ウルトラマンエレメント   作:ネフタリウム光線

20 / 37
 悲願の怪獣兵器獲得へ、動き出したのはIRIS期待の新部隊、イクタ隊だった。隊長以外全員が新人という斬新な部隊なのだが、果たして彼らはどこまでの活躍を見せるのか。
 そしてIRISの情報収集へ、黒ローブのキュリが本格的に行動を開始する。決戦前の最後の準備へ、それぞれの任務が始動する。


第20話「始動」

第20話「始動」〜炎獣マグナマーガ登場〜

 

「初めまして!イクタ隊長!!」

格納庫へと駆けつけたイクタを待っていたのは、彼の部隊に配属されることとなった、5人の新人戦闘員たちだった。ビシッと、敬礼を決めている。

「うーす。俺がお前らの隊長に就任した、イクタ・トシツキだ。昨年1年間でみっちりと訓練は積んでいるとは思うが、やはり初任務だ。緊張もしてるんじゃねーの?それに、俺はお前らのことを知らん。緊張ほぐす程度に、適当に左から自己紹介してくれ。」

「はっ!自分はキョウヤマと申します!航空技術では、昨季ルーキーでトップの成績を残しました!」

身長の高い、大柄な男が叫ぶように自己紹介をした。髪の色は黒で、装飾品にも派手さがない。パッと見た感じでは、真面目で誠実そうな人間だ。

「おっけー、キョウヤマ隊員ね。じゃ、次。」

イクタが簡単なメモを取りながら、進行させて行く。

「はっ!私はアヤベと申します!地上戦闘においては、左に同じくトップでした!自信を持っています!」

小柄な女性隊員ではあったが、キョウヤマにも劣らない大きな声を出せるようだ。

「はいよろしくー。アヤベ隊員ね。次。」

「はっ!イイヅカと申します!昨季は総合で第1位の成績を残しました!将来は、イクタ隊長のような、支部の看板となれる隊員になることを目標にしております!」

キョウヤマ程ではないが、立派な体格を誇る青年だ。目や眉もキリッとしており、歴戦の死線を乗り越えてきた、経験豊富な隊員のような風格を漂わせている。頼もしそうだ。

「イイヅカ隊員…。聞いたことあるな。こいつが去年のNo. 1か。…おっけー。次。」

「サクライと申します!戦闘技術は、ここにいるメンバーには見劣りしますが、彼らにはない頭の回転と、機械や航空機整備に関する知識を持っています!必ず、お役に立てるはずです!」

確かに、自己紹介の通り若い男性隊員ということを考慮すると、体格的には頼れなさそうだが、このような存在は部隊に1人は必ず必要になってくる。それに、ここにいるということは、戦闘技術も平均以上ではあるはずだ。何の心配もいらないだろう。

「ホソカワと申します!イイヅカには及びませんでしたが、総合第2位の成績を残しました!いずれは、彼を、そして隊長をも超えてみせます!それが目標です!」

高身長ではないが、ガッチリとした体を持っている。常に高い志を持っている隊員は、戦場でもその強い精神力を発揮できるため、重宝するのだ。

 イクタは、期待以上にいい素材が集まっていることに満足したのか、ここに来るまでのあの不安げな表情は、少し消えていた様子であった。

「んじゃ、早速で悪いが出動ということになる。目的地はハンギングマウンテン、目標はそこにいる怪獣の生け捕りだ。ここまで質問は?」

「怪獣の生け捕りとは、具体的にどうするのでしょうか?」

イイヅカが、真っ先にそう声をあげた。

「うむ、それは俺が、俺の機に積んである特別な装置で行う。その装置から放たれる光線を使用するんだ。だが、状況によっては、その操作を俺ではなくお前らに頼む場合もあるだろう。だから簡単に説明する。あれは遠隔操作もできるからな。お前らのコクピットにも、それようのスイッチを追加してある。操縦桿の裏に、安全装置の取り付けられているものがあるはずだ。それを押してくれればいい。」

「了解。」

隊員達は、メモを取りながらそう返事をした。

「であるから、怪獣を殺さない程度にダメージを与えなければならない。口で言うのは簡単だが、これは実際に怪獣を殺すことより難しい。奴は、本気で襲って来るのだ。でもこちらは、自身の命を守りつつ、手加減しなくてはいけないからね。」

「なるほど…。」

小型や中型のおとなしい怪獣を生け捕る程度のことならば、訓練のメニューにもある。が、対象はおそらく好戦的な、大型怪獣なのである。こればっかりは、訓練での経験値だけではどうにもならないだろう。

「まぁ、ここで説明してもわかりにくいだろうし、何事も、現場で実践あるのみよ。今回は、1人1機、戦闘機6機からなる編成で出動する。各自発進準備だ。」

「了解!」

各々が、それぞれの機体に乗り込んで行く。

『何だ、イクタ。ちゃんと隊長っぽくやれてるじゃないか。』

イクタがコクピットに乗り込み、エンジンを始動させたタイミングでエレメントが声を発した。

「よぉ、最近静かだったが、お前生きてたのか。」

『失礼な。出て来る機会を伺っていたのだ。』

「あ、そう。まぁ、隊長らしくってか、もともと命令口調だしな俺。要は、あいつらをどう扱うかなんだよ。初陣で死なせるわけにはいかないが、戦力にもなってもらう必要はある。難しいのはここからだぜ。」

