久々に日刊ランキングに載り、それが二日も続いていたので嬉しかったのです。だから原作の伏線だったり、登場人物の背後関係なんかを調べまくっていて遅くなりました……。
今の注目度一位はペティグリューです笑
「雪だな、アルフレッド」
「ああ。大雪だ」
ホグズミード行きの今日、レイラはホグズミードには行けないので、図書館で気になる本でも探そうとしていた。三年生から上の学年は、そのほとんどがホグズミードに行ってしまう。そうなると図書館の利用人数は極端に減り、探し物が非常にしやすくなる。
ホグワーツに残ってくれたアルフレッドと、めぼしい本はないかと探し回っているうちに、レイラはとある棚へと行き着いた。
「レイ、危険じゃないか?」
「おやアルフレッド、怖いのかい?」
明らかに他の書物とは違うものが並べられているその棚は、普通の生徒なら近づくことさえ躊躇らわれるものだった。中には触れることすら危険なものや、読めば呪いを掛けられてしまうものまである。そんな危険な書物のみを並べたのが、禁書の棚だった。
レイラに問われたアルフレッドはため息をついた。次いでレイラが見たのは、心配そうな色を浮かべて覗き込んでくる、翡翠の双眸だった。思わず、息を呑む。
「お前が、心配な、だけだ」
言い聞かせるように言葉を区切って、アルフレッドはそう断言した。
「……そっか」
くすぐたい。
そう感じたレイラは、気を紛らわせるように禁書の棚へと進んだ。
「でもきみ、わたしがそんなか弱く見えるのかい?」
棚に陳列されている危険な書物をひとつひとつ眺めながら、レイラは問いを口にした。
表情はおかしそうに、しかし内面は真面目に、レイラは思考した。自分が目の前の青年にどう思われているのか、知りたいと思ったが、同時に知りたくなかった。
心配されるのは、嬉しい……と思う。でも、わたしが弱いと思われているなら、庇護の対象だと思われているなら――。
「そんなわけがあるか。同い年でお前より才能があるやつを、俺は知らない。それに、お前は十分強い。心も、技もな」
「うえ?」
思わずおかしな声が出てしまった。思い返してみれば、アルフレッドからこうもしっかりと褒められたことなど、そうそう無かったのではないだろうか。いや、もしかしたら皆無かもしれない。
なんだろう、嬉しい? うん、嬉しい。それでいて、ちょっと……。
「あ……」
考えを目の前の本からは別な方向に向けていたレイラは、本棚の枠に指を這わせた。すると、枠が左右に膨らむかのように動き、新たな棚がひとつ現れた。どうやら魔法で隠されていた棚を、レイラは偶然にも見つけてしまったらしい。現れた棚に一冊だけ置かれていた本を、思わずレイラは手に取ろうとした。
アルフレッドが咄嗟にレイラの手を引いて本から遠ざけるが、すでに指が掛けられており、本は棚から落ちた。
レイラははっとして、自分が無用心にも本を手に取ろうとしていたことに気づいた。そのまま少し経ったが、特に変わった様子はない。触れたレイラ自身、自分に呪が掛けられた感覚はない。本を左目でよく視るが、特段変わったところはなかった。
「ん、平気だ。ありがと」
守るように身を引かせてくれていたアルフレッドに礼を言い、レイラはそっと本を手にする。なんてことは無い、普通の書物だ。
「『深い闇の秘術』、ねぇ」
禁書になる程の危険な本だ、読まないほうが良いに決まっている。レイラは好奇心を抑えつけようとした。しかし、理性や好奇心とは別なものが、レイラにその本を読ませようとしてくる。
……いったい、なんだ?
第六感、虫の知らせ。レイラはこの時、手にした本を読まなければならないと感じていた。
左目の奥に鈍痛が走る。
ページを捲っていけば、恐ろしく、それでいて深淵を覗くかのような魔法の数々が記されている。
アルフレッドが何かを言っているが、今のレイラには届いていなかった。この本には何かがある。何か、見落としてはいけないものが。レイラは突き動かされるように、ページを捲り続けた。
そしてついに、見つけた。
「…………なんだ、これ」
誰だ? いったい誰が、こんな恐ろしいものを。こんな、醜悪極まりない魔法を作った!
