ウルトラマンエレメント   作:ネフタリウム光線

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 「空間移動の能力は備わっていない」というエレメントの告白から一夜明け、IRISは地上へのルート模索に励んでいた。そんな中で、エレメントはある夢を見る。その夢の表すものは、歴史なのか、それともただの「夢」なのかー。まさかの急展開の第8話だ。


第8話「約束」

第8話「約束」〜地底怪獣ウンターヴェル登場〜

 

「そうか…。不可能なのか…。」

イクタ達からの報告を受けた本部長は、深くため息をつくと、椅子の背もたれに倒れかかった。   

 この少し前、IRIS精鋭部隊は初めてエレメントとのコミュニケーションを取れたのだが、その際に自分には空間移動の能力がない、という事実を聞かされていたのだ。

「しかし…謎だけが残りますね。」

トキエダは腕を組んだ。

「と、いうと?」

本部長が訊ねる。

「いえ、ならばエレメントはどうやってこの地下に現れたのでしょうか。あれだけの巨体を持つ生命体が入ってこれるほどのルートはどこにもないはずです。第一に、そんなものがあったとすれば怪獣達や放射能の侵攻を止めることができません。」

「うむ…。」

「それに、エレメントはこう言ってた。今の私にその能力、すなわち空間移動はできないと。」

イクタが付け加えた。

「今の私に…か。つまり以前はあった。だから地下にやってこれた、というわけか。もしかしたら、発動条件のようなものがあるのかもしれん。」

本部長は立ち上がった。

「とにかく、今考えていても仕方がない。ここからは私たちや科学班の仕事だ。君たち戦闘員は、常に準備をしておいてくれたまえ。」

「はっ!」

隊員達が敬礼をする。

「あぁそれとイクタ。お前は別だ。本部の科学班と合流し、地上へのルート模索や敵の分析に当たってくれ。」

「了解。」

「では解散だ。」

 

 科学班達の職場である科学棟へと向かう道中、イクタは周囲に誰もいないことを確認すると、エレメントミキサーを取り出した。

「で、あんたはどうやって地下に来たんだよ。地球の歴史の真実を知ってるようだし、どう考えても地下生まれ地下育ちではないよな。」

イクタが訊ねる。

『確かに私の出身はこの地下ではない。私が生まれたのは今から150年以上前だ。そもそも地下都市などなかったな。』

「150年……。まさかあんた…。」

『流石だなイクタ。今の一言で大体の事情を察したか?まぁ君の想像に任せよう。』

「……今俺の中で色々な事柄が繋がろうとしてるけど、何かが足りない。それはおそらく…」

『恐らくそれは、この世界が隠蔽している歴史の真実だ。私が語ったのはそのほんの一部に過ぎない。だが、君はわからないことはわかるまで調べ尽くすタイプの人間だ。私からは何も語らない。君が己でその真実に辿り着くといいだろう。』

エレメントは意味ありげにそう言った。

「そうだな。俺は知っての通り天才だ。多分この世界で1番頭がいい。知らないことはないはずだった。でも、俺は地上のことを何も知らなかった。いや、地下のことさえ、間違った知識を持ってるかもしれない。それらを知るために俺は地上に行きたいんだ。」

『だろうな。』

「この世界が隠蔽している。そしてこの世界を治めているのはIRIS……。加えてここはそのIRISの本部…。なるほどね。今にその真実ってやつを見つけ出してやるさ。そして、あんたの正体も見破ってやるよ。」

『それは楽しみだな。頑張りたまえ。』

エレメントはそう言ってミキサーから反応を消した。そうこうしているうちに、イクタは科学棟へ到着した。

 

「うぃーす。」

研究室に入室したイクタは、スタッフ達に軽く挨拶をした。

「あ、どうも。あなたが最高の科学力を備えるTKー18支部のサイエンスチームのチーフ、Dr.イクタさんですか!?」

一人のスタッフが興味深そうに話しかけて来た。

「ドクターなんて肩書きがいつの間に付いてたのかは知らんけど、まぁそうだ。ていうか、ドクターにさんってつけるか普通?」

「あ、ついうっかり…。うちのチーフの二つ名がドクターなもので…。しかし、イクタさんの研究成果や論文の多くを重宝させていただいてますよ。流石はリディオ・アクティブ・ヒューマンってところですね。」

