ハリー・ポッターと不死鳥の姉   作:駆華野 志想之介

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なんとか、令和初日に投稿できました。こう、波に乗らなければならない予感がしました。


侵入したブラックと、クィディッチの試合

 太った婦人が襲撃された夜、全生徒が大広間に集められ、一晩をそこで明かすこととなった。ダンブルドア校長はシリウス・ブラックがまだ校内に潜んでいると考え、先生を総動員して捜索に向かった。

 大広間から先生たちがいなくなった途端に、生徒たちはがやがやと騒ぎ出した。グリフィンドール生が他の寮生に事件の話を始めたのだ。

 事件は生徒達がホグズミードに行っている間に起きた。ブラックは何らかの正当ではない方法を用いて城内に入り、太った婦人にグリフィンドール寮の扉を開くよう言った。当然殺人犯を入れるわけにもいかず、扉を開けることを拒否した婦人は絵画を切り裂かれた。ブラックはその場を去り、行方は知れていない。ということだが、生徒達は城内にどうやってブラックが侵入したのかや、ブラックが今夜を選んだのはラッキーだったとか話し合っている。

 姿くらましを使って城に入ったと言う者もいたが、これは論外だ。城内では校長が城の守りを解かない限り、姿くらまし()使えない。吸魂鬼には変装はおろか、ハリーの透明マントでさえも意味をなさない。一般的ではない手段が必要となる。

 問題はブラックがなぜ今日の夜を選んだのか。レイラは既に、妖精の王からの情報でシリウス・ブラックが無実であると聞かされている。これが事実であるとするならば、そして、シリウス・ブラックがホグズミード行きの日程を知っていたとするならば、グリフィンドール寮には何かがあるということになる。

 

「……と、考えたわけだが、君はどうだ?」

 

 大広間で寝る支度をしながら、レイラは隣で同じように準備をしているアルフレッドに小さな声で問いかけた。

 

「ふむ、吸魂鬼は人間ならば誰彼構わずなら襲いかかる闇の生物だ。好みの問題はあれど、そこは変わらない。特異体質なんてものがあるわけではないだろうし、何らかの呪文、または魔法薬を使ったことは明白だろう」

 

 そこでアルフレッドはちらりとレイラを見やる。普段から隣にいるせいか、大広間で寝ることになった今日でさえも、隣で寝る支度を行うレイラ。アルフレッドはしばし黙って、やがて考えることをやめた。レイラの隣にはダフネがしっかりと位置取りをして、こちらを牽制してきている。アルフレッドが壁際で寝支度をし、その隣にレイラ、ダフネと並び、アステリアが姉を追いかけて隣に陣取った。四人が支度を終えた頃に、ドラコがいそいそと近くに寄って寝支度を始めた。どうやらクラッブとゴイルのいびきがうるさいことから、せめてここでは離れたいと考えたらしい。大広間のスペースに余裕がないことから、アステリアが「余裕がないので、もっとこちらに詰めていただいて構いませんよ?」と言い、ドラコは言われるがままにアステリアの側に寄った。

 誘ったアステリアの顔が赤かったように見えたレイラとアルフレッドは顔を見合わせ、くすりと微笑む。

 やがて消灯の時間となり、生徒達はいまだに興奮しながらも自分の布団へと潜り込んだ。レイラは自分とアルフレッドの周りにだけ防音の魔法を張り、話の続きを促した。

 

「なぜ今日この時間だったのかは分からないな。だが、計画的な犯行であった場合、ブラックはグリフィンドール寮に何かしらの用があったのだろう。三年生以上はホグズミードに出かけるから、お前の弟を探していたならそちらに行くべきだ」

「……全く、無実の男がわざわざこんな所に何の用があるっていうんだ」

「レイ、まさか学校の外に探しに行ったりしないだろうな?」

 

 城の外には吸魂鬼がうろついているから、危険な真似はよせ。そう言ってやりたいアルフレッドだったが、その時にはすでにレイラは眠りに落ちていた。燃焼日が近いと言っていたが、ここまで人としての体にまで影響を与えてくるとなると、いよいよその日が来るのではないだろうかと思われた。

 アルフレッドはすやすやと眠るレイラの頭をなでると、小さくため息をついた。

――これでは明日の授業は休ませたほうがいいだろうか。

 寝顔を見ているうちに自身も眠くなっていたアルフレッドは、ゆっくりと瞼を閉じた。

 

 

 

 ホグワーツのベッドルームは男女別制である。男子が女子寮へ向かう階段を上ろうとすると、階段が滑り台となり、侵入者を阻む。その逆は可能ではあるが、好き好んで男子寮に行く女子生徒はいない。緊急時とはいえ、男女が同じ空間で一晩で夜を明かすというのは、異例中の異例だったといえよう。

