ以上何も言わなかった。

「…そんな…。命を預けろと言った俺が生き残って、俺に命を預けてくれたリュウザキは死んだってのかよ…」

 イクタは嘆いた。

『悔やんでいる時間はない。私と一体化…ケミストして戦うのだ。あの怪獣、レジオンとな』

 エレメントはそう言った。

「悔やんでいる時間はないだと…?ふざけるな…。何故あの状況から俺を救い出すことはできて、リュウザキは見殺しにした!?答えろ!!」

 イクタは叫ぶように怒鳴った。

 

『…申し訳ない…』

 エレメントは黙り込んでしまった。

 

「…いや、俺も悪かったよ……。あいつの死は俺の責任であって、あんたの責任じゃない…」

 イクタも黙り込んでしまった。空間にはしばらくの間、静寂が訪れる。

『イクタ。私と共に戦うのだ。このままでは、さらなる犠牲者を生みかねない』

 エレメントの言葉が、静寂を切り裂いた。

「…あんた一人でにしてくれ。今はそんな気分じゃない」

 

『それは不可能だ。私の体は、君を怪獣の攻撃から守る時にそのほとんどが吹き飛んでしまっている。君と一体化しなければ、体を生成することすらままならないのだ』

 

 イクタは目を丸くした。

「…なんであんたは、そこまでして俺を守った?」

『言ったはずだ。とある人物に頼まれたのだとな』

「…それは誰だ?」

『今は開かせない』

 イクタは頭をかいた。こいつは肝心な、自分の正体についてほとんど話さない。このままでは、会話に進展など生まれないだろう。

「…わかったよ。リュウザキを殺したのは俺でもあるし、あの怪獣でもある。とりあえずあの野郎をぶっ殺す。で、どうすればいい?」

 

『これを託そう。左腕に装着し、ケミスト、エレメントと叫べばいい』

 

 イクタの目の前に、大きな円盤型のスピナーが目立つ、腕輪のようなものが現れた。

 

『エレメントミキサーだ。私の本体は、今はこの中にある。』

 

 その言葉の通り、声は今までのように遠くからではなく、エレメントミキサーから聞こえてきた。

 

『この空間の中は時間が流れていない。状況はあれからあまり変わってはいない。今からでも遅くはない。イクタ、変身だ』

 

「何かと都合いいな、あんた。…まぁいいや。ケミスト!エレメントーー‼︎」

ミキサーのスピナーが大回転。光の空間は急激に縮小し、イクタの体に纏わり付いた。その後、ミキサーから強烈な光が生じ、その光の中から現れたのは、みるみる巨大化していくエレメントの本当の姿だったー

 

 

 

 

 イクタ=エレメントの目の前には、リュウザキや三号機の隊員の命を奪った怪獣がいる。

『…シュワッ!』

 エレメントは地を蹴り、怪獣に正面から突っ込んだ。首元を掴み、チョップを繰り出す。

「…!巨人が動いた!」

 基地に残っていた職員たちは、撤退命令も忘れ、モニターに映った戦闘の模様を固唾をのんで見守っていた。

 

『ガァァァァァ!』

 怪獣は悲鳴をあげた。エレメントは、間髪入れずに蹴りやパンチを命中させていく。

 

『ハッ!シャアァ!』

 大きく吠えながら、次々に怪獣に攻撃していく巨人。どこか怒りに燃え、乱暴に戦っているようにも見えた。

 

『イクタ!落ち着け!それではすぐにエネルギーを消耗してしまう!』

 イクタの脳内にエレメントがそう語りかける。だがイクタは聞く耳を持たなかった。いや、まず自分が巨大なエレメントとして戦っていることさえ、理解しているかどうか怪しかった。変身するや否や自分の体を確認することなく、怪獣に突っ込んで行ったのだから。

「…あの怪獣に一方的に攻撃を…強い…」

 司令官たちも黙って戦闘を見ていることしかできなかった。

 

『シャアァァァァ!!』

 強烈なパンチが、怪獣レジオンの頭部を直撃した。あの重量系の岩石怪獣が、後ろに数十メートル吹っ飛んだ。ズシンッという鈍い音とともに、地面が大きく揺れる。

 

『グガァァァァ…』

 レジオンはうな垂れたように鳴いた。だが巨人は攻撃の手を緩めなかった。仰向けに倒れてしまった怪獣レジオンに近づくと、その背中に腕を回しー

「も、持ち上げやがった…」

 司令官が呆気にとられた。そう。レジオンを頭上に掲げたのだ。

『ジャアァァァァァ!!』

 そして思い切り地面へと叩きつけた。先ほどよりも重く鈍い音、そして震動が起こる。巨人は既に肩で息をしていた。胸の青色だった丸い光球体も、今では音を鳴らしながら、赤く点滅している。体重が重い分、とてつもないGがかかったレジオンは、悶絶し、起き上がることすらままならない。

 

『イクタ!ミキサーにエネルギーを充填するんだ!トドメを刺すぞ!』

 

