ハリー・ポッターと不死鳥の姉   作:駆華野 志想之介

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投稿せずに書いていたら一万字超えそうだったので分けて投稿します。


不思議な手紙

始まりは二通の手紙だった。

郵便受けが開き、郵便が玄関マットの上に落ちる音がした。バーノンがダドリーに取って来いと言い、ダドリーがハリーに取らせろと言い合っている間にレイラが手紙を拾い上げる。

全部で四通、絵葉書と茶色の封筒、他の二通は同じ封筒なので伯母夫婦宛てかと裏を見て、レイラはキッチンへ向かう足を止めた。

ハリーとレイラ宛てに手紙が来ていたのだ。記憶が正しければハリーもレイラも手紙をもらった経験などない。

しかし、宛名には、

 

サレー州 リトル・ウイジング

プリベット通り4番地 階段下の物置内

レイラ・ポッター様

 

と、そう書かれていたし、ハリー宛てのものにも同じ内容の宛名があった。

震える手で封筒を裏返す。紋章入りの紫色の蝋の封印。真ん中に大きな“H”が書かれ、その周りをライオン、鷲、穴熊、ヘビが取り囲んでいた。

レイラは左目を掌で覆い、ふとある一言が脳内で蘇る。

(十一歳になったら、ホグワーツで会おう)

あの半月メガネの老人がそう言っていた。まさか。そう思いつつ左目を抑えてキッチンへと向かう。

おじさんに二枚の封筒を渡し、ハリーにも手紙を渡す。おじさんは受け取った手紙に意識を向けており、封筒の方を開けると不機嫌にフンと鼻を鳴らし、次に絵葉書を読んだ。

 

「マージが病気だよ。腐りかけた貝を食ったらしい……」

 

そうペチュニアおばさんに伝えたその時、ダドリーが叫んだ。

 

「パパ!ねえ!ハリーとレイラが何か持ってるよ」

 

それを見たおじさんが席に着こうとしていたわたしと、今まさに手紙の中身を見ようとしたハリーの手紙を素早くひったくった。

 

「それ、僕のだよ!」

ハリーが奪い返そうとするが、おじさんはせせら笑い、手紙に目を落とす。とたんに、おじさんの顔が交差点もかくやという速度で赤から青に変わった。そしてそのすぐ後には白っぽい灰色に変わった。

手紙を読みたいハリーと興味津々のダドリーにせっつかれ、とうとう怒ったバーノンおじさんがわたしたち三人を部屋の外に放り出した。扉から聞こえてくる話し声に三人して扉に張り付く形で漏れてくる声を聞こうとした。

返事は書かない、つまり放っておく。そういうことにしたらしい。

興味をなくしたダドリーが扉から離れ、話し合いが終わり、二人が扉を開ける可能性を危惧したハリーもその場を離れた。

レイラだけが残り、一人扉を見つめている。

 

「“H”……ホグワーツ、か」

 

左目を覆っていた手の隙間から、赤が覗いていた。

 

 

 その日帰ってきたバーノンおじさんによって、わたしたち双子の部屋が階段下の物置から変更になった。

 ハリーは今までダドリーが使っていた二つめの部屋を。わたしは今まで通り物置でもいいと言ったのだが、バーノンおじさんがおかしな程それに反対し、結果として二階に上がって左の突き当たりの、階段下の物置の代わりに物置と化していた部屋に移ることになった。

 

 そして翌朝、不気味に思えるほど優しくレイラとハリーに接してきたバーノンおじさんだったが、ダドリーが玄関前から持ってきたハリーとレイラ宛ての手紙を見ると椅子から飛び上がった。

 男三人による手紙の奪い合いという珍妙な光景を眺めつつ卵を焼いていたレイラは、ホグワーツが何であるかを思案していた。

 手紙の争奪に加わらないのはどうせまた来るだろうと考えたからだ。今日もまた来たということは明日も来る可能性があり、バーノンおじさんも何度めかで折れてくれると踏んでいた。そうはならなかったんだけどね。

 

 その翌日、おじさんは会社を休み、郵便受けを釘と板で塞いでしまった。

 

 さらに次の日、郵便受ではなく玄関のドアの隙間から押し込まれたり、トイレの小窓からも手紙が合わせて二十四通も届いた。

 バーノンおじさんはまた会社を休み、家の隙間という隙間を塞いだ。

 

 さらにさらに、次の日。

 四十八通の手紙が家の中に忍び込んできた。牛乳配達が卵を二ダース、居間の窓からペチュニアおばさんに手渡したが、その卵の中にも手紙が入り込んでいた。

 ペチュニアおばさんがミキサーで手紙を粉々にした。

 

