自分にとって、アルフレッドはどういう存在なんだろうか。
レイラは、入学してからともに行動することの多い学友について考えていた。おそらくこのホグワーツにおいて、自分のことを理解している人は、彼をおいて他にいないだろう。同時に、彼のことを理解しているのは、ホグワーツでは自分の右に出る者はいないと思う。さすがに妖精の森の二人には負けるだろうが。
なぜ、急にこんなことを考え始めたのだろう。うつらうつらと、重たくなってきた瞼をなんとか開こうとしながら、レイラは嗚呼と納得した。
寮以外で、他人の側で寝ることなんてなかったから、きっとそのせいだ。
必要の部屋で、調べ物をし、動物もどきの訓練をする。珍しく疲れを見せたレイラの目の前に、部屋がソファを出して見せた。同行していたアルフレッドが「少し休め」と促し、決闘クラブでのハリーのことでもやもやしていたレイラは、一度頭を休めるためにそれを了承した。レイラがソファに腰掛ければ、アルフレッドは背後から、レイラの髪を梳かし始める。その際の頭を撫でられるような感触が心地よく、レイラは次第に眠くなってきたのだった。
だからこそ、普段は考えもしないようなことを考えるに至ったのだろうか。
(まあ、いっか。昨日は夜更かししてたし、眠いや)
「ふあ、あ……。寝てもいいか?」
あくびを掌で隠しながら、レイラは背後のアルフレッドに尋ねた。ちょうど髪を梳かし終えたのか、彼は同じソファに腰を下ろした。
「ダメに決まっているだろう。この後夕食もある、俺達が行かなければマルフォイやグリーングラスたちが心配する」
かぶりを振って反対するアルフレッドを恨めしそうに見つめ、アルフレッドはそんなレイラを無表情で見つめ返す。果たして先に音を上げたのはアルフレッドの方だった。
「……わかった。ただし三十分だけだ、夕飯前には起こすぞ」
「んー」
重くなった瞼を擦りながら、レイラはソファに身を横たえた。
まどろみの中で、レイラは草原の中に立っていた。体がふわふわと軽く、自分が今何をしていて、ここがどこなのかも気にならないでいた。ただぼんやりと、風に吹かれてなびくカランコエの花を眺めていた。
なんとなく、風に揺れる花の一輪に触れようと、レイラが屈んだその時、ひと際強い風が辺りに吹き荒れた。ざわめく草木、乱れ飛ぶ花びら。レイラは風に吹かれる髪を抑え、目をつぶった。いっそ幻想的ともいえるその光景の中で、レイラがはたと、目を開いた。何かの確証があったわけでも、声が聞こえたわけでもない。ここで目を開かなければならないと、直感した。ゆっくりとレイラは目を開けていく。赤いカランコエの花びらが風に吹かれて空を舞い、視界を埋め尽くさんばかりに溢れている。
一瞬目の前を花びらが舞い、次の瞬間、赤い花びらのカーテンの奥に、誰かの足が見えた。一人ではない、二人分の足が目についた。花びらが辺り一面を覆いつくす中で、まるでパズルのように二人の姿が見え隠れする。ちらりと見える服や体格から、男性と女性であることが見て取れた。けれど一向に、二人の顔だけが見えない。
近づこうにも、足が思うよう動かない。視界の先で、二人が踵を返した。
「待って!」
その場から立ち去ろうとする二人に、手を伸ばし、声を張り上げる。その声に反応したのか、二人が歩みを止めてレイラを振り返った。同時に、宙を舞うカランコエの花びらが少なくなっていった。
次第に見えてくる容貌。男のほうはくしゃりとした黒髪で、女は赤みがかった髪。少しずつ見えてくる二人の顔を見て、レイラは意図せず、涙を流していた。それとは対照的に、二人はレイラに微笑みかけていた。
柔和な、慈愛に満ちた表情でレイラを見つめていた二人は、前を向くと、再びその場から立ち去ろうと歩き始めた。
「待って……」
レイラが再び声を掛けるも、二人は立ち止まらない。進まない足を崩れさせ、座り込んでしまう。
手を伸ばして、彼らの背中を見つめる。
「父さん、母さん…………!」
視線を落としたレイラの目から涙が流れ、その下に咲くカランコエの花に落ちた。
パチパチと、薪が燃える音がする。いつのまにか必要の部屋の中に暖炉が置かれ、自分の体にはタオルケットがかけられていた。
「起きたか」
寝転んだ自分の頭上から聞こえた声を追って、顔を動かす。サラサラとした銀髪を見つけ、安堵の息を吐いた。
——夢、か。
横になっていた体をゆっくりと起こしたところで、アルフレッドが怪訝そうにこちらを見た。手を伸ばして、レイラの目元を、指で拭った。
「……?」
訳がわからないレイラだったが、引き離されたアルフレッドの指が光っていたことに気づいた。自分の頬に触れてみれば、涙の筋ができていた。
「大丈夫か?」
ハンカチをこちらに手渡しながら、アルフレッドが心配そうに訊ねる。コクリと頷いて、レイラは涙を拭った。
ハンカチを隣に座るアルフレッドに返して、レイラは彼へと距離を詰める。今は少し、誰かに側にいて欲しかった。彼は驚いた様子だったが、拒絶することなく、隣にいてくれた。
「……夢を見た」
ソファの背もたれに寄りかかり、レイラは目を瞑った。鮮明に思い出せる夢の内容を、思い返すように。
「カランコエの咲く草原で、父さんと母さんに会ったんだ」
「そうか……」
二人とも微笑みかけてくれて、とても、嬉しかった。だからもっと、一緒にいたかったし、話もしたかった。
そのことをアルフレッドに告げれば、彼は優しく、レイラの頭を撫でた。
「カランコエが咲いていたんだろう?」
「え、うん」
「きっとまた夢でも会えるさ。カランコエの花言葉は、『あなたを守る』だからな」
止まったはずの涙が、再び溢れ出そうになるのを堪えながら、レイラは笑ってみせた。
「まったく、博識だなぁ、君は…………」
そんなことを聞いたら、両親が自分を想ってくれていたと思ってしまう。それはとても嬉しいことで、そうあって欲しいと思えた。言葉を交わしたことがないけれど、大切な両親であり、尊敬していて、とても大好きだった。だからこそ、夢の中でも会えたことは、嬉しいことだった。
——でも、わたしは大丈夫。ハリーの側にいてあげて。
「ありがとう」
目を閉じたまま、レイラは噛みしめるようにそう言った。
草原で花びらが宙を舞う様を想像するとふわふわした気持ちになりますね。笑