ウルトラマンエレメント   作:ネフタリウム光線

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 最後の大きなエネルギー反応が確認された地点へと向かっていたイクタ隊は、その正体である『嵐獣テペストルド』と遭遇する。前回の戦闘からそう時間も空いていないため、エレメントへの変身ができないという状況の中、イクタ隊はどのように戦うのかー


第22話「嵐戦」

第22話「嵐戦」〜嵐獣テペストルド登場〜

 

「隊長!!どうやら、目的地周辺のようですよ!」

レーダーを見つめいていたサクライが、大きな反応を探知し、そう報告した。

「…みたいだな。思っていたよりも大きな反応だ。心してかかれよ。」

「了解!」

 イクタ隊は1時間ほど前に、CH地区にある支部で補給を済ませていた。燃料や搭載兵器、レーザー銃用のエネルギーなど、十分すぎるほどに万全の準備を整えていたのだが、どうやら正解だったらしい。ゲフール、マグナマーガよりも大きな力を、まだ顔を合わせてすらいないのにひしひしと感じるのだ。

『あぁ、イクタ。』

隊員たちが心の準備をしている最中、エレメントがイクタに話しかけた。

「なんだ?」

『その…言いにくかったが言わなければならないことがあってだな…。』

なんとも頼りなさそうな声でそう口を開くエレメント。

「いいから内容を話せよ。」

『数時間前のマグナマーガとの戦闘の終盤、私は限界突破という操作を行い、活動制限を強行的に延長させたな?』

「あぁ。それがどうした?」

『それは、ミキサー内の予備のエネルギーを使用する操作だと、簡易な説明をしたと思うが、つまり必然的に、一時的に内部のそれが減少することになる。そうなると、どうなると思う?』

「…あんたの身体とその機械の仕組みはよくわからんが…。ミキサーであんたの回復などを行なっているとしたら、それが遅れる、とかか?」

『その通り、何よりもそこだ。言うまでのもなく、私の本来の姿は、あの実験以来55メートルのアレになる。力の暴走を防ぐために、一定量のエネルギーを使用すると規制がかかって、ミキサーの中に強制的に引き戻される仕組みになっていることは説明済みだな。再び巨大な姿で活動するためには、減少したその「一定量のエネルギー」というものを補充しなければならない。その為に、内部の予備が必要なのだ。それをも削ると、全体的な回復が遅れることになる。』

エレメントは饒舌にそう説明した。

「あんたはいつも話が長い。要するに、まだ変身できるだけの力が溜まってないってことだろ?」

『そうだ。』

「……ま、あんたに連戦は無理だってことは予め分かってたし、前にもこういうことがあったし、限界突破も俺が無理を言ったせいだからいいけどよ。」

イクタは、後方に視線を移した。その先には、今日実戦デビューしたばかりの新人たちが付いて来ている。

「どのくらいの時間が必要なんだ?地上の時みたいに、精鋭部隊と共に行動しているわけじゃないんだ。あいつらじゃ限界があるぞ。」

『あぁ、わかっている。次の怪獣がこうも早く現れるとは思ってもいなかったからな…。急ピッチで私とミキサーのエネルギー充填を行なっているが、それでも1時間はかかる。』

「1時間……マジか…。」

イクタは腕を組んで唸った。

『自家発電だからな……。ネイチャーモードの要領で自然エネルギーを集め、充填を加速させることは理論的に可能だが、収集に大きな力を浪費する為、貯まるどころか返って減少してしまう。本来はウルトラマンという凶悪兵器を制御するために作った装置なのだ。力の引き出しに関しては、フィルターを何重にも仕掛けてるってわけになる。まさか、こうして人類の未来を切り開く目的で使用される日が来ようとは思ってもいなかったからな。』

「とはいえね…。まぁ、あんた自身、ウルトラマンという力にトラウマ持ってるし仕方ないんだろうけど…。力として扱いにくいだけならまだしも、人間としても扱いにくいのは困るもんだ。」

『う、うるさいな…。呑気な冗談を言っている場合か。1時間、怪獣とどう戦うつもりだ?』

イクタは頭を掻いた。そこらへんの怪獣ならば、戦闘機のコンディションは万全であるため、作戦次第では上手くやり合えるだろう。しかし、覇獣クラスとなるとそうもいかない。

「…いざとなれば切り札はあるさ。…本当に切り札になるかは微妙だけどな……。とにかく、やるしかないだろう。何、この俺が隊長なんだ。どうにでもなる。」

『イクタ、まさかその切り札というのは…?』

「想像に任せるよ。止めようとしたって聞かないからな。リスクは承知。だが、せっかく得た力を無視できるほど、俺たちに余裕はないはずだ。」

『やはりそうか……。』

 エレメントは黙り込んだ。イクタの言う切り札とは、間違いなく自身の異人化のことを指しているのであろう。確かに、ウルトラマンには及ばずとも、一時的に爆発的な力を得ることができる。だが彼はまだ、実践に投与できるレベルに達していない。最初に変身した地上では、等身サイズとはいえ全身の異人化に成功していた。だが、その力に脳まで支配されていたのか、自制はなく、変身後も満身創痍の様子だった。ゲフールとの戦いの際には、ある程度己の意思のコントロールの範囲内で部分化変身に成功していたが、僅か数秒しか保てなかった上に、その部位の神経感覚を失っていた。なんにせよ、リスクが大きすぎるのだ。

「隊長!怪獣がもうすぐにきます!」

そう発したのはイイヅカだった。レーダーに目を移すと、確かにその大きなエネルギー反応は、こちらへと迫りつつあった。だが、どこからー?

