ハリー・ポッターと不死鳥の姉   作:駆華野 志想之介

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気づけば評価バーが赤く染まっています。皆さんに読んでいただき、嬉しいかぎりです。


九と四分の三番線

ハリーとレイラは入学までの一ヶ月間をダーズリー家で過ごした。レイラは教科書を読み耽り、大半に目を通し終えた。知らないことを知るのは、とても楽しかった。

ハリーはハグリッドに貰った誕生祝いの白フクロウにヘドウィグという名前をつけた。魔法史の教科書に載っていた名前からとった。

バーノンおじさんに九月一日にキングス・クロス駅に送ってもらいたいことを告げると、おじさんはウームと何度も唸りながらも承諾してくれた。

 

当日、レイラは五時に目が覚めた。いつも通りだ。顔を洗って服を着替える。ホグワーツの制服に着替えるのはまずいと思い、制服の白いシャツにモスグリーンのロングスカートに着替えた。レイラの持つものでも一等ちゃんとした服だった。靴下はホグワーツの制服のものを履くことにした。髪を肩あたりで結んで前に流し、レイラはハリーを起こしに向かった。

ダドリーの二つ目の部屋で寝起きをするようになったハリーを布団を引き剥がして起こし、着替えを出してやる。のっそりとして遅いので、上着とジーンズを出し、荷物の確認をするように促す。

七時。二人分の重いトランクを乗せ、一行は出発した。

 

「それで、どの電車に乗って魔法学校とやらに行くんだ?」

「九と四分の三番線だよ」

 

ハリーがそう答えて、おじさん、おばさんは目を丸くした。

 

「バカバカしい。九と四分の三番線なんてあるわけがない。連中は大バカのコンコンチキだ」

 

十時半にキングス・クロス駅に着いて、おじさんは二人のトランクをカートに乗せて運んでくれた。やけに親切だなと気味悪がっていると、おじさんは案の定、プラットホームの前でピタリと止まるとニターッと笑った。

 

「そーれ、着いたぞ小僧ども。九番線と……ほれ、十番線だ。お前たちのプラットホームはその中間らしいが、まだできてないようだな、え?」

 

まあ、確かに無いし、見えない。

ハリーは力なく俯いてしまった。しかしまあ、どっちもどっちさ。

 

「魔法使いが乗るんだから、入り口を魔法で隠すのは当たり前でしょう。見えたら問題ありまくりでしょうに」

 

おじさんは顔を赤く上気させると、さっさとものも言わずに行ってしまった。

 

「ほらハリー、行こう。九と四分の三番線を探さなきゃ」

「う、うん。ありがとうレイラ」

 

きっとハグリッドは大事なことを伝え忘れている。九と四分の三番線なんて見てわかるものではないだろうし、彼はおっちょこちょいなのだろうか。

九番線をあっちへこっちへと行き来したところで、ハリーとレイラは背後を通り過ぎた一団の会話が耳に飛び込んできた。

 

「……マグルで混み合ってるわね。当然だけど……」

 

二人は急いで振り返った。ふっくらとしたおばさんが、揃いも揃って燃えるような赤毛の四人の男の子に話しかけていた。みんなレイラたちと同じようなトランクを押しながら歩いている……それに、「ふくろう」が一羽いる。

 

「さて、何番線だったかしら」

「九と四分の三番線よ」

 

お母さんの問いに小さな女の子が甲高い声を出した。この子も赤毛だ。

 

「ありがとう、ジニー。パーシー、先に行きなさい。時間があまりないわよ」

 

一番上らしい男の子がプラットホームの「9」と「10」の間の柵に向かって進んだ。ハリーとレイラは目を凝らして見ていた。見過ごさないよう、瞬きしないように気をつけた……ところが、男の子がちょうど二本のプラットホームの分かれ目に差し掛かった時、二人の前に旅行者の群れが通りかかり、男の子は消え去っていた。

次に赤毛の双子の一人が同じように進み、柵に吸い込まれるようにして消えてしまった。続いて双子の片割れが消えて行くのを見て、レイラは急いでおばさんに声をかけた。

 

「すみません」

 

優しそうなおばさんは、にこやかに応じてくれた。

 

「あら、こんにちはお嬢ちゃんたち。ホグワーツは初めて? うちのロンもそうよ」

 

最後に残った男の子を指して、おばさんはそう言った。

 

