ハリー・ポッターと不死鳥の姉   作:駆華野 志想之介

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遅れましたわ……。
いろいろ内容を修正したり、どこまで書こうか考えていたらこんなことに(笑)

この前の話を投稿してから、なぜかいきなりお気に入り件数が60近く伸びるし、日間で50位に入るしで予想外でした。
これも日々ご愛読くださる皆様のお影ですね。まだまだこれからなので、末永くお付き合いください。


ミリセント・ブルストロードの髪

 一面の銀世界。降り続いていた雪が一時的に止んで、外に出ることが容易になった昼過ぎ。クリスマス休暇で人のいなくなったホグワーツの庭に、それはいた。

 人の身長よりも二倍は大きな体躯。黒く大きな目、裂けんばかりに開かれた口。微動だにせず庭に鎮座し、どこか遠くを見つめている。

 体型は丸い玉が三つ連なっており、その色は白い。鼻は高く、オレンジ色の人参のようだ。

 ……そう、スノーマンだ。それも二体の。

 

 

 

「……ま、負けた」

 

 杖を持ったまま膝をつき、レイラはうな垂れた。その向かい側には、腕組みをして得意げな顔のアルフレッド。

 二人の傍には一体ずつスノーマンが屹立しており、その大きさはアルフレッドの傍のものの方が大きい。彼の方のスノーマンには、多くの妖精たちが輪を作って囲んでおり、反対にレイラのスノーマンには全く寄りつかなかった。唯一馴染み深い金髪の妖精だけは、うな垂れたレイラの頭をポンポンと撫でていた。

 

「俺の方が十センチばかり高かったみたいだな」

 

 心なしか声を弾ませて、アルフレッドはレイラに向けてそう言った。

 なんのことはない。ただ、どちらがより大きなスノーマンを作るかという勝負になっただけだった。

 正午には雪が止んでおり、一面雪だらけの庭を見てそわそわしていたレイラが、同じく……否、それ以上にそわそわしていたアルフレッドに外に連れ出された。「せっかく人がいないのだから、好きに遊んでもいいだろう」とは、彼の言葉だ。

 そうしてせっかくだからと、スノーマンを大きく作れた方が勝ちというゲームをしたのだった。ドラコたちも誘いたかったが、彼は父親から手紙が届き、難しい顔をしていたのでやめておいた。クラッブとゴイルはおやつに夢中で聞く耳持たなかった。

 結果はレイラの負け。アルフレッドの作ったスノーマンに集まる妖精たちがその証拠だった。

 

「ところでアルフレッド」

「うん?」

 

 レイラはうな垂れた体勢から顔を上げて、アルフレッドを見た。

 

「この勝負、負けた私に何か罰ゲームでもあるのか?」

 

 それを受けて、キョトンとするアルフレッドだが、すぐに微笑みで返した。どこか、愉快さを孕んだ笑みだ。

 

「いや、何もない。ただ……」

「ただ?」

 

 アルフレッドが傍のスノーマンを見やり、レイラもそれにつられてそれを見る。

——おや? 心なしか動いたような……。

 彼のスノーマンの周りにいる妖精たちが、楽しそうに踊りだしていた。するとどうだろうか。どこからともなく雪の手が体の真ん中あたりから生えた。そしてズリズリと、わけのわからない原理でアルフレッドへと向き直ると、綺麗にお辞儀した。

 

「は? ……へぶ!?」

 

 目の前で起きた奇怪な現象に疑問を持った次の瞬間、レイラの顔面に雪玉が当たった。柔らかく調整されているらしい雪玉が顔から剥がれた時に見えたのは、おかしそうにニヤニヤと笑うアルフレッドだった。

 

「……ただ、勝者側のスノーマンが動き出して、負けた方に雪玉を投げてくれるんだ」

 

 ソフト雪玉が、呆然とするレイラの顔面を再び襲う。しかし今度は体を逸らして避け……れなかった。避けた先にアルフレッドが投げた雪玉が肩に当たった。

 

