ハリー・ポッターと不死鳥の姉   作:駆華野 志想之介

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今回の話を読まれる前に謝辞を。
本当にすみませんでしたが、私の決心は揺るぎませんでした。


ヒッポグリフ

 三年生になってから、新しく先生になった人物が二人いる。一人はホグワーツ特急でレイラが話した、リーマス・ルーピン先生だ。ルーピン先生は空席になった『闇の魔術に対する防衛術』の授業を担当する。

 そしてもう一人は、なんとハグリッドだ。今まで『魔法生物飼育学』の担当をしていた、ケトルバーン先生が退職した穴を埋めるために、森番の仕事と兼任することとなった。親交の深いハグリッドが先生となることに、ハリーが嬉しそうにしていたので、レイラもすこぶる喜んでいた。

 ハグリッドの授業は禁じられた森の近くで行われる。レイラの前を、ご機嫌な様子のハリーが歩いており、その両隣にはむっとした表情のロンとハーマイオニーがいた。

 

「さあ、急げ。こっちだ!」

 

 生徒が近づくとハグリッドが声を掛けた。ハグリッドが先導して、生徒を放牧場のようなところに連れてきた。

 

「みんな、柵の周りに集まれ! そーだ。ちゃんと見えるようにな。よし、よし。教科書は持っとるだろうな?」

 

 生徒がぞろぞろ歩いていく中で、ハーマイオニーがハグリッドに疑問を投げかけた。

 

「ハグリッド、この本はどうやって開くの?」

 

 それを聞いていたグリフィンドールとスリザリンの生徒たちの大半はそうだそうだと頷いた。レイラが彼らを見渡せば、みんな教科書にベルトや紐を巻いていたり、クリップで留めている者もいた。このことにレイラは意外そうな顔をしてアルフレッドやドラコ、ダフネを見た。自分の周りにいた彼らは教科書を縛ったりしているようなことはなく、普通に持ち歩いていたのだから。その中で唯一ドラコだけは不服そうな顔をしていた。未だにハグリッドを嫌っているらしいドラコとしては、この授業を受けたくはないのだろうことが感じられた。

 

「簡単だ。ただ背表紙を撫ぜりゃあいい。面白かろう?」

 

 にこーっと笑うハグリッドの言うとおりに、生徒たちが恐る恐る教科書の背表紙を撫で、開いていく。

 

「うわっ」

 

 ネビルだけはハグリッドの話をちゃんと聞いていなかったのか、背表紙を撫でずに教科書を開いてしまい、噛みつかれそうになってドラコの目の前に倒れこんでしまった。

 ドラコは足元に倒れこんだネビルを迷惑そうに見下ろし、嘆息した。

 

「喚くなロングボトム」

 

 ドラコはネビルを通り過ぎながら、すれ違いざまにネビルの教科書の背を撫で、鼻を鳴らして先に行ってしまった。

 そんな意外な一幕があったが、それを知らないハリーはハグリッドの話を近くで聞こうと、彼のすぐそばにくっついていた。

 一部始終を見ていたダフネはレイラとアルフレッドに近づいた。

 

「彼、随分と丸くなったのではないでしょうか?」

「あはは、そうだね。昔だったら蹴飛ばしていたかもしれないよ」

 

 くすくすと笑い合う二人を見ながら、アルフレッドも心中で同意した。ドラコとしては早く授業を終わらせたく、ネビルのせいで授業が遅れる事は避けたかった。というところだろうと、勝手に解釈していた。

 生徒が集まったことを確認したハグリッドは、なにやら不思議な呼び声を空に向かって発した。いったい何をしたのかと気になる生徒たちの頭上を、大きな影が横切った。それは放牧場の周りを旋回し、勢いよく地上に降りてきた。その迫力のある様を見て、グリフィンドールのラベンダー・ブラウンが悲鳴を上げた。

 胴体、後ろ足、尻尾が馬で、前足と巨大な頭部が鳥、そして大きな翼のある不思議な生物。それがヒッポグリフなのだと、レイラは瞬時に理解した。

 

「ドウ! ドウ!」

 

 ハグリッドが大きく声を掛ける。

 

「ヒッポグリフだ、美しかろう、え?」

 

 確かにハグリッドの言うとおりだと、レイラは頷いた。半鳥半馬のヒッポグリフの羽は、輝いており、それがだんだんと毛へと変わっていく様は、本当に美しいといえるだろう。

 ハグリッドは両手を揉みながら、みんなに嬉しそうに笑いかけた。

 