 アルフレッドは常より、人より早い時間に起きる。そしてレイラも、アルフレッドとほぼ同じ時間に目を覚ましているのが日常だった。しかし今、不死鳥の動物もどきとなったレイラは燃焼日を迎えるにあたり、眠気と、睡眠時間に影響が出ていた。それが今回、普段よりも長く眠る結果につながった。

 ぐっすりと眠るレイラの傍らで、アルフレッドは目を覚ました。いつも通りに。けれどいつも通りでないものが目の前にあった。静かな寝息を立てながら眠っている、レイラの横顔だった。

 

「…………」

 

 ほぅ。と、思わずため息が出る。大広間というなれない場所ながらも、安心しきった表情で眠るレイラ。日が昇り始めたことで大広間の窓から僅かに陽の光が差し込む。その光がちょうどレイラを照らし、深みのある赤髪が鮮やかに透き通る。

 

「ん……」

 

 光が眩しかったのか、レイラの瞼が一度強く閉じ、それからゆっくりと開かれていった。段々と現れる緑色の目は、光を反射してきらきらと輝いているようだった。

 

「ぁ……おはよう、アルフレッド」

「……ああ、おはよう」

 

 もぞりと布団から上半身だけを起こし、レイラはあくびを噛み殺した。

 

「んー?」

 

 まだまだ眠いのか、レイラは頭をこっくりこっくりさせながら目元をこする。

 

「燃焼日が近いせいだろう、今日あたりに起こりそうなら、スネイプ先生か校長に伝えておけよ」

「そーする」

 

 大広間への緊急避難は一晩で終わった。城中をくまなく探した先生方とダンブルドア校長が、城内にはブラックがいないと判断したからだ。レイラは授業が始まる前に校長の書斎を訪れ、燃焼日が間もなくである旨を伝えた。すると校長は迷うことなく今日の授業を休むよう伝え、誰も来ない場所でその時を迎えるように勧めた。

 

「先生方にはわしから話をつけておこう。それから、城の中を一人で歩くときには用心するのじゃ。ブラックが未知の手段でもって、再び現れんとも限らぬのじゃからな」

「だからハリーの周りに、それとなく監督生と先生方を置いたのですね」

 

 レイラの瞳が、まっすぐにダンブルドアの瞳を射抜いた。そしてレイラは、自身の疑問が間違いではないのだと直感した。確証があるわけではないが何かが、そうであると告げていた。

 

「ほっほ、君には驚かされるのう」

「そうでしょうか」

 

 なにやら愉快気に笑うダンブルドア校長の書斎を後にしようとしたが、その背にダンブルドア校長が声をかけた。

 

「もし君が必要の部屋以外を所望なら、暴れ柳の根元を調べてみるとよいじゃろう」

 

 ウィンクを添えて、ダンブルドア校長はにっこりと微笑んだ。

 

 

 

 書斎を後にしたレイラは、とても暴れ柳のもとに行こうと思えなかった。平時なら図書室で情報を集めたり、アルフレッドに聞くことができるが、生憎とレイラは一人で、猛烈な眠気に襲われ始めていた。

 やっとの思いで必要の部屋がある階までたどり着き、暖炉のある部屋を思い浮かべた。どうせならアルフレッドやダフネ、ドラコにアステリアを呼んで、燃焼する瞬間でも見てもらおうと思ったが、生憎の授業時間である。

 レイラは杖を使わずに、不死鳥へと変身した。しょぼくれた姿ながらも、翼を大きく開き開いた様は神々しさがあった。やがて、熱を持つ尾羽から小さな炎が出た。それはあっという間に全身を包み、橙色の鮮やかな光を放った。

 一瞬ののち、不死鳥となったレイラのいた場所には灰しかなかった。しかし、灰の中心がゆっくりと持ち上がり、燃えカスのような色をした不死鳥の雛が姿を現した。

 雛はぶるりと身を震わせると、灰の中から抜け出した。体に着いた灰を自身の羽で数回は叩いた後、不死鳥の雛の体が再び炎に包まれたように見えた。しかし次の瞬間には、その姿は元のレイラの姿へと戻っていた。

 変身を解いたレイラは大きく伸びをすると、肺にため込んだ空気を吐き出した。

 

「――は、あああぁ……よし」

 

 燃焼を終えたレイラの体は、先ほどまでと比べたら軽くなったような心地であった。眠気がなくなり、晴れ晴れとした気分だった。

 少しの間は不死鳥に変身しても雛の状態であり、飛ぶこともできないが、そこまで不便はないだろうとレイラは前向きに考えた。

 

 談話室に戻ってアルフレッド達の帰りを待っていた。帰ってきたアルフレッド達は、なにやら疲れた様子だった。尋ねてみれば、今日はルーピン先生が体調不良だということで、スネイプ先生が代役を務めたそうだ。その授業では「狼人間と、動物もどきの狼の違いと見分け方を、羊皮紙二巻き分のレポートで提出」という宿題が課されたそうだった。

