ウルトラマンエレメント   作:ネフタリウム光線

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 ウルトラマンエレメント、アノイドVSウルトラマンマフレーズ…!パワーが青天井に増し、止まらないマフレーズを倒すべく、ついにこの二人が手を組むことに。一対一では猛威を振るっていたマフレーズだったが、果たしてー?


第35話「地球」

第35話「地球」

 

 地上の戦場では、ローレン等の攻撃により、今は援軍を待たなければ戦えない、といった状況に追い込まれた火星の宇宙船軍と、未だに猛威を振るい続ける火星の最強兵器、ウルトラマンマフレーズ。それに対するイクターウルトラマンエレメントモードアムート、そして彼を援護するIRISの航空部隊、さらには、今や地上人最後の一人となってしまったローレンーウルトラマンアノイド、と、一時の三つ巴態勢を終え、完全なる「火星VS地球」という二極化された構図となっていた。

『エレメント、貴様は正面からいけ。背後を取るのは俺の役目だ』

 ローレンが呟いた。

『わかってるよ。3分と宣言したんだ。出し惜しみはダメだぞ。互いに全てをかけて戦うぞ』

『それを勝手に言いだしたのはそっちだ。俺には関係ない。手の内を明かす気も無い』

『……あっそ……まぁいいや。行くぞ!』

 イクタはそのままマフレーズ目掛けて走りだし、ローレンは空間移動で敵の背後へと移動し、そこから走りだした。

『挟み撃ちにしたつもりか?無駄だ。超フォボスモード移行。ウルティメット・ツインロッシュインパクト!』

 マフレーズは迫り来る二体に対し、身体を垂直方向へと向き直し、それぞれに標準を合わせるように両腕を開いた。超引力で敵を引き寄せ、身動き取らせずに攻撃をお見舞いする技だ。

『もう見飽きたよ、それは!エレメント光輪!』

 イクタは高速で引き寄せられながらも、これを読んでいたのか、走りながら予め作っておいた、周に細かい刃物のような形状が連続する光の輪を投げた。

『アクチノイドブレス!』

 ローレンは、同じ状況下で、口からエネルギー弾を吐き出した。二体による攻撃までもが、マフレーズの元へと吸い寄せられてゆく。

『なんの考えもなしに大技を使うわけがないだろう!』

 マフレーズはそう呟くと、直撃の紙一重のタイミングで姿を消した。真上へと空間移動したのだ。このままでは、互いの必殺技が、互いにぶつかってしまうが

『ま、そうだよね。……ローレン!』

 イクタは苦笑いしつつも、すでに次の手を考えていた。すぐさまローレンに指示を出す。

『わかっている!』

 空間移動で逃げるつもりなら、命中するまで同じ方法で追尾してやると言わんばかりに、彼は同時に、移動のためのゲートを自身とイクタの正面に、そしてその他大量のモノをマフレーズの周囲を囲むように生み出した。光輪とエネルギー弾が、連続空間移動を開始する。

『考えは面白いが甘い。私にも同じアビリティがあることを忘れたか!』

『忘れるはずないさ。この俺の考えた作戦に抜かりはねぇよ』

 イクタは自らの頭を突きながら、大きくジャンプし、マフレーズと同じ高度にまで到達し、そこで静止した。

『……ほう』

『悪いが、後2分半しかない。マジでいかせてもらうぜ!』

 エレメントグニールを振りかざし、斬りかかる。

『ハァァァァ!!』

『……私の集中力を散布させる気か。確かにこれでは、未来を読むのも、移動するのも、この頭脳で考える精度も落ちかねない。だが、所詮は子供騙し程度の作戦。無駄だ』

 マフレーズは両腕を燃え盛る手刀に変え、イクタの光の槍による攻撃を弾きながら、度々襲ってくる飛び道具たちをも躱してゆく。

『アビリティの使用には、ただの一つであっても、何よりも神経と集中力を使う。本当に、無駄と言い切れるだけの小規模な影響かな?』

 間髪入れずに喋りかける。これも、そのための手段だろう。

『……』 

 流石にそれに気がついたのか、赤い巨人は、もう何も返答しなくなってしまった。

『……ポプーシャナ。お前も加われ』

『パダァァァァァァァァ!!』

 今度は飛び道具用とは別に、巨大なゲートを大量配置した。そこに、多量の海水を纏った海の覇獣ポプーシャナが突撃してゆく。

『ここまではエレメントの指示通りにしてやったが、何を考えている?3分間、ただイタチごっこをするつもりか?いやーそういうことか……。それが貴様のウルトラマン覚醒と共に手に入れた、第三の力かー』

