ハリー・ポッターと不死鳥の姉   作:駆華野 志想之介

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ハリポタの話を書こうかと考え始めてから、ずっと書きたかった話の一つです。
きっと誰しもがここはいろいろ妄想しているはず笑

お気に入り件数が四桁を突破しました。日ごろからご愛読くださる皆様のおかげで、ここまで来れました。本当にありがとうございます。これからも精進してまいりたいと思います。


用箪笥のまね妖怪

 ハグリッドの授業から数日経った木曜日には、スネイプ先生による魔法薬学の授業が行われていた。三年生になって初めての魔法薬学の授業ではあるが、スネイプ先生は生徒たちに気を緩めさせることなく、「縮み薬」の調合を扱った。

 先生は途中でネビルの鍋を見て、二、三言の小言を言った後に、レイラの側まで来て小声で話した。

 

「ミス・ポッター。授業後に、少し残りたまえ」

 

 真剣みを帯びた声音に、レイラは黙って頷く。両隣のアルフレッドとダフネが怪訝そうな顔でレイラを見てくるが、気にしないでと促した。

 

 無事に「縮み薬」を作り終え、授業が終わると、生徒たちはゾロゾロと教室から出ていった。その中でハリーとドラコが何かを話している様子で、レイラとしては二人の会話が気になったが、スネイプ先生から残れと言われていたために断念した。

 授業で使われた道具を杖の一振りで片付けると、一度教室の奥にある扉から出て行き、すぐに戻ってきた。スネイプ先生の手には日刊予言者新聞があり、先生はある一面をレイラに見せた。

 そこには、まるでこちらに叫んでいるかのように動く、シリウス・ブラックの写真が印刷されていた。見出しには、『マグルの女性、シリウス・ブラックを目撃』と大きく書かれている。

 

「目撃されたのはダフタウンという街で、ここからそう遠くはない。奴が近くに来た以上、油断はできない。必ずやなんらかの姑息な手段でもって、この城への侵入を画策するはずだ」

 

 そう話すスネイプ先生の顔は険しく、言葉にはただならぬ感情が込められているようだった。レイラには目の前の人物が、ブラックが犯罪者であることを疑っていないと思えた。

(先生ですらブラックが犯罪者と言っている……ははあ、『他人に話してはいけない』っていう王の言葉は、このためか)

 極悪人のシリウス・ブラックを、無実だと声高に叫んだところで白い目を向けられるだけ。頭がおかしいと思われるか、彼の熱心な支持者と思われるのがオチだろう。そこまで瞬時に考えたレイラは、何も知らぬフリを通すことにした。

 

「然るに、我輩としては君に、いざという時の手段を身につけさせても良いと考えている」

「手段、ですか」

 

 疑問符を浮かべるレイラに対して、スネイプ先生は本棚に向けて杖を振る。すると一冊の、ぼろぼろになった「上級魔法薬」の教科書が、レイラの前へと移動してきた。

 

「これは六年生から使う教科書、ですよね?」

「さよう」

 

 レイラの問いに対してスネイプ先生は鷹揚に頷き、浮かんでいた教科書を手に取ると、開いて見せた。

 教科書を見たレイラは最初、文字の量が多い本だと思った。学年が上がれば授業で扱うものの難易度が上がるの当然であり、教科書もより難解になるのかと考えた。しかしよく見てみれば、印字された教科書の文字とは別に、手書きで言葉が羅列されていた。教科書に二重線が引かれて注意書きがかかれていたり、棒線で文字を消し、新しく魔法薬の作り方を書き直している個所もあった。

 

「これは我輩が学生時代に使ったもので、魔法薬の作り方に関して、大きく異なる点がいくつもあった。手書きで書かれている通りに薬を作れば、そのすべてにおいて、求める効能が得られるだろう」

 

 自信に溢れた声音のスネイプ先生は、ぱらぱらとページをめくる。

 

「しかしこの本の真価はそこではない」

 

 新たに開かれたページには、レイラがこれまでに見たことも聞いたこともない呪文が書き込まれていた。

 

「この本の数か所に書かれた呪文、これが少しばかりでも、君の助けになることを願う。特に、敵に対して使う呪文は、君がブラックと鉢合わせてしまったときに、大いに助けとなるだろう」

 