「ええ。でも、なにぶん初めてなので、行き方がわからないんです」

「簡単よ。九番と十番の間の柵に向かってまっすぐ歩けばいいの。怖ければ少し走るといいわ」

「ありがとうございます。…………わたしが先に行ってみるから、後からおいで」

「……うん」

 

ゆっくりと、レイラはカートを押して柵へと進む。誰もこちらを見ない。カートの先端が柵に触れようとしたところで見えなくなり、カートが柵に飲まれるように消えていった。やがてレイラ自身も柵に吸い込まれるように消え、気がついたら、紅色の蒸気機関車が停車するプラットホームにいた。

『ホグワーツ行特急十一時発』とホームの上に書いてある。後ろからハリーが走って来るかもしれないと思い、レイラは急いでその場を離れた。

列車の中央車両に誰も座っていないコンパートメントの席を見つけ、レイラは列車の戸口の階段から重いトランクを押し上げようとした。しかしトランクが重く、なかなか持ち上がらない。……明らかに教科書と鍋が重いな。

その時、トランクを押し上げようとするレイラの背後から両腕が伸び、トランクを階段から上がらせて客室の隅におさめてくれた。

 

「……ぁ」

 

その人物に、レイラは見覚えがあった。綺麗な銀髪の、落ち着いた雰囲気の男の子。ダイアゴン横丁でレイラを案内してくれた、アルフレッド・ルークがそこにいた。

 

「ひと月ぶり、だな。……レイ」

 

レイ。そう呼ばれてくすぐったくはあったが、自然と受け入れられた。嫌な気はしなかったのだ。

 

「ん。久しぶり、アルフレッド」

 

アルフレッドの荷物も客室に入れ、二人は中に入った。その際、列車の最後尾で、ハリーが先ほどの赤毛の双子に荷物を押し上げるのを手伝ってもらっている光景が見えた。ハリーは大丈夫そうだね。

 

「荷物、ありがとう。一人じゃ持ち上がらなかった」

「その細腕じゃ厳しそうだしな、いいさ」

 

そういう君もずいぶん細いだろうに、とは言わなかった。レイラは持っていたハンドバッグから、ヴィンディクス・ヴェリディアンの『呪いのかけ方、解き方』という本を取り出して膝の上に置いた。

 

「ロン。お鼻になにかついてるわよ」

 

窓を見ると、先ほどのおばさんが、末息子をとっ捕まえて、鼻の先をこすろうとしていた。

 

「ママ、やめて」

 

ロンと呼ばれた少年はもがいて逃れた。それをロンの双子の兄たちがはやしたてる。

 

「パーシーはどこ?」とママが聞いた。

「こっちに歩いて来るよ」

 

一番年上の少年がレイラのいるコンパートメントの窓の前を横切り歩いていく。もうすでにホグワーツの制服に着替え、胸元には銀色のPの字が入ったバッジをつけていた。

 

「さあ、みんな。楽しく過ごしなさいね。着いたらふくろう便をちょうだいね」

 

母親はパーシーの頬にサヨナラのキスをした。パーシーがいなくなると、次に母親は双子に言った。

 

「さて、あなたたち……今年はお行儀良くするんですよ。もしも、またふくろう便が来て、あなたたちが……トイレを吹き飛ばしたとかなんとか言ったら……」

「トイレを吹っ飛ばすだって? 僕たちそんなことしたことないよ」

「すげえアイデアだぜ。ママ、ありがとさん」

「バカなこと言わないで。ロンの面倒見てあげてね」

「心配ご無用。はなたれロニー坊やは、僕たちにまかせて」

「うるさい」とロン。

 

双子と同じくらい背が高いロンは、顔を赤くして怒っているようだった。

 

「ねえ、ママ。誰にあったと思う? 今列車であった二人、だーれだ?」

 

レイラは思わず覗いていた窓から身を離した。アルフレッドがニヒルに笑いかけてくる。

 

「駅でそばにいた黒髪の男の子と綺麗な赤髪の女の子、覚えてる? あの子たちはだーれだ?」

「だあれ?」

「ポッター!」

 

もしかしたらハリーも、自分と同じようにこの会話を聞いているのかな?