 ローレンには何か、予想だにもしない未来が見えたようだ。

『思えば、その予兆はあった。あの時、俺になぜか命中した攻撃……なるほど』

 ニヤリと笑う。これならば忌々しい火星の巨人を倒せる。そればかりか、自ら奥の手を披露してくれたため、この後の戦いも優位に立てる。一人勝ちできる可能性がさらに高まったのだ。

『おっと』

 マフレーズの背後に、巨大な海龍ーポプーシャナが姿を現した。赤い巨人はイクタを押しのけ、ギリギリのタイミングでその体当たりを回避する。避けられた怪獣はそのまま止まることなく直進し、向かい側のゲートへと消えた。 

『……徹底しているようだな。だが、好きにさせておくわけにはいかない』

 そう呟くと、両腕を胸の前で十字に交差し、そこから赤い光線を放った。その光線もゲートへと消え、数秒後にはワープの先で鉢合わせしたローレンの技と相殺し、爆発する。

『これは決して君たちだけに有利な配置ではない。私も活用させてもらおう』

 力をチャージし、生み出した赤いオーラを全身に纏ったマフレーズは、そのまま超音速でゲートへと突っ込んだ。追ってくる怪獣や光輪など怖くないと言わんばかりに、反撃態勢に出たのだ。 

『……かかった!ローレン!頼むぞ!』

 その様子を見て口角が上がったのはイクタだった。地上で空間移動操作に集中している紫色の巨人に向かいそう叫ぶと、彼は利き腕の左腕に力を込め始める。

『イケコマさん!あんたらも出番だ!作戦に参加する意思がある隊員だけでいい!フォーメーションDを組んでくれ!』

「……これは戦争なんだ……地球の未来をかけた……私情を挟む暇も余地もないか……。イケコマ了解!作戦に移行する!」

 今のイクタを援護することは、憎き敵ローレンをも同時に助けることになる。だが、もうそんなことを言っている余裕はなかった。

「やる気がある者は私に続け!」

 イケコマはそう割り切ったが、やはりまだ葛藤の中にいる者もいるだろう。一体、何人がついてくるか。しかし、最悪自分一人でもいい。とにかく、イクタの指示通りに動かなければー

 次の瞬間、イケコマの予想は良い意味で裏切られた。

「……了解!私も続きます!」

「同じく作戦に参加!二体のウルトラマンをサポートします!」

 彼の後方には、一機として残らず、全てのアイリスバードが追従していたのだ。

「お前達……」

『流石に精鋭だな、ちゃんと切り替えられるようだ。よし、俺に従ってくれよ!』

「了解!」

『たかが戦闘機に何ができる?この私を倒せるものならやってみせよ!』
 マフレーズが次に姿を現したのは、イクタの後方だった。

『あぁ、そのつもりだって!』

 超音速の体当たりを、体を捻らせながら、エレメントグニールで受け止める。

『シェアァ!』

 空中で鬩ぎ合う二つの巨大なエネルギーは、多方向に衝撃波を放っていた。

『今だ!』

 その合図で、配置についていたアイリスバード群から一斉にミサイルが放たれた。イクタが受け止めている今、目標は止まっている。こちらも音速を超えた速度を出せるミサイルなので、この状況での命中は難しいことではなかった。一瞬にして、マフレーズの背中が小刻みに爆発を始める。 

『……小賢しい真似を!だがー』

 鬩ぎ合いを諦め、奴はローレンが配置しているゲートを利用し、一旦逃げ出した。

『距離をおけば、こんなものー』

 しかし、ふと気づけば、あれほどの数があった黒い扉は、二つを残して消え去っていた。一つはイクタの左腕の脇、もう一つは、マフレーズの真横ー

『詰みだな。喰らえ!』

 左腕を穴に突っ込みながら、そう叫んだ。

『何をするつもりか知らんが、無駄だ!』

 すぐに自身のアビリティで空間移動し、扉から離れるマフレーズ。だが次の瞬間には、ノコギリのような刃で覆いつくされた光輪を腹に食い込ませながら、地面へと叩きつけられていた。

