守護霊の呪文を教わったハリーは、レイブンクロー戦を見事勝利に導きました。その際に三体の吸魂鬼が競技場に現れ、ハリーは守護霊の呪文でこれを撃退。しかし三体の吸魂鬼は、実はスリザリン生のマーカス・フリント、クラッブ、ゴイルの変装でした。三人は怒ったレイラさんからお仕置きを受けたのでした。
その夜、シリウスが何かをしにグリフィンドール寮に忍び込んだそうな。
という感じです。とりあえずここだけ抑えていただければ。
お久しぶりです。活動報告でも申し上げた通り、ようやく連載を再開することができます。大変お待たせいたしました。
クィディッチのレイブンクロー戦が終わった翌日の週末には、ホグズミード行きが予定されていた。ハリーはもちろん行く気満々だったが、許可証をもらっておらず、ましてやシリウス・ブラックがハリーを殺そうと狙っている中に安全ではない城外に出ることは危険極まりないとハーマイオニーが反発した。しかしペットのスキャバーズがクルックシャンクスに殺されたロンとしては、ハリーの肩を持ち、ハーマイオニーをいない者として扱って喧嘩腰だ。ハリー自身も、もう一度あの素晴らしい村に行ってみたいと思っていた。
ハリーは透明マントを用意してハニーデュークスへと続く通路を通った。ロンとはハニーデュークスの店の前で待ち合わせをし、ハリーだけがマントで姿を隠して移動することにした。ハリーはロンに案内される形で様々な場所を見て回った。ゾンコのいたずら専門店や、フクロウがたくさんいる郵便局の中を見学したりもした。
冬の寒い日ではあったが、天気は良く、時折吹く風は心地よかった。そんな日に室内にばかりいたくなかったので二人は、「三本の箒」の前を通って坂道を登り、「叫びの屋敷」を見に行った。屋敷は村はずれの小高いところに建っていて、窓には釘が打ち付けられ、庭は草が生い茂っていて湿っぽく、昼間でも薄気味悪かった。
「ホグワーツのゴーストでも近寄ろうとはしないんだ。フレッドとジョージが調べたらしいけど、入れるところは無かったってさ」
一緒にいたロンが身震いしながら、そう教えてくれた。
屋敷を見るために坂を登ったので熱くなり、ハリーが少しの間透明マントを脱ごうかと考えていたその時、近くで人の声がした。誰かが丘の反対側から屋敷の方に登ってくる。間もなくマルフォイの姿が見えた。クラッブとゴイルが後ろにくっついていて、マルフォイが何か話している。
「……まったく、いくら上級生の指示とはいえクィディッチの試合を妨害するなんて。おまけに寮の得点を百五十点も下げて、いったい何を考えているんだ。え? 見ているこっちの身にもなれ。気が気じゃなかった」
クラッブとゴイルがしょんぼりと肩を落としてマルフォイの後ろを歩いていた。先頭を歩いているマルフォイは興味深そうに「叫びの屋敷」を眺めながら、険しい声音でクラッブとゴイルに悪態をついている。マルフォイの視線が「叫びの屋敷」から、自分の足元を確認するために真下に移されようとしたその時、マルフォイはロンがその場にいることに気が付いた。
突然の事で思わず動けなくなるロンと同じように、マルフォイもまた動けなくなっていた。ハリーはマルフォイ達に気付かれまいと息を潜め、その場でじっとしていた。
先に口を開いたのはマルフォイだった。
「……誰かと思えばウィーズリーだったか。新居でも探しに来たのかい、君の家にはベッドルームが一つなんだって?」
マルフォイは嘲るように口角を上げ、背後にいるクラッブとゴイルを振り返る。クラッブとゴイルは先ほどまで自分たちが責められていたことなど忘れて、意地汚くにやりと笑ってロンを見た。
隠れてなければならないハリーにとって、その光景は非常に耐えがたいものだった。その気持ちは言われているロンの方が当然強く、ハリーはロンのローブの後ろを掴んで、マルフォイに飛びかかろうとするロンを止め、耳元で囁いた。
「僕に任せてくれ」
こんなに完璧なチャンスを逃す手はない。ハリーはそっとマルフォイ、クラッブ、ゴイルの背後に回り込み、しゃがんで、地面に積もっている雪を手に取って丸めた。
「でも、貧乏な君の家じゃあ、あんなに大きな家は買えないだろうね。ペット用の小屋でも買うのかな」
ハリーは雪玉をマルフォイの後頭部目掛けて投げつけた。マルフォイは思わずつんのめり、それを見ていたロンは、垣根に掴まっていないと立てないほどに笑いこけた。クラッブとゴイルは辺りを見回したが、ハリーは透明マントを着ているし、他には誰もいないのできょろきょろと何度も首を振り回していた。
マルフォイの頭に当たった雪玉は中々に硬く握られていたようで、マルフォイは衝撃を堪えるようにゆっくりと起き上がった。
それを見ていたハリーは、もう一発くらい当ててもバチは当たらないだろうと思い、雪玉をすぐに作ると、再びマルフォイに向けて放った。今までの恨みだ!
