間違えを訂正していただき、ありがとうございました。
そしてもう一つ、こんな感じにするつもりはっ
十一月を迎え、寒さが増してきた。この時期になると、ホグワーツ中がある行事に燃え上がる。クィディッチ・シーズンだ。
それと同時に、グリフィンドールのハリー・ポッターがシーカーになったという情報が漏れていた。きっと素晴らしいプレーをするだろうね、と期待していたり、箒から落ちなきゃいいけど、と心配する声が廊下のあちこちで聞こえていた。
制服に身を包んだレイラは、白い息を吐きながら職員室を目指していた。見かける上級生の女子生徒たちを見れば、多くが黒いタイツを履いていた。一年生の学用品のリストには学校指定の靴下しか書かれておらず、レイラたち一年生の女子は全員がハイソックスで寒さに耐えていた。来年は用意しておこうと心に決め、廊下を進んでいく。
レイラは職員室のドアをノックし、「レイラ・ポッターです」と扉越しに声をかけた。やや間を置いてから、「入りなさいと」言われた。スネイプ先生の声だ。
「失礼します」
職員室の中に入ると、そこにはスネイプ先生とフィルチがいたが、すれ違うようにフィルチが走って教員室を後にした。
「どうか、したのかね。ミス・ポッター?」
スネイプ先生は椅子に腰掛けながら問うた。レイラはポケットに手を入れ、その中に入っているものの感触を確かめる。
「ええ。スネイプ先生に渡したいものがありまして。もしかしたら、不要かもしれませんが」
訝しがるスネイプ先生の前に進み出て、レイラはポケットから遮光容器を取り出した。以前に作った、怪我に効く軟膏が入っている。大鍋で作ったために大量にできていたので、レイラは容器ごと先生に手渡した。
スネイプは驚いたような顔をしたが、諦めたようにしてガウンを膝までたくし上げる。血の跡が残ったままだ。
「忠告しておくが、四階の禁じられた廊下には立ち入らないことだ。あそこは生徒には危険だ」
「……禁じられた廊下ですか、心得ておきます」
本当はもう入ってしまった、とは言えない。スネイプがこちらをじっと見つめてくるが、レイラはどうしたのかという風を装い、小首を傾げて誤魔化す。スネイプは軟膏を指でとって、それをそっと傷口に塗る。
レイラは辺りを見回し、すぐそばの机の上に置かれた、『クィディッチ今昔』という本を見つけた。背表紙の裏に貼られた貸し出しカードの最後の名前は、ハリーのものだった。
「先生、これは?」
「ミスター・ポッターが図書館の本を校外に持ち出していたため、吾輩が没収したのだ」
––––ああ、あの嘘のようで本当の校則か。
きっとまた減点されたんだろうが、それにしても……
「ハリーのことが、お嫌いですか?」
「ッ!?」
そこでスネイプ先生は珍しく動揺をあらわにした。
「英雄だともてはやされるからですか? それとも」
レイラは一度言葉を区切った。そしてまっすぐにスネイプの目を見る。綺麗なアーモンド型の目、緑色の瞳で。
「父と母が、嫌いなのですか?」
ガタリと、足の痛みも気にせずにスネイプは勢いよく立ち上がった。レイラ自身、この質問はスネイプ先生に効果的だろうと踏んでいた。
あの夜、母親を抱いて泣いたスネイプ先生が、母を嫌っていたとは微塵も思っていなかった。ただ父親に関してはわからないでいた。
「君の母親を、リリー・エバンズを、私は嫌ってなどいない!」
スネイプ先生は呼気を荒くしてそう告白した。
「……では、父のことを?」
父。と言ったところで、スネイプ先生は顔をしかめた。これは当たりだろうと、レイラは予想する。
「…………ああ、その通りだ。吾輩と君のお父上には確執が存在した。それを無くすことなど到底、できない」
スネイプは顔を伏せて、うつむいた。
「母が死んだ夜……」
レイラの声にぴくりと、ねっとりとした黒髪が揺れる。
「あなたは母を抱いて泣いていた」
「な、なぜ……それを君が」
レイラは後ろ手を組み、なんて事のないようにふわりと微笑む。その表情は、整った彼女の顔立ちとあいまって、どこか儚げだった。
「覚えて、いるんです。時間を稼ぐと言った父が戻ってこなかったこと。母があの男に殺されるところを」
「君は……」
レイラはニコリと笑って、スネイプ先生の言葉を遮った。