術者の魂を、殺人を引き金として分割し、不死に近づける邪法。分割した魂の一部を何か入れ物に閉じ込め、それを分霊箱と呼ぶ。分霊箱が健在であれば、肉体が滅びようとも魂をこの世に結び付けておくことができ、死を免れることができる。より多くの分霊箱を作ることでより不死に近くなる。しかし複数の分霊箱を作れば、作成者の人間性を削ぎ落とし、外見すらも歪めてしまう。入れ物が無事であるなら、魂の影響を付近のものが受けることがあるが、触れていなくとも影響を受けてしまう。
分割した魂は元に戻すことが可能である。そのためには良心の呵責が必要であり、自分のしたことを心から悔いなければならない。また、魂を元に戻す際に痛みが生じ、自らを滅ぼす危険性もある。
「……ホークラックス」
その呪文の名を、レイラは口にする。その途端、アルフレッドがぴくりと肩を震わせた。
「少しだが聞いたことがある。人という器を歪め、魂を汚す。最も邪悪な魔術だ、と」
「そうだな。終わりのない生なんかに、いったい……何が、ある……の……」
「レイ、どうした?」
レイラの言葉がだんだんと途切れ途切れになり、最後は黙りこくってしまった。アルフレッドが声をかけるが、レイラは黙ったまま、ホークラックスの説明を読み直している。
「魂を分割……入れ物はなんでも構わない……影響……魂」
頭の中で、何かが繋がる。
「……アルフレッド、一緒に来い」
「ん? わかった」
レイラは禁書の棚から離れると、本を持ったまま図書室から出た。
「それで、どこへ行くんだ?」
「ダンブルドアのところだ」
二人は早足で廊下を進み、校長室を目指した。途中、人気無い廊下を進む中で、レイラは何を見つけたのかをアルフレッドに説明した。頭の中の考えを整理したいという気持ちだったが、彼にも知っていてほしいとレイラは思っていた。
校長室への道を塞ぐガーゴイルに、いくつかのお菓子の名前を告げれば「黒胡椒キャンディ」が正解だったようだ。大きな扉をノックすれば、穏やかな声の返事が返ってきた。
「突然失礼しますダンブルドア」
「おおうレイラ、今学期に君と個人的に会うのは初めてじゃの」
机に腰掛けるダンブルドアのキラキラとした瞳が、レイラを捉える。レイラはシリウスブラックのことをアルフレッドから教えられて以降、ダンブルドアと顔を合わせまいとしてきた。それは情報を聞き出される可能性を危惧してのことであり、目を合わせれば開心術を掛けられることを恐れたからだ。実際にその術を使われたことはない。だからといって無防備でいるほど、レイラは気を緩めてはいなかった。
「先日きみが唱えた守護霊の呪文じゃが、実に見事だった。その歳でようやったのう」
「すみませんがダンブルドア、世間話は次の機会に」
「……はて?」
レイラは机の前へ進み出ると、持って来ていた『深い闇の秘術』の本をそっと置いた。それを見た瞬間、ダンブルドアの穏やかな態度が緊迫したものへと変わった。
「これは禁書の本のように思えるが、いったいどうしたのかね」
置かれた本を手に取り、ダンブルドアは慎重に表紙を開いた。
「ホークラックス」
今度は明らかに動揺した様子を見せるダンブルドアの反応を見て、レイラは自分の考えが当たっているだろうことを確信した。
ダンブルドアは本のページを捲り、そしてホークラックスの項を開いた。
「そう、この本じゃ。わしは去年からずっと、これが書かれた本を探していた。……どこで見つけた?」
「禁書の棚の、隠し棚です」
「隠し棚! そうか、どうりで見つからぬはずじゃ」
感心した。というように、ダンブルドアは声を上げた。
「レイラ。きみがこの本を持って来たということは、すでに理解しておろう」
キラキラとした瞳が、今度はレイラの目をまっすぐに見つめた。
「ええ。わたしとハリーは、奴の……ヴォルデモートの分霊箱なのでしょう」
レイラの背後で、アルフレッドが静かに目を伏せていた。分霊箱を破壊しなければ、術者は死ぬことはない。それは、分霊箱を破壊せずに術者を殺すことは叶わないということだ。つまり、本当に二人が分霊箱であるなら、レイラとハリーは死ななければならないことになる。
「……そうじゃ。そうであろうと、去年のハリーを見て強く思った」
「蛇語、ですね。それから、わたしの記憶に残るヴォルデモートの顔は、およそ普通の人間からはかけ離れていました」
レイラは意を決して、その言葉を口にした。
「わたしたちは、死ぬしかないと?」
「そうはさせぬ。大義に犠牲はつきものじゃが、僅かな可能性を掴むための努力をするべきじゃ」
可能性……予言?
