ウルトラマンエレメント   作:ネフタリウム光線

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 定期的に開かれるIRISの世界首脳会談で、地上遠征計画を発表したTKー18支部だったが、全世界市民からの信頼を重視する関係者たちに相手にしてもらえない。そこで情報局長は、TKー18支部のことを世界に広め、まずは市民に親しみを覚えてもらおうと、主力部隊トキエダ隊の任務に、テレビ局の取材班を同行させ、密着番組を作ることを計画した。しかしその任務中、予期せぬ事態が発生してー?


第5話「取材」

第5話 「取材」〜装甲獣シルドラゴ登場〜

 

「地上…遠征…計画…?」

TKー18支部のフクハラ支部長から受け取った資料に目を通し、フサフサの白髪に覆われた頭を上げたのは、IRIS本部長ジェイミー・ルイーズだ。

「そうです。文字通り近い将来、我々人類が再び地上に領土を取り戻すためのプロジェクトです。手始めに、地上にIRISの補給基地を建設しなければならないので、そのための計画です。」

フクハラ支部長が説明した。

「馬鹿を言え。そんなものは言うまでもなく却下すべきです。色々と突っ込みたい箇所はあるが、第一に市民が賛成するわけがなかろう。」

こう否定したのはEGー04地区の支部長エリオットだった。どうやら、ここでは定期的に開催されるIRISの世界会議が行われているようだ。

「いや、面白い提案だ。さすがに即刻却下ということはない……が、エリオットの意見も一理ある。危険な地上に出るのだ。どう市民を説得するつもりだ?」

本部長はフクハラに尋ねた。

「世界各地に基地を構えておられる皆様には伝わりにくいかもしれませんが、我々の構える旧日本地区には、この一ヶ月でレジオンなど大怪獣が多く攻め込んで来ました。大きな被害こそ出しましたが、我々支部の戦力はその都度の怪獣撃破で証明されています。それに…」

「謎の巨人エレメントか。あの存在が、お宅の地区では大きいと?」

CHー34支部のヤン支部長が訊ねた。

「そうです。加えて、先日我々は放射能クリーナーを開発し、その性能も立証済みです。市民の皆様を説得できるだけの信頼度、そして材料は整ったと判断したので、本件を提案したのです。」

「なるほどな。だが君の言った通り、世界各地の多くの市民は、君らの戦力もエレメントの力も知らない。それはここにいる、君以外の関係者もそうだ。怪獣は驚異。それだけが我々の持つ絶対的な固定概念であり、不変の事実だろう。地上を目指すのならば、君らはまず全世界市民の信頼を得なければならないのだ。それは、わかっているね?」

本部長はそう言った。

「はい…。」

「…だが発想とこの提案そのものはかなり面白い。実現するかどうかはわからないが、とりあえず具体的な説明をしてもらおう。」

「はい。」

フクハラは立ち上がり、プロジェクターから画像が映し出されているスクリーンの脇に立った。

「まずお手元の資料の2ページをご覧いただきたい。このスクリーンには、その資料の拡大画像を映してあります。」

全員が、紙の資料をめくる音が鳴る。

「地上へ送り込むチームの予定人数は20名。このチームは我が支部だけでなく、世界各地のIRISの精鋭を招集したトップチームで、と考えています。そして予算ですが、旧日本円に換算すると98億円。IRIS本部の年間予算の40%という大金ですが、それだけの金を投資するだけの価値ある遠征だと思っています。」

「質問だ。もし我々支部が、精鋭の招致に応じなかったらどうするおつもりか?」

RSー32支部のウルノチョフ支部長が挙手した。

「我が支部にはご存知の通りイクタ・トシツキ隊員がいます。彼はすでに多くの人工知能プログラムに基づき動くことのできる無人戦闘機や学習型固定砲台などを開発しています。不足する戦力は、それらで補う予定です。」

フクハラ支部長が淡々と説明した。

「そうか…。彼がいたか…。」

質問者はそう言いながら手を下げた。

「…では続けます。3ページにいきます。地上到着後になるのですが、放射能クリーナーを使用し、放射能を除去した空間を作り、そこに地上前線基地を設けます。」

「私からも質問、いいですかな?」

ヤン支部長が挙手した。

「もちろん。」

「そもそも、どのような手段で地上に出る気なのですかな?どれほど性能のいい戦闘機があったとしても、地上へ出るための通路はないですぞ。地上の放射能が、この地下世界に影響が出ないように天井はいじっておらんからな。」

