ウルトラマンエレメント   作:ネフタリウム光線

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 選抜された精鋭部隊が、遠征のための特殊訓練を受ける最中、IRISのとある一般職員が、見てはならない書類を見つけてしまう。その内容は、この世界の謎の一部に触れていたのであった。一方で、遂にラザホーは最後の「相棒」を投入するべく、訓練を終えたイクタ達の前に現れた。「天の覇獣」と呼ばれるその怪獣に、エレメントが挑むがー?


第7話「覇獣」

第7話「覇獣」〜天の覇獣イニシア登場〜

 

 現在は西暦で表すと2500年代。放射能で汚染され、遺伝異常から誕生した怪獣に支配された地上を放棄し、地下で暮らしている人類であったが、その一部が地下の治安維持のために結成した組織「IRIS」が精鋭部隊を選考し、地上へ遠征する計画が動き出した前回。見事選考試験に合格したイクタ等隊員たちは、本部長室に呼び出しをくらっていた。

「本部長直々に呼び出しだってよ…!」

「俺本部長に会うのは初めてだぜ!」

選ばれし者たちの中には、当然ながらこのようにテンションの上がっている者もいる。だが

「…ダルいし…なんで受かっちゃったかな…。まだ死にたくねぇよ…。」

と、指を噛みながら嘆くゴームズ隊員のような者もいる。

「死ぬこと前提に考えるなよ。」

ゴームズのつぶやきを聞いていたイクタが、彼にそう言った。

「いやいや、君みたいにずば抜けた天才は別かもしれんが、地上に行くんだぞ?そりゃ即ち死だろ。運よく生き残っても、地下に帰ってこれる保証もないんだぜ?」

その声が部屋に響き、はしゃいでいた隊員たちも押し黙ってしまった。

「それは……そうだけど…。」

「はぁ、ダルいダルい。」

ゴームズは溜息を吐きながら、イクタの前から立ち去った。

「イクタ、気にするな。あいつはいつもマイナス思考なんだよ。でもこの部隊に選ばれてる程の実力者ではあるんだ。」

ゴームズと同じ、本部所属のマックス隊員がそう言った。

「そもそも本部所属の隊員だし、実力は相当だとは思うけど…。あんな感じじゃ困るなぁ。」

イクタは頭をかいた。そんな時、本部長室の扉が開いた。

「諸君。待たせてすまない。」

入室してきたのは本部長であるジェイミー・ルイーズだ。

「まずは合格おめでとう。君たちが、我々人類の唯一の希望であり翼だ。」

ルイーズ本部長は、席に腰をかけると、葉巻を口にして続ける。

「君らの作戦が成功すれば、我々の地上奪還は現実味を帯びてくるが、失敗すれば絶滅を待つだけ、となることは重々承知だろう。」

隊員たちの顔に緊張が走る。

「では、その作戦の詳細を説明せねばならんな。資料を配ろう。」

ルイーズが、一人一人に紙の資料を配布して行く。

「作戦名は地上遠征作戦。決行日は1ヶ月後だ。」

「本部長!地上への移動手段として考えている、エレメントはどのように利用するのでしょうか?」

「うむ。イクタ隊員やTKー18支部の報告によれば、地下には怪獣を操る何者かが、最低でも一人は潜伏しているとされている。奴をおびき出し、怪獣を出現させることで、自然とエレメントも駆けつけるだろう。その際に、地上へ一気に空間移動する。」

「空間…移動…?」

やはり、皆半信半疑のようだ。

「にわかには信じられないだろうが、エレメントには空間移動の能力があるとされている。」

「されている…?確証はないのですか!?」

「……」

本部長は質問者から目を逸らし、下を向いた。イクタはエレメント自身から聞いた話から、空間移動のような能力があると推測しているのだが、やはり確証はないのだ。

「か、確証のない移動手段を用いるのですか!?下手すれば、地上に行くことすらできずにこの作戦は終わりますよ!?」

「…まぁ落ち着けよ。たとえエレメントが利用できなかったとしても、空間と空間を繋いで、ワープする技術は今うちで開発中だ。遅かれ早かれ、地上には行けるさ。本部長、地上到達後の作戦の説明をしてよ。」

