というわけで、遅れてしまいましたが投稿でございます。
昨日から突然猛暑日が始まり、「あれ、もしかして夏……?」と現実を受け止めきれませんでした。
ホグワーツのクリスマス休暇が始まる日の朝、レイラは夜更かしのせいもあって普段より少し遅めに起床した。スリザリンの女子生徒の中で学校に残るのはレイラと、上級生がほんの数人のため、朝から荷物を纏める生徒が多く見受けられる。昨日のうちに準備しておけばいいのに。
欠伸を噛み殺しながら、姿の見えないダフネを探して談話室まで向かおうかと思案した。。帰宅組は朝食後すぐに駅へ向かうので、今のうちに挨拶を済ませておきたかった。
レイラはサイドチェストに置いていたトネリコの杖を持つと、ベッドに付いているカーテンを閉め、それからめくらまし術を自身に掛け、念入りに自分の姿が見えないようにした。そうしてようやくレイラは寝間着を脱いだ。下着を着け、防寒用の厚手のタイツを穿く。ロングスカートとスキニーで悩んだ結果、ロングスカートをチョイス。上はシャツを羽織り、セーターを重ねる。極力肌の露出を控えた服に異常が無いか確認すると、レイラは術を解いて談話室へと向かった。
談話室の中には生徒はまばらにしかおらず、レイラはすぐに目的の人物を見つけた。レイラが来たことに気が付いたか彼女たちは、先んじて声を掛けた。
「おはようございますレイラ」
「おはようございます」
にっこりと微笑むダフネと、すこし気恥ずかしそうに会釈をするアステリアに、レイラも「おはよう」と返す。するとダフネがレイラに近づき、その体に優しく触れて行った。姉の突然の行動に理解が追いつかないアステリアだが、レイラは意図を察したのかされるがままでいる。上半身を観察して満足したのか、ダフネは安堵の息を吐いた。その様子を見てレイラは両手を広げて見せた。
「大丈夫、何処もケガしてないよ」
「ええ、そのようですね」
「ええと?」
一人だけ置いてけぼりのアステリアの様子がおかしくて、レイラとダフネはくすくすと笑い合った。ちょうどそこへ、珍しく寝ぐせのついたアルフレッドがやってきた。レイラは素早くダフネの耳元で、声を小さくして話しかけた。
「昨日の事、アルフレッドには黙っておいてほしいんだ」
「あなた、ひとりで出て行ったのですか!?」
てっきり彼と一緒だったのかと。そう消え入りそうな声で呟くダフネに「お願いね」と念押しすると、レイラはソファに座ったアルフレッドの横に腰かけた。
「おはよう、アルフレッド。眠そうだな」
「……ん、少し、やることがあってな」
「あはぁ、今日は珍しい君が見れたな」
愉快気に言いつつ手櫛で跳ねている寝ぐせを直してやるレイラ。よほど強く癖がついたのか、寝ぐせは治らないが、普段触ることのない流れるような銀髪の感触を思わず楽しんでしまう。
コホン。と、ダフネが咳ばらいを一つ入れる。
「それでは、私とアステリアはそろそろ行きますね」
見れば、他の生徒達がトランクを引きながら談話室に現れ始めていた。
まだ眠そうなアルフレッドの背中を押しながら、レイラはダフネとアステリアを玄関まで見送った。クラッブとゴイルを急かしながら現れたドラコが玄関に来る頃には、アルフレッドはだいぶ目が覚めてきた様子だった。そのまま彼はドラコと二言三言話した後、手を振って別れた。レイラもダフネとアステリアに別れを済ませ、送り出していた。
見送りを終えた二人は朝食を摂るべく大広間へと向かった。
「早く届かないかな、アレ」
「うん? なんのことだ」
「んー、ひ・み・つー」
楽しそうに笑うレイラの様子に、心当たりがないアルフレッドは首をかしげるしかなかった。不思議がるアルフレッドの横で、レイラは満面の笑みでハリーのもとに箒が届く瞬間を想像していた。
ホグワーツ城では毎年恒例のクリスマスの飾り付けが進んでいた。それを楽しむ生徒は学校にはほとんど残っていなかったが、柊やヤドリギを編みこんだ太いリボンが廊下にぐるりと張り巡らされ、飾られている鎧の中からは神秘的な光がきらめいていた。大広間には金色に輝く星を飾った十二本のクリスマスツリーが並べられていた。
昼食前の時間に、レイラとアルフレッドは誰もいない校庭の端を歩いていた。ちょうど正面では暴れ柳が積もった雪を鬱陶しそうに払いのけている所だった。
レイラとしては息抜きの借る散歩目的だったが、アルフレッドはそうではなかったようだ。彼は昨日、シリウスから「暴れ柳の下を調べろ」と言われたことを実行するつもりのようだ。昨晩勝手にひとりで木を調べて、その先の叫びの屋敷まで行ってしまっていたレイラは、そういえばそうだったと適当に相槌を打ちながらもアルフレッドに同行した。その後彼は昨晩のレイラと同じように暴れ柳のコブに魔法で衝撃を与えてやり、難なく隠し穴を見つけていた。
