ハリー・ポッターと不死鳥の姉   作:駆華野 志想之介

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ハロウィーンパーティー

 ハロウィーン当日。ホグワーツ城内にはパンプキンパイの焼ける匂いが充満し、生徒たちは今か今かとパーティーの開催を待ち望んでいた。

 今日は土曜日のため授業はないが、ハロウィーンパーティーでダンスが行われるため、制服での参加が義務付けられていた。ウィーズリーの双子は廊下で魔法や花火を打ちまくり、それ以外の生徒たちも思い思いの方法でお祭り気分を味わっていた。

 そんな中でレイラは一人、女子トイレに遊びに来ていた。普段は一緒に行動するアルフレッドは、用事があると言って別行動だ。どうやらレイラが不死鳥になった真犯人を妖精王だと睨んでるらしく、抗議の手紙を書くのだとか。そこでレイラは、変身術の練習にと三階の女子トイレを選んだ。スネイプ先生から教えてもらった特殊な部屋でも良かったが、この日は誰かと話したい気分だったのだ。

 けれど、普段このトイレを使用する女子生徒は一人としていない。それもそうだろう、このトイレを利用しようとして、落ち着いて使えるわけがない。なぜなら三階の女子トイレには、嘆きのマートルがいるのだから。

 

「あら、レイラじゃない。私をいじめに来たの?」

「あはは、わたしがそんなことをするように見えるかい」

 

 女子トイレの最奥の壁に取り付けられたステンドグラスの淵に腰掛けたマートルが、にこやかに笑っていた。

 ステンドグラスからの鮮やかな光の色彩を透過させる彼女の体は全体的に透けていて、一目でゴーストになっているということがわかるだろう。彼女は、ホグワーツ在学中に亡くなった生徒だった。けれど自分が死んだことはあまり気にしていないらしい。というのも、彼女がゴーストとなったのは今から五十年も昔のことらしい。

 レイラがマートルと出会ったのはほんの数日前のことだった。『必要の部屋』という、スネイプ先生に教わった変身術の練習部屋がある。とある廊下に、バーナバスがトロールにバレエを教えようとしている絵画が飾ってある。その絵画の反対側にある壁を、必要なことを考えながら三往復する。そうすれば、『必要の部屋』への入り口が壁に現れるのだ。

 誰にも邪魔されない練習場所とレイラが念じながら三往復して出現した扉の向こうには、トロトロと燃える暖炉と、休むためのソファ以外には何もない広い空間があったのだ。望んだ空間を与えてくれる『必要の部屋』はとても素晴らしいのだが、今日は休日であり、廊下にはたくさんの生徒が出歩いている。スネイプ先生から「あまりこの部屋の存在を明かさないように」と言われているので人目につくようなマネはできない。

 そこでレイラが思いついたのが、三階にある女子トイレだった。普段から人が寄り付かず、行ってはいけないとまで噂されるそこはちょうどいい隠れ蓑となると考えたのだ。

 そこでレイラは実際にこのトイレに入ってみた。誰も寄り付かない割には、トイレ内は整備が行き届いていて、清潔感すら感じさせた。ここなら。そう思ってレイラは入り口に『人検知呪文』を張り、不死鳥への変身を試みていた。その時レイラは、トイレの配管を通って便器から現れていたマートルが背後にいることに気づけなかった。

 その時から二人は秘密を共有、もとい、レイラが一方的に掴まれている。幸いなことにマートルは性格に多少の問題があるが、好き好んで人の秘密を言いふらすたちではなかった。それに加えて、落ち着いているときは明るくて笑顔の似合う普通の女の子だった。そのことに気を許したレイラはその後も何度か、女子トイレを練習場所として使うようになった。

 本人は意識したことも、実感したこともないが、レイラ・ポッターという少女は天才だ。しかし彼女自身がそう思わないのは、彼女が行ってきたたゆまぬ努力ゆえであろう。自分はほかの生徒たちよりも魔法学校でのスタートで遅れている。だからその分は勉強で、実技練習で補わなくては。そう思って、思い続けて努力してきたし、いまなお努力している。『動物もどき』という魔法は、一朝一夕でものにできる魔法ではない。

 本来なら動物の姿を現すまでに数か月から一年は必要とされ、それを全身、いつでも変身できるようになるのは至難である。どれほどの成績優秀者でも年単位の時間がかかるとされているが、レイラの場合は土台が違った。彼女は最初から不死鳥へと変身することができてしまった。本人の意思とは関係なくではあるが、行き着くべき道の果てをすでに知った状態にいた。そうなれば、あとはその道をたどるだけであった。

 持ち前のセンスと努力。先生からの的確なアドバイスをもって、レイラは『動物もどき』の魔法を確実に習得しようとしていた。

 

「んー、時々鳥人間になったりするから、まだまだか……」

「ましになったほうじゃないの、ここに来た頃なんて……頭だけ鳥になっていたんだもの」

 

