ハリー・ポッターと不死鳥の姉   作:駆華野 志想之介

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拙者、軽度の花粉症なのですが、部屋の窓を開ければ目の前にはなんと杉の木があります。

それはそうと、最近になってようやく『炎のゴブレット』のDVDを購入しました(笑)


占い学

 ホグワーツに着いた夜から翌日の朝になっても、城内では吸魂鬼の話題で持ちきりだった。大広間での朝食の時間には、スリザリンの席でも話題に上がっていた。不思議なことに、どこからかハリーが気絶したという話が広まってしまっているようだった。

 スリザリン生の中には、吸魂鬼の物まねをしてハリーをからかう者もいた。

 大広間での朝食の時間に、ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人が朝食をとりに大広間に入ってくると、レイラと同じ三年生になったパンジー・パーキンソンがドラコの気を引こうと、ハリーに向かって吸魂鬼まねをした。

 

 「ポッター! 吸魂鬼が来るわよ。ほら、ポッター! うぅぅぅぅぅぅ!」

 

 甲高い声の呼びかけに、しかしドラコは顔をしかめていた。わずか数時間前にドラコは吸魂鬼を実際に見ており、その恐ろしさを十分に知ることとなった。そのために目の前でまねをされて、いい気分にはなれそうになかった。そんなドラコの憂鬱など気にした様子もなく、パンジーは吸魂鬼のまねを続ける。

 同じ純血の一族の子女として、その振る舞いはどうなのかとも思うが、今までの自分を思い返して何も言えなくなるドラコ。そんな彼に変わるように、この場で最も適任な、それでいてパンジーとしては来てほしくない人物が、彼女のすぐそばに立っていた。

 

「おはよう、パンジー。今日は朝から元気いっぱいだね」

 

 ギギギ。とまるで擬音が聞こえてきそうな小刻みな動きで振り返ったパンジーは、途端に脱力し、椅子に座り込んでしまった。

 

「お、お、おは……よう」

 

 そこにいたのは、腰まで伸びた深みがかった赤髪を低い位置でまとめた、学年一の秀才。そして、今まさにパンジーがからかっていたハリー・ポッターの姉である、レイラだった。レイラがパンジーににっこりと笑いかけるのを見ていたドラコは額を抑える。そんな彼の隣に、何食わぬ顔でアルフレッドが座り、対面にはグリーングラス姉妹が位置取った。ドラコを含めた四人ともが、パンジーとレイラを見てため息をつき、その後に何食わぬ顔で朝食を取り始めたのだった。

 

 

 

 三年生になってからは、生徒は受ける授業を選択するようになる。学年が上がって最初の授業は『占い学』『数占い学』『マグル学』の三つから選べる。

 レイラは最終的に『数占い学』と『占い学』で悩み、『占い学』を取った。自分で決めておきながらも、レイラは授業が始まる前から、科目の選択を間違えたと後悔していた。

 

「ぜっ……はっ…………、い、いっそ飛んで行きたい」

 

 ホグワーツの北塔の最上階へと向かう階段を、レイラは壁に手をつき、息も絶え絶えになりながら上っていた。『占い学』とは、ホグワーツの北塔最上階にあるシビル・トレローニー教授の教室で行われる。加えて、レイラたちスリザリン生の寮は地下牢である。ホグワーツの地下から頂上へと上ることとなり、体力がないレイラにとっては教室に向かうことが苦行以外の何物でもなかった。

 息を荒くするレイラの先を、彼女の分も教科書を抱えたアルフレッドが涼しい顔で上っている。最初こそ、「自分で選んだんだ、ちゃんと自分で行け」と言っていたのだが、そこは何かとレイラに甘いアルフレッドである。彼がレイラの教科書や筆記具を持つのに、そう時間はかからなかった。

 

「あ、アル…………アルフレッドォ。ぜぇ……おぶって」

「……あいにくだが、おまえの荷物で手いっぱいだ」

「けち。ふぅ…………息が、苦しい、しっ、暑い!」

 