スタッフはそう言った。

「なんだ。知ってるんだ。」

「えぇ。本部の人間は皆知ってますよ。そもそも、それが判明したのがうちの研究室なんですから。」

「そういやそうだったな。」

イクタは数年前を思い出しな上がらそう相槌を打った。

「奥の方に本部科学班長、Dr.デオスがいます。案内しますね。」

スタッフに連れられ、イクタはDr.デオスと呼ばれた科学者の部屋へと歩いた。スタッフがノックをすると、中から

「入りたまえ。」

という声がした。若そうな声だ。

「失礼します。Dr.デオス、こちらがイクタ隊員です。」

「どうも。」

デオスと呼ばれた男は、まだ黒いが薄くなり始めている頭髪や顔の小じわなどから、40代前半のように見て取れた。白衣の左胸には、何やら豪華な勲章のようなものが付いている。

「やぁイクタくん。実は会うのは2回目なんだが、私のことを覚えているかい?」

「そうだな…。顔を見て思い出したよ。俺の検査をしてた班のリーダーっぽい人だったよね?」

イクタは三年前を思い出しながら答えた。

「ちょ、ちょっとイクタさん。ドクターに向かってその口の聞き方は流石に…。」

イクタを詳しく知らないスタッフは、その態度を慌てて制しようとした。

「いいんだ。覚えていてくれたとは嬉しいね。その後変わりはないか?寿命が極端に短い人種だし、その寿命を全うできる保証もない。体調が悪い等があれば、私が診てあげるが。」

「大丈夫だよ。それに、地上の景色や地球そのものの歴史の真実を知るまでは死ねないよ。」

イクタは胸を張って答え、質問返しをする

「デオス博士は何か知ってんじゃないの?…いや、IRISの本部で科学班長を務めているあんたが知らないはずはない。」

「さぁ、なんの話をしているのか、さっぱりだね。地球の地上は、150年前に敵性宇宙人の侵攻を受けた。その際全土が敵の核攻撃によって被曝。それで我々の祖先は地下へ逃げ込んだわけだ。その時の放射能の影響で、取り残された生き物達が怪獣化。そして今に至る。それだけの話じゃないか。」

デオスは椅子にもたれかかりながら淡々と話した。

「ふーん。…それで?『核』ってなに?」

イクタは聞き返した。事前にエレメントから、核による戦争で地上を放棄せざるを得なくなった、という話を聞いていたから知っていたものの、そもそもこの世界に核兵器なるものは存在しないし、そのような恐ろしい兵器があったという歴史も語り継がれていないのだ。

「……っ。簡易に説明するならば、核融合や原子核分裂を連続して発生させたエネルギーを使う爆弾のようなものだろう。私も実物を見たことがないから詳しくは知らない。」

「なるほど。確かに使う元素によれば…例えばアクチノイドのウランなどを使えば、恐ろしい威力を発揮するだろうね。放射能による影響だって大きくなる。でも、当時の人類文明を考えれば、そのような兵器を量産することだって容易だったんじゃないの?なんでそんな宇宙人にやられ放題になってるのさ?」

「そんなこと、私に聞くよりかは歴史学者に尋ねるといいさ。それより、君の仕事はなんだね?こんなくだらない話をすることか?違うだろう。」

デオスは話をこれ以上広げないように意図してか、話題を変えた。

「…わかったよ。」

イクタもそれ以上、干渉しないようにした。だが、一つだけ気になることがあった。

「エレメントは元素の性質をいともたやすく活用できる。あれだけ僅かな水素や金属元素から大量のエネルギーだって生み出せる。……つまり奴は、自身がその核兵器ってものになれるというわけだ。加えて奴は放射能を除去できるから、ほとんどリスクのない大量殺戮兵器と化せる…。それに、150年前に誕生した、か。まさかだとは思うが…。」

心の中でブツブツと唱えたイクタは、頭を大きく左右に振ると、地上へのルート模索の研究に入った。

 

 

「これより実験は最終段階に入る。総員、配置につけ!」

中年男性の声が、研究室内に響く。見るからに最新鋭の設備を持つ研究室を、白衣を着た男性達が駆け回り、所定の位置についていく。

「Dr.リディオ!職員、被験者ともにスタンバイ完了です!」

リディオと呼ばれた中年男性は、その報告に頷くと、次の指示を出す。

「被験者ナンバー13にA細胞を注射!」

「了解。A細胞、注射します。」

大きな分厚いガラスの窓の向こうの実験室で、マシンの上に寝かされた1人の男に、ロボットのようなアームが注射針を手に近づいていく。

「やめろ!Dr.リディオ!こんな非人道的な実験をして、貴様に科学者としての誇りはないのか!?」

「非人道的だと?戦争を終わらせるための実験なんだぞ?むしろ人道的ではないか。このまま戦争が続けば多くの罪なき者が死ぬ。お前はそんな絶望的な世界に平和をもたらす救世主となれるのだぞ?そして私は、その救世主を生み出した英雄だ。むしろ、誇りしかないな。」

