ウルトラマンエレメント   作:ネフタリウム光線

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 テロリストの撃退により、さらに安定した地位を築いたIRIS。残党への取り調べの中で発覚した、テロリストと黒ローブの接触の可能性が、不安材料として残る形にはなったがー
 一方でIRISも、武器の改良や放射能除去装置の開発を急いでいた。そんな彼らの前に、再び黒ローブの男が立ちはだかりー


第4話「稼働」

第4話 「稼働」〜怪獣兵器グリーム登場〜

 

 前回の事件で、街を襲ったテロリスト集団、そして2体の大怪獣から市民を守り抜いたIRISの評価は、改めて高まっていた。

「支部長!これは凄いですよ!このTKー18支部に、様々な個人や企業から寄付金が届いています!」

情報局長が生き生きとした顔で、支部長に報告した。

「どのくらいかね?」

「今の所総額は…9億3000万円です!」

この時代でも通貨は地区によって異なっているが、無論互換性もある。円の価値は、数百年前の日本とさほど変わってはいない。

「うちの支部だけで9億3000万!?…そいつは驚いたな…。トキエダ隊の功績が大きい。彼らに分配せねば…。」

「そうじゃないですよ!その使い方ではいけない!サイエンスチームに投資するべきです!我々の既存戦力の底上げや新兵器開発に回すべきです!イクタ隊員の地上遠征計画も、現実味を帯びてくるのですよ!」

局長がバンッと支部長の机を叩いて熱弁する。

「…落ち着け。…まぁ確かに、地上遠征がどうたらは一旦置いておくにしても、兵力の増強となれば怪獣やテロリスト対策もさらに進み、より被害を少なくすることができるな…。」

そこに、パイロット司令官も入ってきた。

「支部長!大変です!全支部累計で、夏季の隊員募集に登録した人数が、春季の4倍以上になっています!TKー18支部への志願者数もかなりいます!きっと先日のテロ事件での大活躍が大きく影響していると思われます。この数は、レジオン戦で殉職したスタッフの数を上回りますよ!この好機を逃す術はない!今こそ、IRISはさらなる力を蓄えるべきです!」

「司令官に賛成です!支部長!兵力増強と、入隊試験の早期開催のご命令をください!」

「…いいだろう。兵力の増強、及び入隊試験の早期開催、そして複数開催の命令を下す。」

支部長は大きくため息をつきながらそう言った。

「…複数開催ですか?」

「そうだ。それだけの数の志願者を一度に捌ききることもできないからな。じっくり、それぞれの適性を判断していく。」

「なるほど。では、ご命令承りました。早速仕事に取り掛かりましょう!」

局長はスキップで、支部長室を後にした。

「……司令、彼はいつになく機嫌がいいようだが…?」

「まぁ、最近の情報局には嫌なニュースしかありませんでしたし、メディアへの対応にも追われていましたからねぇ。久方ぶりの朗報に喜んでいるんですよ。」

「…そうか…。」

支部長は、パソコンを起動し、画面を見つめた。画面には、先日イクタが提出してきた、地上遠征の企画書が開かれている。

「…地上に行きたい…か。できることなら叶えてやりたいんだが…。」

支部長は再び大きくため息をついた。

 

 

 ここはKGー4エリア。IRISTKー18エリア支部が管轄している裁判所、拘置所の中でも最も大きな施設が存在する場所だ。旧日本国エリアには、支部直轄のそのような施設が多くあるが、KGー4エリアのものが支部から最も近いこともあり、大きなものとなっている。もちろん運営もIRISによるもので、彼らはIRISリーガライザーと呼ばれている。

「だから、俺たちは何も知らねぇんだよ!誰が、弾丸から怪獣が出てくるだなんて想像がつくってんだ!?あぁ!?」

そこで取り調べを受けていたのが、先日のテロ行為で逮捕、拘束されたテロ組織《カットフ》のメンバーたちだ。

「そう開き直られても困るんだよ!その弾丸は誰に渡されたんだ!?」

取り調べの道に入ってはや30年の、ベテランリーガライザー、オニヤマが怒鳴る。

「…知らねぇよ!変な黒ローブのおっさんだったが、名前も顔も知らないね!」

「とぼけるな!カットフとあろう組織が、そんな正体不明の男から怪しい弾丸を受け取るはずがないだろう!どうせお前らは地下法を同時に12項目も犯しているから、死刑当確なんだよ!下手に誤魔化しても罪は軽くはならねぇんだ!洗いざらい話しやがれ!」

