ウルトラマンエレメント   作:ネフタリウム光線

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 イクタやエレメントとの許可のない戦闘を行ったことで、フレロビが謹慎の処分を受けている最中、地上ではローレンらが『海の覇獣ポプーシャナ』を手中に収めていた。ポプーシャナを使い、遂に彼らは地下への急襲を図る。地下と地上、各々の正義がぶつかり合う最終章の幕が開いた。


最終章〜決戦、そして未来へ〜
第24話「開戦」


第24話「開戦」〜海の覇獣ポプーシャナ登場〜

 

「フレロビ、勝手な行動は控えてもらいたいんだがな。」

 フレロビは、IRIS本部の会議室に召喚されていた。先日、突如本部を飛び出し、TK-18支部でイクタ及びエレメントと、本部の許可なく戦闘を行ったことを厳重注意されている最中のようだ。

「…申し訳ございません。」

 フレロビは、本部長に対して頭を下げた。基本的にはイクタと同じような性格をしているようだが、彼とは違い、目上の人間に対してしかるべき態度は取れるようだ。

「今の状況は、デオスくんから説明を受けていたはずだろう。君もエレメントも、貴重な戦力なのだ。その2人が戦うなど言語道断。その隙に敵が攻めてきたらどうする気だ。」

横から、他の重役が口を出した。パットン戦闘隊員指揮官である。隊員たちからは将軍という愛称で親しまれている者だ。

「……」

パットンの発言に対しては、彼は無言で、横目で視線を合わせるだけであった。

「聞いているのかね?」

「もちろん。ですが僕は、本部長の発言にしか応答しません。」

「…ちっ、面倒臭い野郎だ。本部長、あとは頼みます。」

パットンは苛立ちながらも、それ以上は何も言わなかった。言っても無駄だということがわかっているのだろう。

「うむ。しかし残念だよフレロビ。君のことは、前任の本部長殿から預かったデータを通して知ってはいたが、私と君は今日この場が初対面。その時代の長に顔を見せるよりも先に、自分の願望を優先するとは、IRISの一員としては恥じるべき行為だ。いきなり信用を損なうようなことはやめ給え。」

ルイーズ本部長も、苛立ちを隠せない様子だ。

「…深く反省しております。…しかしお言葉ですが、あなたが僕を信用していないように、僕もあなたを信用はしておりません。」

「なに…?」

本部長の眉毛がピクリと動く。

「僕は確かに、本部長の意思には従います。ですが、僕が今まで仕えてきたのはあくまでグリン本部長です。ルイーズさん、あなたの政治は、僕を解凍した例の科学者の話から分析するに、要領が悪く無能な匂いがしてならない。この僕が従うにふさわしいとは、まだとても思えません。」

フレロビは、ストレートな批判を淡々と述べた。

「……君のいうことは最もだろう。解凍のタイミングもかなり遅れてしまったし、他にも本来の計画路線からはズレた行動をとっている。信用できない、というのも理解はできる。」

ルイーズは素直に、その批判について答えた。

「だが、計画というのはその時々の状況によって変更するものだ。全てが思い通りにいく計画など、存在はしない。まぁ安心したまえ。君のことは丁寧に扱うし、私自身、グリン殿を言うまでもなく尊敬している。IRISを間違った方向へは走らせんさ。」