「確かに。そこが一番の問題といっても過言ではないの。」

本部長も頷きながら加えた。

「それにつきましては4ページを。エレメントの力を借ります。」

「…どういうことかね?」

「…怪獣事件について、不可解な点があるとの報告書を別に提出していますが、そこに記載しているように、怪獣を操っている謎の勢力の存在はもう確実だと言ってもいい。では彼らはどこからこの地下世界に来たのか。エレメントについても同じことです。あれほどの巨人が、どのような手段でここに来たのか。恐らく、我々の想像を絶する空間移動能力を備えているものだと推測されます。その力を借りるのです。」

「…話にならんな。肝心な移動手段が恐らく、推測、か。それに報告書も目を通したが信用できん。怪獣が弾丸から飛び出す?それを操る謎の存在がある?ハハッ、フクハラ支部長、最近疲れているのではないかな?」

エリオットがフクハラを小馬鹿にするように言った。それにつられ、他の支部長たちも苦笑を始める。

「じ、事実です!現に我々支部はその怪獣兵器により、新たに4名の非戦闘員の犠牲者を出している!」

「いいかねフクハラ支部長。この地球で、最も進んだ科学力を持っているのはどの組織だ?最も多くの知恵を持っているのはどの組織だ?最も強力な軍事力を持つのはどの組織だ?…我々IRISだ。そのIRISすら研究段階で挫折した怪獣兵器を持つ謎の存在などがあるわけなかろう。それに加えて空間移動能力だ?笑わせないでくれたまえ。漫画かSF小説の読みすぎだな。無駄な時間を過ごしてしまった。では次は私から話をさせてもらおう。我が支部の来年度予算案についてだがー」

エリオットは立ち上がると、スクリーンに映し出されている画像を切り替え、フクハラを押しのけてプレゼンを始めた。

 

「どうでした?」

キヨミズ情報局長が、会議室から出て来た支部長に訊ねる。

「ダメだったよ。本部長こそ興味を示してくれたが、エリオットがな…。」

支部長は大きくため息をついた。

「彼は昔からそういうタイプですし…。」

「まぁだが私の資料にも問題はある。確かに肝心の移動手段がアレでは、納得してもらえないのも仕方あるまいな。もっと全世界の市民に我々支部の…そしてエレメントの能力を知らしめることができれば…。」

「それに関しては、我々情報局の腕の見せ所ですな。お任せ下さい!」

情報局長は胸をドンっと叩いた。

 

 

「と、いうわけなんだ…協力してくれないか!?イクタ!?」

「あんたね…。自分で任せろと言っておきながら…。」

イクタは呆れたように頭を掻いた。会議から2時間後、支部に戻って来た局長は、こうしてイクタの元へとすがっていたのだった。

「しかし驚いたな。他の地区のIRISは怪獣兵器の存在すら知らなかったのか。そんなガバガバな情報網で大丈夫なの?」

「よ、余計な心配をするな。我々でさえ、そのような事実を受け入れるまで時間がかかったんだぞ。見たこともない彼らが信じないのも無理はないわい。」

「それもそうか。…ていうか、今日が世界会議ってなんで教えてくれなかったのさ?」

「そりゃ、教えてたら付いて来ただろう?お前みたいな無礼な奴を本部長の前に出せるはずがなかろう。それに、また余計なことを喋られても困るしな。」

「いいじゃん。本部長も俺のキャラ知ってるんだし。……まぁいいけど。悪いけど暇じゃないんだ。あんたもうちの情報局長なんだし、自分でどうにかしたら?」

イクタはそう言うと、カバンを手に取り、部屋を出て行こうとする。

「ま、待て。無論我々も何も考えていないわけではないんだ!協力というのも、お前だけに頼んでいるわけではない!」

「…どういうこと?」

「お前たちトキエダ隊は我が支部…いや、IRIS屈指の戦力を誇る小隊だと言っても過言ではない、自慢のチームだ。そこで、だ。トキエダ隊で我が支部のテレビ番組を作るんだよ。」

「テレビ番組?」

「そうだ。主役はトキエダ隊だ。だからその番組への出演、という協力を求めているんだ。」

「……テレビか…。なるほど、悪くない。」

イクタはカバンを置くと、自らの右のこめかみを優しく弾いた。この時代の人間は、生まれた時から脳内に電子チップを埋め込まれている。そのチップの機能は様々で、電子マネーにもパスポートにもなるし、戸籍などの個人情報も全てここに登録してある。もちろん、通信機としての役割も果たしており、脳内に通信したい人間の顔を思い浮かべるだけで、チップが脳の信号をキャッチし、望む相手と通話することができるのだ。