『!?』

『一斉射撃!始め!!』

 まだ状況を理解しきれていないマフレーズを、更なるレーザー光線とミサイルの波状攻撃が襲う。 

『ノワァァァァァ!!』

 奴が悲鳴をあげるのは、これが初めてだ。

『ようやくマトモな攻撃が通ったな』

 ズゥンと地響きを鳴らしながら、ローレンが着地したイクタの元へと歩み寄った。

『あぁ、だが残り1分だ。トドメを刺すぞ』

『……今の攻撃は……どういうカラクリだ……?』

 射撃が終わり、爆発によって生じた黒煙の中から、土埃にまみれた顔を出した赤いーいや、今は薄汚い色となった巨人がそう尋ねる。

『やはり、空間操作のアビリティを理解していないようだな。貴様には豚に真珠だ』

 ローレンがそう吐き捨てる。

『空間を思うままに捻じ曲げたり、繋げたりできる非常に汎用性の高いアビリティだ。だが、当たり前だが、どれだけ弄ろうと、空間そのものが増えることはない。この意味はわかるか?』 

 紫の巨人はそう続けた。

『ここは戦場という限定した空間だ。私の操作するものと、君のものは繋がっているというわけだろう?当然だ、そのくらいのことはわかる!だがそれでも私は回避できていたはずだ。なぜ命中したのかと聞いている!』

『その頭で考えなよ。俺と同じアビリティもあるんだろ?』

『……そうか……!エレメント!君に発現した未知の、第3の力がー』

 明らかに攻撃レンジから逃れていたはずだ。それでも、無理やり命中させにきた。レンジを無理やり拡大したほかない。それを可能とできるのは、リディオアビリティしかあり得ない。だが、そのような能力のデータはない。イクタがウルトラマンへ進化したことで生まれた、新たな力ーこれを解明しなければ、また回避できない何かを食らってしまうーここまで思考したマフレーズだったが、考えている時間がないことに気付かされた。目の前にいる二体のウルトラマンが、最後の攻撃態勢に入っていくのを目にしたからだ。

『ローレン、俺たちの必殺技を合わせるぞ。単体じゃトドメを刺しきれない』

『わかっている。だが貴様も次の戦いの準備をしておけ。貴様の宣言通り、もうこの戦いにはカタがつく。全力で殺してやる、覚悟を決めておくんだな』

『ご忠告どうも。……いくぞ!』

 イクタはエレメントグニールを、ローレンは自身の腕を構えながら、照準をターゲットへと定めてゆく。

「な、何をしているマフレーズ!!立ち上がれ!とっとと蹴散らさんか!!」

 大統領が激しい剣幕で怒鳴りつけた。船は大きな被害を受け、マフレーズまでもが追い込まれている。このような展開を、火星の誰が予想できただろうか。

『……まだ……負けていない!』

 その声が届いたマフレーズは、サッと立ち上がり、締まった表情で二体を睨みつけた。その直後、全身の筋肉を隆起させ、踏みしめる大地に地割れを発生させながら、残る全てのエネルギーを出しきらんと身体を震わせながら、燃え盛る烈火のオーラで全身を包み込んだ。

『私は全知全能の存在、ウルトラマンマフレーズ!地球に正しい人類文明を再び栄させるために生まれた、ウルトラマンマフレーズ!無敵の存在、ウルトラマンマフレーズだ!』

 そう叫び、バッと大の字に広げた身体のありとあらゆる箇所からエネルギーを噴出させた。それらは瞬間的に集合体となることで全身を発射源とした超巨大光線へと化し、二体へとまっすぐに飛んだ。

『ウルティメットマフレシウムストライク!!』

 地面を深く刳り取りながら、最後の攻撃が襲いかかる。

『……吹き飛べ!』

 イクタはそう叫ぶと、出現させたエレメントブースターを光の槍へと装着した。そのあとに両手で握り直し、柄の下にある小さな円筒形のボタンを2回、突き上げるように押すことで、槍の刃である円錐状の部分が、先端を起動点とし、3つの面を作るようにパカーっとゆっくり開き、内部からレールガンのような砲身が姿を表した。そこから、最強技、ケミストリウムバーストをさらに超高密度に圧縮した、青白く輝く、巨大な光線が放たれる。

