ハリー・ポッターと不死鳥の姉   作:駆華野 志想之介

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暑くなってきたこの頃ですが、ふと私の脳裏に半袖シャツの夏服姿をしたレイラさんの姿がよぎりました。
でも絶対半袖は着ないな……


嘆きのマートル

 ハロウィーンから数日後、ホグワーツ中が、ミセス・ノリスが襲われた話で持ちきりだった。

 スリザリン生の多くはこの事件に喜んでいたが、ダフネやアステリアはあまり良い顔をしなかった。彼女たちからすれば、純血の者はその他を導くための道しるべになればよいと考えるから、というのが理由の一つだ。もう一つ理由があるが、単純に血生臭いことが嫌いだからというものだ。

 ドラコは事件当初こそ喜んでいたが、少し前から冷静になってきているようだった。というのも、事件直後に壁の赤い文字と石になったらしいミセス・ノリスを見て気が高ぶり、ハリーたち三人に挑発的な言葉をかけたことに理由があった。多くのスリザリン生が、ドラコの反応を見て、ドラコが継承者ではないのかと聞いてくるようになったのだ。クラッブとゴイルから始まり、他学年の生徒、男女問わずだ。彼自身、出過ぎたことをしたと思っているし、いい加減うっとおしくもあったのだ。

 アルフレッドはいつも通り、レイラの側で、共に行動していた。勉強をしたり、読書に耽るレイラの髪を梳かしたりだ。

 ならばレイラはどうだろうか。スリザリンの四人以外が見れば、彼女の様子に気づける者がいないくらいには、いつも通りを装っていた。廊下ですれ違う教師には笑顔で会釈し、挨拶をしてくる生徒にも丁寧に返事をする。いつも通りに見えていた。

 実際は、難しい顔をして紙とペンを取り、何冊かな古ぼけた書籍を読み漁り、何事かの表を作成していた。それと同時に「秘密の部屋」と「継承者」とは何かについても並行して調べており、疲れが反転して笑顔を作らせているだけだった。

 

 金曜日の放課後。夕食までの数時間を、レイラは校庭の木に寄りかかって本を読んで潰していた。芝生の上に腰を下ろして、寄ってきた妖精にクッキーを砕いて渡してやる。隣にはアルフレッドがいるが、話しかけることもなく、一人でブツブツと呟いていた。

 

「ヘンリーが当時の魔法大臣、アーチャー・エバモンドを批判したことでカンタンケラスの書籍に名前が載らなかった。このヘンリーが……で……の人の……」

 

 次第に小さくなっていく声を捉えながら、アルフレッドは欠伸を噛み殺した。

 

「順調か?」

「あんまり。そもそも昔の人の名前を探すだけでも大変なのに、表まで作ろうとしたのが間違いだった。めんどくさい。……わたしの家……いや、なんでもない」

 

 一瞬暗い顔をして、すぐさまかぶりを振ったレイラを横目に見て、アルフレッドは小さく息を吐いた。レイラの実家。それを思い起こしたレイラはどのような気持ちか、推し量ることは難しい。悲しさ、悔しさ、怒り。様々な感情が入り混じっているであろうレイラ。その肩に、アルフレッドは手を置いた。なんてことはない、華奢な肩だった。多くのことを背負うには、あまりに不相応だと思えるほど。

 振り向いて自身を見る緑の目を、アルフレッドはじっと見つめた。

 

「あまり無理をするな。秘密の部屋については、マルフォイやビンズ先生のおかげでだいぶ分かったろう。少しくらい、休んでもいいだろう」

「創始者の一人、純血主義のサラザール・スリザリンが作った部屋。スリザリンの継承者のみがその部屋を開けられ、恐ろしい怪物を解き放つ。だったか?」

 

 レイラは二日前の授業中に、ハーマイオニーが魔法史の合同授業でビンズ先生に質問した答えをまとめた。そしてこの授業でレイラがひときわ関心を寄せられたのは、先生が語った秘密の部屋についての内容ではない。グリフィンドールのディーン・トーマスが言った「スリザリンと血が繋がっていけないのでは……。ですからダンブルドアは部屋を——」という発言だった。

——血の繋がり、つまりは継承者。か。

 それを受けて、レイラはある家系について調べ始めた。そのついでに少し寄り道をして、自分の家系を探る方向に傾いてしまったのは、調査がうまくいっていないからだ。しかしその自分の家系でさえ、古い記録はなかなか見つからないでいた。息抜きのはずがむしろ首を締めていたのだった。

 

「レイ、考え過ぎるのも良くない。城に戻ろう」

「ん。本を返してくるついでに、マートルのところに行ってくるから、先に大広間に行っていてくれ」

 

 アルフレッドはため息をついた。レイラ自身、一度考えることをやめた方がスッキリするのではという思いはあるが、やり始めたことは途中で辞めない主義だっただけだ。

 図書館までは二人で行き女子トイレの側で別れた。レイラはミセス・ノリスが事件に遭ったことで最近近くを徘徊しているフィルチに気をつけつつ、女子トイレの扉を開けた。

 女子トイレの最奥。もはや指定席といってもいい頻度で壁のステンドグラスの縁に座っているマートルを見つけ、レイラは手を振った。それに気づいたマートルは縁から降りると、ゴースト特有のスルスルとした動きで空中を進んできた。

 近づいたマートルの顔を見て、レイラはおや、と思った。最近のマートルはレイラを見つけると微笑んでくれていたのだが、その表情は暗かった。

 

