今度から休みの日は図書館に行こうかしらと思う七月です。
「ねえ、ハリーはやっぱりホグズミードに来ちゃいけないはずでしょ。許可証にサインを貰ってないんだから! 誰かに見つかったら、それこそ大変よ! もし今日シリウス・ブラックが現れたらどうするのよ」
ハリーが、ロンとハーマイオニーに合流してからというもの、ハーマイオニーはハリーをなんとかホグワーツに戻そうと口を開き続けていた。ハリーは地図の事をロンだけでなくハーマイオニーにも話したことを、今になって後悔していた。
「ハリー、まさかと思うけど、その地図はちゃんとマクゴナガル先生にお渡しするわよね?」
「僕、渡さない!」
「気は確かか?」
目を剥いてロンがハーマイオニーを見た。
「こんな良いものが渡せるか?」
「それじゃ、シリウス・ブラックの事はどうするの? この地図にある抜け道のどれかを使って、城に入り込んでくるかもしれないのよ! 先生方はそのことを知らないといけないわ!」
「ブラックが抜け道から入り込むはずがない! 七つある道のうち、四つはフィルチが知ってる。残る三つのうち一つは崩れていて、一つは出口に暴れ柳が生えている。残る一つはハニーデュークスに入らないといけないんだ。ブラックがここを簡単に見つけられるとは思わないね」
ロンが意味ありげに咳払いして、そこかしこの店に貼ってある張り紙を指差した。
『魔法省よりのお達し
お客様へ
先般お知らせいたしましたように、日没後、ホグズミードの街路には毎晩吸魂鬼のパトロールが入ります。この措置はホグズミード住人の安全のためにとられたものであり、シリウス・ブラックが逮捕されるまで続きます。お客様に置かれましては、買い物を暗くならないうちに済ませられることをお勧めいたします。
メリー・クリスマス!』
「ね? 吸魂鬼がこの街に来るんだぜ。ブラックがハニーデュークスに押し入ったりなんかするもんか。もし店に入ったとしても、二階で寝てる家主が気づくだろう?」
「そりゃそうだけど、でも」
それでもハーマイオニーは、なんとか他の理由を見つけようと考えていた。
「でも……でも、先生方もそうだけど、レイラが心配するはずだわ、だって彼女は――」
「――僕はもう子どもじゃないんだから、心配されるいわれはない! それに、レイラが心配したって、なんにもならないじゃないか」
ハーマイオニーは悲しそうに、それでも心配だという表情だった。
「僕のこと、言いつける?」
ハリーがにやっと笑ってハーマイオニーを見た。まさかそんなと、ハーマイオニーは首を横に振った。
その時、冷たい風が辺りに吹き荒れて、三人は思わず身を震わせた。ロンがたまらないといった様子で、歯を震えさせながら提案した。
「こうしよう。三本の箒まで行って、バタービールを飲もう」
ハリーは大賛成だった。風は容赦なく吹き、手が凍えそうだった。三人は道を横切り、数分後には三本の箒という店に入っていた。
中は人でごった返し、うるさくて、暖かくて、煙でいっぱいだった。カウンターの向こうに、曲線美の素敵な女性がいて、カウンターにたむろしている魔法使いたちに飲み物を出していた。
「マダム・ロスメルタだよ。あー、僕が飲み物を買ってくるよ」
ロンが少しばかり赤くなりながらもそう言った。「ロンはロスメルタにお熱なのよ」と、ハーマイオニーがこっそり耳打ちしてきた。
ハリーはハーマイオニーと一緒に空いている小さなテーブル席の方へと進んだ。テーブルの背後は窓で、前には綺麗に飾り付けられたクリスマスツリーが暖炉わきに立っていた。五分後には、ロンが大ジョッキを三つ持ってやってきた。泡立った熱いバタービールだった。
「ハッピークリスマス!」
