ハリー・ポッターと不死鳥の姉   作:駆華野 志想之介

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注意、視点がレイラさんから離れます。


初めての魔法薬学

『スリザリン!』

 

あの時、組分け帽子は俺の意を汲んでくれた。帽子が俺に提案した寮は二つ。「レイブンクロー」と「スリザリン」だった。

俺の求めるモノが手に入る寮、それだけを欲した。そうして組分け帽子が高々と叫んだのは、スリザリンだった。

 

朝、ホグワーツで初めて目を覚ました。朝になると自分の元に遊びにきた連中はいない。朝食の用意が出来たと、教えにきてくれる者もいない。そんな環境に入ってでも彼、アルフレッド・ルークには欲しいものがあった。

ゆっくりとベッドから起き上がり、トランクから制服を取り出して着替える。支給されたスリザリン生のネクタイを持って、彼は談話室に向かった。

起きた時間が早かったらしく、談話室にいる生徒は一人しかいなかった。

赤々と燃える暖炉前のソファに腰掛け、脚を揃えて読書をしている。すでに制服を着ていた人物を、アルフレッドはそっと近づいて観察した。

綺麗な赤髪は背中まで伸び、その背中をピンと伸ばした自分と歳の変わらない少女だった。

 

––––レイラ・ポッター。

 

そう彼女は彼に名乗った。アルフレッドがレイラのソファに近づくと、布擦れの音を聞いたレイラはゆっくりとアルフレッドの方向を向いた。その所作が、ただ首を動かしただけなのに、アルフレッドには綺麗で儚げに思えた。そんなことはおくびにも出さず、「おはよう」と声をかけたのだった。

 

「おはよう、アルフレッド。随分早いじゃないか、朝食の開始時間まで一時間半はある」

 

顔を本に戻して、レイラは読書を再開する。断りを入れてからアルフレッドは同じソファに腰を下ろした。

 

「目が覚めただけだ。それに、それを言うならお前もだろう」

「元からこの時間には起きるんだ、習慣だよ」

 

そういえば、ポッターの二人はマグルの元で育てられたという話がある。この時間に起きるということは、家事などもやっていたのかもしれない。アルフレッドはそう考えながら、チラリとレイラの読む本に目を向けた。表紙には「基本呪文集」と書かれていた。

 

「朝っぱらから授業の予習か、真面目だな」

「わたしはマグル生まれだからね、少しでもみんなに追いつかなきゃ」

「いや、魔法族だからといって、小さい時から魔法を扱う者は少ないぞ?」

「……え?」

「『未成年魔法使いの妥当な制限に関する法令』というのがあって、十七歳以下は学外での魔法使用は禁止されている」

 

その言葉にレイラはキョトンとした後、表情を元に戻して脚を組んだ。

 

「それでも勉強しない理由にはならないし、わたしは知らないことを知るのが楽しいんだ」

 

暖炉で燃える薪が少なくなってきた。それを見たレイラが、ローブの内ポケットから杖を抜く。ヒョイと杖を動かしながら「ウィンガーディアム レヴィオーサ」と唱えた。

暖炉の隣に積まれた薪の一つがユラリと浮かび上がり、そっと暖炉にくべられた。

その手際を見て、アルフレッドは舌を巻いた。未だ授業も始まっていないというのに、

 

「……お見事」

 

 それを聞いて、レイラはフイと顔を逸らした。アルフレッドは持ってきていた薬草学の教科書を読み始めたために、その時のレイラの表情を見ていなかった。

 レイラは今までの生活の中で、ハリーとマグルの学校の先生以外に褒められたことはなかった。ダドリーに目をつけられる恐れがあったので、誰もレイラに近づこうとしなかったのが理由だ。それ故に友達と呼べる関係の人物から褒められたことのないレイラは、意識せずに口角が上がってしまった。顔を逸らしたのは、そんな自分の顔を見られたくなかった故だ。

 スリザリンの生徒たちが起きだしてきたところで、二人は大広間に向かった。大広間に向かう途中で、二人は不躾な視線に囲まれていた。

 

「ねえ、見て」

「あの赤髪の女の子だよ」

「かわいらしいね」

「隣の男の子じゃなくて?」

 

