第25話「光槍」〜地の覇獣グランガオウ登場〜
CH地区に現れ、一瞬のうちに基地を壊滅させたダーム、キュリを迎え撃つためにIRISはイクタ、フレロビという二大戦力を現地へと送り込もうとしていた。各々お互いを必要とせず、自分1人でーという思いこそ抱きつつ、間も無く到着という場面を迎えていた。
「こちらイクタ!レーダーに敵を感知!やはり、まだ地下に居座っていやがった!」
イクタが、そう報告した。その報告を受けるのは、TK-18支部の司令官である。
「了解。距離は?」
「60キロメートル。すぐに、目視できる範囲に入るはずだ。どうすれば良い?」
「決まっている。そのままの速度を保て。奇襲爆撃を仕掛ける。超音速のまま目標を捉えるという超高難度な大技でも、お前ならできるはずだ。」
「了解任せろ。…敵を確認!…あれは…グランガオウか!」
イクタの操縦桿を握る腕に力が入る。
『力みすぎるなよ。仇討ちも果たせなくなる。』
エレメントが助言する。
「わーってる。行くぞ!」
急激に高度を落とし、超低空飛行でグランガオウに急接近し、レーザー全門、ミサイル2発、そして搭載されていた少量の爆弾を全て同時に投下。持てる攻撃能力全てを、一気にぶつける。
キィィィィ……という耳を裂くようなジェット音に、後方を振り向くのはグランガオウの頭上に乗っていたキュリとダームである。しかし、その正体を確認する前に、奇襲攻撃を受け、それどころではなくなった。
『ゴォォォ…』
突如として全身に大きな痛みが走ったグランガオウは、思わず悲鳴をあげる。
「な、何だ!?」
超音速で飛行中だったアイリスバードは、もちろん既に彼らの視界から消えていた。一瞬のうちに、目標に全ての攻撃を完了させていたのである。
「IRISの手の者ですね…。しかしこの性能…相当な手練れを送り込んできたようです。」
攻撃を受け、彼らは大地へと振り落とされていた。ダームが泥だらけになりながら、そう呟く。
「全弾命中!次はどう仕掛ける!?」
「奇襲は不意をつくからこそ効果がある。敵に気づかれた以上、正面から挑め。」
「了解。」
速度を落としながら、大きく旋回し、今度は怪獣の正面から攻撃態勢に入る。
「トキエダさんやみんなの仇だ。ここで死んでもらう。」
操縦桿に備え付けられている、レーザー機銃砲のスイッチに、指先の力を込める。それを目にしたグランガオウは、イクタを撃ち墜とさんと、大きく口を開き、エネルギーをそこに集中させていく。あっという間に大きな光球が完成し、そのまま勢いよく吐き出した。
『ゴォォォォォォ…!!』
ずっしりとした質感を感じる。かなりの密度のエネルギーが込められていそうなのだが、それでいて弾速も早い。イクタも最高速度に近いスピードで向かってきていたため、瞬く間に、光球が目前へと迫ってきた。
「やばい!」
慌てて、大きく機体を傾かせ、回避を試みる。ギリギリで躱すことができたものの、突然として軌道を変更させた事で圧力がかかり、一時的な制御不可状態に陥ったのか、修正が測れなくなっていた。
「チッ!」
しかし、故障したわけではない。イクタは落ち着いて速度を落としながら、ゆっくりと、そして大きく旋回しながら、体勢を再度整えようとする。
『ゴォォォォ!!』
だが、グランガオウがそれを悠長に待ってくれるはずもない。スピードが落ち、狙いを定めやすくなった彼の機体めがけて、光球を連続で発射させていく。
「対応が早いな、くそっ!」
避けれるものは躱し、無理そうなものはシールドで防ぐ、という行為を繰り返すうちに、再度攻撃を仕掛けられるであろう程度までには体勢を取り戻していく。
「…流石に、一発が重い。シールドで弾ける量は限られてくるな。」
シールドも、無限に貼れるものではない。大きな力を弾くためには、盾にもそれなりに大きなエネルギーが必要だ。それが有限のものである以上、当然である。