 日曜の朝、バーノンおじさんは嬉しそうに朝食の席に着いていた。

 

「日曜は郵便は休みだ」

 

 新聞にママレードを塗りたくりながらおじさんは嬉々としてみんなに言った。

とうとう行動がおかしくなっちゃったか。パンと新聞の見分けがつかないなんて。

 

「今日は忌々しい手紙なんぞ――」

 

 そう言い終わらないうちに、何かがキッチンの煙突を伝ってヒューッと落ちてきて、おじさんの後頭部にぶつかった。

 それに続くように、暖炉から雨あられと手紙が飛び出してくる。

 

「出て行け。出て行くんだ!」

 

 みんな顔を隠しながらキッチンから出ようとする。もう耐えきれないとばかりにバーノンおじさんが叫んだ。

 

「もうたくさんだ。ここを離れるぞ!」

 

 手早く荷物をまとめると、一家は車に乗り込んだ。一日中車を走らせて、たどり着いたホテルで一夜を明かした。

 翌朝、かび臭いコーンフレークと、缶詰の冷たいトマトをのせたトーストの朝食をとった。ちょうど食べ終わった時、ホテルの女主人がやってきて、わたしたち宛ての手紙が百通ほど届いたと知らせてきた。

 ハリーが受け取ろうとしたのをバーノンおじさんが払いのけ、引き取ると言って女主人と食堂を出て行った。

 

 

 そして現在、レイラたちは海にポツンとある岩、その上に建っているみすぼらしいオンボロ小屋にいた。

 あちこちを回ったおじさんがここならと言い、これまたオンボロな船に乗って岩までたどり着いた。

 ヒューヒューと風が吹き込み、雷のゴロゴロという低い音の中、レイラとハリーは同じボロの布にくるまって寝ていた。

 しかし眠ることはしなかった。ダドリーが言っていたが、「グレート・ハンベルト」という番組が本日放送されるらしく、見たいと喚いていた。

 そのことから今日が月曜日、あと数分後には七月三十一日の火曜日だとわかった。

 つまり、レイラとハリーの十一歳の誕生日だ。

 ダドリーの腕に付けられている蛍光文字盤つきの腕時計を見るとあと一分を切っている。隣にいるハリーが嫌がらせにダドリーを起こそうとしていた。なにしてるの。このやんちゃなところは両親のどちらかに似たのだろうか。そうだといいな。

 あと三十秒……二十秒……十秒……五……

 あと一秒……

ドーン。

 午前零時ちょうどになった瞬間、誰かが小屋のドアをノックしている。

ダドリーが寝ぼけた声を上げて飛び起きる。

ドーン。

 奥の部屋から何かが崩れ落ちる音がして、バーノンおじさんがライフル銃を手に、すっとんできた。なんでそんなもの持ってるの。

 

「誰だ。こっちには銃があるぞ!」

 

 おじさんが叫んで一瞬の空白が生まれた。そして……

バターン!

 轟音を上げて扉が床に落ちた。戸口に立っていたのは毛むくじゃらの大男だった。

「…………っ」

 

 レイラは息を呑んだ。

 あの男だ。夢に出てきた、いや、夢ではなかった。あの日、自分の父と母が自分たちを庇って死んだあの日、オートバイに乗っていたあの大男だ。

 その大男は窮屈そうに部屋に入ってくると、グルリとみんなを見渡した。ダドリーが金切り声を上げて逃げ出し、母親の陰に隠れた。おばさんは震えながらおじさんの陰にうずくまっていた。

 

「オーッ、ハリー、レイラ!」

 

 ハリーは大男が目をクシャクシャにして笑いかけてくるのを見て恐ろしく思えた。

逆にレイラは大男に近づこうとしたが、バーノンおじさんが奇妙なかすれ声を出して前に出た。

 

「今すぐお引き取り願いたい。家宅侵入罪ですぞ!」

「黙れ、ダーズリー。腐った大すももめ」

 

 と言うや否や、大男はおじさんの持つ銃の銃身を掴むと軽々と曲げてしまった。

 

「何はともあれ、ハリー、レイラ」

 

 大男はこちらに近づくとポケットからひしゃげた箱を出した。

 

「お誕生日おめでとう。少々潰れちまたったが、味は変わらんだろう」

 

 差し出されたハリーが箱を受け取り、震える指で箱を開ける。中身は溶け始めているチョコレートケーキで、緑色の砂糖で、『ハリー、レイラ お誕生日おめでとう』と書いてあった。

