ウルトラマンエレメント   作:ネフタリウム光線

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 ついに戦場に到着したイクタを待っていたのは、リミッターを解除し、さらなるパワーアップを果たしたウルトラマンマフレーズだった。エレメントを倒したローレンをも凌ぐ、その脅威の存在に対し、彼に勝ち目はあるのだろうか…


第34話「死闘」

第34話「死闘」

 

 戦場では、戦闘態勢に突入している状態のままの二体の巨人による、実に1分近くの睨み合いが続いていた。両者ともに相手の手を読もうと、動きすらしないのだ。これにより、緊張感は毎秒ごとに高まり続けている。

『……埒が明かない』 

 未来を読むアビリティを駆使し、イクタの出方を伺うマフレーズではあったが、互いが究極の存在、ウルトラマンへの進化を果たしている者同士であり、この力を持ってしても、読めるのは非常に短期的で、それも不確定なものに限るようだ。このアビリティに頼りきりでは、思わぬ事態を招く恐れだってある。先ほどのローレンとの戦いだって、その例であった。

『……ふぅ、このままじゃ時間の無駄だな。動くとするか』

 そう呟いたのは、ウルトラマンエレメントモードアムートへと変身しているイクタだ。右腕を腰のあたりにまで降ろし、さらに姿勢を深いものとする。

『いくぞ!デヤアァァ!』
 そしてそのまま、勢いよく、一直線に飛び出した。初速からすでに音速を超える、文字通りの目にも留まらぬ速さである。

『速い……だが、見えないわけじゃない』

 一気に距離を詰め、拳を振りかざしてきたイクタの攻撃を難なくかわし、その後の攻撃動作も完璧に見切ったのだろう、ついには掠らせもせず、生まれた隙をつき、空間操作の能力で彼の背後に回り込み、赤い火の玉のようなエネルギー弾で反撃に出た。

『はぁっ!』

『これはキュリの……?くそっ!』
 

 とっさに左腕に力を込め、黄色のオーラを帯びた手刀とし、弾を捌いたが、彼の想定よりも威力の高いものであったため、攻撃は躱せてもダメージは被ってしまったようだ。左腕の指先から、煙が立ち上る。

『……俺の攻撃を全部予知してかわして、瞬間移動で背後を取りやがったな。あいつ、地上人たちのアビリティを持っていやがるのか?』

 彼の今の一連の動きは、初対面であるマフレーズと名乗る赤の巨人にどんな能力があるのだろうかと、小手先調べの目的があったようなのだが、わかったのはローレンとキュリの力がある、という予想外の事実だった。これは一体、どういうわけなのか。

『これは驚いたな。火星のウルトラマンめ、想定外に手強そうだ……』

 今ではイクタにしか聞こえない、脳内に語りかけてくるかのような声しか発せなくなっているエレメントがそうつぶやく。

『これは、奴が持っているアビリティはあの二つだけではないだろうな。ウルトラマンとして目覚める際に発生する第三の能力はまだ見せてないし、この様子だとー』

 そう考えを巡らせながら、イクタは苦い顔をした。何か、嫌な予感がする。


『流石に君といったところか。勘付いたようだな。おそらく私も、同じことを考えている』

 その様子を感じ取ったエレメントの声色も、厳しい表情が目に浮かびそうなものだった。 

『まぁ、当たって欲しくない仮説だがな……』

 慌てず、まずは相手を丸裸にすることから始めなければならない。

『……次は、避けきれないと思うぜ?』

 挑発するように、マフレーズへと話しかける。

『……期待する。来るがいい』

 赤い巨人はというと、相変わらず機械的に処理するかのような、薄い反応だ。

『お言葉に甘えさせていただくとするよ!デヤッ!』

 またも、最初に動いたのはイクタだった。姿勢を低くし、素早くマフレーズの懐へと潜り込んでいく。

『スピードはいいものを持っている。だが……』

 またも、彼の背後へ回ろうと、ゲートを広げ空間移動の準備に入るマフレーズ。これでは、まともな攻撃が当たらないがー 

『かかった!それ!』

 しかし、後ろに回り込まれるところまで、彼は読んでいたようだ。マフレーズが姿を消したその瞬間に後ろへと左掌を向け、そこから何かを発射した。怪獣カプセルだ。

『ウルトラマンの身体での投擲なら、銃身から放つのと同等かそれ以上の勢いが出せる。問題なく起動できるはずだぜ!』

『何?』

 再び姿を現した赤い巨人の目の前で、ピカッと眩い閃光が発生。一瞬眩んだその隙に、その光の中から現れた怪獣、嵐獣テペストルドが襲いかかる。

『シェェェェェェェ!!』

 太いが短い首の上に、ちょこんと小さい顔が座った、手も足も申し訳程度の大きさしかなく、身体の7割が翼というつぶら瞳の怪獣が、両足の鋭い爪で斬撃に出る。

『……!』

 だがそれを側転で躱したマフレーズ。すぐに態勢を整え、腕から発射したエネルギー弾で応戦する。

『シェェェェェェェ!!』

『くっ…!』

 しかし流石に嵐獣の肩書きを持つ怪獣だ、それを翼を大きくはためかせて発生させた突風で押し返した。その風はマフレーズの巨体をも宙に浮かせ、さらに後方へと押しやり始める。

