第3話「地下」〜ならず者怪獣シーザ・怪獣兵器ボムレット登場〜
人類は現在、地下深くに都市を建設し、そこで生活をしている。地下での生活というと、不便に聞こえるかもしれないが、実際、地下人類はそこまでの不便を感じていない。むしろ地下での生活に満足している人間は多いだろう。人類はまず、天井部位に大量のLED電球を設置。これにより、地下は全世界で24時間明るく照らされるようになった。人工的に植物を生育する技術も発展しており、電球からの光で、世界中で様々な植物が育てられている。そのため酸素に困ることもなく、稲や麦などの主要商品作物も育てられる。故に野菜も不足してはいない。
植物を生育できるだけで、環境は大きく変わる。人類が150年前の移住の際に地上から連れてきた、僅かな昆虫類や陸上動物も、現代ではかなりの数までに繁栄している。酪農家もいるほどだ。かつて地下水脈が通っていた場所の深層部には地底湖もあり、その水は放射能濃度が基準値をかすかに超えてはいるが、魚も生息できる環境となっている。とはいえその場所は多くはなく、水不足と魚介類不足は今でも懸念されている。
天才科学者イクタ・トシツキの登場から、その生活水準は著しく上昇した。彼は小学三年生の時に、全世界の地底湖から、世界各地の市街地に水道を通す一大事業を成し遂げた。蛇口から出る水は僅かとはいえ、その成果は市民の生活を大きく変えた。さらに彼は、中学生の時に人工的に雲を発生させることに成功。植物が吸い上げ、吐き出した水分をかき集め、雨を降らせたのだ。水に循環が生まれ、水はその過程をたどる度に、純度を増していった。
イクタの頭脳レベルは異次元クラスだった。もちろん地下社会にも学制はあるのだが、彼は16歳で地下トップの大学で学べることを学び尽くして、特例の卒業を果たす。学力レベルは言うまでもなく、驚くべきはその発想力、ひらめきだった。かつての地下人類が考えもしなかったようなことを考え、実行に移し成し遂げる。上記の彼の実績が、そのことを証明しているだろう。
そんな時、大学のトキエダ教授は、イクタに目をつけた。「君の頭脳は、もっと人類に役立つべきだ。」そう話しかけたトキエダは、イクタを自らが勤めていたIRISの本部に連れていった。当時そこには世界中の支部から、トップクラスの技術を持つ科学者やエンジニア、パイロットが集っていた。イクタは渋々、IRISの入隊試験を受験したのだが、そこで見出されたIQは340、パイロット適性は最高のSS判定と、入隊試験の段階でIRIS始まって以来の驚異的な数字を叩き出したのだ。
本部長はすぐにイクタ本人の検査を命令した。地下世界、いや、人間社会が始まってこれほどの天才がかつて存在しただろうか。一時はその能力の異常な数値から、潜伏している敵性宇宙人の疑いもかけられた。しかし調査の結果が示したのは、地球人であること。そして、リディオ・アクティブ・ヒューマンであることだった。
リディオ・アクティブ・ヒューマン。それは第四次世界大戦後に、地球上でちらほらと確認された特異人間のことだ。核兵器による放射能汚染が、一部の人間の遺伝子に特異な効果を与えたのだ。放射能の影響を受けた人間は、癌や白血病などを発症する恐れが高くなり、核兵器攻撃の被爆地ともなれば、最悪の場合即死となることもある。だが放射能研究者であるリディオ博士はある異常を発見した。放射能に冒された一部の人間が、病気を発病するどころか、脳が異常発達する、という事象だった。そのように、放射能汚染から、他の人間にはない特別な能力を持ってしまった人間、それを博士はリディオ・アクティブ・ヒューマンと名付けたのだー
『と、いうことだろう?』
エレメントはそう長々と、これまでの地下人類史を踏まえつつ、本当に自分のことを知っていて、それを語ってしまったたのだ。
「…あんた本当に何者なんだ…?」
以前にもした質問をもう一度投げかけるイクタ。
『いつかわかるだろう。今話すべきことではない。』
エレメントはそう言った。
「いや、間違いなく今語るべきだろ…。」
イクタは頭をかいた。どうやらこの仕草も、イクタの癖のようである。
「まぁいいよ。あんたもそこまで知っているなら、言わなくてもわかるだろ。今の人類には、できるだけ長い期間俺の知恵が必要だ。だが俺に残された時間は長くない。だからあんたを調べ尽くす。そして放射能クリーナーを、人類の手で作り出す。」
イクタはそう呟くと、作業を再開した。
『一応聞いておきたい。それを作って、君はどうする?』
エレメントが訊ねた。
「ないのとあるのじゃ大違いさ。これ一つで、地下世界はまた大きく変わる。そして実用性や応用力が高まれば、ゆくゆくは地上奪還にも繋がるはずだ。どうせ、このままじゃ放射能汚染に地球も耐えられなくなる。善は急げだろ?」
「なるほどな。夢はでっかくだ。頑張りたまえ。」
そう言って、エレメントは喋らなくなった。顔を上げると、先ほどまで光り、点滅していたミキサーは、輝きを失っていた。