レイラの耳に女の子の声が聞こえた。

 

「ねえ、ママ。汽車に乗って、見てきてもいい? ねえ、ママ、お願い……」

「ジニー、もうあの子たちを見たでしょ? 動物園じゃないんだから、ジロジロ見たらかわいそうでしょう。でも、フレッド、ほんとなの? なぜそうだとわかったの?」

「本人に聞いた。傷跡を見たんだ。本当にあったんだよ……稲妻のようなのが」

「かわいそうな子たち……どうりで二人きりだったんだわ。どうしてかしらって思ったのよ。どうやってプラットホームに行くのかって聞いた時、本当にお行儀がよかった」

「『例のあの人』がどんなだったか覚えてると思う?」

 

母親は急に厳しい顔をした。

 

「フレッド、聞いたりしてはだめよ、絶対にいけません。入学初日からそのことを思い出させるなんて、かわいそうでしょう」

「大丈夫だよ。そんなムキにならないでよ」

 

汽笛が鳴った。レイラはピシャリと空いていた窓を閉める。

 

「レイ」

 

アルフレッドが呼ぶ声で視線をコンパートメント内に戻したレイラは、目の前に突き出された小包装のチョコレートに目を丸くした。

 

「食え、気分がマシになる」

「……うん」

 

本の上に置いていた左手でチョコを受け取ろうとして、痛みを覚えたために右手で受け取った。いつのまにか強く拳を握りしめていたようで、手のひらに爪が食い込み、跡が赤くなっていた。

口に入れたチョコレートは甘くて美味しかった。食べ終えたレイラは、未だに赤い跡の残る手のひらを見つめる。

 

「……一度として、あの夜のことを忘れた日はないさ」

 

レイラは、黙したままこちらを見つめるアルフレッドに笑いかけた。

 

「聞きたいか?」

 

今でも鮮明に思い出せる。黒いローブの奥に隠れた人の道を踏み外したような顔。勇敢に立ち向かった父の最後の顔に、母の悲痛そうな表情。どれも、思い出せる。夢にまで見るほどに。

目の前の少年は、話を聞いてどう思うだろう。興味を持つ? 同情する? 辛かったねと、憐れみの色を持った瞳で?

そんなもの……

 

「言わなくていい」

「…………え?」

 

予期せぬ言葉に、レイラは思わず聞き返してしまう。ダイアゴン横丁で自分たちのことをポッターだと知った人や、先ほどの赤毛の子どもたちの反応とは違った、予想を裏切られたような形となったレイラはポカンと疑問符を浮かべる。

怜悧な瞳は、好奇の色を含んではいない。ただただ、レイラを見つめるだけだった。

だが、その目には少しだけ、憐れみが含まれているようだった。

 

「……なん、だよ。わたしが、いつ、憐れんで欲しいと言った? そんな顔で…………っ!?」

 

アルフレッドの手が、指が、レイラの頬を撫でた。否。流れ出る涙を拭った。

そこで初めて、レイラは自分が泣いていることに気がついた。

 

「そんな顔で話して欲しくないし、聞きたくもない」

「う……ぐぅ」

 

アルフレッドは呆れ気味に、「ひどい顔だ」と言ってレイラの目元をハンカチでゴシゴシと擦る。

 

「きみは…………よくわからないな」

「……誰かと比べられたことはないが、わかりやすいよりはいいだろ?」

 

その言葉に、レイラは目を丸くした。やがてクスリと、笑みを作った。

 

「そうだね。その方が楽しい、かな」

 

受け取ったハンカチで目元を丁寧に拭い、窓ガラスを見る。薄っすらと写る自分の顔は、目元が赤いが、笑えていた。

アルフレッドがもう一つチョコレートをレイラに渡し、二人は同時に口にした。

 

 

汽車が走り出し、窓から見える家々が飛ぶように過ぎ去っていく。アルフレッドとの会話はあまりないけれど、心地よいひと時だった。

コンパートメントの扉が開いて、男の子が三人入ってきた。真ん中の一人は、マダム・マルキンの洋装店にいた、青白い子だ。ダイアゴン横丁の時よりもずっと強い関心を示してレイラを見ていた。

 

「このコンパートメントにレイラ・ポッターがいるって噂になっているけど、君がそうかい?」

 

レイラは読んでいた『呪いのかけ方、解き方』の本から視線を僅かに逸らし、男の子を見た。

 

「そうだとしても、君は先に名乗るべきでは?」

 

その問いにしまったと顔をしかめる男の子。どうやらこの子も舞い上がっていて、すっかり忘れていたようだ。

男の子は咳払いを一つしかた。

 