オニヤマの怒声が響く。

「本当に俺たちは知らねぇんだ!ボスがその男を信用したから受け取ったってだけだ!俺たち下っ端に聞くよりは、ボスに聞いたが早いと思うね!」

「…聞いていないのか?」

オニヤマの補佐官、キリュウが怪訝な顔をして訊ねる。

「…何をだよ。」

「お前らのボスは、あの事件の後遺体で発見された。最も、その下半身は何かに吹き飛ばされたのか、無かったがな。」

オニヤマがそう告げた。

「は…?ボスが…ボスが死んだってのかよ!?」

メンバーたちの顔に動揺の色が浮かんだ。

「嘘つくんじゃねぇぞ!俺たちに話をさせるための罠だろう!?その手にはかからねぇ!」

「嘘じゃない!…わかった。弾丸のことはもう聞かない。知ってることだけ話せ。」

オニヤマは疲れたのか、グダーッと椅子にもたれた。

「知ってることは昨日全部話しただろ!?」

その時、取調室のドアが開いた。

「誰だ?取り調べ中は入室禁止だ。」

キリュウが椅子から立ち上がり、ドアへと向かう。

「よっ」

来客はイクタであった。

「イクタか。サイエンスチームの人間が、こんなところに何の用だ?」

オニヤマが訊ねる。 

「面白い調査結果が出たんでね。おっちゃん、そいつら本当に何も知らないみたいだ。これ以上問いただしても、おっちゃんの血圧が上がるだけだぜ?」

「…余計なお世話だ…。」

「だから、取り調べを続けるより効率がいいかなと思って、呼びに来たってわけ。」

オニヤマとキリュウは立ち上がり、アイコンタクトをとった。

「わかった。イクタに付いていこう。キリュウ、野郎どもを檻の中に閉じ込めておけ。」

「わかりました。」

オニヤマは取調室を後にした。施設の外に出て、停めてあったアイリスバードに乗り込む。

「それで?面白い結果とはなんだ?」

「着いてからのお楽しみだぜ。」

アイリスバードは垂直に離陸すると、TKー18エリア支部へと飛んだ。

 

 

 TKー18支部のサイエンスチーム棟では、様々な実験が行われていた。

「電流の電圧、20万ボルトまで上昇させます。」

「電圧、20万ボルト。」

『ギュエルルルルルル!』

イクタとオニヤマが到着した時は、先日の事件で生け捕りにした怪獣、ボムレットへの生体実験中だった。

「…あれは何をやっているんだ?」

「怪獣に電流流し込んでるんだよ。放射能が毛嫌いされてるこのご時世、レントゲンだってまともに使えやしないから、電流で体内の構造をスキャニングしているんだ。それに、これは怪獣がどのレベルの電撃までになら耐えうるかの実験も兼ねてるね。今後の兵器開発にも繋がる。」

「お、おう…。なかなか非道なことしてるな…。俺らでも拷問まではしないぞ…。」

オニヤマは若干引き気味である。

「仕方ないじゃん。情報を得るためだよ。さ、こっちこっち。」

イクタに案内され、オニヤマは建物の隅の方にある部屋へと連れてこられた。

「ここは…?」

「ログ室だよ。何か起きるたびに防犯カメラやアイリスバード搭載カメラ、隊員のヘルメットに付属している小型カメラなどの映像を保存しているんだ。」

「ほぉ…。」

室内には数えきれないほどのモニター画面があり、どの画面も常に何かしらの映像が流れている。それを、交代制で9人のスタッフが管理している。

「あ、チーフ。お疲れ様です。」

部下の一人がイクタとオニヤマに気づき、歩み寄って来た。

「そちらの方は…?」

「IRISTKー18支部管轄、KGー4地区裁判所所属のリーガライザー、オニヤマ・テツジだ。」

オニヤマは簡単な自己紹介をしながら、名刺を渡した。

「あぁ…。あなたがオニヤマさんですか。その数々のご活躍は、この棟に引きこもりの私どもの耳にも届いております。」

「世辞はいい。イクタ、早くその面白い結果とやらを見せてくれ。俺も暇じゃないんだ。」

オニヤマはテクテクと部屋の奥へと歩いていく。

「はいはい。おい、3日前のテープはどこだ?」

「あ、はい。A棚の上から4段目です。」

「サンキュー。」

イクタは指定された棚の前に行き、該当のテープを取り出し、最寄りのモニター画面にセットした。画面には、怪獣とエレメントが出現し、混乱しているテロリストたちと街並みが映っている。イクタはビデオを早送りにし、ある地点で再生した。

「ここだよおっちゃん。ここ、拡大して。」

部下が画面を拡大する。

「…!黒ローブ…!」

そこには、黒いローブを羽織った人間のような存在が映り込んでいた。顔も性別もわからないが、それは明らかに不自然な場所で、不自然に立ち、エレメントたちの戦いを見守っている。