『ケミストリムエクストラウェーブ!!』

 ほぼ同じタイミングで、隣に立っていたウルトラマンアノイドもエネルギーをチャージしていた。『貴様の未来は死だ』

 静かに呟き、禍々しい紫電を纏った漆黒のオーラを、自身の足元から発生させた。オーラは周辺の地形を変えながら、持ち上げた大量の地面のかけらとともに、ブレることなく真上へと突き上げられるように上昇する。その中で両腕を胸の前でエル字に組み、必殺の光線を放った。

『超アクチノイド光線』

 放たれた、同じく紫電を纏った漆黒の光線は、間も無くエレメントの青白い光線と合流し、更に巨大な、二色の光線へと発達した。そしてすぐに、マフレーズのそれとぶつかる。

「……な、なんて規模の戦いだ……」

 思わず目を奪われ、その場でアイリスバードを静止させてしまう隊員も少なくはない。見たことのないレベルの戦闘だから仕方なくもあるが。

「お、おい!退避だ!退避!巻き込まれるぞ!!」

 イケコマの怒声で、ようやく呪縛の溶けた隊員たちは、慌てて、一目散にその場を離れた。あとはもう、祈ることしかできない。

「……マフレーズ!!何をしている!早く吹き飛ばせ!!」

 当たり前だが、もう大統領の顔には“余裕”の文字は書かれていなかった。こんなはずではなかったのだ。

 衝突点では、両者の光線は更に大きく膨らみ、押し押されるという綱引き状態にあった。もっとも“引いて”はいないのだからこの表現が適切かどうかは定かではない。

『お、俺等二人掛かりでも互角が精一杯ってことかよ!』

 イクタは歯を食いしばった。火星のウルトラマン、ここまでとはー

『ふ、ふんばれイクタ!ここで押し負けたら、今までの戦いは全て水の泡だぞ!』

 彼の脳内で、エレメントが必死のエールを送る。

『問題ない。もう未来は確定した』

 隣で冷静に呟くローレン。その言葉の通り、次の瞬間、戦況が一変した。マフレーズの胸のランプが点滅し始めたのだ。

『俺とて、全てを計算し戦っていた。無駄にダラダラと戦いを長引かせたのも、この時を迎えるためだ』

 ローレンがそう呟いた。

『ただ苦戦していただけのくせに……でも、これならいけそうだ!』

 更にグッと力を込めるイクタ。二体の光線が、徐々に敵の光線を押し始める。

「ま、まさか、活動限界か!?馬鹿な!奴にはそのような事態がないよう、必要以上にエネルギーを注ぎ込んでいたはずだ!!」

「……だ、大統領……て、撤退の準備を……。増援がきたところで、これではもう……ここは態勢を整え直してー」

「ふざけるな……!貴様!我ら正当な地球の支配者が、ゴミクズのような人間どもの末裔に対し敗北を認めろというのか!?」

 進言してきた部下の胸倉を掴み、そう怒鳴りつけると、そのままその男を遠くへと放った。

「その臆病者は裏切り者も同じだ!あとから始末しておけ!」

「し、しかし大統領!じ、実際に不利な戦況ですよ!」

 他の部下が、勇気を絞ってそう叫んだ。

「……ほう、貴様もかー」

 その部下の元へと歩み寄ろうとした瞬間、分厚い防弾ガラスで覆われた窓の外で、大きな爆発が起こった。船内が衝撃波により、大地震にでも遭遇したかのように激しく揺れる。

『ハァァァァァァァ!!』

『く……くぅっ……!ノワァァァァァ……』

 二体の巨人による光線に、自身のそれを押し返され、それにより二つの光線をその身に浴びることとなったマフレーズは、発生した爆風の中へと、ゆっくりとその姿を消していった。

 

 

 