『今だ!ハァァァァ……!』

 イクタは声をあげ、神経を研ぎ澄まし、集中力を高めながら両腕を大きく天へと掲げ、そのままの勢いで胸の前までおろし、そこで十字に交差させた。

『ケミストリウム光線!!デヤァァァァ!!』
 クロスされた腕から放たれた、必殺の光線が勢い良く、宙で身動きの取れていないターゲットへと真っ直ぐに飛んでゆく。

『……!』

 あの状態では、空間操作もできないようだ。宣言通り、これは避けきれない攻撃連鎖だったのだろう。イクタは内心、ほくそ笑んだ。

 ドドン!

 という重い音とともに、爆発が起きた。見事に命中したのだ。爆風や衝撃波も風に流されたため、こちら側には飛んではこなかった。

『いっちょあがり!これが俺の力だ!』

『見事な攻撃だった。悔しいが、私を超えたというのは、本当のようだな』

 エレメントは苦笑いの様子だ。つい数時間前にウルトラマンへと進化を果たした急造の戦士に超されたという、火を見るよりも明らかな力の差を見せつけられたのは歯がゆいものもあるが、半年以上の間、共に戦ってきた、自らの名前を継ぐ者の成長を実感できた喜びの方が強かったのだろう。

『ま、俺は元々能力者の中では一番の潜在能力を秘めてたんだろ?それに、地球有史上最高の天才なんだ。当然だね』

 ガッツポーズを作り、勝ち誇るイクタ。この調子でローレンをも討ち取れば、この長い戦いは終わり、平和と地上が手に入る。

『さぁ、決着つけようぜ、ローレン!』

 彼は横たわるローレンの方へと歩き始めた。

『決着か……。その前に、目の前の戦いを終わらせることだな』

 ローレンはホコリを払い落としながら、静かに立ち上がった。

『……なんだって?』

『奴の言いたいことはつまり、先にこの私、ウルトラマンマフレーズを倒せということだ』

 その声にはっと振り向く。いつの間にか、イクタの隣には、例の赤い巨人が佇んでいた。

『……!』

『随分と舐められているな。あの程度で死ぬほど、全知全能の存在は非力ではない』

 そう言い放ちながら、マフレーズはイクタの横腹に思い切り蹴りを叩き込んだ。勢い良く、数百メートルに渡り吹き飛ばされてしまう。

『グオッ!?……くそっ!お前もいけっ!マグナマーガ!』

 受け身を取りながら、二つ目の怪獣兵器を取り出し、それを投げつけた。かなりの強敵だ、怪獣のサポートなしでは歯が立たないと判断したのだろう。

『おい、あのエレメントグニールって武器はどうやったら出てくる?俺でも扱えるんだろうな?』

 イクタはエレメントに問いかける。

『扱えるかどうかは定かではないが……君が望み、手を伸ばせばその手中に収まるはずだ。君の中には私のエネルギーがある。引き寄せることは理論上可能だからな』

『そういうもんか……やってみるしかないな』

 彼は利き腕の左腕を、水平にまっすぐ伸ばし、光の槍が現れる瞬間を待つ。もちろん、この無防備の間も次の攻撃への一手は打ってはいた。先ほど使用した怪獣カプセルから出現させた炎獣マグナマーガに、密かにマフレーズへの接近をさせていたのだ。

『次はどう来るつもりか……大体わかってはいる。よって、今回は私から動く』

 何度も受け身の姿勢であるマフレーズではなかった。先ほどは必殺の光線をまんまと必中させてしまったが、このまま勢いに乗らせるわけにはいかない。それにどうも、こちらがどのような攻撃手段を持ち、どのような対応を取るのか、小癪にも様子を伺っている、という姿勢が見られるのも気にかかる。何を考えているのか、イクタもウルトラマンであるため、心や未来の隅々を見透かすことはできないが、逆に、何もわからないわけではない。企みが実る前に、潰さなくては。 

 バッと地を蹴り、宙に浮かび上がり、そのままある程度の高度を取り、そこで静止した。

『超フォボスモード移行。ウルティメットロッシュインパクト』

『な、なんだ!?』

 イクタと、その周囲が地面ごとえぐり取られ、マフレーズの方へと凄まじい速度で引き寄せられ始めた。

『消去』

 避けることはおろか、ガードを取る暇もなく、イクタはノーガードの腹部に思い切り拳を喰らい、音速をも超えるスピードで地面へと叩きつけられた。

『ガッ……ハァッ……!』

 メリメリという音を立て、地中へと食い込んでいくイクタの身体。それを空から見下ろすマフレーズの側方には、大地と共に持ち上げられた、溶岩状態の炎獣、マグナマーガの姿があった。岩のような実体を持つ姿や、全身を溶かし、溶岩のような姿になり分裂することも可能であるという能力を持つ怪獣のため、イクタに気を取られている間にマフレーズへと接近し、纏わりつき動きを止める作戦だったのだが、広範囲を宙へと引き寄せられてしまったため、不発の作戦となってしまった。