 お礼を言おうとしたハリーだったが、言葉が迷子になってしまい「あなたは誰?」と言ってしまった。

 大男はクスクス笑いながら答えた。

 

「まだ自己紹介をしとらんかったな。俺は」

「ハグリッド」

「なに?」

「なんだって?」

 

 ハリーと大男が同時に声を上げる。

 二人の視線の先には、両手を胸の前で組み、左の瞳を赤く染めたレイラがいた。

 

「覚えています。父と母が亡くなったあの日、わたしたちをオートバイに乗せていた。違いますか?」

 

 大男はしばし呆然としていた。それは他の人物も同じであり、ダーズリー夫妻も驚愕に目を見開いて、ブルブルと震えていた。

 やがて大男がレイラの前に来ておもむろに口を開いた。

 

「その通りだ。お前さんたちを俺がこのダーズリーの家まで運んだんだ」

 

 そこまで言うと、ハグリッドはポケットからハンカチを取り出して涙を流していた。やがて泣き止むと、汚れたハンカチをしまいつつ、レイラの頭を撫でる。

 

「すまねぇ。レイラが覚えてるってことはハリーもか?」

 

 ハリーはブンブンと首を横に振る。それもそうだろう。もしハリーが覚えていればレイラに何かしらを言っているだろう。

 

「でも、わたしが知ってるのは他の二人のこととか、十一歳になったらホグワーツで会おうってことぐらい。ねぇハグリッド、ホグワーツってなんなの?」

 

 ハグリッドはその瞬間凍りついた表情をした。

 

「なんだと?」

 

 ハグリッドは吠えるような大声を出して、ダーズリーたちを睨みつけた。

 

「ダーズリー、まさかとは思うが、お前さんたちはこの子たちになんの説明もしとらんのか?ええ!」

 

 ダーズリー親子は薄暗いところで、小さくなったままだった。

 

「この子たちが……この子たちともあろうものが」

「なんのことなの?」

 

 ハリーが恐る恐るハグリッドに尋ねる。

 

「ハリー、レイラ。お前さんたちは魔法使いだ」

「なんだって?」

 

 ハリーが思わず聞き返す。

 

「レイラ、一体なんのことなの?」

「わたしにもよくわからないよ。さっき言ったあれは、夢か何かだと思っていたから」

 

 二人のやり取りを聞いていたハグリッドは怒りにワナワナと震えていた。そしておじさんを睨みつけた。

 

「おまえは何も話してやらなかったんだな?ダンブルドアがこの子たちのために残した手紙の中身を、一度も?俺はあの場にいたんだ。手紙があるのもちゃーんと見た!それなのに、おまえはずーっとこの子たちに隠していたんだな?」

 

「やめろ。この子たちは行かせんぞ!」

 

ハグリッドはレイラたちに向き直り真剣な眼差しを浮かべて再び言った。

 

「もう一度言う、お前さんたちは魔法使いだ」

 

 

海の上、

岩の上の小屋、

レイラ・ポッター様

 

 親愛なるポッター殿

このたびホグワーツ魔法魔術学校にめでたく入学を許可されましたこと、心よりお喜び申し上げます。教科書並びに必要な教材のリストを同封いたします。

 新学期は九月一日に始まります。七月三十一日必着でふくろう便にてお返事をお待ちしております。

敬具

副校長ミネルバ・マクゴナガル

 

 

 ハグリッドから手紙を受け取り、それをレイラとハリーは読んだ。二人の頭には次々と疑問が花火のようにはじけていた。先に落ち着いたレイラがつっかえながら聞いた。

 

「あの、このふくろう便てなに?」

「おっとどっこい。忘れるところだった」

 

 そう言うなりハグリッドはコートのポケットから何かを引っ張り出す。

白くて丸いふくろうを取り出すと――ポケットにふくろうを詰め込んでいたの!?――手紙をふくろうの嘴にくわえさせ、戸を開けて外に放った。まるで電話でもかけてきたような当たり前の顔で、ソファに腰掛けた。

 

「ハリーとレイラは行かせんぞ」

「お前のようなマグルに、この子たちを引き止められるもんなら、拝見しようじゃないか」

 

 とハグリッドはうなった。

 

「マグル――ってなに?」気になってハリーは聞いた。

「連中のような魔法族ではない奴らのことだ」

「くだらんゴチャゴチャはおしまいにするとわしらは誓った。魔法使いなんて、まったく!」

「知ってたの?おじさん、僕たちがあの、ま、魔法使いだってこと、知ってて黙ってたの?」

 

 突然ペチュニアおばさんがかん高い声を上げた。

 