「もしもし?エンドウか?ちょっと用ができた。この後の実験は任せる。それじゃ。」

「ちょ、ちょっとチーフ!?」

イクタはエンドウとの通信を短く、一方的に終えた。

「いいよ。出演してみよう。そのテレビ番組とやらに。」

 

 

IRISTKー18支部の情報局内にある撮影スタジオに、トキエダ隊は集っていた。

「よう、トキエダさん。」

イクタは、トキエダの顔を確認すると挨拶をした。

「ようイクタ。聞いたぜ、放射能クリーナー、完成したんだってな。」

「まぁね。」

「おいイクタ!」

そこにイケコマも到着した。

「お前先日の訓練をサボったな!?いくら優秀だからって、日々の鍛錬を怠るとは何事か!!」

「はいはいごめんて。イケコマさんもうるさいなぁ。どこかの不良青年みたいだぜ?」

「ふん。奴が死んだ以上、貴様を見張る仕事は俺に回って来たんだからな。俺はリュウザキみたく甘くはないぞ。」

「あ、もうみんな集まってるのか。お疲れ様でーす。」

そのほかの隊員たちも到着した。簡単に紹介すると、二号機のヤヅがイクタと同年齢。三号機のクワハラ、アオヤギが20歳で、四号機のワタナベ、サイトウが21歳だ。遅れて、キヨミズ情報局長もやって来た。

「いやぁ、忙しいところすまないね。」

「局長、具体的にはどのような番組を撮るんですか?」

トキエダが質問をする。

「そうだな。君たちの優秀さっぷりを全世界に示すのが目的だからな。次の任務に密着取材として、この番組スタッフを同行させてもらおう。」

「番組スタッフ?」

よく見ると、局長の後ろには見慣れないカメラマンやリポーターらしき人物たちがいた。

「紹介しよう。TK地区の人気No. 1テレビ局、TKTの専属カメラマンのゴトウさん、シマウチさん、音声のミヤザキさんと、リポーターのノザキさんだ。」

「よろしくお願いします。」

紹介されたスタッフ陣が、頭を深く下げた。

「あ、こちらこそ。」

トキエダ隊の面々も頭を下げる。

「ですが局長。テレビ局の方とはいえ、一般人を任務に同行させるのは非常に危険です。もしまた怪獣が現れたりしたら…。」

クワハラ隊員の言うことは最もだった。

「何を言っておるのかね。むしろ怪獣が出て来たら万々歳ではないか。君たちが怪獣を撃破するシーンを映像で伝えることができれば、世界の信頼を得ることができるかもしれないだろう。」

局長はそう答えた。

「でも局長、もしこの人達に何かあっても、俺たち責任取れないよ?」

イクタもスタッフの同行には反対気味だった。

「そこは、お前たちの心配するところではない。」

「どういうこと?」

「我々取材班も、命の危険があることは重々承知しております。その上で、同行を希望したのです。我々の身に何かあった際にも、契約書にサインしている以上、あなた方が責任を負われることはありません。それに、汚い話ですが、私たちの局としても、この番組は世界に放送されるということなので好都合なのです。」

ノザキが補足した。

「なるほど。シチョーリツってやつか…。」

イケコマ隊員が、わかっているのかいないのか、ふむふむと頷いた。

「要するに、次の任務での行動が、直接映像として世界に放送されるということですね?」

トキエダが整理した。

「そうだ。だから気を引き締めて行動してくれよ。」

「了解!」

隊員たちは一斉に敬礼をした。

 

 

 ラザホーは一人、旧日本国エリアのKS地区一帯を歩いていた。KS地区は人口も少なく、人工森林がその面積の大半を占めているので、身を隠すにはもってこいの場所であった。

「エレメント…侮れぬ…。」

ラザホーの脳裏に、先日の戦闘の風景が蘇り再生された。

「だが、それもまた燃えるぜ。…次はこの手で命を絶つ…。」

ラザホーはニヤリと笑うと、ローブの内ポケットから、二発目の特殊弾丸を取り出した。

 

