あと二、三話で終わりそうですかね……。
いつも投稿してからすぐに誤字脱字を指摘して下さる方々、毎度ありがとうございます。勘違いから恥ずかしいミスまで、指摘されるほどによく読んでくださって感謝です。
ジニー・ウィーズリーが秘密の部屋に攫われたという情報は、ホグワーツ中に瞬く間に広がった。
純血の家系の者が連れ去られたという事態に、さしものスリザリン生も動揺した。先生方の指示により、生徒は全員各寮に戻ってきている。その中で、部屋の片隅でレイラは考えていた。
——どこだ、秘密の部屋……そもそも、パイプを伝って移動するバジリスクはどこから出てくる? 被害に遭った者は全員廊下で石化していた。なら、廊下をくまなく探せば抜け穴でもあるかもしれないが、そんなに悠長にはしていられないだろうな。
推察に行き詰まったところに、横合いからチョコレートの包みが差し出された。顔を横に向ければ、それはドラコだった。
「何を考えているのかは大体わかるが、これでも食べろ。甘いものは頭の回転をよくすると、母上がおっしゃっていた」
「……うん、ありがとう」
受け取ったチョコレートを口に放り込み、しばしの沈黙が訪れる。ちょうど二人のそばに近づいてきたアルフレッドにも、ドラコはチョコレートを渡す。そういえば、ドラコはチョコレートが好きだったなと、レイラは思い返した。だからこそこうして近しい人に渡したりもしているのだ。
ふと、レイラは疑問に思った。スリザリンの怪物がマグル生まれを襲うことを喜んでいたドラコだが、今はどうなのだろうかと。今度は石にされるのではなく、秘密の部屋に連れ去られてしまった者が出た。しかも、連れ去られたのは純血の家系であり、彼がよく面汚しだなんだと言うウィーズリー家の末娘だ。
チョコレートを嚥下して、レイラは問うた。
「君は、ジニーが連れ去られた事をどう思う?」
瞬間、ビクリとドラコの方が揺れた。明らかに動揺を示したのだ。やがて力なくうなだれ、それからゆるゆると顔を上げた。
「何も、思うところがないと言えば、嘘になるだろう。だけど、僕にはよく分からなくなっている」
「分からない?」
ドラコはチョコレートの包みを一つ取り出して、掌の上でコロコロと転がす。
「初めは喜んでいたさ、これでマグル生まれの者が学校を去るだろうってね」
それを聞いていたアルフレッドが、ムッとした様子で何事かを言おうとするが、レイラがそれを制して止めさせる。最後まで聞こうという、意思を込めて。
「だが結果はどうだ? 怖がる者はいても、誰もホグワーツを去る者はいなかった。父上は校長を引きずり降ろしたかったようだが、この分ではそれも失敗に終わるだろう。犯人だと思われていたハグリッドが消えたのに、事件が続いたんだからな」
そこで言葉を区切ったドラコの腕が、震えていた。まるで、何かをこらえようとしていて、気持ちが揺らいでいるのが見て取れた。だからこそレイラは、ドラコの手を優しく握った。ハッとしたドラコだが、すぐに顔を逸らした。恥ずかしさがこみ上げてきたのだ、スリザリンの継承者が生徒を襲っていたのを喜んでいた事と、自分よりも心を痛めているであろうレイラに、逆に心配されたことが。
ドラコ自身、なぜそのように思うのかは分からない。今までの自分であれば、ジニー・ウィーズリーが死のうと気にも留めなかったかもしれない。変わることが怖かった。今まで信じてきたものが、揺らいでしまうようで。けれど、変わらなければいけないと、ドラコの中の本能が警鐘を鳴らしていた。
だからこそ、ドラコは口を開く。
「こんな、恐怖で人を押さえつけるのは、間違っていると思うようになった。なぜそう思うのかは、不思議と自分でも分からないんだ。でも、僕は……レイラを見ていると、これは間違っていないんだって思う」
これは、正しい感情だろうか? そう力なく訊ねるドラコの手を、レイラは空いていたもう片方の手でも優しく包み込んだ。ドラコはいっそう頭をうつむかせ、それっきり黙り込んでしまう。
「もちろん、正しいとも。けれど君は、純血主義から逸れた考えをするのが怖いんだろう?」
無言のまま、頭を縦に振るドラコ。レイラはドラコの手を、優しく撫でる。
「いいじゃないか。人が人を心配するのに、良いも悪いもない。人として当然の気持ちだよ。そのことに、君は気づいただけさ。大丈夫、何も間違っちゃあいないよ」
ゆっくりと、顔を上げるドラコ。まるで光を見つめるように、目を細めてレイラを見やる。
「だが、僕は今まで散々やつらをコケに……」
「そうだね、その事を決して忘れるな。その過去があるからこそ、今の君があるんだから」
「そう、か…………そうか」
ドラコは安堵した。まだ、自分には機会があるのだと。どこか、道がまっすぐ見えたような気すらし始めていた。
談話室の隅のソファに腰掛ける三人。気を取り直したドラコを交え、レイラとアルフレッドは秘密の部屋の場所について話し合っていた。
「とりあえず、どこで生徒が襲われたのか整理してみようか」
レイラの言葉に、他の二人は黙ったまま頷く。
「一人目、というよりは一匹目だけど。ミセス・ノリスは三階の廊下で、松明の腕木にぶら下がっていた」
淡々と事実を確認したレイラは、次いでアルフレッドを見やる。その視線の意図するところを察したアルフレッドが頷く。
「その次は、ジャスティン・フィンチ-フレッチリーとサー・ニコラス。こいつらは変身術の教室から少し離れた場所で見つかったな」
そしてアルフレッドは、ドラコを見た。一瞬ドキリとしながらも、ドラコは咳払いを一つして、息を吸い込んだ。
「三度目の犠牲者がグレンジャー。……あー、あいつはどこで襲われたんだ?」
「図書館からクィディッチのグラウンドに行く途中の廊下だよ」
ドラコの疑問に、実際にその目で襲われたハーマイオニーを発見したレイラが答える。
三人は、何か共通点がないかと頭を捻る。
「三回とも、廊下で起きているな。あとは、被害者が一人、または二人のところを襲っている」
「廊下に何かあるということか、ルーク?」
「ああ。密閉されている部屋の中に、突然怪物が現れるわけはないだろうからな」
アルフレッドは、ドラコのやり取りをおとがいに手を当てて聞いていたレイラをちらりと見やる。
「レイの話によると、グレンジャーが襲われた廊下の壁の中から、怪物のものらしき声を聞いたらしい」
「壁の中をか。……まさか、すり抜けているとでも?」
そこでようやく、レイラが口を開いた。
「いや、現実的じゃないね。そういう魔法もあるけれど、魔法生物に壁抜けができるものがいるとは聞いたことがないかな」
一度言葉を区切ってから、レイラはドラコの言葉を反芻する。
——すり抜けは現実的じゃない。けれど推定バジリスクは、廊下の壁をスルリと移動していた。なら、最初から移動手段が確保されているとしたら? 壁に穴を開けるなんていう工作をするまでもなく、既にそこに“道”があるとしたら?