イクタはこれまでも、多くの戦闘で指揮をとった経験があるが、無傷で帰還できた試しは、実は1回もないのだ。死亡や負傷など程度の大小にこそ差はあるが、何らかの人員被害を毎回出してしまっている。それも、優秀な隊員で構成されている部隊で、なのだ。己以外初陣となるルーキー部隊では、一歩間違えれば全滅の可能性だってある。彼はそれを恐れていたというわけなのだ。

「まぁ…思っていたよりはデキそうな奴らが揃ってるし、何とかなるだろ。あんたもいるしな。」自身に言い聞かせるようにそう言い終えた頃、通信機に一斉に通信が入ってきた。

「こちらイイヅカ!スタンバイ完了です!」

「同じくキョウヤマ!」

「同じくホソカワ!」

「同じくアヤベ!」

「同じくサクライ!」

「よし。では出動だ!」

まず、先頭を行くイクタの機体が勢いよく飛び出した。それに、ルーキーたちがついて行く。

「ここで一つアドバイスしてやる。家に帰るまでが任務だ!死ぬなよ!」

「了解!」

6機からなる編隊が、超音速のスピードで現場へと飛行して行く。目的地にあるのは、希望か、はたまた絶望か。イクタ隊長はやはり不安こそ抱えながらも、怪獣の獲得という一大事業を成功させるべく、決意を固めつつあった。

[newpage]

 IRISが本部を構えるAM-13地区は、地下世界屈指の発展ぶりをみせる大都市である。見渡す限り高層ビルの群れとなっており、路上は常に多くの人間が縦横無尽に駆け回っている。彼らの多くは、ビジネスマンであろう。大手商社や銀行など、地下やIRISの経済面を支えている企業の本店や本部の多くも、ここに密集しているため、いつ見ても大変に賑わっている。

 さて、その大都会のメインストリートを歩く、黒のローブに身を包み、フードで顔の大半を隠しながら歩く1人の少女がいた。キュリである。

「流石に、地下でも黒ローブに気をつけろ見たいな注意喚起をされているかもしれないし、服を代えないといけないよな…。面倒なこった。」

道行く人々は、いちいちすれ違う人の服装を気にしている余裕はなさそうなのだが、万が一その中でパトロール中であったり、休暇を取って街に出てきているIRISの隊員に出くわすと大変だ。

「服…ねぇ。あたしゃ生まれてこのかたこれしか着たことないからな…。っていうか、買い物するには金が必要じゃねーか…。そんなもんないし…あ、そうだ。」

ブツブツと呟きながら歩いているうちに、銀行の看板が目に入った。それを見て何を思ったのか、その脇の路地裏にさっと入り込み、そこで姿を消した。次に現れた場所は、その銀行内の金庫であった。

「こうすればいいんじゃん。やっぱ私って天才だな。…こんなことに能力無駄に使って早死にはしたくないけど…。」

これも全て、ローレンに受けた命を遂行するための手段の一つなのである。仕方がない。

 キュリは、金が管理されているのであろう金庫の扉をぶち破ると、中に手を伸ばし、何枚かの紙幣を掴み取った。

「ひーふーみー…10枚くらいあればいいだろ。手ぶらの私があんまり持ってても怪しいし。」

ベンジャミン・フランクリンの肖像画や、独立記念館がプリントされている紙を10枚、ポケットにしまうと、再び路地裏に戻った。

 人混みに紛れ、メインストリートに復帰すると、今度はそのすぐ近くにあった洋服店へ、ちゃんと出入り口から入店した。18歳になるキュリではあるが、同年代の女の子の多くとは違い、服装というものに全くもって関心がない。あの過酷な地上で育ってきたため、まずは食住が最優先、衣など二の次三の次だったのである。お洒落とは無縁、という次元ですらないのだ。そのため、もちろんブランドなど気にしない、というか知らないため、ぱっと目に入ったものの中から、第一印象が気に入ったものだけをさっさと購入していく。

「ありがとうございましたー」

店員の声を背に、店から出たキュリ。既に、購入したものに着替え終えているようだ。

「服買うだけであの紙3枚も無くなったんだけど…。まぁいっか、私の金じゃないし。」

上半身をグレーのロゴ入りのパーカートレーナーで包み、下半身は紺のスカートの下に黒のレギンスパンツを履いているという格好だ。どこにでもいそうでかつ、目立つわけでもない。パーカーを着用しているあたり、やはりフードがなければ落ち着かないようでもある。

 初めて、ローブ以外の服に身を包んだことで、服を買う喜びというものを少し覚えつつあったキュリ。服というものにお金をかけ、お洒落に忙しくなる人間の気持ちも、少しは理解できたような気がするようなしないような。ちょっぴり上機嫌になったようである。

「ま、こういうのも悪くはないわね。」

さて、この街には買い物を楽しむために来たわけではないのだ。これも、自身が描く作戦遂行への道のりの過程に過ぎない。次のステップへと移るべく、今度は基地の方へと歩き出した。その後方で、先ほど金庫を破った銀行の元に、通報を受けたIRISの隊員が駆けつけ、ちょっとした強盗事件騒ぎになっていることなどいざ知らずの様子である。

 

 

