その時、ウルトラマンエレメントも現れた。いよいよ幕を上げる、敵リーダーとの決戦。その行方は、果たしてー
第29話「対峙」
TK-18支部での決戦で、見事にダームを討ち取り、基地の奪還成功したIRIS。ここで勢いをつけて、一気にけりをつけたい、と誰もがそう思っていた。あれから数日、組織本部では、地上への侵攻作戦を議案に、首脳部による連夜の大会議が開かれているのだ。
「地上に出て、敵のアジトを叩く!今しかありませんぞ!」
役員の一人がそう叫んだ。もっとも、当然ながらこれはこの会議に参加している本部高官たちの共通意見である。
「そんなことはわかっておる。だが口でいうほど簡単なことではないのだよ」
本部軍事の司令塔、パットンがそう水を差す。
「我々には地上に出たという実績が少なすぎる。前回の遠征では、20数機の戦闘機を飛ばすことがやっとではなかったか。その際に敵の拠点の情報や、簡単な地上のマッピングを果たせていればまた話も違ってきたのかもしれんが、それもない。地理はほぼ不明。生息する怪獣の数も全く把握できていない。加えて、肝心の敵の居場所がわからない。これでどうするつもりか。考えてからの発言をお願いしたいな」
パットンはそう続けた。会議場の皆が押し黙ってしまうのも無理もない。このようなやりとりが数日続いているのだから、話は一向に進まないのだ。本部長も、険しい表情で頭を抱えている。
「今更調査隊を派遣している余裕はない。次に地上に繰り出すのはバリバリの攻撃部隊でなくてはならない。現状、右も左も分からないまま突き進むのが最良となる」
そう言ったのは本部長。彼の言葉そのものが、今のIRISの置かれている状況と言える。ダームの撃破で戦況は好転しつつあるとはいえ、それはあくまで従来のような、地下を訪れた敵を迎え撃つ、という防衛戦のような戦闘に限る話なのだ。万が一、敵が地上に篭ってしまえば、終わりの見えない泥沼の長期戦になってしまうことは明白。そうなった場合は、もうただの我慢比べ大会となってしまう。もっとも、敵にはこちら側の情報のほとんどを掌握されている、という立場でのそれであるから、どちらが有利なのかは言うまでもないだろう。
「……しかし、それでは隊員たちに死んでこい、と言っているようなものだ。情報のない戦いほど無謀な自殺行為はないですぞ。何か、策はないのでしょうか」
「……可能かどうかはわからないが、賭けて見る価値のある案なら、一つある」
本部長のその言葉に、皆が驚きの表情を見せた。
「ある、のですか!?お言葉ですが、それならもっと早くー」
「可能かどうかはわからん。そう言ったはずだ。あまり期待はするな。それに、先ほど思いついたものだからな」
「……本部長、具体的なご説明を」
「うむ。敵には、空間移動の力を持つ女がいたな?それは敵の地下に降りるための唯一の移動手段である。つまり、敵が地上と地下を行き来する際には、絶対的に彼女の能力を使用することになる。…ならもう、そこを利用するしかないだろう。次に敵が現れた時、あの女に発信機のようなものを隙を狙って取り付ける。そうすれば、敵のアジトなど一瞬で発見できる」
なるほど確かに、原始的だが現実味を帯びている作戦ではある。拠点と目的地を瞬時に移動できる便利な能力も、発信機さえ着けられてしまえば、たちまち居場所を教える為の能力と化してしまう、かもしれない。
「……難しいかもしれないですな。でも、それに賭けてみるしか…」
「確かに、他の案が出そうにもありませんし、これで行くしかないでしょう」
肯定的なざわめきが、瞬く間に場内に広がって行く。満場一致、と解釈していいだろう。
「決まりでいいか?では、この作戦を進める方向で行く。次は、具体的にどうするか、だが」
「物理的な機械ですと、取り付けるのも困難ですし、気付かれる可能性も高いです。例えば、エレメントが怪獣をカプセルに収容できるエネルギー態に変換できる光線を使ったように、特殊な光線を浴びせるのが得策かと」
「それが最良だな。科学班にそのような光線を開発するように伝えろ。今はイクタも本部にいる。不可能じゃないはずだ」
「……な、なんだか一気に勝てる気がしてきましたね!やっぱり、こちら側に風が吹いてるのでしょうか!?」
「はしゃぐな。当然だが100%の保証はない。それに次の行動を練っているのは、我々だけではなかろう。地上側から数日もアクションがないのだ。何か大きなことをやろうとしているかもしれない。一切の油断は禁物だ。いいか?」