 衝撃波と爆風が収まった頃には、もう、あの恐ろしい、絶対的な力で猛威を振るった火星の巨人は、跡形もなく吹き飛んでいた。

『名付けて、ケミストリウムアースクリームとでもしとこうか。地球の結束力が生んだ最強必殺技だぜ』

『……さて、邪魔者は消えた。決着をつけるぞ、エレメント……!』

 余韻に浸る暇もなく、ローレンはイクタ目掛けて殴りかかってくる。

『気が早いよ!』

 そうは言いながらも、それをかわし、一旦距離をおいた。

『……俺の……俺たちの……俺等先祖の憎しみを……その身で知れ!!』

『切り替えの早い奴だな……』

『私のせいで、君たちの世代にまで、争いの火種を残してしまった。本当に申し訳ない。……今は私は、自分自身で戦うことができない。二重の意味で、君に全てを押し付けてしまった……』

 エレメントはそう詫びた。

『気にすんなよ。俺はそれ等全てを抱える覚悟でウルトラマンになった。IRISの計画に沿ったんじゃない。俺の意思で、あんたの代わりとなり戦うことを決めた。あいつとも、しっかり向き合うつもりだよ』

『ありがとう……出会い、そしてケミストし、共に歩んだのが君でよかった。心から思う』

『そうかい。まぁでも、真実を知った今、俺の何よりの目的は、この地球をもう一度綺麗にして、人類を地上に返すことだ。あいつも、同じ地球人に変わりはないからな……できることなら、これからの地球再建に携わって欲しいところだが』

『……彼にとって、私や君たちはマフレーズと同じく邪魔者だ。その気はなかろう。戦うしか、ないようだ』

『さて、話はここら辺にしようぜ。もう時間もないようだしな』

 連戦続きだったローレン、そして、大技を駆使したイクタ。二人ともに、胸のランプが点滅し始めていた。時間もエネルギーも、満足できる量は残されていない。

『エレメントよ、畏怖するがいい!この俺の奥の手を見せてやる!』

 そういえば、まだ彼はウルトラマンに進化することで付属された第3のアビリティを見せてはいない。それに、確か海の覇獣ポプーシャナが、今は閉ざされた空間を繋げるゲートの中を彷徨っているはずだ。不意打ちにも警戒しなければならない。

『何、恐れることはないだろう。君にも、第3の力がある。実力は互角なはずだ』

 エレメントは、彼を勇気付けようとそう励ました。

『あぁ……そうだな……』

 とはいえ、先ほどマフレーズに攻撃を命中させるためにそのアビリティを使用してからというもの、何か左腕の感覚がおかしい。それなりのリスクがあるのだろうか。

『奴のアビリティは、自身の体積はそのままに、身体の一部分を伸縮できる、というものだと推測できる……。リーチが長くなり、予測不能なため避けるのが難しいという利点があるが、デメリットとして、その部分を伸長させた分、他の箇所が縮小することにある。マフレーズに光輪を命中させたのも、瞬間的にそれを使用したからだ。ウルトラマンになりスペックが上がったことで、その技も器用にこなせることだろう。ならば、遠距離から攻める!』

 ブツブツと独り言を唱えた後、ローレンは口からエネルギー弾を発射した。同時に、正真正銘、本当に最後のバトルの幕が上がったのだ。

 

 

 

「イクタさん、大丈夫でしょうか……?」

 空中で待機していた隊員の一人がそうつぶやく。

「当たり前だ。あいつは絶対に負けない。地上人は、あいつに任せよう。俺等には、まだやるべきことがある」

 イケコマはそう言いながら、さらに上に広がる青空を見上げた。そこには、未だに火星からはるばるやってきた、敵の巨大な宇宙戦艦隊が残っている。

「イケコマより本部へ。我々はただいまより、火星軍の残党の処理にかかる」

「本部了解。幸運を祈る」

 航空部隊はすぐに編隊を整え、火星艦隊へと攻撃を開始する。

「地下人の戦闘機部隊がこちらにきます!大統領!戦地で窮地に立った場合、プライドは捨てなければなりません!今のままでは戦えない!ここは撤退のご決断を!!」

 旗艦内司令室では、まだ部下と大統領とで揉めていたようだ。これでは部下の言う通り、戦力的にも、内情的にも、とても戦闘を実行できる状況じゃあない。

「黙れ!まだ戦闘能力は保有しておる!撃ち落せばいい話だ!マフレーズを失ったことは大きな誤算であるし痛い!だが、ウルトラマンは幸運にも潰し合いをしてくれている!この飛行機さえ墜とせば、我々の勝ちではないか!それともなんだ?貴様らは、我々がこの150年もかけて計画したこの作戦を、また0からやり直せと言っているのか!?地球は我々のものなのだぞ!?邪魔者らを排除し、再びこの地でー」