雪玉は綺麗な放物線を描いて、またしてもマルフォイの頭に命中した。しかも、今度はマルフォイが振り返っていたので、顔面に直撃した。今度こそロンは立てなくなり、大声を上げて笑っている。
ハリーとロンはこの時、マルフォイが慌てふためいてクラッブとゴイルに襲撃者を探すように言って自分は震えているだろうと予想していた。しかし当のマルフォイは、自身の頭に二度も雪玉をぶつけられて尚、冷静だった。二度も雪玉をぶつけられ、その内の一回は飛んでくる方向をしっかりと見ていた。マルフォイは雪を掌いっぱいに掬い上げ、あえて丸めたりせずに、拡げるように自分の正面に向けて投げつけた。さながら雪のカーテンのようになって、投げられた雪はハリーの元へも届いていた。
どうせやぶれかぶれの反撃だ、痛くも痒くもない。ハリーは内心でそうマルフォイのことを嘲笑っていた。
「ああ!」
突然、ロンが叫んだ。何事かと見れば、慌てた様子のロンがこちらを見て指を指している。こっちに何かあるのだろうかと、ハリーは背後を振り返ってみるが、雪と木々しか見えない。
困惑するハリーと、慌てた様子のロンとは打って変わって、マルフォイは険しい顔つきだ。ゆっくりと溜息を吐き出してから、マルフォイはしっかりと透明マントで隠れているハリーを見た。
「やっぱりいると思ったよ、ポッター」
そのとき、ハリーは初めて自分の被っている透明マントにマルフォイの投げた雪が付着してしまっていることに気がついた。
「抜け道を通ってホグズミードに来れて、さぞご満悦だろうね」
マルフォイに忍びの地図の存在を知られていたことに、ハリーは愕然とした。どのようにして地図の存在を知ったのかは知らないが、マルフォイならそれをスネイプに明かし、ハリーから地図を取り上げようとしてくるだろう。ハリーは考えた。マルフォイたちにまだ姿は見られていない。ハニーデュークスの秘密の通路を戻ってマルフォイよりも先に城に戻り、最初からずっとホグワーツにいたように見せればいいのだ。
そう考えたハリーだが、それよりも先にマルフォイが駆け出してしまった。なんとかして止めようとも考えたが、それではハリーが存在していたことを裏付けてしまう。
「ハリー!」
ロンがよろよろと進み出て、ハリーがいるであろう辺りを絶望的な目で見つめた。
「早く城に戻った方がいい! あいつ、絶対にスネイプに告げ口をする気だぞ。急げ——!」
ハリーは一目散にホグズミード村への小道を駆け戻った。目の前には、走るマルフォイの後ろ姿が見える。このままではマルフォイの方が先に城に着いてしまう。ハリーは意を決して、小道を走る足を隣接する森へと向けた。森に通り道などない。しかし城まで直進すれば、マルフォイよりも早く城にたどり着くことができる。
マルフォイは地図の事も、マントの事も知っていた。最悪の場合、二つを没収され、ハリーには厳しい罰が待っているかもしれない。あり得るかもしれない想像が、ハリーの足を早めさせる。
「あ!」
急ぐあまり、ハリーは足元の雪に埋れていた何かに躓き、転んでしまった。転んだ拍子に、生えていた木の枝で頬を切ってしまったようで、刺すような痛みが走った。
森を抜けようとしたのは悪手だったかもしれないと後悔したが、多少の怪我よりも城に戻ることが優先だ。それに怪我なら、城に戻ってからハーマイオニーにでも治して貰えばいい。
ハリーは立ち上がり、服に着いた雪を払い落とした。ハリーは突如、背中を震わせた。汗をかいて体が冷えたのだろうか。先程までよりも、明らかに冷え込んできた。
……まさか。
一歩を踏み出そうとしたハリーの足が止まった。ハリーは頭の中で、最悪の想像を浮かべた。
まさか、こんな所にいるわけがない。そう強く思えば思うほど、背中を刺すような寒さが増していく。ハリーは恐る恐る、背後を振り返った。
振り返った先には、今まさに襤褸のフード付きマントを被った一体の吸魂鬼が空から降りてきたところだった。
ハリー君絶体絶命。果たして吸魂鬼とちゅっちゅしてしまうのか……。