「あいつら、黒ローブの男に弾丸をもらったと言ったな…。それがこいつか?」

「確証はないけど、多分そうだと思うよ。この町の住民リストを確認したけど、こんな人住んでないし。そもそも怪しすぎるでしょ。もしかしたら、怪獣を地下に運んで来ている謎の勢力の者かもしれない。」

「怪獣を地下に運ぶ?どういうことだ?怪獣は野生じゃないのか?」

「どうやら野生じゃない怪獣もいるらしくてね…。最初に不自然だと思った怪獣事件は、例のレジオン襲来だ。」

「レジオン…。あぁ、IRISから大量の犠牲者を出したあの事件か。」

普段KGー4エリアに住んでいるオニヤマにとってはそこまで身近な事件ではなかったようだ。

「あの怪獣は行動がおかしすぎた。具体例を挙げたらキリがないからこの場では省くけど。この時に、もしかしたら怪獣を操作している何者かが、地下ではないどこかー例えば宇宙とかーにいるんじゃないかな?と考えた。そして、その仮説は俺の中で確証に変わったよ。このあいだの怪獣事件でな。」

「弾丸から怪獣が出たからか。確かに、それを聞く限り怪獣を地下に運搬し、操作している何者かがいる、という考え方も否定できないな。レジオンも、その弾丸から出て来たのかもしれん。だが本当にそんなことが可能なのか?」

オニヤマは、まだ半信半疑という表情だった。

「わからない。少なくとも、現在のIRISの科学力じゃ不可能だ。認めたくはないが、俺たちよりも進んだ科学が、この地下に入って来ているというわけだ。…だいたい、言いたいことはわかったかな?」

「…カットフのボスは死に、部下も無知。つまり情報を得たければ、この黒ローブを重要参考人として拘束しろということだな。」

「そういうこと。そこらへんは、おっちゃんたちの仕事だ。おっちゃんも、わからなかったことがわかってスッキリするかもしれないぜ?」

イクタはモニター画面のスイッチを切った。すぐに他の映像が流れ出す。

「…。だが難しいな。記録がこれしかないようでは…。イクタ、このテープは借りてもいいか?僅かだが、重要な証拠映像だ。」

「いいよ。じゃあ、俺も他の仕事があるから。帰りの飛行機は、片道の自動運転機を停めてあるからそれに乗ってくれ。」

「わかった。」

ここで、イクタとオニヤマは別れた。

 

 

 イクタは、自らのデスクのある研究室へと戻って、エレメントの解析を再開していた。

「もう少しだ…もう少しで仕組みがわかりそうだ…。」

イクタがコンピュータをいじくり回しているところに、イクタの右腕とも謳われている、女性部下のエンドウがやって来た。

「チーフ、レジオンの分析より得たデータに基づいた新型ミサイルが完成したので、今からシミュレーション実験を行いますが、ご一緒にどうですか?」

「いや、俺はいいや。お前の指揮の下でやっておいてくれ。」

「わかりました。…そういえば、我がサイエンスチームに、支部から資金が回ってくるそうですよ。なんでも、民間からの寄付金だとか。」

イクタは作業を中断し、エンドウの方へ振り向いた。

「へぇ。いくらくらい?」

「詳しい額はわかりませんが、推定9億と少しだとか。」

「9億…。そりゃまた凄いな。それだけの金があればなんとかなりそうだな。」

イクタは腕を組んだ。

「何がですか?」

「いや、この研究段階の放射能クリーナーだが、おそらく今週中には開発が開始できると思う。だがどうしても大量の特殊合金が必要でな。それも値が張るものばかりだし、金に困ってたところなんだよ。」

「こ、今週中!?さ、流石チーフ…仕事が早いですね…。でも良かったですね。」

「あぁ。その金は市民からIRISへの信頼の証。きっとその信頼に応えて作り上げてみせるさ。」

イクタはそういうと、作業に戻った。エンドウも、そっと部屋を後にした。

 

 

 エンドウ指揮の下、新型ミサイルのシミュレーション実験が行われようとしていた。

「エンドウさん、準備、整いました。」

シミュレーション実験のため、実弾を飛ばすわけではないが、やはり大掛かりな準備が必要なのだ。スタッフたちは、大きなコンピュータを何台も用意し、待機している。

「了解。では、例の新装置を起動してください。」

「はい。」

例の新装置、それは、怪獣から得たデータから正確に作られた、コンピュータ上での怪獣のCGだった。モニター画面に、精巧に再現されたレジオンが現れる。

「言うまでもなく、このコンピュータに登録されている兵器や怪獣は正確なデータに基づいて再現されています。実戦の縮小図だと言っていいでしょう。この実験の重要度は高い。我々人類も、日々進化しているということを証明してやりましょう!」

「おぉ!」

「実験開始!」

エンドウの合図で、シミュレーションは始まった。レジオンが出現した市街地に向かって、4機のアイリスバードが飛行している。怪獣と戦闘機は、前もって組み込まれていたプログラム通りに戦闘を進めていく。