「…レジオンは明らかに人為的な操作で地下外から来た怪獣だ…。宇宙からか地上からかは知らんが。裏を返せば、瞬間的に地下と地上を繋げる手段があるということだ。…その技術とクリーナー。二つが揃えば………いや、甘く考えすぎか……。」
イクタは気合いを入れるために、自らの両手で頰をパチンと叩くと、再び黙々と作業に向かった。
それから数日が過ぎた。サイエンスチームはレジオンの分析を終え、新たな兵器開発に乗り出していた。さらに火力を増したレーザー砲、ミサイル弾頭弾の整備が期待されている。イクタが独自に進めていたエレメントの研究も順調で、イクタはとある決断をしていた。
「エレメントの調査中間報告を、全世界中継で発表するだと…!?」
「そうだよ。可能でしょ?」
IRISTKー18支部情報局局長室で、イクタは局長と話していた。
「そりゃもちろん簡単にできるが…。」
局長は腕を組んだ。地下世界にも全市街地に電線は通っており、一般家庭にもテレビやラジオは広く普及している。パソコンやタブレット端末からアクセスできる動画配信サイトも人気で、現代でもテレビというものは、幅広い層から愛されている。
「…一体何を発表する気かね?」
局長はイクタに問いかける。
「まず、人類の味方であることと、放射能を除去できる力を持っていること。重点はそこに置く。」
「…人類の味方であること、まではいいが…。後者の方を発表しても大丈夫だろうか…。」
局長の懸念することも最もだった。IRISは過去に4度、放射能クリーナーの開発に失敗し、市民もそのことを知っている。放射能クリーナーが完成して、困る人類はいない。だがIRISの面目は丸つぶれになる恐れがあった。数度開発に失敗している装置の力を、突然として現れた正体不明の巨人が持っていると知られれば、IRISの存在価値が問われる事態になってもおかしくはない。
「もちろん、俺だってこの組織の人間だし、IRISへは極力迷惑がかからないようにやるよ。人類は150年もの長い間、この地下に引きこもって暮らしている。実際そこまで不便な暮らしではないとはいえ、俺は生きているうちにこの目で見たいんだよ。青い地球を。そのためには、みんなが地上を夢見て、一歩ずつ前進していく必要がある。全人類に地上奪還の夢を見させるには必要な発表だ。頼むよおっさん。」
イクタは顔の前で合掌した。
「…青い…地球…?イクタお前、どこでそれを知った?」
局長の顔色が変わった。現代の地球は、地上が放射能汚染されており、怪獣無法地帯となっているため赤褐色に変色してしまっている。むしろ、青いのは人類の一部が移住していった火星の方だろう。だがこの情報は機密事項。知っている人間はかなり限られてくる情報だ。このことを、イクタは前にエレメントから聞かされていたのだ。
「…いやえっと何かな…俺天才だし…。」
イクタは茶を濁す。
「…まぁいい。許可する。だが慎重にやれよ?うっかり機密事項を漏らさんようにな。」
局長はやれやれという表情で、会話を切り上げた。
「うっす。感謝するぜおっさん。」
イクタは短く敬礼すると、部屋を出て行った。
その日の午後、IRISTKー18エリア支部は早速メディアを情報局に召集し、会見場を設けた。お目付役として、局長もイクタの隣に座る。
「えー、この度はお集まり頂き感謝します。今回皆さんをお招きした理由は他でもない。我がIRIS最高峰の科学者、イクタ隊員より、皆様に重大な発表があるということなのです。イクタ隊員。」
局長が会見を切り出し、イクタへとつないだ。
「どうも。先日もお会いしたかな?IRISTKー18エリア支部所属、イクタ・トシツキだ。」
イクタが立ち上がり、背後に設置してあったスクリーンに、プロジェクターから光を投射する。その画面に、テレビカメラ、メディア関係者の視線が集まる。
「今回発表するのは、これまでに2度現れ、我々人類の窮地を救った謎の巨人、固有名【エレメント】についての研究成果の中間発表だ。」
おぉ、と、メディア関係者陣から感嘆の声が上がる。
「まず基本情報からだ。記録映像から検証するに、その身長は56メートル。体重は流石に詳細に測ることはできないが、推定3万4000トン、と言ったところだろうか。加えて高度な知能を持つと考えられる。味方にできれば、これ以上に強力な助っ人はいないだろう。だが逆に、敵に回せばこれ以上の強敵はいないとも言える。」
スクリーンに、エレメントの戦闘記録映像が流れる。
「が、彼は2度にわたり、我々人類に救いの手を差し伸べた。映像を見ればわかるだろうが、この戦闘力。既にIRISのどの既存兵器よりも上だ。」
ざわめきが大きくなる。
「おい、そんなこと言ったらIRISの存在意義が…。」
局長がイクタに小声で囁く。
「まぁ見とけって。」
会場の人々は、エレメントの戦闘映像に見入っている。
「さらに、解析の結果、驚くべき事実が発覚した。エレメントのこの光線。この光線の成分の一部が付着した場所の放射能濃度が著しく下がっていたのだ。エレメントには、放射能を除去する力もあるというわけだ。」