ロンは嬉しそうにジョッキを掲げた。ハリーはバタービールを飲んだことが無かったが、思い切ってぐびっと飲んでみた。こんなおいしいものは今まで飲んだことが無い。体の芯から隅々まで温まる心地だった。
勢いよく飲んでいたロンがむせ返り、隣に座っていたハリーがその背中をさすってやり、それを見てハーマイオニーは楽しそうに笑みを浮かべている。
「勢いよく飲むからよ」
ハリーはホグズミードがこんなに楽しいなんて思わなかった。校則を破ってしまっていることは後ろめたくもあったが、こんなに楽しいのだからもう少しくらい友だちの二人と楽しませてほしいと思った。
ようやく落ち着いたらしいロンの背中から手を放し、再びバタービールを呷るハリー。すると今度はどうしたことか、ハーマイオニーもむせ返った。
「勢いよく飲むからだよ」
それを見ていたロンがお返しとばかりに言った。ハーマイオニーはむせ返りながらも手をぶんぶんと振り、何かを伝えようとしている。少しして落ち着いた様子のハーマイオニーが、ハリーとロンに顔を寄せるように手招きした。
「いいこと、絶対に振り向いちゃだめよ」
ハーマイオニーが真剣な表情でそう言うが、むしろ何があるのかと二人とも思わず振り返ってしまった。その直後に、二人は慌てて顔を正面に戻し、ハーマイオニーがその額をぺちりと叩いた。
ハリーは顔面蒼白になり、ロンは忌々しそうにしている。二人の背後の席に座ったのは、プラチナブロンドの髪を持つ少年だった。プラチナブロンドの生徒など、ホグワーツには幾人もいるだろう。しかしその生徒と連れ添ってテーブルについているのは、スリザリン生のアルフレッド・ルークだったのだ。ここまでくれば、ハリーもロンも、背後に座る生徒が誰なのか容易に察しがついた。その生徒とは、ドラコ・マルフォイだ。
ホグワーツを抜け出してホグズミードに来ていることがマルフォイに知られたら、マルフォイは必ずスネイプに告げ口するだろう。ロンが急いでジョッキを持ったままのハリーをテーブルの下に押し込み、ハーマイオニーと二人で何食わぬ顔をしてやり過ごすことに決めた。
テーブルの下で体を丸めていたハリーは、三本の箒の玄関ドアが開いたことに気がついた。ぞろぞろと、生徒ではない魔法使いが店内に入ってきた。マクゴナガル先生が頭や肩に雪を積もらせて入ってきたのだ。その後ろから縞模様のマントを纏った男が入ってきた。テーブルの下に隠れながら、ハリーはマクゴナガル先生たちの足を見つめた。三人の足はカウンターの方に動き、立ち止まり、方向を変えてまっすぐハリーたちの方へと歩いてきた。
テーブルの上の方から、ハーマイオニーの呟く声が聞こえた。
「モビリアーブス! 木よ動け!」
そばにあったクリスマスツリーが僅かに浮き上がり、横にふわふわと動きながら、ハリーたちのテーブルの真ん中に移動して三人を隠した。ツリーの下の隙間から、ハリーは先生たちの様子を覗き見た。マクゴナガル先生と大臣が椅子に座り、ため息をついた。
次にハリーが見たものは、トルコ色石色のハイヒールを履いた女性の姿だった。テーブルに座る先生たちに飲み物を持ってきたようだった。
「ありがとう、ロスメルタ。こっちに来て君も一杯やらないか?」
「まあ、大臣。光栄ですわ」
ハイヒールが元気よく遠ざかり、また戻ってくるのが見えた。ハリーの心臓は嫌な動悸を打っていた。先生たちはいつまでここにいるつもりなんだろう? 今夜ホグワーツに戻らなければならないので、ここを抜け出してこっそりハニーデュークス店を訪れる必要がある。ハリーの脇で、ハーマイオニーの足がピクリと神経質に動いた。
「それで、大臣。どうしてこんなところにお越しになったんですの?」