 そう語るスネイプ先生の目の奥からは、まるで黒い炎が揺らめいているかのような、底知れない強い意志が窺えた。

 

「……すごい。この呪文も先生が?」

 

 少しばかり気恥ずかしそうにしながらも、先生はうなずいた。

 学期末までには返すことを条件に、レイラはスネイプ先生から「上級魔法薬」の教科書を借りることとなった。

 

 

 

 生徒たちが「闇の魔術に対する防衛術」の最初の授業にやってきたとき、ルーピン先生は遅れて教室に入ってきた。相変わらずくたびれた印象を受ける人だったが、前に汽車で話した時よりは健康そうに見えた。

 

「やあ、みんな。少し準備に手間取ってね。初日から『闇な魔術に対する防衛術』の理論をやるのでは、飽きてしまう子もいるだろうから、今日は実地練習をしよう。ついておいで」

 

 ルーピン先生についていく間、生徒たちはみなわくわくとした様子だった。途中でピーブズがいたずらしているのを、先生は杖の一振りであっという間に治めてしまい、それを見てディーンが感激した声を上げていた。

 連れてこられた場所はなんと職員室だった。中にはスネイプ先生がいたが、ルーピン先生と二、三言の言葉を交わすと職員室を出て行った。会話の内容はレイラには聞こえなかったが、スネイプ先生が「セブルス」と呼ばれていたことから、それなりに親交がある間柄のようだった。

 

「さあ、それじゃ」

 

 ルーピン先生はみんなに部屋の奥まで入るように合図した。そこには先生方の着替え用のローブを入れる古い洋箪笥がぽつんと置かれていた。先生がその側に近づくと、箪笥が勝手にがたがたと震えだした。

 

「さて、中にはまね妖怪――ボガートが入っているが、どういったものか説明できる人はいるかな?」

 

 ほとんどの生徒が自信なさそうにする中で、はっきりと通る声が響いた。ハーマイオニーだ。

(……ん? あれ、今ハーマイオニー、どこにいた?)

 ぼーっとしていたのか、一瞬ハーマイオニーがどこにいたのか分からなくなったレイラだったが、すぐに彼女を見つけることができた。

 

「形態模写妖怪で、私たちが一番怖いと思うものを探り当て、それに姿を変えることができます」

「素晴らしい説明だ、私でもそんなにうまく説明はできなかっただろう」

 

 ルーピン先生の言葉が嬉しかったのか、ハーマイオニーは頬を染めた。

 

「外に出てきていないボガートは、まだ何の姿にもなっていない。箪笥の外にいる誰かが、何を怖がるのかまだ知らない。ボガートが一人ぼっちのときにどんな姿をしているのか、誰も知らない。しかしひとたび外に出してやれば、それぞれが一番怖いと思うものに姿を変えるだろう」

 

 ネビルが怖くてしどろもどろになっているが、ルーピン先生は構わず話を続けた。

 

「幸い、ボガートを退散させる呪文は簡単だ。最初は杖なしで練習しよう。私に続いて言ってみよう……リディクラス(ばかばかしい)!」

「リディクラス(ばかばかしい)!」

 

 全員が一斉に唱えた。

 

「そう、とっても上手だ。けれど呪文だけでは足りない。ボガートをやっつけるには笑いが必要だ。呪文によって、滑稽なものに変身させなければいけない。ネビル、前へ出て」

 

 洋箪笥ががたがた揺れたが、呼ばれたネビルのほうがもっと揺れているようだった。まるで死刑宣告でも受けたみたいに、蒼褪めながら、ゆっくりと進み出た。

 

「ネビル、君が怖いものは何だね?」

 

 ネビルの口が動いたが、声が出てこない。

 

「なんだね?」

 

 ルーピン先生は優しく促した。

 ネビルは誰かに助けを求めるかのように、辺りを見回し、それから蚊の鳴くような声で囁いた。

 

「スネイプ先生」

 

 ほとんど全員が笑った。ネビル自身も申し訳なさそうに笑ったが、ルーピン先生は真面目な顔をしていた。

 

「スネイプ先生か、みんな怖いよね。……ネビル、君はおばあさんと一緒に暮らしているね?」

「え……はい。でも僕、ばあちゃんに変身されるのも嫌です」

 