「KS地区のパトロール、ですか?」

トキエダは思わず聞き返した。

「そうだ。それが今回の君たちの任務だ。」

支部長はそう答えた。

「しかし、あの地区は今まで怪獣が迷い込んだこともありません。確かに以前、犯罪者の集団があの森に身を隠した際は手を焼きましたが、その件も解決済みのはず。申し上げにくいのですが、今更パトロールなど…。」

「仕方ないだろう。取材班が同行しているのだ。危険な現場に行かせるわけにはいかない。相手が犯罪者だろうと、テロリストだろうと、怪獣だろうと、戦闘が発生すれば、彼らの身に危険が及ぶ。それは好ましくない状況だ。本部にとっても、我が支部にとってもな。地上遠征のためには、少しでも信頼が揺らぐようなことがあってはならんのだよ。」

「で、ですが…。この取材の目的は、我々隊の力を世に示すためのものであるはず。成功すれば、遠征はグッと現実味を帯びるはずです。」

「成功すれば確かにな。まして怪獣をエレメントと共に撃退するなどという事にでもなれば、これ以上ない宣伝効果があるだろう。だが危険なのだ。この間の放射能クリーナー実験の際にも、怪獣によって非戦闘員に死者が出た。君らの腕を疑うというわけではないのだ。わかってくれ。」

「……了解。各員に任務を伝え、遂行します。」

トキエダは止むを得ず任務を受諾すると、支部長室を後にした。

 

 

 トキエダはIRISバード格納庫に向かい、そこで見た光景に驚いた。

「こちらが、三号機のクワハラ隊員です!」

ノザキが紹介すると、カメラがクワハラ隊員に向く。

「どうも!クワハラです!」

「クワハラ隊員は、なぜIRISに入隊を?」

「そうですね。皆さんの自由と平和を守るための力になりたかったからです!」

などと、質問に次々に答えている。

「…何をやっているんだ?」

トキエダは、近くに立っていたイクタに訊ねた。

「番組に使うんだって。隊員の紹介映像だと。」

イクタは缶コーヒーをすすりながら答えた。

「あ、あちらにいらっしゃるのは、隊長のトキエダさんですね!?」

取材班一行が、ドッとトキエダの周囲を囲んだ。

「え、いや、あの〜…」

「今回の任務への意気込みなどを教えてください!」

「え〜〜っとそうですね…。」

慣れないテレビカメラの前にしどろもどろするトキエダの横っ腹を、イクタが突っついた。

「顔硬いぜ?隊長。これ、世界に放送されるんだよ?」

「そ、そうだな。コホン。えー今回は、こうして、普段皆さんが目にすることのない我々の任務の実態というものを、こうして放送させて頂くという次第で…その……皆さんをお守りする立場として不足はないのだということを、示すことができるといいなと思って、頑張ります!」

「ありがとうございました〜!」

取材班はトキエダの周囲から離れると、戦闘機の撮影に入った。

「ふぅ……思ってたより緊張するな。」

「堅すぎるよトキエダさんは。クワハラさんみたく、ちゃらんぽらんと受け答えればいいのに。」

「誰がちゃらんぽらんだって?」

と、クワハラ隊員がイクタの頭をど突いた。

「いてっ…。冗談だよ…。」

それを見て、トキエダは笑い始めた。それにつられて、隊員たちが笑顔になっていく。

「…ところで、今回の任務を通達するぞ。任務は旧日本KS地区の上空、地上のパトロール。以上だ。」

「それだけ?」

イクタが聞き返した。

「そうだ。取材班に何かあってはいけないということで、上がそう決めた。」

「なんだそりゃ。そんなこと知ったら、あの人たち幻滅して帰っちゃうぜ?」

「まぁ気持ちはわかるが、決められたことは仕方ない。どんなに簡単そうな任務でも、油断すると必ずミスをする。我々IRISは、ただのパトロールにも常に全力で当たっている。それを示すだけでも、充分効果はあると思うぜ。それくらいの心持ちで行こう。」

「それもそうですね。」

イケコマがそう答えた。

「まぁ、トキエダさんならそう言うと思ったよ。」

イクタもそう答えた。

「では出動する。全員、アイリスバードへ乗り込め!」

「了解!」

隊員たちが、自らの愛機に乗り込んでいく。

「おっと!どうやら出動のようです!我々も、IRISにお借りしている専用機に乗って、彼らの任務を追います!」

取材班も、IRISのパイロットが搭乗している取材専用機に乗り込んでいく。

「IRIS出動!」

4機の戦闘機と、1機の報道機が、TKー18支部を飛び立った。

 

