ハリー・ポッターと不死鳥の姉   作:駆華野 志想之介

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ポッターモアの書き下ろし読んでたらハッスルが止まりませんでした。


グリフィンドール対レイブンクロー

 グリフィンドール対レイブンクローのクィディッチの試合が行われる朝、大広間は特に興奮の度合いが高かった。なにせ、ほんの数日前にハリーにファイアボルトが返却されたのだ。そこからはグリフィンドール生を中心に、「ハリー・ポッターがファイアボルトを手に入れた」という話が学校中に広まった。そしてグリフィンドールの試合が行われる今日の朝、選手たちはすでに試合着に着替えて大広間で朝食を取りに来ていた。大広間にグリフィンドールの選手が入ってきたとき、ハリーの周りは、ボディーガードよろしく他の選手たちが取り囲んでいた。ファイアボルトには護衛をつけるのが無難だと判断されたらしい。生徒たちの目がファイアボルトに注がれ、興奮した囁きがあちこちから聞こえた。

 興奮した様子はスリザリンでも例外ではなく、羨ましがる生徒も多かったが、何よりねたむ生徒が多かった。スリザリンのクィディッチ選手はグリフィンドールの選手を目の敵にしている節がある。そこにハリーが最高の箒を手に入れたと聞けば、心中穏やかではないだろう。特にチームのシーカーを務めるドラコは、本当にハリーの箒がファイアボルトなのかを確認しに行くほどだった。

 グリフィンドールのテーブルから戻ってきたドラコに、すかさずチームメイトたちが駆け寄る。「本物だったか?」という問いに、ドラコは黙って首肯した。スリザリンのキャプテン、マーカス・フリントが何事かを思いついたようで、選手ではないクラッブとゴイルに何事かを伝えていた。ドラコは早々にその場を離れて寮に戻っていったが、フリントと他二名は意地の悪そうな笑みを浮かべていたのを、レイラは見逃さなかった。

 

 クィディッチの試合がもう間もなく始まるというころになって、ほぼすべての生徒が競技場に集まっていた。もちろん、レイラとアルフレッドも観客席に腰を下ろしていた。

 選手がピットに出てくると、観客席から大歓声が沸き起こった。レイラも負けじとハリーにエールを送る。

 レイブンクロー側は、本来シーカーを務める選手が負傷中のために別の選手がシーカーとなっている。今回のレイブンクローチームただ一人の女性選手、チョウ・チャンだ。遠視の魔法を使っていたレイラには、チョウがハリーににっこりと笑いかけ、それを見たハリーの頬が朱色に染まっているのが見て取れた。

「ハリー、かわいいだけの女なんて、箒から叩き落せ」

 周囲の歓声にかき消されながらも、レイラはぼそりと声援のような何かを送った。当然ハリーには届いていなかったが、すぐ隣で聞いていたアルフレッドはぎょっとした様子で、レイラは「冗談だ」と口角を釣り上げて笑って見せた。

 しかし試合が始まった直後から、レイラはチョウの事をかわいいだけの女とは思わなくなっていた。シーカーに選ばれるだけの、確かな技量が彼女には備わっていた。スニッチをいち早く発見し、追いかけようとするハリーの動きを察知するや否や、チョウも即座にハリーの視線の行方からスニッチを探し出し、ハリーの進路をふさぐ形でハリーがスニッチに追いつくのを巧みに妨害した。その隙にスニッチはどこかへと飛び去ってしまった。けれどそこは最速の箒に跨ったハリーの腕の見せ所だった。ハリーはフェイクとして、一度大きく上昇。スニッチを再び見つけたのだとチョウが勘違いして、ハリーの後を猛追する。地面からだいぶ離れたところで、ハリーは急速旋回してきた道を引き返す。なんとか必死に食らいつこうとしていたチョウを見事に引きはがし、幸運にも、急降した先で金色の光を放つスニッチの姿を捉えた。

 ハリーはスピードを上げた。何メートルも後ろの方でチョウも加速した。段々と、逃げるスニッチにハリーが追いついていく。レイラはまさにスニッチに手が届きつつあるハリーから目が離せなくなっていた。

 

「――ッ、レイ!」

 