 

「ふ、う、うん……これは相当根が深いか」

 

 話を聞いたレイラは、なにやら思い当たる節がある様子であったが、ダフネが何事かを聞いても、問題はないと受け流した。

 

 

 

「……そうか、ルーピン先生が」

 

 翌日、レイラはアルフレッドと並んで、クィディッチの競技場へと向かっていた。天気は絶好の試合日和……とは程遠く、大雨だった。猛烈な雨と風で、とても試合どころではなさそうだが、そんな天気でもクィディッチは開催されるらしい。レイラとアルフレッドはレインコートに防水呪文を掛けていたので全く濡れていなかったが、ダフネたちはまだこの呪文を知らなかったらしく、二人は急いでダフネ、ドラコ、アステリアの三人の着ていたコートに呪文を掛けてやった。

 

「インパーピアス」

 

 そこからさらに重ね掛けで、身体暖房呪文も掛ける。体の弱いアステリアが体調を崩さないようにするためだ。視界の端でクラッブとゴイルが雨に打たれていたが、レイラは気にしないことにした。

 試合はグリフィンドール対ハッフルパフだった。ハッフルパフは今年からキャプテンが新しくシーカーとなったセドリック・ディゴリーになって、チーム全体の戦力アップが進められてきたらしい。らしいというのは、五人の中で最もクィディッチ好きのドラコが、息を荒くして熱心に教えてくれたからだ。

 この悪天候と、厄介な相手を前に、レイラはハリーが無事に試合を終えてくれることを願うばかりだった。試合の様子は、大雨だったが何とか把握できていた。しかし曇天の中ではスニッチを見つけることは非常に困難だった。

 しかしそんな中で、セドリックがハリーよりも先にスニッチを見つけることに成功する。ゴール付近にいたグリフィンドールのウッドが、大声でハリーにそのことを伝えた。ハリーはニンバスの上に身を伏せて、セドリックの後を猛スピードで追走した。

 

「がんばれ、ハリー!」

 

 レイラが声を振り絞った先で、ハリーがセドリックに並んだ。そしてあともう少しでセドリックを抜き、金のスニッチに手が届くといったところで、奇妙なことが起こった。

 突如、競技場に気味の悪い沈黙が広がる、雨の音さえなくなったかのようにさえ錯覚した。

 感覚の鋭いレイラとアルフレッドは、即座に上空へと目を向けた。

 

「なにが……」

 

 呆然とドラコがつぶやいた次の瞬間、空を覆いつくす厚い雲の中から、無数の吸魂鬼が姿を現した。

 それを見た生徒たちは悲鳴を上げ、逃げ場のない観客席で身を隠そうと慌てふためいていた。しかしほんの数人だけが、しっかりと競技場へと目を向けていた。正確には、一人の生徒へと。

 

「ハリー!」

 

 レイラの叫びが、音を無くしたそれに響く。ハリーは必死に逃げようとしたが、百にも及ぶ吸魂鬼の中から逃げ出すことができず…………

 意識を失い、箒から落下したハリーを、ダンブルドア校長が即座に救う。しかしハリーを救うことが先決であったために、ダンブルドア校長は吸魂鬼への対応が遅れた。競技場の真ん中にゆっくりと落下したハリーめがけて、吸魂鬼たちが殺到する。しかしその時にはすでにレイラが観客席を飛び下り、ハリーのもとへと駆け寄っていた。

 降りる際にレインコートが脱げ、雨に打たれながらもレイラは落ちてくるハリーをしっかりと抱きとめた。安堵したのも束の間、押し寄せる吸魂鬼がレイラの眼前に迫る。

 

「エクス……ペクト、パトローナム」

 

トネリコの杖を握ったレイラが、その呪文を囁く。心を落ち着けるように、ゆっくりと、大切な思い出を心に浮かべて。

 今まさにレイラに襲い掛かろうとしていた吸魂鬼が、その動きを止めた。否――止められていた。

 レイラと吸魂鬼の間には、いつの間にか銀色の牡鹿が立っていた。その牡鹿を中心に、銀色の光が迸る。吸魂鬼たちはその光に弾かれるようにして競技場から追い出されていった。

 銀色の牡鹿はハリーを優しいまなざしで見つめると、まるで風に吹かれた綿毛のように、ふわりと消えた。後にに残されたのは、気絶したハリーを優しく抱き寄せるレイラと、激しい雨の音だけだった。




prong とは分岐したもの、枝分かれしたもの、枝そのものを指します。
「枝の子」

守護霊の案が実は三つありまして、供養してやりたいのでもう一つはそのうち出したいところです。本当は無生物にしたかったのですが、守護霊は生物ですので……
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