『……なるほど、こんな小賢しい真似を。……だがもう、ここで終わりにする。超ダイモスモード移行。ウルティメットレッドスクエンド』

 赤とオレンジの、燃え盛る炎のような配色へと変化した巨人は、その場で両拳をカチリと合わせようとする。合わさったら最後、先ほど持ち上げられた範囲よりもさらに広いレンジが、死の地と化してしまう。

『く、くそ……これはまずいって…!』

 冷や汗で背中を湿らすイクタ。しかし、それは不発に終わった。突如動作を中断したマフレーズが、咄嗟に右方向へと炎を纏った光輪を放ったからだ。

『はっ!』

『シェェェェェェェ!!』

 光輪をかわしながら咆哮をあげたのは、最初に呼び出した怪獣兵器、テペストルドだった。先ほどまでとは違い、瞳が真っ赤に染まっている。これはアビリティによって支配下に置かれている時に見られる変化である。そしてその頭上には、体力温存のためか、変身を解いていたローレンの姿があった。

「かなり気配を殺していたつもりだったがな。未来を読む能力か」

 舌打ち混じりに吐き捨てるローレン。

『な…!?』

 そのおかげで助かったことにはそうなのだが、奴は何をしているのだろうか。安堵よりもまず、ローレンの行為への疑問が浮かんでしまうのは仕方ないことだろう。

『心を読む方のアビリティだ。君の不意を突こうという邪心を感じ取れた。それで、何故ここで私の邪魔をする?』

「調子に乗りすぎだ。名前が変わろうと、奴がエレメントである以上、倒すのは、この俺だ。弱らせてくれたことには礼を言うが、ここから先は部外者にはやらせない」

『……理解不能。両者ともに、私の手によって消去されるべき存在。邪魔をされる理屈としては通っていない』

「お前の中で通らない理屈だろうが、関係ない。俺は復讐を果たす。それだけだ」

 期待していたわけではないが、助かってはいなかったようだ。この場には、己の利益や野望しか見えていない戦闘マシーンしかいないのだから、当然ではあるのだが。

『……何はともあれ、俺は命拾いってわけだ。……なんなら、二人まとめてかかってきやがれよ。逃げも隠れもしねぇ』

 この隙に、イクタは再び立ち上がっていた。その左手には、どこからともなく現れた光の槍が握られている。

『君もまた理解不能だ。今の一連の流れで、私には到底及ばないことは判明している。何故まだ戦意を保てる?』

『どうせ、戦意喪失して降伏したところで殺されるんだろ?なら、最後まで戦うね。それに、ここからは地下勢の反撃タイムだ。……あいつらも到着したみたいだしな』

 イクタは、自身の後方へと視線を移しながらそう言った。

『……ほう』

 これには、赤い巨人も思わず驚いたようだ。興味深そうに送る、その視線の先にあるものはー  

「待たせたな!イクタ!IRIS最終作戦参加部隊、全隊戦場に到着!これより戦闘を開始する!」 

 イケコマ隊員の声だった。セリフが言い終わる頃には、イクタの後方で、これまでに見たことがない数の戦闘機が編隊を成していた。ここからが、本当の戦いだ。

 

 

 

「地上か、久しぶりだな……」

「今度こそ…!もう失敗はしませんよ!」

 到着の少し前のことだ。アイリスバードのコックピットから地上の景色を見つめながら、イケコマをはじめとする、先の遠征作戦の生存者たちは気持ちをさらに奮い立たせていた。数ヶ月前、ここで多くの勇敢たる隊員が散った。イケコマ、イクタの所属していた小隊の隊長、トキエダもその一人だ。リュウザキに続き、自分に理解を示してくれていた者の死に直面したことで、イクタは取り乱し、無意識的に異人の力を暴走させた、ということもあった。

 今思えば、そこでの彼の覚醒がなければ、必然的にウルトラマンにも進化できなかったため、この作戦も立案されなかっただろう。皮肉にも、あの大敗北がいまに繋がっている。

「レーダーに大きな反応があります!おそらく、イクタさんが戦っている場所かと」

 通信機から、若い隊員の声が聞こえてきた。

「了解。至急向かうとしよう」

 本作戦に参加しているメンツでは、イケコマが最年長であるため、イクタと合流するまでは自然と、事実上彼が指揮を執ることになっている。

「いや、待ってください!本部長の話では、この辺りで行方不明のイイヅカ隊員たちの携帯通信機の電波をキャッチした、とのことでしたよね?彼らの捜索も行わなければ…!」

「そうだな。だが、これほどの大人数で行わなくてもいいだろう。無論、私も彼らの生存を信じたい。だがその可能性は……。必要最小限のメンバーで捜索に当たってくれ。俺は戦場へ行くぞ」  