「…狂っている…!」

「狂っているのはどちらかね、Dr.センゲツ。もともとこの研究は、お前の研究を応用したものに過ぎない。感謝してるよ。おかげで今私は最高の気分だ。自分で生み出した技術にその身を滅ぼされるって、どんな気分かね?」

「…!」

「まぁいい。おい、とっととしろ。」

アームはもがき続ける被験者の男の腕を無慈悲に捕まえると、そのまま針を刺した。

「うあぁぁぁぁぁぁ!!」

男の悲鳴が、室内に響き渡る。

「ナンバー13の容態は!?」

リディオが部下に確認を取る。

「はい、異常なし!A細胞は体に馴染んだようです!ですが体中の細胞に大きな変化が現れるので、しばらくは激痛が続くでしょう。どうされますか?」

「もたもたはしてられん。鎮痛剤でも打ってろ。すぐにB細胞を注射しろ。」

リディオは淡々と指示を続ける。

「了解。A細胞の注射成功はこれで6人目…。しかし、Bまで成功した事例はまだありません。今度こそ…。」

ロボットのアームは、被験者である男に、さらなる注射を施した。

「ああああああああ!!」

男が悲鳴をあげた次の瞬間、彼の姿は稲妻のような眩い光に包まれた。そして、みるみると巨大化していく。高さが50メートルはあるであろう、その天井にも達しようとしていた。

「おお……おおおお!!ついに成功だ!これでこの戦争は我が国の勝利だ!!この最終兵器、ウルトラマンの投入によってな!!はっはっはっはっは!!」

リディオは高笑いをしていた。

 

 

『…!!』

ミキサーの中で、エレメントは目を覚ました。

『なぜ今更、こんな夢を…。』

エレメントは、微妙な頭痛を感じていた。

 

 

「すまんローレン…。大した危害を与えることはできなかった…。俺はもう戦えない……。」

ローレン達の元へと帰還していたラザホーは、意気消沈した顔でボソボソと話した。

「……そうか。やはりイクタが…、エレメントが未来を変えたのか。」

ローレンはそう推測した。やはり、奴らを生かしておくわけにはいかない。

「ラザホー殿。ちょっとイニシアを貸してくださいな。」

ラザホーの脇から、老人、ダームが現れた。

「お?別に構わんが?」

ラザホーは、イニシアのカプセルをダームに手渡した。

「かなり弱ってますなぁ。自然回復だと後3週間はかかるでしょう。」

カプセルを覗き込み、呟いたダーム。

「まぁ、自然回復なら、ですが。」

ダームはニヤリと笑った。

「…どういうことだ?」

「まぁ、見ててくださいよ。」

そう言うとダームは手の平にイニシアのカプセルを乗せると、その手首に力を込めた。するとその手は緑色のオーラに包まれた。

「………これで大丈夫でしょう。もう戦えるまでに回復しました。」

と、カプセルをラザホーに返した。

「お、おう。そういや爺さんの能力のこと、忘れてたぜ。サンキュー!」

「ラザホー。いちいちそんなことに礼を言うな。この怪獣兵器を生み出したのはどこのどいつだ?我々4人はそれぞれの能力が互いを助け合っているんだ。このくらいのことは当たり前だ。そうだろう?ダーム。」

ローレンが口を挟んだ。

「左様にございます。ですから、なおさら未来を変え、我々が完全勝利を収めねばなりませぬ。」

ダームは同調した。

「?どういうことだローレン。何かまた、新しい未来が見えたのか?」

ラザホーは疑問に思い、訊ねた。

「あぁ。奴らが地球の地上に現れ、我々や怪獣達と一戦交える時が来る。その際、ダームとラザホーが死ぬ。」

「…なるほど。それは、熱い戦いになりそうだな。」

ラザホーは武者震いを起こした。

「怖くないの?死ぬんだよ?ローレンの未来を変えることができるのは今の所あの少年とエレメントだけよ。あたし達がどう足掻いても、これを変えることはできないのに?」

キュリが淡々と語った。

「できるさ。根拠はないがな!」

ラザホーは自信満々に答えた。

「…、まぁ、あんたに聞いたあたしが馬鹿だったわ。…でも実際、この中から1人欠けるだけでも相当な戦力ダウンよ。敵の科学力は想像以上だったし、この間戦闘になったあの精鋭部隊の腕はかなりのもの。加えて謎のアビリティを持つイクタという少年に、エレメントもいる。この復讐作戦の遂行が遅れるどころか、失敗しかねないわ。」