「レジオンはイクタチーフが解析した行動パターン通りに動きます。アイリスバードは、これまでのトキエダ隊長の指揮した戦闘のログから、トキエダ隊長ならこう動かすであろうという限りなく正確に近い仮定で動いています。ですが新型ミサイルの発射タイミングは、データがないので我々の判断に依存しています。」

オペレーターがそう解説する。

 実験開始から5分が経過した。レジオンはその間に市街地の中心部にかなり接近している。

「そろそろ、アイリスバードが落とされ、市街地が壊滅的被害を受ける頃です。」

「やはりそれだけ恐ろしい怪獣だったのね…。」

エンドウは腕を組んだ。これほどの怪獣を粉砕できるとなれば、この新型ミサイルの価値はお墨付きのものになるのだが、果たしてー

「頃合いね。アイリスバード一号機の自動プログラムを解除!手動モードに切り替えて!」

「了解!」

これでCGのアイリスバード一号機は、オペレーターが手動で操作するものになった。

「一号機をレジオンの首元近くまで!破壊光線警戒!チャンスは一度きりよ!」

一号機は、所定のポイントについた。

「よし!ミサイル発射!」

新型のミサイルが放たれた。ミサイルはレジオンの首元までまっすぐに飛んでいく。それを見たレジオンも、その口から光線を吐き出し、ミサイルは光線に飲まれた。

「あぁ…。これじゃ…。」

一人のスタッフがうな垂れた時だった。

「まだよ。」

そのミサイルは、光線をもろともせず、未だに着弾予想点への飛行を続けていた。遂に勢いを落とすことなく、レジオンの首元に着弾。レジオンは大爆発を起こした。

「…ぃよしっ!」

エンドウはガッツポーズをした。

「…すごい…。あのアイリスバードを二機も落とした光線が効かないなんて…。それにあの火力…。」

「ポイントは螺旋回転弾、というところにあるわ。発射台も特殊で、ミサイルを錐揉み回転させながら発射するの。それによって火力も高まるし、弾頭には切り込みを入れた特殊合金を使っているから、大抵の攻撃は受け流しながらの飛行が可能ってわけ。」

「…なるほど…。」

「問題は、これをいかにして量産するかよね…。全世界の支部がこれを持たないと。レジオンクラスの凶悪怪獣に対抗できるのがうちの支部だけじゃ意味がない。まだまだ、実戦で使えるかどうかは怪しいわね。」

喜びのムードは、たちまち重苦しい空気に変わってしまった。

「エレメントなら…。」

一人がボソッとつぶやいた。

「え?」

「エレメントの力を使えば、あの合金を量産することも容易になるかもしれません!」

「確かに…。それは名案ね。エレメントはこれまでの戦いで、様々な化学反応を使っていた…。今までは気体と液体しか使ってなかったようだけど、金属でも同じことができるはずだわ。」

実験室は、再び明るい雰囲気を取り戻しつつあった。

「でも、エレメントは怪獣が現れた時にしか出てこないわ。私たちが呼べば出てくるってものじゃなさそうだし…。」

「うーん…。どうしたものでしょうかねぇ…。」

スタッフたちは黙り込んでしまった。研究室は静寂に包まれた。

 

 

 重苦しい雰囲気の流れる一室。一足踏み入れれば、2度と帰ってこられないのではないかとも思わせるその部屋の奥に、黒いローブを纏った4人の人影があった。

「……その…、なんだ。悪かったよ。」

ラザホーが重い空気の中で口を開いた。まさかの敗走からか、4人とも顔色がよろしくはない。

「いや、作戦的にも戦力的にも問題はなかったはずだ…。妙なことは、急に未来が変わった点だな。」

この男、ローレンのリディオ・アビリティはこれまでの言動から察するに、おそらく未来予知であろう。それも、かなり精度が高そうだ。

「おそらく、ローレン殿の予知が狂った要因は彼でしょうな。エレメント、なかなか侮れませんのぉ。」

「もっと言うなら、エレメントとケミストしてる中身の人間よ。前にも、ローレンはあいつの未来が読めないと言ってたわ。これはもう、奴もリディオ・アクティブ・ヒューマンということで確定なんじゃないの?」

キュリがそう推測した。

「だとすればかなり厄介だ。未来を瞬間的に変えられるという力は、我々にとって相性が悪すぎる。…能力者ならその細胞だけでも頂こうとも考えたが、奴は危険だ。この人間の始末を何よりも優先しろ。」