イクタは咄嗟に脱線していた話を戻した。

「あ、あぁ。地上到達後、諸君には怪獣の少ない、安全地帯を探してもらう。その地帯で放射能クリーナーを稼働させ、防護服なしでも動ける環境を作る。その後その場所を拠点に、周囲一帯の怪獣を倒し、放射能浄化空間を広げて行く。その面積が一定に達したら、作戦終了だ。その後、同じ要領で科学者や職人を地上に送り込み、IRIS地上支部を建設する。なお、作戦中は地上にある色々なものをサンプルとして採取してほしい。植物でも、生物でも無生物でも構わん。以上だ。」

「了解。」

「そして君たちはこれから三週間、作戦遂行のための特別訓練を受けてもらう。期間中は本部内の寮に宿泊してもらおう。既に各支部長へは連絡済みだ。訓練は早速、明日から行うことにする。今日は解散だ。」

「了解!」

部屋を出ながら、イクタは考えていた。遅かれ早かれ地上には行ける。これは確かだろう。だが、もしエレメントを利用できなかった場合、その「遅かれ」とはいつになるのだろうか。

 

 

 IRISのTKー18支部では、サイエンスチームが、2班に分かれて新たな研究を行っていた。

「エンドウさん!また失敗です!」

エラー、と表示されたコンピューターの画面を見て、嘆くスタッフ。

「うーん、理論上は可能なはずなんだけど…。」

「エンドウさん!こっちもダメです!」

別の班からも、成功の報告はなかった。

「理論上は可能なのかもしれませんし、現にその技術は軍事的に運用されてはいますが…。やはり我々の科学力では不可能なのでは…。空間移動装置と怪獣兵器なんて…。」

「何バカなこと言ってんのよ!正体不明の敵の科学力が、世界最高峰の技術の塊であるこのIRISに勝ると言いたいの!?」

「し、しかしそういうことになってますよ…。」

スタッフたちは黙り込んでしまう。

「……いい?現在、地下世界は放射能の侵攻を遅延させるために、完全に地上世界との繋がりを絶っているわ。人間よりもはるかに能力の高い怪獣たちが迷い込むのは仕方がないとして、黒ローブのように、地下の者ではない何者かが現れているというのは、彼らが空間移動ができるから、なのよ。裏を返せば、私たちも地上に出るためにはその能力が必要なの。エレメントにそれができなかった場合、精鋭部隊を援護できるのは私達だけなの。弱音吐いてる暇があったら、作業を再開して。」