その瞬間、メディア関係者の視線は、一斉にイクタへと向けられた。
「…そ、それは一大発見ですね!もしエレメントが本当に人類の味方だったら…。」
「あぁ!怪獣に汚染された地区を取り戻し…いや、地上奪還だって夢物語ではなくなる!」
記者たちの表情がみるみると明るくなっていく。イクタは中継カメラに目線を送り、続ける。
「全地下市民の皆さん。人類は長い間、この地下で怪獣の恐怖に怯えながら暮らして来た。だがその恐怖の時代は、我々の世代で終わりを迎えるだろう。市民皆で協力し合い、我々IRISと共に地上を目指そう!」
イクタのその一言で、会見は終了した。
「な?心配なかったろ?」
情報局への帰還途中、イクタが隣で歩いている局長に話しかける。
「…記者たちの反応はそうだな。だが、物事を甘く考えるなよ。」
局長は険しい顔をしてそう言った。
「どういうこと?」
イクタが聞き返す。
「…大多数の人類は、この地下での生活に満足をしている。放射能に汚染され、怪獣がひしめく地上を取り戻しに行くということには、言うまでもなく大きなリスクが生まれる。実行するとなると、IRIS内部だけでも、数百…いや数千の犠牲は出るだろう。そこまでの危険を冒してまで、彼らは地上を目指そうとは思わない。…それに、未だにIRISのことをよく思っていない勢力も健在だからな。見通しは依然真っ暗だ。そのつもりでいろ。」
局長はイクタの方にポンと手を置き、そのまま一人で情報局の建物へと歩いて行った。
「……IRISをよく思っていない勢力、か。確かに、この混乱期に便乗して何かしでかしてもおかしくはないな。」
イクタはそう呟くと、支部の本館へと向かった。
本館に着くや否や、イクタはトキエダとロビーで出くわした。
「お。トキエダさんちーっす。」
「お、イクタ。丁度良い。お前を探していたところだ。」
「俺を?」
「あぁ。支部長がお呼びだ。ついてこい。」
トキエダに連れられ、イクタは最上階の会議室へと向かった。
会議室には、司令官と支部長のみがいた。
「失礼しやーす。」
イクタがいつもの調子で入室する。
「忙しいところご苦労。イクタ隊員。さっきの会見はテレビで見させてもらったよ。その事についてだが、いくつか聞いておきたいことがあってな。別に、私の許可なく勝手なことをしたことを責めるわけではない。いつもの調子で答えてくれれば良い。」
支部長が切り出した。
「了解。なんでも聞いてよ。」
「まず始めにだが、本気で地上を目指す気か?」
支部長の顔は険しかった。
「うん。少なくとも俺一人は本気だよ。」
「…そうか。お前の考えだ。無論成功すると確信してのことだとは思うが、率直に言おう。私は反対だ。」
「…。まぁ、支部長ならそう言うと思ったよ。だから事前に言わなかったんだ。」
イクタは頭を掻きながら呟いた。
「いくら放射能を除去できる能力を身につけ、エレメントを従えたとしてもだ。地上の放射能汚染度は異常なまでに高い。除去装置でも、完全除去には結構な時間がかかるほどだ。地上の放射能は計算上、あと30年も待てば半減期に入る。遠征はそれからでも…」
「遅い。それくらい、支部長もわかってるでしょ?」
イクタが支部長のセリフを遮った。
「俺があと30年も生きられるわけがないでしょ?長くて10年が良いところ。これは俺という存在と、俺のリディオ・アビリティがあることが大前提の計画なんだ。それに前にも言ったけど、地球はゆっくりとその活動を終えようとしていて、50年後には崩壊が始まる。だが放射能さえ除去できれば、地上で植物が育ち、その分動物も増える。海洋だって、命の母としての役割を再び演じられる。そうなれば、地球は延命できる。それも相当長い期間の延命をな。」
「自分も地上遠征には賛成です。遅くとも今後49年以内には、地上の放射能を除去しなければならない。それならばイクタもエレメントもいるこの時代にやるべきです!」
トキエダも、イクタのフォローに入った。
「……まぁいい。最終的な決断は、全世界のIRIS合同会議で決めよう。そして次の質問だ。私も薄々とは感じているのだが、敵は怪獣だけじゃない。そうだろう?」
司令官とトキエダは、質問の意味がわからなかったのか、ポカンとしている。
「俺もそう思ってるよ。それも、結構な知的生命だろうな。宇宙人か、あるいは火星に移住している地球人か…。」
「火星に移住している地球人…?イクタお前、一体なんの話をしている…?」
司令官はまるで顔面いっぱいにクエスチョンマークでも浮かんでいるかのような顔をしている。地下では偽りの人類史が語り継がれている、という話を以前エレメントから聞いたイクタだったが、先ほどの局長の反応や、今の支部長の顔色を伺うと、どうやら本当のようだ。
「イクタ…。やはりお前のような男には、機密事項など無意味だったか…。まぁいい。トキエダ隊長、そして司令。今の話は忘れたまえ。疑問は解けた。もう出て行って良いぞ。」
