ハリー・ポッターと不死鳥の姉   作:駆華野 志想之介

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現実が忙しく、なかなか執筆に入れませんでした。そろそろ秘密の部屋も佳境に入ってきます。
皆様のおかげでお気に入り登録数が間もなく600を突破しそうです。にっこり。


狂ったブラッジャーと幕の裏

 アルフレッドはクィディッチの試合を観戦するための寮席に座りながら隣をチラリと見て、飛び交う緑と赤の選手たちへと視線を戻した。

 彼のいるクィディッチ競技場では今まさにスリザリン対グリフィンドールの試合が行われていた。現在は九〇対三〇でスリザリンがリードしている。熱狂的とまでは言わないが、アルフレッドはクィディッチ観戦を楽しむ方だといえる。しかし彼は表情を硬くし、試合の推移について集中しておらず、たった一人の選手へと視線は注がれていた。

 赤いユニフォームを身につけた、小柄でメガネの少年。ハリー・ポッターだ。アルフレッドはハリーに——より正確に言えば、ハリーと彼を付け狙うブラッジャーに——注意を向けていた。

 近くに座るダフネやアステリアも異変に気付いたようだった。たった一人の選手にブラッジャーが狙いを定め続けるという異常事態に。ブラッジャーは本来、選手を無差別に襲うように魔法がかけられている。それが一人だけを襲うのであれば、まず間違いなく何者かによる手が加えられている。

 もしやスリザリンの誰かがハリーを狙ったのかと考えたレイラが、近くにいた妖精に怪しい者を探してもらったが、スリザリンの席にはいなかった。ならば秘密の部屋の継承者ではないかと考えが浮かび、レイラはさらに妖精に対価を渡し、あたり一帯で魔法を使っている者を探してもらうことにした。その間、レイラはハリーから片時も目を離さなかった。

 アルフレッドは心の中でため息をついた。どこのバカがドラゴンの尾を踏んだのだ、と。レイラがこの光景を見て何も思わないはずがない。むしろ、逆であろう。

 レイラは基本的にハリーを見守る立ち位置だが、ハリーに危害が加えられるとなると別だ。普段の温和な表情はなりを潜め、その顔からは感情が抜け落ちたかのようだった。肌を刺すような威圧感がアルフレッドの肌を刺すような錯覚さえ覚える。彼は咳払いをして、レイラの注意を自身に向けさせる。

——お前に、そんな顔はふさわしくない。

 

「笑っていろ。その方がお前らしい」

「この状況で笑えと?」

 

 当然の反応。ハリーのことで頭に血が上っているレイラだが、それではいけない。見境が無くなっていいことは何もないだろう、そう考えてアルフレッドは小包装のチョコレートを差し出した。

 

「冷静でいなければ、いつかどこかで間違える。それに……」

「それに?」

 

 差し出されたチョコレートをゆっくりと受け取りながら、レイラはアルフレッドの翡翠の目を見つめた。少し揺らいでいるが読めず、言葉の先が気になる。

 翡翠の瞳が、緑の瞳を見つめ返す。

 

「お前は、笑っている方が綺麗だ」

「……はあ?」

 

——自分勝手だが、お前が怒りに満ちた顔を見たくない。どうせならいっそ、笑っていてくれ。

 しばしぼうっとしていたレイラだったが、やがて口元を隠しながらクスクスと笑みをこぼした。

 

「あはは、綺麗。……綺麗か。うん、そうだな、間違いは起こしたく無いからな」

 

 そこへちょうど、妖精が戻ってきた。金髪に白いワンピース姿の妖精は、レイラの服を引っ張ってどこかへ案内しようとしている。

 

「ああ、ありがとう。それじゃ、少し行ってくるよ」

 

 小走りで観客席から離れるレイラを見送ったところで、アルフレッドの背中を誰かが突いた。見れば、斜め後ろに座るダフネが人差し指を突き出していた。その隣のアステリアはわずかに顔を赤くして、口元を両手で隠している。

 

「口説くなら他所でしてもらえますか?」

 

 アルフレッドは呆れたようにため息をついた。

 

「口説いたところで、あれは堅物だろう」

 

 まだ背中の見えるレイラを見ながら、今度はダフネがため息をついた。

 

「あなたも大概ですね。あなたの言うことなら、レイラは大抵聴いてしまうのですよ?」

 

 そう言いながら、ダフネはつい先程のレイラの横顔を思い出していた。『綺麗だ』と言われた彼女は、後ろにいたダフネとアステリアから見れば、長くなってきた髪からのぞく耳が赤く染まっていることに気づいた。恥ずかしさか、照れかはわからないが、結果としてレイラは逃げるようにその場を後にした。

 そんな友人の様子に察しがつきながら、ダフネはアステリアと顔を見合わせてお互いに苦笑した。

 微笑ましいスリザリンの一角とは打って変わって、コート上のハリーはビュンビュン飛んでブラッジャーを何とか振り切ろうと疾駆していた。けれど意思を持ったかのように、鉄製の球は猛スピードでハリーを追いかけている。ビーターのフレッドがハリーを追うブラッジャーを短いバットで打ち返すが、またすぐにハリーを追いかけに戻ってきてしまった。

 

 ハリーを追いかけるブラッジャーを、注意深く見つめる影があった。蝙蝠の羽のように長い耳をして、テニスボールくらいの大きな目をギョロギョロさせる小さな生き物。屋敷しもべ妖精のドビーだ。腕を動かして何か魔法使っているということは、目で見てすぐにわかった。