「…下か…!」

ホソカワが気づいたその次の瞬間、イクタ隊の少し前方の大地を突き破って、大きな怪獣が勢いよく飛び出してきた。大きな翼を広げ、そのまま小隊より高い位置まで高度を上げ、宣戦布告をするかのように大きく口を開け、吠えた。

『シェェェェェェェ!!』


太いが短い首の上に、ちょこんと小さい顔が座った、つぶら瞳の怪獣は、その場を何度もグルリ、グルリと旋回しながら、吠え続けている。手も足も申し訳程度の大きさしかなく、身体の7割が翼といっても過言ではないその姿からは、とても今まで地中にいたとは想像がつかない。

「あの身体で地中に…か。怪獣って生物はやっぱよくわからん。」

イクタは腕を組んだ。

「どう見ても空中戦が得意な怪獣のようですね。隊長、敢えて陸上戦に持ち込むのも手かと。」

そう提案したのはイイヅカだ。

「…初陣で、このクラスの怪獣を目の当たりにしつつ、その発想ができるとはね。やるじゃん。」

「あ、ありがとうございます。」

イクタから賛辞の言葉をもらい、少し照れているようだ。

「が、却下だ。空中戦でいく。」

しかし、イクタはそう考えているようだ。

「なぜでしょうか?お言葉ながら、私はイイヅカの案に賛成です。」

キョウヤマがそう訊ねる。

「お前らのいう通り、奴はどう見ても陸上戦に弱い。誘い込めば有利にことを進められるかもしれん。だが、それは誘い込めれることができれば、の話だ。そう簡単に着陸してくれるわけがなかろう。それに、あの翼を見ろ。あれで地面に向かって突風でも起こされたら、身動きが取れなくなることなど容易に想像がつく。実際、あの手の怪獣はそのような攻撃を得意とする傾向が高い。加えて、空中戦が得意なのはこちらも同じだ。最新性能のエンジン、そして兵器が搭載されているというのに、わざわざそれを温存する必要性もない。」

「な、なるほど…。確かに、私の考えが浅はかでした…。」

しゅん、と少し落ち込んだ様子のイイヅカ。

「仕方ねぇさ。怪獣の攻撃パターンを容姿だけで予測できるようになるには、それなりの経験が必要になる。新人だから知らなくて当然だ。これから知っていくんだよ。幸い、お前らの上司はなんでも知ってるこのイクタ・トシツキなんだからな。…さて、どうすっかな。」

 怪獣は相変わらず、旋回しながら吠えるという行為を繰り返している。ここまで喧しく鳴きまくるのを相手にするのは初めてかもしれない。それだけ、興奮状態ということなのだろうか?興奮している怪獣というのは、行動が読みにくい上に、アドレナリンが分泌され、パワーがアップしている為なかなかに厄介なのだ。元から強い上に、さらに補正がかかっているとなると、想定以上に苦戦するかもしれない。

「……とりあえず、積極的に仕掛けるのは俺の役目だ。お前たちは、俺の指示通りに動いてくれればいい。」

イクタはそういうと、ポケットからカプセルを取り出し、イイヅカの機体へとパスした。慌ててコクピットの窓を開け、それを受け取る。

「この怪獣兵器…名前はそうだな、炎獣マグナマーガってところだ。これはお前に預ける。俺は戦闘に集中したいんでな。お前が今、と思ったタイミングで投下しろ。重荷ばかり背負わせて悪いが、今のところ、このメンバーの中では、お前が一番適している。」

「りょ、了解!」

「…さっきから美味しいところ全部持っていかれてる気がするけど、大一番で最も仕事の成功率が高いのは、確かにイイヅカかもね。」

アヤベがそう呟いた。

「何、隊長言ってたろ。今のところって。場数を踏んでいけば、いつか俺たちもそのくらいの信用を得られるようになるさ。」

ホソカワがそうフォローした。No.2として、1位のイイヅカに対し熱いライバル視を送り続けている彼もまた、イクタによるイイヅカに対する頭ひとつ抜けた信頼度に嫉妬こそしているものの、現時点での己の力量と立ち位置はしっかりと理解できているようだ。

「いいか?あまりとやかく命令は出したくないが、これだけは守ってくれ。無茶だけはするな。例え俺からの指示だとしても、危険と自己判断した場合は必ずしも従わなくていい。何よりも、自身の命を優先しろ。」