支部長はフーッと息をつくと、司令とトキエダ、イクタを退室させた。
イクタの発表会見は全世界に中継されていた。中継を見た市民たちは、大きく分けて二つの意見に別れることとなった。一つは“IRIS賛同派”。彼らの意見は、IRISやエレメントに全幅の信頼を寄せ、地上遠征にも賛成するものだ。IRISも伊達に創立60年ではない。長い年月をかけ、ゆっくりと市民の信頼を得てきたのだ。このような派閥が存在するのも当然のことだろう。
しかし、地下で裕福とは言えない、ギリギリの生活をしている層にとっては、確かにIRISには頼ってはいるものの、地上遠征は賛同し難い計画だった。特に反対しているのは農家である。今でこそ、IRISは志願制だが、地上遠征となると多くの人材が必要となるため、該当する一部の人間層はほぼ強制的に入隊させられるという可能性がないわけではない。そうなれば、働き手を失ってしまう。加えて、危険な地上に出るのだ。隊員の息子娘を持つ保護者たちも、万が一のことがあることを危惧し、計画には反対気味だった。これら派閥を、“地上遠征反対派”とでも呼ぼう。
そして少数ではあるが、もう一つのグループが存在していた。それはいわゆるテロリストや暴力団といった反社会勢力だ。彼らは人類が地下に移住してから数十年、政府や法がないことをいいことに、猛威を振るっていた。IRISは本来、彼らから市民と市街地を守るために結成された組織。IRISが創立してからは、その息を潜めてはいたが、完全に解散した組織は一つとして存在しない。地下遠征への賛成、反対以前に、そもそもIRISに反発しているのである。
そんな反社会勢力で、80年の歴史を持つ《カットフ》というテロ組織は、このタイミングで会合を開いていた。
「ボス。今こそ暴れるチャンスですぜ。しかも派手にな。街をドーンとぶっ壊して、何人か市民を殺害するんだ。市街地や人々に僅かでも損傷があれば、IRISは信頼度を失うに違いないぜ。結果的に怪獣から街を守ったのに、あれだけの記者会見を開く様になってたからな!」
金髪のモヒカンに、額に星マークのペイントのある、いかにもな男がそう切り出した。
「一理あるな。今ならIRISも世論も簡単に揺れ動かせる。街を派手に爆破とまでは行かずとも、何かアクションを起こす価値はあると、私も思います。」
少しインテリな雰囲気のある男も、金髪モヒカンに賛同した。
「確かに。この混乱期を逃す手立てはない。では具体的に何をするかだ。まずは、奴の言ったように街への攻撃でも構わんだろう。そのくらい派手なことをやらないと、IRISが出動する以前に、街の警備隊が取り押さえにくるだけだ。IRISをおびき出し、市民たちに見せつけなくてはならない。IRISが失態をするその瞬間をな。」
ボスらしき男がそう言った。
「なら俺にいい案があるな。あのエレメントという巨人を利用する方法がね。」
不意に背後から、聞きなれぬ男の声がした。反射的に全員が立ち上がり、銃を抜いて振り返る。
「誰だ!?」
二人の男が、ボスを庇うように立ち、ピストルを構える。見知らぬ男は黒いローブを着用し、フードを深く被っているため、顔がよくわからない。
「まぁまぁ。少なくとも俺は、あんたらの敵ではない。」
黒ローブの男は、両手を挙げた。
「…どこから入ってきた!?」
組織の一人がそう怒鳴った。このアジトは、まだIRISにすら特定されておらず、かつそこそこの腕を持つ輩を、見張りに起用しているのだ。そう簡単に、会合を開けるような奥地には侵入できないはずだ。
「どこからって、正面からだが?」
組織の一人が、監視カメラを確認した。入り口付近に、倒れている数名の見張りがいた。
「……ボス!あいつらやられてます!」
「貴様!」
ボスを庇うように立っていた男たちが、銃の引き金に指をかける。
「待て!」
それをボスが制し、二人を跳ね除け、黒ローブの前に出る。
「き、危険です!」
仲間の制止を無視し、黒ローブに話しかけるボス。
「…あんた。さっき面白いことを言ったな。あの巨人を利用するだとか。参考がてらに教えてもらおうか。それはどういった作戦だ?」
「ほう。流石はカットフの三代目だ。話がわかるらしい。」
黒ローブはそう言うと、両手を挙げたまま、その場に座り込んだ。
「簡単なことだ。いつか怪獣が現れた時、その時エレメントも現れるだろう。そのタイミングで、この弾丸をエレメントに打ち込むのだ。」
と、ローブの内ポケットから、見知らぬ弾丸を取り出した。
「なんだ、それは?見たことのない武器だな。」
「そうだろう。これはIRISすらまだ所持していない、裏世界の新兵器だ。これが着弾したものは、人間だろうと怪獣だろうと、5分間だけ使用者の好き勝手に操れるという代物だ。おそらくエレメントにも通用する。」
「…言いたいことはわかった。それで、エレメントに街を襲わせるんだな。なるほどそりゃいい。エレメントが敵であるという可能性が浮上してしまえば、味方だと言い切ったIRISへの非難も激しくなる…。我々反社会組織へのメリットしかない…。」
