ジネブラ・ウィーズリー(ジニー)は今年の夏休みに、家族でエジプト旅行を一か月も楽しんだ。万年金欠である筈のウィーズリー家がどのようにして一か月ものエジプト旅行が叶ったのか。それは一家の父、アーサー・ウィーズリーが「日刊預言者新聞・ガリオンくじグランプリ」で七百ガリオンを当てて見せたのだ。当たった懸賞金は旅行費のほかに、子どもたちの学用品やらを新しくする際に、そのほとんどを消費した。
アーサーは残りのお金でもって、数日前から家族を漏れ鍋に泊まらせることにした。
朝の早い時間に目を覚ましたジニーは、顔を洗うために部屋を出た。父は昨晩魔法大臣が来たと聞いて飛び上がり、慌てて訪ねていったらしい。
顔を洗い終えたジニーが部屋に戻るために階段を上ったところで、一番奥の部屋のドアが開いており、半身の人影が見えた。長く、深みのある赤い髪を低い位置で二つ結びにした少女だ。ジニーからしてみれば、その少女は自身よりも年上に見えた。シャツに、ロングスカートといった落ち着いた雰囲気の服装をしていた。胸元に、翡翠色の鮮やかなペンダントが光っていた。
部屋の中へと顔を向けている少女が、こちらを向いた。
「あれ、ジニーじゃないか」
こちらを見ている緑の目と、自身の目が合った。まだ頭が寝ぼけているのか、目の前の現実にうまく理解が追いつかなかった。袖で目をこすり、もう一度声を掛けてきた人物を見る。いるはずのない人が、当たり前みたいな顔でそこにいる。
「……レイラ?」
口から信じられないといった声音の声が発せられた。それを聞いて、彼女——レイラは苦笑した。
「あはは、他の誰に見えるんだい」
窓から差し込む朝日のせいもあってか、はにかむ彼女は透明感があり、ジニーは思わず見とれてしまっていた。
——綺麗だ。そう素直に思えるほどに、その間に、部屋の中から現れた何者かがレイラの背後に立っていた。
「レイ、上着だ。朝はまだ冷えるだろう」
そう言ってレイラの背中にえんじ色のカーディガンを羽織らせるのは、彼女と同じスリザリン寮のアルフレッドだ。ホグワーツの中でレイラを見かけるときに、よく一緒にいるのを目にするが、ジニーはアルフレッドとあまり面識がなかった。
「ん、ありがとー」
花が咲いたようにとは、今のレイラを表しているのではないかと思えるほど、彼女はとても嬉しそうに微笑んでいた。
ぽかんとしているジニーを置いてけぼりにし、レイラとアルフレッドは一階へと降りていく。
「そうそう、ハリーなら十一号室にいるよ。わたしたちは買い物に行ってくるから、また後でね」
そのままレイラとアルフレッドは、振り返ることもなく階段を下りていった。
あとに残されたジニーは、二人が出てきた部屋と降りて行った階段を交互に見てから、足早に自分の部屋に戻ってベッドにもぐりこんだ。
レイラとアルフレッドは早朝から、ダイアゴン横丁で学用品を揃えるために出かけようとしていた。泊まっていた漏れ鍋の二階から、一階へと降りたところで、言い争いをしている声が聞こえてきた。バーになっている一階部分の端で口喧嘩をしていたのが、ウィーズリー夫妻だとレイラはすぐに気がついた。
「ハリーとレイラに教えないなんて馬鹿な話があるか」
白熱した様子のウィーズリーおじさんの声を聞いて、レイラはとっさにアルフレッドを階段横にあった空間に押し込み、自分もそこに身を隠した。
「あの子たちには知る権利がある。ファッジに何度もそう言ったんだが、二人を未熟な子ども扱いしたままだ。もう十三歳にもなったんだぞ」
「アーサー、本当のことを言ったら、あの子たちは怖がるだけです!」
ウィーズリーおばさんが激しく言い返した。