 またしても笑いが起き、今度はルーピン先生も微笑んだ。

 

「違うよ。おばあさんの服装だけを、頭に思い浮かべて」

 

 思い浮かべ始めたネビルの隣に、ルーピン先生が立って何かを囁いた。

 

「私が洋箪笥の扉を開けたら――」

 

 ネビルは驚いた様子だった。他のみんなはこれから何が起きるのだろうと、今か今かと待っていた。

 

「では杖を構えて」

 

 ネビルは蒼褪めたままだったが、ローブの袖をたくし上げ、杖をしっかりと構えていた。

 ルーピン先生はネビルが構えをとったことを確認すると、自分の杖を洋箪笥の取っ手向けた。杖の先から火花がほとばしり、取っ手のつまみに当たった。洋箪笥の扉が勢いよく開き、しかめっ面をしたスネイプ先生が、ネビルに向かって目をぎらつかせながら現れた。

 ネビルは杖を上げ、口をパクパクさせながら後ずさりした。

 

「リ、リ、リディクラス!」

 

 ネビルは上ずった声で呪文を唱えた。

 ぱちんと鞭を鳴らすような音がして、スネイプ先生がつまずいた。次の瞬間には、スネイプ先生は緑色をしたドレスを着て、ハゲタカ帽を被り、赤いハンドバックを持っていた。

 どっと笑いが上がった。ボガートは途方に暮れたように立ち止まった。レイラも、あまりの変わりように思わず目を背け、笑いをこらえていた。

 

「いいぞ、それじゃあ……パーバティ!」

 

 パーバティがキッとした顔で進み出た。スネイプがパーバティの方に向き直った。またぱちんと音がして、スネイプ先生の立っていた場所に、包帯をぐるぐるに巻いたミイラが立っていた。目のない顔をパーバティへ向け、ミイラはゆっくりと彼女に迫った。足を引きずり、手を前に突き出して――。

 

「リディクラス!」

 

 パーバティが叫んだ。包帯が一本解けて、ミイラの足元に絡みついた。ミイラは顔から床につんのめって、頭が転がり落ちた。

 

「では次、ロン!」

 

 ロンがパーバティの前に進み出る。ぱちん! と音がして、次いで何人かの生徒が悲鳴を上げた。毛むくじゃらで二メートル近い大蜘蛛が、おどろおどろしく鋏を交差させ、ロンに向かってきた。ロンは引きつった顔だったが……。

 

「リディクラス!」

 

 轟くような大声で呪文を唱えた。すると蜘蛛の足先がローラースケートに変わり、ごろごろと転がりだした。ラベンダー・ブラウンが金切り声を出して蜘蛛を避けた。レイラの見守る前で、蜘蛛はまっすぐハリーのもとへと転がっていく。それを見て、レイラの脳裏にある可能性がよぎった。ボガートがハリーと相対したときに、何に姿を変えるのか、瞬時に閃いたレイラはそれを阻止するべく駆け出した。ちょうど同じタイミングで、ルーピン先生もハリーに向けて走り出したが、レイラのほうがハリーに近かった。

 

「ハリー、下がって!」

 

 ハリーを庇うように立ちはだかり、杖を構えるレイラ。

 ぱちん!

 蜘蛛が床に倒れ伏し、その姿を変えた。すぐ側にいたダフネが、短い悲鳴を上げる。ハリーからは、レイラが目の前にいることで、ボガートが何に変身したのか見ることができない。姉が怖がるものが何なのか見てやろうとしたが、突如両脇から出てきた何者かが手でハリーが前に出るのを阻止した。驚いて両隣を見れば、それはアルフレッドとドラコだった。

 この時、ハーマイオニーだけは、位置の関係からはっきりと見えていた。床に横たわるソレを。

 手足は力なくまっすぐに伸ばされ、見開かれた瞳。血の気が失せ、土気色に変色した肌。生きていないのだと判断するのに、時間はかからなかった。

 ハーマイオニーが見たものとは――息絶えた、ハリー・ポッターの姿だった。

 衝撃に、うまく呼吸ができない。震えながらもレイラを見れば、無表情だった。顔から表情が抜け落ち、無機質で、暗い瞳だった。そんなレイラを中心に、空気が凍ったように冷たくなった。錯覚かもしれないが、ハーマイオニーには本当に、辺りの温度が低下しているように思えた。