「…エレメントと一体化できる以上、一筋縄ではいかないだろうな。だが、それでこそやり甲斐がある。当分は俺に任せろ。やられっぱなしじゃあ、俺のプライドが傷つく。」

ラザホーが、胸の前で両拳を合わせた。

「わかった。どんな手を使ってもいい。が、一つ警告しておこうか。」

「なんだ?」

「今のままだと、お前は負ける運命のようだ。」

ローレンはため息をついた。

「…。そうか。未来を覆す、それもまたやり甲斐のあることだ。燃えてきたぜ。」

ラザホーはそう言うと、部屋を出て行った。が、すぐに戻ってきた。

「…いかがされました?」

ダームが訊ねる。

「……キュリ、お前がいないと地下まで行けねぇ。ちょっと力貸してくれ。」

「はぁぁぁ?……だるいな〜もう…。」

キュリはブツブツ文句を言いながらも、ラザホーの後に続いた。

 

 

 サイエンスチームのスタッフ一行が、実験室を後にし、研究室へと向かっていた。研究室の自動扉が開いた時、彼らの目の前にあったのは、奇妙な装置を組み立てるイクタの姿だった。

「…チーフ?何作ってるんですか?」

エンドウが訊ねる。

「……あ、あぁ、な、何って放射能クリーナーだよ。仕組みがわかったから開発に乗り出すんだ。」

どこか動揺しているのか、少々噛み気味で答えたイクタ。

「さ、流石はチーフ…。ですが、合金が足りないだとか、お金が足りないだとかなんだとか仰ってませんでしたっけ?」

エンドウは小2時間ほど前のやり取りを思い出しながら言った。

「…、まぁ、その…なんだ。俺天才だしな…。」

イクタは頭を掻きながらはぐらかした。

「……怪しい…。」

イクタの元に、怪訝そうに眺めるスタッフたちの視線が集まる。

「な、なんだよ!完成さえすればなんでもいいだろ!?お前らも手伝え!」

イクタは視線を振り切るように作業を再開した。

「えぇぇ……。私たち今実験が終わったところなんですよ〜…。」

「あぁ、そうだ。その実験はどうなったんだ?」

「まぁ、ミサイルの性能は問題なしです。実用化できれば強力なメインウエポンになるでしょう。ですが…。」

「ですが?」

「素材と製作費用の不足がどうしても生じてしまって…。まだまだ時間がかかりそうです。」

「そうか…。まぁいい。とりあえずこいつを完成させるぞ。」

スタッフたちは渋々引き受け、開発が始まった。

 それから数分が経過した頃、イクタはトイレと言って、一旦持ち場を離れてエレメントミキサーを取り出した。ミキサーの液晶画面の向こうに、エレメントの全身像が映った。

『危なかったなイクタ。もう少しで私と一体化していることがバレるところだったな。』

「それもこれも、あんたがこんなに簡単に特殊合金を生成しちまうからだろ。あんだけの僅かな素材から、必要量の合金を生み出すってあんた本当に何者だよ…。」

『まぁ良いではないか。成功を祈るぞ。』

そう誤魔化して、エレメントは画面から消えた。

 完成には数日を要した。逆に言えば、僅か数日で完成した、とも取れるが。イクタの行動に不可解な点は残るものの、なんにせよ人類史上初の放射能クリーナーが完成したのだ。予想外に早いこの報告は、TKー18支部の首脳陣を驚かせた。

「イクタ隊員のことだ、すぐに完成させるとは思っていたが、まさかここまで早く…。」

補佐官が唸った。

「エレメントの残した痕跡から分析していたと言っていましたね。エレメントの登場は、人類にとってこれ以上ないプラスですな。」

常時無表情の司令官も、その表情は少しほぐれているようにも見える。

「……それで、その装置は本当に放射能を除去できるのか?」

支部長は未だに半信半疑であった。それもそのはず、これまで何度も開発に失敗してきた装置なのだから。

「それに関して、サイエンスチームはどうやら実験を行いたいようです。うってつけの実験場がある、と報告しています。」

情報局長が言った。

「どこだ?」

「レジオンの放射能に冒され、立ち入り禁止となってしまっている、住宅地です。」

「なるほどな…。確かにうってつけだろう。成功すれば、市民たちも慣れ親しんだ家に帰ることができる。様々な面で、IRISはまた大きく前進できる。」

首脳陣各員の意見は、装置の実験稼働に賛成のようだ。あとは、支部長の意思次第である。

「……わかった。実験を許可しよう。サイエンスチームに何かあってはいけない。司令官、非番の戦闘員の小隊を護衛につけさせろ。」

「了解。今はフジイ隊が使えるので、フジイ隊をよこします。」

司令官は、司令室のある棟へ向かうため、支部長室を去った。

「…もし成功となれば、人類にとってかなり大股の一歩となりますねぇ。楽しみです。」

局長の顔色も良さそうだ。

「まぁ、一喜一憂するのは、結果を見てからだ。何事もそう簡単に行くわけではなかろう。」

支部長は大きく息を吐きながら、椅子の背もたれにもたれた。デスクに置いてあったコーヒーを口にする。その視線の先には、KG区域のオニヤマリーガライザーからの報告書があった。