「りょ、了解です…」
こうして、次の段階へは、とりあえず科学班の報告待ちで保留ということになった。とはいえ、科学兵器が一晩やそこらで完成するはずはないので、しばらくの間は身動きが取れない、と言っても過言ではなくなる。その間が、平和に過ぎればいいのだがー
「……4日後までの未来は確定した。敵は地上には来ない。よってこれより作戦を開始する」
銀髪を風になびかせながら、青年はそう口を開いた。隣には紫色のショートの少女もいる。どうやら、ここはいつものアジトのような場所ではなさそうだ。
彼らは2日前、地下から戻ってきた。駆けつけたときには既に戦闘は終わっていたが、彼らはIRISよりも早くダームの死体の回収に成功していた。ローレンはその肉片から得た細胞を、以前保管していたラザホーの細胞とともに、小さなカプセルに収容し、携帯している。これには、一体どんな意味があるのだろうか。
「なら、今日で戦争は終わりだな。私たちの勝ちでしょ?」
少女がそう言った。青年は少女には視線を送らず、一歩前へ踏み出した。
「……事はそう単純ではない。が、地下を沈めるには十分な成果が得られる事は確定事項だ。さて、準備はいいか、キュリ?正確に運んでくれよ」
「わかってるって。いつでもいいぞ」
キュリは右腕だけを部分異人化させると、青年の前に、人がひとり潜れそうな程度の大きさの、真っ黒に染まった暗黒の異空間のようなものを生み出した。空間移動のためのゲートである。
「じゃ、行ってらっしゃい、ローレン」
「ふん」
ローレンはローブのマントをたなびかせながら、その穴へと飛び込んで行った。出口は、IRIS、EG地区の支部の上空であった。
「これより、卑劣な悪魔どもへの裁きを下す。貴様らの罪に相応しい、神の鉄槌だ」
基地へと自由落下をしながら、青年、ローレンは身体中に力を巡らせているのか、所々が人間の身体から異形のものへと変化している。そして全身を怪人のような姿に変身させた後、巨大化を果たした。完全異人化だ。変身前では特徴的であったロングの銀髪の面影はなく、代わりに漆黒に染まった鬣のようなものが生えている。長さが足元まであり、全身を包んでもまだ布が余るであろうマントは健在で、変身前の黒色とは違い、アメジストのような高級感のある輝きを放っており、その存在感が、彼が今までの敵とは格式が違うことを表しているようにも見受けられる。顔も全体的に強面で、鋭く、全面が赤色に光る眼から送られる視線は、見るもの全てが凍ってしまいそうな程の、冷たいものを感じる。そのおぞましい姿はまるで、おとぎ話の中の大魔王のような迫力である。
『…貴様らの未来は、死だ』
その魔王のような巨大生物ーローレンは、右腕から漆黒のエネルギー球を発射し、一瞬にして基地を跡形もなく吹き飛ばした。爆風と瓦礫の舞う大地にドスンッと大きな音を立て、周囲を揺らしながら着地を果たす。
『……ふん!!』
ローレンは大きく息を吸い込み胸を膨らませた後、口から紫に光り輝く破壊光線を吐き出し、首を大きく振りながら、視界に入る限りを焼き尽くした。基地を囲むように発展していた街並みが、音を立てて崩れていく。
その工程を何度か続け、EG地区を完全に焼き払うと、ローレンは次の行動に出た。
『…次だ』
ローレンは地を蹴り、大きく飛び出した。するとその上空に、まるで待ち構えていたかのようにキュリのゲートが開いた。
「流石ローレン、予告通りの時間だ」
予め未来を予知し、ゲートを開かせるタイミングを打ち合わせていたのだろう。地下にいる以上、地上のキュリとは連絡が取れないため、おそらくそういうことになる。
「緊急報告!!EG地区に未確認の謎の巨大生物出現!怪獣、というよりは人型に近い模様!!」
本部にはすぐに知らせが入ってきた。全ての基地に厳戒態勢命令が出ていたため、以前とは違い伝達も早くなっているのだ。
「やはり来たか!!状況は!?」
本部長が聞き返す。
「映像が、その生物が現れたところで途切れています。考えるに、一瞬のうちに壊滅してしまったのでは…。」
「またか…!!くそっ!また同じ手法にやられた…!イクタとフレロビに緊急出撃させろ!開発は後回しだ!その巨大生物とやらを止めろ!!」
「了解!!」
本部でこのようなやりとりが行われている間にも、ローレンは上述のような基地へのダイレクト奇襲攻撃を繰り返し、僅か15分で5つの都市を廃墟へと変えてしまった。もちろんIRISからも、迎撃部隊が繰り出されたが、こうも頻繁に動かれてしまうため、彼に追いつくことができない。