 

 TKー18支部のサイエンスチームは、とある実験が最終段階に入っていた。

「これから最終実験よ。全員位置について。」

エンドウの指示で、全員が所定の位置についていく。

「VRコンピュータ、起動。プログラムを展開してください。」

スタッフが指示通りに行動すると、実験室の巨大モニター上にCGの怪獣が現れた。そして、非番の戦闘員たちが、VRゴーグルを装着していく。

「あのモニターに映っている映像は、これから行われるバーチャル訓練の中継映像よ。隊員達がゴーグルのスイッチを入れると、仮想空間の中に彼らの意思が転送されるわ。これから隊員達には、仮想空間の中で怪獣と模擬戦をしてもらうのよ。」

「仮想空間のモニタリングということですか。これが問題なく進み、実用化されれば我が支部の戦力はさらに増強されること間違いなしですね。」

「そうね。VRの空間だからやられても死なない。いずれは戦闘機もVRの世界に導入されるわ。そうなれば、訓練なども燃料や機体を使わずに実行することができる。これは大きなプラスになる。絶対に成功させるわよ。」

実験が始まった。隊員達は、ゴーグルを被ったまま銃の模型を振り回している。一見謎の光景だが、モニターにはしっかりと、怪獣に果敢に立ち向かい、戦闘を行なっている隊員達の姿があった。

「なかなか良さそうじゃない。」

「これでも、喰らえ!」

数分間に及ぶ戦闘の末、トドメの巨大ロケットランチャーが炸裂し、怪獣は爆死した。

「やったー!成功よ!」

「これも元のプログラムを開発したのはイクタチーフですか…。凄いの一言に尽きますね…。」

「でもこの技術を応用化していくのは私たちよ。IRISの飛躍のために、地上へ出るために、今後も気は抜けないわ。」

「そうですね。」

こうして実験は幕を閉じた。

 

 

 森林の中で、ラザホーはある気配を感じ取っていた。

「…航空機のエンジン音だ…。まさか、ここがバレたのか…?まぁ、なんでもいいや。そっちから来てくれるなら好都合だぜ。この対エレメント用に改造した、装甲獣シルドラゴの出番だぜ!」

ラザホーはそう叫ぶと、グレネードから弾丸を発射した。弾丸は上空へ向かって一直線に飛んでいくと、高度200メートルの辺りで発光。まばゆい光の中から、高さこそ30メートルそこそこだが、その胴体の全長は約40メートルで、顔の周囲に丸く大きなエリマキのようなものを装備した、四足歩行の怪獣が姿を現した。そのまま落下し、大きな土煙を撒き散らしながら着陸した。

『ピィィィィィィ!!』

その鳴き声を、いや、怪獣の姿を、パトロール中だったアイリスバードは既に捉えていた。

「た、隊長!500メートル先に突如怪獣出現!5秒後には頭上を通過します!」

高速飛行中の編隊のうち、四号機からサイトウが叫んだ。

「このタイミングで出てきたのだから、おそらく奴らの怪獣兵器かと思われます!」

三号機からクワハラも、そう付け加えた。

「わかっている!くそっ!なんということだ…。総員、戦闘開始!フォーメーションAだ!」

編隊はサーっと展開し、怪獣の頭上を通過した。先頭の一号機から順に、旋回していく。

「ご、ご覧くださいみなさま!なんの前触れもなく、突如として怪獣が出現しました!これには私たちも、IRISのみなさまもビックリしております!どのように対処するのでしょうか!?」

ノザキが、機体の窓から顔を出し、マイクに向かって叫んだ。

「ちょっとまって隊長。取材班がいるんだ。Aの展開じゃ危険だ。」

イクタが、隊長の指示に待ったをかけた。

「そうか…!イクタ!お前ならこの状況、どのような指示を出す!?」

「…流石の天才の俺でも、現場での指揮力は隊長には及ばないよ?」

「かまわん。参考程度に教えてくれ。」

「そうだな…。じゃあ代わりに指示出すよ。…我々一号機は取材班の護衛につく!二号機以降はフォーメーションBだ!怪獣の気を引きつけてくれ!ああいうタイプの怪獣は、大抵エリマキっぽいアレの後ろが弱点だと思うから、隙をついて狙え!」

