ふおおぉってなる。
ハリーが「隠れ穴」での生活を始めて数日が経った良い天気の朝。ホグワーツからハリーに手紙が届いた。朝食をとりにロンと一緒に台所に降りて行くと、ウィーズリー夫人とジニーがもうテーブルについていた。ハリーを見た途端、ジニーはオートミール用の深皿を、うっかり返して床に落としてしまった。
「学校からの手紙だ」
ウィーズリーおじさんが、ハリーとロンに全く同じような封筒を渡した。黄色味がかった羊皮紙の上に、緑色のインクで宛名が書いてあった。
「ハリー、ダンブルドアは、君がここにいることをもうご存知だ——何一つ見逃さない方だよ、あの方は。ほら、お前たち二人にも来てるぞ」
パジャマ姿のフレッドとジョージが、目の覚めきっていない足取りで台所に入って来たところだった。
みんなが手紙を読む間、台所はしばらく静かになった。ハリーへの手紙には、去年と同じく九月一日にキングス・クロス駅の9と4分の3番線からホグワーツ特急に乗るように書いてある。新学期用の新しい教科書のリストも入っていた。二年生が新しく揃える教科書は八冊あり、ミランダ・ゴズホーク著『基本呪文集』が一冊と、他七冊がギルデロイ・ロックハートという、最近有名らしい魔法使いの本だった。
ハリーたちが朝食を取っているところへ、エロールという年老いたフクロウが手紙を運んで来た。手紙の差出人はハーマイオニーだった。ハリーの安否や、勉強をしっかりしているのかを気にかけていて、ロンが「まじかよ」と勉強の心配についてうめいていた。最後には水曜日にダイアゴン横丁に行かないかと書かれており、それを聞いたウィーズリーおじさんがダイアゴン横丁に行くことを決定した。
ちょうどそこへ、見覚えのないフクロウが一羽、飛んで来た。開けられていた窓枠にふわりと留まり、くちばしで加えていた手紙をハリーが受け取る。
「誰からだい?」
ロンが尋ねた。差出人を見れば、レイラの名前が書かれていた。
ハリーへ
アルフレッドに手紙を出してくれてありがとう、今は彼のところでお世話になっています。ウィーズリーさんのお宅では楽しく過ごせているかな? そちらに行けないことが残念だけど、こちらは自然が豊かで新しい発見が多いよ。
教科書を買いに行くなら、一緒に行かない? 返事は手紙を運んでくれたフクロウに渡して欲しい。
レイラ
「あら、ちょうどいいじゃない」
ウィーズリーおばさんがテーブルを片付けながら言った。食事を終えたハリーは、急いでレイラの手紙への返事を書いた。水曜日にダイアゴン横丁に行く事を記した手紙をフクロウに持たせると、ロンたちとのクィディッチの練習に向かった。
——水曜日。
レイラは教科書を買うべく、アルフレッドとともにダイアゴン横丁を訪れる前。夜の闇横丁という、不気味で怪しげな人や店が多い店の一つに二人はいた。常若の国に多く置かれていた魔法薬の書物の中から、レイラが挑戦する薬の材料を買いに来たのだ。一ヶ月も夏休みがあれば、いくつかの難しい魔法薬を作ることができるだろうと考えたからだ。
二角獣の角。毒ツルヘビの皮。クサカゲロウなどのたくさんの材料をカゴに入れ、会計をすませる。そこでレイラははたと気づいた。
——ああ、しまった。グリンゴッツの鍵をわたしが持ってるから、ハリーはお金が引き出せない。つまり教科書を買うお金がないってことだ。
その事をアルフレッドに告げ、店を出る。すると偶然、すぐそばのボージン・アンド・バークスという雑貨屋らしき店からマルフォイ親子が出てきた。ドラコの父親は、息子と同じ血の気のない顔、尖った顎、瓜二つの冷たい灰色の目をしている。
マルフォイ親子はあまり良い顔をしていなかった。聖28族という括りの中でも強力な権力を持つマルフォイ家の人間が、夜の闇横丁に用があるところを見られるのは、あまり良いことではないからだ。
その事を全く気にも止めていないレイラは、学校でするようにマルフォイに話しかけた。
「やあドラコ、こんにちは」
「あ、ああ。やあレイラ、アルフレッド」
「ん、久しぶりだな」
少しぎこちない笑みを浮かべるドラコの肩に手を置き、父親が会釈した。
「はじめまして、ルシウス・マルフォイだ。君たちのことは息子がよく話してくれたよ。なんでも、レイラ君は学年の首席だとか? スリザリン出身の私としては、とても、喜ばしいことだ」
ルシウス氏は本当に嬉しそうに口の端を緩め、次いで「おや」と呟いた。
「レイラ君、弟のハリー君の姿が見えないが、一緒ではないのかね?」
「今は離れてまして、これから探しに行くところなのです」
「おや、ならば我々はここで。邪魔したね」
軽く頭を下げ、ルシウス氏はドラコを連れてダイアゴン横丁の方へと歩いて行く。ドラコは去り際に「学校でまた会おう」と言い、レイラとアルフレッドはそれに頷きで返した。