『やはり、グランガオウ相手に1人では無茶にも程がある。最小限で考えても陽動に2人、そして君のようなアタッカーも2人、後方支援が3人は必要なはずだ。もう少し待てば、本部や各支部から出動要請を受けた、多数の部隊が到着するだろう。彼らを待ってからでも遅くはないんだぞ。』
エレメントがそう訴える。
「いや、遅い。奴らはその間にも移動をし続け、さらに被害が確認するだろうし、待っていたとしても、言い方は悪いが大した腕の立つ隊員はこない。味方に下手にちょこまか動かれて、俺の機動力が落ちるとすれば、1人の方が幾分かマシだ。」
イクタの意思は変わらなかった。
「…先ずは奴を引きつける。進路を変えさせるんだ。市街地の避難は当然、まだ完了していないだろうしな。…奴を叩きながら、あわよくばキュリかダーム、どちらかも始末する。」
『二兎追うものは一兎も得ない。欲張り過ぎるなよ。』
「…だな。」
イクタは、再びエンジンを吹かした。次の攻撃で、機動力を奪えれば流れはこちらにくるだろう。足の一本でも吹き飛ばすか、それが叶わずともダメージを与え、動きを鈍らせるか。念のため、大胆な空間移動術を使われないためにも、キュリとも引き離したほうがいいだろう。かなり高難度な動きになるが、やるしかない。
「俺が2人いれば、かなり楽なんだがな。」
そうボヤきながらも、彼は迷わず、グランガオウの足へと突っ込んでいく。
「沈め!」
IRISが持てる技術を凝縮して生み出した、最高クラスの火力を誇る、2発しか搭載されていない新型ミサイルを、惜しみなく同時に発射させた。この破壊力はあれば、硬いといっても所詮生物の身体の一部に過ぎない足など、簡単に吹き飛ばせるはずだ。
『ゴォォォォォォ!!』
全長60メートル前後で、推定体重は数百万トンという超巨体を持つグランガオウには、元より俊敏な動きは可能ではない。無論、高速飛行するミサイルを躱す術は持ち合わせてはいないのだ。だが、奴は驚きの技を使い、直撃を回避した。図太いその足からも、レーザー光線のようなものが発射されたのだ。ミサイルは空中で、大きく爆発を起こす。
「何!?」
大きく空気が振動する。ガタガタっと小刻みに揺れる機体は、流石のイクタでも吐き気をもよおすレベルだ。
「野郎、あんな攻撃手段も持っていたのか。」
『まさしく攻撃は最大の防御を具現化させた存在だな。あれはまるで生きてる固定砲台だ。機動力など、奪ったところで同じかもしれん。』
エレメントがそう分析する。
「かもな…。だが砲台ってのは、動けるか、動けないかでかなり違うさ。どのみち機動力は奪わなければならん。動けない限り、射程圏内だって変化しないからな。」
『だが簡単じゃない。最高の攻撃性能を誇ったミサイルも、失ってしまったのだ。戦闘機1機でどうにかなる事ではない。早々に諦めるのもどうかとは思うが、引き際を測るのも重要だ。諦めない!とむやみやたらに、限界以上のことを起こそうとすれば、それだけ死のリスクも高まる。なぜ人間が本能的に不可能を察知するのか、よく考えることだ。』
彼的には、つまりここは一旦退け、と主張したいのだろう。それがこの状況下では最もまともな判断なことに間違いはない。緊急的に発進させられた、ちぐはぐ部隊の援軍を待つのか、兵器の補充や相応しい部隊の編成のために撤退を選択するのか。この先グランガオウに勝つためには、後者か。それとも、まだ戦闘を続けるというのなら、少なくとも前者の選択は取らなければならない。
「あんたの言う通り、世の中どうしても無理なものは無理だ。例えば、この戦闘のようにな。」
イクタも、当然それは理解できているようだった。
「俺の私情を挟み、危険を冒して仇討ちを優先するのか。冷静に戦況を受け入れ、IRISのために動くのか。どっちが正しいかなんて決まってる。」