「二号機了解!」

「三号機了解!」

「四号機了解!」

各機が展開していく。

「いい指示だ。隊長の素質があるな。」

「冗談を。御免だぜ。」

二号機、三号機、四号機が、レーザー機銃でシルドラゴを牽制していく。シルドラゴも、口から熱線を連射し反撃をするが、機体には当たらない。

「へへっ。そんな攻撃が…!」

「俺たちトキエダ隊に通用するとでも思っているのか!?」

華麗に怪獣の攻撃を回避し、確実にダメージを与えていくアイリスバード達。音速で行われる空中戦に、カメラが追いつかない。

「み、見事です!見事な連携プレー!あれだけの高速飛行をもろともせず、次々に怪獣に攻め込んでいます!これが、IRISなのです!」

その時、三号機が避けた熱線が、取材班の報道機に向かい飛んできた。

「あ、危ない!流れ弾です!」

報道機内の人々に冷や汗が流れたその瞬間、一号機が間合いに入りシールドを展開。攻撃を退けた。

「新装備の磁力シールドだ。やっぱ俺の発明が世界を救うんだな!」

得意げな顔をするイクタ。

「ア、アイリスバードが助けてくれました!」

ほっと胸をなでおろしたノザキ。

「だが、このままでは、奴を殺せるほどの大したダメージが通らない。全機ミサイルの使用を許可する。特に首を狙え!」

トキエダが指示を出した。

「了解!」

ミサイルが一斉に発射される。

『ピィィィィィィ!』

しかしミサイルは、シルドラゴがエリマキから展開したシールドに阻まれてしまった。

「…おいおいおい。ありゃレジオンクラスを吹っ飛ばすために、この間開発した新型ミサイルなんだぞ?なんて硬さだよ。」

イクタが嘆いた。

「防御力だけなら、レジオン以上ってことか。」

「それだけじゃない。この間現れたあの全身鋼鉄のグリームすら凌いでるぞ…。」

「…そいつは厄介だな。どうする?」

「どうするか決めるのは、隊長のお仕事だぜ。」

「それもそうだ。全機に通達!あのシールドは、連続では展開できないはずだ。機銃で牽制しながら、ミサイルを少しずつ放ってわざと展開させろ。シールドが消えた瞬間に畳み掛けるぞ!」

「了解!」

アイリスバード達は再び大きく旋回し、機銃で微量ながら少しずつ攻撃していく。

「ほう。頭の切れるリーダーがいるようだな。賢いやり方だ。」

地上から戦闘を見守っていたラザホーが唸った。

「だがエレメントキラーとして開発した怪獣なんだ。エレメント以下の人間風情で、どうにかなる相手ではないぜ。奴の戦闘スタイルは持久戦だ。シルドラゴが死ぬのが先か、戦闘機の燃料やミサイルが底を尽きるのが先か…。」

ラザホーは人差し指を咥え、ニヤリと笑った。

 戦闘はその後数十分にも渡り行われたが、均衡状態が一向に破れなかった。耐久力に自信があるのか、シルドラゴは少量のミサイル相手ではシールドを張らず、その身で受け止めてしまうのだ。これでは、トキエダの作戦が通用しない。