 巨人は右腕を天井へと高く伸ばした。スピナーが回転し、周囲のエネルギーを集めていく。その後、右腕を前に、腕を胸の前で十字に重ねた。

『ケミストリウム光線!!シャアァァァ!』

 十字に組まれた腕から、レジオンの吐くものとは別種のようだが、同じく光線が放たれた。仰向けになっていたレジオンの腹部に無抵抗に命中し、レジオンは大きな悲鳴をあげながら、爆発し灰と化した。

 

 

 

 

 それから1時間が経過していた。IRISTKー18支部は臨時に、基地のロビーに全職員を招集した。生き残った人数を把握するためだ。支部長も、どうにか気を取り戻していた。

「固定砲付近にいたスタッフが67名死亡。航空機格納庫付近にいた隊員、及び職員が合わせて37名死亡。アイリスバードに搭乗し出撃していた隊員、計5名が死亡。先ほどの襲撃時に基地にいたスタッフ543名中、109名が死亡しました。重軽傷者を含めれば、大変な数になります」

 人事部がそう報告する。

「109名……」

 補佐官が絶句する。

「市街地への直接な被害はないため、今の所、市民の死傷者はいないとの情報です」

 避難のサポートをしていた隊員がそう報告した。

「しかし、あの巨人が現れなければ、もっと大変なことに…」

 情報局長は青い顔をしている。

「あぁ。どうにか撃破することができた。閉鎖する地区も最小限に止まるだろう」

 と司令官。

「しかし、我々は大きすぎる損傷を被った…。特に彼の死は…」

 支部長はまたもよろめき、気を失いそうになる。それを部下が慌てて支える。

 

「おっと、勝手に殺されちゃ困るぜ、おっさんたち」

 聞き覚えのある声だった。全員が声の方向へと振り向く。そこに立っていたのは、ほかでもない、イクタ・トシツキ隊員だった。

「……イクタ……なのか…?」

 支部長が今にも消えてしまいそうな声で訪ねる。

「あぁ。あの巨人が助けてくれた。俺は無事だ」

「そうか…そうか…!無事か!」

 支部長は相変わらず小さな声だったが、少し気力が戻ってきているようだった。

「しかしこのままでは終わるまい…これからが大変ですな…」

 情報局長がハンカチで額を拭った。

 

 

 

 

 局長の不安は的中した。翌日、早朝から基地はマスコミに取り囲まれていた。当初は塩対応を貫くIRISであったが、増えすぎた報道陣に押され、止むを得ず緊急会見を開くこととなった。

 

「えー、只今よりIRISTKー18支部による緊急記者会見を開きます…」

 支部長の一言により、記者からの質問が殺到する。

 

「IRIS内部に多くの犠牲者を出したようですが、それはIRIS組織の防衛力の不足から生じたと言えるのでしょうか?その辺に関して、どういった認識なのでしょうか?」

「怪獣来襲により、住居を失った市民に対して、どのような保険が下りるのでしょうか?」

 その他にも、矢継ぎに質問が飛んでくる。

「えー、私がお答えします」

 情報局長が立ち上がる。

 

「まずは、この度亡くなられたスタッフのご遺族の皆様に対して、謹んでお悔やみ申し上げます。彼らの知恵や能力には、これまで何度も助けられてきました。そのような魅力ある人材を108名も失ったということは、我々にとっても大きな損失となり、誠に無念に思っております」

 IRIS首脳陣は、揃って記者陣に対して、深く頭を下げた。カメラのフラッシュが連続する。

 

「しかしながら、我が支部の防衛力が不足しているということではない、と認識しております」

 

「…?」

 記者陣がざわつき始める。

 

「怪獣発生地点付近の住宅街は、物理的被害に加え、放射能汚染もあるので封鎖とさせてただきました。それに伴い、多くの市民の方々がお住まいを失われたことに関しては、本日午後中にも、保険制度のご案内などの情報を通知いたします。ですが、市民の皆様からは一人の死者も出ておりません。我々IRISの存在意義は、市街地の治安を守り、市民皆様の平和と財産、生命を守ることにあります。平和と財産に至っては、守り抜くことはかないませんでしたが、その生命を守り抜くことはできました。怪獣も撃退できましたし、防衛力の不足があるとは思っていません」

 

 局長はそう言い切った。再びフラッシュが連続する。

 

「しかし、さらなる防衛力を伴っていれば、スタッフの死傷者はここまで多くは出なかった。それは違いますか?」

「違います。それは結果論に過ぎないのではないでしょうか。いかに強大な軍事力を持っていたとしても、我々IRISが市民の盾となり戦う限り、犠牲は必ず生まれるのです。IRIS入隊の時に、入隊の決まった本人と、そのご家族には同意書にサインを頂いているはずです。IRISは、その命を市民に捧げた組織です!」

 

記者陣のざわつきが大きくなる。そこに一人の記者は手を挙げた。

 

「私からもいいでしょうか?TK毎日新聞のものです」

「どうぞ」

 