 現在は九月二日。イギリスの北部から涼しい風が流れ、気温も下がってくる時期だ。そのため、校内の服装は長袖シャツの上にセーターを着たり、シャツだけの者もいる。レイラも例に漏れず長袖のシャツを着ている。しかし、暑いと言っておきながら、袖を捲ることはせず、きっちりとカフス部分のボタンを留めていた。加えて、午後は冷えることからスカートの下にはタイツを穿いている。この状態で延々と階段を上っていれば、暑くなるのは必然だった。

 

「なあ、タイツ脱いでいい?」

「やめろ! こんな場所で脱ぐやつがあるかっ……ああもう」

 

 がしがしと頭を掻いたアルフレッドは、急いで杖を振るい、即座に身体冷房呪文をかけてやる。

 

「おー、涼しい。ありがとー」

 

 にへら、と笑ってお礼を言うレイラに、アルフレッドは自分の甘さにため息をついた。

 

「レイ、以前にも言ったが、お前はもう少し恥じらいを持て。グリーングラス相手ならまだしも、異性の前で着替えようとするな」

 

 諭すように話すアルフレッドを見て、レイラは面白くなさそうに階段を上り始めた。

 

「おい、聞いているのか」

「ちゃんと聞いてるよ。大丈夫、大丈夫」

 

 アルフレッドを追い越したレイラが、くるりと振り返る。

 

「無闇に着替えようとなんてしないし、君のことを結構信頼してるんだ」

 

 そう言うとレイラは顔を戻し、足早に階段を上って行ってしまう。アルフレッドはしばし動かないでいたが、長いため息の後、ゆっくりと階段を上り始めた。

 

 

 

 「占い学」の授業が始まるときには、生徒は皆これから始まる授業が楽しみだというような表情をしていた。しかし終わるころには、それまでの表情が嘘のように、暗い顔をする者が多かった。

 原因は、トレローニー先生の予言だった。最初の授業で行われたのは、ティーカップ占いだった。生徒一人一人に紅茶の入ったカップを配り、それを飲ませる。そうしてカップの底に残った茶葉の形から、その人を占うといったものだ。

 その占いでトレローニー先生は、ハリーに死神犬(グリム)が取り憑いているといったのだ。死神犬は魔法界でも不吉の象徴であり、取り憑かれた人は死ぬとまで言われている。三年生最初の授業で、生徒に死の予言が下されて喜ぶ者はいない。皆一様にうつむいていた。

 ハリーも例外ではなく、むしろ予言の張本人であることからその落ち込み用は他よりも酷かった。

 見かねたレイラが、授業が終わって教室から移動し始めたハリーを追いかける。ハリーの傍には、ロンとハーマイオニーがおり、ハーマイオニーは気にするなと言い、ロンは対抗して間違いじゃないと言い張っていた。

 レイラはいったん三人を追い越してから、ハリーへと体を向けた。

 

「もしかして三人は、トレローニー先生の話を知らないのかな?」

 

 レイラの言葉に首をかしげる三人。

 

「あのね、トレローニー先生は一年に一度、生徒が死ぬっていう予言をしているの。でも、先生の予言通りに死んだ人なんていなかったって、去年頃に上級生が言っていたよ。だから大丈夫」

 

 その言葉にほっとしたハリー。ハーマイオニーはその通りだと頷いたのだが、納得のいかないロンがかみついた。

 

「でもハリーは黒い犬を見たって言ってるんだぞ!」

「それならわたしも見たし、なんなら触ったよ」

 

 静かな声音で、レイラは言い放ち、ロンを睨みつけた。睨まれたロンは思わずあとずさり、生唾を飲み込む。

 

「もしこの一年、……いや、これからも、ハリーに危険が迫ればわたしは、命を懸けてもハリーを守るよ」

 

 だから安心して。そう言い残して、レイラは次の授業の教室へと足を進めた。取り残されたハリーは、手を強く握りこんでいた。

 




キリがいいのでここで区切ります。
次はヒッポグリフの話と、まね妖怪ですかね。前々から書きたいところだったので、楽しみです。


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