「知ってたかですって?ええ、知ってたわ!あのしゃくな妹がそうだったんだから。妹もこれと同じような手紙が来て、さっさと行っちまった。……父と母は我が家に魔女がいるってのが自慢だった。でもリリーは、化け物よ」

 

 ハリーは呆然と聞いていたが、ふと隣のレイラをちらりと見てハッとした。

 唇を噛み締め、拳を握りしめ、左の目が赤く染まっている。

 おばさんはここで息を吸い込むと、何年も我慢してたものを吐き出すように一気にまくしたてた。

 

「そのうち学校であのポッターに出会って、結婚した。そしてお前たちが生まれたんだ。わかっていたわよ、同じだろうとね。両親と同じへんてこりんで、同じように……化け物だって。それから妹は……」

「……………………な」

 

 微かにつぶやかれたそれを、ペチュニアが捉えた。そしてゆっくりと、まるで壊れかけの機械のようにゆっくりとレイラを見た。

 

「なんですって?」

 

 俯いていたレイラは顔を上げると、仇敵でも見るように、ペチュニアを睨みつけた。

「父と母を馬鹿にするな! 命を懸けてわたしたちを守ろうとした、父と母は、わたしたちの誇りだ!!!」

 

 瞬間、ペチュニアおばさんの隣にいる上を向いていたおじさんの銃の銃身がねじ曲がってしまった。

 誰も言葉を発すことができない中、ハグリッドがレイラに歩み寄る。その幼い体を優しく抱きしめ、背中をポンポンと叩く。

 

「そうだとも、お前さんたちの両親は立派な人だ、偉大な魔法使いだ」

 

 レイラが落ち着いたころには、バーノンおじさんたちは隣の部屋に逃げて行った。

 ハグリッドはソファに巨躯を沈めると、持っていた傘を暖炉に向けた。ヒョイと傘が振られると、先端から小さな火が出たかと思えば、たちまち暖炉に火が灯った。ハグリッドは驚くハリーとレイラを見てしまったとばかりに頭をかいた。

 

「あー、俺が魔法を使ったことは人には言わんでくれ。使っちゃいけねえことになっとるんだ」

 

 その晩はそのまま眠ることになり、二人にはハグリッドが分厚いコートを布団代わりによこした。ポケットがゴソゴソと動いていたのでレイラは気になって中を覗いてみた。ヤマネが三匹入っていた。このポケットはなんなのさ、本当に。

 

 

翌朝、ハリーとレイラはハグリッドに連れられ、ホグワーツの入学用品を揃えるため、ロンドン行きの電車に乗っていた。

滅多に電車に乗ったことがない双子。ハリーは窓の外をビュンビュン飛び交う景色を、目をまん丸にして眺めていた。レイラはハグリッドが始めたカナリア色の編み物を興味深げに眺めていた。そのレイラが、ハッとあることに気づいた。

 

「ねえ……ハグリッド」

「ん?」

「わたしたち、お金を持ってないの。叔父さんたちはきっと、少しだって出してくれない」

「そうなんだ。僕たち……お小遣いもないから」

「そんなこと心配いらん」

 

ハグリッドは立ち上がって頭をボサボサ掻きながら言った。

 

「父さんと母さんが、お前さんたちにちゃーんと残してくれているさ。着いたらまず、魔法使いの銀行、グリンゴッツへ行くぞ」

「魔法使いの世界にも銀行があるんだね」

「一つしかないがな。だが、守りは厳重だ。噂ではドラゴンが守る場所もあるらしい」

「「ドラゴン!?」」

 

 驚いたハリーとレイラの声が重なる。ハグリッドは声を弾ませて答えた。

 

「ああ、そう言われとる。俺もドラゴンが欲しいもんだ、いやまったく」

「欲しい?」

「ドラゴンて、飼えるの……?」

 

 そうこう話しているうちに、三人はロンドンに着いた。ハリーとレイラは送られてきた手紙に書いてあった入学用品のリストを確認する。

 

===============

 

  ホグワーツ魔法魔術学校

 

 制服

 一年生は次の物が必要です。

  一、普段着のローブ 三着(黒)

  二、安全手袋(ドラゴンの革またはそれに類するもの)

  三、冬用マント 一着(黒。銀ボタン)

 衣類にはすべて名前を付けておくこと。

 