「怪獣を撃破した、あの謎の巨人。あの巨人は、IRIS管轄下の新兵器か何かでしょうか?」

 

 やはり巨人の存在を隠し通すことは不可能のようであった。実際、多くの市民にも目撃されている。

「…我々の管轄下にある存在ではありません。結論から言うと、まだ彼が何者なのか、それすらもわかっておりません」

記者の質問が、巨人に関することへとシフトした。

 

「正体不明ということでしょうか!?つまりIRISは怪獣の撃破を、正体不明の存在に先を越されたということですね。やはり、防衛力には欠陥があったんではないのですか!?」

 

「あのおそるべき怪獣をも撃破した存在です!かなり大きな力を持っており、危険な存在だと思われますが、次に怪獣と巨人、両方が出現した際には、IRISはどのような行動をとるのでしょうか!?」

「落ち着いてください!これにも私が順を追ってお答えします!」

 情報局長が記者陣を制する。

 

「待てよ」

 短い一言だったが、その声はかなりの声量だった。会見場の全員が、声のした方向へと顔を向けた。イクタだった。

 

「あんたらピーピーうるさいなぁほんと。俺が説明してやるよ」

 イクタはそう言うと、局長をどかし、マイクの前へと立った。記者たちはポカンとしている。

「おっと自己紹介がまだだったな。どうも、IRISTKー18支部のエースパイロットにしてサイエンスチームのチーフという肩書きを持った正真正銘の天才青年、イクタ・トシツキだ。以後お見知り置きを」

「ば…馬鹿者!なんで出てきた!?」

 局長が小声で怒鳴る。

「俺が馬鹿だって?あんたよりは頭いいよ」

「そういうことを言っているんじゃない!これは私たちの仕事だ!隊員は引っ込んでろ!」

 局長の制止を無視して、動こうとしないイクタ。

「イクタ隊員…とお呼びすればよろしいですか?」

 記者の誰かが訊ねる。

「いいよ」

 短く答える。

「ではイクタ隊員、あなたが説明するとは一体…?」

「俺はアイリスバード一号機に乗って怪獣と戦った隊員だ。だが俺の指揮のせいで4人もの隊員の命を犠牲にしてしまった。この場を借りて、遺族に謝罪する」

イクタは深々と頭を下げた。

 

「そして俺は、あの巨人に命を救われた。おそらく、奴と最初にコミュニケーションをとったのはこの俺だ。だから、俺が知り得る巨人の情報を、できる限り説明する、ということだよ」

記者陣から感嘆の声が湧く。

「巨人とコミュニケーション…それは具体的にはどのようなコミュニケーションでしょうか?」

 

「会話さ。我々地下人類の言語で、直接会話ができた」

 

 ざわつきが大きくなる。IRIS首脳陣も、思いがけぬ発言に目を丸くしている。

「あの巨人と会話ができるということは、あの巨人の…」

「あー。ちょっと待って」

 イクタが記者の質問を遮る。

「エレメント。それがあいつの名前だよ」

「…ではそのエレ…メント…?と会話をして、何か得た情報などはありますか?」

 

「まず言い切れることがある。エレメントは決して敵ではない。そのことに関しちゃ、俺のクビでもなんでも賭ける」

 イクタは堂々と断言した。

 

「なぜ、そう断言できるのでしょうか?その結論に至った理由を教えください」

 

「まず第一に俺の命を救ったこと。第二に怪獣を仕留めたこと。そして第三に、俺の搭乗してた一号機には、もう一人の パイロットが乗っていたのだが、その隊員の命を救えなかったことを深く詫びていたこと。この三つの事例でも、少なくとも敵ではないという結論に達するには十分なはずだ」

 

「……わかりました。現場の隊員の証言です。嘘ではないでしょう」

 記者たちが一斉に、記事にするためのメモを取り始める。チラリと見えたメモの主題には、『あの巨人は味方か。生死をさまよった隊員の証言』というのが見えた。よくもまぁ、この一瞬でこのタイトルが書けるものだ。流石にプロの記者たちである。

 

「それで、確か防衛力のうんたらに関しても、また質問があったよね?俺の意見は局長と同じだよ。我々は現段階でも既に強力な防衛システムを持っていると胸を張って言える。事実、これまで何百回という怪獣発生騒動が起きてきたが、その度に市民からの死傷者や、市街地への被害は一切出してこなかった。それだけ、今回現れた怪獣が規格外だったっていうことだよ」

 

「…ですが、怪獣発生時に我々が頼れる組織はIRISしかないわけです。そのIRISに、規格外だった、とか、想定外であった。そのような弁解をされても困るわけです」

 記者の一人がそう言った。

「無茶言うなぁ。まぁその通りだとは思うけど。事実我々は地上に関して無知すぎる。怪獣に関してだってそうだ。奴らがどれだけの数いて、どれだけの力を持ってるかなんて、正確に知れるはずがないじゃない」