スタッフたちは、渋々持ち場に戻って行った。

「エンドウさん。少しお話が。」

その中で、部下の一人がエンドウにそう言った。

「…何かしら?」

「その空間移動なのですが、科学技術ではない可能性が浮上しました。」

「……どういうこと?」

「詳しくはあちらで…。」

エンドウとその部下は、研究室を出て誰もいない別の部屋へと移った。大きな長いテーブルに、向かい合って座る二人。

「それで、科学技術ではないのなら、何だって言うのよ。」

「はい。これはこの間、例のレジオン事件の研究室復旧作業中に出てきた資料なんですけど。」

と、エンドウにプリントの束を渡す。

「…ってこれ、支部長管轄の資料じゃないの!どこから持ってきたのよ!」

「恐らく混乱でこの支部内でも資料が散乱して、出てきたのではないでしょうか。まぁ内容が内容なので…。せめてエンドウさんには伝えておかないと、と思いまして。」

「全く…」

と言いつつも、エンドウは資料に目を通し始めた。

「これって…!…ねぇあなた、あなたこれ全部読んだのよね?」

「は、はい。」

「今すぐ内容を忘れなさい。さもなくば、あなたもうIRISにはいられなくなるわ。」

「え?そ、それってどういう…」

「これはIRISの最重要機密事項に直接的にではないにしろ、間接的に触れる恐れがあるわ。すぐに処分しなさい!」

エンドウは少し動揺していた。プリントの束を突き返して立ち上がると、部屋を出て行こうとする。

「待ってください!エンドウさんは知っていたのですか!?イクタチーフがリディオ・アクティブ・ヒューマンだってことを!」

「………」

「そしてその人種の…地球の歴史と真実…ウルトラマンのこともですか!?」

「……っ!忘れなさいって言ってるでしょ!」

エンドウは振り向きながら白衣のポケットにしまっていたレーザー銃を抜き、トリガーを引いた。光線が、部下の顔のすぐ横を通過し、着弾点となった壁を焦がした。

「…次何か言ったら、内容をあなたの存在ごと消すわよ。」

エンドウは部屋を去って行った。

「……忘れるものか…。この資料が示すものが真実だとしたら…。俺たちは何のために…誰のために毎日命をかけてるって言うんだ…!馬鹿馬鹿しい!」

部下は資料を床に叩きつけ、所持していたタブレット端末で重要な内容を写真に収めると、火をつけて焼却処分をした。

「…これはこの組織が隠蔽している事項のほんの一部に過ぎないはずだ…。俺がこの地下の…地球の真実を突き止めてやるぞ…。」

 

 

 エンドウは、研究室に戻る途中で、支部長に電話を繋げた。

「フクハラ支部長ですか?エンドウです。マズいことになりました。」

「フクハラだ。どうしたのかね?」

「部下の一人が、機密資料を手に入れてしまいました。地球の歴史やリディオ・アクティブ・ヒューマン、そしてウルトラマンの秘密も握ってしまったようです。」

「…そうか。」

エンドウは、フクハラが受話器の向こうで大きなため息を吐いたのを感じ取った。

「いかがいたしましょう。やはり殺しますか?」

「結論を急ぐな。一般職員が知っていたとして、別段なんということはなかろう。」

「ですが、メディアにその話を持っていかれると厄介です。」

「その点も心配いらない。メディア関係者だって、義務教育で習ったものは我々と同じ。つまりあの資料に記載されているものは常識的にありえないと判断されるだろう。ただのトンデモ説だ。万が一があったとしても、我々が圧力をかける。君も、この件は忘れたまえ。」

「……わかりました。失礼します。」

エンドウは電話を切った。

 

 

 静寂の中でふと目を覚ましたローレンは、目にかかった長い銀色の髪を手ではらい、上体を起こした。

「ダーム、ダーム!」

「おぉ、お目覚めですかローレン殿。ただいま参ります!」

遠くで、ローレンの呼びかけに反応する老人の声が聞こえた。少しして、ダームが走り寄ってきた。

「少し髪が伸びた。切ってくれ。」

「かしこまりました。」

ダームはローレンの散髪を始めた。

「…楽しい夢を見たよ。まぁ、夢といっても近未来の出来事なのだが。」

「予知夢というやつですな。ローレン殿は毎日見ておられる。本日の内容は?」

「地下の愚かな人間どもが地上に昇り、怪獣達に蹂躙されるという内容だ。」

「…それではいつもとお変わりないようですが?」

パツン、パツンというハサミの音が、静かな間に響く。

「そうだな。だが面白いのはここからだ。エレメントが、地下人類の敵になる。どのようにしてそうなるのかは、まだ見えないが。敵になることは間違いのない。」

「やはりあの少年とエレメントの未来は、詳しく見ることはできませんか。」

「そうみたいだな。まぁ、当然と言えば当然だ…が、奴らの戦い方を見ても、あの男の…イクタのアビリティを特定することができない。」

「そう言えば、キュリ殿の空間移動やエレメントの元素操作のように、派手な技は見かけませんな。」

ダームは腕を組んだ。

「…俺の仮説では、奴の能力は俺らとは別種の…仮にBタイプと置くとすると、そちらに当てはまる可能性が極めて高い。」

ローレンも腕を組みながらそう言った。

「Bタイプ…ですか。それはどういう…?」

「直接的に戦闘に生かされない、どちらかというと後方支援型の能力だ。だがそのタイプのアビリティはコンピュータなどで互換が効くことから、ドクターリディオは開発と研究を中断しているはずだ。……未来は見えても過去は見えない。俺にはわからん。」