「これは失礼。僕はマルフォイだ、ドラコ・マルフォイ。こいつらはクラップに、ゴイルだ」

 

レイラはドラコの後ろに立つ二人に目を向ける。ガッチリ、といえば聞こえはいいが、少し太り気味かと思える体型だった。取り巻き、もしくはボディーガードといったところだろうか。

 

「レイラ・ポッターよ、よろしくね三人とも」

 

微笑みを浮かべて首を僅かに傾ける。あまり人に挨拶をする経験がないので、スカートをつまむカーテシーなんかはできない。

 

「あ、ああ。よろしく。……あー、そちらは?」

 

うん? 歯切れが悪いけど、何かやらかしたかな。怒ってはいなさそうだけど。

ほんのり頬をピンクに染めたが、レイラはそれに気づかなかった。ドラコたち三人の目には、レイラの笑みは眩しく映った。普段自分に挨拶をしてくる同年代の輩といえば、マルフォイなどの家名に取り付こうとして、媚びへつらうような笑みしか浮かべないもの大半だからだ。

そのような意図を持たないレイラは、可憐に見えたのだ。ドラコはそれを誤魔化すように、コンパートメントにいたもう一人に声をかけたのだ。

 

「アルフレッド・ルーク。マルフォイの名はよく耳にする。後ろの二人も。まあ、よろしく」

 

無愛想に、しかし礼儀は怠らずといった様子のアルフレッドに、ドラコたちは拍子抜けした。この二人は今までのやつらと違う、そう思った。

ポッターと友好を深めておこうというドラコの目的は、二人の対応で未遂に終わった。というより、それ以上続けられなかった。

ドラコたち三人は、足早にコンパートメントを出ていく。レイラには言わなかったが、これからもう一人のポッターの顔を見に行くのだ。そしてあわよくば、ということである。

 

十二時半前頃、通路でガチャガチャと大きな音がして、えくぼのおばさんがニコニコ顔で戸を開けた。

 

「車内販売よ。何かいりませんか?」

 

おばさんの押すカートにはレイラが見たことのないようなお菓子がいっぱいあった。少し悩んだ後、蛙チョコレートとかぼちゃパイを一つずつ買った。アルフレッドも蛙チョコレートを一つ買う。

お小遣い用のお金はたくさんあるが、レイラは買うことを躊躇った。そこまでお菓子を食べたいというわけでもないし、両親のお金を最初から使いまくるのは気が引けたのだ。その数分後、ハリーは大量にお菓子を買い込んだのだが…………

 

レイラは読んでいた本を閉じ、蛙チョコレートの青い包みを手に取る。

 

「これ、蛙の形をしたチョコレートってことでいいのか?」

「ああ。けど、気をつけろよ」

 

アルフレッドも蛙チョコレートの包みを手に取り、それを開ける。するとピョンと、中からチョコレート色の蛙が飛び出した。蛙がまだ空中にいる間に、アルフレッドは手を素早く伸ばして掴み取る。本物そっくりの鳴き声をあげて捕まえられた蛙は、そのままアルフレッドに食われた。

レイラは口をあんぐりと開けた。

 

「開けると逃げて行くから、気をつけろ」

「……エグい。作った人もそうだが、それを食べる人もエグい」

「そう言いつつも食べるんだな。感心する」

 

買った以上は食べなければもったいないし、少しばかり興味もあったレイラは包みを開ける。蛙が出ないようにゆっくりと開けていき、開いた隙間から指を入れ、蛙を摘む。ああ、うん。チョコだね。

逃げようともがく蛙を口に放り込み、噛んだ。

……うん、チョコだ。

チョコレートの入っていた包みを開けて、中に入っていたカードを取り出す。老人だ。半月メガネ、高い鉤鼻、流れるような銀髪、あごひげ、口ひげを蓄えている。

……ああ、この老人を知っている。

レイラはカードに書かれていた老人の名前に目を落とす。

 

「……アルバス・ダンブルドア」

 

カードをひっくり返して裏を読んだ。

 

アルバス・ダンブルドア。

現在ホグワーツ校長。近代の魔法使いの中で最も偉大な魔法使いと言われている。特に一九四五年、闇の魔法使い、グリンデルバルドを破ったこと、ドラゴンの血液の十二種類の利用法の発見、パートナーであるニコラス・フラメルとの錬金術の研究などで有名。趣味は室内楽とボウリング。