 それはそうである。ここに時間と人員をかける余裕があるのかと問われれば、イエスとは言い切れないからだ。

「ですがイケコマさん、彼らはIRISの未来を担う、優秀な新人です!可能性は低いかもしれませんが、0ではありません!……それに万一、生きているのに捜索を怠り、見殺しにしてしまったあかつきには、本部長も、フクハラ支部長もさぞ失望されるかと」

「……むむぅ……。だがな…」

「イクタ隊員は、相手があのエレメントを倒した相手だとしても、少しくらいなら単独でも耐えきれるだけのお方です!それに戦場に向かうのは、彼らの安否に白黒つけてからの方が、隊員たちの精神衛生上も有利になるかと!」

「……一理あるな。うむ、では総力をあげて、迅速に見つけ出すぞ」

 イケコマはその説得に折れた。本当はいち早く戦場へと駆けつけたかったのだが、こうなっては仕方ないだろう。彼らの捜索も任務の一環ではあったわけだし、まずはこちらに全力で取り組まなければ。

「……それで、その電波は?反応はあるのか」

 他のベテラン隊員が問いかける。

「……いくつかの微弱な電波は受信していますが……わかりません」

「わからない?どういうわけだ」

「我々の機体も、一機ごとに微量ですが電波を発信していますし、該当隊員から発せられるものが弱いものですと、これに紛れ込み区別がついていない、ということあります。彼らの通信機のバッテリー残量は、環境的に残りわずかになっていると見ていいでしょう。つまりー」

「キャッチしているかもしれないが、それらが彼らのものだとは限らないわけか。詳細に分析することはできないのか?」

 今度はイケコマがそう訊ねる。

「アイリスバードは戦闘機故、レーダーはあくまで周囲の索敵や味方の位置把握など、戦闘用に作られてます。解析は、このデータを基地に送り、そこでやってもらうしかありません」

「では、やるしかないか。本部に転送してくれ」

「了解。では解析結果を待つ間は、肉眼での捜索をします」

 数機が超低空飛行に移り、数機は周囲の警戒、その他隊員たちは防護服を着用し大地へと降り立ち、上空からは見えない死角などをメインに探し始める。

「行方不明の彼らはイクタの部下だったな。特にイイヅカの評価は、歴代の新人の中でも高い方だと聞いている。このような状況下でも、生き残る術を持っているかもしれないな」

 機体に残り、腕を組みながら捜索の様子を見下ろすイケコマ。

「人の足跡のようなものさえ発見できれば、ぐっと近づけるんですがね」

 しばらく経った後、隊員の一人がそう呟いた。今の所、大きな手がかりが見つかっていないのだろう。

「小言を垂れる暇があったら足を動かせ。探しているのは我らが同士だぞ。真剣にやれ」

 その隊員と一緒に探している男がそう注意する。

「わかってますって…」

 その後も各々入念に目を凝らしながら辺りを飛び回り、あるいは歩き回ったものの、遂に彼らを見つけ出す事はできなかった。

 そして丁度このタイミングで、待っていた解析結果の報告がイケコマの機体の通信機に届いた。 

「報告だ。確かに、出撃前データではそのエリアで反応を捉えていたのだが、今回は検出されなかった。考えられる事は三つだ。彼らが生存しており、移動をしたか、他の生き物がそれを拾い、どこかへ去って行ったか。あるいは、単純にバッテリー切れか」

 本部長の声だった。

「前者だといいんですがね。後者の場合もうどうしようもない。生存している前提で続行しましょう。その場合、彼らはどの方角へ移動するだろうか……」

 その時、遠くから、微かではあるが音が聞こえてきた。音、というよりは振動に近い。衝撃波のようなものを受け、機体がガタガタっと小刻みに震えた。巨大生物同士ーイクタたちが戦闘を行っているのだろう。隊員たちは、個人差はあれど何度かエレメントの戦いを間近で見届けているのだから、そう確信していた。

「……大きな反応がある方向からだ。戦場だな」

 イケコマは窓の外へと視線を向けた。今もイクタは、一人で戦っている。

「隊員たちが、戦場へと向かった可能性はないでしょうか?一見自殺行為ですが、地上という未知の世界で、疲弊し丸腰に近い状態のまま闇雲に動くのは危険。リスクを冒してでも、目印がある方へと移動する、不自然な考え方ではないと思われます」

「……ありえない、訳ではないだろう。だが、彼らはこの作戦があることを知らない。知っていれば、戦場で我々と合流できる可能性に賭け、そちらへと向かうかもしれない。しかし、そうではないのだ。それこそ、ただの自殺行為になる。逃げるように逆方向へと向かうことだって考えられる」

「……そこで話し合っている時間はないぞ。隊員の救出も、イクタの援護も、1秒でも早い方がいい。私から直々に本部長命令だ。戦場へ向かい、その道中で捜索を続行せよ。私は彼らがその方角へ向かったという線に賭けよう。責任は私がとる。従え」