「なるほど、昨日のブラックの言葉から推察すれば、この穴は叫びの屋敷の近くにでも出るんだろうな」
「ん、うん。だろうな。……本人の前でファミリーネームは使うなよ?」
「ああ、わかってる」
調べ終わって満足したアルフレッドの隣に並んで、城に戻ろうとするレイラの足元に、茶色の毛玉に見まごうクルックシャンクスがすり寄って来ていた。どこかむっすりとした表情のクルックシャンクスは、首からひもで結ばれた手紙をぶら下げていた。
手紙の表面には『SからLへ』とだけ書かれていた。レイラはクルックシャンクスがそれを取ろうと前足で首を掻いているので、手早く外してやる。手紙が外されたクルックシャンクスは満足したのか、足早にその場を去って行った。文字を読めば、タイミングとしてはおそらく『
『レイラへ。箒の注文は問題なく完了した。君のアドバイス通り、メッセージ類は何も入れてない。本当は少しくらい何かしたいが、今は私から送ったことが知られてはいけないからね。よいクリスマスを』
読み終えた手紙を仕舞い、内容が気になっているが覗き込んでくることは無かったアルフレッドに、シリウスがハリーに贈り物をした旨を伝えた。
アルフレッドは思案顔をしたが、嬉しそうに語ったレイラに水を差そうとも思えなかったため、「楽しみだな」とだけ返すのだった。
「レイラ!」
昼食をとるために大広間へ向かう途中の玄関ホールに来たところで、ハーマイオニーが声を上げてレイラを呼び止めた。休暇に入るまでかなり疲れた様子だったハーマイオニーと、顔を合わせることはあっても、まともに会話をするのは久しぶりだった。
「私いてもたってもいられなかったの。でもあの二人ったら、まったく何もわかっていないのよ!」
「落ち着きなよハーマイオニー。いったいどうしたんだい?」
勢いよくまくしたてたハーマイオニーだが、その内容はまったく要領を得ないものだったので、レイラはひとまずハーマイオニーを落ち着かせ、詳しく話を聞くことにした。
「ハリーに箒が送られてきたの。ロンが最高峰の箒ですって。でも、差出人の名前も、カードもなかったの。ハリーもロンも、そんなことちっとも頭にないの。私、二人の事が心配なのに。もし、もしあの箒が――」
ちょうどそこへ、グリフィンドール寮からハリーとロンが降りてきている姿が見えた。ハーマイオニーははっと息を呑むと、まだレイラに話したいことがあるようだったが、二人と顔を合わせにくいのか先に大広間に入っていってしまった。
「ハリー、メリー・クリスマス!」
ハリーが階段を降り切ったところで、レイラは手を振って挨拶した。
「メリー・クリスマス! レイラ」
昨日見た思い詰めた表情だったハリーは、明らかに見違えた満面の笑みで応えた。
「箒が届いたんだって?」
「うん! そこいらの箒じゃないんだ、ファイアボルトだよ! この学校の皆が持ってるどの箒よりも、全部の箒の中で一番早いんだ!」
興奮しきった様子で、ハリーが早口でまくし立てた。側に立っているロンも、うんうんと首を縦に振っている。
「それじゃあ、お昼ご飯を食べ終わったら、グラウンドに行って乗ってみようよ」
「それいいね! 午後の予定は決まりだ!」
目を輝かせながら、早く昼食を食べようとレイラとハリーは大広間へと急いだ。
大平間に入ってみれば、各寮のテーブルは壁に立てかけられ、広間の中央にテーブルが一つ、食器が十二人分用意されていた。ダンブルドア、マクゴナガル、スネイプ、スプラウト、フリットウィックの諸先生が並び、緊張でがちがちの一年生と二年生が一人ずつ座っていた。ハリーは先に来ていたハーマイオニーの隣に座り、ロンがハリーの隣に座った。二年生はスリザリン生のハーパーだったので、レイラがその隣に座り、アルフレッドはレイラの隣に座る。
ダンブルドアが昼食を始める合図として、スネイプ先生にクラッカーを渡した。明らかに嫌そうな顔をしながらも、スネイプ先生はクラッカーの紐を引いた。大砲のようなバーンという音がして、ハゲタカをてっぺんに乗せた三角帽子が現れた。それを見てハリーとロンがくすりと笑っていた。スネイプ先生は口をきつく結び、帽子をダンブルドア校長に押し付けた。校長はすぐに自分の帽子を脱ぎ、押し付けられた帽子をかぶった。
「さあ、どんどん食べよう!」
レイラがサラダを取り分けている時に、隣の席のハーパーがパスタを大口を空けて食べ、口の端にソースをつけていた。昔はハリーも、よく口の端を汚していたっけ。遠い日を懐かしむように思い出して、レイラは小さく口の端を緩めた。
「ハーパー、口の端が汚れているよ。……ほら、ここ」
反対の場所を袖で拭っているのを見かねて、レイラはナプキンで拭いてやる。ハーパーは黙り込んでしまい、顔を逸らしながらまた食べ始めた。子ども扱いがいやだったかな?