「…その言葉を信用します。」

「うむ。さて、君への処分だが、これより2週間、本部謹慎状態とさせてもらおう。我々の指示を受けた場合などの特例を除き、本部外に出ることを禁止とする。」

ルイーズはそう審判を下した。

「ほ、本部長!その程度では甘くはありませんか?本部内であれば、自由に生活できるということになりますが…。」

秘書であるソトが、彼の耳元でそう囁いた。

「構わんさ。こいつを必要以上に束縛したら、デメリットが発生する可能性がある。」

「デメリット…?」

「そのうちわかる。…いいな、フレロビ?」

「寛大な処分に感謝いたします。」

フレロビは片膝をつき、ルイーズに対してもう一度頭を下げた。

「よし、では話は終わりだ。退室しろ。」

「はっ。」

こうして、彼は会議室を出て行った。

「…奴の前ではああは言ったが、これも計算のうちだ。さすが、いい働きをしてくれる。」

彼の後ろ姿が完全に見えなくなったところで、ルイーズがそう口を開いた。

「…と、おっしゃいますと?」

パットンが訊ねる。

「今まで常に1番の座であぐらをかいていたイクタが、初めてストレート負けを味わった。これが何より大きい。奴はこれで、更なる力を求めようとするはずだ。ただでさえ、地上人との戦いでは、現在の力量では限界が来ることを悟り始めていた頃合いだったからな。」

「ですが、それは彼を焦せらせるだけでは?慌てたところで、いい方向に向かうとは…。最悪、さらに状況が悪化する恐れもあります。」

ソトがそう言った。

「奴が並みの人間だったら、或いはそうかもな。だが奴は違う。この世で最も頭のキレる者だ。冷静に、今自分が本当に為すべきことを理解しているはずであろう。それを実行に移せるか、そこが課題だがな。その課題を乗り越えれば、奴は我々組織が理想とする究極の戦力になりうる。」

「…究極の…戦力…?まさか本部長、では奴を……『究極』のステージまで持ち上げる計画なのですか!?」

パットンが驚嘆の声を上げる。

「あぁ、そうだ。これはIRISが立ち上がった時からの目標だ。現有戦力から、地下純正の『ウルトラマン』を生み出す。機は熟しつつあるんだ、これからが楽しみじゃないか。」

ルイーズはニヤッと不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「うーーん、やっぱり無理だ!そんなことできるか!」

TK-18支部の科学棟にあるサイエンスチームの研究室。その中にある自身のデスクの上で、突如取り乱したような声をあげたのはイクタだった。

「ち、チーフ、どうされました?急に…?」

向かい合う場所にデスクを持つエンドウが、心配そうに声をかける。見ると、たくさんのスタッフが何事かとこちらに視線を向けている。

「…いや、こっちの話だ、悪い。」

それを聞いて、その視線たちは各々の向けるべき場所に移された。

『まだ悩んでいたのか?フレロビのことを。』

エレメントが小声で囁く。

「あったりまえだろ。そんな簡単に決断できるか。」

『…いや、簡単だろう。自分にないものを持っている者に、それを授かるために教えを請う。非常にシンプルなことだと思うが…?』

「それがムカつくんだ。この世に、俺にないものを持っている野郎がいるってことがな。特にあの態度だ。トキエダさんは俺にない統率力を持っていたが、あの人には付いていこう、と思わせてくれる人間力があった。それに比べてなんだあの野郎は?思い出しただけでイライラする!」

 相当苛立っているようだ。無理もない、突然、今までは存在しなかった自身よりも明らかに強い者が、敵勢力ではない場所から現れたのだ。それも、IRISの関係者として。

『気持ちはわからんでもない。しかしこれは君だけの問題じゃないんだ。君がフレロビに頭を下げることで得られる力で、地下世界を守れるんだぞ。』

「あぁ、俺もバカじゃないからな、理屈では全部わかってるよ!あんたが正しいさ。だが俺のプライドが許さない…。ガキの駄々こねみたいで自分でも嫌気がさすが、そのくらい俺はフレロビって男が気に入らないんだ。」

『……わかったよ。無理にとは言わない。なら、強くなる方法を他に探すしかないさ。』

エレメントは諦めたのか、それ以上フレロビの話をすることはなかった。

 

 

 時を同じくして、地上。ここでは、ローレンたちによる最終準備がまさに今、完了しようとしていた。ローレン等3人は、いつものアジトではなく、どこかの浜辺に佇んでいた。浜風が強いのか、各々の髪が大きくなびいている。