「…そう、簡単ではないのだ。放射能除去も、地上へ行くことも。」

 

 

 放射能防護服を纏ったサイエンスチームの部隊が、専用車両で現場入りした。住宅街の中心部へと、車を走らせて行く。その少し後方の上空には、護衛としてフジイ隊のアイリスバード3機が付いてきている。

「エンドウ。あそこで止めてくれ。」

イクタが助手席から指示を出す。

「わかりました。」

車を止めると、中から、高さが6m近くはありそうな大きな装置を持ち運ぶ十数名の男性職員が降りてきた。

「気をつけろよ。落とすとパーだ。」

「わかってます!」

よろよろと持ち運ぶため、時間はかかったが、装置のセットは無事完了した。

「よし。電源入れるぞ。コードをつなげ!」

装置から伸びたコードを、車両の電源装置へと繋いでいく。

「すべてのコードを繋ぎました!あとは、スイッチを入れれば電源が入ります!」

「オーケー。んじゃあ、実験開始といこうぜ!」

イクタが両拳をがっちりと合わせたその時だった。一行の目の前に、怪しい男が現れたのは。

「悪いが、実験は中止だ。」

男は黒いローブを羽織っていた。声から、結構な年齢を食っていると思われる。

「…だれ?そもそもここ立入禁止区域なんだけど。防護服も着ないで、死にたいのか?」

それを見ていたアイリスバードのうち1機が、超低空飛行で近づいてきた。

「おい、どうした?」

コクピット内の通信機を使い、パイロットの一人が訊ねた。司令室のモニターから見守っていた司令官の顔が青ざめていく。

「あいつは…オニヤマの報告書にあった謎の黒ローブの男…?ということは…まずい…!アイリスバード全機、男を狙え!レーザー機銃掃射だ!サイエンスチームと装置を守れ!」

「りょ、了解!」

フジイ隊は状況を飲み込めてはいなかったが、司令の命令に従った。3機の戦闘機から、レーザー光線が飛び出す。特に、低空飛行中だった一機の射撃から逃れるのは困難であろう。だが、男は避けた。それも、悠々と後方へ大きくジャンプしただけだった。それだけなのに、レーザーは掠りもしなかった。

「あいつ…戦闘慣れしてやがる。ここは危険だ!俺たちは撤退だ!あとは戦闘員に任せる!」

「了解!」

イクタの判断で、サイエンスチームは装置を片付け、車両に乗り込もうとする。

「おっと、その装置は厄介だな。ここで破壊させてもらおうか。」

男はローブの内ポケットから二丁のグレネードを取り出すと、サイエンスチームめがけて乱射した。

「死ね!エレメント!」

この手なら、放射能除去装置という厄介な代物も、エレメントの中身も始末できる。有効打だった。何発か命中しているのか、数名の職員がその場に倒れていく。

「…っ!」

イクタは唇を噛んだ。また、目の前で部下が死んでいく。その男と、イクタたちの間を、一機のアイリスバードが塞いだ。着陸寸前の超スレスレの飛行状態から、レーザーを連射する。

「!!」

男もさすがに予想外だったのか、建物の陰に隠れた。

「大丈夫か!?」

フジイ隊の一人が、コクピットから降り立った。

「装置は無事だが、4人やられた…。あの野郎…あいつが例の黒ローブで間違いない!…てことはさらにまずいぜ…。あいつは情報通りなら…。」

男はゆっくりと立ち上がると、二丁のうち一丁の銃身に、ポケットから取り出した別の弾丸をセットした。

「怪獣兵器を持っていやがるぞ…。」

そのセリフが言い終わらないうちに、男が逃げ込んだ陰の中から、大きな怪獣が現れた。身の丈おおよそ53m。天井のLEDライトを反射させてギラギラと光るシルバーの鉄板のような皮膚。右手の先端には銃身を、左手の先端には短剣を装備しているその恐竜のような怪獣は、登場と共に大きく吠えた。

『ンンンガゴォォォ!!』

「グリーム。纏めて踏み潰せ。」

男が命令すると、グリームと呼ばれた怪獣は再び大きく咆哮し、こちらへ向かい走ってきた。アイリスバードは、その座標位置のせいもあるが、機動力を奪うために足をめがけてレーザーを連射する。

「くそっ!くそこのっ!止まれぇぇ!」

隊員の叫びも虚しく、怪獣は進撃を止めなかった。そのまま、アイリスバードは蹴り飛ばされてしまう。飛ばされたアイリスバードは空中で縦に4、5回回転したあと、サイエンスチームの車両の遥か後方の地面に突き刺さった。そのあと、大きな爆発が起こった。