そうして、レイラは一つの答えにたどり着いた。
「……配水管?」
「なんだって、レイラ。配水管?」
訝しげに聞き返してくるドラコに、レイラは「うん」と頷く。反対にアルフレッドは思い至ったらしく、ポンと手を打った。
「そうか。配水管なら、城中に巡らされている」
レイラは静かに首肯する。そして、重々しく口を開いた。
「五〇年前に秘密の部屋の騒動で亡くなったマートルは、三階の女子トイレで見つかった。……唯一生徒が殺された場所に、秘密の部屋への入り口がある可能性は十分高いだろうね」
トイレというところから、配水管が通っている。もしマートルが五〇年前、偶然秘密の部屋の継承者が部屋への入り口を開ける瞬間を目にしてしまったとしたら。口止めとして殺されていたとしても、不思議ではないだろう。
答えを見つけたレイラは、ソファから立ち上がる。これから彼女が何をするのか察したアルフレッドは、やれやれといった様子でそれに続く。唯一ドラコだけは、何が何だか分からないようだった。
「どうしたんだ、二人とも。スネイプ先生にでも知らせに行くのか?」
レイラはかぶりを振る。
「いいや。場所の目処が立った以上、すぐにでも三階の女子トイレを確認しに行くよ」
「正気か!?」
信じられないといった面持ちで、ドラコが身を乗り出す。自ら死地に飛び込むようなものだ。最悪、バジリスクに出くわすこともある。そんな場所に進んで足を向けるレイラが、ドラコには信じられなかった。
けれどレイラは、緊張も、気負った様子も見せなかった。まるで、ただの義務をこなすように、冷静だった。
「早くしないと、ジニーを助けにハリーたちが先に行ってしまうこともあり得るからね」
「諦めろマルフォイ。レイは言い出したら聞かないからな」
「…………」
やがてドラコは、長い溜息を吐いた。何かを諦めたような、覚悟を決めたようにも思える表情をしていた。
「わかった、僕も連れていってくれ。二人よりは三人の方がやれることが増えるだろう」
それを聞いたレイラは、フワリと笑って、ドラコの提案を受け入れた。
決意を固め、レイラとアルフレッドに同行しようと決めたドラコだったが、連れていかれる場所を思い出して、早々に後悔していた。
「お、おい。やっぱりまずくないか? 女子トイレだぞ……」
「個室の形は男子トイレと一緒でしょ、ほら、入った入った」
「諦めろマルフォイ……」
明確な入り口の予想が、三階の女子トイレ以外にない以上、行くしかないのである。襲撃の手口から、おそらく他にも入り口をあるのだろうとレイラは推察しているが、それを今調べている暇はない。最短の時間で、素早く済ませたかったのだ。
尚も駄々をこねるドラコを先頭に進ませて、女子トイレの中へ入る。扉を開けさせて入った女子トイレの中心には、今まであったものが奇妙な形に変形していた。
洗面台の上部は空中に浮かび上がり、その他の部分は床下に降りている。そうして現れていたのは、下へと通ずる大きな穴だった。
それが意味するのは、すでに誰かが秘密の部屋を開け、その入り口を閉めずにいるということだ。ただ一人…………。
「あら、レイラじゃない。……うふふ、少し遅かったわね」
洗面台奥のステンドグラスの縁に座っていたマートルが、楽しげに笑っていた。
……終われ、終われ。
早く平和な日常回へ行くのだ。
というわけで、いかがでしたでしょうか。あまり進んではいませんが、今後の物語上、大事な場面でした。
ドラコが大きく変わったことで、様々なことが変わる……はず。
思想云々については、あまり深く考えていませんでした。気づいたら指が勝手に……。
後悔はしていませんがね。今後とも、よろしくお願いします。
そうそう、『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』観てきました!
いやぁ、もう! カッコいい! アルバス・ダンブルドアの若い頃のイケメン具合と、スーツを着こなしているダンディさが最高です。随所に『ハリー・ポッター』シリーズに通じるところがあって、ファンにはたまらないです。ええ!
まったくの脇役ですが、ハリポタの登場キャラに縁のある人とかいて、さらに最高でした。
あの時代の二次小説を書いても楽しそうですねぇ。群像というか、小話的な形でチョロチョロ書いてもいいかも。今は書けませんがね笑