 イクタはやれやれ、といった表情でそう言った。

「そ、そのように開き直られても困るわけで…」

「誰が開き直ってるって?……俺たちは無知だ。この天才である俺だって、地上のことに関して知ってることは少ない。何故なら情報がないからだ。天才っていうのは、与えられた情報、教わった知識を死に物狂いで頭に叩き込み、活用できる力を得た人間のことだ。故に俺は地上に関してはただの無知識野郎だ」

 イクタは続ける。

「だから必死に情報を得ようとする。実際、科学者でもある俺にとって、地下に紛れ込んできた怪獣は脅威でもあり貴重なサンプルでもある。そして沢山のサンプルから得られた情報を基に、今の防衛システムがある。今回はその上をいく怪獣が出たってだけだ。だから奴をもう一度分析し、今度あのレベルの怪獣が現れても対応できるようにする。それじゃいけないのか?」

「…最初から、ある程度の脅威レベルを仮想定し、高い水準の防衛レベルを築くことはできないんでしょうか?」

 記者はそう言った。

「できるよ。もっとIRISに資金があればね。そうじゃないからあくせくやりくりしてるんだよ。地下に紛れてくる怪獣ってのは、9割が地上での居場所を失った弱い奴らだ。あんたらは野良犬一匹追い払うのに、高価な戦術兵器を使うのか?そのためのお金をうちに落としてくれているのは、あんたら市民なんだぞ?」

 もう反論できる記者は一人としていなかった。

「…もう質問はないみたいだね。さぁ解散解散!こっちも忙しいんだ。帰った帰った」

パンパンと両手を叩きながら、イクタは会見場からマスコミたちを追い出した。

 

「イクタ、よくやった。市民からのイメージダウンは避けることができたかもしれん」

 支部長がそう言った。

「いやそれどころか、我が組織が常に市民の安全のために命をかけていること、そして発展を続けていることまでアピールできている。文句なしの会見だったでしょう。…口はすこぶる悪かったがね」

 補佐官も絶賛していた。

「別に。俺の防衛システムにケチつけられたのが気に入らなかったんだよ」

 イクタは面倒臭そうに言った。

「まぁ、結果オーライとしましょう…。ヒヤヒヤしましたよ」

 局長もひたいの汗をぬぐいながらそう言った。

「…でも、さっきも彼らの前で言ったように、4人を殺したのは俺だ…。少し一人になりたい。任務があれば、他の隊員を使ってくれ」

 イクタはそう言って、基地へと戻って行った。

「…大丈夫ですかねぇ、イクタ君。あぁはしていますが、結構引きずるタイプですよ彼は」

 補佐官がそう言った。

「特にリュウザキ隊員の死は大きい。イクタが心を許して話せる、唯一の隊員だったからな…」

 司令官も腕を組んだ。

「彼には早くいつもの様子に戻ってもらわないと…。彼自身も、1日1日を無駄にはできない体だ。まさか、自殺だなんて考えてなければいいんだが…」

「支部長はいつも考えすぎなんですよ。イクタ隊員のことが心配なのはわかりますが…。なに、奴はそんなタマではないですよ」

「…だと、いいんだがな…」

 首脳陣たちは会見場の後片付けに取り掛かった。

 

 

 

 

『ケミストリウム光線!!シャアァァァ!』

 

 

 時間は1日前に飛ぶ。エレメントとレジオンの戦闘を、リアルタイムでモニタリングしている謎の集団がいた。

 

「ふぅむ。レジオンが敗れるとは…。エレメント、思いの外強いな」

 

 そう唸ったのは黒ローブに身を包んだ、初老を迎え始めている、おそらく50代であろう男性だった。

 

「いや、それよりも地下人類の科学力に驚かされたぜ。あたしがあのミサイルを処理しなかったら、人間だけにレジオンを殺されるところだったぞ」

 

 同じく黒ローブに身を包んだ10代半ばの少女が、演技ではなく本当に驚いているように言った。どうやらこの集団は、全員が黒ローブを着用しているらしい。

 

「まぁ、当初の目的は成功しましたな。あわよくばレジオンだけで最終目標まで達せれば…とも思っていましたが、そう甘くはなかったですね」

 かなり歳を食っていそうな白髪の男性がそう言った。

 

「それは甘く考えすぎだ、ダーム。だがお前の言う通り、敵の戦力、対応力、そして地下への怪獣運搬の実験。この作戦は成功した」

 ダームと呼ばれた老人の呟きに対して答えたのは、リーダー格らしい10代半ばの少年だった。

 

「だが一つ計算外のことがあったとすれば、あの巨人の出現だろう。エレメント…なぜあいつがこの時代に…」

 リーダーの少年は腕を組んだ。彼は、考え事をするときには、座って腕と足を組む癖がある。

 

「エレメントはあたしたちの敵!ローレン、まずは復讐が先だ!」

 少女が叫ぶように言った。

 

「落ち着け、キュリ。我々の復讐の対象はエレメントだけではない。それに、物事は順序をしっかりと組み立ててから実行に移す。その時々の感情だけで動いても、失敗するだけだ」

「…わかった。ローレン、お前を信じる」

 キュリと呼ばれた少女はそう言った。

 