「隊長!このままでは、レーザーのエネルギーも、ミサイルも尽きます!」

「グゥ……。止むを得ない。全機着陸せよ!地上戦に入る!」

「でも、下から首を狙うのは難しくない?」

「仕方ない。戦闘機が兵器を失ったら、そりゃただの飛行機だ。」

アイリスバードは着陸せざるを得なかった。それに続いて、報道機も着陸。機内に格納してあった報道車両に乗り換えた。

「手強い怪獣です!あのIRISの猛攻をも、遂には防ぎきってしまいました!これから、地からの攻撃に移る模様です!」

隊員達は全員飛行機を降り、アイリスリボルバーを手に森の中へ駆け込んで行った。

「撃て!」

森の至る所から、レーザーが放たれる。

『ピィィィィィィィィ!』

しかし頭を振り回し、その大きなエリマキで、銃弾をまるでコバエのように弾き返すシルドラゴ。

「くそっ!どうすりゃいいんだ!」

イケコマは頭に血が上ったのか、側にあった樹木を思い切り蹴った。

「こうなったら…。」

イクタは隊員達の隙をつき、一人森の奥へと走って行った。誰もいないことを確認してから、左腕にエレメントミキサーを装着する。

「やはり、君が乗っていたのか。エレメント。」

不意に後ろから、聞き覚えのある声がした。銃を片手に、さっと振り返るイクタ。

「…黒ローブ…!」

「ラザホー、と呼んでくれ。それが俺の名だ。」

「じゃあ聞くぞラザホー。お前一体何者だ?どこから来た?何が目的だ?その怪獣兵器はどこで手に入れた?ていうか、なんで俺のことを知ってる?」

「…。ふむ。全て答える必要性を感じないな。まぁいい。ここで君を処分……と言いたいところではあるのだが、こいつは俺の自慢の怪獣なんだ。エレメントとの戦いを見るのも、また燃えるぜ。是非とも早く変身して、熱い戦いを見せてくれよ!」

「ったく、正体不明のやつは、どいつもこいつも肝心なところ答えてくれないな。イライラするぜ。ラザホーのおっちゃん。ここで俺を殺さなかったこと、一生後悔するぜ?」

「そういうセリフは、勝利してから発することをオススメするな。じゃないと、ただの恥さらしだ。」

ラザホーはニヤリと笑うと、イクタから距離をとって姿を消した。

「なんとでも言いやがれ。……ケミスト!エレメントーーー!!」

『シャアァァァ!!』

目映い閃光のような光の中から現れたのは、身長約55メートルの巨人、エレメントだった。

「エレメントだ!あいつがいれば、どうにかなるかもしれませんよ!」

クワハラが言った。

「よし!全員再びアイリスバードに乗り込め!残りの兵器を、全て援護に回すんだ!」

「了解!」

「で、出ました!!その正体は謎に包まれている人類の救世主!エレメントですっっ!!」

ノザキが、喉が裂けるのではないかという大声で叫んだ。

『シャア!』

『ピィィィィィィィィ!』

2体の巨大生物は、互いに睨み合いながら、ファイティングポーズをとっていた。

「こいつは恐ろしいほどの持久型だ。こっちが時間切れになる前に倒さなくちゃ、やばいぞ。」

『ふむ。そのようだな。では最初からフルパワーで行こう。…ところで、さっき言ってた肝心なところを教えてくれない正体不明のやつって?」

「自分の胸にでも聞いてくれ。」

イクタは、脳内でエレメントとの会話を短く終わらせると、大地を蹴った。

『シャアァ!』

大きくジャンプし、シルドラゴの背に跨った。

「よし!そこから首元を仕留めるんだ!」

サイトウが叫ぶ。エレメントは手首にエネルギーを溜め、スナップを効かせて発射した。エレメントスラッシュだ。首元に命中し、シルドラゴは悲鳴をあげた。

『ピィィィィィィィ!』

だがシルドラゴは、伊達にエレメントキラーではなかった。その背にエレメントを跨がせたままエリマキから磁力線を発射し、全身を覆うようにシールドを展開したのだ。

『グワワッ』

「た、隊長!あれはただのシールドじゃありません!アイリスバードに搭載されているものと同じです!磁力線を発して、障害物を焼き払うタイプのシールドなのです!!」

イケコマが嘆いた。

「なに!?」

『ッッッアァァァッ!』

エレメントは苦しみながらもどうにか脱出し、地べたに転がり込んでシルドラゴとの距離を置いた。すぐに起き上がると、両腕を天井へと大きく掲げて、胸の前で十字に組んだ。

『ケミストリウム光線!』

必殺の光線を発射したが、これもシールドに阻まれてしまう。

『シェア!?』

『ピィィィィィィィィ!』

怪獣は喜びの声を上げる。

「そ、そんな!エレメントの光線も通用しないのか!?」

イケコマは肩を落とした。

「いや違う!奴はその身で防ぎきれる自信がある攻撃にはシールドを張らない。わざわざシールドを使うということは、生身で喰らえば即死級ということに変わりはないんだ!…俺たちで、あいつを誘導する!今度こそ、エレメントの攻撃を喰らわすんだ!」

「了解!」

トキエダがチームを鼓舞した。アイリスバードが、怪獣の頭上を旋回していく。それを見たエレメントは、左腕を高く突き上げ、肘を曲げると、その腕を地面に差し込んだ。ズンッという鈍い音が響く。

『ケミスト!スチールエレメント!』

地中の鉄分を吸収し、重量のある鋼鉄戦士となったエレメントは、シルドラゴに正面から突っ込むと、その小さな頭にめがけて強烈な蹴りをお見舞いした。悶絶するシルドラゴを持ち上げ、空中へと放り投げる。