『……俺が動けば、地下世界など脆いものだ』
「アイリスバード編隊より本部へ!敵は空間移動を繰り返しながら、基地とその周辺都市への破壊活動を行っている模様!これでは、敵の次に訪れる基地を予測しなければ、追いつけません!」
「……なんてやつだ…!このままでは…数時間と持たずに地下は終わる…!!」
本部長は絶句していた。敵側に、これほどまでの圧倒的な戦力を誇る者がいたとは。こんなの、想定外にもほどがある。一体誰が、数十分でIRIS自慢の基地を5基も瞬時に葬り去るような生物が出てくると予想できただろうか。
「……急がなければ……あれに勝てるのは……ウルトラマンだけだ!」
本部長は、駆け足で科学班の研究室の奥、Dr.デオスの元を目指した。
『シェアァァァ!!』
そのローレンを捉えたのは、ウルトラマンエレメントであった。ローレンの背後から突如変身し、奇襲のチョップを仕掛けるも、躱されてしまう。
『エレメントか……お前とここで戦うのも予定通り。お前なら、俺の行き先を予想できると踏んていた』
彼の予知通り、イクタはローレンが向かっている基地の順番を整理し、その目的を考察した。基地のデータから、周囲の都市の人口が多い順に侵攻していることがわかったため、次の規模であるここ、MS地区にかけつけていたのだ。
『……その声はローレン!?異人態にしては、戦闘力が高すぎる…。まさか、ウルトラマンへの進化を……?』
確かに、今まで戦ってきた異人とは、破壊力が段違いすぎる。まるで百数十年前、エレメントが初めて実戦投入された時そのもののような光景が、今目の前に広がっている。パワーだけなら、ウルトラマンと比較しても遜色ないだろう。
『馬鹿を言うな。真の究極とはこんなものではない。俺はまだ発展途上だ』
そう言いながら、ローレンはエレメント目掛けて光球を繰り出した。それを側転で避けると、エレメントも左腕から光球を生み出し、投げつけた。だがそれは、翻したマントによって弾かれる。
『……そんなものか?もう既に究極として完成している、ウルトラマンの力は』
ローレンは嘲笑うように言い放つと、駆け足でエレメントの元へと詰め寄り、目にも留まらぬ早さで拳を繰り出し、彼を吹き飛ばした。
『グハッ!』
途轍もない速度で宙へと放り出されたため、受け身すら取れずに地面へと叩きつけられてしまう。
『負けるものか……!!』
エレメントはすぐに起き上がると、青色の装置、エレメントブースターを出現させ、右腕に装着し、その力を解放しネイチャーモードへとパワーアップを果たした。
『……それがお前のウルトラマンとしての真の姿か。どうやら、我らが先祖の村を滅ぼしたのも、その姿だと聞いているがな。……消費も激しい上に、自然エネルギーを操れるだけの器がなければ変身することもできない。最初にレジオンからイクタをかばった際に身体の大半を失ったお前が、何故再度変身できるようになったのか、そこは謎だがな』
『ならば解説してやろう。イクタとの同化変身を繰り返していく中、私は徐々に自身の身体の修復を進め、それがある程度完了したタイミングで地上に出て、放射能を浴びることになった。君も私も、放射能が力の根源だ。それにより、再び力が目覚めた、そういうわけだ』
彼はそう語った。なるほど確かに、それならば辻褄が合わないわけではない。
『…そういうことか…。まぁ、なんだって良い。どのみち、ここがお前の墓場だ』
2体の巨人が、数十メートルの間隔を隔てて睨み合う。
彼らはジリジリと足を動かしながら、戦闘態勢を取り、お互いの隙を伺いあっている。果たして、先に動くのはー
『ジュアッ!』
エレメントであった。サッと軽やかに足を踏み出し、一気にローレンとの距離を詰めて行く。
『残念だが、お前の動きは全てお見通しだ』
ローレンは、思い通りの展開にニヤリと笑い、エレメントを迎え撃つ。彼のタックルを紙一重でさらりと躱し、隙のできた背中に、利き足の右足で力強く蹴りを叩き込む。エレメントは自身の速度に、さらに蹴られた衝撃が加わり、目にも留まらぬ速さで地へと頭から突っ込んだ。
『ノワッ!』
「おい、何やってんだ!」
『す、すまん!』
すぐに立ち上がると、エレメントブースターとエレメントミキサーを胸の前で交差させ、青白いオーラを生み出す。
『プリローダケミスト!!シェアアア!!』
ミキサーとブースター、二つの装置の機能をふんだんに使う技、プリローダケミストだ。周囲のあらゆる元素を選択し、お手軽に、そして即時に反応させることができる優れ技である。