「で、ローレン。次はどうする?お前には今、何が見えている?」

 50代くらいに思える男性、ラザホーがそう訊ねる。

 

「まだ未来は動いていない。エレメントも、しばらくは放置で良さそうだ。だがこいつ…ひょっとしたら俺やキュリと同じ人種かもしれん」

 ローレンがそう言って指した人物は、イクタ・トシツキだった。

「こいつの未来は読めない。キュリと同じだ。こいつも何らかの能力者だろう。気をつけた方がいいな」

「こいつか?ローレン、こいつアレだぞ。エレメントに変身した奴だ」

 ラザホーが言った。

「…なに?」

 

 

 

 

 イクタは一人、基地の屋上の隅っこの方のフェンスに腰掛けて、天井を見上げていた。地下には当然ながら空がない。故に、空の色で時刻を知ることは不可能に近いーそもそも現代を生きる地球人は、青い空や夕焼けを見たことがないからなんでもないのだがー腕時計を確認すると、時刻は午後16時前であった。ここでこうしているうちに、かれこれ3時間が経過していた。

 彼はここで、昨日の戦闘を思い出していた。未知なる力を持った怪獣だったのだ。もう少し慎重に戦っていれば、三号機のクルー達は死なずに済んだかもしれない。自分が恐怖に支配され、考えることを放棄しなければ、リュウザキも生きていただろう。いや、あの時自分も死んでおくべきだったのだ。エースにはエースの責任がある。リュウザキの命を預かった責任もあった。遂にその両方共に果たせなかったのだから。

 

「この死に損ないめ…」

 このセリフは自分に対して吐かれたものだった。

 

「やっぱりここにいたな?イクタ。」

 不意に聞き慣れた声がした。その方向を振り向くと同時に、頭にコツンと缶コーヒーが当たった。

 

「…トキエダ隊長…」

 そこにはイクタをIRISにスカウトした張本人、トキエダがいた。

 

「お前が悩み抱えてる時は、大抵ここにいるからな」

 よっこらしょ、とトキエダはイクタの隣に座った。

「やっぱ昨日のこと、思いつめているのか?」

「そりゃそうでしょ…。しかも俺だけ中途半端に生き残ってしまったんだよ…。リュウザキのやつ、今頃なんて思っていやがるかな…」

 イクタは缶コーヒーを開け、一口口にした。しかしその直後、顔を歪める。

「…トキエダさん。俺甘いの苦手なんだけど…」

「ははは。すまんな。だがこういう時に苦いものは飲むものじゃないぞ。冗談抜きで、精神的にも苦い思いをしちまう」

 トキエダも、缶コーヒーを口にする。

「でもなイクタ。今回の問題で頭抱えてるのはお前だけじゃない。それを知っておいてほしいな。」

 トキエダが立ち上がる。

 

「俺はこのIRISTKー18支部パイロット隊長。階級的には、補佐官の下に当たる結構なポストだ。だが隊長である俺は、他の任務があって、現場にいることができなかった。それが何を招いたのか。それはお前が、パイロット達の死の全責任を負わせられたかのような風潮だ。俺が出動できていれば、同じ結果だったとしても責任は俺が取れたが、実際はそうじゃなかった。本当は、お前が今こうして悩む必要もなかったわけだ。この件に関しては、俺の責任だ。お前のではない」

「…それは違う。あいつらは現に俺の指揮のせいで…」

「まぁ最後まで聞けや。そして補佐官や司令は、俺を別任務につかせてたことを後悔しているし、支部長は支部長で、人事配置の欠陥があったことに後悔している。結局みんなそうなんだよ。これだけの人が死んだんだ。それぞれが、それぞれの責任を感じて当然なんだよ。お前だけが思い詰めているんじゃないんだ。それに、お前にはまだ死んでもらうわけにはいかない。生かされた命を、今後どう活かしていくのか。それはお前の自由だ。だが、108名の死を無駄死ににすることだけは許されない。それが、能力者であるお前が本当に感じ、果たすべき責任だ。こんなところでクヨクヨしている暇があったら、今できることをやれ。以上」

 トキエダは大きく背伸びをすると、グイッと缶コーヒーを飲み干した。

 

「……そうだな。あいつらの死のおかげで、取得できたデーターもある。ありがとよトキエダさん。励ましてくれて」

 イクタはそう言って、屋上を後にした。それを見届けたトキエダは、人知れず涙を流した。

「…本当に…本当にすまなかった…。この俺を許してくれ…」

 その言葉は、おそらく天へと旅立った部下達へのものだった。

 

 

 

 

 サイエンスチームの部屋へと戻ったイクタは、早速自分のデスクに腰をかけた。

「あの怪獣の分析はどの程度進んでる?」

 イクタが部下達に訊ねる。

「今一部の職員が、防護服を着用して現場検証に向かっています。彼らが、奴の出した放射能を調べています。怪獣の破壊光線の分析は既に完了しました。…ですが、今の地球に存在する鉱物で、果たしてあの火力に耐えうるバリケードを作れるかどうか…」