ローレンは嘆いた。

「それより、ラザホーはどうした?」

「先ほど連絡が入りました。場合によっては、人類は地上に上がることすらできなくなるでしょう。」

「…イニシアを使うんだな。そいつは見ものだ。まぁ結果を確かめることなど容易だが、それでは面白くない。見届けてやろう。」

「まぁ、流石のエレメントもイニシアには敵いますまい。人類殲滅よりも優先すべきはエレメントの殺害。あっさりと復讐も終わってしまうかもしれませんな。」

「未来なんてささえなことですぐに変化する。今夜見る夢の中には、既にエレメントは登場しないかもしれんな。」

ダームとローレンは不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「うおおおおおおお!?」

そう声をあげたのはイクタ・トシツキだ。

「これが地上での急発進時にお前らにかかる負荷だ!地上は地下以上の大気の圧ってもんがあるからな。」

地上戦における仮想訓練を指揮するのは、イクタの上司トキエダだ。

「なるほどね。思ってたより重かったから驚いただけだよ。こんなもん、なんでもない!」

「うむ。頼もしい限りだ。」

そう言いながらやってきたのは、本部長だ。

「この特別訓練も、本日が最終日となった。この三週間、諸君らのその能力に驚かされてばかりいたよ。これなら、この作戦もきっと成功するだろう。」

「ありがとうございます!」

隊員達が一斉に並び、敬礼する。

「そして諸君らには明日、出発会見を開いてもらう。理解しているとは思うが、今回の遠征費用には、一般企業や個人からも多くの寄付を頂いている。それだけ、期待してくれている方々も多いというわけだ。そんな皆様に対し、君たちの決意を表明してもらう。いいかね?」

「…はい!」

そこに、本部のスタッフが駆け寄ってきた。

「本部長!遠征用の航空機隊の準備が完了しました!隊員の皆様も、どうぞこちらへ。」

本部のスタッフが、本部長と隊員達を格納庫へと誘導する。

「こちらが、本作戦用に改造されたアイリスバードマーク2です。新たに四機のターボエンジンを追加。さらに、標準装備としてTKー18支部の開発した新型ミサイルを搭載しています。地上の空中戦での衝撃を和らげるために、限界まで流線型にしてあります。最新コンピュータによる自動操縦モードにも移行可能です。こちらを、20機用意してあります。」

「おぉぉ……」

隊員達が感嘆の声を上げる。

「ちなみに、これマックスでどのくらいの速度が出るの?」

イクタが質問をする。

「そうですね。地下だとマッハ6は出せます。地上でも、大きな差はないでしょう。」

「いいねぇ…。」

「さらに各機には標準装備として、特殊弾頭ミサイルの発射装置もあります。その特殊弾頭というのは、TKー18支部が開発した超コンパクト放射能除去装置…。簡単にいうならば、放射能を除去できるミサイル、ということになります。とはいえ、これでは局地的な除去しかできないので、従来の除去装置も旗機に搭載しています。あとは、簡単な作業用具をバラして搭載していますね。」