今回は、周囲の気体を瞬間的に冷却し、ローレンを空気ごと冷凍するという荒技に出る。
『……ふん、こんなもの!』
少し反応が遅れ、片足を凍らされながらもすぐに脱出するローレン。流石に、簡単には捕まってはくれない。
『そこだ!ケミストリウムブラスター!!』
ブースターにチャージした青のエネルギーを、そのまま目標へと放出する技だ。ケミストリウム光線をも上回る破壊力を持つーはずなのだが
『ハッ!』
ローレンは胸の前で交差した両腕で光線を受け止めると、なんと力ずくでそれを押し返したのだ。
『ジュワ!?』
流石のエレメントも、その離れ業に驚きを隠せない。
『そんなものか!』
その隙を突かれ、ローレンの放ったエネルギー球を喰らい、数百メートル吹っ飛んでしまう。
『……俺はお前を殺すため、それだけのために力を求めてきた。…だが、なんだその様は。俺が倒したいのはウルトラマンだ。お前のような雑魚ではない』
『グッ…!』
ヨロけながらもなんとか立ち上がり、すぐに身構えるエレメント。そして腕を高く掲げることで呼び出したエレメントグニールを装備して、反撃に出ようと走り出す。
『ジャッ!デイヤァァ!!』
グニールによる斬撃を、ローレンは腕で捌きながら、隙の生まれた身体にすかさず蹴りやパンチを加えていく。しかし、エレメントもそのくらいで倒れる男ではない。ネイチャーモードとなり強化されている身体で、ある程度の攻撃を防御せずとも踏ん張りながら、今度はローレンに隙が出る機会を伺いながら、次の動作へと入っていく。だが、相手がウルトラマンと雖も、一瞬先の未来なら読めるのであろうか?彼の攻撃は、悉く躱されていく。
『当たらん……!先を読んでいるのか?』
「焦るな。短期的な未来なら読めても、俺ら相手なら長期的なものは無理だ。1秒後に攻撃を加えることではなく、数分後に命中するような格闘を繰り広げればいい」
『か、簡単に言うが、それは具体的にどうすればいいのだ?』
「……今から考える」
『………』
もちろん、ローレンが考える時間をくれるわけはなく、先を読まれに読まれたエレメントは、そのまま彼にキツいパンチを喰らい、その場に片膝をついてしまった。
『グゥ…』
『……興ざめだな。呆れて、それくらいしか言えない』
『なんだと……!』
『もう時代遅れ。ただの地上文明の遺産のようなもんだ。』
吐き捨てるようにそう言うと、ローレンは瞬時にグニールを奪い取り、それを思い切り、エレメントの腹へと突き出した。
『グムッ!』
槍は真っ直ぐに彼の腹へと刺さったまま、静止した。エレメントは痛みのあまりに、それ以上声が出ることはなく、全身の力が抜け落ちた反動で、その場にうつ伏せに倒れ込んでしまった。そのせいで、槍はさらに深く食い込んでしまう。
『……偉大なる先祖よ、復讐は果たされた。……こんなにも呆気なくな!』
槍を抜き取り、エレメントをまるでゴミを扱うかのように蹴り飛ばすと、その槍を地面へと叩きつけた。
『腹が立つな。この程度の雑魚のために、俺らの先祖は放射能に侵された地獄の中を生きていかなければならない運命を背負わされたのか…!…この程度の雑魚に、同志は殺されたのか!!』
腹の底から湧き上がる怒りを吐き出し、うつ伏せに倒れているエレメントを睨みつけた。
『……期待しすぎたな。俺の予知の中では、もっと楽しい戦いになるはずだったんだが。買いかぶりすぎていたようだ。所詮、俺の前ではこんなもんか』
怒りを吐き出し切ったのか、少し落ち着きを取り戻したローレンはそう言うと、くるりと背を向け、そこに転がっている光の巨人を置き去りにし歩き出した。
『後は、本部を潰して抵抗能力を破棄させる。そのあとに天井を崩して、地下を埋めて終わりだ。』
『ま…て…!』
しかし、彼の後ろで、巨人はゆっくりと立ち上がったのだ。先ほどグニールが刺さった部分から、結構な勢いで光の粒子を漏らしているが、これはおそらく彼の身体を構成しているエネルギーの一種だろう。つまり、その消費は通常よりも格段に早くなっていることだろう。
『まだ生きていたか』
ローレンは歩みを止めると、エレメントの方へと体を向ける。
『そう…簡単に…地下は消させない!』
力を振り絞り、正義の巨人は再び身構えた。既に胸のランプは赤く点滅している。
『元はと言えば、全ての元凶はお前だ。いいか、お前が死ぬことでこの負の連鎖は終わる。だからおとなしく眠っていろ!!』
ローレンは漆黒の光球を繰り出した。だが、それをエネルギーを纏った左腕ではじき返す。