「やはり、こちらか仕掛けるということで?」

ダームが最初に口を開く。

「あぁ、情報奪取に失敗した場合は、敵を地上に招き入れる予定だったがな。せっかく敵の全てを掌握したというのに、仕掛けない手はない。」

ローレンがそれに答える。

「ま、当然だな。これも私のおかげってわけだ。感謝するんだな二人とも。」

キュリがドヤ顔で、得意げにそう言った。

「手こずっていた身分で調子に乗るな。我々は奴らとは違う。あのような時代遅れの下等生物を相手にするのなら、当然得るべき成果だ。」

「へいへい、そりゃわるぅござんした。」

拗ねたのか、口を尖らせながら悪態をつく。

「…さて、我々はなぜ、海の前に立っているのでしょうか?」

「この下に、CH支部が設置されている。まずはそこを叩く。」

彼は人差し指で地面を指した。ダームとキュリの視線も、そこへ向けられる。

「ほう。しかし、なぜそこから?本部や、エレメントを所持しているTKという地区にある基地など、先に叩いていた方がいいであろう大きな基地がありますがね。」

「答えは簡単だ。ここからの方が都合がいい。」

ローレンはそう言うと、右腕を身体の正面へと差し出した。ピンっと腕を張った後、握っていた拳を開き、掌を身体と平行させる。

「ここにくる。」

「…くる?」

キュリが、なんのこっちゃという表情で、彼の腕を見つめる。すると、突然として静かだった海が荒れ始めた。大きな波が、あちらこちらで発生し始める。

「な、なんだ!?」

「おおっと」

驚き慌てる2人をよそに、ローレンは先ほどの姿勢のまま、時折降りかかる海水にも微動だにせず、立ち尽くし続けている。

「きたか…。ダーム!出番だ!」

「ど、どういう意味でしょう!?」

彼による指示の意図がわからず、波音にかき消されぬよう大きな声で聞き返す。

「すぐにわかる!」

彼もまた、大きな声で返答した。その直後、荒れ狂う海から、一本の水柱が空高く打ち上がった。それを中心に、次々に小さな渦が発生していく。

「…なるほど、そういうことですか…。」

ダームは、その水の柱の中に見た影から、全てを理解した。

『パダァァァァァ!!』

 その大きな咆哮と共に、水の柱が弾け飛ぶ。中から姿を現したのは、全長60メートルはあるであろう大きな怪獣だった。頭部にはギザギザとしたエリマキの他に、額から二本のツノが伸びており、細く鋭い目からは威圧されるような圧迫感がひしひしと伝わってくる。蛇のような胴体には、二本の小さいが太い前足が生えている。その姿はまるで、神話に登場する海竜、バクナワのようだ。

「海の覇獣ポプーシャナ。イニシア、グランガオウと同等の力を持つ、最後の覇獣だ。」

怪獣を目の前に、ご丁寧に解説をしてくれるローレン。

「お前がここに引き寄せたのか!?」

キュリが訊ねる。

「少し違う。ここに来ることがわかっていた。むしろ、俺たちが出迎えた形だ。怪獣だってこの星の立派な一員だ。他の生物と同様に好き勝手に動き回る。」

「その動きの未来を読んだと、そういうわけですね。」

「あぁ。覇獣は並みの怪獣とは比べ物にならないオーラを放っている。俺のアビリティは全体的な時間の流れの他に、俺の意思次第で未来を読む対象の特定も可能だ。今回はポプーシャナに焦点を当てていただけだ。最も、なんども言っているように、イクタやエレメントといった能力者の未来は不安定で常に変動している。正確に読み取ることはできない。」