「うむ。完璧だ。問題は、地上に行けるかどうか…いや、その前にどうやってエレメントを呼び出すか、だな…。」

本部長が唸ったその時だった。

「本部長!監視カメラに不審人物が!今映像を送ります!」

と、本部長の持っていたトランシーバーに声が入った。瞬く間に、彼らの頭上に電子モニターが現れ、映像が映し出された。

「……黒ローブ…ラザホーか!?いや、もう一人いるぞ!?」

映っていたのはラザホーだった。そしてもう一人の謎の黒ローブと共にフードを深く被り、まっすぐに歩みを進めている。

「管制塔!これはどこのカメラの映像だ!?」

「あなたがそれを知る必要はないね。」

「!?」

本部長と隊員達は、一斉に声のした方向に振り向いた。なんと今の今までモニターに映っていた二人が、そこにいたのだ。

「ほ、本部長!不審人物、突如姿を消しました!」

「あぁそのようだな。こっちにいるよ!くそっ!どこから入った!?」

「さぁ?…ラザホー。この中にエレメントがいるんでしょ?早く遂行しないと厄介だぜ?」

もう一人の黒ローブ、キュリはラザホーにそう言った。

「そうだな。」

ラザホーがローブの内ポケットから銃を取り出そうとした瞬間だった。隊員達が一斉に銃を抜き、二人を取り囲んだ。

「動くな!」

隊員の一人が声を荒上げる。

「イクタ!こいつらどうする!?」

トキエダが問いかける。

「本当は生け捕って研究したいところだけど…。戦闘機潰されたら終わりだ。殺していいんじゃない?ね?本部長。」

「うむ。やむを得ん。」

「なら本部長は早く逃げな。……にしても、こいつらなぜここにピンポイントに移動できたんだ…?本部の敷地はバカみたいに広いってのに…。…まさか!?」

「そのまさか、かもね?」

キュリは既にイクタの背後にいた。

「…っ!」

イクタはとっさに左足で、キュリを蹴り上げる。蹴り飛ばされ宙を舞うキュリだったが、空中で態勢を整え、すっと着地した。

「おいおい、か弱い乙女に蹴り入れるって、どういうことだよ?」

「お前が本当にか弱い乙女だったら、蹴りは入れねぇよ。みんな、撃て!」

イクタの指示で、隊員達は一斉にレーザー銃を撃ち始める。

「想像以上に熱烈な歓迎だな!感謝するぜ!でも、俺らにそれは当たらないな!」

ラザホーとキュリは瞬間移動を繰り返し、光線がかする気配すらない。

「何偉そうにしてんだよ。あたしのおかげだろうが。」

そんな二人の動きを食い入るように見つめるイクタを気にかけ、トキエダが話しかける。

「どうした?」

「……いや、分析できたぜ。あいつらのカラクリが。とにかくあの瞬間移動女と男を引き離すんだ!」

「わかった。総員!男の方を狙え!」

「了解!」

全ての光線が、ラザホーに向けられる。

「おぉっと!?キュリ!早く助けろ!」

「ったくしゃーねーな…あのバカが。」

悪態をつき、ヘルプに行こうとしたキュリを、イクタが止めた。

「おっと。簡単に行けると思ってた?」

銃を片手に、キュリをけん制するイクタ。

「どうした?あのおっさんを助けたいならこっから空間移動すればいいじゃん。もっとも、あいつの付近にワープした瞬間、身体中に穴が空くと思うが。」

「……てめぇ…あたしのアビリティを見破ったのか!?この数分間で!」

「やっぱりな。あんた本人は移動し放題だが、仲間を共にするときは、その仲間とは一定の距離を保たなくちゃいけないわけだ。ざっと、10メートル前後ってところかな。さらに、あんたの移動にも多少の制限がある。距離、そして目的地。怪獣兵器を操るラザホーを地下に送り込んでいたのもあんただろ?それはエレメントを倒すために、あえて俺らの近くに現れ続けてたかもしれない。だが逆に、エレメントのような巨大なエネルギーがある場所しか、正確に目的地を設定することができない。違うか?」

「…まぁ半分はあってるよ…。半分間違ってるけどな。まぁ、如何せんどうやらあんたを甘く見過ぎてたようだ。今のあたしじゃ敵いそうにもないや。ここは退くか。」

キュリは、姿を消した。

「お、おいキュリ!俺を見殺しにする気かぁ〜!?」

銃弾の雨をかいくぐりながら、嘆くラザホー。

「…ま、いいんだけどな。」

その瞬間、全てのレーザー光線が弾かれた。突然のことに驚く隊員達。

「…今いったい何が…。」

「いい準備運動になったぜ。ありがとな!……じゃあ、こっからは本気出すぜ。」

ラザホーは、ポケットから怪獣兵器を取り出した。

「こいつは俺のとっておきの相棒だ。褒めてやるぜ、勇敢なる兵士諸君にエレメント!レジオンで終わらせるつもりが、まさかこいつまで動員するとは、完全に計算違いもいいところだ。…とまぁ前置きはこの辺にしておこう。いでよ地球の空を制する大怪獣、天の覇獣イニシアァァァァ!」まばゆい光から現れた怪獣は、格納庫の天井を破壊し、宙へと飛んだ。翼竜のような姿をした怪獣イニシアは、雄叫びをあげながら、格納庫の上空を旋回し始めた。

「言い忘れたが、こいつは凶暴すぎて俺でも完全にコントロールできない。まぁ、頑張ってくれ。」

 

 