 通信機を通して、本部長はそう告げた。

「し、しかし…!」

「命令だと言ったはずだが、聞こえなかったか?大丈夫だ。彼らは必ず、そこへ向かう。私には、確信に近い勘がある」

「……了解。そこまでおっしゃるのなら、私どもには信じて従うしかありません」

「それでいい」

 様々な可能性を想定し、何隊かに別れて捜索するのが合理的ではあるだろう。だが、何度も言っているようにそのような時間はない。賭けるしかないのだ。

 こうして、方針は固まった。全隊員が、戦場の方角へ慎重に、しかし決してゆっくりではない速度で進行し始める。

「生きていてくれよ……」

 イケコマは祈った。イクタにとっての、初めての直属の部下たちなのだ。その生死の是非が彼の今の戦闘能力に微々なりとも影響を与える可能性は大いにある。

「もちろん、本部も全力で支援する。さっさと保護して、援護に行くぞ!」

「ラジャー!」

 部隊は超低空飛行で編隊を組み、砂塵を巻き上げながら突き進んで行った。

 

 

 

 さらに、その少し前だった。崩壊しゆくローレンたちのアジトを脱出した、捜索対象である隊員たちは、乾いた赤い砂で覆われた荒野の真ん中で、未だに足を動かし続けていた。

「おい、まだ歩けるか?」

 イイヅカは振り返りながらそう言った。彼の後方には、すでに肩で息をしている仲間たちの姿がある。

「もう、ダメ……」

 この小隊では唯一の女性隊員、アヤベがその場に転がった。体力的に、無理もない。

「イイヅカ、こんな隠れる場所もないような平野で、どこに向かおうってんだ?もし怪獣が出てきたら、無抵抗のまま潰されるぞ」

 一番の体格を誇る大男、キョウヤマがそう言う。これをみるに、彼らは何のために足を動かしているのか、わかっていない様子だった。何か思考しながら動いているのは、イイヅカだけなのだろうか。

「少し考えてみろ、キョウヤマ。何もない平野だからこそいいんだ。其れ相応のリスクは伴うが、メリットだってある。そうだろう、イイヅカ」

 どうやらサクライは彼の考えに気づいていたようだ。流石に、最もキレる男だ。

「そうだ。今は地下と地上の戦争中だろう?故に地上人を攻めるために、IRISが地上に上がってくる可能性は高い。それに、俺たちにはもうバッテリーこそ切れてしまったが、通信機がある。その電波形跡を追って、先輩隊員たちが捜索に来てくれるさ。その時、上空から見落とされないように、視界の広げた場所を歩くってわけだよ」

「で、でもよ、俺ら捕虜は切り捨てられたんだろう?それだけ地下の戦況が危ういってことは、救出も期待できねぇんじゃねぇか?地上に出てくるような余裕もないだろ」

ホソカワが呟いた。これも考えられることでもある。

「じゃあどうしろって?……常に最悪の事態を想定し、慎重に動くことは大事だよ。でも、こういう危機に陥った時、思考を優先すべきはそれではないはずだ。希望が僅かでも存在するのならば、そちらを想定し行動しようぜ。助かるものも助からなくなっちまう」

 とはいえ、それでもホソカワが吐露したような不安の方が大きく、実際いま述べたような希望はかなり薄いのが現状だった。それでも前を向き、仲間たちを鼓舞し歩き続ける。能力もさながら、彼がナンバーワン新人である所以はここにあるのかもしれない。

「……例えその希望ってやつが存在する確率が、0コンマの数字であったとしても、か?」

 サクライが問いかける。

「時と場合によるけど、今回はそうだな。……それより、気が付いているか?」

「何にだ?」

「……よく耳を澄ましてみろ。何か聞こえる」

 皆が押し黙り、彼のいう何か、を聞こうと神経を集中させる。確かに、聞こえる。だが音、とは少し違う。振動に近い。

「あっちの方角よ!」

 アヤベが指をさすその向こうには、微かにだが、ぶつかり合う巨大な人影が見えた。

「……戦い……?まさか、エレメントなのか?」

「……あぁ!きっとそうだ!IRISが地上で戦ってるんだよ!」

 キョウヤマの顔がパッと明るいものとなった。

「お前のいう希望ってやつが、あれか?」

 サクライが冷静に問いかける。

「だといいな。みんな、あの戦場まで行くぞ。他の隊員に保護してもらえる可能性が出て来た」 

「せ、戦場って、俺たち丸腰だぞ?」

 ホソカワが目を丸くする。

「でも、これが今できる最善の行動だと思わないか?さっきも言ったろ。俺は同じことを何回もは言わんぜ」

「……わかったよ。確かに、何もせずにここで犬死するよりかは良さそうだ」

 その時だった。今度は、後方から飛行機のエンジン音のようなものも聞こえてきた。それも、半端な数ではない。

「いや、その必要もなさそうだ。神は俺たちの味方だったぜ」

 全員が一斉に振り返ると、そこにはアイリスバードの大編隊が、こちらへと向かって来ている光景が広がっていた。

 