 部下の一人がそう答えた。

「私はあの怪獣の行動パターンをプログラミングしましたが、チーフのご指摘通り、やはり不可解な点が多くあります。まず間違いなく、地球生え抜きの野生の怪獣ではないでしょう。意図的に、行動プログラムが仕組まれていたとさえ思えます。それに、放射能を撒き散らす怪獣など聞いたことがありません」

女性スタッフがそう答えた。

「……」

イクタは額に手の甲を当て、しばらく沈黙した。

 

「…そうか。だとすると、敵はおそらく俺たちと同じ人間だろうな」

 イクタはそう断定する。それ以外にはあり得ないだろう。

 

「…ですが、地下世界で最も先を行く科学技術を擁しているのは我々IRISです。ということは、組織内に裏切り者が…?いやでも、確か昔本部で怪獣兵器の開発実験が行われ、失敗したという報道もありましたよね?あのレベルの怪獣を生み出せる支部などどこにも…」

「誰が地下人類が敵だと言った?」

 イクタが部下の言葉をさえぎった。

「え?…それはどういう…?」

 

「…整理しよう。襲ってきた怪獣は、襲来No.345、固有名放射怪獣レジオン。この名前は今俺がつけた。従来の怪獣と違い、明らかに人間への攻撃意思を持っていた。加えて我々の擁する火力兵器の一切を通さない硬い装甲、アイリスバードすらも一撃で粉砕する破壊光線。体中から常に放たれている放射線。どこをどうとっても、まるで人類を滅ぼすために生まれてきたような怪獣だった。この怪獣からは、幾つかの人間的意思を汲み取ることができた。まずは、我々の出方を見る、ということ。人為的な何かを感じた怪獣はこれが初めてだ。おそらく、敵側としても、初の目論見だっただろう。敵の最終目標は、レジオンの性能を見ればわかる通り、我々人類の絶滅だろうな。だから敵はまず我々の出方を知る必要があった。我々の戦力や対応力の確認といったものがそれだ。今回の怪獣事件は、敵側の実験にすぎない、というのが俺の見解だ」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。その敵、というのは一体…?」

 たまらず部下が質問する。

「さぁな。さすがにそれはまだわからん。もしかしたら、人間じゃなくて宇宙人かもしれない」

「そりゃそうですよ。人間はみんな、地球の地下で暮らしているんだから」

 イクタはこれを聞いて思い出した。エレメントから、世界大戦の後の人類分布を聞かされていたのは、そういえば自分だけだったのだ。それを忘れて、部下たちもそのことをわかっているという前提をもとにペラペラと喋ってしまった。道理で、反応が悪いわけだ。

「しかし実験というチーフの推測が当たっていたら、恐ろしいですね。あれ以上の怪獣がそうなんども現れたら、本当に人類は滅亡してしまう」

「そこが問題だ。人間と怪獣、時間が経つにつれて、不利になるのは人間の方だからな…」

イクタが腕を組んだところに、現場検証に向かっていたチームからの連絡が入った。

「チーフ大変です!驚きの結果が出たんです!!」

通信を入れるや否や、甲高い声が部屋中に響いた。

「うるさいなぁもう。落ち着いて話せよ」

 

「落ち着いてなんかいられませんよ!あの巨人、エレメントの光線の成分が付着した部分が見つかったので、試しにそこも測定してみたんです!そうしたら、何がわかったと思います?」

 

「…?」

「その部分だけ、放射能濃度が基準値をはるかに下回っていたんです!エレメントの光線には、放射能を除去できる力があるんです!!」

 イクタはしばらく黙った後、ニヤリと笑った。

「そいつはいい報告だ。引き続き検証を頼む」

 そう言って通信を切った。

「諸君。どうやら我々は、受け身になるだけではなさそうだ」

 

 

 

 

 レジオンの襲撃で住まいを失った市民への保険が下りた。IRISが万一に備えて建設していた、避難民を収容できるだけのマンションに、街の復興まで無償で住んでもらうというものだ。

 

「…とはいえ…。放射能の半減期はいろいろあるが、50年以上かかるものが多い…。いつまで住んでもらうかだな」

 支部長が頭を抱える。

 

「50年といえば、イクタくん曰く地下に放射能が到達する年数になりますね…。星が滅ぶのもその頃でしょう」

 補佐官も腕を組んで唸った。

「イクタといえば、あいつ、放射能クリーナーの開発に取り掛かったようですよ」

 司令官がそう言った。

「放射能クリーナーといえば、これまで何度も開発に失敗したものじゃないですか。いくら彼でも、あの装置は無理ですよ」

 局長がそうだれる。

「放射能を除去できる力…それがあれば市民たちの住宅街を取り戻せる。いや、そればかりではない。下手したら、地球の地上に戻ることができるようになるかもしれない」

「それは夢を見過ぎですよ支部長。仮に装置が完成したとして、どうやって地上に行くんですか」

「それはそうだが…」

 その時、怪獣警報が荒々しく鳴った。

「…!昨日の今日でまた怪獣か…!」

 支部長の顔が青くなっていく。

「ま、まずい…また昨日クラスの怪獣が来たらおしまいですよ…」

 局長は冷や汗が止まらないのか、ハンカチを額に当て続けている。

「司令官。直ちに基地内のパイロットを招集。出動させたまえ」

 支部長が司令に命令する。

「了解!」

 司令が通信室へと走っていく。

「あ、待て。イクタは連れて行くな。あいつはまだ立ち直っていない恐れがある。下手に行かせたら、チームに悪影響だ」

「…了解」

 