 彼らがそう話している間にも、ポプーシャナは吠え続けている。

「だがキュリの言ったことも少し正解だ。そこらへんを遊泳中のあいつに少し細工をした。」

そのせいだろうか、ポプーシャナはどうにも不機嫌そうな顔をしている。

「…ダーム。手懐けてこいつと共に真下へ降りるんだ。海水ごとな。」

「か、海水ごと飛ばせって言いたいのか!?」

目を丸くしたキュリが驚きの声を上げる。

「当たり前だ。海の覇獣が水のないところで本領を発揮できるわけないだろ。それに、海水ってのはいいぞ。奴らご自慢の機械や科学兵器もダメにできるかもしれないな。」

いつもは無表情の彼の顔には、少しばかりの笑顔が浮かんでいた。

「…いや、微笑みながら言うことじゃねぇだろ…」

「本性出てきましたのぉ…。」

それを眺め、引き気味のキュリと、なぜか嬉しそうなダーム。

「さてと、私たちは指示に従うまでですぞ。」

ダームは杖を利き腕握り、地を蹴り、怪獣の顔の位置にまで飛び上がった。

「さぁ、我々と共に戦ってくれますかな?」

握った杖の先を、怪獣へと向ける。どうやら彼のアビリティを使って怪獣をコントロールしようとの目論見のようだ。

『パダァァァァァァァァ!!』しかし、簡単にはいかない。怪獣は抵抗するように、さらに大きな声をあげた。

「むぅ、やはり覇獣は難しい。」

ダームも負けじと、さらに神経を集中させていく。

「おい、爺さんにあまり無理させないほうがいいんじゃねーか?下手すりゃ死ぬぜ?私ら純粋なリディオ・アクティブ・ヒューマンと違って、能力を完全に使いこなせるわけじゃないんだし。」

 空中で静かな格闘を繰り広げる1人と1体を見守るキュリが、彼を心配するようにそう言う。彼女の言う通り、ダームやラザホーの場合『自身のものではない異常細胞を身体に取り込んでいる』ため、彼女らとは能力の効果の大小が異なる。それに、彼は年齢的な問題もあるがー

「奴は己の使命を果たすまでは意地でも死なないだろう。そういう奴だ。心配には及ばん。」

これはローレンなりの、信頼の表現なのだろうか。

「ならいいんだけどよ。」

「…おい、こんなところで時間を食ってる余裕はない!とっととやれ!」

キュリの隣で、彼はそう大きな声で指示を飛ばす。

「ただいま!」

ダームはそう応えると、等身大のまま全身を異人化させた。

『海の覇獣よ、悪いですが、しばらく大人しくしてもらえますかな。』

異人化することで、さらに能力が強まったのか、ポプーシャナの鳴き声が次第に小さくなっていく。瞳も、徐々に黄色い光を帯びてきた。これが、制御完了の合図でもある。

『パダァァァァ…』

ポプーシャナは黄に染まった瞳でダームを見つめると、そのまま頭部を彼に近づけた。

『いい子です。』ダームも、怪獣の制御完了を確認すると、すぐに異人化を解いた。

「生物の細胞や神経を自在に操る。それがダームの能力。生物の傷の治癒から、脳のコントロールまでお手の物だ。心強い爺さんだぜ。」

キュリがニヤッと笑いながらそういった。

「さて、これで準備が終わったわけだ。」

改めて、ローレンがそう口を開いた。

「では、このまま向かってもらおう。ダーム、キュリ、怪獣の頭上に跨れ。このまま海の底まで潜ってもらう。そうして、そこでゲートを開け。大量の海水と共に、地下を襲撃しろ。」

「任せろ!」

「心得ました。」

2人が同時に返事をする。

「俺は次の一手のために動いておく。しばらく連絡は取れないが、間違っても死ぬな。死んでいいのはエレメントを殺した後だ。いいな?」

「わかってるって!じゃ、行ってくるぜ!」

「ポプーシャナ!出発です!」

『パダァァァァァァ!!』2人はポプーシャナの頭の上に乗り、ダームが杖を振った。それを合図に、ポプーシャナは大きく吠えると、海底へと進むために水中へと姿を消した。

「いよいよだ…くくく、地獄を見せてやるよ。俺らの先祖が味わった以上の地獄をな…!」

ローレンは不敵な笑みを浮かべながら、その場を後にした。

 

 

 CH-34地区に構える基地のレーダーが、突如として何かを捉えた。巨大な生命反応と、これはー?