 

……なにこのおじいさん。というか何歳だよ。

レイラがカードを表に直すと、ダンブルドアは消えていた。

 

「おじいさんが、消えた……?」

「魔法界の写真は人が動くものなんだ。肖像画では話もできる」

「マグル……だっけ? こっちじゃ動かないから、おもしろいな」

 

夕日が差し込み、車窓に荒涼とした風景が広がり始めた頃、コンパートメントをノックして、丸顔の男の子が泣きべそをかいて入ってきた。

 

「ごめんね。僕のヒキガエルを見なかった?」

 

二人が首を横に振ると、男の子は俯いてレイラたちのコンパートメントを後にした。

男の子が出て行ったあと、アルフレッドがおもむろに口を開いた。

 

「そろそろ、制服に着替えておくか?」

 

その言葉に、レイラは窓の外を見ておおよその時刻を推測する。夜にはホグワーツに着くようなので、あまり遅くならないうちに着替えた方がいいだろう。そう考え、頷いた。

 

「そうだな、いい頃合いだ」

 

自分のトランクを開け、制服一式を取り出した。立ち上がり、制服のスカートにシワがないか確認して、履いていたロングスカートを脱ごうと手を掛けたところでアルフレッドに止められた。

 

「どした?」

「……異性の目の前でおいそれと着替えるべきじゃない、お前は性別と恥じらいを理解しているのか?」

 

その言葉にレイラはきょとんと目を丸くする。それから、嗚呼と納得した。

 

「ごめんごめん、今まで寝起きはハリーと同じ部屋だったから、つい癖で。……気をつける」

 

そして長いため息。目頭を押さえながらアルフレッドは立ち上がり、そのままコンパートメントのドアを開けた。

 

「外に出ているから、着替え終わったら呼べ」

「ああ、悪いね」

 

パタンとドアが音を立ててしまったことを確認し、レイラは素早く着替えた。といっても、シャツはすでに制服のものを着ていたし、スカートを履き替えるのみであったために十五秒ほどで終わった。

外で待機していたアルフレッドに知らせ、今度はレイラが外に出る。その間に彼女は持ってきた新入生用のネクタイを締める。曲がっていないかを窓ガラスで確認しているところで、アルフレッドから着替えが終わったことを告げられてコンパートメントに戻る。

グレーのセーターに袖を通していると、カエルに逃げられた子が、今度は女の子を連れて現れた。女の子はすでに制服に着替えていた。

 

「ヒキガエルを見なかった? ネビルのがいなくなったの」

 

なんとなく威張った話し方をする女の子だ。栗色の髪がフサフサしていた。

——ヒキガエル……ネビルというのが、先ほどの男の子かな?

 

「あら、もう制服に着替えたのね。みんな通路でかけっこをしたりして、子供っぽいと思ってたけど、ちゃんとした人もいるみたいね」

 

澄まし顔でそう言った女の子は、レイラの髪の毛を見て、「あっ」と声をあげた。

 

「もしかしてあなた、レイラ・ポッター?」

「うん、そうだよ。あなたは?」

「私、ハーマイオニー・グレンジャー。ハリー・ポッターと似ているわね、やっぱり双子ってことかしら。あなたたちのことは全部知ってるわ。––––参考書を二、三冊読んだの。あなたのこと、『近代魔法史』『黒魔術の栄枯盛衰』『二十世紀の魔法大事件』なんかにでてくるわ」

「…………へぇ」

 

レイラは呆れを含んで返事をしたが、ハーマイオニーは気づかなかった。

 

「あら、いけない。ネビルのヒキガエルを探さなきゃ。それじゃあまたね、お二人さん」

 

まるで風のように去っていくハーマイオニーとそれを追いかけるネビル。二人が出ていったあと、レイラとアルフレッドはしばし呆然としていた。

 

「栗色の嵐、だな」

 

ポツリと、アルフレッドが呟いた。それにレイラはクスリと笑った。

 

「まさか参考書に載るとは思わなかったな。それに、わたしのことは全部知ってる……か」

 

フフン、と笑って、レイラは窓の外を見た。外は暗くなり、汽車は少しずつ速度を落としていることが分かった。

 

「あと五分でホグワーツに到着します。荷物はこちらで学校にお届けいたしますので、車内に置いたままで大丈夫です」

 