『違う!私が死んでも、この負の連鎖は終わらんのだ!……お前は人を殺しすぎた。地下の人々はお前を憎み、復讐するために立ち上がる。終わらないんだよ!……この戦いは!』
『それは、地下に生存者がいれば、の話になるだろうな。つまり終わるんだよ。それに人を殺しすぎたのはお互い様だ。共に、地球のために尽くそうぜ?同じ人殺しとしてな!』
彼は再び、光の巨人に詰め寄り格闘戦へと持ち込む。だが今回は、その攻撃を防ぎながら、今度は逆に、隙を狙って反撃し始める。もちろん、当たりはしないのだが、その抵抗は、彼を驚かせた。
『どこにそんな力が……』
『私はお前に言い返す権利も、資格もない!私が死ぬことで、本当にこの負の歴史が止まるのなら、死んでやる。だが、そんなに単純じゃないんだ。お前にならわかるだろう、私が死んでから先の未来が。見えているはずだ。』
『そんなもの、強引な生存への正当化にすぎない。自分の犯した罪を知っておきながら、よくそんな口が叩けたもんだな!』
エレメントにキックを入れ、二人の間には小さな間ができた。
『だからこそだ!私には償う義務がある。それが、私の答えだ!…私さえいなければ、こんな戦争は起きずに、こんなにも多くの人が死ぬことはなかった!だから私は……自分が生み出した者たちの『現在』を守る義務がある!再び人類が地上で繁栄できる時代を作り、地球を元に戻す!それが私のやるべき償いだ!』
エレメントは再びグニールを握りなおすと、正面から突き出した。ローレンはそれを躱したため、二人の距離感は、さらに遠いものとなった。
『守るだと?矛盾にもほどがある。その対象には、俺ら地上人も含まれているんだよな?でもお前は殺している。とんでもないエゴトラマンだな。……言ってることがめちゃくちゃだ。もうお前の自己主張はいい!』
ローレンは大きく息を吸い込み、破壊光線を繰り出した。
『ケミストリウムバースト!!』
しかしまだ諦めない。諦めるわけにはいかないのだ。必殺の光線で迎え撃ち、攻撃を退ける。
『……地下と地上。150年前までは、同じ人類だった。今もそうだ!これはあくまで、地球規模の内戦にすぎない。侵略者から民を守る。私はただ、そうしただけだ。確かに正しい行為とは言い切れない。現に、君や、君の仲間、先祖には辛い思いをさせただろう。だが、私がそうしなければ、地下の民がその思いをしていたのだ。……私には、どちらか一方だけを守るなんてこと、できない。IRISと共に地下を守る!それは、君たちを守ることでもあるはずだ……』
エレメントは、彼を諭すようにそう言い放った。
『戯言を…。俺たちを守るだと!?惨殺魔が、ホラを吹くのも良い加減にしやがれ!そして、この姿を見よ!どこが、地下の愚民どもと同じ人種と言える!?我々は進化したんだよ!そして俺はまだ進化する!再びこの星に光を灯す正義のウルトラマンへとな!その偉大なる正義の第一歩として、悪の象徴であるお前を殺すと言っているのだ!』
『お前の頭には復讐しかない!私を殺し、地下を滅ぼした後、お前に何が残る!?そんな状態で、この星に正義の文明をもたらすことはできないんだ!私はお前の復讐を受け入れるが、人類は受け入れない!何も知らない彼らにとって、お前たちはただの侵略者なんだ!』
『知らないことが罪なのだ!この星の正しい歴史を!!知らない、では済まされないんだよ!俺の復讐を受け入れるだと!?そんな軽い口と身体で受け入れられるほど、俺の憎悪は小さなものではない!』
「……おい、こんな終わりの見えない話を続けている場合か?あんたもあいつも、自分の正義ばかりを主張しすぎだ。」
今まで静かにこの『口での戦い』を見守っていたイクタが、ようやく口を開いた。
「あんたもローレンも、犯してきた罪は消えないんだよ。まぁ、しっかり向き合うか、ただ復讐に駆られて暴れまわるか、そこには明確な違いがあるけどな。」
『イクタ・トシツキ…。やはりエレメント側の人間だな。だが思い出せ。お前は長くは生きられない身体だ。それに加え、こんな戦いにも巻き込まれている。お前にだって、自身の人生があるはずだ。だが、それを短い寿命と、我々と戦わなければならないという運命が制限をかけ邪魔をしている。それは、誰のせいだ?』
「…エレメントだよ」
イクタは短く答えた。
『そうだ。お前は、俺の数少ない同志の一人だ。目を覚まし、その悪人を捨て、こちら側へ来い。お前にはエレメントを憎み、貶し、攻撃する権利がある』