「まず、一番先にヒッポグリフについて知らなきゃなんねぇことは、こいつらが誇り高いっちゅうことだ。すぐに怒るし、侮辱されることを許さねぇ。そんなことをすれば、間違いなく痛い目に遭う」

 

 ドラコが碌に聞こうともしていない姿勢だったので、レイラは肘で突いて注意を促す。

 

「さーて、誰か触ってみたいやつはいるか?」

 

 答える代わりに、ほとんどの生徒が後ずさりした。下がらなかったハリーが生徒の一番前に立つ形となり、ハグリッドはそれを見て嬉しそうににこーっと笑った。

 前へと進み出たハリーの後ろで、ラベンダーとパーバティが囁いた。

 

「あぁぁー、ダメよ、ハリー。お茶の葉を忘れたの!」

 

 ハリーは二人を無視して、ヒッポグリフに近づいた。

 

「もっと近くに来いや。ハリー、こいつの名前はバックビークっちゅうんだ。先ずは、おじぎだ……顔を晒すなよ」

「瞬きもしちゃダメだからねー」

 

 おっかなびっくりといった様子でおじぎをするハリーの背に、レイラが声を投げかける。

 ヒッポグリフは真っ直ぐにハリーを見つめ、やがてゆっくりとおじぎを返した。

 

「やったぞハリー! よーし、触ったもええぞ、嘴を撫でてやれ!」

 

 ハリーは恐る恐るバックビークと名付けられたヒッポグリフに手を伸ばし、嘴を撫でてやる。ヒッポグリフは撫でられるのが心地良いのか、うっとりと目を細めていた。

 クラス全員が拍手した。ドラコ、クラッブ、ゴイルだけは、ひどくがっかりしたようだったが、そんなこと御構い無しに、レイラはハリーに絶え間ない拍手を送った。

 飛び上がって喜びそうなほど嬉しそうなハグリッドが、ハリーに何事かを言うと、ハリーを持ち上げてヒッポグリフの背中に乗せてしまった。

 

「ちょ、ちょっとハグリッド!」

「羽をむしるなよ、怒るから」

 

 恐る恐るヒッポグリフの首に手を回したハリーを確認したハグリッドは、ヒッポグリフの尻を平手で叩いた。ヒッポグリフは体を仰け反らせてひと鳴きすると、大きく翼を広げて飛び立った。

 

「ははっ、飛んだ飛んだ!」

 

 左手を顔の前にかざして、ヒッポグリフに乗って空を飛ぶハリーを見上げるレイラは、嬉しそうに目を細めた。

 

「手綱も無しでは危ないではないですか……」

 

 はしゃぐレイラの側にいたダフネが、心配した面持ちで言ったが、すぐにアルフレッドが否定した。

 

「そうならないように、あいつは杖を構えてるぞ」

 

 アルフレッドが指をさして、レイラの右手を示す。その手には、ローブの裾から少しだけ見える形で、彼女の杖がのぞいていた。ダフネは肩をすくめて見せ、アルフレッドとともにレイラを見てくすりと笑った。

 程なくしてハリーを乗せたヒッポグリフが降りてきた。生徒たちは歓声をあげてハリーを迎えた。

 

「よくやったぞハリー! よくやった!」

 

 拍手と歓声が鳴り止まぬ中、肩を大きく揺らしながらドラコがヒッポグリフの前まで歩み出た。

 

「まったく、ドラコは……」

「レイ?」

 

 ヒッポグリフがおじぎをし、ドラコは尊大な態度でおじぎを返す。ハリーに見せつけるように、ドラコはヒッポグリフの嘴を撫でる。ハリーはドラコがヒッポグリフを撫でられたことが気に入らないのか、ムッとした様子だ。

 その様子に気を良くしたドラコは、挑発するように鼻で笑った。

 

「簡単じゃあないか」

 

 わざとハリーに言うように、もったいぶって話した。

 

「やり方さえ理解していれば、誰だってできる……お前、全然危険なんかじゃないなぁ?」

 

 ドラコがヒッポグリフを見た。背後でレイラがため息を吐くが、聞こえてはいなかった。

 

「そうだろう? あべこべな野獣君」

 