『わかっているのなら…』
「でも俺は退かない。ここで援軍を待つ。」
『待つ…?さっきは1人の方がマシだと言っていたではないか。』
エレメントは、イクタの言葉に驚いていた。
「あぁ。寄せ集め部隊を待つくらいなら、1人の方がいいだろうよ。だが俺が待っているのは、それではない。俺が2人いれば…と呟いたが、それに近い形になる。」
『……そう言うことか。うむ、それならば、最も正解に近い解答だろう。君なら、そこにたどり着けると信じていた。』
エレメントは納得した表情でそう言った。
『ゴォォォォォォォ!!』
こうしている間にも、グランガオウはイクタを倒さんと、次々に飛び道具による攻撃を仕掛けてくる。
「いけっ!あいつを倒せ!」
その頭上ではしゃいでいるのはキュリだ。
「おい、そろそろ、奴もここに到着するはずだ。悪いが、奴にはあくまで援護に回ってもらう。主役は俺とあんた、二人で充分だ。」
『当たり前だ。私も、そう思っていたところだ。』
「敵の攻撃も激しくなってきた。このままじゃ、持ち堪えられる時間も限られてくる。準備はいいか?すぐに変身だ。」
『もちろん、いつでも大丈夫だ。』
その返答に頷くと、彼はミキサーを左腕に装着した。
「ケミスト!エレメントー!!」
『シェア!!』
グランガオウの正面に、眩い光と共に輝く巨人が降り立った。彼の名はウルトラマンエレメント。地下の未来を担い、地球の未来を守る者。
『ゴォォォォォォォ!!』
『シェア!!』
睨み合う両者。まだ、動く気配はない。
『イクタ、見せてやろう。これが私の答えだ。セヤッ!』
エレメントは突然、右腕を大きく上へと突き上げ、そのままの勢いで振り下ろした。
「…何やってんだ?」
不審に思い、そう問いかける。
『私のエネルギー問題に関する課題だ。現状、やはり変身時間を引き延ばすことは難しい。だが、より効率よくエネルギーを活用する工夫ならできる。そうして生み出したのがこれだ。』
気がつくと、エレメントの右腕には、大きな円状の、ランスのような槍が握られていた。両手で握ればすっぽり隠れそうな長さの柄の先には、三角型の大きな鍔が設置されており、その柄寄りの方の底部には、小さな円筒形のボタンが付属している。円錐形となっている部分には、全体に渡って螺旋状の小さな切り込みが入っており、先端は鋭利に尖っている。全長は、エレメントの身長の約3分の2程で、ランス形状とはいえ、小回りの利きそうな具合だ。
『エレメントグニール。ミキサー内のエネルギーや、外部から様々な元素を集め、合成し生成した。私のエネルギーが基礎だからな。信頼性は抜群だ。』
「いや…だからこそ心配なんだが…。まぁいい、武器は前から欲しかったんだ。これで戦闘のバリエーションも増える。」
『確かにそうだが、要は効率良くかつ最大限に力を使い、強敵を倒すために作ったんだぞ?戦闘バリエーションとか、そう言うのは気にしなくてもいいと思うが?』
「こっちの話だ。行くぞ!」
エレメントグニールを利き腕である左腕に持ち替え、刃先をグランガオウへと向け、走り出した。
『ゴォォォォォォ!!』
正面から突っ込んできたエレメントに対し、エネルギー弾を発射するグランガオウ。
『ジャッ!ジュワッ!』
向かってくる光球を、一振りで撃ち落とした。これはなかなかの性能だ。次々に、グランガオウの攻撃を弾いていく。
「いい感じだ!よーし、喰らえ!」
『シャアアァァ!』
頭部の目と鼻の先まで接近し、一気に槍を突き出した。グランガオウの顔面で、大きく火花が散る。
『ゴォォォォォ!!』
「うわぁぁ!」
頭上で仁王立ちしていたキュリも、バランスを崩すほどの衝撃だった。足元を踏み外しながらも、なんとかグランガオウの鼻にしがみつき、落下は免れたようだ。
「爺さん!出番だぞ!エレメントのやつパワーアップしてやがる!早くしろ!」