「やあ、マートル。顔色が良くないね、わたしでよければ相談に乗るけど?」

 

 マートルは俯くと、すぐ側の個室に入って便座の上に腰かけた。やがて彼女は胸に手を当て、長い息を吐くとレイラを見つめた。

 

「このトイレのすぐ近くで、フィルチの猫が石になったって聞いたわ」

「うん、まだ一週間もたっていないね。ひょっとして猫が好きだった?」

 

 マートルは被りを振る。この間、落ち込んだジニーと会ったが、猫が好きだったからと言っていた。

 

「私はゴーストの中でも、多分一番の新入りよ。……それも五〇年前だけどね」

「へえ、ならその五〇年前あたりに何か?」

 

 今度はゆっくりと首を縦に振るマートル。これは何かありそうだと確信しながら、レイラは聞き役に徹した。

 

「今から五〇年前、生徒たちが次々と石にされる事件が起きたのよ。その時は多くの生徒が石にされ続け、あと一歩でホグワーツは閉鎖される所だった」

「ホグワーツが閉鎖……そこまで」

「その最後の被害者は、ここで被害に遭った……私よ。覚えているのは、大きな黄色い目玉が二つ。そして……私はゴーストになった」

 

 落ち着いて、冷静に話そうとするマートルはガタガタと震えていて、明らかに無理をしているのだと見て取れた。触れることができないレイラだが、その頬に手を伸ばした。

 

「ありがとうマートル、話してくれて。……邪魔したね。今度お礼に、花でも持ってくるよ」

「ふふ、こちらこそありがとう。おかげで少し気が晴れたわ。……そうだ、私は死んでから知ったのだけど、生徒の一人がこの事件を解決したらしいのよ」

「へえ、生徒が?」

 

 女子トイレの入口へと足をつけていたレイラは、興味深い話に足を止めた。

 

「トム・リドル、学年一の天才だったらしいわ。それじゃ」

 

 それだけ言うと、マートルは便器の中に消えていった。一人残ったレイラは、頭部を強い衝撃が襲ったように錯覚した。

——トム・リドル。聞いたこともない名前……いや、どこかで。十二世紀の著名な魔法使い? いや、本ではない、トム、トム。

『これは……片目だけじゃがトムと同じ……』

 

「……ぁ」

 

 レイラの脳裏に、原初の記憶がよぎった。その名前の人物とは、一体誰なのか、レイラには分からなかった。

 その時、トイレの入口の向こう側、外から話し声が聞こえてきた。

 

「どうしたの?」

「ここには入れない、女子トイレだ」

「あら、ロン。中には誰もいないわよ。そこ、『嘆きのマートル』がいるもの。いらっしゃい。覗いて見ましょう」

 

 声はハリー、ロン、ハーマイオニーの順に聞こえてきた。

——ハーマイオニー……、いくら誰も入らないだろうからって、男の子を連れて女子トイレに入るのはどうなんだ? さて……。

 何か驚かせることでもしようかと考えたレイラだったが、一瞬で準備のできるものは特に浮かばなかった。今からトイレに入ったところで遅いのである。

 

「ま、ビックリして悲鳴上げるほど可愛くはないからな。どうしようもないさ」

 

 取り敢えずはと近くのトイレの陰に身を隠して杖を抜き、来訪者が入口の扉を開けるのを待った。

 軋む音を立てて扉がゆっくりと開かれ、ハーマイオニーを先頭にして慎重に中に入ってきた。三人が女子トイレに入りきったところでレイラは杖を振るった。

 扉がひとりでに閉まり、さらには鍵が閉められた。急なことに驚いた三人は急いで扉を開けようとするが、魔法で動かなくされた鍵も扉もビクともしなかった。

 

「なんだこれ!」

「どうなってるんだ!」

 

 ロンとハリーが悪態をつきながらもガタガタと扉を揺する。けれどやはり動かない。ハーマイオニーは辺りを見回して、マートルを探しているようだった。トイレの中を覗いては、次のトイレを覗く。そしてとうとう、レイラが隠れるトイレのすぐ隣まで来た。そして……

 

「やあ、ハーマイオニー」

「ひっ、むぐ」

 

 悲鳴を上げられそうだったので口を塞ぐ。しかし漏れ出た声で気づいたハリーとロンが同時にこちらを見た。そしてハーマイオニーは自分の口を押さえたのが誰だか気づいたらしく、落ち着きを取り戻したようだ。

 

「レイラ!」

 

 駆け寄って来たハリーに、レイラはにっこりと笑いかけ、ついでロンを見た。

 

「へんたい」

「は、いやっ、ちがう!」

「誤解だよレイラ!」

 

 手をわたわたと振って慌てふためく二人を見て、クスクスとレイラから笑いがこぼれた。それを見て、ハリーとロンは自分たちがからかわれたのだと理解した。

 

「どうせこの間の事件を調べようとしたんだろうけど、いくらなんでも女子トイレに男の子を連れてきちゃダメだよ?」

 

 レイラは片目を閉じて、ハーマイオニーに言い聞かせた。

 そのまま出て行こうとするレイラを、ハリーが呼び止めた。振り向いたレイラは、いつも通りの笑顔を浮かべていた。

 

「レイラはここで、何か見つけなかった?」

「なにも、さっぱりだよ。……そうだ、もうすぐクィディッチの試合だったよね、応援してるよハリー」

 

 そう言って、レイラは今度こそ女子トイレを後にした。




制服にはハイソックス派
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