「二人があんな事実を引きずったまま学校に戻るほうがいいって、あなた、本気でそう思っているの? とんでもないわ! 知らないままのほうが、あの子たちは幸せなのよ!」
「私はあの子たちに自分で警戒させたいだけなんだ。それにレイラは頭が良い、事の真相にだって、すぐに気が付いてしまうかもしれないだろう。遅いか早いかでしかない!」
ウィーズリーおじさんは負けじと声を大きくしてやり返す。
「ハリーやロンがどんな子か、母さんも知っているだろう。二人でふらふら出歩いて、もう『禁じられた森』に二回も入り込んでいるそうじゃないか! 今年はそんなことがあってはならんのだ! 二人がここに来た経緯を聞いたが、あまりにも危険すぎた。情報を持っていれば、無防備にも二人が外に出ることはなかっただろうに!」
「じゃあ、いったいどうしろと言うんです? まさか、包み隠さず、全てを明かすと?」
ウィーズリーおじさんは首を横に振った。
「それこそまさかだ。ブラックが二人の———」
「アーサー! やめて、誰が聞いているか分からないのよ!」
「———こほん。あー、そう。ともかく、二人がブラックとの関係を知ってしまえば、あの子たちはブラックを追うかもしれない。ともかく、二人にはブラックが狙っていることだけを伝えようと思う。あの事は、二人がホグワーツに行ってしまえばしばらくは調べようがないからね」
ウィーズリー夫妻は話をそこで切り上げ、自分たちの部屋へと戻っていった。夫妻の部屋のドアが閉まった音を聞いてから、レイラは長い息を吐いた。
「レイ、平気か?」
「うん。……行こ、アルフレッド」
気遣うアルフレッドにそう返すと、レイラはまっすぐ漏れ鍋の出口へと向かっていった。
ダイアゴン横丁に行き、最初にグリンゴッツ銀行でお金を下ろした。その後は新年度の教科書を揃え、学用品も買った。昼食を取った後はマダム・マルキンの洋装店で新しい服をいくつか買うと、荷物を一度漏れ鍋に戻って置き、引き出しておいたお金をハリーに渡すと、レイラたちは再び出かけた。
「さてと、どこか行きたいところが?」
アルフレッドがそう訊ねると、レイラは自らのおとがいに人差し指を当てた。
「できることなら、ウィーズリーおじさんにでもブラックの事を聞いてみたいな。まあ、教えてはくれないだろうから行かないが」
「しかし現状、他に頼ることができそうな人はいないだろう?」
「んー、可能性は低いけど、当てがあるからそこに向かおう」
行先も告げずに歩き出したレイラを不思議に思いながらも、アルフレッドは素直にその横に並んだ。
「やあ、ミス・ポッター。ミスター・ルークも。このようなところで君たちに会うとは、少々意外ではあるな」
「お久しぶりですマルフォイさん」
一時間後、ノクターン横丁にあるボージン・アンド・バークスという店の前で、レイラとアルフレッドは、ドラコの父親であるルシウス・マルフォイと対面していた。
アルフレッドとしてはあまり関わり合いになりたくないが、レイラはそんなアルフレッドの心配などなんのそのと、迷わずマルフォイ氏に声を掛けに言っていた。その様子から、レイラが当てがあると言っていたのは、おそらくマルフォイ氏の事だろうと結論付けた。
「昨日大臣が君とハリー君の下へと向かったと聞いているが、もしやブラックの件かね?」
———来た。
と、レイラは顔には出さないが、内心ほくそ笑んだ。言葉を碌に交わさないうちから、向こうから本題への道を作ってくれたのだ。
ヤツの部下であった人物と、無実の罪で囚われたシリウス・ブラックの関係性はよくわかってはいない。けれども無関係ということはないだろうし、目の前の人物なら、何かしらの情報を持っていると判断したのだ。
「ええ。しかし、大臣はあまり多くのことを教えてくれませんでした。ブラックとわたしの間に、何かがあるらしいのです」