「了解!」

部下たちの返事を確認すると、イクタは怪獣の方へと突っ込んで行った。

『流石の君でも、5人もの部下を庇いながらの戦闘が通じる相手ではなさそうだが。』

「別に、戦うのは俺だけじゃない。採れたてフレッシュな新戦力怪獣もいるし、あんたが思っているほど戦況は悪くはないよ。」

『…だと、いいんだがな。けど、あの怪獣の能力次第ではマグナマーガは大きな力になれない可能性もあるぞ。クセが強いからな、あれは。』

「冷やされさえしなければかなり強いが、逆にそうでないのなら無力、か。確かにクセが強いが…もしかしたら、俺たちが把握できていないだけで、まだ他の能力があるかもしれない。それに、スペックは高かったからな。何事も前向きに考えておかないと、勝てる戦も勝てなくなるぜ。」

『…うむ、君の言う通りだ。私は回復に専念しておくとしよう。』

「頼むぜ。」

そうこうしているうちに、彼の機体は怪獣の横を通り過ぎようとしていた。ようやく、怪獣もイクタの姿が視野に入ったようで、さらに大きな声をあげた。

『シェェェェェェェ!!』

パターン化されていた例の動きを中断し、イクタの機体の後を追うように急に速度を上げた。

「スピードはイニシアと同等かそれ以上だな。最速がアイリスバードよりも速いことも想定しなくちゃ。」

『敵の様子を伺ったり、能力を図っている暇はなさそうだぞ。』

珍しく彼の言う通りのようだ。怪獣は既に、大きく口を開けていた。

「…何をするつもりかな?」

『シェェェェェェェ!!』

放たれたのは、光線や火球などではなかった。確かに何かを放ったのだろうが、無色透明なのだろうか?目視ができない。

「なんだ…?」

次の瞬間、機体が大きく揺れた。まるで洗濯機の中に放り込まれたような感覚だ。

「ぬおお!?」

ヘルメットを被っているとはいえ、あちらこちらに毎秒ごとにがちゃんがちゃんと頭がぶつかるのは結構な痛みを伴う上、どこか余計なスイッチなどに触れたら大変だ。

『どうやら、小さな竜巻のようなものを連続で吐き出しているようだ!怪獣の射程範囲から抜け出さないと、無限に洗濯機地獄だぞ!』

「…くそっ、操縦桿が効かない…!」

必死に脱出を試みるが、機体のコントロールができないとなれば、永遠にそれは不可能となる。

「隊長!!こうなったら…!」

ホソカワが勢いよく飛び出し、怪獣へと接近を試みた。

「お、おい待て!1人は危険だ!」

キョウヤマ、イイヅカが慌てて後を追いかける。

「喰らえ!!」

しかし2人の声を無視し、彼はミサイルの発射ボタンに指先の力を込めた。

「ったく、1発で怪獣が反応するものか!イイヅカ、俺らも撃つぞ!」

それに続き、2人もミサイルを発射する。3弾は、怪獣の首へと真っ直ぐに飛んで行った。

『シェェェェェェェ!!』

直撃し、怪獣の頭部は大きく上下左右に振動した。それにより一瞬だけ、竜巻の発射が強制中断されたため、イクタはその隙をつき、大きく距離をとった。

「助かったぜ。やるじゃねぇか!」

「ありがとうございます!」

「礼を言ってるのはこっちだっつーの。…しっかし、厄介な攻撃だな。あまり喰らい続けると機体への、特に内部へのダメージも馬鹿にならなくなる。距離を取りつつ、背後から隙をついての攻撃が有効手段ってところか。」

『ならば、最も機動力のある君が敵を引きつけ続けるしかないだろう。君に夢中になっているでかい標的の背後に回ることくらい、新人にも可能だろうだからな。』

「ま、そうなるかな。それに俺なら、囮役をしつつ、隙をつく攻撃も行うと言う二刀流も不可能じゃない。」

『いや、囮に徹したほうがいいと思うね。無理な動きをして、こちらに隙を生み、万が一にも墜とされては元も子もない。』

「一理あるな。じゃ、そうするか。」

イクタはエレメントと共に作戦を整理し終えると、部下へと連絡を渡すため、通信機に口を近づけた。

「俺が怪獣を引きつけるから、お前らは俺の指示したタイミング、又はいけると自己判断した時に攻撃を仕掛けろ。お前らとの連携が不可欠だ。頼むぞ。」

「了解!!」

イクタ隊の方針が改めて定まった頃、怪獣も再び戦闘態勢に入っていた。頭を攻撃されたことでさらに怒りの感情が加わったのか、先ほどよりも興奮しているかのように見て取れる。

『まだ他に攻撃の手段を持っているに違いない。くれぐれも、油断は控えるんだ。』

「ふん、最近頭が冴えてきたからって調子に乗るなよ?そのくらいわかってるさ。」

再び、イクタが怪獣の前に躍り出る。

「さ、俺が遊んでやるぜ。来な。」

『シェェェェェェェ!!』

怪獣も単純なもので、イイヅカ達の機体には目もくれず、思惑通りイクタだけに狙いを絞り、飛行を始めた。

「奴の口を始点とした直線上に入らないこと、そして警戒のため常に一定間の距離を保つこと。これらに気を配りながら、囮として誘導し、攻撃のタイミングを生み出す。まさに、この俺にしかできない芸当ってところだ。」