「……………………」

 

 長い沈黙の後、肩についた雪を払い落とし、レイラはゆらりと立ち上がった。

 

「……アルフ、レッドォ?」

「おっと……」

 

 雪でテンションが上がり、やらかしてしまったことを悟ったアルフレッドだが、すでに遅かった。取り敢えず楽しもうかと思ったアルフレッドの顔に、雪玉がぶつけられる。

 二人は疲れ果てるまで雪玉を投げ合ったのだった。

 

 

 

 散々雪にまみれてはしゃぎまくった二人は、身を震わせながら寮へと歩いていた。

 

「まったくもう。服の中にまで雪が入ったじゃないか」

「俺だって入ってるさ……冷たいな」

 

 雪玉を投げ合った挙句、服に雪が入り込むほどに熱中していた。気づけばスノーマンは動かなくなり、ついには雪玉を作らずに直接雪を投げていた。妖精たちは雪まみれになっていく二人が面白いのか、キャッキャと大喜びしていた。

 そんな二人は寮内の暖炉の火を求めて、部屋の扉前まで来た。石の壁に向かって、レイラは眉根を寄せながら合言葉を口にした。

 

「……『純血』」

 

 あまり思想を押し付けるようなものは好ましくないが、これが合言葉として設定されているのだから、一生徒であるレイラにはどうしようもなかった。

 現れた扉を開けて寮の談話室に入ると、暖炉側の椅子にドラコが一人いるだけだった。なにやら険しい顔をして、新聞を読んでいるようだ。二人が入ってくるのに気づいて、ドラコは新聞から顔を上げた。そして二人の様子を見て唖然とした。

 

「驚いた。珍しくはしゃいでいたんだな……くく。いかにも遊んで来ましたという出で立ちだな。それはさておき、早く着替えて来たらどうだ? 風邪をひくぞ」

 

 それもそうかと、レイラとアルフレッドは顔を見合わせて、服を着替えにそれぞれの部屋に向かった。

 着ていた服はほぼ全体が濡れており、適当な服を取り出すと、全ての服を着替える。室内が暖かくされていてよかったと、レイラは服を着替えながら思った。

 談話室に戻れば、先に着替えていたアルフレッドがブランケットを持ってソファに掛けていた。アルフレッドは談話室に入ってきたレイラにブランケットを手渡すと、食料の出るテーブルに紅茶を三人分頼んだ。

 ドラコにアルフレッドが紅茶を渡し、「ありがとう」と言って受け取り、交換するように新聞を差し出した。

 

「まあ見てくれ。始業式の日にポッターとウィーズリーが学校に乗り付けたマグルの……車とかいうものがあっただろう?」

「ああ、そんなこともあったな」

 

 新聞を受け取ったアルフレッドが、開かれていた紙面を見る。レイラも気になり、アルフレッドのすぐ隣に移動して新聞を覗き込む。何か言いたそうにしたアルフレッドだが、押し黙って新聞に目を落とした。

 そこには、ウィーズリーおじさんが写真で載っていた。おじさんは記者の様な人々から逃げる様にして歩き去る後ろ姿が写っていた。記事の見出しは、『魔法省での尋問』だった。

 

 『マグル製品不正使用取締局、局長のアーサー・ウィーズリーはマグルの自動車に魔法をかけ、使用した罰として、今日、金貨五十ガリオンの罰金を言い渡された。

 ホグワーツ魔法学校理事の一人、ルシウス・マルフォイ氏は、今日、ウィーズリー氏の辞任を要求した。なお、問題の車はホグワーツの敷地内に墜落していたことがわかった。

「ウィーズリー氏は魔法省の評判を貶めた」と、マルフォイ氏は当社の記者にこう語った。「氏は我々の法律を制定するに相応しくないことは明らかで、彼の手によるバカバカしいマグル製品に関する法など、早々に廃棄すべきである』

 この後、ウィーズリー氏にコメントを求めたが、取材をすることはできなかった。

 