 

 

「と、いうわけだ!お前の部下は無事だ!」

 高速で旋回し、マフレーズを牽制するようにレーザー機銃を放ちながらイケコマが叫んだ。

『なるほどね。隊長である俺から礼を言うよ!』

 そう答えるイクタは、光の槍を振りかざし、マフレーズが操る怪獣軍団と組手のような肉弾戦を行なっている最中だ。

「し、しかし俺たちがいなかった間に、大分戦況が変わってるみたいだな……」

 ホソカワが呟く。

「あ、あぁ……隊長本人がウルトラマンになってたとはな……」

 イイヅカも苦笑いの様子だ。

『聞いてくれ!俺がマフレーズをやる。みんなは援護してくれ!フォーメーションDで行く』

 どこからここまで沸いてくるのか、と言う数の怪獣を押しのけながら、彼は指示を出す。

「いいだろう。総員!配置につけ!」

「了解!」

 航空編隊が大きく広がり、戦場を覆うように配置された。

『皮肉なこったな。地下勢の俺たちが、ここで制空権をとったぜ?』

 横目でローレンを睨みながら、煽るように言い放つ。

「あぁ。これでシューティングゲームを楽しむことができる。淡々と壊滅させるだけでは面白くない。楽しみ要素を提供してくれたこと、感謝しよう」

 だがローレンは、全く動じずに、落ち着いた口調でそう答えた。

『チッ、嫌な野郎だぜ』

『君の相手は私ではなかったのか?』

 その様子を見かねたマフレーズが、高速移動でイクタに接近して来た。

『その通りだよ!』

 エレメントグニールを振り下ろし迎撃するが、寸前で躱された。再び、一定の間合いが保たれる。 

「総員!!作戦開始だ!」

 イケコマの怒号が鳴り響いた。その瞬間、上空をドーム上に覆うように配置されていた大量の戦闘機から、ミサイルやレーザーが放たれた。ほぼ360度全方位からの一斉射撃に、怪獣達はなすすべもなく倒されてゆく。

「やはり地下の科学は侮れんか」

 その光景を腕を組みながら眺めるローレン。

『この火力……我が軍に勝るとも劣らず。卑しい民を先祖とする劣等種族にここまでの力がついていたか』

 マフレーズも、驚いたような顔をしていた。かなり舐められていたのだろう。

『だからこそ豊かさを求める。ゆえに科学は発展する。歴史ってそんなもんだろ。ま、それもこれも、この俺のおかげなんだけどね』

『……今も最前線に立つのは君だ。君が、地下の頭脳であり、最後の切り札であることは認めよう。しかし裏を返せば、君さえ滅べば地下も滅ぶ。諸刃の剣なのだよ。そしてその剣はー』 

 空間移動を使用し、イクタの背後に回り、手刀で彼の手首を弾き、エレメントグニールを吹き飛ばしながら、セリフを続ける。

『ここで折れる』

『……へっ、言ってくれんじゃん…!デヤァ!』

 しかしイクタは動じず、後ろに視線を向けることなく、足を後方へと蹴り上げた。

『むっ!』

 逆に油断をしていたのか、マフレーズはこれを抗えずに腹にくらい、数歩後ずさりした。

『それ!シェア!』

 間髪入れず、身体を捻らせ、もう片方の足でもキックをお見舞いし、さらによろけるマフレーズに対し、自身の体を正面へと向け、宙へと身体を踊り出して飛びかかり、地面へと押し倒した。だが、そう簡単に流れをこちら側へと持ってこられるような相手ではない。馬乗りになり、殴りかかろうとするイクタの腹を蹴り上げ、すぐに態勢を整えたのだ。