 突然、緊迫した声音でアルフレッドが自分の名を叫んだことで、レイラの目はアルフレッドに向けられる。そのアルフレッドはピッチのある一点を指差しており、レイラは即座に指された先を見やる。ハリーがスピードを上げるその先に吸魂鬼が三体、ぼろぼろの頭巾を深く被った背の高い黒い姿でハリーを見上げていた。

 レイラは懐から杖を抜きかけたが、済んでのところで止めた。レイラが杖を手にするよりも早く、ハリーがユニフォームに備えていた杖を素早く取り出して、大声で叫んだからだ。

 

「エクスペクト・パトローナム! 守護霊よ来たれ!」

 

 白銀色の、何か大きなものが杖の先から噴き出した。それが吸魂鬼を直撃したのを見向きもせず、ハリーはただまっすぐに金のスニッチを追いかけ、逃げようともがくそれをやっとのことで掴み取った。

 フーチ先生のホイッスルが鳴った。試合終了の合図だ。

 コート上や観客席から、割れんばかりの大歓声が響き渡った。チームメイトに揉みくちゃにされながらも、ハリーは嬉しそうに、掴んだスニッチを空高く掲げていた。その様子を、レイラは嬉しそうに目を細めて見つめていた。ハリーが出した守護霊は、レイラと同じ牡鹿だった。二人の間に繋がりがある証明のようで、レイラにはそれがとても嬉しかった。

 箒になったままはしゃぎながら地上へと降りてくる選手たちを出迎えようと、グリフィンドールの応援団がピッチへと降りていった。レイラもその輪に混ざろうかと観客席を立ったところで、ピッチの端に折り重なるように倒れている吸魂鬼の姿を見つけた。

 

「混ざってこなくていいのか?」

 

 アルフレッドが不思議そうに問いかけてくる。今度はレイラがピッチを指差し、アルフレッドがその先を目で追った。

 

「やることができたからね」

 

 指で示された先には、クラッブ、ゴイル。それにスリザリンチームのキャプテン、マーカス・フリントが折り重なるように転がっていた。頭巾のついた黒く長いローブを脱ごうとして、三人ともじたばたしていた。ピッチに現れたのは本物の吸魂鬼ではなく、吸魂鬼に変装したスリザリン生だった。アルフレッドは呆れた目を三人に向けながら、足早に去っていったレイラの後を追いかけることにした。

 

 

 

 グリフィンドールのチームメイト、応援団に揉みくちゃにされながら、ハリーに対してあちこちから声がかけられる。

 

「いえーい!」

 

 ロンはハリーの手を高々と持ち上げた。

 

「よくやってくれたハリー!」

 

 試合前に十ガリオンを賭けていたパーシーは大喜びだった。

 

「ペネロピーを探さなくちゃ、失敬」

「てーしたもんだ!」

 

 群れをなして騒ぎ回るグリフィンドール生の頭上で、ハグリッドの声がはっきりと聞こえた。

 

「立派な守護霊だったよ」

 

 その声が聞こえた途端、ハリーは勢いよく振り返った。

 ルーピン先生が、混乱したような、嬉しそうな複雑な顔をしていた。

 

「吸魂鬼の影響は全く受けませんでした! 僕平気でした!」

 

 ハリーは興奮した様子でルーピンの手を取った。

 

「それは、実はあいつらは……うん、吸魂鬼じゃなかったんだ。来てごらん」

 

 ルーピン先生はハリーを人だかりから連れ出し、ピッチの端が見えるところまで連れていった。

 

「君は、フリント達を随分怖がらせたようだよ」

 

 ハリーは目を丸くした。スリザリンチームの司令塔であるマーカス・フリントと、クラッブ、ゴイルが折り重なって地面に倒れており、頭巾のついた黒く長いローブを脱ごうともがいている。ハリーとルーピン先生が三人に近づくよりも早く、横合いからレイラが近づいた。その手には杖が握られており、三人を見下ろしていた。レイラは笑ってはいるものの、雰囲気は明らかに穏やかではなく、憤怒の形相を浮かべていた方がよっぽど合っていた。