「こ、これが音に聞く怪獣兵器って奴なのか…?」

初めての光景に動転している隊員達。

「くそっ!総員!戦闘用意!マーク2に乗り込め!」

トキエダの指示で、全員が戦闘機に乗り込み、発進した。

「本部上空での戦闘は危険だ!奴を敷地外に誘導するぞ!」

「了解!」

「キャサリン!エドガーさん!怪獣の前方を最高速度で飛んでくれ!」

1号機から、イクタが指示を出す。

「キャサリンオッケー!」

「エドガー了解!」

2人の機体が、イニシアの顔の前方にポジショニングし、最高速度に達した。イニシアは釣られて、2機の後ろにピッタリと付いてきている。

「最新鋭戦闘機の力、見せてやるぜ!今に叩き落としてやる!」

意気込むエドガー。

『シャリガァァァァァァ!!』

大声で鳴きながら、二機を追いかけるイニシア。

「ちょ、ちょっとエドガー隊長!距離縮まってませんか!?」

レーダーを確認し、驚きの声を上げるキャサリン。

「何をバカな。今はマッハ6で飛んでいるんだぞ!?」

「で、ですが現に…」

そのときだった。イニシアの口からエネルギー弾が放たれたのは

「うおっと!?」

ギリギリで交わした2機。

「おいトキエダ!これじゃ敷地外に出る前に俺らが撃ち落とされちまう!」

「……そうだな…。止むを得んだろう。本部長!まだ本部敷地内ですが、攻撃の許可って下りますかね?」

トキエダが本部長に通信を入れる。

「仕方あるまい。攻撃を許可する。」

「ありがとうございます。では全機攻撃用意!フォーメーションはAだ!キャサリン、エドガー機は引き続きそのまま飛行してくれ!」

「了解!」

20もの戦闘機の群が、攻撃態勢を整えていく。5機ずつが怪獣の両サイドに、4機が怪獣のさらに上を、残る4機が怪獣の後方にポジションを取った。

「本部からも攻撃支援をしよう。固定砲台全門、砲撃用意!」

本部長の命令で、本部敷地内の至る所に隠されていた砲台が顔を出した。

「これで怪獣を完全に囲い込んだな。だが奴も生き物だ。常に予期せぬ行動にも警戒しておけ!攻撃開始!」

「了解!攻撃を開始します!」

トキエダの指示で、前方を行く2機以外の機体から、火を吹くようにレーザー光線が発射された。次々に命中し、怪獣は悲鳴をあげる。怪獣イニシアは急降下し攻撃をかわすと態勢を整え、口から再びエネルギー弾での反撃を試みたが、地の方から発射された無数の砲弾に飲まれ、そのまま墜落してしまった。重みのある衝撃が響く。

「やべ!敷地内に落としちまった…。やりすぎたか?」

トキエダの顔が青くなる。

「まだだよ。このままトドメを刺す。」

イクタの機体が、急降下し怪獣に接近して行く。それに続くように、他の機体も降下を始めた。

「ほほう、流石だな勇敢なる兵士達よ。…だが、初撃で殺すことのできなかった地点で、お前らの負けだ。」

ラザホーがニヤリと笑った。

『シャリガァァァァァァ!!』

イニシアは突如吠えると、次の攻撃を開始しようとしていたアイリスバード達を、その大きな翼をはためかせて起こした突風で追い返した。

「うおおっ!?」

「トキエダさん!突如突風が!コントロールが効きません!」

風は徐々に渦を巻き始め、巨大な竜巻と化し、6機のアイリスバードマーク2を飲み込み、そして吐き出した。6機は制御不可のまま、地面へと叩きつけられた。その中にはイクタの機体もあった。「痛ぇな…。しかし流石に頑丈だな。大きな損傷はなさそうだ。」

「んなこと言ってる場合かイクタ!次が来るぞ!!」

イニシアは墜ちた戦闘機の近くにまで歩みを進めると、大きな足の爪でイクタの機体を摘み上げ、口元まで運ぼうとする。

「おいおいおいおい!何する気だこいつ!?」

「イニシアはたった1体で地上の大空の約4割を縄張りに活動する文字通り空の覇者だ。今のような方法で、数多くの怪獣を餌にしてきたんだよ。」

ラザホーが補足した。無論、誰の耳にも入っていないが。

「さぁ、エレメントに変身しろ。でなければ助からんぞ。エレメントと天の覇獣…どちらが強いのか!?熱い戦いを見せてくれよ!!」

「ちっ…流石にやばいか…。おいあんた!準備できてるか!?」

イクタはエレメントミキサーを取り出し、怒鳴った。

『もちろん。私はいつでもスタンバイ完了している。』

エレメントはそう答えた。

「よし!ケミスト!エレメントーーーー!!」

そう叫んだ時、イクタの右腕に装着されたエレメントミキサーが光を放った。光は徐々に大きくなり、遂にその光に包まれた範囲は高さ50メートルを超えた。光は次第に弱くなったが、その跡地から現れたのは、身長55メートルの巨人、エレメントだった。