 レイラの手が、ゆっくりと動いた。

 

「リディクラス」

 

 底冷えするような声だった。小さな声だったのに、その声は教室に響いたかのようによく聞こえた。

 ぱちん! と音がして、ハリーだったものは手足を逆さまに生やして、タップダンスを踊る小さな人形に姿を変えた。

 するとすぐ側まで来ていたルーピン先生が杖を振るい、ボガートをもとの洋箪笥の中へと魔法で放り込んだ。

 

「それじゃあ今日はここまでにしよう。その代わりに、課題としてボガートに関する章を読んで、まとめを提出すること。さ、終わりだよ」

 

 その言葉を皮切りに、みんな足早に職員室を出て行った。生徒たちが出ていく中で、ハリーはアルフレッドとドラコを強引に振り払うと、レイラの前に立った。

 

「ハリー、大丈夫かい?」

 

 にっこりと微笑みかけるレイラに、しかしハリーは苦々しい表情だ。ハリーは極力ルーピン先生には聞こえないように、小さな声で言った。

 

「きっとボガートが僕を見たら、吸魂鬼になってただろうね。でも……誰も助けてくれなんて言ってない! 僕はもう子どもじゃないんだ」

 

 それだけ言うと、ハリーはさっさと職員室を出て行ってしまった。

 代わりに、ルーピン先生がレイラの肩に手を置いた。

 

「すまない、こうなることも予測できたはずなのに」

 

 本当に申し訳なさそうにするルーピン先生に、レイラはとんでもないと手を振って否定した。

 

「いいんです、先生。ハリーがまた吸魂鬼を見れば、心に大きなダメージを負うかもしれませんでしたから。わたしが代われるなら、そうするべきです」

 

 そう言ったレイラの肩に置かれた手が、重さを増した。

 

「いいかいレイラ。君もハリーも、ジェームズとリリーの子で、まだまだ他人を頼っていい歳だ。君だけが傷つく必要はないし、私を含めた職員、大人たちが必ず守ってみせる。……だから、自分が犠牲になるなんて考えは、どうか持たないでほしい」

「…………はい」

 

 ゆっくりと頷いたレイラの頭を、ルーピン先生は優しく撫でた。

 

「お詫びに今度、君の両親の昔話をしよう。今日はゆっくり休むといい」

「は、はい! 楽しみにしてます」

 

 ぺこりと頭を下げて、職員室を出ていくレイラを気遣うように、アルフレッド、ドラコ、ダフネの三人が寄り添って歩く。

 

「レイラ、どこかで少し休んだほうがよろしいのではないですか? その、顔色がよくありません」

「大丈夫だってダフネ」

 

 心配そうに顔を覗き込んでくるダフネに、努めて明るく返そうとするレイラ。そこに、ドラコも加わった。

 

「グリーングラスの言うとおりだ。そんな顔で夕食の席に出たら、周りの奴らどころか、ポッターにも心配されるぞ」

 

 その言葉に、ぴくりとレイラの肩が跳ねた。しばし考えこんだレイラだったが、やがてゆっくりとため息をついてから、ゆっくりと頷いた。

 

「分かった。二人の言う通り、少し休んでから行くよ」

 

 それを聞いて、ドラコとダフネは顔を見合わせた。

 

「それじゃあ、誰の邪魔も入らない必要の部屋とかいう場所にでも行くといい」

「そうですね。一人では不安ですから、アルフレッドも一緒にいてあげてください」

「……は?」

 

 今まで黙ってレイラの隣にいた、アルフレッドが困惑した様子で声を上げた。

 一人にしたほうが良いのではないかと、目で訴えかけているアルフレッドだが、ドラコとダフネの有無を言わせぬ無言の圧に、しぶしぶ頷くのだった。

 やがて四人が別れ、レイラとアルフレッドが八階にある必要の部屋へと向かう階段を上っていくのを見て、ドラコとダフネは無言で握手を交わしたのだった。




いやあ、本当は冒頭部分は考えてなかったんですが、スネイプ先生の記事とかをあさってたら、こうしそうだなと考えていました。
ボガートに関しては、予想がついていた内容かもしれませんね。

照れる三十代男性って、需要あるんですかね笑。
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