「……」
「どうした、アルフレッド?」
「いや、気にするな」
「? 変なの」
昼食が始まって少し経った時、大広間にトレローニー先生が入ってきた。祝いの席にふさわしく、スパンコールの飾りが大量に付いた緑のドレスを着ている、服のせいでますます煌めく特大トンボのようだった。
「シビル、これは珍しい!」
「アルフレッド、少しずれよう」
ダンブルドア校長が立ち上がってトレローニー先生を迎えるのと同時にレイラも席を立ち、トレローニー先生が座る分のスペースを確保するために横に詰めた。
空いたスペースにダンブルドアが杖を振って新たな椅子を空中に出し、アルフレッドとスネイプ先生の間にストンと落ちた。しかし、トレローニー先生は座ろうとはしなかった。巨大な目玉でテーブルを見渡したあと小さく悲鳴を漏らした。
「校長先生、あたくし、とても座れませんわ! あたくしがテーブルに着けば、十三人になってしまいます! クリスマスの日に、こんなに不吉なことは避けねばなりませんわ! お忘れになってはいけません、十三人が食事をともにするとき、最初に席を立つものが最初に死ぬのです!」
「構わずお座りなさい、七面鳥が冷めてしまいますよ」
マクゴナガル先生がいらいらしながら言った。トレローニー先生は迷った末、目を硬く閉じ、静かに席に座った。その後は賑やかに食事が再開された。ごちそうで一足先に満腹になったハリーとロンが寮に戻った。ハーマイオニーは寮監のマクゴナガル先生に相談があると言って残った。
「レイラ、一緒に聞いてほしいの。あなたならきっと、分かってくれると思うの」
「うん?」
スリザリンの談話室に向かおうとしていたレイラとアルフレッドだったが、その後ろからハーマイオニーが呼び止めた。
「すぐ終わるだろうから、先に戻っていて」
「ん」
アルフレッドにそう告げて、レイラはハーマイオニーとマクゴナガル先生の下に向かった。マクゴナガル先生は他の生徒や先生に話が聞こえないようにと、テーブルから離れた場所へと移動した。
「それで、話とはいったい何です。ミス・グレンジャー」
背筋をピンと伸ばして、マクゴナガル先生がハーマイオニーを見つめた。
「あの、先生。実はハリーに箒が届けられまして、あの、ファイアボルトという箒なんです」
「今なんと? ファイアボルト? それは、なんという幸運なんでしょう! ポッターの箒が折れた今、新しい箒を探していたところに、最高峰の箒が送られるなんて! それで、いったい誰が箒をくださったのですか?」
マクゴナガル先生は笑みを浮かべて、目をきらきらとさせてそう聞いた。その問いに、ハーマイオニーが言い淀んだ。
「そのことでお話があって……差出人の名前も、メッセージカードもなかったんです」
「ミス・ポッターが、送ったのではないですか?」
「え、ええ。わたしではありませんが…………ぁ」
その時、レイラは自分の失態に気が付いた。
「となると、これは由々しき事態です。箒はどこに?」
「寮に、ハリーが持っています」
「では急いで回収しなければ」
マクゴナガル先生は、ハーマイオニーを連れてグリフィンドールとへと向かう。レイラは茫然としながらも、急いで二人の後を追いかけた。
談話室に帰ってきたハリーは。寝室からファイアボルトと、誕生日にハーマイオニーがくれた箒磨きセットを持って談話室に戻ってきた。どこか手入れするところが無いかと探したが、曲がった小枝が無いかと探したが、曲がった枝はなく、柄はぴかぴかに磨かれており、何処も手入れするところが無いほど完璧だった。
ロンと一緒に、ハリーはただそこに座り込み、あらゆる角度から箒に見とれていた。すると肖像画の穴が開いた。
「先生、お分かりになるでしょう。あの子は今酷く落ち込んでいるんです。箒が届いて、ましになりはしましたが、取り上げるなんて、傷にしかなりません!」
「安全を考えた上でそうするのです。あなたこそ分かるはずです、今重要なのはあの子の身の安全なのです」
「ま、まさかばらばらにしたりなんてしませんよね? 少し見て、すぐハリーに返しますよね?」