ボスは腕を組み、そう納得したかのように話した。
「ですが、その兵器が本物か…。いやそれ以前にちゃんと被弾者を操れるのか。そこが証明できない以上、その怪しい男と付き合うのは危険です!」
後ろから、インテリ風のメンバーがそう言った。
「こいつは本物だろう。そもそもこの男は、このカットフのアジトを炙り出し、侵入までしたのだ。その力量は信頼に値する。裏世界ってのはそういう世界だ。あんたの潜入も、本当は今すぐにでも殺して処理しなければいけない事例だが、この弾丸を提供してくれた礼だ。殺しはしない。その代わり、作戦終了までうちの組織についてもらおうか?」
ボスはそう判断した。
「話が分かるボスで助かったぜ。やはり、地下で最も歴史ある組織だな。ここを選んで正解だった。共に、再びこの地下で好き勝手できる日を夢見て、頑張っていこうぜ。」
黒ローブはそう言うと、フードの中で不敵な笑みを浮かべた、
「…未来が変わった…。ラザホーのやつ、作戦は順調のようだな。」
大きな椅子の上でうたた寝をしていたローレンだったが、眉間にピーンと信号が走り、目を開いた。
「そのようで。次はいかがなさいますかな?」
「ダーム。キュリと、そこらへんから怪獣を一匹連れてこい。どいつでもいい。」
ローレンは立ち上がり指示を出した。
「心得ました。」
ダームは部屋を出て行った。
「一時は奴らが地上に上がってくる未来も見えたが、修正できた。奴らは明日、その地上へ羽ばたくための翼がもげる。」
ローレンはニヤリと笑うと、再び目を閉じた。
その翌日。TKー18エリア支部内で、サイエンスチームは放射能クリーナーの開発を進めていた。スタッフたちが作業をしているところに、イクタが資料を持って入室する。
「あ、チーフ。お疲れ様です。」
部下の一人が挨拶をした。
「お疲れ。おいエンドウ、ちょっとこれを見てくれ。」
「あ、はい。」
エンドウと呼ばれた女性の部下が、イクタの手にしていた資料に目を通す。
「…これは…!これはすごいですよチーフ!」
エンドウの大きな驚愕の声を聞きつけ、スタッフたちがイクタたちの周囲に集まる。
「どうしたんですか?」
「放射能を完全除去するためのメカニズムだ。おそらく、このやり方なら成功する。」
イクタがそう言った。部下たちが次々に目を通していく。
「……すごい…。IRISが60年かけて遂に発見できなかった方法を…。これ、どうしたんです?」
「エレメントの残した痕跡から解析した。あいつは面白い研究材料だよ。」
「流石はチーフ!あの少ない情報量からここまで…!」
部下の目が輝き始める。
「ま、まぁ、俺天才だしな…。」
イクタは軽く咳払いをする。
「さぁ、これで研究はかなり進むはずだ。とっとと作っちまおうぜ。」
イクタがそう促した時だった。室内に、聞きなれない警報音が鳴り響いた。
「この音は…?」
部下たちに動揺が走る。
「…市民保護特別警報か…。訓練では聴いたことあるけど、実物は初めてだな…。」
イクタがそう呟いた。市民保護特別警報、それは怪獣災害ではなく、人的災害ーテロリズムなどーが発生した時に発せられる警報だ。
「ったく良いとこなのに…。」
そこに、イケコマが走ってやってきた。
「イクタ!IRIS出動だ!急げ!」
イクタは大きくあくびをした後に頷き、航空機格納庫へと向かった
基地の15階にある支部長室では、首脳陣たちが頭を抱えていた。
「なぜこのタイミングでテロ活動なんか…。」
情報局長は相変わらず青ざめており、早くも額にハンカチを当てている。
「しかもカットフときた。奴ら、まだ活動していたとはな…。私の父の時代の組織だぞ。」
支部長も驚いていた。
「IRISバードを4機向かわせました。一号機と三号機は修理中なので、五号機と六号機を使い、六号機を臨時に一号機として扱います。まぁ、どれもスペックは変わりませんし。トキエダにイクタもいます。」
司令官は少し余裕があるように見えた。
「到着後すぐに鎮圧できたとしても、それまでに死傷者が出れば……IRISはまた信頼を…。」
局長は今にも気を失いそうである。
「まぁ、怪獣が出るよりマシだ。今のIRIS最大の敵は驚異の巨大生物。等身大の敵など、対怪獣訓練を積んでる我々の相手ではない。」
支部長はそう言うと、IRISバード各機に搭載してあるカメラから映し出される、リアルタイムの状況を、モニターを通して睨み始めた。
「しかし妙だな。」
一号機コクピットで、操縦桿を握っているイクタがそう呟いた。
「と、言うと?」
後部座席で、運転のサポートをしているトキエダ隊長が聞き返す。
「だって市街地へのテロ活動だよ。そんなの、俺たちが鎮圧して終わりじゃん。しかも、そうすることで市民はさらにIRISを頼るようになる。向こうの狙いは、俺たちの信頼をぶち壊しにして、解散させることだろ?むしろ逆効果だ。俺がリーダーなら、まずは直接どこかの支部を狙うね。」