 マートルはお腹を抱えて笑い出してしまった。レイラとしては忘れてほしい思い出だが、あまりにもインパクトが強かった。『動物もどき』に失敗すると、体の一部だけが動物に変身してしまう。この場所はトイレであり、洗面台には鏡が設置されている。レイラは変身に失敗して頭だけが不死鳥に変身してしまった姿を鏡越しに見てしまい、とても恥ずかしい思いをしたのだった。

 そんなことを思い出しながら、レイラは変身術を行使する。マートルが見守る前で、見る見るうちに赤と橙色の荘厳な羽毛を持つ、不死鳥へと変身していった。珍しく、そして完璧に成功した。瞬きほどの時間で完了した変身に、マートルは拍手を送った。

 

「やっぱり、あなたが変身する様子はとっても美しいわね」

 

 ほれぼれした様子のマートルの側へ、レイラは不慣れながらも羽根を羽ばたかせて飛んでいく。ステンドグラスのふちに降り立つと、変身を解き、腰を下ろす。

 

「ふう。まだ全然慣れなくてね、疲れるよ」

「弟を守るため……だったかしら? あなたも無茶をするわね」

「ふふ。もし君がハリーに会っても、わたしと友達だってこと以外明かしちゃいけないよ?」

 

 言い聞かせるように、微笑みを浮かべたレイラを見て、マートルはそっぽを向いた。

 

「まったく、ハリーもハリーよ。聞けばあなた、これまでも危険な目にあったって言ってたわよね。そのことに気づいていないのかしら」

「そこはまあ、校長なんかが手を回してくれてるからね」

「あっきれた、そんなのただの……いいえ、なんでもないわ」

 

 レイラは笑みを消すことなく「そっか」と呟いただけだった。

 どうやら思いのほか練習に時間を使ってしまっていたようで、校内の喧騒が人気のないここにまで聞こえてきていた。まもなくハロウィーンパーティーが始まるようだ。マートルはパーティーには出ないらしく、ここで二人は別れた。

 

 ハロウィーンパーティーは盛大に行われた。大広間のテーブルどころか、天井にまで飾られた巨大カボチャ。豪華な食事。

 パーティーが始まるや否や、匂いだけでもお腹を空かせられそうな食事に、みんな我先にとかぶりついていった。

 レイラもパンプキンパイを皿に取って食べながら、グリフィンドールのテーブルを見回していた。

 

「ハリー達ならいないぞ」

 

 チキンのグリルをフォークで突き刺しながら、隣に座るアルフレッドが声をかけた。明らかにつまらなさそうな雰囲気を醸し出し始めたレイラに、アルフレッドは苦笑した。

 

「ゴーストのサー・ニコラスがいただろう? あれの没後何周年だかを祝いに行ったらしい」

「ははあ、きっと今頃は腐った料理に驚いているだろうね。ゴーストは風味が強くないと味がわからないから」

 

 今度お菓子でも焼いて差し入れに持って行こうと、レイラが考えていた頃、生徒たちは食事の手を止め、談笑へと移っていた。

 それを受けてダンブルドアが手を叩き、そろそろダンスパーティーを始める宣言をした。

 すると骸骨衣装を見にまとった集団が教師席と寮別テーブルの間にスルスルと現れた。誰かが「がいこつ舞踏団だ!」と叫んだ。彼らはペアを組んで踊る者や、脇で楽器を演奏する者とに分かれていた。一糸乱れぬ華麗な舞。生徒にその美しさを魅せるように近づき、手招きでもするかのように軽やかに引き下がる。芸術的と言える舞踏を見て、生徒たちは無言で彼らを見ている。お調子者のフレッドとジョージも、この時は静かにがいこつ舞踏団を眺めていた。

 四分ほどのダンスを終え、がいこつ舞踏団の面々が恭しくお辞儀をする。すると大広間のあちこちから拍手が湧き上がった。

 

「喜んでもらえたようで何よりじゃ。……では、ダンスパーティーと、洒落込もうかの」

 

 パチン、とダンブルドアが指を鳴らす。するとテーブルの上の料理が消える。最後まで食べていたクラッブとゴイルは残念そうだったが、彼らの真ん中に座っていたマルフォイに急き立てられて椅子から立ち上がっていた。他の生徒たちも、レイラやアルフレッドも椅子から立ち上がる。ダンスパーティーが始まる準備として、まず料理とテーブル、椅子が消えるのだ。いつまでも座っていたら、椅子が消えたときに尻を床に打ち付けるだろう。そのことをわかっている生徒たちは急いで立ち上がっていた。

 もう一度ダンブルドアが指を鳴らせば、全てのテーブルがたちどころに消えて無くなった。テーブルが消えて間も無く、大広間に古いレコード機器が現れ、緩やかなダンス向けの楽曲が流れ始めた。

 まず始めにがいこつ舞踏団が先陣を切るかのように踊りを始め、ついでにダンブルドアとマクゴナガルがペアを組んで踊り始めた。そこからは波が広がるようにして、生徒たちもペアを組んでダンスを始めていく。