 ドラコは二人が新聞を読み終えたタイミングを見計らって、一冊の本をテーブルの上に置き、あるページを開いた。

 

「父上がウィーズリーの父親を批判するのは、なにも嫌っているからだけではない。やつ自身が作った、卑怯な法律の抜け穴を見抜いていたんだ」

 

 開かれた本の一項目。そこにはマグル製品に関する法が記されており、制定した人物は驚くことにアーサー・ウィーズリーと記載されていた。法令の内容は、マグル製品に魔法を掛け、それを使()()()()()()()所持してはならない。と書かれている。

 

「つまり……使用しないつもりなら、所持が許されるというわけかい?」

「ああ。まるで屁理屈の様だが、抜け穴として十分に機能するだろう」

 

 ドラコは本を閉じると、紅茶を一口飲んだ。

 

「少なくとも七人のマグルに見られ、魔法省の忘却術士が到着するのが遅れていれば、危うく魔法界の存在が露呈するところだったんだ」

 

 ドラコはテーブルの上に置かれていた小皿からチョコレートを一つ取ると、乱雑に包みを開けて口に放り込んだ。

 彼の言うことはもっともであり、同時にウィーズリーおじさんの管理の甘さが招いたことでもある。それが理解できるが故に、レイラは感情的にはならずにいた。

——きっとハリーなら、ドラコの話を嫌味にしか捉えないんだろうな。

 今頃はポリジュース薬の鍋を、ロンとハーマイオニーとともに囲んでいる頃だろう弟の姿を思い浮かべた。誰も失敗しないことを願いつつ、こっそり様子を見に行こうと決めたレイラだった。

 

 

 

 密かにチェックしていたポリジュース薬の出来具合からして、ハリーたちが薬を使うのは今日だと判断したレイラはその日の夜、アルフレッドとともにデミガイズの透明マントを羽織って三階の女子トイレに向かっていた。

 途中、パーシーを見かけたが、見つかるわけにはいかないのでそのまま無視した。そうしてやってきたマートルのいる女子トイレの中からは、少し小さいが話し声が聞こえる。扉に近づいて、もう少し話し声が聞こえるようにしたいと思ったレイラだが、急にアルフレッドに肩を掴んで引き寄せられる。

 どうやら話を聞くことに集中しようとしたせいで、中にいる人物が出てくる足音に気づかなかったようだった。アルフレッドに引き寄せられた直後、女子トイレの扉がゆっくりと開かれ、なんとクラッブとゴイルが出てきた。しかしレイラはすぐに、それがクラッブとゴイルに変身した人物だと理解した。

 

「行こう、ロン。スリザリンの談話室はこっちだ」

 

 そうして女子トイレを出て行った二人が見えなくなった頃、アルフレッドがレイラの肩を離した。礼を言って、レイラは女子トイレの中に入る。ここで再び入るのをためらったアルフレッドを、無理やり中に引っ張り、レイラは辺りを見回した。

 どこからか、女の子のすすり泣く声が聞こえてきた。

 レイラは念のために杖を抜き、声の出所を探す。アルフレッドは誰かが近づいてきたときのために、扉のすぐ側で外の様子を伺う。

 どうやらトイレの一室に誰かがいるようだ。マートルだろうかと考えたレイラの目の前に、案の定マートルがなぜか笑顔で現れた。

 

「はぁいレイラ。うふふ、すごいわよ」

 

 そう言って彼女は、ふわりと消えていってしまった。一体なんなのだろうと、声のするトイレを覗き込むと、そこにいたのは毛むくじゃらになった……。

 

「まさか、ハーマイオニー?」

 

 信じられないといった様子で、レイラは訊ねる。問われた彼女はビクリと肩を震わせて、恐る恐るレイラの方を向いた。黒い毛に覆われた顔、黄色くなった目がそこにはあった。

——変身呪文? でもそんな高度な魔法、まだハーマイオニーは……あ…………。

 レイラの脳裏をよぎったのは、自分が密かに様子を見ていた、ハーマイオニーたちが作っていたポリジュース薬だ。

 