 逃げ出そうとする三人に向けてレイラが杖を振れば、三人の両足がそれぞれぴったりとくっつき、手は体の横に着けられる。脱ぎかけだったローブが取り払われ、さながら気をつけの姿勢を取らされた三人は何が起こっているのか分からないといった表情だったが、レイラは微塵も気にすることなく三人を気をつけの姿勢のまま逆さにし、横一列で宙に浮かべた。

 さらに、三人の浮かぶ真下に立て黒い看板を出現させると、『私たちは吸魂鬼に変装して、ハリーを箒から落とそうとしました』と書いたところでマクゴナガル先生が顔を真っ赤にして怒りながらやってきた。

 

「捕まえてくださりありがとうございますミス・ポッター。……まったく、あさましい悪戯です! 試合中の選手に妨害行為を働くとは、下劣な卑しい行為です。三人とも五十点ずつ減点します! このことはダンブルドア先生に報告します、必ず! あぁ、噂をすればいらっしゃいました」

 

 グリフィンドールの勝利に完璧な落ちがつけられたとすれば、まさにこの場の光景だ。フレッドとジョージの二人はレイラに惜しみない拍手を送るし、ほかの寮の生徒たちはぶら下げられた三人を笑ったり、試合を穢した愚か者として見下したりしている。さすがにほかのスリザリン生たちもこれには呆れているようだった。

 

「かっこよかったよ、ハリー!」

 

 杖を仕舞いながらレイラがハリーに駆け寄り、勢いよくハグをしてくる。思わず後ろによろけつつも、ハリーは何とか踏みとどまった。

 

「それに、守護霊もちゃんと出ていたね。あとで糖蜜タルトを作って持っていくよ。でも今は、寮のみんなと祝勝会をしておいで」

「来いよ、ハリー!」

 

 ロンが人混みをかき分けてこっちへ向かってきていた。

 

 

「パーティーだ! グリフィンドールの談話室で、すぐにやるってさ!」

「わかった! それじゃ、あとで」

 

 ここしばらくなかったような幸せな気持ちを噛み締めながら、ハリーはロンと駆け出した。ユニフォームを着たままのハリーを先頭に、一行は競技場を出て城への道を戻った。

 

 

 

 夕食の時間も過ぎて生徒は談話室に戻る時間だが、レイラはアルフレッドとともにこっそりと厨房に降りてきていた。レイラはハリーに約束した、糖蜜タルトを作るために夜の時間を使うことにしたのだ。

 

「型枠を取ってくれ」

「ん」

 

 一人で生地を伸ばしているレイラがそう言えば、アルフレッドは脇に置かれていたタルト用の型を取り、レイラのすぐそばのテーブルに置いた。置かれた型にパイ生地を敷き詰めている途中で、レイラは腕で目元を擦った。

 

「かゆいのか?」

 

 何度も目元を擦るレイラにアルフレッドが問いかけ、レイラは腕を離して目を瞬かせる。

 

「……いや、ちょっとぼやけただけだ。もう治った」

「眠いなら早めに休むんだぞ」

 

 再び生地を敷く作業に戻ったレイラの目を、アルフレッドはじっと見つめていたが、なにもなさそうなのでその視線をレイラの手元に戻した。

 

 生地を敷き、シロップやフィリングも型に入れ、間もなくタルトが焼きあがるという頃になって、にわかに城内が騒がしくなった。何事かと気になるレイラをアルフレッドが呼び止める。

 

「俺が見てくるから、お前はタルトが焼けるのを待て」

「うん、よろしく」

 

 ほどなくしてパイが焼き上がり、レイラは保存の魔法をかけて焼き上がりの状態を保ち、いくつかに切り分けてそれぞれ用意していた箱に入れる。作業が終わり、後片付けも終わったころに、アルフレッドが厨房内に駆け込んできた。

 

「グリフィンドールでお祭り騒ぎでも再発したのか?」

 

 優勝はまだだというのに、大事な試合に勝ったことがよほど嬉しいのだろうと、レイラが一人で納得しかけたところで、アルフレッドは否と首を横に振った。

 

「ブラックが、また城内に侵入したそうだ。今度はグリフィンドールの談話室に」

 

 告げられた事実に、レイラは首を傾げるのだった。

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