「見学?1人でかい?」

本部の唯一の地上の玄関、正面入り口を常に監視している管制塔。その窓口に、キュリが現れ、本部見学をしたいと申し出たのだ。

「そう。私将来、ここで戦闘員になりたいわけ。別にいいでしょ。」

キュリはまだ顔を覚えられていない。一般の少女を装っているので、この警備員には急にアポなしで見学をしたいと言い出したおかしな子としか思われていないのだ。

 闇雲に空間移動で潜入し、危険を冒して活動するより、あえてこうして堂々と侵入する方が、じっくりと色々な施設を回れるために好都合でもあるのだ。

「うーん。そう言われてもなあ。学生さんがね、学校単位で申し込むことはあるんだけど…。個人はなぁ。」

キュリの正体を暴いていたわけではないのだが、全基地の警備員及び職員には、『地上からの侵入者に気をつけろ』ということで、近頃は関係者以外の立ち入りをかなり厳重に禁止しているのだ。学生の見学もその限りではなく、断りを入れるケースも少なくない。

「…何?私を怪しいものだと思ってるわけ?」

キュリはキュリで、ここには何としても入らなければいけない。あらゆる演技をこなしてでも、この警備員に許可をもらう必要がある。

「いや…まぁそう言いたいわけじゃあないんだけど…。」

彼女は美人とまではいかないが、そこらの同年代の子よりは整った顔立ちをしている。そのような若い子に、悪い印象を与えたくはないな、そう思ってしまうのも男の性である。

「…本当にダメ…?」

慣れないからか、側から見れば完全に不自然な演技ではあるが、少し悲しげな表情を作り出し、声量も絞り、上目遣いで戦う彼女。

「いやえっと……」

当事者には、これが自然か不自然かなど関係ないようだ。全くもってだらしのない警備員である。

「ちょ、ちょっと待って、確認するから…。」

自分だけでは判断できないと思ったのか、上の人間を呼ぼうとする。

「だめ!それじゃあ時間かかるじゃない!今すぐ見学したいって言ってるの!」

急いでそれを制するキュリ。この男なら、もう少しで陥落させれそうだが、そこに現れた援軍にもし良識があれば、つまみ出されてしまう。最悪、怪しいからという理由で、別の意味で内部に連行される恐れもある。そうなると終わりだ。

「…わ、わかったよ…。その代わり1人じゃダメだ。誰か案内役をつけるよ。それでいいかな…。」

何度か流れを持っていかれそうになったが、ここは彼女の勝利である。

「…わかればいいのよ、わかれば。」

好都合なことに、知能のある二足歩行の地図まで手に入った。情報というのも、案外簡単に手に入るかもしれない。しかし、この先もし危ない状況に追い込まれても、色仕掛けめいたことはもう使えないだろう。慣れないことはやるものではない。警備員がちょろくて助かったものである。「じゃ、じゃあ、少しそこで待ってて…。」

今度は、何やら勤務表のようなものを取り出し、じーっと眺め始めた。今手が空いている者を探しているのだろう。

「…1人、暇な隊員がいるな…。その人を呼ぶから。」

戦闘員のようだ。ふむ、常に武器を装備している人間だ、怪しい動きはますます取りにくくなるが…とりあえず、この基地の内部構造や情報を管理していそうな施設の場所さえわかれば、どうにでもなるだろう。

「…わかった。なるべく早くしろよな。」

先ほどまでの役者モードが途切れたのか、完全に素の状態になっているキュリ。前後を比べれば大きな違和感があるのだが、彼は気づかないようである。

 

 それからしばらくして、若そうな女性隊員が、彼らのいる窓口までやってきた。見慣れた隊員服に、腰には二丁の銃がぶら下がっている。やはり武装はしているようだ。

「この子が、見学をしたいっていう子?」

「えぇ、そうです。」

警備員がそう答える。

「…見た感じ、高校生か大学生ってところかしら?見学に来る年齢にしては、少し遅いような気もするけど…。あなた、IRISに入りたいの?」

キュリをまじまじと見つめながら、そう訊ねる。

「まぁね。」

「ふーん。入隊試験を受けれる年齢は達してそうだけど、受けたことは?」

「ない。」

適当に、短く返答を続ける。何かと詮索して来るようだが、これが長引くとボロが出て、怪しまれるかもしれない。早く切り上げて欲しいところだがー

「…まぁわかったわ。ただでさえ、人員不足だし、希望者が多いことに越したことはないわ。」

ほっと胸をなでおろすキュリ。

「…じゃあ、早速行きましょう。とても徒歩で回れる場所ではないから、そこのサイドカー付きのバイクを使うわ。あなたにはもちろん、サイドカーに乗ってもらうけど、いいかしら?」

「うん、失礼するぜ。」

そう言って乗り込み、一応ヘルメットをかぶった。

「じゃ、行って来るわ。」

「はい、お願いします。」

こうして、キュリは堂々と、正面からIRIS本部に侵入できたわけである。

「ところであなた、名前は?」

しばらく走ったところで、女性隊員がキュリに訊ねた。

「…キュリ。」

「よろしく、キュリ。私はハーパーよ。将来的に何か関わるかもしれないから、覚えておいて損はないと思うね。」

ハーパー隊員は、こうして互いに簡単な自己紹介をすませ、またしばらく走らせた後、大きな建物の前で停車させた。

「ここが本部でも最も大きくて重要な場所、本館よ。世界会議が開かれる会議室に、本部長室、地下には戦闘員への司令室やオペレーター室、マスコミ各社を招くための会見場…とにかく運営に欠かせないものが詰め込まれているわ。」