「特にラザホー、そしてダーム。お前達が欠ければ、我々の駒である怪獣が、むしろ最大の脅威と化す。できれば、そう簡単にくたばってほしくはないのだが。」

「もちろんですとも。私とて、そう簡単に死にたくはありませんし。」

ダームが答えた。

「あぁ。それに、少年とエレメントを利用すれば未来だって変えれるはずだ。最後にもう一度だけ、俺を信じてくれ。」

ラザホーはイニシアのカプセルを握り締めると、ローブを翻し、その場を去って行った。

「いいのかローレン。あいつ、未だにエレメントに勝った試しないんだけど。」

「構わん。結果どうこうの話じゃない。共にこの過酷な環境を生き抜いてきた仲間だ。だから信じる。」

「ふん。どうせ、もう未来が、あいつの戦いがどうなるのかはわかってるくせに。逆に酷なんじゃないの?まぁ、あたしには関係ないからいいけど。」

キュリはそう言い残して去って行った。場に静寂が訪れる。

「…ダーム。俺らがこんな目に遭っているのは誰のせいだ。俺らの祖先がこのような場所に放り出されたのは誰のせいだ。」

ローレンは静かに、かつしっかりとした口調で、ダームに訊ねた。

「それはもちろん、エレメントのせいです。」

「そうだ。だがエレメントと、あいつが守る地下のやつらはどうだ?恵まれた環境ではないかもしれない。あいつらだって、今の現実に満足していないかもしれない。だから地上を目指しているんだろうが、そもそもあいつらが地下に閉じ込められているのは、誰のせいで、だ!?」

ローレンは怒鳴った。珍しく、機嫌が悪いらしい。

「それも、エレメントのせいですな。」

「その通りだ。エレメントは俺たちや地下人類の共通の敵のはずだ…。なのに何故、あいつらはエレメントと共に戦っているんだ!?理解不能だ!」

「まぁまぁ、落ち着きなされ。我々の目的は、あくまでエレメントの殺害、そして我々を見捨てた地下人類を殲滅することです。共通の敵などという考えは捨てなされ。」

ダームは穏やかな口調でローレンをなだめた。

「……そうだな。少し我を見失っていた。疲れた。寝るぞ。」

ローレンは、椅子にもたれかかって目を閉じた。

「では、ごゆっくりお休みなさいませ。」

 

 

「……これだ…!これしかない!」

研究室に、イクタの叫び声が響いた。

「どうしました?イクタ隊員!?」

多くのスタッフが駆け寄ってくる。

「地上へのルートだ!これを見ろ!」

イクタがスイッチを押すと、正面の巨大モニターに映像が映った。

「これが今の世界地図だ。そしてこのポイントに注目だ。」

あるポイントが拡大される。

「ここらはIRISによって地区として行政区分されていない、いわばフリースポットてもんだ。人っ子1人住んでない。」

「……それがどうかしたのでしょうか?」

「どうかしたのさ。ここの真上には、何があると思う?」

イクタが、1人のスタッフに訊ねた。

「え、えーっと……地上…ですよね?」

「あぁ。だが地上は地上でも、ただの陸地じゃない。砂漠だ。砂漠が広がってるんだ。」

「砂漠というと、あの砂で覆われた降水量の少ないエリアのことでしょうか?」

「そうだ。」

研究室内がざわつき始めた。

「イクタくん。君は何を考えているんだ?まさか、そのポイントの天井に穴でも開けようって言いたいのか?」

現れたのはDr.デオスだった。

「半分合ってて半分違う。穴を開けるのは俺たちじゃない。怪獣だ。怪獣の力を利用する。」

「どういうことかね?」

イクタはモニターのスイッチを切り替えた。画面に、見慣れない装置が映される。

「これは俺が開発した超音波を発する簡単な機械だ。地底怪獣は各々が小さな周波を拾いながら移動し、暮らしている。そのうちの1体をレーダーで見つけ出し、この装置を起動させ、あのポイントに出現させる。その隙に、アイリスバードマーク2で穴に侵入、あとはミサイルや爆弾で道をこじ開けながら、地上を目指す。」