 

 

 

 その怪獣警報は、当然ながら市街地にも鳴り響いていた。

「また怪獣だ…!もう人類はおしまいだ…!」

 逃げ惑う人々の中から、誰かが、大声で叫んだ。

 

『ギエーッ!』

 

 そう遠くはないところから、怪獣の鳴き声が聞こえる。そしてその直後、ジェット飛行機のエンジンの爆音が、群衆の後ろで響いた。アイリスバードが発進したのだ。

 

「二号機から。こちらトキエダ。目標を確認。あれは見たことのある型だな。確か固有名は…

「迷子怪獣マヨエール。これまで何度も観測されている怪獣だ。よかった。奴らに攻撃意思はない。地上へ送り返す作戦をとる」

 

 司令が作戦を下した。マヨエールは、青白い体を持ち、長い尻尾、そして縦長い耳が特徴の怪獣だ。そのサイズもまちまちで、一番小さいものでは4メートルの個体が確認されている。ネズミの一種が、遺伝子変化で怪獣化したものではないかという仮説が立てられている。おそらく地球で最も多く生息している怪獣だろう。

「了解」

 トキエダは短く返事をすると、操縦桿を握り、徐々に高度を上げていく。

「とはいえマヨエールは中型サイズの怪獣だろ?ありゃ50メートルはあるぞ…?」

 補佐官が呟く。マヨエールと呼ばれた怪獣は、道に迷ったかのように、辺りを二足歩行でふらふらと歩いている。アイリスバード二機は、二手に分かれてマヨエールの周囲に回り込んだ。

「催眠ミサイル、発射!」

 怪獣の付近に催眠ミサイルが着弾。催眠ガスが多量噴射され、マヨエールの周囲にモクモクと立ち込める。

「…司令、ダメです。怪獣の身長が高すぎる。怪獣の口及び鼻までガスが届きません」

「ガスは4〜30メートルクラスの怪獣を対象に作られているからな…。仕方ない。直接催眠ガスを、奴の頭部にぶち込め」

「了解」

 

 二機のアイリスバードは、大きく旋回し、マヨエールの顔面と向き合う高さにまで、高度を落とした。それを見ていた市民たちには、不安が募っていた。

 

「…おい、IRISのやつら、攻撃用の武器を使っていないぞ…。地上に送り返す気か…?」

 

「ふざけるんじゃねーぞ!地上に送り返しても、どうせまた地下に降りてくるんだろ!?じゃあここでぶっ殺せよ!市民の安全を守るのが、IRISの使命なんじゃないのかよ!?」

 

 その意見はたちまち市民間に波紋し、避難民の集団は一瞬にして、IRISに対する不満や暴言を吐く暴徒と化した。ただ事ではない、とアイリスバードは一旦作戦を中止し、高度を取り、天井すれすれの上空を旋回する。基地から司令が出て来た。

「市民のみなさん!落ち着いてください!あの怪獣はこれまでに何度も確認されている、ただの迷子怪獣です!攻撃意思を持ってはいません!」

司令が大声で説得する。

「んなこと聞いてるんじゃねーよ!何度も現れてるってことは、何度送り返しても無駄だっていうことだろ!?」

「そういうことじゃない!怪獣だって、我々と同じ放射能の被害者だ!同じ地球上の命だ!我々に対して脅威を振りかざさない限り、我々はその命を守る!」

「怪獣が現れた地点で、俺たち無力な市民にとっては既に脅威なんだよ!あんなバケモノが同じ地球上の命だ!?放射能で遺伝子がいかれちまった怪物の命を守っている間に、人間が死んだら、誰がどう責任取るってんだ!?あぁ!?とっととぶっ殺させろ!」

 市民のヘイトは一気に司令へと向かった。抑えきれなくなった司令は、止むを得ず、トキエダに通信を入れた。

「…トキエダ!作戦変更だ!止むを得ん。攻撃開始!マヨエールを撃破せよ!」

「おいおい大丈夫なのかそれで……トキエダ了解。作戦開始」

 

 ちょうどその光景を、基地の内部から見下ろしていたイクタは、先ほどの市民の言葉が引っかかっている様子だ。

 