 

 

『シェア!!』

エレメントは現れるなり早速イニシアの口を掴むと、背負い投げをして地に叩きつけた。

『シャリガァァァァ…』

奇襲に驚きの声を上げるイニシア。エレメントはさらに、倒れたイニシアを持ち上げると、マッハで飛び立った。敷地外に出た後、イニシアを再び地に向かって放り投げる。

『ジャッ!』

エレメントは空中で静止すると、ファイティングポーズをとった。

「エレメントだ!奴が怪獣を敷地外に連れ出してくれたぞ!」

「我々も後を追うのだ!」

アイリスバード達が、エレメントの後ろに付いて来る。

『シャリガァァァァァァ!!』

怒りをあらわにしたイニシアは態勢を整えると、エレメントと向かい合うように飛行した。両巨大生物はしばらく睨み合った後、動いた。

『シェアァァァ!』

『シャリガァァ!!』

イニシアはエレメントの体当たりを華麗にかわすと、大きな両足の爪でエレメントの両肩を掴んだ。

『デュワ!?』

驚き、爪を引き離そうともがくエレメントだったが、爪は取れるどころかみるみると肩に食い込んで行く。

『デュワァァァ…。』

悲鳴をあげるエレメントの反応を見て楽しくなったのか、イニシアはそのままの体勢で音速飛行を開始した。エレメントを散々に振り回した挙句、大きな岩山に叩きつけると、そのまま空中で旋回し、岩山とともに崩れ落ちるエレメント目掛けてエネルギー弾を連射した。