イクタは淡々と説明した。

「バカな。人の住んでいない地域とはいえ、自ら進んで怪獣を呼び出そうというのか?それに我々が通れるほどの穴を開けて進むのは、それなりに大型な怪獣だろう。もし怒り、暴れまわったらどうするというのだ?お前たちはスルーして天井に行くんだろう?」

Dr.デオスは賛成できない、という表情をしていた。

「暴れまわった時に備えて、あらかじめ無人戦闘機と自動砲台を設置しておくよ。それに、精鋭部隊には惜しくもは入れなかった、優秀な隊員を俺は知ってる。あーあと、怪獣を誘い出すタイミングも重要だ。」

イクタは再び、モニターを切り替えた。

「地下と地上に、大きな時差はない。時差があるとすれば、ここと指定ポイントに、だろう。150年前の地上文明時代の資料によれば、午前11時から午後4時にかけて、指定ポイントの真上の砂漠地帯では砂嵐が吹いている。特に、午後2時あたりは人間が外出を禁止されるレベルだ。その時間帯を狙う。そのタイミングで地上に侵入すれば、怪獣達に見つかるリスクも軽減される。そして今の時刻は?」

イクタがデオスに聞いた。

「…午前11時半だ。まさか、あと4時間半のうちに作戦を決行するつもりか!?さすがに無茶じゃ…」

「ここから指定のポイントまでは飛行機で1時間かからない。迅速に行動すれば不可能じゃない。それに、黒ローブがまた何か仕掛けてきたら、今度こそ飛行機が被害を受けるかもしれない。とっとと済ませる。」

「…そうか。だがその150年前のデーターが通用する保証はあるのか?それに砂漠に生息する怪獣は砂嵐の中でも活動できるよう、進化しているかもしれない。その点は、どう対策をする?」

デオスは訊ねた。

「その時はその時だ。兎にも角にも、まずは地上に行くことそのものが大事なんだ。」

イクタは立ち上がると、こめかみを弾いた。これは、未来の通信手段の一つだ(第5話参照)。

「もしもし支部長?俺だけど。今すぐそっちに保管してある俺の無人機と砲台を今から指定するポイントに輸送させてくれ。………オッケーサンキュー。あと、エンドウ達にも現地に飛ぶように伝えておいて。それじゃ。」

フクハラ支部長への連絡を手短に済ませると、イクタは白衣を脱ぎ捨て、隊員服姿になった。

「じゃあ、俺部隊と合流するから。あとはよろしく。装置の起動方法は、そこにメモしてるから。」

イクタはそう言うと、研究室を後にした。

「あ、ちょっと……」

スタッフ達が呼び止める頃には、もうイクタの姿はなかった。

「頭の回転だけじゃなくて、行動も早いんですね…。TK地区からの兵器輸送にも、かかって2時間でしょうし…。本当に今日のうちに地上へ行けちゃうかも…。」

1人がそう言った。

「あまりに急すぎて実感わかないよ。今朝、エレメントが空間移動できない、どうしよう〜って騒いでたところなのに、ものの数時間で状況が一転してしまいましたね。」

1人はそう言った。

「あれがイクタ隊員。もしかしたら、奴は本当にその命が尽きる前に、人類の地上奪還を果たしてしまうかもしれない。そして、真実を知ってしまうかもしれない…。」

デオスは、誰にも聞こえない声量で呟いた。

 

 

「ようイクタ。聞いたぜ?ルートを見つけて、そしてもう出発するんだって?」

精鋭部隊の待機室には、すでにトキエダ含む全隊員が集結していた。

「元々は昨日の段階で地上に行ける予定だったんだ。俺らも荷物も機械も、準備万端だぜ?」

チェン隊員がそう言った。

「まぁ正直、心の準備はまだだけどな…。」

キャサリンが呟いた。

「それは俺もだよ。確かに急すぎたな。でも、急がなくちゃいけないんだ。今から俺たちは、とある辺境に行く。そこはIRISによって行政区分されていないし、人も住んでいない。そこで、怪獣を利用した地上遠征作戦を推し進める。とにかく俺たちは飛行機に乗って、地上へ飛ぶだけだ。とりあえず乗ってくれ。時間がない。」