車内アナウンスが響き渡る。レイラは本をしまって、黒く長いローブを羽織る。

汽車はますます速度を落とし、完全に停車した。

レイラとアルフレッドは通路に溢れる人の群れが少なくなったころで汽車から降りた。そこは小さな、暗いプラットホームだった。夜風が少し出ていて、レイラは両腕で体を抱くようにしてぶるりと震えた。

 

「レイラ!」

 

自分を呼ぶ声に、レイラはローブをフワリと揺らして、声の方向を向いた。そこにはハリーと駅で見かけた赤毛の男の子、ロンが立っていた。

 

「ああ、ハリー。もう友達ができたみたいだね、よかった」

 

そう言ってやると、ハリーは照れたように頭をかく。

 

「駅ではありがとう。あなたのお母さんに、わたしが感謝していたって伝えてくれる?」

 

ロンは、レイラの差し出した手をおそるおそる握って握手をした。

次いでレイラは、ハリーとロンに、アルフレッドを紹介した。

 

「彼はアルフレッド・ルーク。ダイアゴン横丁で知り合って、わたしを案内してくれたの」

「……まあ、そうだな。よろしくたのむ」

 

やがて生徒たちの頭上にユラユラとランプが近づいてきて、レイラの耳に懐かしい声が聞こえた。

 

「よく来たなイッチ年生! ハリー、レイラ、元気か?」

 

ハグリッドの大きなひげ面が、ずらりと揃った生徒の頭の向こうから笑いかけた。

みんなはハグリッドを先導に、険しくて狭い小道を降りていった。汽車で会ったドラコたちはあたりを不安げに見回しており、後ろではネビルが鼻をすする音が聞こえた。

狭い道を抜けると、大きな黒い湖のほとりに出た。

その時、フワリと小さな女の子の人影がレイラの前に躍り出た。深緑色の長いツインテールに、黒いショートドレスを着た、透明な羽の妖精だった。

まるで歓迎するとでも言うように、レイラの前でくるりと一回転し、ドレスの裾をつまんでお辞儀をした。

緑髪の妖精に微笑みかけると、微笑み返して消えていった。

 

「妖精、だったな」

「そうだな。やっぱり好かれやすいんじゃないか?」

 

自分の中の何が、あの子達を惹きつけたのだろうか。ハリーには見えないみたいだし、謎だな。

 

湖の向こう側には高い山がそびえ立ち、そのてっぺんには壮大な城が見えた。大小様々な塔が立ち並び、キラキラと輝く窓が星空に浮かび上がっていた。

一同はひとりでに動くボートに乗って湖を渡り、暗いトンネルをくぐって地下の船着場についた。

ボートの最後尾だったレイラとアルフレッドがボートから降りる時、他のボートにヒキガエルがいるのを見つけた。そっと手に乗せて、レイラはネビルに声をかけた。

 

「ネビル。この子は君のヒキガエルかな?」

「トレバー!」

 

ネビルは大喜びで手を差し出した。生徒たちはハグリッドのランプの後に従ってゴツゴツした岩の道を登り、湿った滑らかな城影の中にたどり着いた。

石段を登り、巨大な樫の木の扉前に集まった。

ハグリッドは大きな握りこぶしを振り上げ、白の扉を三回叩いた。




レイラさん、若干抜けていると言うか、天然というか……

そういえば、レイラさんの杖についてですが、ポッターモアから知識を拝借しました。

杖の柔軟性、あるいは硬さは、杖と持ち主の組み合わせがもたらす、変化に対する順応性や積極性の度合いを示すらしく、柔らかいほどそれらがあるようです。
また、杖が長いほど、おおらかな性格の人物に引かれ、雄大で劇的なスタイルの魔法の使い手を好む傾向にあり、
短ければ、優雅で洗練された呪文のスタイルを好むそうです。
そして杖が短ければ、何か欠けたものがあったりするそうな……

ポッターモアとは、
ローリング氏の書き込みを見れたり、自分の杖や守護霊を診断できる公式サイトです。わたしの守護霊はイタチでした笑

また、杖に関しては
Oak wood with a dragon heartstring core, 13" and surprisingly swishy flexibility.
となりました。驚くほどの柔軟性があるオーク、ドラゴンの心臓の琴線、13インチ(およそ33センチ)です。

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