『……私は止めない。ローレンの言う通りだからな。君がついてくれたおかげで、私は改めて自身の成すべきことを見つけ、そして身体を取り戻すことができた。それに楽しかったよ。……巻き込んでしまって、本当に申し訳なかった。君を救う。その使命を果たせただけで、私は満足だよ』
エレメントは、静かにそう言った。
「あぁ。そうだな。俺も、いつまでもこうしてはいられない」
イクタはそう言うと、エレメントの身体から離脱し、地上へと降りた。彼の左腕には、もうエレメントミキサーは装備されてはいなかった。
『……流石に賢いな、イクタ・トシツキ。それでいい』
「エレメント、悪いな。俺も、楽しかったぜ。あんたとの若干1年はよ。……ここからは、俺の夢のために、俺の人生のために生きる」
『だ、そうだ。信頼する相棒にまで愛想をつかれた今の気持ちはどうだ?これで心置きなく死ねるだろう。イクタとの同化を解いたいま、貴様が死んでも、彼は守れるからな』
『………』
『ショックで言葉も出ないか。……おしゃべりが過ぎた。楽しいトークショーをありがとう、そして苦しみながら死ね』
ローレンは、暗黒のエネルギーを纏った拳を、一気にエレメントへと振り下ろした。バチィンという、拳が命中した音だけが、その空間に響き渡った。
「地球との距離、1000宇宙キロ。2時間もあれば到着します」
宇宙船の司令室のような空間で、航海士のような役職の男がそう報告した。艦長が座るような、大きな台座に腰掛けている大柄の男、大統領がそれに答える。
「うむ。ではマフレーズ起動準備だ。とっととケリをつけようじゃないか。地球の様子は?」
「地上には怪獣と思わしき生体反応多数です。地下の方は、もっと接近しなければわかりません」
「そうか。ったく、ウルトラマンめ何をやっている。地下と地上は戦争でもしてるんじゃなかったのか?なぜ怪獣が減っていない」
「詳細は不明ですが、まぁどのみち作戦に大きな支障はないでしょう。なにせ、これだけの数ですから。」
彼らの後方には、数えるのすら大変な量の大きな宇宙船が並んでいた。それぞれが武装しているため、まるで戦闘艦隊のようだ。
「それもそうか。よし、では偵察隊を派遣しろ。念には念だ。」
「了解。」
大統領の名を受け、艦隊の中にあった宇宙空母から、10機ほどの偵察艦載機が発進し、地球へと向かって行った。
「さて、長きにわたり分裂していた地球文明の再融合の日も近い、か。この代の大統領でよかったよ。フッハッハッハ!」
大きな腹を揺らしながら、高笑いをする大統領の声は、ほかのフロアにも聞こえそうな程のボリュームであった。
『……なに……?』
ローレンの拳は、エレメントには届いていなかった。それは、何か大きな、ゴツゴツとした壁のようなものに阻まれていたのだ。
『……おい、何の真似だ。イクタ・トシツキ……!』
その壁とは、完全異人化したイクタの背中だったのだ。
『何の真似って、さっき言っただろ。これからは、俺の夢、俺の人生のために生きるって』
ゆっくりとローレンの方へと振り向きながら、彼はそう言った。
『知らなかったのか?俺の夢は、地上に出ることだ。俺は天才だが、地上のことは何も知らない。なぜなら資料や文献がないから、学習のしようがなかったからだ。だから見に行く。その夢は、こいつがくれたんだよ』
彼はエレメントを指差した。
『こいつがこの世界に来なかったら、俺は今頃も、地下の中の蛙だっただろう。でも、こいつが教えてくれた。この世界にはまだ多くの謎があること。そして地上のこと、本当の歴史のこと。知らないことがたくさんある。科学者として、それを知りにいく。だから俺はこいつと組んで、地上目指してんだよ。』
『………』
『と、言うわけだからな。生ける資料であるエレメントはまだ殺させないし、あんただって生きた化石。俺の研究対象だ。悪かったな』
『ふん。まぁ、いいだろう。だが、俺に勝てるとでも思っているのか?さっきのエレメントの様を見ていたはずだ。お前など俺の敵ではない』
『さぁ?やってみなくちゃわかんないぜ?』
イクタはローレンめがけて走り出した。ローレンも、彼を迎え撃つために駆け出す。
『動きは見えている。当たりはせんー』
イクタが姿勢を低くし、パンチしようと腕を伸ばしたところを、ローレンはひょいっと難なく躱したーはずだったのだ。 『…!?』
だが、彼はダメージを被っていた。脇腹から大きく火花が散り、彼は姿勢を崩す。
『なんだと!?』
『い、イクタ!今、どうやって……!?』
ローレン、エレメントともに、思わぬ出来事に目を丸くしていた。