『何度でも言おう。君では勝てない。超マフレシウム光線!!』

 出力がさらに上がった、彼の必殺光線が恐るべきスピードで迫ってくる。

『ぐわぁっ!』

 流石のイクタも、この速度の光線を回避することはできなかった。直撃を被り、大きな爆発を起こしながら吹き飛ばされてしまう。

「イクタ!!く、くそったれめ!」

 それを目にしたIRISの一部隊員たちが、衝動的にマフレーズへと特攻し始めた。

「ま、待て!編隊から離れるな!!」

 イケコマの忠告は、間に合わなかった。

『どんな力を持ってしても、統率が取れないのなら意味はない』

 迫り来る数機のアイリスバードを、赤い巨人は炎を纏った腕を劔のように振り回し、いとも容易く撃ち落とした。炎上しながら、戦闘機は地面へと突き刺さり、爆散してゆく。

「……!!」

『所詮はこんなもの。さて、次はどんな攻撃を仕掛けてくれる?』

「ふはははは!!いいぞマフレーズ!!そのまま皆殺しにしてやるのだ!!」

 大統領もその光景にご満悦の様子だ。

『承知。纏めて焼き尽くす。ハァァァァァァァ……!!』

 まだ、秘められたパワーがあるというのか。更なるエネルギーを解き放とうと力を込める奴を中心とし、炎の竜巻が発生した。まるで災害時に稀に見られる、火災旋風のようだ。

「な、なんだアレは……炎の竜巻……!?」

 イケコマ等隊員たちは空いた口が塞がらない、という様子だ。全員の体に、戦慄が走る。

『……こいつを先に倒さなければ、いつまでもグダるだけだな』

 そんな中、ただ一つだけ、冷静な声色のつぶやきが聞こえた。振り向くとそこには、再び紫の巨人、ウルトラマンアノイドへと変身したローレンの姿があった。彼は右腕を真横へとピンと伸ばし、掌をバッと広げた。その掌の少し先で、漆黒の巨大なゲートが出現する。

『……来い!海の覇獣、ポプーシャナ…!』

『パダァァァァァァァァ!!』

 その中から大量の海水と共に姿を現したのは、全長60メートル前後の蛇の様な身体を持つ大きな怪獣だった。頭部にはギザギザとしたエリマキ、そして額からは二本のツノが伸びており、細く鋭い瞳から放たれる眼光には、その容姿も相まった威圧感が込められている。胴体には二本の小さいが太い前足が生えている。まるで、神話に登場する海竜のようだ。

『やれ』 

 突如戦場に現れた怒涛のごとく溢れる水の中を暴れる様に高速で泳ぎながら、燃え盛る赤い巨人へと特攻していく。

『何!?』

 パワーをチャージしている隙に突かれたまさかの奇襲には、マフレーズほどの存在でも対応しきれなかった様だ。成す術もなく、炎と一緒に高速で流れる波に飲まれ、ポプーシャナの体当たりをもろに受けてしまう。

『こ、この怪獣……桁違いのエネルギーを感じる!』

 覇獣の存在を全く知らなかったのだろうか、ただただ戸惑うばかりの様子である。

『だがナメてもらっては困る。セヤッ!』

 マフレーズを押し流し、なおも噛み付こうとしてくるポプーシャナの口を両手を使い抑えつけ、そのまま左へと受け流した。これで軌道が僅かにずれたことで、なんとか脱出することができた様だ。

『……また、先ほどの理解不能な理屈で、邪魔をしたというわけかな』

 全身から水蒸気を昇らせながら、ローレンを睨んだ。流石に火星の赤き巨人、身体に付着した水分は、既にその高すぎる体温のために蒸発を始めている。

『少し違う。三つ巴では埒があかないと判断したのだ。このままでは、この戦いは終わらない。お前にも俺と同じアビリティがあるのなら、その未来は見えているはずだ』

『……やはり理解不能だ。君は、私たちを、そして地下の愚民供を何よりも忌み嫌っていたはずだ。復讐したい、皆殺しにしたいのだろう?その対象に加担するというのか?』

『何度も言わせるな。埒が明かないからだ。貴様と火星の軍を滅ぼした後は、エレメントと地下も滅ぼす。もちろん、先に火星に加担するのも手段の一つだ。だがエレメントは俺単独で倒せても、癪だが、貴様を俺だけで倒すことはできない』

 サラッと下に見ている発言をされたイクタの眉がピクリと動いたが、今はそこに反論している場合じゃなさそうだ。

『今更、散々蹂躙した地下と共闘しようなんてなんのつもりだ?』

 悪態をつきながら、イクタは立ち上がった。

『我々や、我々の祖先を狂わせたエレメントと共に戦ってやると言っているんだ。嫌味の前に感謝が出てくるのが当然だろうが』

『……こ、この野郎…』

 今度は眉がピクピクと小刻みに動いた。

『お、落ち着くのだイクタ!こいつの言っていることも、君が言っていることも事実。互いの恨みつらみをぶつけるのは後からでもできる!まずはこの脅威の赤い巨人を倒すことに集中するんだ!』

 エレメントが、今にもローレンに飛びかかりそうなイクタを何とか説得しようと試みる。

『……わかってるよ……!みんな!作戦変更だ!俺とローレンと、奴の操る怪獣、これらが、今より援護対象だ!地上と地下……地球が今持つ最高の戦力で、侵略者をぶちのめす!』

「し、信用できるのか!?あの黒ローブだぞ!!」

 イケコマは叫んだ。ローレンが、どれだけ地下人類に、エレメントに苦しめられたのかは、話だけなら聞いているため知ってはいる。だが、IRISだって黒ローブ一味のせいで何度も大切な人を、希望や街だって失った。そのため彼らにはとても同情することはできないし、むしろ復讐心を抱いている隊員の方がほとんどだ。そんな彼らを、援護する。この作戦に従ってくれる隊員は、いるのだろうかー

『信用できないと判断したらすぐに退避させる!こいつの言う通り、あの化け物は一人で倒せる相手じゃない。マフレーズを倒す、これだけは、地下地上互いにメリットのある唯一の事象だ。とにかく、マフレーズさえ倒せれば、その後IRISが総力をあげてローレンに復讐することもできる!頼む!協力してくれ!』