 大統領の説教が終わらないうちに、船内は再び大きく揺れた。ミサイルが直撃したらしい。

「……ふん、まぁいい。戦いたくなければここから降りてミサイルにやられるか、ウルトラマンに踏み潰されるか、放射能で死に絶えろ。私が動かす」

 大統領はそう吐き捨てると、自ら操縦桿を握った。そして臨時用の、大統領専用スイッチを手にする。旗艦に搭載された切り札、核のボタンだ。

「……大統領のご命令に従います。失礼しました」

 何人かはそう言い残し、司令室を後にして行った。もうやりきれないという表情だった。

「なんだって、大統領はああまでして地球に残った民族を憎むのだろうか。ガキの頃は、貧しく卑しく、あらゆる戦いの火種になる劣等民族だと習ったけどよ」

「あぁ、あの様子じゃ、どうもその劣等民族とやらだけが、地球が終焉を迎えたという戦争の原因じゃなさそうだぞ。それどころか、大統領ご自慢の艦隊も、マフレーズまでもがその地球人たちに敗れた。それが現実だ。もう何を信じていいかわからねぇよ」

 司令室を去った兵士たちは、そう愚痴を吐いた。彼らも人間だ。そして、火星に移住できた民族の子孫だ、やはり賢いのだろう。優秀な遺伝子だけを残した結果、優秀な兵士たちが、火星体制の〝おかしな何か〟に勘付いてしまったのは皮肉だ。

「この調子じゃ、この旗艦だっていつ沈むかわからん。なんなら、敵側に寝返った方が命は助かるかもしれんぞ」

 こう言っている間にも、船は何度も小刻みに震えている。

「一理ある。まぁもし、学校や軍で教わったように、本当に野蛮な劣等民族なら、投降しても瞬殺されるかもしれねぇけどな」

「その時はその時だ。むしろ、俺らが投降することで、その反応次第で敵さんの本当の姿を証明できるとも取れる。俺にはどうも、彼らはそこまで悪い奴らには見えんのだ」

「同感だな。確かに、あの黒い装束の地球人類のせいで、我々は戦友を失ったさ。恨みがないとは言わん。だが、これは戦争なんだ。仕方のないことと割り切るしかない。……どうせ死ぬのなら、最後に真実を知ってからがいいね」

 彼らは司令室から最も近い事務室に向かい、そこで人数分の大きな白い画用紙を持ち出した。降伏の印だ。そして脱出用ポッドに乗り込み、IRISの航空部隊目掛けて飛んだ。

 

 

 

「イケコマさん!小型の飛行物体が、敵の船から発艦されました!」

「戦闘機か……?注意せよ!」

「いや、よく見てください!攻撃用の装備が一切施されていません!それどころか、エンジンさえも小型のものしか……もしかしたら、脱出用のものかもしれません!」

「……敵にとっては不利な戦況だ。そのような行動に出る動機は十分だが……。油断をさせた、奇襲攻撃の可能性も残されている。では、クワハラ、サイトウ両隊員、慎重に回収に向かえ!」

「了解。厳戒態勢のまま接近します」

 指名された隊員は、ミサイルをいつでも発射できる状態を保ったまま、ポッドに近付く。

「そのほか隊員はフォーメーションをBにシフトし、攻撃続行!目の前の一番でかい船を、一気に叩く!」

「了解!」

 アイリスバードの編隊は各々充分に間隔を広げた後、各々超音速飛行状態に移行し、目にも留まらぬ速さで艦隊を囲むように旋回を続けながら、同時にレーザーやミサイルでの攻撃を行ってゆく。的が絞れないため、艦隊からの射撃は全くと言っていいほど当たる気配がない。