『……簡単な話だ。攻撃を躱されたその瞬間、腕を伸ばした。それだけ』
『腕を…伸ばす…だと?どういうわけだ……?』
『そのうちわかるよ』
イクタは間髪入れず、次の動作に入った。しかし、今度こそは、とローレンは神経を集中させ、イクタの未来に焦点を絞る。対象に集中すればするほど、より正確な未来が見えるのだ。
だが今度も、避けることはできなかった。いや、言い方を変えれば、避けたはずなのに当たっているのだ。
『あんたは俺の動きを捉えるために、俺が次に繰り出す体の部位を凝視してる。その視線が、俺にあんたの未来を教えてくれるのさ。なら、その部位をこうしてーこうすればいい』
なんと、イクタの左腕がさらに伸びたのだ。それも、物理的な話だ。完全異人態はその名の通り、これが完成形。これ以上、姿形が大きくなるはずはないのだがー
『……まさか、身体の体積はそのままに、自在に変形させられるというのか!?』
先に気がついたのはエレメントだった。今はイクタの右腕が、左腕が伸びた分だけ短くなっているように、他の部位のエネルギーを、一箇所に回している、ということなのだろう。
『だが、そんな細かいコントロール、いつの間に身につけたというのだ?それに、そもそも君は完全異人化はまだ会得していなかったはずだが……』
『あんたの助言に従ったまでだ。つまり、そういうことだよ』
『……フレロビか…。彼に異人化の訓練を…。しかし本来ならば、たかが数日そこらで会得できるような技術じゃないはずだ。イクタ・トシツキ……。これほどまでに、いちいち驚かされる人物には会ったことがない。潜在能力なら既に、どのリディオ・アクティブ・ヒューマンをも上回っているかもしれん』
『……付け焼き刃の異人化が……なめるな!』
ローレンはそう叫び放ち、その場で思い切り力を込め、全身を奮い立たせる。それに伴い、全てを圧倒しそうなほどの、禍々しい紫煙状のオーラのようなものが、彼を中心に螺旋状に、けたたましい音をたてながら地中より噴出し始めた。
『……おいおい、冗談キツイぞ、これは……』
イクタは彼のあまりの圧に、その場に腰を抜かしたかのように尻餅をついた。オーラはさらに増量を続けており、瓦礫を巻き上げながら、紫電のプラズマをも発生させている。
『エレメントミキサーによる制御がない状態での私でも、ここまでのエネルギーは持ち合わせていなかったというのに……。こいつは異人態のまま、ウルトラマンをも超えたというのか…?』
『上等……!張り倒してやる!』
起き上がったイクタは、臆することなく、果敢にローレンへと詰め寄ってゆく。
『ハッ!!』
それも虚しく、掛け声とともに繰り出されたローレンの掌底を喰らい、吹き飛ばされてしまう。『お前だけは生かしておこうと思ったのだがな。地下側につくというのなら、殺すまでだ。地獄を見せてやる』
ローレンは目にも留まらぬ速さで宙に躍り出ると、先ほど吹き飛ばしたイクタが地に落ちるよりも早く、その落下地点へと移動。受け身を取ることがやっとな速度で宙に浮いていたイクタには、その次の攻撃を避ける術はなかった。
『デイヤァ!』
落ちてきたイクタをさらに蹴り上げ、一気に天井付近にまで上昇させ、彼はまたも瞬間的に移動し、イクタの頭上に出現。かかと落としを腹に命中させ、優秀な戦闘機であるアイリスバードの初速をも上回るほどの速度で、彼を地面へと叩き落とした。その際に発生した衝撃波は凄まじく、地面を深く、広範囲にわたり抉り取っていく。仮に何も知らない第三者がこの光景を目にしたら、隕石でも衝突したのか、と驚くに違いないだろう。その規模のクレーターを生み出したのだ。
『ウグッ……』
身体の半分以上が地面に刺さったままのイクタの目前に降り立ち、ゆっくりと歩み寄ってくるローレン。
『お前など所詮、偶然能力者として生まれただけの、地下の文明で育った旧型の人間だ。お前らはもう地球には必要ない。必要なのは、新たな人類へと進化した我々だけだ。お前らは精々、この星を地獄へと変えた罪を……死をもって償えばいい』
トドメを刺すために、掌の上に暗黒に染まった球体を作り出した。大きなものではないが、尋常ではない密度を感じ取れる。
『……無駄にエネルギーを消費しすぎたか。この程度の大きさしか生み出せないとは、我ながら情けない。が、もう虫の息のお前にはちょうどいい』
球体は無情にも、すぐさまローレンも手を離れ、イクタめがけて飛行を始めた。
『うおおおおおおお!!』