 ヒッポグリフの顔つきが険しくなった次の瞬間、鋼色の鉤爪が光った。ドラコが悲鳴を上げる瞬間、背後から力一杯体を引き寄せられた。尻から地面に倒れたドラコが見たものは、ヒッポグリフに首輪を掛けようと格闘するハグリッドと、自分を冷たい目で見下ろすレイラの姿だった。

 

「れ、レイラ……?」

 

 無言でドラコを見るレイラは息を荒くし、額からは汗が流れていた。ドラコはヒッポグリフに襲われかけた恐怖よりも、目の前に立つレイラの存在のほうが恐ろしく、立ち上がれずにいた。

 

「……まったく、君というやつは。危うく色々台無しになるところだったじゃないか。注意してやったというのに、先生の話を聞いていないなんて」

「レイラ、腕……」

 

 そこでドラコは、レイラの服が切れていることに気が付いた。ヒッポグリフの爪により、ローブとシャツが裂けていたのだ。レイラは腕を一瞥すると、特に気にした様子も見せずにヒッポグリフを見た。

 ヒッポグリフは鼻息を荒くし、こちらをじっと見つめている。レイラは詫びの気持ちを込めて、おじぎをする。

 首輪を掛けられたヒッポグリフは、いかにも怒っているといった様子だったが、やがてゆっくりとおじぎを返した。

 

「ほら、君も頭を下げなよ」

「いや……その」

 

 立ち上がったものの、レイラの背後に隠れて出てこようとしないドラコの頭を叩き、無理矢理おじぎをさせる。

 

「ごめんなさいハグリッド。せっかくの素晴らしい授業を邪魔させてしまって」

「そんなことはいい! お前さんたち、怪我はしてねぇか?」

「大丈夫です。ドラコは少しぐらい怪我したほうが、いい薬になったかもしれませんけどね」

 

 その言葉に、聞いていたロンとハリーがくすりと笑ったが、ドラコは無視した。

 授業はその後何事もなく終了し、生徒たちはホグワーツ城へと戻っていった。怪我をしていないかと、しきりに心配してきたアルフレッドとダフネに、切れた服の隙間から自分の肌を見せてやる。

 

「服が切れただけだよ。二人とも、心配し過ぎなんだから」

 

 あっけらかん言い放つレイラに、アルフレッドとダフネは怖い顔をして詰め寄った。

 

「何が服が切れただけ、だ! 腕がもげていたかもしれないんだぞ!」

 

 アルフレッドの激しい剣幕に、聞いていたドラコの肩がびくりと跳ねた。彼の言葉は、言い換えればドラコのせいで、レイラが大怪我をしていたかもしれないという可能性を表していた。ドラコは顔から血の気が無くなり、いつもよりもさらに青白くなっていた。

 切れた服の隙間からのぞくレイラの腕を見て、ダフネはハッとして口元を抑えた。裂けたのはレイラの二の腕部分であり、切れ間からはレイラが一年生の時に負った、死の呪文による癒えない傷跡がのぞいていた。

 

「レパロ」

 

 ダフネは裂けた部分に杖を向けて、呪文を唱えた。一瞬で服は元通りになり、ダフネは息を吐いた。お礼を言うレイラの手を、ダフネはそっと握った。

 

「せっかくの綺麗な肌ですのに……」

 

 突然の事にきょとんと眼を丸くしたレイラだが、すぐにふにゃりと目を細めた。

 

「ありがとうダフネ。君だって、とっても綺麗だよ」

「もう、そういうことを言っているのではありません! まったくもう」

 

 腰に手を当てて半眼で睨んでくるダフネを抑え、レイラは後ろを歩くドラコを振り返った。つられてアルフレッドとダフネも振り返り、ドラコは思わず後ずさった。

 

「次やったら、君を天文台の塔から落とす」

 

 レイラは人差し指をドラコへ向けて、杖を振る仕草をした。ドラコは口をぱくぱくと開き、何かを言おうとして言葉が口から出てこなかった。やがてがっくりとうなだれたドラコを見て、レイラは満足したのか、くるりと振り返って城を目指した。

 

「さあ戻ろう。お腹すいた」




ご覧の通り、オリジナル展開でした。
この展開は以前から決めたゐたのですが、書いている最中ずっと悩んでいました。原作よりも人として成長はしたドラコ+レイラさんという組み合わせなら、バックビークは処刑ルートに行かないのかなと。
怪我をするフォイ、ハーマイオニーにぐーぱんをもらうフォイが見たかった皆さま、申し訳ありません。この埋め合わせはどこかでします。精神的、物理的に。
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