「!?な、なんだ!?こちら管制室!レーダーが上空に未知の反応を捉えました!警戒態勢をー」

 異変に気付いたスタッフがそう言い終わらないうちに、それはやってきた。ドォォォォォ…と、滝のように大量の水が降り注いでーいや、そんな表現では甘い。まるで、空から濁流が押し寄せてくるようなもので、とにかく、とんでもない量の水だ。水圧だけで、一瞬にして幾つかの建物が潰されてしまった。

「何事だ!?」

 ヤン支部長が声を荒げる。支部長室のある本館は頑丈な構造になっているとはいえ、常に建物が振動を続けている。このままではぺしゃんこになりかねない。

「わ、わかりません!突然として水がーとにかく避難を!このままではー!」

他の幹部たちが、私物も放棄して慌てて建物の外へ出ようとする。目を向けると、ここは15階のはずだが、もう目下のところまで水没していた。陸地にあった基地の敷地が、わずか十数秒でダムの底にでもワープしたような光景に変貌してしまっている。

「支部長!こっちです!」

駆けつけた隊員たちが、幹部らの手を引っ張って外へと飛び出した。恐るべき速度で水かさが増していく、その中へと飛び込んだのだ。洗濯機の中に入った様な感覚で、水流に呑まれていく。

「大丈夫です!」

 しかし、常にいろいろな訓練を積んでいる隊員たちは、なんとか堪えていた。訓練のプログラムの中には、地上での海戦を予期し、水中での動作に関するものもあったのだ。握った支部長の腕を決して離さず、掴み続けながら、なんとか体制を整える。

 水はそれ以降は徐々に侵入範囲を広げつつはあったが、水かさが増すことはなかった。この数分のうちに、CH-34地区は大きな湖となってしまう。

「プハッ!」

水面まで上昇し、なんとか顔を出した生き残った者たち。ヤン支部長も、命からがら助かったようだ。

「支部長!ご無事ですか!?」

「ありがとう、君は命の恩人だ。」

これは、心の底から湧き上がった感謝の気持ちだった。

「とんでもないです。隊員として、やるべき行動をとったまでです。」

名もなき隊員は、謙遜しそう答えた。

「…しかし、これは海水…?地上にある海、という広大な水で覆われた範囲のものです。…と、なると…」

「…地上人か…!なんと大胆な…。この惨状では、おそらくもう動ける機械や戦術兵器は…。それに隊員たちも…。」

ヤンは、もう一度辺りを見渡した。本館の屋上は、ここらでは貴重な存在となってしまった陸地になっている。つまり、15階の高さまで水没ー少なくとも、この周囲の水深は50メートル近くまでになっているのだろう。

「なんということだ…。」

時期に、水面にはたくさんの遺体が浮いてくることになるだろう。そう考えると寒気がする。だが幸いにもこの地区は平地だ。水はこの瞬間にも徐々に、地区の外側へと流れ出ているはずだ。水かさも、今がピークであろう。最終的には、十数メートルにまで落ち着いてくれる。