「ぐす……レイラは、知っているでしょう?」

 

 人型の猫が、ハーマイオニーの声で話しかけてきた。その顔には、ピクリピクリと動く耳まで生えていた。

 

「ポリジュース薬には、人の一部以外は入れてはいけないの……」

 

 もちろん知っていた。しかしまさか、薬の作成ミスよりも、最後の詰めで失敗するとは。

ハーマイオニーの耳がペタンと折りたたまれた。感情が耳に伝わり、それを如実に表しているさまは本物の猫のようで、レイラは次第におかしさが爆発的に込み上げてきた。

 

「……く、ふっ」

 

 突然のことに、ハーマイオニーとアルフレッドは目を丸くした。そんな二人の前で、何かをこらえるように口元を抑えるレイラ。心配したハーマイオニーがレイラに近づいたが、それがまずかった。

 猫の毛をポリジュース薬に入れて飲んでしまったハーマイオニーには、猫の耳だけではなく、尻尾までもが生えていたのだ。それがユラリユラリと揺れるさまを見てしまい、とうとうレイラはこらえきれなかった。

 

「あっ……はは、ふ……ふ……あははははははは!」

 

 突然笑い出したレイラは、何とかこらえようとしたが、様々な要因から起こった笑いを抑えきれず、とうとう腹を抱えて笑い出してしまった。

 

「あはははっ、まさか、まさか薬がちゃんとできたのに、ふふ……変身したい相手の一部を、ひっ、取り違うなんてっ――! 君は割と、おっちょこちょいなんだなぁ、あっははは。尻尾までっ、生やして!」

 

 腹が捩れんばかりに笑うレイラの言葉に、ハーマイオニーは恥ずかしくなったのか顔が真っ赤になっている。

 ひとしきり笑い転げて、レイラが落ち着くまでに三分を要した。

 

「はあっ、最高だよハーマイオニー。危うく窒息しかけた」

「……あなた、意外と性格悪かったのね」

 

 ハーマイオニーが恨みがましくレイラを見つめるが、当の彼女はどこ吹く風と受け流した。それどころか、猫化したハーマイオニーの頭を撫でている。

 そうして何かを理解したのか、「うん」と頷いて手を放した。

 

「大方、ブルストロードの猫の毛だろうね。彼女は猫を飼っているから、その子のものだったんだろうね。そして君は、それをブルストロードの毛だと思ってしまったと」

 

 事実を言い当てられて、ハーマイオニーはただ頷くしかなかった。

 

「はは、まあ失敗は誰にでもあるさ。さあ、早いところマダム・ポンフリーのところに行こう。早くいけば、その分早く治るからね」

「でも私ここで……」

 

 ハーマイオニーは素直についていく気にはなれなかった。スリザリンの談話室に行ったハリーとロンが戻ってきたときに、自分がここにいなければ心配させてしまうと考えたからだ。

 レイラはハーマイオニーのそんな考えを読み取ったのか、クスリと笑って、ハーマイオニーの頭を撫でた。

 

「大丈夫だよ、ハリーのことなら、わたしから説明しておくから」

 

 まだわずかに躊躇するハーマイオニーの背を押して、レイラとアルフレッドは彼女を医務室に連れて行った。まだ起きていたマダム・ポンフリーは、ハーマイオニーの様子を見ると、いったい何をしていたのかと怒りながらも、素早くベッドを用意し始めた。レイラとアルフレッドは、スリザリン寮に向かったハリーとロンに会うために、寮への道を急ぐのだった。




レイラさんは割かしお茶目なので、クラッブとゴイルに変身したハリーとロンをからかいに……行くかな?

何はともあれ、このあたりから物語が加速していく予定です。
秘密の部屋が終わったら、シリウスわんちゃんをお世話するレイラさんとか、パトローナスを出すためにいろいろ考えてしまうレイラさんとか、いろいろ書きたいです。特にボガート。
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