「ハリーは知りませんけどね」
スネイプ先生は押し黙ったが、絞り出すように声を出した。
「その事を、誰にも言わないでくれ。私がポッターの息子を助けることがあるかもしれない。もしそのことに気づいても、それを誰にも……」
「……ええ、いいですよ。ここで話したことは、胸の内に閉まっておきます」
ちょうどフィルチが職員室に包帯を持って入ってきたので、レイラは一礼し、ついでに置かれていた『クィディッチ今昔』を持ってその場を後にした。
レイラが立ち去った後、別の道から職員室に来たハリーは、スネイプ先生の足にズタズタの傷があるのを偶然にも見てしまった。
◇
ホグワーツの四つの寮が様々なことで獲得した得点は、大きな砂時計に表示される。レイラはちらりと砂時計を見て、トロール事件の後にスリザリンへ加点がされていた事を知った。
「先生を呼んだアルフレッドの功績、だろうな」
コツコツと歩き出したレイラは、持って来た本をハリーに返そうとグリフィンドール塔を目指した。
階段をいくつも登って、グリフィンドールの寮まで目前というところで、レイラは首なしニックに遭遇した。
「おや、こんにちはスリザリンのお嬢さん。ここはグリフィンドール塔ですよ?」
「こんにちはサー・ニコラス。弟のハリーに本を渡しに来たんです」
「なんと、あなたがレイラでしたか。呼び止めて失礼しました。寮はあちらです、合言葉は『豚の鼻』ですぞ」
「ありがとうございます」
これで寮にすんなり入れる。とレイラは喜んだ。実際のところグリフィンドール寮の合言葉は知らなかったので、寮の前でグリフィンドール生を捕まえて入れてもらうつもりでいたのだ。
太った婦人は見知らぬスリザリン生であるレイラを訝しんだが、ハリーに本を渡しに来た旨と、合言葉を告げたことで入り口を開けてくれた。
中に入れば生徒は二人しかおらず、どちらもレイラの知っている人物だった。ロンとハーマイオニーだ。
「ハリー大丈夫かな」
「職員室だもの、きっと他の先生もいらっしゃるわ。そうしたらスネイプだって本を返してくれるわよ」
「おや、なら行き違いになったね」
二人は突然背後から聞こえた声にビクリと肩を跳ねさせた。
「レイラ!?」
「なんで君がここにいるんだ? グリフィンドール寮だぞ」
驚いた様子の二人に、レイラはいたずらが成功したように笑みを浮かべた。
「ハリーに本を返そうと思ってね。『クィディッチ今昔』だよ。職員室に行ったらたまたま置いてあったから、持ってきた」
「わお。それをハリーから取り上げたのスネイプなんだぜ」
うん、知ってる。とレイラは心の中で呟き、本をロンに渡した。そこへちょうど、ハリーが息を切らせて入ってきた。
「やあハリー」
「あれ、レイラがどうしてここに?」
息の乱れたハリーを落ち着かせ、レイラはロンとハーマイオニーにした説明をハリーにもした。
落ち着いてきたハリーは、思い出したように真剣な顔で三人を側に集めると、自分が先ほど職員室で何を見てきたのかを話した。
ハリーが見たものはレイラと同じ、スネイプの足の怪我だった。それを見たハリーをスネイプが咎め、急いで寮に戻った。ハリーはスネイプの怪我から、先日のトロール事件の犯人はスネイプだろうと考えた。
そしてスネイプは禁じられた廊下にいた三頭犬の守りを突破して、廊下にあった隠し扉に入ろうとしたが失敗した。という推測をした。
レイラはハリーの話を聞いて、三頭犬を見た夜のことを思い出していた。確かにあの廊下には、床に隠し扉が作られていた。校内に危険な生物を置いてまで守るものを、レイラは知ろうとは思わなかった。学生である自分が関わるべきではないと思っていたのだ。
ロンはハリーの意見に賛成したが、ハーマイオニーは先生を疑うなんてと否定的だった。
レイラとしてはスネイプ先生が犯人ではないという考えだが、もしも隠し扉の先へ進もうとする者がいたとしたら、それは誰だろうか。
思考の海に沈みそうになったが、今いる場所がグリフィンドールの寮であることを思い出した。ハリーたちにまた明日と声をかけ、レイラは寮を後にした。
◇
翌日。大広間には生徒たちが集まり、クィディッチの試合に想いを馳せていた。
最初の試合である今日は、グリフィンドール対スリザリンの対戦が行われる。