「なるほどね…。」

ここに重要な情報が管理されているかもしれない。が、正面玄関からも近い。万が一敵襲を受けた場合にも、総合施設のために、建物内は多くの人や情報で溢れかえるはずだ。もしもローレンがリーダーなら、そんな慌ただしい場所に大事なものは置かないだろう。

「何か考え込んでいるみたいだけど、質問があれば受けるわ。」

「い、いや…大丈夫。」

ハーパーと名乗るこの隊員、どうにも世話好きな性格なのかもしれない。いや、単に私を不審に思っただけであろうかー。とにかく、彼女の前ではあまり考え込むような素振りは見せないほうが身のためであろう。

「そう。なら、次に行くよ。」

しかし、とにかく広大だ。目立って高い建物は本館くらいで、あとは2〜3階建ての建物が連なっている。そのため、遠くまで見渡すことができるのだが、視界の範囲はずーっと同じ光景が続いている。なんとも殺風景だが、これが軍事施設というものだろう。

 ハーパーのガイドとともに、主要な施設を周り終えた頃には、スタートから実に2時間半が経過していた。飽きっぽいキュリにとっては、かなりの苦行であっただろう。

「…以上が、この本部の要となる場所よ。質問はあるかしら?」

「…そうだな…」

一応、周りながらも、怪しいと思う場所の位置は脳内に記憶はしていた。すぐに移動できるようにだ。だが、確証がないために、賭けに出るのは危険だ。ここでいっそ、単刀直入に聞いてみるのもありだろうか。

「例えば、ここに敵襲が来たとして、その場合はどのように動くんだ?」

「そうね、私たち戦闘員は当たり前だけど、戦いに出なくちゃいけない。けど、ただ闇雲に追っ払うために戦うわけじゃないわ。敵から一番遠くなる箇所に、要人を逃がさなくてはならないし、絶対に守らなければならない建物もあるわ。その建物は、入隊してからじゃないと教えられないけどね。」

「…なるほど。ありがとう。」

絶対に守らなければならない建物ときたか。口調ぶりからして、本館を指しているわけではないだろう。そこがどこなのか、確証を得るためにはどうすればいいだろうか…。答えは一つ、実験であろう。

「じゃあ、私があなたを案内するのも、ここまでね。次回の入隊試験を受けなさい。待っているわ。」

そういうと、ハーパーはキュリに背を向け、本館の方へと向かって行った。もう、ここに長居はできない。

「悪いわね、あんたに…いや、今のこの世界の人間に、個人的な恨みはない。けど、それがローレンの望みだから。」

そう呟くと、キュリはどこかに空間移動をしたのか、ふっと姿を消した。

 

 

 ハンギングマウンテン付近は、イクタ隊の出動する少し前より、IRISによる立ち入り禁止令が出されており、現場には人っ子一人いない状態であった。いつもは多くの観光客で賑わっているため、なんとも違和感のある光景ではあるが、それ以上に違和感を醸し出しているのが、あの存在であろう。

『ギュエェーーー!!』

ぶら下がっている噴火口のような窪みから、顔を出し、大きく咆哮したあいつこそ、今回の目的である怪獣だ。

「思ったよりでかいな。」

怪獣の頭部は、窪みの5分の1ほどの大きさがあるように見えた。

「こちらに気づいている様子ではありませんね。」

怪獣を観察しながら、そう言ったのはイイヅカだ。

「だな。もっと接近だ。敵が戦闘態勢に移る前に、ボコボコにするぞ。」

低空飛行で、接近を続ける編隊。ここでは地形の構造上、空中戦にはかなりのテクニックを要する。戦闘が激しくなる前にカタをつけたいところだ。

 近くにつれわかったのだが、怪獣の頭部は、まだ冷え切っていない溶岩のように、ドロッとしており、粘り気がありそうだ。目のような部位こそ確認できるが、左右で大きさがまるで違う。

「…なんか、想像していたのと違いますね、そこまで強そうには見えないんですが…。」

ホソカワが呟く。

「油断するなよ。データが示すには、こいつは地下に現れた怪獣の中でも1、2を争う大物だ。」

頭脳派であるサクライが注意を促す。

 その時だった。先に動いたのは、怪獣だったのだ。突如として窪みから落下し、地へと降りてきたのだ。その巨体から、四足歩行が予想されたのだが、それに反し二足歩行である。身体の全てが、頭部と同じように、溶岩のようだ。

「な、なんかキモい…。」

このアヤベの率直な感想こそが、怪獣の与えた第一印象である。

「気づかれたってことか?まぁいい。攻撃開始だ!」

「了解!」

イクタの指示を受け、6機のアイリスバードが一斉に火を吹いた。レーザー機銃が、ミサイルが、怪獣を襲う。だが、奴の身体に命中し、貫いたかと思われた全ての弾丸は、あの溶岩のような粘り気にスピードと威力を殺され、そこで運動を停止してしまった。ミサイルは、停止こそしたものの、熱に反応して爆発はしてくれた。だがどうやら、ほとんどのダメージが通っていないようだ。