誰かが立ち聞きしていないか確認している様子で、ファッジのふくよかな体が椅子の上でよじれるのが見えた。それから、ファッジは低い声で言った。
「ほかでもない、シリウス・ブラックの件でね。ハロウィーンの夜に何が起こったのかを、ダンブルドアから直接聞いてきたのだよ。学校で何があったか、君も少しくらいは聞いているのかい?」
「噂は確かに耳にしていますわ」
それを聞いたマクゴナガル先生が、ずいと体をテーブルに乗り出した。
「ハグリッド、あなたまさかパブ中に言いふらしていないでしょうね?」
マクゴナガル先生の声は腹立たしげだった。
「大臣、ブラックがまだこの辺りにいるとお考えですの?」
マダム・ロスメルタが囁くような声で言った。
「間違いない」
「吸魂鬼が私のパブ中を二度も探し回ったことをご存知かしら?」
そう言うロスメルタの声には、とげとげしさが感じられた。
「お客様が怖がって、みんな出て行ってしまいましたわ……大臣、商売あがったりですのよ」
「ロスメルタ。私だって君と同じで、連中が好きなわけじゃない」
そこでファッジの体が再びよじれた。まるでこれから大事な話をするかのようだった。
「ブラックがしでかしたことは知っているかい?」
「ええ、ええ。もちろんですわ。マグルの人たちを何人も、道の真ん中でころしたのでしょう?」
ファッジはかぶりを振った。
「いいや、それは話の半分なのだ。ブラックはもっと大きなことをしでかしている」
「大きなこと?」
話を聞くロスメルタは興味津々といった様子だ。隠れて話を聞いているハリーもそれは同じで、ツリーから見えないようにしながらも、もっとよく話を聞こうと耳を傾けている。
「殺されたのはマグルだけではなかったんだ。一人だけ、魔法使いがいたのだよ」
「いったい誰です?」
ロスメルタの疑問に、ファッジではなくマクゴナガル先生が答えた。まるで、自分が話すのが義務であるかのように。
「ピーター・ペティグリューです。いつもジェームズ・ポッターやシリウス・ブラックの後を追いかけていた」
父親の名前が出たことで、ハリーは思わずジョッキを床に落としてしまい大きな音を立てた。ロンがハリーを蹴った。
「ポッターとブラックは本当に仲が良く、悪さをするときには二人は決まって一緒でした。ポッターは誰よりもブラックを信用していました。卒業しても変わらずです。……『例のあの人』との戦いの最中、ジェームズとリリーが例のあの人に狙われていることを、ダンブルドアは放っていたスパイから聞き出しました。ダンブルドアは二人に、『忠誠の術』が一番助かる可能性があると教えました」
「どんな術ですの?」
ロスメルタは息をつめ、夢中になって聞いた。ファッジが咳払いした。
「恐ろしく複雑な術だ。古く、使える魔法使いはそういまい。しかしその分、強力だ。一人の生きた人間の中に秘密を魔法で封じ込めるのだ。選ばれたものは『秘密の守り人』として情報を自分の中に隠す。これで情報はその人物が明かさぬ限り、第三者に知られることはない。『例のあの人』何年探そうが、二人を見つけることは不可能だ。たとえ家の窓から二人の家の中を覗いたって、見つけることはできないはずだった」
「はずだった?」
ロスメルタが大きな声を上げて尋ねる。
「ええ、なにせ『秘密の守り人』は、シリウス・ブラックだったのですから」
ロスメルタが息を吸う音が、ハリーにまで聞こえるほどの驚きだった。
「ダンブルドアは、だれかポッター家に近いものが二人の動きを、『例のあの人』に知らせていると確信していました」
マクゴナガル先生が暗い声で言った。
「それでも、ジェームズ・ポッターはブラックを使うと主張したんですの?」
「そうだ」
ファッジが重苦しい声で言った。
「そして『忠誠の術』を掛けてから一週間もしないうちに――」
