ハリー・ポッターと不死鳥の姉   作:駆華野 志想之介

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少し駆け足です。
いつも愛読してくださる皆様、誤字脱字の体裁をくださる方々に感謝を。


襲撃者の正体

 クリスマス休暇が開けてしばらく経った二月十四日の朝食時に、大広間にいたレイラはぐったりとうなだれながら、目頭を押さえていた。

 前日の夜に遅くまで調べ物をしており、寝不足であったというのに、大広間に入ってみれば、そこには壁一面を覆うほどのけばけばしい大きなピンクの花が飾られている。おまけに、淡いブルーの天井からは、ハートの形をした紙吹雪が舞っていた。

 ダフネやアステリアは唖然としており、レイラの隣に座るアルフレッドは呆れたように事の仕掛け人を見ていた。

 アルフレッドの視線の先には、職員用のテーブルに、壁の飾りと同じピンク色のローブを着て得意気に笑っているロックハートがいた。流石に他の先生たちも予想外だったのか、ロックハートの両脇に座るマクゴナガル先生とスネイプ先生の頬が痙攣していた。

 

 レイラたち二年生全体に、新しい課題が与えられた。三年生で受講する科目を決定する時期が来たのだ。時間が重複する科目もあり、選択科目の全てを取ることはできない。例えば、マグル学と占い学の時間は同じ曜日の同じ時間となっている。レイラの場合は占い学を取ることにした。

 選択する科目にチェックをつけながら、レイラは間も無く開催されるクィディッチの試合に思いを馳せていた。次の試合はグリフィンドール対ハッフルパフだ。

 ハリーの勇姿を目に焼き付けようと、期待に満ちた思いで迎えた試合当日。

 レイラは一人で、図書室に来ていた。試合までにはまだ十分に時間があるので、調べ物をしていたところだった。グリフィンドールの試合ということで、もちろんグリフィンドール生は応援に行くし、ハリーの友人であるハーマイオニーももちろん応援に行っていると思っていたが、レイラは図書館でハーマイオニーを見かけたのだ。

 声をかけようとも思ったが、驚くほどに険しい顔つきをして本を食い入るように読んでいた。そして突然、ビリッと音がしたかと思えば、ハーマイオニーは驚くことに本の一ページを引きちぎり、そこに羽ペンで何事かを書くと、一目散に図書館を駆けて出て行った。

 

「……嘘だろハーマイオニー。君はもう少し、本を大切にすると思っていたよ…………」

 

 うんざりしたようにハーマイオニーが去って行った方向を見やってから、レイラは置き捨てられた本に近づいて手に取った。

——恐るべき太古の生物……ねぇ。

 レイラは杖を取り出すと、破かれたページを杖で軽く叩いた。すると破れていたページがあっという間に元に戻った。

 

「どれどれ……」

 

 持ち去られた部分には何が書かれていたのか、それを確認するためにレイラは本を読んだ。

 

『我らが世界を徘徊する多くの怪獣、怪物の中でも最も珍しく、最も破壊的であるという点で、バジリスクの右に出るものはいない。「毒蛇の王」とも呼ばれる。この蛇は巨大に成長することがあり、何百年も生き長らえることがある。鶏の卵から生まれ、ヒキガエルの腹の下で孵化する。殺しの方法は非常に珍しく、毒牙による殺傷とは別に、バジリスクのひと睨みは致命的である。その眼を直接見たものは即死する。蜘蛛が逃げ出すのはバジリスクが来る前触れである。何故なら、バジリスクは蜘蛛の宿命の天敵であるからである。バジリスクにとって致命的なのは雄鶏が時をつくる声で、唯一それからは逃げ出す』

 

「ふぅん、バジリスクか……けれど、巨大な生物が城内を動き回ってれば誰かしら目にするはず……おっと、クィディッチの時間が近いな」

 