「すごいな、みんな落ち着きがない。そんなにおもしろい競技なのか」
「おれも実際に見たことは少ないが、おもしろいぞ」
クィディッチ競技場に向かって、レイラとアルフレッドは歩いていた。
「それで、ポッターたちはスネイプ先生が怪しいと」
「ああ。足を怪我していたことから、スネイプ先生が一番怪しいからな」
怪しいのは確かだが、レイラは違う考えをしていることをアルフレッドに告げた。
「先生はわたしに、禁じられた廊下には入らないよう釘を刺した。わたしが犯人なら、生徒を犬の餌にして、その間に隠し扉を開けるよ」
「餌って……」
「物の例えさ、本気じゃ無い」
ひらひらと手を振って、レイラは笑った。
「しかし、誰がなんの目的でそんなことをする?」
「あとは、中に何が隠されているのかだな。俺の方で調べようか?」
「いや、いい。なるべく関わるべきじゃ無い。それに、大事な物を隠すなら先生方が策を講じているはずさ」
楽観的だが、わたしたちはただの学生なのだ。それも一年生に、一体何ができるというのか。
——わたしの場合、ハリーの肉壁になるか手当てをするくらいだね。
十一時には、観客席は生徒で溢れかえっていた。
レイラはアルフレッドとともに最上段に座る。その下の席にはマルフォイ、クラッブ、ゴイルが身を乗り出して選手たちの登場を待っていた。
グリフィンドールの応援席を見れば、布製の旗にシンボルマークのライオンが描かれ、その上に「ポッターを大臣に」と文字が書かれていた。
大歓声が上がり、選手たちが入場してくる。グリフィンドールの先頭に立つのはキャプテンのウッドとハリーだ。
「さあ皆さん、箒に乗って」
フーチ先生が審判を行うようで、競技場の真ん中に立っている。胸元に下がる銀色のホイッスルを咥え、クアッフルを手に持つ。足元に置かれたブラッジャーとスニッチの入った箱を足で小突くと、ひとりでに蓋が開いてボールが飛び出していった。そして最後にクアッフルを空高く投げて笛が鳴る。試合開始の合図だ。
クアッフルをグリフィンドールのアンジェリーナ・ジョンソンが取り、試合は素早く展開していく。
グリフィンドールが素早く二十点を先取し、スリザリンが追いかける形だ。三十点目を取ろうとしたグリフィンドールのチェイサーが、後頭部にブラッジャーを受けて落下した。悲鳴が上がり、フーチ先生が様子を見に箒で駆ける。その時レイラは金色の閃光を目にした。
スリザリンのチェイサー、エイドリアン・ピュシーの耳を掠めて飛翔するそれは、金のスニッチだ。実況のリー・ジョーダンが「スニッチだ!」と叫ぶや否や、観客席から立ち上がる生徒が大勢いた。
そしてシーカーであるハリーと、スリザリンのシーカー、テレンス・ヒッグズはスニッチを追いかけて速度を上げた。
ハリーはヒッグズよりも速く、スニッチとの距離も近かった。しかしハリーをスリザリンのキャプテンであるマーカス・フリントが体当たりで妨害した。
このことがグリフィンドールにフリーシュートを与えることとなったが、シュートの間にスニッチの姿は見えなくなっていた。
試合が再開された時、既に立っていた生徒は観客席に座り直していたが、レイラは入れ替わるように一人だけ立ち上がった。
「レイ?」
「アルフレッド、双眼鏡はあるかい」
アルフレッドは疑問を覚えつつも、懐から双眼鏡を取り出して渡した。そしてレイラの視線の先を追い、そこにいる人物を見つけた。
「ポッターがどうかしたのか」
「……箒の動きが変だ。まるで、操られてるみたいだ」
アルフレッドはハリーを注視し、同意した。ハリー以外の者が妨害を働いていると。
「箒に魔法をかけるなんて芸当、学生には難しい。来賓席と先生方の席を見ろ、おそらく犯人は瞬きをせずに口を動かしている」
「わかった」
レイラは言われた通りに来賓席を見る。口を動かしている人は多かったが、試合展開に白熱しているだけのようで、全員がチェイサーたちを追ってあちこちに視線を動かしている。
次に自分たちのいる位置からは最も遠い職員席を見て、すぐに発見した。ハリーを視界に捉え、目を離さずに絶え間なくブツブツと呟く人物が二人。スネイプ先生と、いつになく真面目な顔をしたクィレル先生だ。
「いたよ。……二人だけど」
「うん? なら片方が反対呪文を唱えているのか」