 観客席の骨組み。そこを各寮ごとの幕が内部を覆い隠すその場所に入ってしまえば、外から誰かに見つかることはない。今はクィディッチの試合中でもあることから、ドビーは魔法を使うのにこれほど最適な場所はないと考えたのだ。ここならハリーの様子を肉眼で追うこともできる。見つからないと思ったからこそ、ドビーは見つかることへの危機感が薄くなり、背後に迫った影に気づくことができなかった。

 ハリーが箒の柄の上に立ち上がり、スニッチを掴もうと腕を伸ばす。ドビーはそのハリーの胴体を狙ってブラッジャーを操り、もうすぐ鉄球がハリーを直撃するというところで、背後から首と左手を掴まれて押し倒される。その衝撃でブラッジャーが操作できなくなり、肺から空気が押し出される。キーキーと耳障りな声が二人しかいない場所に響くが、同時に上がった歓声にかき消される。

 ドビーは大きな目を動かして背後、自分を押し倒した何者かを見た。きれいな赤い髪に無感動にこちらを見つめるアーモンド形をした緑色の目。

 

「……レイラ・ポッター。そんな、どうしてあなたが」

 

 ドビーは、ハリーに迫る危機から彼を守ろうとして、ハリーがホグワーツから送り返される程度の怪我をさせようとして、クィディッチのブラっジャーを使うことにした。そうして試合中の事故を装って、ハリーを殺さない程度に怪我をさせれば、安全な育ちの家に送ることができると考えての行動だった。

 それをなぜ、姉であるレイラが邪魔するのかがわからなかった。聡明な彼女なら、ハリーを守るための行動だと理解してくれるに違いないと思っていた。怪我をさせた後に、彼女にも精一杯謝ればいいのだと、ドビーはそう考えていた。

 それが失敗だったとも知らずに。

 

「愚かだったね、ドビー。わたしの目の前でハリーを傷つけるなんて。……あともう少しで、取り返しのつかないことになっていたかもしれない」

 

 にっこりと、優しさを持った慈愛の笑みを浮かべるように、レイラはドビーに笑いかけた。困惑したドビーだったが、彼は自分の首と左手を掴むレイラの腕の力が強まっていることに痛みで気づいた。そして同時に理解した。レイラが、怒っていないなんてことはないのだと。

――逃げなくては!

 そう思ったドビーが右手の指を鳴らして姿くらましをしようとした瞬間。ダン、と自分の右手がレイラの足に踏みつけられる。

 またしても上がる悲鳴。レイラはなおも笑顔を崩さない。笑っているほうが綺麗だと、そう言ってくれたから。

 

「屋敷しもべ妖精を含めて、妖精たちは杖を使わずに、手だけで様々な魔法を使うことができる。よく知っているよ」

 

 レイラは何とか右手を引き抜こうとするドビーの手を、さらに強く踏んだ。またしても悲鳴が上がるが、それは火に油を注ぐ様なものだった。

 

「喚くなよ、ハリーの腕に比べれば、お前なんて五体満足じゃないか。ハリーが怪我した後はどうするつもりだったんだ? どこぞの屋敷に戻って、何食わぬ顔でお勤めかい。そうじゃないよね。ハリーが怪我したんだから、君も同じようにならないと、ね? ハリーはすぐにでもマダム・ポンフリーが治療してくれるだろうけど、君はわたしがやってあげよう。なに、心配はいらないさ、これでも実技は得意でね」

 

 ドビーは、背後の存在が恐ろしかった。ただ嫌悪を示してくる主人とは違い、レイラ・ポッターは、強大な憎しみを抱えているのだと実感した。けれど、その憎悪を感じさせないほどの微笑みがあった。憎しみを向けられた者にしか分からないだろうレイラ・ポッターの恐ろしさ。負の感情が自分に向けられていることは分かる。けれどその笑みは、負の感情を覆い隠してしまうほど、慈愛に満ちた微笑みに見えた。

 

「あ、あなたは……いったい」

 

 やっとのことで絞り出した声は震えていた。その様子は、まるで立ち上がることのできない小鹿のようだった。

 

「あっはは」

 

 レイラはドビーが絞り出した疑問を聞いて、笑った。笑って、すぐに、今まで浮かべていた笑みが、跡形もなく消えた。

 

「そんなの決まっている。ハリーを守るためさ。あの子に迫る危機があるなら、わたしが振り払って見せる。たとえそれが何であっても。だからさ、そろそろ君も……」

 

 そしていつの間にか笑みを浮かべていたレイラは、掴んでいたドビーの左手をひねりあげる。途端に悲鳴を上げるドビー。このままでは本当に折られてしまうと思い、もがこうとしたところで、両手と首の拘束が解かれた。

 背後を振り返れば、立ち上がってスカートについた埃を払うレイラがいた。

 

「君には忠告してもらったからね、それで今回のことはナシにしてあげる。……ただ」

 

 レイラは素早く杖を抜くと、いまだ動揺しているドビーの眼前に突き出した。

 

「次にハリーを傷つけたら、手加減も容赦もしない。よく覚えておくんだね」

 

 そう言うと、レイラは幕をくぐって出て行ってしまった。

 一人残されたドビーは、呆然としていたが、両手の痛みでハッとした。そして急いで屋敷に戻らなければと、指を鳴らしてその場から消えた。

 




いいな、わたしもレイラさんに馬乗りされたい(尚、話の中では馬乗りではなく、跨っていて、お尻はついてません)
熱中症が問題となっているので、皆さん気を付けてくださいね。
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