「なるほど最もだ。そこらへんのならず者なら、手当たり次第の何の計画性もない行動をしても違和感はないが、カットフはかなり統制の取れてる組織だ。長期的な狙いがある、と仮定していた方がいいだろう。」
「アイリスバード現場付近上空に到達。着陸します。」
イケコマが二号機からそう言った。アイリスバード全機は、その場で急停止し、垂直着陸をした。機体から、隊員が銃を構えて続々と降りる。計12名の小隊だ。トキエダが先頭に立ち、暴れるテロリストたちに怒鳴りつける。
「お前たち、今すぐにやめろ!全員地下法第1条違反の現行犯だ!!」
だがテロリストたちは、トキエダの怒声を無視し、暴れ続けている。市民たちは散り散りに逃げ惑い、いくつかの建物はすでに半壊状態であった。
「野郎…!司令!アイリスリボルバーの使用許可を!」
トキエダは、ヘルメットに付属している通信機で、支部の司令官に声を送った。
「アイリスリボルバーの使用を許可する。ただし、使っていいのは催涙弾と催眠弾だけだ!テロリストとはいえ一市民。傷つける程度は構わんが、絶対に殺すな!」
「…了解!総員地上戦闘フォーメーションAだ!」
「了解!」
12名の隊員は、陣形を作り、建物の瓦礫に身を隠しながら、催涙弾や催眠弾の発砲を開始した。
「イクタ!そしてイケコマ!お前たちは別行動だ!逃げ遅れた市民がいないかどうかの搜索、そして救助だ!」
「俺がいなくて大丈夫なの?」
イクタが聞き返す。
「我々を舐めるなよ。イクタ、お前は今日はリュウザキ隊員の欠員補助の役目だが、この部隊は我が支部の誇る精鋭部隊だ。俺たちの心配はいいから、まずは自分と、市民の心配をしろ。」
「りょーかい。んじゃ行くか、イケコマさん。」
イクタは、イケコマと共に、銃弾の雨を潜りながら、半壊状態のビルの中へと入って行った。
テロリストとIRISの激しい銃撃戦が続く。既に何発か命中し、倒れ込んだ敵こそいるものの、数が違いすぎる上に、敵側の弾丸は実弾である。どうにも分が悪い。
「へへっ!所詮IRISなんてこの程度よ!お前らぶっ放せ!」
テロリストは、催涙弾の被弾が怖くないのか、ほとんど身も隠さずに撃ち込んでくる。それを、遠くの崖から見つめる二人の男がいた。カットフのボスと、黒ローブの男だ。
「奴らはただの囮だ。見事にIRISが釣れた。」
ボスはニヤリと笑った。
「だがエレメントはどうする?やはり怪獣が現れた時に、この作戦を決行するべきではなかったのか?」
ボスの疑問は当然のものだった。
「いくらカットフの戦闘員とはいえ、下っ端クラスじゃ怪獣出現時に統制が取れないだろう。それに、エレメントが現れるような状況が生まれなかった場合は、IRISのメンツにこの弾丸を撃てばいい。どうにでもなるさ。」
黒ローブはそう答えた。
「…そうだな。それでいい。」
その時だった。突如、その崖の後方に大型の怪獣が現れたのだ。
『グオォォォォォ!!』
その咆哮は、戦場となっていた市街地にまで達した。
「ボスよ、天は俺たちの味方のようだな。」
「あ、あぁ。…これが大型怪獣か…。すごい迫力だ…。…?しかしどこから?天井に穴など見つからないが…?」
ボスはそう言いながら、周囲を見渡す。どこにも、怪獣が通れるような穴は空いていない。
「まぁ、世の中不思議なこともあるものだよ。常識が通用しないことだってあるさ。例えば、今突然、俺があんたを殺すような事があるかもしれないしな。」
「…?何を言って…」
ボスのセリフはこれ以上続かなかった。黒ローブの男に、腹をグレネードランチャーで撃ち抜かれて即死したのだ。
「…グッドタイミングだぜ、キュリ。」
黒ローブの男は、被っていたフードを肩まで下ろし、その顔を露わにした。薄い紫色の肌に、紺色の短髪。顔しわから、年齢は50代程度だと予想される。その姿は、限りなく人類に近かった。
「当たり前だラザホー。この私が遅刻したことがあった?さぁ、作戦を続けるぜ。」
キュリと呼ばれた少女も、薄い紫色の肌をしていた。彼女は、怪獣の頭の上に乗っている。
「…なんでよりによってシーザを連れてきたんだ?これじゃオーバーキルだろ。」
「私に聞かれても知らねーよ。ダームのジジイが連れてきたんだから。」
「まぁいい。じゃ、やろうぜ。ちなみにローレンはなんと言っていた?」
「今日、人類は翼を失う。だってさ。」
「翼を失う…?とにかく、壊滅的被害を受けるってことで解釈するぜ。久しぶりに燃えてきた。」
ラザホーはそういうと、市街地へと飛んで行った。
「シーザちゃん。あたしたちも行くよ!」
キュリは地面に降りると、怪獣シーザを市街地へと向かわせた。
『グオォォォォォ!!』
その叫びを聞いた瞬間、銃撃戦はおさまった。全員がその声の方向を向いたからだ。
「…怪獣か…!こんな時に…。」
トキエダは舌打ちした。
「隊長!怪獣、こっちに来ますよ!」
隊員が、空を飛ぶ怪獣を指差して叫んだ。
「全員アイリスバードに乗り込め!戦闘を開始する!」