親子の姿が見えなくなってから、アルフレッドが小さな声で囁いた。
「王から聞いた話だと、ルシウス・マルフォイは昔、『例のあの人』の側にいた男だ。『あの人』が消えた後は、服従の呪文というもので操られていたと主張して戻って来たらしい…………気をつけておいて損はない」
「ふぅん? まあ、ヤツが全盛の頃の恐怖は相当なものだったらしいし、恐れをなして与する者もいただろうな……理解できないけど」
レイラは不用意にキョロキョロとすることもなく、道を歩いて行く。あまり治安の良くなさそうな場所でそんな動きを見せれば、人さらいなんかが声をかけてくることもあると、アルフレッドが事前に教えていたからだ。
一先ずグリンゴッツで必要分なお金を下ろしたレイラは、ハリーを探しながらフローリッシュ・アンド・ブロッツ書店に教科書を買いに来ていた。
店の扉を開けたアルフレッドが入り口で立ち止まり、不思議に思ったレイラが彼の肩越しに店内をのぞき見る。すると驚くことに、さっき会ったルシウス氏と、赤毛の男性が取っ組み合いの喧嘩をしていた。その向こうにはハリーやロンの一家、ハーマイオニーたちがいた。どうやら赤毛の男性はロンのお父さんのようだ。
レイラとしては争いを無視してハリーと合流したいのだが、喧嘩する二人が邪魔で通れない。二人の左側から通ろうとすれば、取っ組み合いながら道を塞がれ、右を通ろうとすれば右にもつれ込む。
短くため息を吐いたレイラはアルフレッドに目で合図して、お互いに摑みかかるおじさん二人の手を掴んだ。
「邪魔です」
「なんだと? 君は……」
「おや、また会ったよう……」
二人は言葉を言いかけて、途中でやめた。自分たちの腕を掴む細腕の少女から、怒気を感じ取ったからだ。
「いい歳した大人同士が、公衆の面前で示してくれるお手本は良い勉強になります。あちらにいる記者の方が、明日にでも新聞という教科書に載せてくれるでしょうね」
ニッコリと。笑っているのに雰囲気が完全に笑っていないレイラに気圧され、二人はスゴスゴと離れる。ルシウス氏はドラコを呼ぶとウィーズリー家の小さな女の子に近づいた。
「ほら、君の本だ。君の父親からしてみれば、これが精一杯だろう」
ドラコに目で合図して、ルシウス氏はさっさと店から出て行った。ドラコはレイラの前に来ると、バツが悪そうに頭を下げて、父親の後を追った。
レイラとアルフレッドは、合流したハリー達と一緒にお昼ご飯を食べることにした。その席でレイラはウィーズリーおばさんとおじさんに、ハリーがお世話になっていることのお礼を言った。おばさんは優しそうに微笑んで、「いつでも頼ってくれていいのよ」と言ってくれた。
軽食屋での昼食の席は、ハーマイオニーやジニーと並んで食べた。ハーマイオニーからは夏休みの勉強はどうしているのかを主に聞かれ、手紙はちゃんと届いていたかを聞かれた。レイラは正直に、ドビーという屋敷しもべ妖精が手紙を止めていたこと、勉強はそこそこにしていることを告げる。
ウィーズリー家の末っ子、ジニーの一言でレイラの話に花が咲いた。
「普段のハリーってどんな感じなの?」
——普段の、ハリー? そうだなぁ……
「叔父の家にいる時は、叔父の子を驚かせたりしてよく怒られてるかな。素直でいい子なんだよ? 思ったことをちゃんと言ってくれるし、最近では料理も少しできるようになってきたね。最初はわたしが全員分を作っていたんだけど、ここ最近自分で作りたいって言うようになったんだ。思えばホグワーツに入る少し前から、あんまりわたしに頼ってくれなくなってきたんだよ。そこがちょっと寂しいけど、嬉しいところだよね。それで…………」
ハーマイオニーがポカンとしてご飯を食べていた手を止め、ジニーは食い入るように聞き入っている。レイラはエンジンのかかった車のように話し続け、見かねたアルフレッドが止めるまで続いた。幸いにもハリーは話を聞いていないようで、ロン達とクィディッチの話題で盛り上がっていた。
「あなた、もしかしてブラコン?」
「んー、違うと思うよ。でも、とっても大切な弟なんだ」
たった一人の家族だからね。そう言ってハリーを見たレイラの顔はどこまでも優しく、店の天窓から射す光もあって、どこか神秘的な様子を醸し出していた。レイラはハリーに向けていた顔を、今度はジニーに向けた。ドキリとしたジニーを観察して、レイラは嬉しそうに目元を緩めた。
「自信を持ってね」
「え?」
「ううん、なんでも。ただの独り言さ」
二角獣の角。毒ツルヘビの皮。クサカゲロウ……
一体ナニを作るんでしょうねぇ
そうそう、二巻で出て来る有名な薬ですが、死の秘宝Part1に出て来るときには少量で効果を発揮し、しかも吐いてる人はいなさそうでしたね。(映画版です)