「お任せを!」
どこからともなく、ダームが飛び出し、そのままグランガオウの背中に着陸した。杖を持つ右腕だけが、部分異人化している状態だった。
「グランガオウ!エレメントを潰すのです!」
能力を使い、グランガオウの自我を奪い、自身の制御化に置く。これにより、グランガオウはもうダームの身体の一部のような状態になる。
「はっ!」
ダームが杖を一振りすれば、それに従い動き出す。大きく唸り声をあげると、背中に広がる無数の小型のクレーターのような凹部から、エネルギーの弾丸が次々に発射されていく。それらは一度、真上へと一斉に上昇した後、エレメントを目掛けて弾道が変化し、彼に襲いかかる。
『エレメントシールド!』
銃弾の雨を防ぐため、エレメントグニールのグリップの丁度真ん中くらいの高さを握り、そこを中心に、身体の正面で横に円を描くように回転させた。回転速度は毎秒ごとに上昇し、遂には円状の光の盾が出現した。
「なるほど、槍を使って、エネルギーの消費を最小限に抑えたシールドが貼れるわけか。」
『そうだ、それに、機能性も高くなる。』
超高速回転するグニールを、左右の腕に持ち替えながら、次に次に弾を防いでいく。そういった行為を繰り返しながら、左右や前後に小刻みに動き、弾の軌道から身体をズラしていく。
「あまり後退はしたくないな。距離はできるだけ詰めておきたい。」
『うむ、グランガオウとの遠距離戦は部が悪いからな。だが任せろ、すぐにこの雨も止む。』
弾の切れ目の隙を見て、エレメントはサッと空へ高く、天井のスレスレにまで飛び上がった。
「おい、距離は取るなと今言ったばかりだろ。」
『まぁ見ておけ。』
エレメントはグニールの回転を止めると、今度は片手ではなく、両手でグリップを握りなおした。
『シャッ!』
そう大きな声で掛け声をあげると、あのボタンを、握り拳で軽く突き上げるようにして1度だけ押した。すると、円錐部分が真白く輝き、ドリルのように回転し始める。
『エレメントスマッシャー!!』
超高速回転する光槍を構え、マッハの速度でグランガオウ目掛けて急降下していく。
「あれは…流石にやばそうです。グランガオウ!」
ダームは焦るように杖を振り回す。
『ゴォォォォォォォ!!』
グランガオウは口を大きく開くと、今度はその内部ではなく、少し離れた空中で光球を作り始めた。その直径は、みるみるうちに頭部よりも大きなサイズへと変化していく。
『ゴォォ!!』
そしてその次の瞬間、なんとその顔よりも大きく膨らんだ球を丸呑みにしたのだ。一次的に破裂しそうなほどにまで肥大化した頭部の至る所から、光の筋が溢れ始めている。
『ゴォォォォォォォ!!』
そして、口の中でさらに圧縮され、密度を増したエネルギー球は、破壊光線となり放たれた。
『ノワッ!?』
超音速で、真っ直ぐに突っ込んで来ていたエレメントには、それを避ける術はない。このまま、光線を裂く勢いで挑む他ないのだ。
『シャッ!』
自身が輝く光の槍と化していたエレメントと、それを襲う光線が空中でぶつかり合う。
『うおぉぉぉぉぉぉ…!!』
「いっけぇぇ!!」
イクタとエレメント、二人の声が重なる。だが、鬩ぎ合いは終わらない。前進するどころか、むしろ押されている気さえする。
『グッ…!これほど…とは…!!』
ぶつかり合っていた二つの巨大エネルギーは逃げ場を失い、そのまま空中で大爆発を起こした。
「…グランガオウは最強の怪獣。扱い方さえ間違わなければ、負けるはずなどないのです。」
衝撃に耐えつつ、上空に広がる黒煙を見上げながら、ダームはそう呟いた。
「やったな。これで最大の邪魔者は消せた。」
キュリもホッとしたのか、胸をなでおろすようにそう言った。
『ゴォォォォォォォ!!』
グランガオウは、喉を鳴らし勝利の雄叫びをあげた。どこまでにも響き渡りそうな声だ。