「テロリストたちはどうしましょう!?」
「構うな。もう奴らは敵ではない。守るべき市民だ!行くぞ!」
トキエダに続き、全員がアイリスバードへ搭乗していく。
テロリストたちは怪獣の出現という状況を飲み込めていないのか、その場に立ち尽くしている。
イクタは、イケコマとは別のビルを探索していたが、怪獣がこちらに向かってくるのを見て、すぐに右腕にエレメントミキサーを装着した。
「しょうがねぇな。いっちょ片付けてやるか。ケミスト、エレメント。」
面倒臭そうに右腕を空に翳したイクタは、光に包まれみるみる巨大化していく。
『シャアァァ!』
右腕を高く突き上げたポージングで登場したエレメント。すぐに地を蹴り、飛行状態となり、飛んでくる怪獣を迎え撃ちにいく。
「!エレメントだ!また現れた!」
五号機の隊員が叫んだ。
「来たなエレメント。ここまでは全てはローレンの予言通り!」
ラザホーはニヤリと笑った。そして、ボーッとしていたメンバーに、弾丸を託す。
「ほれ。お前らのボスからの命令だ。作戦を遂行せよ。手柄を立てたものは幹部にする、とな。頑張れ。」
「は、はぁ…。」
渋々と受け取ったテロリストは、銃にその弾丸を装填した。
シーザとエレメントが、空中で衝突する。
『シャアァ!』
『グオォォ!』
両者ともにそのまま地面へと落ち、再び体制を整える。
『シャッ!』
エレメントが、シーザめがけて走りだす。シーザは赤褐色の肌で、背には少し心許ない中型の翼、額には長いツノを持っていた。とにかく太く長い尻尾が最大の武器なのか、ブンブンと振り回し、向かってくるエレメントを返り討ちにしようとしている。
尻尾攻撃をくぐり抜け、エレメントはシーザに全体重を乗せるかのように体当たりをした。ズンッという低く鈍い音が響き、シーザは地面に倒れこむ。エレメントはシーザの上に跨り、シーザの顔面を殴打していく。
『シャアッ!シャアッ!』
だがシーザも負けてはいなかった。
『グオオオオ!』
大きな雄叫びをあげ、エレメントが一瞬ひるんだその隙をつき、尻尾を器用に使いエレメントの足を絡め取ると、エレメントを地面に叩きつけ、寝返りを打った。今度は、エレメントの上にシーザが跨り、顔面を殴りつけていく。
そこに、特殊弾を装填した銃を装備したテロリストが駆け込んで来た。彼は銃口をエレメントに向けると、その引き金を引いた。放たれた弾丸は、エレメントめがけて飛んでいく。
「とにかく、これで作戦成功だ。ずらかるぞ!」
銃を放ったメンバーがそう言い、仲間たちと現場を離れようとしたその瞬間だった。
『ギュエルルルルルル!』
雄叫びと共に、銀色の、翼のない竜のような、機械的な怪獣が新たに出現したのだった。
前日の話である。ダームは、ローレンの指示通りに、キュリをローレンの前に連れて来た。
「来たなキュリ。ではこれより作戦を通達する。」
ローレンはそう言うと、部屋の中央に設置してある大きなテーブルに、地下の地図が描かれている画用紙を広げた。
「既にラザホーが、キュリの力を借りて地下に潜入している。そして、先ほど、怪獣兵器ボムレットのカプセル弾丸を、最も統制の取れているテロ組織に渡し終えたらしい。だが組織には、あの弾丸は被弾者を一定時間コントロールできるもの、として偽って説明させている。」
「それはなぜだ?」
キュリが訊ねる。
「その方が都合がいいからだ。まずは明日、お前が地下のこのポイントに、怪獣を一匹連れていく。そしてエレメントが登場したタイミングで、テロ組織はエレメントを操ろうと弾丸を放つのさ。怪獣兵器ボムレットのカプセル弾丸をな。」
「…。なるほど。エレメントを挟み撃ちにするわけだな。」
「しかしボムレットはまだ試作段階。大丈夫ですかな?」
ダームがそう言った。
「大丈夫だ。俺のリディオ・アビリティは嘘をつかない。真実の未来だけを映す。」
「あたしはローレンを信じて行動するだけだ。オッケー。作戦はわかった。」
キュリはやる気に満ちた顔で言った。
「じゃあ、頼んだぞ。」
ボムレットの出現は、誰もが予想にもしなかったまさかの事態であった。
「し、司令!新たに怪獣が出現!こちらも見たこともない怪獣です!」
アイリスバード一号機から、トキエダが報告する。
「う、うわぁぁぁ!」
ついにテロリストたちは、それぞれが散り散りになり逃げ始めた。
「どういうことだ…!?あの弾丸はエレメントを操るためのものだろ…?なんで弾から怪獣が出てくるんだよ…。」
金髪モヒカンのメンバーが、腰を抜かしたのかその場に崩れ落ちた。そこに、イケコマが駆けつける。
「今の話を詳しく聞きたいところだが、とにかく避難が先だ!こっちに来い!」
イケコマは金髪モヒカンに手錠をつなぐと、彼を引っ張るように退避した。
エレメントは、どうにかシーザを払いのけ立ち上がり、数歩下がって体勢を整えた。右斜め方向にはシーザが、左斜め方向にはボムレットがいる。ボムレットはその口を大きく開き、火炎弾を連射した。エレメントは地に転がり込むように回避する。すかさずシーザが体当たりで追い打ちをかけてきた。その攻撃をまともに喰らいつつも、受身を取り、再び立ち上がり距離を置いた。