イクタはニヤッと笑うと、機体をぐんぐんと加速させていく。敵もそれに釣られてて、同じく加速していく。ここまでは、うまく事が運んでいるがー

『ここまで綺麗に囮作戦が通じるとはな。逆に不安になる。』


「言いたいことはわかるが、上手く行っているのならそれに越したことはない。」

イクタは、このタイミングで、とあるスイッチを押した。それにより、機体の後部に設置してあった、後方攻撃用のレーザー銃から、怪獣めがけて光線が飛ぶ。レーザーは見事に命中し、不意を突かれた怪獣はますます顔を真っ赤にし、イクタを撃ち落とさんと、さらに速度を上げていく。

「これで、奴の背後は隙だらけってわけだ。とはいえ、このままじゃ追いつかれるな…。よし、お前ら!今だぞ!」

「了解!」

イクタの合図を待ってましたと言わんばかりに、全員が飛び出した。迅速かつ慎重に怪獣の背よりも高度を取り、ミサイルの射程圏内に入れるため、接近していく。

「よし、俺の準備は完了だぜ。」

ホソカワが、ミサイルの発射ボタンへと指を添えながらそう言った。

「こっちもだ。全員で同時にやれば、一気に墜とせるぞ。」

キョウヤマが、同時発射を促すようにそう言う。

「名案だ。ここで叩き落としてカタをつけよう。あいつが本領を発揮しきる前に終わらせるんだ。」

サクライが同調すると、アヤベもそれに頷いた。

「どうだイイヅカ?それでいいか?」

「…考えている間にも、怪獣は隊長に追いつかんばかりに速度を上げ続けている……か。それで行こう、早くしないとな。」

「決まりだ。いくぞ!ミサイル発射!」

ホソカワの合図で、5機から計10発のミサイルが同時に放たれた。それらが全て、同じタイミングで怪獣の背に直撃する。

『シェェェェェェェ!!』

悲鳴をあげながら、そのままの勢いで大地へと突っ込んでいく。そしてついに、頭から地面に突き刺さった。

「いよっし!やったぞ!」

キョウヤマがガッツポーズを見せる。その様子を見届けたイクタは機体を減速させ、大きく旋回し怪獣の元へと、高度を下げながら向かっていく。

「エレメント、光線が撃てるだけの力は溜まってきたか?」

『撃つことだけを目的とするならば、問題ない。ケミストリウムバーストも撃てる。』

「ただ、変身は長くは持たないということか。」

『そうなるな。通常態で2分、ネイチャーモードで1分持つかどうか、だ。』

「……まぁ、最悪カプセル化のための光線が当たればいいし、なんとかなりそうかな。」

その時だった。イクタがふと何かの異変に気がついたのは。

「…おい、なんか暗くないか?」

『そういえば、いつの間にか、雨雲に覆われているようだな…。それも、分厚い…』

エレメントも、イクタに言われて気がついたようだった。先ほどまで、天気は良好だったはずだ。

「……雨…となると、マグナマーガはますます不利になるが…。」

そう考えていた時だった。イクタは急に、身体に電流が走るような痛みに襲われた。

「…!?」

比喩表現ではない。文字通り、彼の機体に雷が落ちたのだ。その影響で、一部の機器がショートし、炎上を始めた。さらに、機内のあちこちで目に見えるくらいのプラズマが発生し始めている。既にコクピット内は、墜落の危険を表す赤色の警告灯が点滅していた。

「お、おいこれはヤバいやつだ!今すぐ着陸するぞ!」

どうやら、操縦桿の自由は効くようだ。イクタは落ち着きを取り戻しながら、速度を落とし、高度をぐんぐんと下げていく。

『エンジンが停止しそうだ。このまま動かすのは危ない。幸い、このまま胴体着陸しても問題ないくらいに高度は下がっている。今すぐに止めた方がいいだろう。』

「の、ようだな。」

エレメントの助言に従い、エンジンを止める。

「お前らも落雷には注意し……って、通信もイかれてんのかよ…。」

イクタの声は虚しくも、部下の元に届くことはなかった。

「お、おい!隊長の機が炎上してないか!?」

しかし、キョウヤマはイクタの身に起きた異常に気づいていたようだった。

「さっきの雷が落ちたのか!?し、しかし、なぜ急に雨雲が…。地下にもゲリラ豪雨ってのがあるのか!?」

ホソカワはすっかり動揺してしまっている。

「落ち着け!…だがおかしいぞ?飛行機の機体が、ただの落雷であそこまで損傷するものなのか…?雷は機体を通り抜けると聞いたことがある。表面的な損傷は、微量なものになる、とも。変じゃないか?」