「…おいシュウジ!シュウジィィィ!」

先ほど一人降り立っていた隊員が、仲間の乗っていた墜落したアイリスバードの方へと走っていく。

「チ、チーフ!チーフどこですか!?」

エンドウは気づいた。イクタがいないのだ。先ほどの戦闘機に巻き込まれ、どこかへ吹っ飛んでしまったのだろうかー

「エンドウさん!チーフのことです!きっと大丈夫です!それより逃げましょう!放射能クリーナーといえども、命に比べりゃ捨ててもいいものだ!早く!」

生き残ったスタッフたちは、装置を放棄。どうにか車にたどり着くと、すべてのコードを引き抜き、車を走らせた。

 首脳陣たちの表情は、いつもの暗いものへと変貌していた。

「…状況は最悪だ。実験はおろか、数名の命を失ってしまった。」

支部長は気が抜けたようにうなだれた。

「戦闘経験の少ないフジイ隊では全滅の恐れもあります!司令!早くトキエダ隊を…!」

局長が、司令室へと通信を繋ぎ叫んだ。

「彼らは別任務中だ!使えるものならもう使ってる!くそっ!」

司令は通信用マイクを投げ捨てた。その時だった。モニター画面から、眩い光が発せられた。

「!!…エレメント…。」

『シャアァァ!』

肩幅に開いた両足、右腕を腰に当て、左腕を高く突き上げるそのポーズは、まさしく光の巨人、エレメントのものだった。

「エンドウさん!エレメントですよ!助かった!」

スタッフたちの顔に希望が戻ってきた。

「出たなエレメント。死んでもらうぞ!」

男、ラザホーは武者震いした。グリームが、エレメントめがけて突進していく。

「こいつは硬そうだ。ダメージを与えるには、こうだな。」

エレメントは突っ込んできたグリームの足に、自らの足を引っ掛けた。グリームは勢いよく地面へと転がり落ちた。

『ンンンガゴォォォ!!』

悲鳴を上げるグリーム。

『なるほど。硬質で体重が重い怪獣だからこそ、1番のダメージは己の体重分の負荷がかかることにあるってか。』

「まぁでも、そう何度もこの手にはかかってくれないでしょ。」

『ケミスト!ハイドロエレメント!』

エレメントは青色に変色した。

「今のうちに押し切る!」

エレメントミキサーから水の劔が伸びた。その左腕を構えると、起き上がったばかりのグリームめがけて、劔を振り下ろす。

『シャア!』

だが水の劔は、グリームの左腕の短剣に阻まれる。すかさず、グリームは右腕の銃身からエネルギー弾を発射。もろに食らったエレメントは、数十メートル吹き飛ばされた。民家が数軒、エレメントに押しつぶされていく。

『ノワァァ…』

『ンンンガゴォォォ!!』

グリームは叫ぶと、間髪入れずにエレメントめがけてエネルギー弾を連射する。

『アァァッ……グワァァァ…。』

猛攻を防ぎきれず、エレメントは両膝と片腕を地面につき体を支えるという無様な格好になる。

「エ、エレメントが…!」

情報局長は額から汗が止まらない。

 その光景を、車のバックミラーから眺めていたエンドウは、とある決心をした。

「ミサイルを…新型をあの怪獣に打ち込むわ。」

「えぇ!?でもあのミサイルはまだ一機しかありませんよ!?外したら終わりです!」

「私たち人間だって、エレメントが現れるずっと前から怪獣と戦ってきたの!エレメントが何を思って戦ってるのかは知らないけど、私たちは人類の未来を、そして唯一の居住区を守るために戦ってきたのよ!今こそ、その私たちの力を怪獣に、そしてエレメントに見せつける時よ!」

エンドウは、携帯していたミサイルの発射ボタンを取り出した。

「たった一機のミサイルは、当然ながらまだ戦闘機に搭載していない。実験室奥の発射台に設置されてるわ。実験室のコンピュータに繋いで!着弾ポイントと弾道を入力!目標怪獣よ!」

「了解!」

「弾道設定完了!発射準備整いました!」

「ミサイル発射!」

エンドウがボタン押した瞬間、基地から新型ミサイルが飛び出した。車両の頭上を超え、グリームの元へと飛んでいく。

 ミサイルは、胸のランプが赤く点滅し始めたエレメントへ、トドメを刺そうとしていたグリームに命中した。鋼鉄の皮膚にもかかわらず、大きな爆発が起き、グリームはそのまま吹っ飛ばされる。