「俺は市民目線だと怪獣みたいなものなのか」

 アイリスバードは、羽根の内部に隠れていたレーザー機銃を装備した。

「…攻撃する気か?全く、司令ったら、肝心なこと忘れていやがるな…。まずいぞ…」

 レーザーがマヨエールに命中した。マヨエールは悲鳴を上げるや否や、体の色が赤色へと変色していった。

『ギエェェェェ!!』

「あいつ怒ると鬼強だからなぁ」

 イクタはフーッとため息をついた。

「!!目標、赤色へと変色!一旦距離をとります!」

 この判断が1秒遅れていたら、トキエダは死んでいただろう。今この瞬間まで二号機がいた場所を、マヨエールの火炎放射が襲った。

「…こいつ、火を吐きやがるのか!?」

市民たちはIRISへの不満も忘れ、悲鳴を上げながら避難所へと走り出した。中には、親とはぐれた小さな子供達や、足の不自由な年寄りが取り残されているのが多々見受けられる。

「…俺はあんたのことをもっと知る必要があるし、今この場面ではあんたの力が必要らしい。行こうぜエレメント。ピンチを救うヒーローってのは、満を辞して登場しなくちゃな」

 左腕にエレメントミキサーを装着したイクタは、現場へと向かった。

 

 

 

 

 アイリスバードは果敢にレーザーでの攻撃を続けていたが、火を吐くマヨエールには近づけず、ミサイルなども発射したあかつきには、空中で誤爆して思わぬ被害を招きかねない。

「これじゃ埒が明かない…。俺にイクタほどの技術があれば、懐に潜り込めるのに…」

 苦戦するトキエダたち。その戦闘の様子を見上げながら、こっそり基地を抜け出し、現場に到着したイクタは、影に隠れて左腕をかざした。

 

「ケミスト!エレメントー!!」

『シャアァァ!』

 

 その時、TKー18エリアは眩い光に包まれた。光の中から現れたのは、光の巨人、エレメントだった。

「エレメント!また現れたのか!?」

 支部長が思わず立ち上がってそう言った。

 

『イクタ。昨日は乱暴に戦いすぎだ。私にも活動限界がある。より長く戦うためには、力に緩急をつけて上手く節約していかなくてはならんぞ』

 エレメントが、イクタの脳内にそう語りかけた。

 

「了解。省エネってやつだな」

 エレメントは地を蹴り、素早くマヨエールの懐へと飛び込み、首に絞め技をかける。

『ギエェェェェ!』

 マヨエールは悲鳴を上げる。

「…エレメントが首を絞めている今がチャンスだ。四号機、叩き込むぞ!」

 二機のアイリスバードはマヨエールに突っ込み、ミサイルを連射した。マヨエールの体に、間髪なくミサイルが着弾する。

『ギエェェェェェェ!』

 爆風に耐えきれず、マヨエールは吹っ飛んだ。エレメントは巻き添えを喰らわぬようにと、吹っ飛ぶ直前に腕を離した。マヨエールはすぐに起き上がると、怒り狂い火球を連射した。アイリスバードはギリギリで避けたが、エレメントは被弾した。

 

『ジャアァッ!ノワァァ!』

 エレメントが悲鳴を上げる。

 

「アッチーなこれ。あの火をどうにかしないといけないな」

 イクタはそう呟いた。

 

『ではエレメントミキサーでタイプチェンジだ。空気中の水素と酸素をかき集めよう』

 

 エレメントがそう言った。

「タイプチェンジ?なんだそりゃ?」

『いいからやりたまえ』

 巨人は左腕を天井へと掲げた。腕のミキサーのスピナーが回り始める。

 

『ケミスト!ハイドロエレメント!』

 

 ミキサーから機械音声がなると、赤と銀の二色だったエレメントの体が変色。青と銀色の戦士となった。

「お、変わった」

イクタは目を丸くした。

「これなら有利に戦える。突っ込むぞ」

『シャアアァ!』

エレメントはマヨエールの元へと走っていく。

『ギエェェェェ!』

マヨエールも火球で応戦する。だが、水をまとい、ウォーターソードと化したエレメントの右腕が、その火球を悉く撃ち落としていく。

『シャア!』

その右腕は、マヨエールの腹部を殴打した。マヨエールは片膝をついてしまう。

『トドメだ。ハイドロケミストリウム光線!』

多量の水分を含んだケミストリウム光線が炸裂。マヨエールは爆死した。

 

 

 

 

 勤務時間終了後も、イクタは一人開発室にこもって、エレメントミキサーの研究をしていた。

『イクタ、何をする気だ?』

ミキサーから、エレメントが話しかける。

「あんたのことをもっと調べるんだよ。俺が思うに、あんたにはこれから人類の可能性が多く詰まってる。あんたの使い方次第では、人類は元の輝きを取り戻せるかもしれないしな」

 

『…そうか。真実を知ったものとして、実に正しい行動だ。流石は、リディオ・アクティブ・ヒューマンと言ったところか』

エレメントが感心したように言った。

「…あんた、俺のことをどこまで知ってる…?」

イクタは作業の手を止めて訊ねた。

『私は君の全てを知っているよ。イクタ・トシツキくん』

「…?」

イクタは顔に怪訝な表情を浮かべ、エレメントミキサーを直視した。

 

                                                続く

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