イイヅカが、訓練生時代に習ったことを思い出しながらそう呟く。

「分析は後よ!隊長をどうにか助けないと…!」

アヤベが、イクタの方へと向かって行った。

「あ、待てって!」

他の4人も、それに続くように飛行を始めた。

「…冷静に考えるとおかしい。アイリスバードは、落雷の1つくらいでこうバカになるほど欠陥機ではないはずだ。怪獣と戦うための兵器なんだぞ。」

イクタも、イイヅカと同じことを考えていたようだ。

『…まさかとは思うが、あの落雷が怪獣の攻撃の一つだとしたら…』

「…その線しか考えられない。何か、大きな自然エネルギーを感じたりはしなかったのか?ここまでのダメージを与える雷となると、相当な力を練りこんでそうだが。」

『言われてみれば……。すまんな、力の貯蓄にばかり神経を使っていた。』

「おいおい…しっかりしてくれよ…。まぁいいけど。風に雷か…。まるで嵐を操るような怪獣だな。『嵐獣テペストルド』ってところか。」

怪獣の名付けが完了したところで、彼の周囲に部下たちの機体が集まってきた。

「隊長!ご無事ですか!?」

アヤベが声を掛ける。

「あぁ、問題はない。お前らも気をつけろよ。今の一連のやつは、怪獣の攻撃だ。」

「なるほど…道理で…。」

イイヅカが納得したという様子で呟いた。

「ほう、違和感は覚えていたのか。…まぁいい、着陸は1人でできる。それより、お前らは一旦退いて、先ほど補給に立ち寄ったCH地区の基地に向かい、援軍を要請してこい。それまでの時間は俺が稼ぐ。いいかこれは命令だ。でも…だとか、そういうのはいらない。とっとと行け。」

 テペストルドは怒りに任せ、暴走を始めるかもしれない。そうなれば、動けるの飛行機のパイロットが新人だけ、という状況はさらに不利になる。本当なら通信で基地に連絡したいところだが、あの雷を喰らえばその手段も絶たれる。ならば、直接向かうほうが早いし、それに伴い中途半端な人数をここに残すくらいなのなら、全員を引かせたほうがいい。

「…わかりました!すぐに戻ります!お気をつけて!!」

イイヅカの一声により、他の者たちも渋々といった表情ではあるが、イクタの命に従い、基地の方向へと飛んで行った。

「…じゃ、時間稼ぎとやらをしますか。」

『とはいえ、さっきも言ったが変身を保てる時間は…』

 テペストルドはそんな彼らを待つような素振りなど見せず、こちらをキッと睨みつけると、大きく翼を羽ばたかせ始めた。

『…くるぞ…!』


「アレを試す他ないみたいだな…!」

イクタは左腕に全神経を集中させていく。次の瞬間、口から吐き出すものとは比べ物にならない規模の竜巻が、テペストルドの正面に出現した。今度は、しっかりと目で確認できる。ところどころ雷を帯びている様子を見ると、これは竜巻というより、小さな台風と表現したほうが適切だろう。

『シェェェェェェェ!!』

『…これが奴の真の力…。弱っている身体でこれほどの自然エネルギーを…!』


エレメントも、先ほどとは違い大きなエネルギーを感知したのか、声が強張っている。

「一か八か…まさしく死ぬか生きるかの賭けに出るぜ。おいエレメント、マジでやばそうな時はシールド頼む。」

『ったく、私をなんだと思っているのかね。まぁ、君に死なれたら困るのでな。そこの心配はしなくてもいい。それより、異人の力に支配されて死なないように気をつけるんだ。』

「…そればっかりは、未来でも見えないことにはわかんねーよ。」

そんな会話を交わす彼らめがけて、さらに大きく膨らんでいた台風が動き始めた。

 

 

「うおおおおお!?」

実験場は大規模な爆風により、めちゃくちゃに吹き飛んでしまっていた。それは遠く離れた全くの別室でモニター越しに見守っていた彼らでさえ、席から転げ落ちそうになるほどの迫力だった。

「どうかな?将国家主席、それにクライン首相。」

大統領は、その両隣に座っていた男たちに尋ねた。

「え、ええ…。ここまでのものとは…。いやはや、流石ですよ。」

将がそう答える。

「全くです。正直なところ、我々の想定を遥かに凌ぐ威力。あの段階から僅かな期間でこの仕上がり具合とは、これぞ火星が誇る最大最強国家の力ですな。」

クラインも、そう最大の賛辞を送った。

「火星が誇るだと?ふん、地球文明からずっとそうだ。そこを間違えないように。」

大統領は冗談混じりにそういった。上機嫌な様子である。

「この『マフレーズ計画』もいよいよ大詰め。残すステップはあと一つとなった…。」

大統領は立ち上がると、モニターのスイッチを切り替えた。実験場の映像ではなく、何かの計画書のような書類が映し出される。

「地球への総攻撃。それこそが最後にして最も難関なステップ…。マフレーズ以下の性能とはいえ、ウルトラマンも健在だ。加えて、あの小賢しい貧民の末裔供もいる。油断はできん。そこで、だ。先日ナスノ首相と会談して、共に考案した作戦を実行する。」

画面がさらに切り替わり、別の書類が現れた。

「ここからは、私が説明を。」

大統領の秘書のような男が立ち上がり、マイクを握った。

「現在地球人の99.9999…%…とにかくほぼ全数が地下に文明を築き生活しています。というのも、地上は核戦争の爪痕が深く残り、人類が生存できない量の放射能、そしてそれにより誕生した怪獣が蠢いているから…。ここまでは小学生でも履修する程度の話ですがね。」

「前置きはいい。進めてください。」

クラインがそう急かす。

「失礼しました。そしてそんな地球に、つい最近、数ヶ月前から妙な動きが観測されています。各国の要人の方々は、既に大統領からお話を聞いておられるかと思われますが、地下の人間たちが、地上に出てきたのです。」