「予言とはなんです?」
本が落ちた。ダンブルドアが、持っていた本を落としたのだ。その顔には驚愕の表情が浮かび上がっており、信じられないといった様子だ。その驚きが、ダンブルドアの心に隙を生んでしまう。
家族、親友。追い求めた夢。
レイラは咄嗟に、目を逸らした。まるで長い時間そうしていたように思えるほど、レイラは多くを見た。ダンブルドアは立ち直り、ゆっくりと椅子に腰掛けた。
「すみません、聞こえてしまったもので……」
「まったくもってきみには驚かされる。その歳でわしの心を読んだ者はおらぬ。いや、ただの一人を除いて、わしが心を読まれたことはない」
ダンブルドアはそう話している間中、一度もレイラを見ようとはしなかった。レイラも、ダンブルドアを見ようとはしなかった。
「そして今でも信じられん。ヴォルデモートもその道の達人じゃったが、荒々しさそのものだった。しかしきみは、心を見られている感覚が無かった。あまりにも自然じゃ」
長い息を吐き、ダンブルドアは何かを思い起こすように中空を見た。
「予言とは、きみとハリーが生まれる前にトレローニー先生が残した本物の予言じゃ。
闇の帝王を打ち破る力を持った者が近づいている。七つ目の月が死ぬとき、帝王に三度抗った者たちに生まれる。
そして闇の帝王は、その者を自分に比肩する者として印すであろう。しかし彼は、闇の帝王の知らぬ力を持つであろう。一方が他方の手によって死なねばならぬ。なんとなれば、一方が生きるかぎり、他方は生きられぬ。
闇の帝王を打ち破る力を持った者が、七つ目の月が死ぬときに生まれるであろう。……というものじゃ」
本物の予言とは、予言者が予言を行い、的中したもののことを指す。その予言は水晶玉に込められ、魔法省の神秘部に保管される。予言は、その対象にしか取り出すことができない呪文で守られている。
レイラは言葉の意味を考えた。考えて、矛盾に気がついた。
「わたしとハリーが生きている限りヴォルデモートは死なないのに、ヴォルデモートが死んでわたしたちが生き残るように聞こえますが?」
「さよう。これこそ、わしが言った可能性じゃよ。アルフレッドよ、このことに関して、彼の王は何か言うておったかの?」
それまで黙って聞いていたアルフレッドは、首を横に振った。
「いいえ。王からは、何も聞かされていません」
予言ではなく、予知に等しい形で未来を知る妖精王だが、望んで未来が見えるわけではない。知らないものは教えられないが、知っていても教えないことはあるだろうと、アルフレッドは嘆息した。
「わしが思うに、この予言はまだ的中しきっておらん」
「わたしたちと奴が、対等になると? しかしこの予言は、本当に当たるのでしょうか」
今まで硬い表情だったダンブルドアが、にこりと微笑んだ。
「すでに一部が、当たっておるとも。きみたち二人は、ヴォルデモートには無い力が備わっておる」
英国魔法界にその名を轟かせた悪の魔法使いには無い力とはなんなのか、疑問に思うレイラを見て、ダンブルドアは嬉しそうに言った。
「愛じゃよ。ヴォルデモートは愛を知らぬ。その生い立ち故にな。魔法には様々な物がある。古に生まれた魔法。妖精たちの術。愛も、その一つなのじゃよ。これに関しては、きみも覚えがあろう」
「ええ……そうですね」
レイラとハリーは、母親が子を守りたいという愛のおかげで命を救われた。また、レイラは一年生の時にそれを身をもって体験している。
レイラとアルフレッドは校長室を後にし、再び図書室へと行くために廊下を歩いていた。行きのように急がず、ゆっくりと。
「レイ、大丈夫か?」
急に連れ出して、付き添いのようなことまでさせられていながら、アルフレッドは気にしたそぶりも見せずにレイラを気にかけた。
「ああ、うん。へーき」
ダンブルドアとの話し合いで、決定的な戦略が手に入ったわけではない。しかし可能性が示された。ならばレイラは、少しでもハリーが助かる方法を考えるだけだ。
「何があっても、わたしがハリーを守る」
言葉というのは不思議なものだ。ただ口にするだけで、人の心を動かす。傷つけることも、癒すこともできる。己を鼓舞することだって可能だ。言葉にするからこそ、力が生まれる。尽きることのない力が。
難しいことを考える必要はない。これまでやってきたことと同じだ。
「なら俺は、お前を守ろう。一人で走りがちなお前の隣に並んで、少しでも傷つかないように」
隣を見れば、綺麗な翡翠色の瞳と目があった。
言葉というのは不思議なものだ。たった一言で、人を喜ばせる力を持つのだから。
「あはは。なんだい、それ。もしかして貶してる?」
「お前が心配なだけだ」
示し合わせたわけではないが、二人は同時に微笑んだ。言葉が魔法なら、きっと笑顔だって魔法だろう。