「それは難しいでしょう」
なんと現れたのはマクゴナガル先生とレイラだった。二人はなにやら言い争いをしながら談話室の中に入ってきた。
マクゴナガル先生はグリフィンドールの寮監だったが、ハリーが談話室で先生を見るのは、去年の一回きりだった。二人の背後にはハーマイオニーがいたが、彼女はハリーとロンを避けるように歩いていき、椅子に座り込み、手近な本を拾い上げて顔を隠した。
「これが、そうなのですね?」
マクゴナガル先生はファイアボルトを見上げ、暖炉の方に近づきながら、目をきらきらさせた。
「ミス・グレンジャーがたったいま、知らせてくれました。ミスター・ポッター、あなたに箒が送られてきたそうですね」
レイラが鋭くハリーとロンの背後を見た。つられるようにして二人が振り返ってみると、ハーマイオニーの額だけが本からはみ出しており、みるみるうちに赤く染まり、本は逆さまだった。
マクゴナガル先生は何も言わずにハリーから箒を取り上げ、箒の柄から尾の先まで丁寧に調べた。
「先生、もうよろしいでしょう? 呪なんて掛かっていませんよ」
「それで、本当に何も、伝言のようなものはなかったのですね?」
マクゴナガル先生はレイラの話に耳を傾けようともせず、ただじっとハリーを見つめた。ハリーは突然の事に、ぽかんとしていた。
「は、はい」
「そうですか……さて。ミスター・ポッター、これを預からせてもらいます」
「な――なんですって!」
「そんな!」
ハリーとレイラが同時に声を上げた。
「どうして?」
「呪が掛けられているか確認する必要があります。もちろん、私は詳しくありませんが、マダム・フーチやフリットウィック先生がこれを分解して――」
「あんまりだ! やっとハリーに届いたばかりの物を、分解だなんて!」
レイラは箒について詳しいわけではないが、それが恐ろしいものだとわかった。ハリーもロンも、信じられないといった様子でマクゴナガル先生を見ていた。
「この箒はどこもへんじゃありません!」
ハリーが声を荒げた。
「ミスター・ポッターそれは分かりませんよ。飛んでみないとそれは分かりません、あなたの命の為にも、この箒におかしなところが無いか、呪が掛けられていないかをしっかりと調べます。問題が無ければ、すぐにお返しします」
「飛べれば良いのなら、わたしが乗ります」
箒を持って出て行こうとするマクゴナガル先生に、レイラがそう言ってのけた。
これにはその場にいた全員が、正気かという顔をした。振り返ったマクゴナガル先生が、顔を真っ赤にしてまくしたてた。
「馬鹿なことをいうものではありません! あなたの気持ちはよく判りますが、それとこれとは別なのです。あなたが弟を守りたいと思うように、私はあなた方生徒全員の安全を守る義務があるのです。もう少し冷静になることです」
マクゴナガル先生はくるりと踵を返し、ファイアボルトをもって今度こそ談話室から出ていった。
「――ッ!!」
レイラは咄嗟に、杖を抜き放っていた。しかし脱力したようにだらんと腕を下げ、力なくその場に佇んだ。レイラの背後ではハリーが箒磨き粉を両手で持って、マクゴナガル先生が出て行った肖像画の穴を見つめている。ロンはハーマイオニーに食って掛かった。
「いったいなんの恨みで、マクゴナガルに言いつけたんだ!」
ハーマイオニーは本を投げ捨て、まだ顔が赤くなったまま立ち上がり、ロンに向かって敢然と言った。
「私に考えがあったからよ。その箒は多分、シリウス・ブラックからハリーに送られたものだわ!」
レイラはそれ以上グリフィンドールの談話室にいられなかった。ハーマイオニーの声を聞いていたくはなかったし、悲しむハリーの顔を見ることもできなかった。そしてなにより、この結果を考えつけなかった自分自身がこの上なく憎かった。
全くそんなつもりなかったのに、ハーマイオニーへの好感度が下がった。不思議ですね。(怨敵になったりとか、そんなことはしませんので、ご安心を)
もしかしたらアズカバンの囚人が終了したら、本編に関わる幾つかの閑話を挟もうかと考えています。