 本を元の棚に戻すと、レイラはクィディッチを観戦するために図書室を後にする。

——誰かしら目にするとは言ったが、即死する瞳を見て死者が出ていないのはおかしい。見たものは全員が石化している以上別な犯人が……

 

「いや……まさか、誰も直接は見ていないとしたら?」

 

——クリービーはカメラを構えていた。ジャスティンはどうだろうか。おそらくはゴーストであるサー・ニコラス越しに蛇を見たか。卿はゴーストだから、おそらく二度は死なないのだろう。

 しかしまだ確証はない。レイラとしてはあまり出て欲しくはないが、あと一人ほど、被害者が出れば分かることもあるだろう。そう思って廊下を歩いていた時、脇道から来たマクゴナガル先生と出くわした。

 

「おや、ミス・ポッター。クィディッチの観戦ですか?」

「こんにちはマクゴナガル先生。ハリーの応援に行くんです」

 

 いつものとんがり帽子とは違った、低い帽子を被ったマクゴナガル先生と、レイラは同じ目的に向かって歩く。グリフィンドールの寮監であるマクゴナガル先生は、クィディッチ好きとして知られており、側から見てもワクワクしているようだった。

 そのマクゴナガル先生が、レイラを見た。

 

「ミスター・ルークは一緒ではないのですか? 一連の犯人が分かっていない以上、生徒が一人で行動するのは私としても心配です」

「アルフレッドには観客席を取ってもらっているんです。先ほどまで図書室に行っていましたので」

 

 なるほど、そうでしたか。とマクゴナガル先生は頷いた。

——同性のダフネではなくアルフレッドの名前が出て来るあたり、そんなに一緒にいるイメージがあるのか。ううん? なにか引っかかる気がす……る。うん、あれは——

 廊下の先、曲がり角の奥の床に、何かが落ちているようだ。「おや」と、マクゴナガル先生も気がついたのか、声を漏らした。

 段々と近づいて、それがなにであるのか理解した。

 

「——ッ!? 先生!」

「そんな、まさか……」

 

 二人は同時にソレを視認した。見慣れたソレは、人の足だった。ローファーに、ハイソックス。女子生徒の足が、廊下の曲がり角の先から見えていた。あの体勢はおそらく、転んでしまったのだろうか。

——いや、違うだろうな。

 緊迫した様子とは裏腹に、レイラの思考はクリアだった。そして的確に、事の重大さを理解した。即ち、再び襲撃者が現れ、生徒が襲われたということを。

 レイラとマクゴナガル先生は駆け出し、廊下の角まで来ると、恐る恐ると言った様子でその先を覗き込んだ。そして同時に、思わず息を呑んだ。

 二人にとって衝撃を受けるほどに、今回の被害者とは面識があった。その人物とは……

 

「……ハーマイオニー」

「ああそんな、ミス・グレンジャー……」

 

 その時だった。あの声が、聞こえてきた。

 

「今度は殺す……引き裂いて……八つ裂きにして……」

「ッ!!」

 

 レイラは声のした方へと、勢いよく顔を向ける。壁だ。壁の中から、声が聞こえた。レイラはすぐに、壁にピタリと耳をつけた。するとどうだろうか、僅かに、何かが這うような音が聞こえた気がした。

 ハーマイオニーの様子を見ていたマクゴナガル先生は、レイラの行動には気づいておらず、石になってしまったらしい彼女の手を撫でていた。そのハーマイオニーの手には、何かが持たれていた。

 

「手鏡……?」

 

 小さな手鏡だった。それは、レイラの考えを確かなものにするものだった。襲撃犯は、ハーマイオニーの読み通りだったということになる。——バジリスク。伝説のような怪物が、事件の裏にいる。それを裏付けるかのように、廊下の端に、蜘蛛が列を作って外へと出ようとしていた。まるで、何かから逃げるように。

 そしてもう一つ、バジリスクであるなら、レイラが謎の声を聞いていたことにも説明がつく。パーセルマウスのレイラに、蛇であるバジリスクの声が聞こえるのは当然だからだ。

 レイラの自然に拳を作った己の手が、強く握られていたことに気づかなかった。

 