「うむ、その話はこの間聞かせてもらった。リディオの生み出した、ウルトラマンの成り損ねが今も僅かな数だが地上で暮らしていて、そいつらと地上で戦ったと。」

将が同調する。

「はい。どうやら地下文明は、かつての地球文明と同格か、それ以上の水準にまで科学レベルを回復させているようで、自力での地上到達、延いては放射能を除去する装置まで開発しています。実際、彼らが姿を見せた一角だけ、放射能濃度が平常レベルにまで落ちていたことが、その証拠。」

「それに加えて、ウルトラマンエレメントまでをも手懐けたと。…もし奴らが地上に戻ってきたら、我々の『マフレーズ計画』、つまりは地球奪還の計画もパーになるではないか。我々の兵士だって、生まれは火星でも地球人だ。殺し合いとなると、戦意を失う者は大勢出てくる。今のうちに地上の怪獣、そしてリディオ・アクティブ・ヒューマンを完全に除去し、兵を一度撤退させた後、ウルトラマンマフレーズの手によって、地下の者供を消す。これが一番現実的ではないのかね?」

クラインがそう主張した。

「我々も、当初はその予定でした。しかし、ウルトラマンと地上の怪獣や能力者たちが今は敵同士とはいえ、我々という共通の敵を倒すために一丸となる可能性がある。大昔、余裕をこいていた大日本帝国が中国を落とせなかったのも、似たような事案があったからだ。そうでしょう?将主席。」

「そうだと聞いているな。結果的に大戦後もまた内戦は続いたが…。確かに、そのような可能性はあり得る。特に本能的に動く怪獣という存在が驚異だ。数が集まれば、下手をすればウルトラマンよりも驚異的な存在になりうる。」

「…おい、お前は歴史の教師ではない。作戦を伝えにきたんだろう。手短に説明してやれ。」

長話を好まない大統領が、秘書にそう釘をさす。」

「申し訳ございません。…ゴホン。我々が考案した作戦というのは、簡単に説明すると、漁夫の利作戦です。」

「漁夫の利?」

聞き慣れない言葉に、クラインが聞き返す。

「日本のことわざのようです。当事者同士が争っているうちに、第三者が何の苦労もせずに利益をかっさらうという意味らしいですよ。」

「なるほど…。要するに、ワンテンポ遅れて行動を開始するわけだ。地下と地上が互いに消耗しあった後に、我々が急襲を仕掛ける。当然、地球には抵抗できるほどの元気が残ってる敵がいない…。」

「要はそういうことだ。こちらも、あまり損害は出したくないんでな。異論がある者はいるか?」

大統領が、そう呼びかけながら周囲を見渡していく。

「…いないな。では、そういうことだ。作戦実行の時は近い。各軍に最終調整に入るように伝えておいてくれ。じゃ、解散だ。」

 

 

「なるほど。確かに、レーダーには謎の反応、そしてその地点付近を覆う謎の黒い雲…。その怪獣の仕業だったというわけか。偵察隊をよこしはしたが、それだけでは危険だな。…わかった。すぐにこちらも部隊を繰り出そう。」

 あれから数十分後である。CH地区の34エリアに構える基地の長、ヤン支部長が、イイヅカらの要請に応えていた。

「ありがとうございます!!」

「しかしここからでは10分はかかる。イクタといえど、単独で耐久することができるのか?」

「隊長ならきっと大丈夫です。俺たちも、すぐに戻らないと…。」

「そうか、そうだな。しかし、若いのにしっかりしてるじゃないか。やはり、フクハラの支部はいい粒が揃っている。」

ヤンは羨ましそうな声色でそう言った。

「光栄です。では、失礼させていただきます。」

「うむ。」

ヤンに見送られ、彼らは再び戦場へと向かった。

 

 

「うおおおおおおおおおお!!」

 迫り来る小さな台風に対し、大きく左腕を構えるイクタ。異人化の発動条件には多くの謎が残るが、鋭い集中力と強靭な精神力が必要なのは間違いない。神経を研ぎ澄まし、集中力を極限にまで高め、あとは望む箇所ー左腕の変化を待つのみである。

『…やはり、思うように扱うことは難しいか…。』

イクタの集中を切らさぬよう、小声でそうつぶやくエレメント。未だに、彼の身体に変化は訪れない。

『無理もない。地上の連中と違って、異人化の能力に目覚めたのはついこの間だ。ロクに訓練もしていない。いや、訓練することそのものが命の危険にもなりうる。…ここは私が出るしかー』

 回復しきってはいないが、出し惜しみができるような状況ではない。エレメントは、現段階のセーブモードから、すぐに力を発揮できるよう、アクティブモードへと移行をした。

 だがその時だった、イクタの左腕が突然、ボンっという音を立て大きく膨らんだのだ。色もみるみるうちに灰色へと変色していく。肌も、ゴツゴツとしたものへと変貌を続ける。部分偉人化の成功のようだ。

「…!今度は感覚もある…いける!」

イクタは左腕を正面へと突き出した。台風とぶつかり、周囲に凄まじい圧の衝撃波が、巨大な力の衝突から逃げるように飛散していく。

『…制御できているのか…!?』

「あぁ…今の所はな…!こんやろう……!!うおおおりゃあああ!!」

さらに肥大化した左腕で、台風を徐々に押しのけようとパワーを加えていく。そしてついに、薙ぎ払うことに成功した。それにより発生した瞬間的な突風で、辺りを覆っていた黒雲も消え去った。