「ゴムみたいな身体だな…。」

「隊長!このままでは弾丸の無駄使いです!」

「わかってるよキョウヤマ。奴の身体は、しばらくしたらただの岩になるはずだ。そうなるまで、時間を稼ぐか、それとも急激に冷やすか。二択だな。」

操縦台に肘をつけるイクタ。思考を巡らせている様子だがー

 その目の前に、突如として火の玉が飛んできた。

「うおっと、あっぶねぇな。」

慌ててハンドルを切り回避したイクタ。初動が早すぎて、玉の発射に気づかなかったのだ。

「これは厄介だ。お前ら!敵の攻撃は早い上に読みにくい。気をつけろよ!」

「了解!」

「これは、敵の身体が冷えきるまで待つのは難しいかもしれません!急激に冷やすほうの選択肢を取られた方が!」

アヤベがそう提案する。

「そのようだな。…とはいえ、アイリスバードは水こそ積んでいるが、これは戦闘後の火災の消火、ではなく勢いを弱める程度のものだ。あれだけの巨体を冷やすことは、6機の水を合わせても難しい。頼れるのはこいつだけか。」

イクタは、ポケットからリボルバーを取り出し、セットされている水色に輝く弾丸を見つめた。

「お前ら、俺が着陸するまで時間稼げ。できるな?」

「え?あ、はい。できるとは思いますが…。なぜ着陸を?」

思いがけない指示に驚いている様子のイイヅカ。

「いいから、できるんだな?」

「は、はい!できます!」

「よろしい。」

イクタの機体が、大きく旋回しながら、安全な場所へと下降していく。

「隊長はなぜこのタイミングで着陸を!?お一人で地上戦をなさるつもりか!?」

事態を飲み込めないキョウヤマが、たまらず叫んだ。隊長が戦闘を新人に任せ、戦線を離脱したのだ。疑問を抱くなという方が無理である。

「わからん!だが隊長に何かお考えがあるのだろう。俺たちは、命令に従うだけだ!」

サクライがキョウヤマをそう諭す。今ここで言い争いをしている余裕はないのである。

 一方、イクタの機内では、エレメントが再びミキサーから声を発していた。

『危険だ。変身するための措置かもしれんが、彼らは新人なんだぞ?』

「わーってるよ。ただ、あいつらの力や連携具合を試験するためには丁度いい。逆に、時間稼ぎもまともにできないような部下は必要ないからな。」

イクタはサバサバと答えた。

『し、しかしだな…』

エレメントはどうにも不安げな様子だった。

「大丈夫だって。あいつらは優秀なんだ。やってくれるさ。信頼して仕事を任せるのも上司の務めだよ。危なくなったら、すぐに飛び込んでやるさ。」

『そうか…そうだな。』

納得はしてくれたようだ。

「それに、俺が意味のない行動をするわけない。そのくらい、あんたもわかってるだろ?」

『あぁ。どうにも私は、無駄に心配性な性格らしい。』

エレメントは細い声でそう言った。

 

 

 指示を出すイクタが戦線を離れたことで、多少の混乱が見えた新人達だったが、先ほどのサクライの一言で落ち着きを取り戻していた。

「だが一口に時間を稼ぐといっても、簡単ではないぞ。奴には攻撃が効かない。だが、奴の攻撃は早い。我々も逃げつつ、隊長も守らなければいけない。」

そう言ったのはホソカワだ。

「なんだ?ビビってんのかホソカワちゃんよぉ。」

イイヅカが、わざと煽るように言った。

「な、何!?」

「いいか、俺たちはこれが初陣だ。初仕事さ。その難易度は高い方が、成功した時の評価も上がりやすい。これはイクタ隊長みたいにあっという間に出世するチャンスなんだぜ?お前、俺や隊長を超えたいって言ってたよな。なら、この機を逃してどうするよ?」

「お、俺は最初からチャンスを逃す気などない!ただ、思ったことを口に出しただけだ。もちろん、やってやるさ!」

「なら、私が陽動役を買うわ。あいつの火の玉は口からしか出せない。私が引きつけるから。」

そう言って、飛び出して行ったのはアヤベの機体だ。

「ま、待て。戦闘機の操縦技術なら俺の方が上だ!お前じゃ、下手したら死ぬぞ!」

イイヅカのその声が届く頃には、既に彼女は怪獣の顔面の横を通過していた。

「ったく!おい、アヤベが引き付けてる間に、やれることをやるぞ!」

「やれることったって、何をするんだ?」

キョウヤマが訊ねる。

「いくら全身のほとんどが溶岩といえど、絶対にどこかしら、攻撃が効く箇所があるはずだ。」

「確かに、本当に全身が溶岩なら、二足歩行など不可能だ。足という概念すら存在しないはずだからな。しっかりとした固形の部があるということか。」

サクライが、イイヅカの意見を補足した。

「サクライ、お前なら、それはどこだと思う?」

「俺なら、足だと思うね。体重を支えるための重要なパーツだ。」

「よし、俺とホソカワで足を狙う。キョウヤマとサクライは隊長の護衛だ!いいか!?」

イイヅカがテキパキと指示を出していく。

「了解!怪獣は任せたぞ!」

キョウヤマ、サクライの機体が大きく旋回し、イクタを追うように戦線を離脱した。

「さて、アヤベもそう長くは耐えられないだろう。それに、時間稼ぎといっても、あとほんの数分でいい。その数分に、俺たちの全力を尽くす。いいな?」

「お前に言われるまでもない。」

ホソカワはそう言いながら腕をまくった。新人のNo.1とNo.2の実力の見せ所である。

 怪獣はというと、大きく体を方向転換させ、イクタとは逆の方向を向き、走っていた。アヤベの陽動がうまくいっているということだろう。イイヅカ、ホソカワの2機は高度を地面スレスレにまで落とし、その背後から足元を目掛けて特攻していく。