「……一番合理的な作戦だと、その理解はできるんだ……だけど……」

 イケコマの呟きが、隊員たちの総意に近いものだろう。

『……地下も一枚岩じゃなさそうだな。いいだろう。むしろ、二人まとめて消去できるのなら、こちらにも都合がいい。誰も損をしない、素晴らしい提案だな!』

 マフレーズは大地を蹴り、二人の巨人目指して超音速で接近し始める。

『戦う気のない奴らの援護など必要ない。……きたぞ!ハァァッ!』

『シェアアァァァ!!』

 二人が同時に両手を伸ばし、マフレーズのタックルを受け止める。だがその勢いは止まる気配がない。何とか踏ん張ろうと足に力を込めるが、ただ地面に引きずられた跡が残るだけだ。

「ウ、ウルトラマンが二人掛かりでも……なんて奴だ……!」

 マフレーズは今、合計で推計8万トン程の体重を、何の苦労もなく吹き飛ばそうとしているわけになる。

『……ポプーシャナ!』

 ローレンが叫び、海の覇獣に指示を出す。

『パダァァァァァァァ!!』

 その時、僅かだがマフレーズが失速した。なにやら、両足が粘り気の強い水の鞭のようなものに縛られている。これが海の覇獣の能力か、水であれば繊細にコントロールできるらしい。 

『こ、これなら押し返せる!シェア!』

 力を込めたイクタの両掌が、黄色いオーラに包まれる。

『ケミストリウムインパクト!』

 そのまま、エネルギーを放出した。

『超アクチノイドプレス!』

 全く同じタイミングで、ローレンも両掌を紫色のオーラで包み、そのエネルギーを解放した。二体同時に行われた反撃動作に、マフレーズはまんまと押し流される。

『くっ……!』

 さらに、足元を非常に粘り気のある水に包まれていたため、そのまま尻餅をついてしまった。 

『エレメント、今の一連の流れ、どう考える?』

『そうだな。さっきから思ってはいたんだが、こいつアビリティが多すぎて、一つ一つの集中力というか、精度が低いな。未来が読める割には、ポプーシャナの水を操る援護に気がつかなかったし、空間移動だって使うべき場面で正しく使えていない様子もある。使い熟せてないんじゃねーの?』

『やはりそう思うか。器用貧乏とはこのことだろう。これが、奴に存在するたったひとつの弱点か』

『エレメントには下手に人間味のある部分や、エネルギー制限。お前には未来が読めるからという傲慢さ。俺には天才すぎる故に足元をすくわれる。誰にでも弱点はあるものだ』

『……俺には傲慢なのはお前の方に見えるんだがな……』

『そこだけは、私も同意だ……』

 エレメントも小声で呟いた。

『……だ、だが、器用貧乏でも、今みたいに超パワーでゴリ押しされるのなら非常に驚異なのは間違いない。どんな優秀なコンピュータでも、爆破されれば終わり。結局は圧倒的パワーを持つ方が勝つ。だから、その力を発揮させないように、上手い具合に盲点をついていこうぜ』

『盲点か。……難しくなさそうだ。奴は不意打ちに弱い。このたった数十分にも満たない戦闘の中でも、何度も易々と不意を突かれてくれていた』

『どうかな。奴はどうせ、俺と同じアビリティも持ってるんだろう?油断させるため、わざとそうしているっていう頭脳作戦かもしれないぜ?』

『だからなんだ?別に正面からでも攻撃はできる。関係ない』

 こう喋っている間にも、マフレーズはゆっくりと立ち上がり、再び態勢を整え終えていた。

『作戦は固まったか?』

 その声には、少し感情がこもっていた。怒り、とか、憎悪に近いものだ。全知全能を自称しておきながら、尻餅をつかされたのだ、無理はない。

『あぁ。派手に転んでくれたおかげで、時間が余ったからね。……3分だ。3分後にあんたの居場所は地球でも火星でもなく、あの世に変わってるだろうよ』 

『いい気になるな……!大統領の前でこれ以上醜態を晒すわけにはいかない!死に損ない共が……!君たちがいなければ、今頃入植段階に入っていた予定だ!それを狂わせたな…!』

 今度は明らかに殺意に満ちた声色だった。

『……少しは人間味出てきたじゃん。ただの戦闘機械だと思ってたぜ』

『で、どうする気だ。3分後の未来は、まだ戦っている風景しか見えないが』

『無理矢理終わらせるんだよ。俺は嘘をつかないんでね』

 

 三体のウルトラマンの死闘は、最終盤を迎えようとしていたー

 

                                    続く

 




 大変申し訳ないです。約2ヶ月ほど間隔を空けてしまいました…。たった1つの話のためにこれだけ長引いたのは自分でも予想外です…。
 それほどの時間を要した割には、大した内容ではありませんが、お許しください……

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