イクタは早口でそう言った。

「わかった。よし、全員、出撃準備!これより地上遠征作戦を開始する!」

トキエダが叫んだ。

「了解!」

隊員達は敬礼をすると、次々に戦闘機に乗り込んでいく。全ての準備が整うと、部隊は発進。本部基地を飛び去って行った。

 

 

 現場では、既に準備が進んでいた。TKー18支部から出張してきたサイエンスチームと戦闘部隊が、砲台や無人機を配置させ、本部の科学者達が超音波装置のセッティングをしていた。

「こちら、準備整いました!」

エンドウが叫ぶように報告する。

「超音波装置も、いつでも稼働できます!」

本部の科学者も続いた。

「うむ。あとはイクタ達精鋭部隊を待つのみだ。」

フクハラ支部長が腕を組んだ。彼も現場監督として、この場にやってきていたのだ。そしてその背後には、どこから聞きつけたのか、テレビ局、TKTの取材陣も集まっていた。

「……君たち。撮影は許可しとらんぞ。どこから情報を仕入れたのかね?」

支部長は低いトーンの声で、そう注意した。

「そちらの支部から、数機の輸送機や戦闘機が飛び立っていたので、何事かと思いまして。来てみれば、遂に地上へ行くらしいじゃないですか。地下に移って以来のビッグイベントですし、我々人類の今後がかかっているんです。IRISさんこそ、これは市民にしっかりと報道する義務があると思われますが?」

ディレクターらしき人物が、そう反論した。

「むぅ……。本作戦は大型の怪獣を利用する。危険だから、少し離れた場所で撮影しなさい。」

支部長は渋々許可を下した。

「ありがとうございます。おーい!危険だから下がれ下がれ!」

男は報道陣をまとめると、後退して行った。その少し後に、遠くからキーンというエンジン音が聞こえて来た。

「あ、支部長!来ました!精鋭部隊です!」

「やっと来たか。よし、では作戦開始だ!レーダー起動!最も近くにいる大型の地底怪獣を探せ!」

支部長が指示を出す。

「了解!レーダー探知!ここから2時の方向、35キロメートル先に、推定56メートルほどの生命体を発見しました!」

「十分な巨体だな。よし、では奴をここまでおびき寄せろ。超音波装置起動!」

「了解!超音波装置起動します!」

装置が起動した。

「これ本当に稼働しているのか?」

「我々には聞こえない周波ですので。あ、反応しました。怪獣、こちらへ方向転換しました!推定速度は70キロ。30分あればここまでやってこれる計算です。」

「聞いたかねトキエダくん!君達は上空で、30分待機だ!」

支部長が無線機でそう指示を出した。

「30分もかよ〜。まあ仕方ない。了解っす。」

トキエダが応えた。

 そしてその30分はあっという間に訪れた。皆が待機している真上の天井がかすかに揺れ動き始めた。

「来るぞ。総員、厳戒態勢!非戦闘員は下がれ!下がれーっ!」

科学者達が、一斉に走って後退していく。その時、天井が割れ、大きな怪獣が姿を現した。怪獣は自由落下でまっすぐに降下すると、地響きをあげて着地した。

『ピギャァァァァァァァ!!』

鳴き声をあげ、首を振り回す怪獣。

「おいおい、ありゃレア物だぞ。この100年で2体しか観測されていない地底怪獣、ウンターヴェルだ。」

イクタが物珍しそうな視線で見つめる、ウンターヴェルと呼ばれた怪獣は、二本の長い、鋭くそしてしなりのある鞭のような角を頭部の先端に備え、ゴツゴツとした茶色の肌を持つ二足歩行の怪獣だった。目は退化しているのか、かなり小さく、常に角を動かしている。どうやら、触覚のように扱うことがメインの目的らしい。

『ピギャァァァァァァァ!!』

大きく咆哮し歩き回るウンターヴェル。どうやら、まだ視力が戻っていないらしい。手探りで行動しているようにも見える。

「……あの様子なら、攻撃の必要性もなさそうだな。よし、精鋭部隊、直ちに穴へ侵入せよ!地上を目指せ!」

支部長も、無線に吠えるように声を入れた。

「了解!発進します!」

トキエダの乗る戦闘機が急発進し、天井の穴へと飛ぶ。それに続いて、19ものアイリスバードが編隊を組み飛んで行く。

「今、怪獣の掘った地底トンネルを目指し、IRISの選抜隊が飛んでいきます!あの穴の先には、我々人類が嘗て文明を築いていた地上があります!果たして彼らの前に広がる地上の世界は、希望のものになるのでしょうか!?それとも絶望を表すものとなっているのでしょうか!?私たちはただ祈ることしかできません!彼らが無事に帰還することを、祈ることしかできないのです!頑張れ!IRISゥ!」