「本館の15階に待機していた我々は、なんとか助かりましたが…。他の者たちは、ひとたまりもなかったのでは…。」

ヤンを救った隊員も、そう嘆いた。

『パダァァァァァァ!!』

その時だった、水上に、突如怪獣の頭部が姿を現したのだった。

「怪獣だと!?」

生存者たちは、その光景に目を丸くする。

「ゲッホゲッホ!死ぬかと思った…」

それに続いて、キュリも水面に顔を出した。地下突入の際に振り落とされ、今の今まで水流に揉まれていたようだ。

「しっかり捕まっておきなさいと申し上げたでしょう。」

そんな彼女の腕を、怪獣の頭の上に乗っていた老人が引っ張り上げた。

「すまねぇ…。」

口から勢いよく海水を噴き出しながら、ようやく怪獣の頭上に復帰する。

「…見た感じ、奇襲は成功のようですね。ちらほらと運の良い方々もいらっしゃるようですが。」

辺りを見渡しながら、ダームがそう言った。

「みたいだな。でも、水が足りないぜ。どんどん他の場所へと流れ出してる。みろ、水位が下がって行ってるぞ。」

確かに、みるみると水位が下がっている。数十分も経てば、ポプーシャナの大きな体格では泳ぎ回れないほどに浅くなるだろう。

「そのようですね…。まぁでも基地ひとつ潰せましたし、ここにはもう戦う機能もなさそうです。別に良いのでは?」

「それもそうだ。さ、次は市街地に行くか。基地は少し郊外に作られることが多いようだからな。近場の街をぶっ壊そうぜ。」

「えぇ、そういたしましょう。このペースなら、あっという間に殲滅できそうで何よりです。」

キュリたちは早くも、次の襲撃を考え始めているようだ。

「ま、待て!!」

彼らが話している隙に、本館の屋上へと上陸していた戦闘隊員たちが、幹部らを庇うような立ち位置を取りながら、怪獣めがけてアイリスリボルバーの銃口を向けていた。

「貴様ら…許さんぞ!!好き勝手できると思ったら大間違いだ!!」

隊員の1人がそう言いながら、電撃弾をセットしたリボルバーの引き金を、水面へと標準を合わせて引いた。水面に着弾した電撃が、水を通して怪獣へと襲い掛かる。

『パダァァァァァァ!!』

感電し、悲鳴を上げるポプーシャナ。

「おっと、やりますね。」

「シビビ…」

2人も、怪獣の体から感電したのか、少しのダメージが通ったようだ。

「そうか!その手があるか!みんな、電撃で攻撃だ!」

他の隊員たちも、彼を真似るように同じ行動をとる。

「良い手だ。しかし、それで良いのでしょうか?」

ダームが問いかける。

「何?」

「水の中には、もしかしたらまだ生きていらっしゃる、あなた方のお仲間さんがいるかもしれないのに、その息の根までを止めるということになりますがね。」

「くっ…!」

その言葉を聞いて、隊員たちは発砲を躊躇した。そしてその隙を、ダームは逃さなかった。

「今です。ポプーシャナ。」

杖を振りかざすと、ポプーシャナの瞳が黄色い閃光を放った。

『パダァァァァァァ!!』

 大きく吠えると、怪獣の身体の周囲の水が、渦を巻き始めた。その数は6個。それらは徐々に、螺旋回転する水柱として立ち上がり始める。

「な、なんだあれは…」

目の前の光景が飲み込めず、口をあんぐりと開けるヤン支部長。

「王手です。」

竜巻のような6本の水柱が、一斉に屋上目掛けて襲い掛かる。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

柱の破壊力は凄まじく、あの水流に耐えた屋上も、一瞬にしてコンクリートの破片になった。もちろん、そこにいた人々は一溜まりもなく、即死してしまったようだ。

「愚かな人々です。この中に、生存者などいるわけがないでしょう。ありもしない可能性を恐れるとは、実に愚かだ。躊躇わなければ、私たちに痛手を負わせることもできたかもしれぬのに。」

ダームは、数秒前までは生きていた隊員たちを哀れむようにそう言った。

「しっかし、こいつ強いな。水があれば何でもできそうじゃん。…でもまぁ、ここじゃ完全にアウェーだし、水の量も限られる。今みたいなオーバーキルは避けるべきだぜ。」

「おっしゃる通り、少しやりすぎましたかな…。さて、この後はどうしましょう?」

「さっきも言ったろ。市街地に行くんだよ。鬱憤もたまってきたしな。」

「なるほど。では、そうしましょう。」

ポプーシャナはもう一度強く吠えると、街の方向へと水上を滑り始めた。

「っておい、これじゃたどり着かないだろ。ポプーシャナは、一旦地上に返すぞ。」

キュリは、ポプーシャナのみを能力で飛ばした。それにより足場を失った2人はそのままチャポンと着水する。

「あまり勝手にされては困りますぞ。」

プハッと顔を出しながら、少し険しい表情をするダーム。珍しく、少し怒っている様子だ。

「効率化を図るんだよ。どうせすぐに移動できなくなる。こっからの乗り物はこれだ。」

キュリは、怪獣兵器であるカプセルから、地の覇獣グランガオウを呼び出した。

『ゴォォォォォォォ…!!』

喉を波打たせながら、大きな声を上げる。

「まぁ、確かに陸地移動ならこちらがいいですね。これは失礼を。」

「いいってことよ。いやぁ、戦争ってのも楽しいもんだ。覇獣のオールスターだぜ。」

彼女はウキウキな様子でグランガオウの頭に飛び乗った。ダームも、それに続く。2人が乗った後、グランガオウはさらに咆哮すると、街の方へと前進し始めた。

 