『ケミスト!ハイドロエレメント!』

今度は空気中の僅かな水素を取り込んだ。

『ハイドロボール!』

エレメントミキサーから水の球体が現れる。それをシルドラゴに向かって投げると、球はみるみる巨大化しながらシルドラゴに迫り、命中する頃には、すっかりシルドラゴの体を覆ってしまうほどの大きさになっていた。空中に浮かぶ水の球の中で溺れたようにもがくシルドラゴ。だが活動エネルギーに限界のあるエレメントは、胸のランプが赤色に点滅し始めるのと同時に、その場に崩れ込んでしまう。

『シャアァ……』

「はーはっはっはっは!いやぁ、流石に強いなエレメント!だがどうやらもう限界のようだな。俺たちの勝ちだ!はっはっはっはっはー!」

ラザホーの高笑いが、森中に響きわたる。

「まだだ!きっちりトドメ刺すまで帰さねーからな!エレメント!」

トキエダの乗る一号機を先頭に、アイリスバードが編隊を組み、水球に接近。一斉にありったけのミサイルを放った。水中に突入したミサイルを、シルドラゴは本能でシールドを展開し、防いだ。ミサイルの爆発と磁力シールドの熱で、水は全て一瞬のうちに蒸発してしまった。

「は……?」

ラザホーの笑いが止まった。

「今だ!エレメントーーー!!」

『シャアァァア!』

エレメントは力を維持できなかったのか、姿が元に戻っていたが、それでもアイリスバードに向かって頷くと、全身の力を振り絞って立ち上がった。再び腕を十字に組んで、必殺光線を放つ。

『シャァァァァァァ!!』

『ピィィィィィィィ!!』

次のシールドが間に合わず、直に光線を喰らったシルドラゴは、遂にその体を爆散させた。

「くそっ!だが覚えておけよエレメント!今回はお前の負けだ!俺は人間に負けたんだからな!」

ラザホーは悔しそうに叫ぶと、姿を消した。

 

 

 その一週間後、例の番組の放送日のことだった。IRIS首脳陣は再び本部に集まり、会議室のテレビでその放送を見ていた。

「……と、いうわけで、今回の密着取材でわかったのは、IRISの皆さんが、毎日命をかけて私たちの生活と平和を守っていること。そして、エレメントが私たちの愛すべき友である、ということでした。我がTKTは、これからのIRISとエレメントのご健闘をお祈り申し上げます。」

こうして、番組は締められた。しばらくの間、全員が押し黙っていた。

「……いかがでしたかな?」

フクハラ支部長が、静寂を裂いた。

「……怪獣兵器のことだとか、勢力のことだとか、笑ったことは悪かったと思っている。…まさか本当にそんなものがあるだなんて…。笑われるべきは私たちの方だ…。」

エリオット支部長が、ボソボソと呟いた。

「これで、地上遠征計画について、真剣に議論させていただけるでしょうか?」

フクハラは本部長の方に振り向き、そう言った。

「…そうだな。前向きに検討しよう。どうやら、実現される日はそう遠くなさそうだ。」

「…ありがとうございます!」

 

 

「しかしヒヤヒヤしたよ。まさかあんな場所に黒ローブが潜伏していたなんて。」

集会の後、帰りの航空機の中で、フクハラはキヨミズにそうこぼした。

「私もですよ。でもまぁ、結果的にいい番組が録れたからいいじゃないですか。流石はトキエダ隊、と言ったところですねぇ。」

「だが、彼らに続く主力部隊があと2つは欲しいところだ。どうやって戦力を底上げすればいいのか…。」

「そういえば、隊員の訓練に関して、サイエンスチームから何やら新しい発明の報告会があるようですよ?」

「またイクタか。あいつには、いつも驚かされる。そして、いつも助けられてるな。」

フクハラは苦笑した。

「全くその通りですよ。…できれば彼にも、私たちと同じくらいの年齢まで生きていて欲しい。彼のおかげで、世界は少しずつだが変わりつつあるんです。その先を見ることができないというのは、あまりに残酷です。」

「だが、それがあいつの運命なんだ。あいつも、それくらいわかっているはずだ。それでも、この閉ざされた地下世界を変えようと、救おうとしている。今は、あいつの力が存分に発揮できるように、サポートしてやることしかできんさ。」

「そうですね。」

航空機は、TKー地区の空港へと、着陸態勢に入った。

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