TKTのノザキリポーターが、カメラの前で熱く語っている。

「イクタ!!死ぬなよ!!」

支部長がエールを送る。

「あぁ、約束するぜ。必ず成功して戻って来てやる!」

イクタのセリフが終わる頃には、最後の飛行機が、穴の中へと消えて行ってしまっていた。通信が途切れる。

「人類の未来は、あいつらに託した。あとは、地下に残った我々の仕事だ。この怪獣が暴れ始める前に、安全を確認したのち、天井へ送り返すぞ!」

「了解!」

10機の無人機が一斉に垂直に離陸し、怪獣の上方へとポジショニングすると、それぞれがロープのようなものを下ろした。ロープが、怪獣に巻き付いていく。

「怪獣確保!天井へと戻します!」

無人機がエンジンの出力を上げ、最高速度で垂直に上昇を始めた。だがその時だった。

『ピギャァァァァァァァ!!』

ウンダーヴェルが突如暴れ出し、ロープを引きちぎり、再び地響きをあげて着地した。角から電撃攻撃を繰り出し、暴れ始めた。

「!!そんな!?何故いきなり!?」

「あらあら、彼らはもう地上へ行ってしまわれましたかな?一足遅かったようですな。」

聞き慣れぬ声のした方向へと振り向いた支部長。そこには、黒ローブをまとった老人が立っていた。

「誰だ!?」

「我が名はダーム。本当はこの怪獣を使って地上へ行く部隊の足止めをする手筈だったんですが、まぁ、いいでしょう。地下に残った兵士の力量を見極めるのも、無駄ではないでしょうしな。さぁ、どうされますか?」

老人は握っていた杖を高く掲げた。

『ピギャァァァァァァァ!!』

それと同時に大きく吠える怪獣。

「くっ……。無駄な殺生は控えたかったがやむを得ん!総員!戦闘体勢に入れ!」

支部長が指揮をとる。

「おや……?あなたは…?ひょっとしてフクハラのお孫さんですかね?」

ダームが支部長に近寄り、話しかける。

「動くな!」

支部長のボディガードが銃を抜く。

「血の気の盛んな若者ですこと。そんなに慌てなさんな。私は今、このお方とお話をしている。」

ボディガードには全く目もくれず、話を続けるダーム。

「あんた……私の祖父を知っているのか…?何者だ…?」

「いずれわかります。」

老人ダーム、そして怪獣とIRIS。地下に残された彼らの戦闘が始ろうとしていた。

 

 

「トキエダ隊長!この3キロ上が地上のようですが、怪獣の掘ったトンネルはここまでです!」

ゴームズ隊員が報告した。

「そうか。なら、作戦通り爆薬で穴をこじ開けるぞ!全機、ミサイル発射!」

20の機体から計40のミサイルが放たれ、天井で連続爆発を起こした。

「よし、上昇せよ!目的地は近い!」

トキエダ率いる戦闘機の群れが、今まさに地上へ出ようとしていた。

 

 

 砂漠に佇む二つの人影があった。

「ったく。ローレンったら急に作戦変更って言うしさ。こんなところに立たせて何になるってんだ。」

キュリが毒を吐いた。

「うむ。それに、まさか爺さんが地下に行くとはなぁ。俺はやっぱり信用されてないってことか…。」

がっくりと肩を落とすラザホー。

「まぁ、あれだけ負けが込めば、ねえ。」

その時だった。キーンという音が、ラザホーの耳を刺激する。

「おいキュリ。何か聞こえないか?」

ラザホーは目を閉じ、耳をすませる。

「あたしは何も聞こえないけど?なになに?ついに幻聴でも聞こえるようになっちまったのか?ストレス抱え込みだっつーの。」

キュリは呆れた顔でそう言った。

「……いや、この音は聞き覚えがある…。そうだ、奴らの飛行機の音にそっくりだ…。だが何故…。」

と顔を上げたラザホーの視界に映ったのは、砂を吹き上げ現れた、アイリスバードだった。

 

 

                                                      続く。

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