 

 CH-34基地の壊滅の一報が、本部を始めとする各支部に伝わったのは、その後数十分が経過した後だった。基地の人間が1人残らず死滅し、全ての機械が機能を失っていたため、誰も非常事態を連絡することができなかったのだ。たまたま、今日ヤン支部長と会う予定であったEG-04支部のエリオット支部長が、彼と連絡が取れないことを不審に思い、本部に通報したことで、初めて事件に気づくことができたのである。各基地をレーダーなどで定期的に観測しているとはいえ、まさか数分のうちに壊滅という事態を招くとは、誰も予想だにしていなかったのだ。観測時間外であったため、エリオットの予定がなければ、発覚がさらに遅れていた可能性もあった。

「奴らめ…ついに動きよったな!今度ばかりは支部が1つやられたのだ!本気で潰しにかかってきたのだろう!」

ルイーズは苛立っていた。

「本部長、すぐに敵を迎え撃ちましょう。野放しにしておけば、どこまでの被害が出るのか…。」

ソト補佐官が慌てて、各部隊の司令官に連絡を飛ばして行く。

「早急な対応は必要だが、慌てるあまり、バラバラに部隊を送り込んだところで、敵に痛手を負わせることはできない。フレロビとイクタだ。奴らを向かわせろ。」

「か、彼らを同じ戦場に向かわせるのですか!?敵は怪獣という驚異的な戦力を無数に所持しています!地下に怪獣をばら撒かれる事態だって起こりかねません。フレロビとイクタという二大戦力を同箇所に集中させるのは、あまり得策では…!それに、とても連携が取れるような組み合わせだとも…。」

ソトの恐れる最悪の事態は、もちろんルイーズも考慮はしていた。

「それでも行かせる。敵の怪獣はかなり強力だろう。我がIRISの基地が一瞬で壊滅に追い込まれたのだ。それほどの敵、イクタとフレロビ二人掛かりでなければどうにもならん。つい最近、優秀な隊員で構成された地上遠征部隊が、たった1体の怪獣に滅ぼされたのを忘れたわけではあるまい。」

「それは…!そう…ですが…」

「お前の言うこともわかる。だがここは本部長である私の判断に従ってもらおう。いいな?」

「…はい。」

ソトは、フクハラ支部長へと電話をつなげた。

 

 

「イクタを?本部長命令、ですか。」

TK-18支部も、慌ただしく動いていた。当然、所属している戦闘隊員や職員は全て召集をかけられ、整備士たちは迅速にアイリスバードの点検作業に移っていた。もちろんイクタも、イクタ隊という1つの部隊の隊長であるため、今は手が空いていない状態だ。

「無論、すぐに手配はしますが、時間はかかりますよ。CH地区はそう近くもないですし。」

フクハラはそう告げ電話を切ると、すぐにイクタを支部長室に召喚する。

「何?見てわからないかな?忙しいんだけど。」

数分後、面倒臭そうな表情でイクタが現れた。

「悪いが、この緊急時だ。もう地上人との戦争は始まってしまった。」

「それはわかってるよ。CHの基地が壊滅なんだろう?生存者なしって、やってくれるな。ついこの間世話になったからな…。」

テペストルドの捕獲作戦で、イクタ隊の補給などの目的で立ち寄ったばかりだ。

「敵はまだ地下にいるかもしれぬ。お前とエレメント、そしてフレロビで連携し、基地を潰した敵を叩け。それが、本部からの任務だ。成功報酬は大きい。もちろん、拒否はできない。」