「命中!手応えもありです!」

「やった!」

車の中で、スタッフたちはガッツポーズをした。

「な、なんだ!?どこから飛んできた!?」

ラザホーが辺りを見渡す。しかしその視線に入ったのは、恐ろしい光景だった。エレメントの左腕のミキサーに、飛散していたグリームの皮膚の一部が吸い込まれていたのだ。

「まさか…っ!?」

「いいもの拾ったぜ。あいつらには感謝てもし足りない。エレメント!反撃開始だ!」

『おう!』

『ケミスト!スチールエレメント!』

全身シルバーへと変色した、鋼鉄の巨人、エレメントスチールタイプだ。

「グリーム!どうせ奴の体力は残っちゃいない!叩き潰せ!」

『ンンンガゴォォォ!!』

『シャアァァ!』

ズシン、ズシンと、両者の重みのある足音が響き渡る。両者ともにスピードは鈍く、ぶつかり合うまで時間を要したが、グリームの短剣とエレメントの拳がぶつかった時、激しい金属音がその場にいた全員の耳にツンと響いた。

キィィィィン

思わず耳を塞ぎたくなる金属音が、エレメントとグリームの攻防のたびに鳴る。

「この体、重すぎるだろ…なかなか、思うように動かねぇ。」

エレメントは重すぎる体をコントロールできないのか、ぎこちない動きではあったが、それはグリームも同じだった。数十秒、殴る蹴るの同じ動作が続けられる。グリームはこのままでは埒が明かないと判断したのか、数m後退し、右腕を構え、エネルギー弾を乱射した。弾がエレメントを襲う。だが、不思議とダメージは先ほどよりも軽く感じられた。

「…この体じゃ、痛くはないな。でも鬱陶しいや。はっ!」

エレメントは左腕を高く上げ、その後垂直に振り下ろし、前に習えの姿勢を作り、そのまま腕を横に曲げた。するとエレメントの少し前方に鋼鉄のカーテンのようなシールドが現れた。

『エレメントシールド!スチール!』

ガキン、ガキンとグリームの弾をはじき返していく。そのシールドの陰で、エレメントは必殺の光線の姿勢を構えようとしていた。

『左腕に私たちの力を!右腕に鋼鉄の力を!デュアルケミスト!スチールケミストリウム…光線っ!!』

連射される弾の負荷に耐えられず、シールドが破れたその瞬間、シールドの破片をくぐり抜けて飛んできたのは、エレメントの必殺光線、ケミストリウム光線だった。鉄分を含み、重みのある光線が、グリームの腹に命中した。

『ンンンガゴォォォ……』

断末魔のような悲鳴を上げ、グリームは爆死した。

「……決まっている未来を変えるということは、やはり容易ではないか。」

そう捨て台詞を吐き、ラザホーは姿を消した。

 

 

「チーフ!ご無事でしたか!?」

騒ぎが収束し、サイエンスチームは実験場に戻ってきていた。

「あぁ、なんとかな…。それに、こいつも無事だ。」

イクタは、放射能クリーナーの前に立っていた。

「よかった…。では、実験を始めましょう!」

「…そうだな。」

イクタは再び、装置のコードを車両に繋ぎ、電源を入れた。ブゥゥゥゥンという音を立て、装置に光が灯っていく。

「そこのレバーを引くんだ。」

スタッフの一人が、言われたようにレベーを引いた。装置は白色に点滅を始めた。稼働したのだ。

「…こ、これで動いてるんですかね…?」

スタッフたちが、車内にある放射能測定メーターに視線を移す。するとどうだろう、その濃度を表す数値は、みるみると基準値に向かって減少しているではないか。

「………やった…やりましたよ!ついに我々は、放射能を取り除く技術を身につけたんだ!」

「レジオン戦以降に死んでいった職員たちも報われます!人類は長い足踏みを終えたんだ!」

職員たちは互いに抱き合い、喜びを分かち合っていた。

 モニターで見守っていた首脳陣たちも、ほっと一息をついた。

「踏み出しましたね。大きな一歩を。」

局長の顔色も、すっかり良くなっている。

「そうだな…。だがこれで痛いほどわかっただろう。レジオン襲来時も、そして今日も犠牲が生まれた。これからもそうだろう。だが、仲間が死ぬたび、我々IRISはその分力をつける。地上に行くということは、彼らの屍でできた階段を駆け上がって行くということだ。本当にその覚悟が君たち職員にあるというのならば、私も地上遠征の案が世界会議で通るように尽力しよう。」

「支部長…!」

 その後、例の住宅地は放射能が完全に取り除かれ、壊れた民家も修復された。事件の二週間後、遂に市民たちは帰還の許可が下りた。放射能に奪われた領土の一部を取り戻したのだ。

「さて、次に取り返すのは、地上だぜ。」

イクタの瞳に燃え盛る炎が宿った。

 

                                               続く。

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