『シェェェェ!?』

テペストルドは、自分の身長の50分の1ほどのサイズしかない人間に、攻撃を無効化されたことに驚きを隠せない様子だ。

「……はぁ、はぁ…。見たかエレメント…。俺だけの力で…怪獣の攻撃を封じてやったぜ…。」

『なんと…。まさか遂に部分的な異人化なら制御できるようになったというのか…。』

エレメントも唖然としている。この男は、いつも予想の先を行く。ウルトラマンである自身が、その一歩前のステージであるリディオ・アクティブ・ヒューマンに驚かされてばかりなのは癪だが、自分ではなくて、こいつが『ウルトラマンエレメント』であれば、もしかしたらあの時世界を救えていたのかもしれない、という事を考え始めているのも事実であった。

『運命とは時に不公平だ。天はなぜ、この男ではなく私にウルトラマンとしての試練を与えたのか…。もっとも、与えたのは天ではなくリディオであったが…。』

ブツブツと呟くエレメント。

「ん?何か言ったか?」

『…いや。…それより、腕を元に戻したらどうだ。邪魔だぞ。』

目的を果たしのにも関わらず、彼の腕は異人化したままであった。

「…俺も戻したいんだが…。そうもいかん。」

『…まだ完璧な制御はできないようだな。だが、一刻も早くどうにかしなければ。身体を、最悪の場合脳まで侵食される可能性がある。』

「いや、俺に考えがあるぜ。エレメント、出番だ。」

イクタは右腕でミキサーを掴むと、そのままセットした。普段は左腕に装着するものなのだが、腕がこれでは仕方があるまい。右腕に常時取り付けていたブースターを取り外し、ポケットにしまう。

『このまま変身しようというのか?』

「当たり前だ。チャンスは今しかないぜ。あれだけの大技を使ったあとだ、しばらくは動けんだろう。」

イクタはそう言いながら、右腕を高々と突き上げた。

「ケミスト!エレメントーー!!」


『シェア!!』


掛け声とともに、イクタとエレメントが一つになり、本来の姿である光の巨人へと変身した。

「やはりな。」

イクタが、エレメントの眼球を通して左腕を見つめた。その腕は、異人ではなくエレメントのものとなっている。

「普通に考えて、ウルトラマンの力の方が遥かに上をいく。俺の左腕は上書きされたってわけだ。これで、変身を解いた時には元に戻っているはずだ。それに、お前と同化している間は痛みも感じない。」

『なぜそうなるとわかった?異人化のままウルトラマンへ変身など、前例がいないものだぞ。』

「なんとなくだ。今は、いつもに増してさらに頭が冴えてる気がするぜ。いくぞ!」

『ジャッ!』


 エレメントが勢いよく飛び出す。テペストルドは動けないものと思い込んでいたのだが、大きな翼を逞しく動かし、上空へと飛び立ち、エレメントの突進を回避した。

「まだ動けるのか。打たれ弱いがタフなやつだ。が、俺からは逃げられねぇよ。」

イクタは、左腕にブースターをセットした。それにより、エレメントの巨大な左腕にも、フッとブラスターが装着される。そしてその能力を発揮させるため、左腕を身体の正面に構えた。

『デュアルケミストリウム!ネイチャーエレメント!!』

その機械音声が発せられたあと、エレメントの身体に変化が訪れる。緑色のストライブが走るネイチャーモードに変化したのだ。

「さぁ、面白いものを見せてやるぜ!」

『セヤァ!』

掛け声とともに、ブースターが青く点滅を始めた。そこを中心に、光のオーラが巻きつくように円を描きながら集まってくる。

『シャアァァ!』


ある程度光を纏ったところで、その腕をテペストルドの方へと突き出した。それと同時に、突然、奴の周囲に乱気流が発生し、身動きが取れなくなる状況が生まれたのだ。

「自然を操る能力。これで怪獣を中心に360度全方向から今作り出したジェット気流をぶつけてる。大きなエネルギーがぶつかり合ってる真ん中にいるわけだ。動けないどころか、そのうち圧死するぜ。」

『…今思いついたのか?…全く、本当に面白いやつだ。」

 しかし、テペストルドも空中戦では負けるわけにはいかない。気流を相殺させようと、力を振り絞って翼を動かし、同じく突風を発生させていく。そのせいで少しエレメント気流の威力が弱まったのか、隙をついて脱出した。

『シェェェェェェェ!!』

「やっぱ簡単にはいかないか。でも、そう来るとは読んでいたぜ。」

テペストルドを襲う地獄はまだ終わっていなかった。次は、翼が凍りつき始めたのだ。

「翼から風を起こすんだ。正面の気流しか相殺できないとなると、揉まれていた間の身体の向いている方向に逃げると考えるのはそう難しくはない。なら、予めその地点付近の空気中に、ミキサーで回収した酸素と水素を、ブースターで反応させ量産した大量の水の粒をばら撒き、テペストルドが足を踏み入れた瞬間に、温度を急降下させる。これでところどころ凍らせることができるってわけだ。」