「ミサイル発射!」

2機から計4発のミサイルが同時に発射された。発射されたミサイルは、怪獣のかかとの部位へと真っ直ぐにかけていく。そして命中し、爆発を起こした。怪獣がよろめく。

「よし!あそこには攻撃が効くみたいだ!」

「この調子で、あと一回は仕掛けるぞ!」

しかし怪獣は、攻撃されたことに怒ったのか、アヤベの後を追うのをやめ、2人の機体の方へと顔を向けた。2人をめがけて、火の玉を連射していく。

『ギュエェーーー!!』

「く、くそっ!そう上手くはいかんか!」

どうにか回避を続けるイイヅカ達だが、何度も攻撃をかわしていくうちに、怪獣からかなり距離を離してしまった。

「無茶はするなイイヅカ!俺らの仕事を忘れるなよ!とにかく、これじゃ避けるのが精一杯だ!」

だが、彼らが避けたということは、その火の玉は常に彼らの後方を飛行しているイクタ等めがけて飛んでいくということにもなる。

「磁力シールド展開!」

キョウヤマ等の機体がシールドを張り、火の玉を弾いていく。しかしシールドも永遠に張れるものではない。徐々に、耐久力が削られていく。

「おいこっちももう耐えられそうにない!怪獣の進路を変更させてくれ!」

「わかっている!だが、奴の標的は俺とホソカワだ!あの速度でこうも連射されたら、この座標からそう簡単には動けない!」

「この〜っ!」

今度はアヤベが、低空飛行からの足元攻撃を試みた。上手くいけば、再びアヤベの陽動のペースが取れるはずだ。

「ミサイル発射!」

しかしそのミサイルは虚しくも、命中こそしたものの大したダメージにはならなかったようだ。怪獣は、アヤベに視線を移しすらせずに、攻撃を続けている。

「おいお前等!よく粘ってくれたぞ!もう大丈夫だ!」

その時、彼らの通信機に、イクタの声が入った。無事に着陸できたようだ。

「…とおっしゃいましても!怪獣の攻撃を振り切れません!」

完全に火の玉地獄に陥ってしまっているイイヅカとホソカワ。まずは、あの2人を脱出させなければいけない。

「何、ここまでやってくれた褒美だ。助けるついでに、いいもの見せてやるよ。」

飛行機を降りたイクタは、左腕にエレメントミキサーを装着した。

「いくぞ。」

『うむ。私はいつでもスタンバイオーケーだ!』

「ケミスト!エレメント!!」

ハンギングマウンテンの下部、他のエリアに比べて光の差しにくい、薄暗い空間を、眩く真白き光が包んだ。徐々に強さを失っていく光の中に佇んでいたのは、つい先ほどの瞬間までは存在していなかった、赤と銀の光の巨人であった。

『シャアッ!』

そう高らかに声をあげた巨人、エレメントが怪獣の懐まで走り寄り、けたぐりをお見舞いした。足元をすくわれた怪獣は、その場で、後頭部から倒れ込む。ドォォォンという衝撃音が、砂ぼこりとともに発せられた。

「こ、これはエレメント!?な、なんで!?隊長は!?」

「隊長がエレメントだったということなのか!?」

混乱する新人達をよそに、エレメントは怪獣に攻撃を畳み掛けようと、次の動作に入っていた。

『シェア!!』

怪獣にまたがるエレメント。だが、その胴体は予想以上に熱を持っており、その熱さに飛び上がって、数歩退いてしまう。

『アッチッチ…これじゃあ、足以外にまともな攻撃ができんぞ。』

「敵を冷やして、その個性を殺してやるための奥の手は持っているが、どこまで効くのかわからないからな。あらかじめ、他の方法で対処を試みる必要がある。」

『他の方法?…ならば、私に考えがある。」

『ケミスト!スチールエレメント!!』エレメントミキサーが、イクタではなくエレメントの意思で稼働し、タイプチェンジを行なった。何気に、これはレジオン戦でのハイドロエレメント以来の出来事かもしれない。

「なるほど鋼鉄の身体か。耐熱性にも優れてるし、攻撃するたびに徐々に敵を冷やすことができる。いいじゃん。」

『いい加減、私も君の考えそうな戦術を覚えてくる頃だよ。さぁ、手っ取り早くカタをつけよう。』

全身がギラギラと光る鋼鉄の身体とかしたエレメント。今度こそ、怪獣に跨ろうと飛びかかる。が、またがる寸前に、怪獣の身体が二つに分かれ、エレメントは何もない空間に尻餅をつく形となった。体重が増量しているため、大きなクレーターができる。

『シャッ!?』

分裂した怪獣は、それぞれがみるみると元の姿に戻っていく。その全身は、先ほどの半分ほどの大きさしかないが、二体に増えるというのは厄介である。そして、隙のできたエレメントに攻撃を仕掛けてきた。