『…シャッ!』
そしてエレメントは腕を構え、ファイティングポーズをとった。
エレメントの内部ー光の空間ーでイクタはエレメントに問いかける。
「おいおい、二体はまずいだろ。どうする?」
『まずは一体ずつ確実に潰そう。あの戦闘機の編隊と協力すれば、さほど難しいことではない。』
エレメントはイクタの脳内にささやきかけた。
「とはいえ邪魔が入るに決まってるぜ。……おい、このミキサーは、元素ならなんでも反応させることができるのか?」
『あぁ。反応させずとも、元素単体でも力を引き出すことができる。』
「よし。なら良い作戦がある。」
その時だった。ローレンは急な頭痛を感じて起き上がった。
「っつ…。」
思わず眉間を抑え込むローレン。
「ローレン殿。いかがなさいましたか?」
ダームが心配そうな顔をして訊ねる。
「…バカな…ありえない…。」
ローレンは激しく狼狽している。ダームは、ここまで動揺しているローレンを見るのは初めてだった。
「未来が…変わった…。」
エレメントはシーザへ飛び蹴りを命中させ、ついで襲いかかってきたボムレットの体当たりをかわし、胴体をつかみあげると、背負い投げをして地面へと叩きつけた。すかさず、アイリスバードのレーザー機銃が、2体の怪獣に追い打ちをかける。
『グオォォォ…』
『ギュエルルル…』
その隙をつき、エレメントは右腕を高く掲げた。その周囲の空気が、エレメントミキサーへと吸い込まれていく。
『ケミスト!ヘリウムエレメント!』
ミキサーから、その合成音が発せられると共に、エレメントの赤色の部分が、黄色へと変色した。
『ヘリウム?イクタ、ヘリウムなどどう使うつもりだ?』
エレメントが驚いたようにそう言った。
「まぁ見とけよ。」
2体の怪獣は起き上がり、エレメントを挟むような立ち位置をとった。そして、同時に二方向から襲いかかってくる。2体の怪獣の挟み体当たりが今にもエレメントに激突するその瞬間。エレメントは姿を消した。怪獣たちは衝突し、互いに地面に転がり込み、頭を押さえて悶絶した。そしてその後すぐに、少し離れた場所にエレメントは再び姿を現した。
「どうなってやがる…?」
こう言ったのは一号機のトキエダ、そして隠れていたラザホーだった。
『まさか、私の体を気体化したのか?』
エレメントはようやく理解した。
「そうだ。希ガス元素は他の元素と反応しないし安定しているからな。気体化しても問題ないと判断した。」
イクタは得意げにそう答えた。
『でもなぜヘリウムだ?希ガスなら他にもあるだろう。』
「その理由は、これからわかるよ。」
『シャアアァ!』
エレメントは倒れている怪獣に向かい、エレルギー弾を発射した。エネルギー弾の命中した怪獣たちは、ふわふわと宙に浮かび上がり、漂い始めた。
『グオォォォォ…?』
『ギュエル…?』
怪獣たちは自分の身に何が起こったのか飲み込めていないのか、手足をバタバタとさせている。
「ヘリウムはめちゃくちゃ軽いからな。あいつらの体の中に大量に注入してやったよ。んじゃ、トドメだ。」
『ケミスト!ノーマルエレメント!』
エレメントは、登場時の姿に戻り、両腕を胸の前でクロスさせる。
『シャアアァ!』
ケミストリウム光線だ。シーザに命中し、シーザは爆死した。そのままボムレットにも命中させようと、再び腕を十字に組もうとするエレメントを、アイリスバード一号機が制した。
「待ってくれエレメント!この怪獣は捕獲だ!」
エレメントは腕を下ろし、静かに頷いた後、光となりその姿を消した。
「ちっ…。ローレンのやつ未来を外しやがったな…。あいつの予言が外れるなんて、初めてだぜ。」
ラザホーは捨て台詞を吐くと、フードを深く被り、何処かに消えて行った。
IRISTKー18支部のサイエンスチーム棟にある、生け捕った怪獣の専用の施設へと、ボムレットは連れ込まれた。
「トキエダさん、なんでこいつは捕獲なの?」
あの後、イケコマと共に五号機に回収され、帰還したイクタが訊ねた。
「あぁ。こいつは妙なんだ。テロリストの放った鉄砲の弾から出てきたからな。まるで昔AMー13地区の基地が開発に失敗した怪獣兵器みたいだぜ。」
「怪獣兵器というと、怪獣をミクロサイズまで縮小させて弾丸の弾頭にセットし、着弾点から元のサイズに戻すというあれ?」
「そうだ。」
そこに、情報局長が駆け込んできた。
「聞いたぞトキエダ隊長!テロリストは全員確保。怪獣も一匹生け捕り、市民も死者無しだって!?最高の結果を残してくれたねぇ!」
珍しく顔色がいい局長。久しぶりのいいニュースなのだ。当然だろう。
「ありがとうございます。…、でも多くの謎ばかりが残りましたね…。」
確かに不可解な点は多いが、そのことは、命を救われた市民たちには関係なかった。この事件の結果、IRISの信頼度はさらに強固たるものになったのだった。