「ブラックが二人を裏切った? もしやピーター・ペティグリューはそれを知って敵を討とうと?」
「……愚かな子です。どうしようもなく決闘が下手な子でした。……能力から言って、勝てるはずもなかったのです。きっと気が動転して、悲しみや正義感、怒りが彼を突き動かしたのでしょう」
「それにきっと、闇祓い以外ではまともに太刀打ちできなかっただろう。私は当時現場で働いていてね、今でもあの光景が忘れられないよ。道の真ん中に抉れた大穴が空き、露出した下水管。いくつもの巻き添えを食らった死体。そしてそこには、当然ペティグリューの死体もあった」
そこで大臣は息を吐いた。長い溜息だった。
「指一本だ。残ったペティグリューの遺体は、指一本だったのだ! ……ブラックは仁王立ちで笑っていたよ。そしてそのまま、闇祓いが拘束して、アズカバンに送った。昼も夜も吸魂鬼がすぐそばで見張る厳重な警備だったのだ。しかしやつは、気が狂うこともなく、私が様子を見に行った時には、持っていた新聞を、クロスワードパズルが懐かしいからくれないかと言ったのだよ。思わずくれてしまったよ、恐ろしさのあまりね」
ようやく話も終わりに近づいたのか、大臣は椅子の背もたれにどっかりと背中を預けた。
「あと一つある」
「まだ、何かあるというんですの?」
ファッジは疲れ切った様子で、口を開いた。
「ブラックは、こともあろうにハリー・ポッターの後見人なのだ」
「なんてこと、それをあの子が聞いたら……」
ハリーは再びジョッキを落としてしまう。しかし今度はロンからの蹴りは飛んでこなかった。テーブルの上の二人も、相当に驚愕しているのだろうが、今のハリーには気にする余裕はなくなっていた。
そこに、マクゴナガル先生の固い声音が聞こえてきた。
「ええ、私がそのことを危惧して、あらかじめ彼にそのことを教えようとしたのです。しかし彼は私の言葉を遮り、知っていると、きっぱりと言ったのです。ウィーズリー氏の言葉を聞いてしまったそうです」
マクゴナガル先生の声がに交じって、鼻をすする音が聞こえる。
「強い子です、本当に。っそれを知ってなお、あんなにも気丈に……ああ、レイラにも、あの子にはまだ伝えていません。彼女は自分一人で抱え込んでしまいがちですから、こちらからフォローが必要なはずです。セブルスにも、よく言っておかないと……」
「さあ、ミネルバ。もういい時間だろう。城に戻ろうじゃないか、ね」
悲しみに暮れ始めてしまったマクゴナガル先生の背中を促す。マントの縁がはらりと見えたかと思うと、「三本の箒」のドアが開き、また雪が舞い込み、先生と大臣は去っていった。
一瞬、ハリーは頭を撫でられたような気がして、弾かれたように顔を上げた。するとそこには、ロンとハーマイオニーの顔があった。
「ハリー?」
二人とも心配そうに、言葉もなくハリーをじっと見つめていた。
なぜ誰もハリーに真実を教えてくれなかったのか。というハリーの疑問があるわけですが、自分で知った気になって、教えてくれようとするマクゴナガル先生の話とかを遮ってしまったわけなのです。
原作を読みながら映画を見ると、新しい発見があって面白いですね。
そういえば最近、とある作家様の描くコナン絵を拝見しまして、とても感動しました。お名前はここで出せないのであれですが、灰原さん(宮野)さん激マブでした。
これも最近なのですが、ポケスペの1~7巻くらいを探していますが、なかなか販売しているお店が見つかりませんね。女主人公なレッドさんを書きたいなと思っているのですが(笑)
間もなく梅雨も終わるでしょうから、日ごろご愛顧いただいている皆様が体調を崩さず、健やかに次話でお会いできることを至らぬ身ながら願わせていただきます。
それではまた。