イクタとローレン。その間に、突如大きな影が飛来し、それが球体を食い止めた。大きな爆発が発生し、至近距離から爆風を受けたローレンは数十メートル後退する。
『……?』
ローレンは状況を把握するため、目を凝らして舞い上がった噴煙の中を見つめる。
『ハァ……ウグッ!』
イクタを救ったのは、ほかでもない、虫の息であるはずのエレメントだったのだ。
『……死に損ないが…今どうやって動いた…?この俺の予知にない行動だと…?』
その姿を目にし、わずかではあるが困惑し、動揺する様子を見せる。
『……よく聞け……イクタ……本部長と…Dr.デオスの元へ向かうのだ……。そこに…君が知りたがっていた真実……そして……』
話している途中で、彼は光の粒子となり、完全に消滅した。もう、彼が待機するためのエレメントミキサーは、彼の腕にはなかった。帰る場所のない粒子たちは、ただ散り散りに舞うだけである。
『……おい……おい!エレメントォ!』
イクタは慌てて、光の粒子をかき集めようと腕を動かさんとするが、痛みが走り、それは叶わない。彼の目の前で、今この瞬間までウルトラマンであった存在が、拡散しながら、天井へと向かいふわふわと上昇して行く。
『……生体反応は途絶えた…。ようやく死んだか、エレメント…』
ホッとしたのか、力が抜けたローレンは、その場に崩れ落ちた。
『…しぶとい奴だった…。最後まで、お前を庇っていたな?エレメントよ、こいつはそんなに大切な存在か?その命を何度も差し出してまで、守らなければならなかったのか?』
ローレンは天を見上げながら、返答があるはずのない問いかけを繰り返した。
『なら、その大切な存在は…この手で消去する…。この地下世界も、民もだ…。お前の大切なものは全て跡形もなく消し去ってやる…。そうして初めて、真の復習は遂げられるのだ…』
ローレンは立ち上がり、イクタに改めてトドメをさすべく、もう一度球体を生み出そうと、力を込める。だが、先ほどのようなそれは出現することはなかった。どうやら、ガス欠のようだ。
『……チッ、今日のところは、ここまでだな』
彼は変身を解くと、マントを翻し去って行く。ガス欠になるほどの高レベルな戦いを繰り広げてもなお、息遣い一つ乱れていない。この男の背中からは、底知れぬ大いなる絶望が見出せる。
数時間後、満身創痍のイクタはIRISの救助隊により救い出され、付設の病院へと緊急搬送された。幸いにも一命は取り留めたようだが、ここまで弱った彼を見た者は、当然ながら未だ嘗ておらず、エースである彼の変わり果てた姿に、全隊員たちが不安のどん底に突き落とされたのは無理もないことである。
さらに、ウルトラマンエレメントが消滅したという報告。ウルトラマンという存在は何を定義に死とするのか、曖昧ではあるが、つまるところの事実上の死という一報が、地下世界全域を震え上がらせた。
これまで長いこと表に出てこなかった、ローレンという男。謎に包まれていたその存在が、いざ姿を表した途端、ここまでの惨事になるとは誰が予想できたであろうか。これを受けて、IRIS本部は緊急的に地下防衛作戦を練り直すことが決定された。地上に侵攻する案など、いまは後回しでもいい。ウルトラマンを失ったいま、いかにこの苦しい状況に耐え、反撃のチャンスを伺うのか…。そこに重みを置かなければならなくなったのだ。
とはいえ、誰もその作戦を本気で練上げようとはしなかった。何をしても無駄だ。IRISの首脳陣の大半に、それほどまでの絶望感を与えてしまったのだ。
「……ほ、本部長…。大変申し上げにくいのですが、もう降参してしまうのがいいのでは…」
役員の一人が、声を震わせながらそう発言する。
「…エレメントは負け、イクタも負けました。おそらく、このままではフレロビだって…。そうなればもう、我々に抵抗する力なんて…。いや、もう既にないのと同じだ。このまま嬲り殺されるくらいなら、敵の要求はなんでも飲み…!」
「落ち着け!!」
本部長の一声で、場は再び静まった。
「…奴はこの世界を完全に滅ぼし、地下を閉ざすことしか考えていない。降伏しようが最後まで戦おうが、結果は同じだ。」
「そんな……!!」
「……だが、私たちにはまだ翼がある。まだ、戦える!」
本部長は机を両手で思い切り叩き上げながら立ち上がった。急な仕草に、一同の視線が向けられる。
「……最終計画『ジアースプログラム』」
本部長は、そう短く言い放った。役員たちの手元のタブレットに一斉に資料が送信される。
「こ、これは…」
「文字通り、最後の希望だ。」
続く。