「…フレロビと…だって?」

イクタの顔が少し険しいものになる。

『…私は反対だ。今のイクタは、フレロビをよく思っていない。この2人を同時に戦わせるなど、むしろ大きな隙を生む要因にもなりえよう。連携など不可能だ。』

エレメントも、この件に関してはあまり好ましくは思っていないようだ。

「あぁ、私もそう思う。お前らの相性が最悪だってことは、先日の喧嘩からもわかる。」

フクハラは、はぁっとため息をつくと、腕を組んで椅子に座り込んだ。

「だが、やってもらわなければ困る。地下の…この星の未来がかかっている。それは、わかっているはずだが?」

「……あぁ。だが、俺とエレメントだけで十分だ。あいつはいらない。…緊急の用事だろ?そういうことなら、俺はもう行くぜ。」

フクハラに背を向け、彼は戦闘機の格納庫へと走って行った。

 

 

「イクタにエレメント?ふん、ただの足手まといだ。僕だけでいい。」

ソトから任務を告げられた直後、そのような言い切ったのはフレロビ。すでに、出動の仕度は整っているようだ。

「そうは言っても、本部長からの命令ですよ。従うんじゃないんですか?」

「…ちっ…。わかったよ、形式上は連携ということにしてやる。」

彼はヘルメットを被ると、先日支給されたアイリスバードマーク2へと乗り込んだ。この間、TK-18支部を訪れた時に乗っていたものと同じ機体だ。

「頼みますよ。一応、謹慎の身分なんですから、くれぐれも命令違反のないように!」

ソトが釘をさす。

「はいはい、わかったって。じゃ、フレロビ出動しまーす。」

急速にエンジンを吹かせ、ギュンッというジェット音を鳴らし飛び立った。初速からすぐに最高速度へと迫るスピードで、CH地区を目指して行く。

「地上人に怪獣か…。面白い。僕はこの時のために生きてきた!奴らを完膚なきまでに叩き潰してやる…!」

そう意気込むと、彼はさらにスピードを上げた。

 同じ頃、イクタの機体も最高速度に近い、超音速で現場へと飛行していた。

『基地を数分で機能停止に追い込む怪獣となると、覇獣に間違いないだろうな。』

エレメントがそう分析する。

「あぁ、そうだろう。もしかしたら、トキエダさん達の仇かもしれねぇ。」

イクタの脳内には、グランガオウのイメージがあった。

「もしそうだとしたら、この手で殺す。必ずな。」

『グランガオウは地球最強の生物だ。だが、勝てない相手ではない。前回も相打ちには持って行けたしな。フレロビからの援護があれば、あるいは単独勝利も…。』

「奴の援護は必要ない。俺とあんたで、2人で片付ける。」

イクタは、あくまでそのつもりのようだ。

『…わかった。そうしよう。』

 エレメントも、とりあえずは同調の様子を見せる。だが、彼の心境としては、やはりフレロビの協力なしでは厳しいとの見立てもあった。覇獣がいるということは、間違いなくそれを操るダームが近くにいるはずだ。彼も、異人化の能力を備えているだろう。いきなり大きな戦闘に発展する恐れもある。地上に一時帰還している可能性もあるにはあるが、空間移動能力の無駄撃ちになることを考えれば、まだ待機している可能性の方が高い。もしかしたら、陸路で次の基地を目指しているのかもしれない。

『…この戦、思っている以上に地上が有利のような気がしてならぬ…。ローレンめ、何を企んでいる…?』

エレメントは、根拠のない不安に駆られていた。

 

 

「予想通り。順調に進んでいる。」

ローレンは何かが見えたのか、そう呟いた。

「イクタ、そしてもう一つ大きなエネルギー反応がキュリ達に近づいているな。後者の方はイレギュラーで、データにないが…。なんにせよ、IRISは巨大戦力を早くも一極集中させようとしている事実に変わりはない。ここまでは読み通り。…とはいえ、奴らの完璧な未来予知は不可能。次の一手は奴らがキュリ達のところに到着したことを確認してから、だな。」

ブツブツと呟きながら、次の目的地を目指しているのだろうか、歩き続けている。

「どのみち、面白いことになりそうだ。」

彼はニヤッと笑いながら、さらに歩みを進めて行った

 

 

 

 

                                                        続く

 

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