 ダンスは強制ではなく、見学に徹する生徒は大広間の壁際で見学していた。ダフネやアステリアも見学をするようで、壁際に置かれていた椅子に座っていた。レイラは二人を見つけるとアルフレッドを伴って近づいた。

 

「や、二人とも」

「あら、レイラ。ルークも」

 

 にこやかに挨拶を交わすレイラと姉を見て、アステリアはレイラが意気揚々としていることに気づいた。レイラは目が合うと、アステリアの手を取ってにこりと微笑んだ。暖かい、安心感のある手だ。

 

「見ててアステリア、ダフネ」

 

 レイラはクルリと振り返ると、アルフレッドが彼女に向けて手を差し伸べた。レイラはその手を取ると、楽しそうにクスリと笑った。

 音楽に合わせて、二人はゆったりと踊る。まるで数少ない一時を味わうように、逢瀬を楽しむかのように優雅に。少し前までは踊れなかったことなど嘘のように、レイラはアルフレッドと息を合わせて踊っていく。

 それを特等席で見ることとなったダフネとアステリアは、息を飲んで二人のダンスに見入っていた。

 

「……きれい」

 

 アステリアがこぼした一言に、ダフネは静かに頷いた。豪奢なドレスを着ているわけでも、プロ並みと言えるほどには上達してもいないレイラ。けれどそのダンスは丁寧で、アステリアに見せるだけではなく、レイラ自身が楽しんでいることがうかがえた。アステリアはそれを、綺麗だと思ったのだった。

 気づけば周りの生徒たちも、レイラとアルフレッドのダンスに目を奪われていた。その様子が何処かおかしくて、二人はクスリと微笑んだ。いつのまにか、二人の隣はドラコが来ており、彼もレイラとアルフレッドのダンスが気になるようだ。ニヤリと笑うダフネと目が合うと、ドラコはフイと顔をそらした。

 ダンスパーティーは一時間ほどだったが、生徒たちからしてみればあっという間に終わったようだった。

 

「とっても、とってもすごかったです!」

 

 興奮冷めやらぬといった様子で、アステリアがレイラの手を握って振っていた。

 パーティーがお開きとなり、生徒たちは各々の寮に戻るために大広間を後にしているところだ。レイラたちも同じで、スリザリンの寮に戻るための道を歩いていた。レイラとアルフレッドが並んで歩き、その周りをアステリアやダフネ、ドラコが取り巻いていた。普段は内向的に見えるアステリアが年相応の女の子のようにはしゃいでいるという光景に、レイラはとても嬉しくなっていた。ダフネも同じようで、嬉しそうな、慈愛に満ちた表情をしていた。

 

「そういえばアルフレッド……なんだ?」

 

 ドラコがアルフレッドに話しかけようとして、前を歩いていた他のスリザリン生が立ち止まったことで話を中断した。

 その時レイラはその場の誰よりも、いっそう険しい顔つきで耳を澄ませていた。

 

「様子を見てこよう」

 

 ドラコが人の波をかき分けて集団の向こうへ消えて行っても、レイラは険しい顔つきのままだ。

 

「レイ?」

 

 異変に気付いたアルフレッドが彼女に声をかけるが、「シッ」とレイラが人差し指を唇の先に当てた。それを受けて、アルフレッドは何かないかと辺りを見回す。

——何か、いる?

 声が聞こえたのはその時だった。

 

「……ああ、血の匂いだ。だがこれは……人のものではないのか……」

「——ッ!」

 

 レイラは素早く声の聞こえた方向、天井へと顔を向ける。しかしそこには何者もおらず、壁の明かりに明るく照らされた天井があるだけだった。

 何が起きているのかは分からないが、取り敢えず目先の事態だけでも把握しておかなくてはと、レイラはドラコが向かった先、人の集団の先へと向かった。人をかき分け、集団を抜けたところでレイラは目を丸くして驚いた。

 そこにいたのは、ハリーとロン、ハーマイオニーの三人組。そして彼らの前、壁際にあるものを見てレイラはハッと息を飲んだ。床には水たまり。そこから視線を上げれば、松明に尻尾を絡ませるようにしてぶら下がったフィルチの飼い猫、ミセス・ノリスが、まるで置物のように硬直していた。そしてその後ろの壁には、赤いベッタリとした文字が書かれていた。

 

 秘密の部屋は開かれたり

 継承者の敵よ、気をつけよ

 

 静けさが辺りを包む中、集団を抜けたすぐそばにいたドラコが口を開いて叫んだ。

 

「継承者の敵よ、気をつけよ。次の標的は誰だろうね?」

 

 にたりと笑いかけたドラコの頬は、いつもの青白い肌よりも幾分か赤く染まっていた。




最後だけ読んでるとまるでドラコが犯人……

そしてバジリスクたそはレイラがパーティーに向かってからズルズル出て来たので、奇跡的に鉢合わせていない。セーフセーフ。

以前から描きたかったレイラとアルフレッドのダンスシーン。その布石(笑)
ダンス詳しくないんですよねぇ。英国式ダンスとかあるのかな?
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