しばらく、その場に静寂が訪れた。余韻に浸っている暇はない、と口を動かしたのはキュリだ。
「さ、行こうぜ。ローレンを待たせたくはない。」
「そうですね。」
こうして、再び、市街地へと向かい始めた彼らの耳元には、耳を疑う音声が聞こえて来た。
『デュアルケミストリウム!ネイチャーエレメント!!』
『デェェイヤッ!!』
赤と銀の身体で、一際存在感を示す緑色のストライブ。強化形態、ネイチャーモードへと変身したエレメントが、舞い降りて来たのだ。
ズゥゥゥゥンという地響きを砂ぼこりと共にあげながら、膝を深く曲げ着陸するエレメント。
『まだだ。私たちの目が黒い間は、地下で好き勝手にはさせん。』
「…しぶとい…っ!」
思わず舌打ちをするキュリ。その隣で、ダームの表情も険しくなっていた。
「…通常形態時ですら、あの武器を駆使しグランガオウとほぼ互角にやり合えていた…。これは、いささかマズイのでは。」
「おい、発言撤回が早すぎやしないか?遂1分前にグランガオウは負けないって言ってたろ。」
「それはそれ、これはこれですよ。ここは、退きましょう。手っ取り早く、ローレン殿に次の支持を伺った方がいい。エレメントが強くなったことは、地下での活動で大きな支障になります。ローレン殿はこの事をは見越していたかもしれませんが、我々にとっては不測の事態です。」
「…まぁ、確かにリスクはある。そうだな。一回地上に…。」
キュリが能力を使い、地上へ逃げようとした時だった。彼女の顔の横を、銃弾が通過したのだ。
「誰だ!?」
すぐに戦闘態勢に入り、弾が飛んできた方を睨みつける。
「おいおい、そりゃあねぇだろ?せっかく、今着いたってのによ。」
発砲者は、着陸させたアイリスバードから今まさに降り立とうとしていたフレロビだった。
「あの野郎、今頃着きやがったのか…。」
呆れるように呟くイクタ。存在を忘れかけていたところであった。
「…増援か?良い牽制球を投げるじゃん。までも、たった一人ってのは笑わせてくれるな。また今度相手してやるから、それまで待ってなよ。」
やってきた戦闘員が一人であることを確認し、緊張が解けたのか、すぐにいつものお調子者のような表情に戻るキュリ。余裕そうな雰囲気で、気を取り直して移動の準備に入る。
「だーかーら、待てって。」
気がつくと、フレロビはもうグランガオウの頭上、ダームとキュリの間に割り込んでいた。
「!?」
「これは…!?」
突然のことに驚きを隠せない二人。
「僕も遊びたいんだけど。混ぜてくれないかな?」
「…上等だ…!」
すかさず、素早く蹴りを仕掛けたキュリの脚を、右腕でガードし、好きのできたボディに左腕でジャブを入れる。
「ぐっ!」
腹にマトモに食らったキュリは、そのまま数十メートル吹き飛ばされた。
「なんだ、地上人ってのも大したことないな。」
「てんめぇ………!ぶっ殺す!」
憎悪に満ちた顔で、フレロビをにらめつける。
「そうこなくっちゃな。」
フレロビは嬉しそうな顔で、キュリの方へと向かっていく。
「キュ、キュリ殿!挑発されてはいけない!早く撤退を…って、もう止めても無駄ですかね…。」
ハァっとため息をつくダーム。キュリは非常にわかりやすい性格だ。これが長所でもあり、そして致命的な短所となっている。
『フレロビ、早速良い仕事してくれたな。キュリを遠ざけた。これで、グランガオウは逃げることができんさ。』
「あぁ。今回ばかりは感謝してやる。…いくらエレメントグニールである程度節約できるとはいえ、ネイチャーモードだ。もう持続できる時間も残されてない。ちゃっちゃとやるぞ!」
『セヤッ!』
右腕にエレメントグニールを握り締め、目にも留まらぬスピードで一気に距離を詰めていく。
「仕方があるまい。迎え撃ちましょう!」
『ゴォォォォォォ!!』