 教科書

 全生徒は次の本を各一冊準備すること。

  「基本呪文集(一学年用)」ミランダ・ゴズホーク著

  「魔法史」バチルダ・バグショット著

  「魔法論」アドルバート・ワフリング著

  「変身術入門」エメリック・スィッチ著

  「薬草ときのこ一〇〇〇種」フィリア・スポア著

  「魔法薬調合法」アージニウス・ジガ―著

  「幻の動物とその生息地」ニュート・スキャマンダー著

  「闇の力――護身術入門」クエンティン・トリンブル著

 

 その他学用品

  杖(一)

  大鍋(錫製、標準2型)(一)

  ガラス製またはクリスタル製の薬瓶(一組)

  望遠鏡(一)

  真鍮製はかり(一組)

  

 一年生はふくろう、または猫、またはヒキガエルを持ってきてもよい。

 

 一年生は個人用箒の持参は許されていないことを、保護者はご確認ください。

 

===============

 

「本当に魔法って感じだね、楽しみだなあ」

「これ全部ロンドンで買えるの?」

「どこで買うかを知ってればな」

 

 ハグリッドがそう言って立ち止まったのは、ちっぽけな薄汚れたパブだった。

 

「『漏れ鍋』有名なところだ」

 

 道を歩く他の人たちに目を向けるレイラは、彼らの目線を追った。誰一人として「漏れ鍋」に目を向ける人がいないし、まるでそこに店がないかのように通り過ぎて行く。疑問を覚えたレイラはハグリッドに訊ねようとしたが、それよりも早くハグリッドはその巨体をヌッとパブの中に押し込めてしまった。

 店の中はお客さんが何人もいて、ガヤガヤとしていて賑わっていることがわかった。ハグリッドを見たお客さんたちは話を止め、ハグリッドに笑いかけたり手を振ったりしている。バーテンはグラスに手を伸ばし、「やあハグリッド、いつものやつかい?」と聞いた。

 

「今日はだめだ。ホグワーツの仕事でな、ハリーとレイラの入学用品を買いに来たんだ」

 

ハグリッドは大きな手で二人の肩をパンパン叩きながらそう言った。

その言葉で、パブの中はしんと静まり返り、お客さんたちは互いに顔を見合わせる。

 

「やれ嬉しや!ポッターさんか!」

 

トムと呼ばれたバーテンが大きな声を上げる。するとお客さんたちは一斉に席を立つと、ハリーとレイラのもとへと集まっていった。二人は次々と握手を求められ、手を差し出す。今まで邪魔者として扱われて来たハリーとレイラは戸惑いながらも、その全てに応じる。

 

「ドリスです、ドリス・クロックフォード。お会いできるなんて、信じられないくらいです」

「おかえりなさいポッターさんがた。ようこそお帰りで。」

「あなたたちと握手したいと願い続けてきました……舞い上がっています」

 

次々と握手していく中でレイラの目の前に、青白い顔のいかにも神経質そうな若い男が進み出た。

 

「おお、クィレル教授!」

 

ハグリッドが気づかなかったと言うように声を上げる。

 

「二人とも、クィレル先生はホグワーツの先生だぞ」

 

頭部にターバンを巻いたクィレルと握手をしたレイラは、彼からするニンニクの香りに、気づかれない程僅かに顔をしかめた。ニンニク……くさい……やだ。匂いの他に、レイラは自身の左目の奥が疼くのを覚えた。

 

「お会いできて、ど、どんなにう、うれしいか」

「わたしも会えてうれしいです。ホグワーツでは何を教えていらっしゃるのですか?」

「や、や、闇の魔術に対するぼ、ぼ、防衛です」

 

クィレルは、まるでそのことは考えたくないとでもいうように、ボソボソと言った。

次いでハリーとも握手をした先生は、片方の目をピクピク痙攣させながらぎこちない笑みを浮かべると、足早に去っていった。

 

「もう行かんと……買い物がごまんとあるぞ。ハリー、レイラ、おいで」

 

ハグリッドはパブを通り抜け、レンガの壁に囲まれた小さな中庭に出た。

 

「言ったろ、お前さんたちは有名だって。……よし、ちょっくら下がってろよ」

 

ハグリッドは傘を取り出すと、その先端でレンガの壁を三度叩いた。するとレンガが震え、次にクネクネと揺れた。そして真ん中に隙間ができたかと思うとそれはどんどん広がり、次の瞬間、目の前に大きなアーチの入り口ができた。アーチにはこう書かれていた。

ダイアゴン横丁、と。

 

「ダイアゴン横丁へようこそ」

 

ハリーとレイラが驚いているのを見て、ハグリッドはニコーッと笑った。




ペットについては、もしかしたら何かレイラが飼うことになってもいいように、「一年生は」と変えさせていただきました。
*レイラさんは時折口調が変わります。
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