 

 

 その日のクィディッチの試合は、中止にされることとなった。生徒が一人襲われて石になったのだから、妥当な処置だろう。しかしハリーの試合を見たかったレイラとしては、やはり実施して欲しかったところである。

——バジリスクめ、この代償は高くつくぞ……

 心の中でバジリスクに悪態をつきながら、レイラは夜に校長室へと向かっていた。こっそりと呼び出しを受けたのだ。この後しばらくはダンブルドアが手が離せないことがあるらしく、急ぎ来て欲しいとのことだった。

 校長室前のガーゴイルに合言葉を告げれば、生徒が出歩いていけないことを咎めずに、ガーゴイルは道を開けてくれた。

 大きな木製の扉をノックして、レイラは校長室へと入る。

 

「校長、来ましたよ」

 

 部屋に入れば、ダンブルドアはくたびれた組分け帽子を手に、机に座っていた。

 

「おお、待っておったぞ」

 

 ダンブルドアは帽子を大事そうに持ちながら、ゆっくりと立ち上がった。

 

「マクゴナガル先生に聞いたよ、君と先生が、ミス・グレンジャーを最初に見つけたと」

「ええ、悲しいことです。……しかしスプラウト先生の話では、まもなくマンドレイク薬が作れるようになると」

 

 学友が石にされてしまったことは、レイラとしては本当に残念なことだ。ハーマイオニーのお陰で、事件の犯人を突き止めることができるまでに至ったのだから。

 

「しかし、恐らく事は容易には進まんじゃろう。ルシウス・マルフォイが、わしを排除しようとしているようじゃ」

「正気ですか?」

 

 生徒が襲われる状況が続く中で、事件解決能力が最も高いダンブルドアを学校から追いやるなど、どうぞ被害者を増やしてくれた言っているようなものだ。

——いや……もしやそれが…………

 

「まさか、一連の事件を氏が?」

 

 ダンブルドアはかぶりを振った。

 

「手引きしたのは恐らく彼じゃ。しかし、生徒を襲わせているものは別におると、わしは睨んでおる」

 

 そう話すダンブルドアの声音は、いつもより数段低く、真剣そのものだった。彼はゆっくりとレイラに近づき、持っていた組分け帽子を差し出した。

 

「もしもわしがここにおらぬ時、何かあればこの帽子を持っていき、ハリーに渡すのじゃ。きっと力になるじゃろう」

「ハリーに?」

「左様。レイラ、君でも良いかもしれぬが、スリザリン生でそれを扱えた者がいない故、確実性に欠けるのじゃよ」

 

 レイラは組分け帽子を受け取ると、しげしげと観察した。しかしくたびれていて、喋る以外は特段変わったところはなさそうだ。

 

「ホグワーツでは、助けを求める者にそれが与えられるのじゃ。覚えておきなさい」

「……はぁ」

 

 帽子が助けになるのかと、レイラは疑問を持ちつつも頷いた。もしかしたらダンブルドアは焦り、何かしなくてはと躍起になっているのだろうかと思ったが、どう見ても落ち着いているようにしか見えなかった。

——何か特定の場面で効力を発揮するのかもしれないし、ここはおとなしく預かっておこう。

 ダンブルドアが自身よりも豊富な知識と技術を持っている事を理解しているレイラは、ひとまず彼を信じることにした。

 その後一人で談話室まで戻ったレイラは、寝ないで待っていたアルフレッドに苦笑しつつも、呼び出されて何があったのかを話すことにした。

 

 そして、ダンブルドアの言った通り、ホグワーツの理事十二人全員の署名の下、彼はホグワーツ校長を停職させられたのだった。




まもなく秘密の部屋も終わりを迎える頃になりました
終わり方は三通りくらい考えていて、どれにしようかはまだ考え中です。
これからもどうぞお楽しみに。
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