グランガオウは、地面を二本の前足で思い切り叩き上げた。すると、大地が動き出す。
『ジャッ!?』
大きく振動し、亀裂が入り出す地面。足元を取られ、急ブレーキをかけるエレメント。
『ゴォォォォォォォ!!』
地面は揺れるだけでなく、ところどころが隆起し始めた。次第に、隆起箇所は増え、高さも増し、最終的には、グランガオウを中心に、険しい岩山が完成する。
「これじゃ接近戦を取れない…。こんなこともできたなんてな。」
『安全圏から、得意の中〜遠距離戦法を図ろうってわけか。厄介だ。陸上戦なら無敵。地の覇獣、その肩書きを頷かせる強さだな。』
「感心してる場合じゃない。…くるぞ。」
岩山の向こうから、再び無数の弾丸が飛来してきた。狙いはもちろん、エレメントだ。
『だが、ネイチャーエレメントなら、似たようなこともできる。ハァァァァァ…!!』
エレメントは腰を落とし、膝と肘を曲げ、気合いを入れる声とともに、力を溜めてゆく。彼を中心に、大地が動き出す。
『覇獣と雖も、所詮は怪獣の延長に過ぎない!最強の生物は、ウルトラマンなのだ!それを思い知らせてやろう!シェアァァァァ!!』
地面が割れ、大量の瓦礫が彼の周囲に漂いだした。それを、襲いかかってきた銃弾の雨にぶつける。こうして弾丸を躱している隙にも、エレメントは次の攻撃を仕掛けるために行動していた。
『とはいえ、あれだけの岩山を動かし、奴を丸裸にするにはそれ相応のエネルギーが必須となる。今はそんな余裕はない。』
「じゃあ、どうすんだ?」
『アレごと吹き飛ばす。これまでにない大技を披露してやろう。』
エレメントはエレメントグニールの鍔に、装着を外した右腕のエレメントブースターをセットし直した。そのあとに両手で握り直すと、今度はボタンを二回突き上げた。
『吹っ飛べ!』
そう叫ぶと、円錐状の部分が、先端から3つの面を作るようにパカーっとゆっくり開き、内部からレールガンのような砲身が姿を表す。そこから、ネイチャーモードの最強技、ケミストリウムバーストをさらに超高密度に圧縮された、青白く輝く光線が放たれた。
『ケミストリウム…ウェェェェェブ!!』
正面から見ると、タダでさえ大きく、顔を出していた三角形型の鍔の間隔に、開くことで生み出された新たな3つ面が入り込んだことから、まるで中心が青く輝く六芒星の様だ。最も、ダームやグランガオウ視点からは岩山が視界を遮っているため、何も見えてはいないのだが。
光線は、行く手を阻む岩石や隆起した地面を、触れた瞬間に粉々にする程の圧倒的破壊力を見せつけながら、確実にグランガオウの元へと一直線に飛んでゆく。
「こ、この気配は…。まずいっ!」
本能的な恐怖感を覚えたのか、ダームはサッとグランガオウの頭を蹴り、数十メートル後方へと退避した。その次の瞬間、光線がグランガオウの身体を飲み込んだ。
『グオォォォォォォォォ!!』
これまでに聞いたことがないような悲鳴をあげるグランガオウ。
「一歩遅かったら…私も確実に死んでましたな…。」
空中で、冷や汗を流しながらそう呟く。
『シェアァァァァァァ!!』
エレメントは、このまま押し切らんと槍を持つ手にさらに力を込める。これだけの光線なのだ、反動も大きく、それに全身の力を近い、両足で地面を抉りながら踏ん張っている。
『オォォォォォ……!!』
グランガオウのシルエットが、光線の中で次第に消えてゆく。しばらくした後、大きな爆発が起こり、周囲を爆風や衝撃波が叩きつける。発生したキノコ雲は勢いが止まる気配もなく、上昇を続け、天井にぶつかることで形状を失い、広範囲にむくむくと侵食していく。
爆心地には、もうあの地上最強の怪獣の姿はなかった。
「……なんということだ…。エレメント、ここまでとは…。」
「…なっ…!?負けたのか!?」
信じられない、という表情で口をポカーンと開けるキュリ。