「ここからじゃ届かないな」
トネリコの杖をそっとクィレルに向けて構えて、レイラは不機嫌そうに呟く。表情こそ変わってはいないが、彼女は怒っていた。
ならばとレイラは立ち上がって職員席へ向かおうとしたが、足を止めた。目の前に、妖精が浮かんでいた。ホグワーツに始めて来た時に見た、深緑色のツインテールの妖精だ。レイラの目の前に躍り出て、嬉しそうにくるりと回転する。
それを見たアルフレッドが、ニヤリと笑った。
「レイ、妖精が力を貸してくれる」
「妖精が?」
サワリと、レイラは目の前の妖精から自身へ魔力が差し出されるのを察知した。
——貸してくれるって、こういうことか。
「いいのかい?」
問いかければ、妖精は「まかせて」と言うように自分の胸を拳でトンと叩いた。
レイラは再び杖を構える。彼女の様子に気づいたものはいない。差し出された妖精の魔力を受け入れ、杖を振るう。
拳大の風が形成され、一直線にクィレル目掛けて飛翔する。ちょうどハーマイオニーがスタンドにたどり着き、クィレルのそばを通ろうとしているところに当たった。レイラにとって、あたかもハーマイオニーとぶつかった風になったのは嬉しい誤算だった。
クィレルが転倒し、レイラは視線をハリーに移す。箒の制御が戻ったようで、動きが止まっている。ちょうどその時、ハーマイオニーがスネイプ先生のローブに火をつけたところだった。普段のスネイプ先生の態度からして、疑われるのは仕方ないけれど、これは可哀想だとレイラは思ったのだった。
スネイプマント発火事件が終わった頃、ハリーは再び箒にまたがっていた。
スニッチを追うテレンス・ヒッグズに追いつき、そして並んだ。スニッチは急降下し、二人もそれを追う。グングン降下していき、スニッチは地面まであと三メートルというところで、地面と水平に飛んだ。ハリーとテレンスが猛スピードで追いかけていたが、地面に激突するかもしれないと恐怖したテレンスが速度を緩めた。
ハリーは構わずに疾走し、箒を地面すれすれで持ち上げた。その技量の素晴らしさに観客席からは歓声が上がる。
スニッチまではあとわずかの距離だ。だが地面すれすれを飛んでいるハリーよりもスニッチは高いところにある。ハリーは意を決して、腰を持ち上げる。驚く事にハリーは箒の上に立ってみせた。そうして手を伸ばしてスニッチに手が触れようとした直後、ハリーは箒から前向きに転倒した。
ゴロゴロと転がり、ハリーは手で口を押さえた。
「ハリー……」
レイラが心配そうに見つめる先で、ハリーはコホンと何かを吐き出した。金色の丸い物体だ。
「スニッチだ!」
「スニッチを取った!」
レイラと競技場のハリーが同時に叫んだ。フーチ先生がホイッスルを吹き、試合はグリフィンドールの勝利となった。
「なあ、アルフレッド」
「うん?」
「あれ、わたしの弟なんだよ!」
声は小さく、しかし嬉しさを押さえられないと言うようにレイラは笑っていた。たった一人の家族の勇姿が、彼女にはとても誇らしかった。
試合が終わってすぐにレイラは、グリフィンドールの選手たちが戻ってくる更衣室前に走った。選手たちが見えると、レイラはその中で一番小さな人物に抱きついた。
「ハリー!」
「レイラ、どうしてここに? グリフィンドール生以外入れないよ!」
「マクゴナガル先生にお願いしたんだ、喜んで許可してくれたよ」
この時、ハリーははっきりとレイラの顔を見た。それは今までの中で一番、嬉しそうな表情だった。
「すごいよハリー、かっこよかった!」
ピョンピョン跳ねて喜びを表すレイラは、周りのグリフィンドール選手たちから見れば年相応に可愛いただの少女だった。
「やれやれ、レイラはスリザリンなんだけどな」
「ああ、こんなところ見せられないな」
フレッドとジョージが愉快そうに笑う。
「スリザリンよりもハリーが大事だよ。二人ともありがとうね、ハリーが箒から落ちそうになった時、下で待ち構えてくれてたでしょう?」
「結局自分で立ち直ったけどな」
「俺たちは何もしてないぜ」
「それでもだよ」
そこからもう少しだけハリーを褒めちぎり、レイラは控え室前を後にした。
スネイプとの話に重みが、なぁ。
勢いって怖い
( ̄・Θ・ ̄)>心がぴょんぴょんするんじゃ