『ノワァァ……!」

被弾し、さらに崩れ落ちた岩の下敷きとなってしまったエレメント。その様子を見て、イニシアは無邪気に空を飛び回っている。

「そんな…。あのエレメントが圧倒されてる…?」

トキエダも驚きを隠せていない様子だ。

『…シェエアァァァァ!!』

しかしエレメントは岩を払いのけ立ち上がった。体に付着した埃を軽く振り落とすと、飛び回るイニシアを睨みつけ、再び飛び上がった。

「こいつは今までの怪獣とはワケが違いそうだ。ヤベェえぞ。」

『珍しく弱音を吐くんだな、イクタ。まぁ確かにさっきのは痛かったが……。』

「…勝算はありそうか…?」

『どうだろう。もっとも、君にそれが見えていないとしたら、ないということになるが。』

「……参ったな。何も思いつかない…。」

イクタはしばらく考え、そう嘆いた。

『…。こりゃ、事態は思ってるよりも深刻かもしれん。』

「とにかく攻撃を仕掛けるぞ。」

『うむ。エレメント光輪!』

エレメントは右腕のミキサーにエネルギーを込め、の鋭利な輪郭を持つ光輪を4つ生み出し、イニシアに投げつけた。だが1発残らず、イニシアは交わして行く。

 エレメントはさらに、光輪に気を取られているイニシアに向かって体当たりを仕向けたが、これも交わされ、逆に背後に回ったイニシアの体当たりを喰らってしまう。

「如何せん速すぎるぜこいつ…。これじゃいつまでも奴のペースだ!」

『わかっている!だが私にこの状況を打破できる秘策はない!』

イクタとエレメントは、互いに押し黙ってしまった。

「なんだ。全然熱くないな。エレメントとイニシアにここまでの実力差があったとは。正直ガッカリだぜ。」

ラザホーはやれやれ、といった表情でその場に座り込み、大きくあくびをした。

 何度かの攻防を繰り返したのち、両巨大生物は地面に着地し、対峙した。

「……1つ思いついた。決定打になるかはわからないけど、この防戦一方の状況は打開できる自信がある。」

イクタが呟いた。

『本当か!?流石だ。やはり頼るべきは君のアビリティだな!』

「お前も少しは頭使えよな。…まぁいいや。行くぞ!」

『ケミスト!ハイドロエレメント!』

ミキサーが水素を取り込み、青色の肉体へと姿を変えたエレメント。

『シェア!』

エレメントミキサーが水を纏い、大きな剣のような形状となる。水の剣のひと振りを交わし、上へと飛んだイニシア。

『ハイドロウィップ!!』

だがエレメントの狙いは剣での一太刀ではなかった。剣はさらに鞭のようなものに形状を変化させ、イニシアの足を捕らえた。

『シェアァァ!』

そして、そのまま思い切り地面へと叩き落とす。

『シャリガァァ!』

悲鳴をあげるイニシア。畳み掛けるように、エレメントは墜落したイニシアの元へと走って行く。イニシアはすぐに起き上がると、攻撃に備えて迎撃態勢に入る。

『ハイドロエレメント光輪!!』

水でできたエレメント光輪が、イニシアの翼にまとわりついた。ドーナツ型の光輪の中央の穴の部分に、翼を通しているような状態となる。その状態で飛んだイニシアだが、光輪のせいで思うように加速できていない様子だ。

「これで追いつけるはずだ。一気にやってやる!」

『ケミスト!ヘリウムエレメント!』

『ジャッ!』

自らの肉体を気体へと変化させたエレメント。イニシアのさらに上で再び姿を現すと、イニシアに抱きついた。

『シャリガァァァァァァ!!』

振り落とそうと高速で飛び回るイニシア。だが最高速度が出せない。

「喰らいやがれ!!」

『ケミスト!スチールエレメント!』

『エレメントフォール!!』

ヘリウム体という軽い体から、急激に最重量の姿へと変身したエレメントの重さに耐えきれなくなったイニシアは、そのまま地面へと墜落した。墜落の衝撃、そして負荷としてかかるエレメントの重さに、思わず呻き声をあげる。

『シャリガァァァァァ………』

エレメントも、立て続けのケミストに体の限界がきたのか、カラータイマーが点滅を始めた。

『時間がない。トドメを刺そう。』

元の姿へと戻ったエレメントは、ゆったりとしたモーションで腕を十字に組んでいく。

「マズい!」

焦りの表情が現れたラザホー。イニシアを兵器の中に戻そうとするが、一歩遅かった。

『デュアルケミスト!ケミストリウム光線!!』

必殺の光線をもろに喰らったイニシア。だが、その体は爆発しなかった。

『……なに?』

イニシアは最後の力を振り絞り、ラザホーのローブのポケットへと帰って行った。

「殺しきれなかったのか!?バカな!?」

初めての現象に驚くイクタ。

「…ふぅ。最後はヒヤッとしたが、流石は覇獣ってところだな。敗北しつつも格の違いは見せつけたか…。しかし、まさかここまでとはな…。エレメント、お前はここまで強くはなかったはずだ。なぜ、そしてどこで、これほどまでの力を身につけたというのだ…?」

ラザホーは解せない、といった表情を残し、その場から立ち去った。

 

 

 役目を終え、姿を消そうとしたエレメントの元に、数機のアイリスバード達が集まった。

「待ってくれエレメント!」

振り返るエレメント。

「君にはできるのか!?大規模な空間移動が!!」

トキエダが訊ねる。

「そういやそれかなり重要だったな。俺も聞き忘れてたよ。」

イクタもそう言った。

『……人間達よ。こうして私と直接会話をするのは初めてかな?』

エレメントが口を開いた。隊員達から感嘆の声が上がる。

「おぉぉ…エレメントと会話ができているぞ!!」

「いつだったか、イクタが直接会話ができたと言っていたが、本当だったんだな…。」

トキエダが思い出したように言った。

『質問に答えよう。だが答えは実にシンプルだ。申し訳ないが、今の私に、空間と空間を繋げ、移動するという能力は備わってはいない。』

「……は?」

目を丸くするイクタ。

「…今、なんと答えたんだ…?」

トキエダも、同じような表情をしながら恐る恐る聞き返した。

『聞こえていなかったのなら繰り返そう。…申し訳ないが、君たちの要望に応えることはできない、ということだ。』

まさかの返答に、その場が凍りついた。

 

                                     続く。

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