目を伏せるフリをして、助けを求めている風を装う。するとレイラの目論見通り、マルフォイ氏はピクリとも眉を動かしたかと思うと、愉快そうに笑みを浮かべていた。けれどそんな反応は一瞬で、次の瞬間には真剣な表情となっていた。
「ふむ、君とブラックの関係……か」
「貴方ならご存知なのではと思ったのですが」
そう言われて、マルフォイ氏は口元をニンマリとさせた。
「もちろん、知っているとも」
「では」
「そうだな。君なら、教えるよりも自分で調べた方が、信じやすいだろう。それに私の口からは、このことは少々荷が重い」
「……?」
そこで、ほんの一瞬。見逃してしまいそうなほど僅かに、マルフォイ氏の笑みが酷薄なものへと変貌したのを、レイラは見逃さなかった。
「魔法省に行き、あるものを調べると良い。それに全てが記されている」
「魔法省……ですか」
「そうだ。場所は分かるかね? 結構、それでは私はこれで失礼するよ」
「はい、突然すみませんでした。ありがとうございます」
必要なことを伝え、石畳で杖を響かせながら、マルフォイ氏はそのまま歩み去っていった。後に残されたアルフレッドは苦々しい顔をし、対照的にレイラは満足そうだった。
「あいつ、明らかにお前を陥れようとしていたぞ」
「そうだな。けど、見え透いた悪意の方が躱しやすい。それと、どんな関係があるのか検討が付いたな」
「ああ……そのままだからな」
「けれどこのことを、ハリーにも伝えてはいけないのか……真っ先に教えてあげたいんだけど」
昨晩アルフレッドから釘を刺されている。ブラックについてアルフレッドから聞いたこと、調べたことを他人に話してはならない。誰にも真実を明かさず、二人だけで秘密を共有することが、事件解決のためになるとのことだった。レイラはハリーに教えたい気持ちを抑え、オーベロンの忠告通りにすることにした。そうすることが、ハリーのためにもなると信じて。
そうしてレイラとアルフレッドは、ファッジからダイアゴン横丁から出てはいけないと言われたのを無視し、密かに同じロンドンにある魔法省へと来ていた。
人が歩き、または受付で立ち止まるなど、とても多くの人がそこにはいた。レイラはいくつもある局の中の一つに来ていた。
「それでは次の方。……お名前とご用件をどうぞ」
レイラは迷いなく呼ばれた受付へと歩み寄り、口を開いた。
「レイラ・ポッターです。わたしの後見人について、調べて欲しいのですが」
レイラは笑顔でそう答えた。それを聞いて、調べた局員が顔を真っ青にしても、レイラは嬉しそうに微笑んでいた。
英語版第3巻にgodfatherの文字があったと思いますが、日本語版ではそれを名付け親と訳しています。映画でも黒ワンコを名付け親と言っているので、嗚呼そうなのかと納得しかけましたが、テッドは?
最終巻でルーピンが、「ハリー、子供が生まれた。テッドと名付けた、君が名付け親になってくれないか?」
みたいなことを言ってるシーンがあるのです。名前をつけているのに、名付け親はおかしいですよね? そのことに加え、3巻末において、シリウス・ブラックの名の下に、ハリーのホグズミード行きを云々という文があります。
これらのことから、godfatherは後見人、代父の意味で取ることができるのではないかと考えました。なので拙作ではこの解釈のもと、名付け親を後見人とします。立場上の違いは特にありませんので、相方が違うくらいに覚えておいてください。
はい、それだけが言いたかったのです。
気づけばお気に入り数ももうじき4桁を迎えるということで、私めは心がぴょんぴょんしてしまいそうです。(*´ω`*)
皆さま、いつも本当にありがとうございます。
それではまた次の話で。