『ギュエェーーー!!』『グワッ!』

いくら耐熱性に優れているとはいえ、あの火球もこうも至近距離で食らうとなかなか堪える。

「随分と便利な身体を持っていやがるな。」

『ギュエェーーー!!』『むむぅ…。小さくなったぶん、弱点である足の面積も縮小している。ますます、難しくなったぞ。』

「けど、一つ一つは弱体化してるはずだ。落ち着いて潰していこう。」

『そうだな。よし…。』

エレメントは両腕を高く、まっすぐと天井へと掲げると、そのまま左腕が奥に、右腕が手前に来るように十字を組んだ。

『スチールケミストリウム光線!!』

鋼鉄の成分が含まれた必殺の光線で、確実に一体を仕留めようとする。だが、光線が命中する直前で、またしても身体を分裂させたため、これも不発に終わった。

『えぇい…ちょこちょこと…』

分裂し、溶岩と化した怪獣は、グツグツと煮えたぎりながら、エレメントの後方にいたもう一体の方へと移動し、そこで再びくっつき始めた。分裂体はいなくなったものの、それに伴い怪獣は元の大きさへと戻っていく。

『ギュエェーーー!!』

『イクタ!もうその奥の手を使うしかないな。瞬間的に冷やさなければラチがあかない。』

「みたいだな。なら仕方ねぇ。」

イクタは、水色に塗装されている弾丸を取り出した。

「もう一度ケミストリウム光線だ。これを混ぜる。ただし、何が何でも命中させてくれ。かすりでもすれば、効果はあるはずだ。」

『ちなみに、それはなんだ?』

「ゲフールの成分から作り出したものさ。これも立派な怪獣兵器だ。あのあんたをカチンコチンにしたくらいだからな。相当な冷凍力が期待できるぜ。」

『むぅ、あれはあまり掘り返されたくはないのだが……そういうことならば、信頼できるな。では、やってみよう。』

エレメントはグッと足に力を込め、大地を蹴り飛び出した。スチールタイプは通常よりスピードが落ちるため、素早く動くためにいちいち力を余分に使わなければいけないというデメリットがある。だがスチールタイプには、その弱点を補える技があったのだ。エレメントはスタートダッシュの勢いのままに怪獣の近くまで走り寄ると、そこで片膝をつくようにしゃがみんだ。

『分裂で逃げられては埒が明かない。ならば、逃げ場をなくすのみだ!』

エレメントは、利き腕である左腕の拳を固めると、勢いよく下へと振り下ろし、地面を殴りつけた。すると、彼を中心にする、半径500メートルほどの範囲の大地が振動を起こし始めた。そして、彼と怪獣を囲むように、鋼鉄の壁がその範囲を覆うように、じわじわと地面から現れ始めたのだ。

「これは…」

予想外の行動に出たエレメントに対し、またも驚くイクタ。最近は驚かされてばかりな気もする。

 壁はそれぞれがアーチを架けるように伸び続け、ついに鉄のドームが完成した。

「お、おい!エレメントも怪獣も、あの塊の中に閉じ込められちまったぞ!?」

戦況を見守っていた新人達も、めくるめくように変化していく戦いの様子に興奮している様子である。

『さぁ、イクタ。今からケミストリウム光線を放つ。君も準備したまえ。』

「ん?もういいのか?これで当たるんだろうな?」

『あぁ。保証しよう。』

『ギュエェーーー!!』

こうしている間にも、怪獣は突如閉じ込められたことに興奮したのか、さらに体の熱が上がっているかのようにも見えた。先ほどよりも、溶岩部の面積が広がっている気さえする。

「これはヤバいかもな…。おい、俺の方はもういいぞ!」

『わかった。ではいくぞ…避けられるものなら避けるがいいさ…!』

エレメントは再び、ケミストリウム光線の体制に入った。それを妨害するべく、怪獣が火球を乱射する。だが虚しくも、この体を持つエレメントにとっては、動作を中断しなければいけないほどのものではなかったのだ。

『スチールケミストリウム光線!!シェア!!』

銀と水色の光の粒が混ざった光線が、怪獣めがけて飛んでいく。しかし怪獣も再び体を分裂させ、それを回避した。

「おい、当たってないじゃ……そうか、そういうことか。」

『うむ。』

光線を避け、ピンチを脱出したかのように思われた怪獣。分裂体とともに、エレメントに襲いかかるが、その次の瞬間、一体の身体が瞬間的に冷凍され、動かなくなってしまった。避けたはずの光線が、後方の壁に反射し、跳ね返り怪獣の背面に命中したのだ。

『ギュエェ!?』

それに驚き、一瞬の隙を作ってしまった、もう一体の怪獣は、エレメントの膝蹴りをモロに食らってしまい、吹き飛ばされてしまう。冷えた鋼鉄のキックを受けた部分が急速に冷え固まり、さらに飛ばされた先の、激突した鋼鉄の壁と接触した部分まで、みるみると固まっていく。

「これでもう分裂はできないな。」

『さて、次でフィニッシュだ。』

エレメントは鋼鉄のドームを、解除した。壁が再び、地の中へと還っていく。

「おいお前ら!俺の説明は覚えているか!?怪獣を生け捕る要領のことだ!」

イクタが、待機していた部下達に訊ねる。

「は、はい!」

「なら俺の指示したタイミングで、スイッチを押すんだ!イイヅカ、お前がやれ!」

「了解!」

イクタと部下との会話のうちに、エレメントは氷漬けにされた分裂体をつまみ上げ、向こうで伸びているもう一体の方へと放り投げた。

『まとめてやろう。でないと、エネルギーが半分になってしまうからな。』

投げ終わったタイミングで、胸のランプが点滅を始めた。あまり悠長にしてはいられない。エレメントはスチールタイプを解除し、平常時の姿、ノーマルエレメントへとタイプチェンジした。