「よそ見している余裕があるのかな!?」
その隙を逃さず、フレロビが襲いかかる。
「くそっ!オラァ!」
キュリは咄嗟に、防御の為彼女の正面にゲートを生み出した。フレロビは、その中に飛び込んでしまうことになる。
「おお!?おいちょ、ま…」
セリフを言いかけたまま、ゲートは閉じてしまった。
「…爺さん!撤退だ!こんなのあり得ないって!」
相当焦っているようだ。
「…元はと言えばあなたが勝手に……いえ、口論の場はここではないですね。一刻も早く、ローレン殿の元へ…。」
『タダで帰れると思うな!貴様らもここで!』
逃さん、と残された二人に追い討ちをかけようとしたエレメントだが、その途端、タイミングも悪いことにカラータイマーが点滅を始めた。
『ぐっ…。忌々しいリミットだ…!』
「深追いは避けた方がいい。やることはやったさ。」
『…あぁ、そうだな。』
エレメントは変身を解除し、光の粒子となって姿を消した。
「今のうちです、さ、早く。」
急いでキュリの元へと駆け寄っていたダーム。合流したその直後、彼らも姿を消した。キュリの能力を使い、地上へと空間移動したようだ。
「…こちらTK-18支部所属、イクタ・トシツキ。敵怪獣を撃破、及び敵の撤収を確認。次の指示を。」
通常このような連絡は、所属する支部のみにすれば良いのだが、このような緊急時には、部隊によるものだけでなく、隊員個人の報告や連絡なども全て本部へダイレクトに送信されるシステムになっているのだ。
「ご苦労様です。流石はイクタ隊員にエレメント。期待以上の活躍でした。そちらに、間も無くアイリスバードの編隊が到着します。彼らに、あなたを回収し一旦本部に戻るように命じますので、恐縮ですがしばらくそこで待機を。次の指示はおそらく、本部長から直に伝えられるかと。」
オペレーターの女性がそう返答した。
「了解。」
イクタは通信を切ると、フゥッと一息つきながら、その場に腰を下ろした。
「しかし、グランガオウを終始圧倒できるとはな。相当強くなったぜあんた。これなら、奴らにも勝てるかもしれねぇ。」
『あぁ、だが、簡単には行かない。ケミストリウムウェーブ、奥の手まで明かしてしまったからな。』
「…それに、相変わらずの制限縛りがきついな。地上は覇獣レベル未満でも、圧倒的多数の怪獣がいる。このタイプの武器じゃ、多勢に無勢情勢をひっくり返すのには不向き。やっぱ、不利なことに変わりはないか。」
『でも、奴らの切り札も封じた。流石のローレンでも、これには動揺するはずだ。冷静なやつほど、思い通りに行かないことがあると焦るものだ。そこに、付け入る隙が生まれるに違いない。』
「…あんたも変わったな。頭が働くようになった。」
イクタは、昔を思い出すようにそう言った。
『これでも学者だったからな。昔の勘が戻ってきただけだよ。』
「…どうだか。……そういえば、何かを忘れているような気がするが…。」
『そうか?特に何もないと思うが…。お、あれはIRISの飛行機。ようやく到着か。』
「あぁ、うちの援軍ってのは、いつも遅いからな。」
イクタは立ち上がると、彼らにわかるよう、大きく手を振った。
「…ちっ」
ダーム、キュリの報告を受け、舌打ちをするローレン。
「わ、悪かったって!でも信じられねぇくらいに強くなってたんだ!想定外だ想定外!」
必死に言い訳をするキュリ。
「…想定外、か。まぁ戦争だ、そういうことはある。しかし、エレメントがそこまで力を付けてくるとはな。…まぁいい。」
苛立っている様子も垣間見えたが、それでもまだ余裕がありそうだ。これも、想定内だったと言わんばかりである。
「次だ。次が重要だ。イクタとエレメントが留守中のTK-18支部を潰す。データによれば、IRISでは本部を除けば、最高水準の科学兵器やそう職員数を誇っている。…いや、潰すというよりは、占領する、になるな。」