『…要は相手の動きの先を読み、逃げ場と予想した空間にたくさん小さな水の粒を漂わせ、それをネイチャーモードの力で遠隔的に冷凍させたわけだな。水の粒は怪獣の体にも付着したようだし、それで…。』

「が、これじゃあ気休めにもならん。目的は、あくまで一瞬だけでも動きを鈍らせることだったからな。見ろ、ビビって動きまで固まってる。本当の攻撃は、これからだぜ。」

イクタは、さらに怪獣のいる空間に大量の水素を噴出し、撒き散らした。

『プリローダケミスト!』


そこで、プリローダケミストを発動させる。久々に発せられた機械音声だ。これは、ミキサーとは違い、無制限の数の元素を、無制限に反応させることができるブースターだけの大技だ。

「これで、もう動けなくなるぜ。」

『ふっ、懐かしい。ラザホーに対して行った、このモード初の必殺技だな。』


エレメントは過去を思い出しながら言った。

「いくぜ。」

『ケミストリーラッシュ!!ハイドロエクスプロージョン!』
ブースターを始点に、撒き散らした水素を伝って、まるで導火線を走る火のように、連続の小規模水素爆発が連鎖反応していく。その行き着く先は、さらに高密度の水素が待つ、テペストルドの周囲だった。そして、次の瞬間。大規模な爆発が起こった。

 最後の爆発が終わり、煙の中から動きを失った、自由落下中のテペストルドが現れた。

『おい、殺してはいないだろうな。』
「大丈夫さ。瀕死にはなっただろうが。」

イクタはポケットからある遠隔操作用のスイッチを取り出した。イイヅカに預けていた、怪獣をエネルギー化させるために必要な光線を発射するためのものである。念のため、スペアを用意していたのだ。

「じゃ、終わらせるか。」

エレメントは、両腕を高く突き上げ、そのままゆっくりと胸の前で十字にクロスさせた。プリローダケミストを使用したためか、姿はいつものノーマルエレメントへと戻っていた。

『ケミストリウム光線!』

イクタの機体から放たれた光線を受けたミキサーが、エレメント必殺光線とそれを反応させ、怪獣を生け捕るための新たな光線をへと変化し、そのまま発射された。無事に命中し、テペストルドは徐々に光のオーラとなり、イクタの持つカプセルの中へと吸収されて行く。そして先ほどまで怪獣だったそれは、完璧にカプセルの中へと収容された。

「…ようやく終わったぜ。地下内の強力な怪獣の回収が…。」

イクタは変身を解くと、その場にちょこんと座り込んだ。やるべきことをやり終えたためか、力が抜けたようだ。同時に、左腕に鋭い痛みが走る。

「…っ!やっぱ、この痛みはきついぜ…。」

『苦しいところすまないが、まだホッとできるわけでもなかろう。むしろ、ようやくスタートラインに立てたというわけだ。奴らと戦うためのな。』

「……あぁ。もう俺たちも、できる準備は完了させたわけだ。…敵も本部に急襲を仕掛けてきやがったからな。早ければ数日以内に、大きな衝突があるかもしれん。」

『…いよいよか…。だが、最近になってまた迷いが生じたのだ。元はと言えば、彼らは私のせいで生まれた。私のせいで憎しみを抱いた。そしてそれに駆られて、地下に争いを仕掛けている。そんな私に、地下を守るためとはいえ、彼らと戦い、その命まで奪おうとする資格はあるのだろうか…?』

「…さぁな。確かに、今こうなってることの元凶はあんただ。その裏にリディオがいたのは確かだが、状況を作ったのはウルトラマンの力に間違いはない。けど、今あんたは罪を償うために、俺らに協力して、元の地球を取り戻そうと奮闘している。それが、あんたがやっと見つけた己の正義だっていうのなら、貫くしかないさ。…俺に説教した身分で、今更悩んでんじゃねーよこのクソ野郎。それより、そのミキサーのポンコツ性能をどうにかすることだな。」

イクタはそう言いながら、立ち上がった。その視線の先には、今到着した部下たち、そして援軍に駆けつけた戦闘機の部隊の姿があった。

『あぁ…そうだな。…私は私の正義で、私の過ちにけじめをつける…!』

「それでこそ、俺の相棒にふさわしいセリフだ。…さて、時間稼ぎのつもりが、全部終わらせちまったな。無駄足運ばせてしまったぜ。」

イクタの数十メートル前方に、イイヅカの機体が着陸した。

「隊長!ご無事ですか!?怪獣は!?」

「見ての通り、もう終わったよ。…それより、俺のアイリスバードはもう動かん。修理してる暇もないし、お前のに乗せて帰ってくれ。」

「…了解!」

イクタ隊は、TK-18支部を目指し飛び始めた。地球の運命を左右する決戦は、もう間近に迫ってきている。イクタは心なしか、少しばかり緊張のような感覚を覚えていた。

「…この俺が、少しでも恐怖から緊張するとはな…。」

小声で、そう呟いた。

「何かおっしゃられましたか?」

「いいや、なんでもない。」

 

 物語は、最終局面を迎えようとしている。

 

続く。

 


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