「小賢しい!一気に核で吹き飛ばすか!」

 大統領には相当腹立っている面持ちだ。勢いに任せ、指先に力を込めようとする。

「お待ちください!この至近距離で核が爆発すれば、大統領も危険です!巻き込まれます!」

「……くそっ!……これだけのスピードのでる戦闘機は我が軍にも少ないというのに…!なぜ奴らの科学はここまで進歩している!?」

「頭脳系のアビリティを持った、リディオ・アクティブ・ヒューマンの影響だと見られます」

「……リディオめ……あやつはどこまで、我々を苦しめるつもりだ……!」

 つい先ほどまで、そのDr.リディオの遺した技術やデータの恩恵を最大限に受けていたことすら、もう忘れているかのような言動だ。

「……全てが水の泡だ……全てが……!こんな手筈では……!おのれ劣等民族どもめ……!!」

 ただただ怒鳴り散らしながら、机を拳で打ち付けることくらいしか、いまはできない。

「このまま玉砕なさるおつもりですか?……確かに我々は大きすぎる損害を出してしまいました。ですが、ここで大統領のお命までをも奪われては、火星に住む人類の、地球に帰還するという夢は完全に終わってしまいます。今一度、お考え直しを」

 残っていた部下は、静かにそう呼びかけた。負けを認め、受け入れるしかないのが現状なのは、もう誰の目にも明らかだからだ。ただ、一人を除いては、だが。

「……まだ、勝算はあるはずだ!こんな奴ら相手に退くことなど、この私にできるはずがないだろう!馬鹿なことを言っていないで、貴様らも少しはどうやったらこの状況を打破できるのか、頭を捻らせたらどうだ!」

「……」

 部下たちは、呆れた表情をどうにか、表に出さないようにとしながら、押し黙った。なるほど、これでは勝算も何もあったものじゃない。

「このままじゃ、俺たちも巻き添え食らって死ぬな……」

「まぁ、大規模な入植作戦の、最高司令官である大統領の乗る旗艦で死ねるのだ。名誉なことだな……くそったれめ」 

 もう、皆自らの命が残り短いものであることを受け入れていた。

 

 

 

「小型飛行物体を確保!中には数名の敵兵と思われる男性!こちらも保護しました!」

 クワハラが無線で報告した。敵兵は全員、白い紙を抱え、その場に銃などの武器を投げ捨てている。投降のようだ。

「我々は火星人類軍所属の空軍兵である。我々はあなた方軍の捕虜となることを約束する。どうか、命は許していただきたい」

 投降兵のうち一人がそう話した。

「火星人……本当に、火星にも地球人がいたってのか……未だに信じられん……」

 地下人類は、地球は、宇宙人からの攻撃で滅んだと習っているのだ。地上に人類が生存していた、ということだけでも驚きなのに、まさか別の惑星へと逃れた地球人もいたとは。何度かイクタがそのようなことを言っていたような気もするし、現に、先ほどまで暴れまわっていた赤いウルトラマンも火星出身を名乗っていたとはいえ、改めてこう自己紹介されると、理解が追いつかなくなるものだ。

「イケコマさん、どうします?」

「完全な武装解除を確認でき次第、認めよう。火星を知るものを捕虜とすることは、戦闘面でも、そして本当の歴史やこの戦争の要因など、正しい知識を得る面でも重要だ。こちらも願わくば、保護したい。そう伝えてくれ」

「了解。武装を完全に解除してください。それが確認できたら、安全な場所へ連れてゆきます」

「感謝します。……しかし、非常に高性能な機体をお持ちだ。これだけの戦闘機は、私も数回しか操縦したことがない……。何が劣等だ……これだけの技術があるじゃないか……」

 一人は、心の底から感心している様子だ。

「我々を信用してくれたお礼になるかどうかはわかりませんが、一つ、情報を与えます。あなた方が今攻撃している船には、核弾頭が積まれています。爆破してしまえば、あなた方も命はないでしょう。お気をつけください」

「……は、はぁ、どうも……。イケコマさん、核って知ってますか?」

 イクタは真実に触れたとはいえ、IRISの教育の元で育った地下人類の9割9分は、核を知らないのだ。いきなりこう言われても、ピンとこないのは当然でもある。

「よくわからんが、話を聞くにやばい代物なのだろう。わかった。ではもう少し距離を置こう。そして、ある程度の抵抗力を奪った後は、捕獲する方針に変更だ。いいな?」

「了解」

 アイリスバード群は、さらに大きく旋回し、先ほどよりも広めに距離をとった。以下に巨大な船といえど、この短い時間にも集中的に火力を浴びせたのだ。抵抗能力を完全に奪取するのも時間の問題だろう。

 空も、地上も、決着のつく瞬間は、もう目の前にまで迫ってきていた。

 

 

                                                 続く。

 

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