「それにしても、『愛』か。こういった感情が魔法になるのはなんだか不思議だな」
「そうでもない。感情と魔法は繋がっている。杖を持たない子どもの癇癪なんて、まさにそれだろう。歴史は古く、使われることは少ないが、力は強い。それにウェルギリウスが、愛は全てに打ち勝つ。と言っているだろう?」
一拍間を置いて、それからレイラは吹き出して笑った。
「あっははは! Omnia vincit Amor. ははあ、征服とばかり思っていたけど、なるほど打ち勝つか。うん、うん。その方がよっぽど素敵だね」
「同じようなものだろう……うん?」
恥ずかしそうに首を掻いたアルフレッドが、廊下の曲がり角から現れたドラコを見つけた。同時に、ドラコもアルフレッドとその隣にいるレイラを見つけた。ドラコはすぐきた道を振り返ると、誰かを呼ぶそぶりを見せた。レイラとアルフレッドは、ドラコに続いて廊下の角から出てくる生徒を捉えた。
二人ともすぐに、それが誰なのか分かった。アステリア・グリーングラス。ダフネの妹で、二人の人学年下のスリザリン生だ。普段は落ち着いていて、引っ込み思案なところがあるが、姉に負けじと努力する積極性もある。
そんなアステリアが、慌てた様子でレイラとアルフレッドの元に駆けてきた。
「やあアステリア。あまり走ってはいけないよ。無理をするとダフネに——」
「——ハリー・ポッターが、ホグズミードに行こうとしています!」
その場にいた誰もが、アステリアの放った言葉に驚いていた。一緒に来ていたはずのドラコも知らされていなかったのか、わけがわからないといった顔だ。
「どういうことだい? ハリーとわたしは、ホグズミード行きの許可証にサインを貰っていないんだ。……ロンとハーマイオニーにでも、着いて行ったのかな?」
そう言ったレイラ自身、可能性は低いと思っていた。ロンとハーマイオニーに着いて行くなら、マクゴナガル先生と管理人のフィルチの前で透明マントを使っていなければならない。しかしアステリアがハリーを見ているなら、ハリーの姿はマクゴナガル先生の目に写っているはずだ。
ひとつだけ、レイラは手段を思いついていた。しかしレイラはそれをハリーに教えたことはない。不用意に教えて危険に晒されては目も当てられないからだ。でももし、誰かが教えていたとしたら?
黙考するレイラを前に、アステリアはゆっくりと口を開いた。
「彼は地図を持っていました。魔法のかけられた不思議な地図です。城内の人の位置が把握でき、外への抜け道が書かれた地図でした。地図の上部には人名が……一人はたしか、プロングズという名前でした」
思い起こすように目を閉じていたアステリアの頭を、レイラは優しく撫でた。突然のことに驚くアステリアに、レイラは微笑みかけた。
「教えてくれてありがとうアステリア。心配だから、見に行ってくるよ」
「玄関ホールは先生方が巡回しているぞ……どうやって行くつもりだレイラ。それに、今出たところで、ポッターには追いつけないだろう」
ドラコの指摘はもっともだ。シリウス・ブラックが城内に侵入してからは、先生方が見回りを強化している。そのまま出て行こうとすれば、止められるのは明らかだ。加えて、ハリーがすでに出発しているのなら、レイラがハリーに追いつくためには走らなければならない。けれどレイラは驚くほどに体力がなく、到底追いつけないだろう。
しかし、レイラには先生達の目をかいくぐり、ハリーに追いつくどころか、先にホグズミードに辿り着く手段があった。
「大丈夫だよ。ドラコはホグズミードに行く? そう。なら、ハリーを見かけたらわたしに教えてほしい。まあ、透明マントを使っている可能性があるけどね」
「え、お、おい」
ドラコが止める間も無く、レイラはアルフレッドを連れて何処かへ行ってしまった。
「ええと、あっという間でしたね」
ともにその場に残されたアステリアが、苦笑とともにそう言った。ドラコは呆れたようにため息を吐く。
「まったく、なんで僕がポッターを探さなくちゃいけないんだ」
「あら、友達の家族だからではないですか?」
なんでもないように言われたその言葉に、ドラコは思わず固まった。それから、もう一度ため息を吐いた。今度は先程よりも長く、それでいて不機嫌さは減っていた。
「しょうがない。探してやるとするか。落ち着いてホグズミードを巡りたいんだけどね」
「私も来年になったら、姉上とホグズミードに行ってみたいです」
「僕はもう行く。ここは寒いから、早く談話室に戻れよ」
そう言い残すと、ドラコはさっさと歩いて行ってしまった。残ったアステリアは、少しの間その場から動かなかった。
雪はますます降り積もっていた。
核心に迫るものを思いきりぶち込んでみました。後悔はありませんが不安ですね。
何か解釈違いや疑問等ございましたらお気軽にコメントください。