「占領…ですか。」
「あぁ。本部は広すぎる。3人だけでは管理もままならん。だが、TK-18支部なら、制御下に置けるギリギリの規模かつ、他のどの支部よりも兵器が豊富だ。乗っ取ってしまえば、奴らに大きな絶望感を与えられる。手っ取り早く皆殺しにしたいからな。抵抗する意思は出来るだけ早く取り除きたい。」
ローレンは、作戦の主旨をそう説明した。
「…だが、グランガオウの撃破で敵の戦意は損なわれるどころか高まっている。占領したところで、奪還計画を組まれ、大部隊で攻撃を食らう未来までは見えている。」
「じゃあダメじゃん!」
すかさず突っ込みを入れるキュリ。
「ダメ?いや、むしろそれが好都合だ。」
「…?なんで?」
「あのな…。」
呆れた、という顔で彼は彼女を見つめた。
「何の為の未来予知だ。先を読み、自分の都合が良い選択肢を取る為だろう。攻撃される箇所と規模まで見えているのなら、事前に対策すれば良い。そこで、大きな損害を与え返り討ちにする。もうそれだけで、IRISにとっても、地下の愚民衆にとっても、これ以上の絶望感はない。」
「…なるほど。」
ようやく納得したようだ。
「イクタが帰還する前に仕掛ければならん。エレメントに変身できないブランク中とは言え、奴には既に不完全ではあるが異人化の能力がある。一刻を争う。すぐに行けるな?」
「私はいつでも、大丈夫ではございますが。彼女は能力を使い過ぎている。」
ダームは横目で、キュリを見つめた。
「いや、私も大丈夫だ。爺さんには随分迷惑かけたしな。もう2度と、自ら墓穴掘るような真似はしない。グランガオウがやられたのも私の責任だ。せっかくの汚名返上の機会だし、行かせてくれ!」
「…その心意気だ。やり方は特に指示はしない。占領するとは言え、必要な範囲内での基地への与ダメージは許可する。行け。」
「よっしゃ!任せろ!」
二人は、ササっと彼の元を離れて行った。
「…そして、気になるのがこいつだ。」
二人の姿が完全に見えなくなったところで、ローレンはそう呟いた。
「キュリと張り合えるとはな。だが未来が見えない。…IRISめ、まさか能力者を隠し持っていたとは。探していた4人目…。あまりに見つからないから、どこかの過程で死滅し、血が絶たれたとばかり思っていたが、敵側についていたのか。だが、何故今までわからなかった…?奴らの未来は完全に見えないわけじゃない。不安定というだけだ。普通、存在くらいは認知できるはずだが。何かカラクリがあるってことか。食えないやつらだ、全く。」
ブツブツと唱えながら、その場に立ち尽くす。
「…何にせよ、早めに始末しなければ。」
見渡す限り、地平線の向こうまで広がる荒地。地面は乾燥からかヒビ割れており、申し訳程度の雑草が生えている以外は、本当に何もない場所。見上げれば、上空にはゴツゴツとした岩肌の天井があることから、ここも、地下世界の一角ではあるのだろうがー
「…何処だよ、ここ…。」
途方にくれたように歩き続ける一つの影。そう、キュリによって飛ばされたフレロビだった。
「あんなん反則だろ、空間移動って最強じゃねぇか。」
悪態をつきながら、行く当てもなく歩みを進めて行く。
「すぐ終わるって思って通信機も戦闘機に乗せっぱなしだったことを酷く悔やむぜ。僕の隊員服、レーダーで探知できる装置とか付いてないのか?」
先ほどから、その可能性を信じて、何度も服の隅々まで手探りでそれらしきものを探していたのだが、遂に見つかる事はなかった。
「ハァ、とんだ災難だ。とにかく、何処か村か町を探すほかない。」
ため息をつきながら、フラフラと歩き続ける。
時刻が夕方から夜に移り変わろうとしている時間帯であるせいか、天井の照明器具の光も徐々に落とされて行こうとしていた。少しずつ暗くなる中で、彼の後ろ姿はどんどん小さくなって行った。
続く。