『時間も少ない。チャンスは一回だ。成功させてくれよ。』

エレメントは右腕のブースターに、最後のエネルギーを込め、ネイチャーエレメントへと変身した。

『ハァァァァァァァァ…!』

今のエネルギーでは、ケミストリウムバーストは使えない。だが、もっとコストパフォーマンスの良い技なら打てる。

「今だ!イイヅカ!!」

「はい!」

イクタの指示で、イイヅカが指先に力を込め、スイッチを押した。その次の瞬間、イクタのアイリスバードから、一本の光線がエレメントの腕めがけて飛んできた。

『ナイスタイミングだ!!』

光線が、ブースターに絡みついていく。

『ケミストリウムブラスター!!セヤァァァァァ!!』

大量のエネルギーで満たされたブースターから光線を放出するため、右腕を真っ直ぐ前に突き出した。七色に光る光の筋が、動かなくなった二体の怪獣を捉えようと走っていき、命中した。

「当たった!今度こそ成功してくれよ!」

イクタはそのタイミングで、空のカプエルを右腕のブースターに添えた。成功したならば、ここにエネルギーが収まるはずだ。その様子を、新人達も固唾をのんで見守っている。そして少しずつではあるが、カプセルにエネルギーが溜まり始めたのだ。

『グゥゥゥゥ…!イクタ!まだなのか!?私の身体が持たないぞ!』

「もう少しだ!どうにか耐えろ!」

じわじわと嵩を増やし続けるエネルギーの量は、すでにカプセルの容量の半分を超えていた。あと数秒で、満杯になるはずだ。

『ムゥゥゥゥ…そ、そろそろ限界が…!』

「ったくあんたってやつはいつもそうだ…!毎度毎度良いところでポンコツだな!」

『ぐうの音も出ないが…仕方がない!ならば今回限りだ!限界突破コード5125135…』

何かをブツブツと唱え始めたエレメント。するとなぜか、胸のランプの赤い点滅が止み、まだ残量が多いことを示す、青色の光に戻ったのだ。

「あんた、今何を…?」

エレメントの謎の行動と現象に疑問を抱きかけたイクタであったが、今は気を散らしている場合ではない。ふとカプセルに視線を戻すと、その容量は間も無く満タンを迎えようとしていた。

「もう良いぞ!!」

『グッ…ノワァァ…!』

イクタの合図で光線をやめたエレメントは、その瞬間に、その場に崩れ落ちてしまった。ランプを見る限り、あの時彼は回復したかのように見えたが…実際は先ほどよりもさらに疲弊している様子だ。

『限界突破とは、私がミキサーに仕掛けた活動制限を一時解除し、予備のものや余剰している分など、ミキサーに保管されている別のエネルギーまでをもこの身体で無理やり使用できるようにすることだ…。エネルギーそのものは一時回復どころか、持て余すまでに増えるのだが、体力そのものは回復しないのでな…。ムゥ…流石にこれ以上はやばい。今回はここまでだ…。』

エレメントはフッと姿を消した。ミキサーの中に戻っていったようだ。

 さて、戦闘が収束し、静けさを取り戻したハンギングマウンテンを後にし、基地へと帰っていくイクタ隊。イクタはその道中でも、カプセルの様子に目を配っていた。

「エネルギーはほぼ全て吸い取れた…。怪獣化さえできれば良いのだが…。」

自動操縦に任せ、コクピット内で腕を組んだ。成功することを願いたい気持ちは山々なのだが、どうにも嫌な予感もする。そろそろ怪獣化の技術を手に入れないと、まずいことになる。それだけ、残されている時間はもう少ないのだ。

「隊長!」

その時、イイヅカがイクタを呼んだ。

「…なんだ?」

「隊長が、まさかあのエレメントだったとは存じ上げておりませんでした…。その、我々のレベルで、隊長の部下が務まるのか、不安になりまして…。」

その声に同調するような相槌も聞こえてきた。どうやら、新人達は皆同じことを思っていたようだ。しかし、最も頼れそうなイイヅカが真っ先に言い出すとは意外だ。

「ふん、馬鹿野郎。たったのさっきまで、ちゃんと務まってたじゃねーか。期待以上によくできたよ、お前らは。逆にお前らがダメなら、俺には一生部下なんかできないよ。」

不器用なイクタなりの、精一杯の賛辞だった。

「……!ありがとうございます!」

それが伝わったのか、彼らに笑顔が戻ったようだ。

 イクタ隊の初陣は、これ以上にない良い形で閉幕を迎えた。来るべき決戦に備え、頼もしい部隊が登場したわけである。

 

 その頃、AM-13エリアの高層ビルの屋上から、本部基地を見下ろしている一つの人影があった。キュリである。

「……ローレン、待ってろよ。私の任務はこれから5分以内に終わるから。」

すっと右腕を真横に、水平に伸ばした。それを合図に、彼女の後方に大きなゲートが開いた。

 

                                                    続く

  

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。