 遠くから眺めたり、わざと二人を追い抜かしてから振り返ってジロジロ見てきたりと、朝から辟易としていた。アルフレッドは不快感を露にしていたが、レイラはどこ吹く風どころかにこやかに微笑んでいた。その様子にアルフレッドは感嘆を通り越して呆れていた。

 

「……レイ。前から思っていたが、その猫かぶりはなんだ?」

「んー? 癖みたいなものかな、よくわかんない」

 

 幼さは残るが、変に落ち着いた声で彼女はそう言った。育てられたマグルの元では、このようにして暮らしていたのだと、レイラから教えてきた。二人がスリザリンの席に着いても、視線が無くなることはなかった。同じスリザリン生からも見られたくらいだ。程なくしてグリーングラスが大広間に入ってきて、レイラの前の席に座った。

 

「お二人とも、おはようございます」

「おはようダフネ」

「おはよう」

 

 朝食はトーストにジャムを塗った簡単なものと紅茶をチョイスしたアルフレッド。ソーセージなどのがっつりしたものを食べる者は、三人の中にはいなかった。

 三人が食べ終わった頃、郵便が届いた。何百羽というふくろうが、大広間の天井に設けられた小窓からなだれ込んできた。テーブルの上を旋回して、飼い主を見つけると手紙や包みなどを膝の上に落としていった。

 アルフレッドは自身が飼うふくろうのチェルシーがいることを見つけ、ここだと手を上げた。果たしてチェルシーはその手に目掛けて脚で持っていた新聞を放り、飛び去っていった。顔をテーブルに向ければ、レイラの肩に白ふくろうが留まっていることに気づいた。

 

「ハリーのふくろうで、ヘドウィグっていうんだ。あ、撫でるなよ、嫌がるから」

 

 そう言いながらソーセージを小さく切り分けたレイラは、それをヘドウィグの口に運ぶ。ソーセージを二口ほど食べて、ヘドウィグはレイラの肩を離れて飛んでいった。

 アルフレッドは運ばれてきた新聞に目を通していたがめぼしい記事は読み終え、テーブルにパサリと置いた。

 

「アルフレッド、その新聞借りていいか?」

「もう読み終わったから、いいぞ」

 

 礼を述べてとある記事に目を通すレイラ。その紙面の内容は覚えている。七月三十一日に起きた、グリンゴッツ侵入事件だ。発覚したのはついこの間だが、被害に遭った金庫は当日、既に空になっていたというものだ。読み終えたレイラはアルフレッドに「これ、もらっても?」と問い、彼は「かまわない」と答えた。

 レイラはその新聞を、今しがた大広間に入ってきてグリフィンドールの席に座ったハリーの元へと持っていった。彼女がハリーに近づいたことで、周囲の視線は二人に釘付けとなった。少しだけハリーと話をしたレイラはすぐにこちらに戻ってきた。

「よかったのですか」とダフネが訊ねる。

 

「いいんだ、あのままだと視線が多かったから。それに、見世物になるのはいい気分じゃない」

 

 三人は一度談話室に戻って薬草学と魔法史の授業準備をし、一限目の授業の教室を上級生にもらった地図を片手に探した。一年生の初授業から杖を振ることはなく、魔法理論の解説から始まった。

 翌日、金曜日の二時限。グリフィンドールと合同で行われる魔法薬学の授業担当は、スリザリンの寮監であるスネイプ先生だった。スリザリン寮があるのと同じ地下牢の教室で行われた。

 生徒が教室に入って、二人がけの椅子にアルフレッドはレイラと座った。グリフィンドールとスリザリンは不仲で有名らしく、それは一年生からでも起きていた。

 バタンと音を立てて、スネイプは教室に足早に入ってきて、教壇の前でクルリと生徒たちを振り返った。

 

「このクラスでは杖を振り回すような馬鹿げたことはやらん。フツフツと沸く大釜、ユラユラと立ち上る湯気、人の血管の中をはいめぐる液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする方法である。ただし、我輩がこれまでに教えてきたウスノロより諸君がまだましであればの話だが」

 

 静かな演説が行われる中、アルフレッドはあるものを目撃した。斜め前に座るハリーが、スネイプの話を聞かずに羽ペンを動かしていたのだ。先生の話をメモしているとも取れなくはないが、初めて扱う羽ペンに興味が湧いている様子だった。

 それを見たスネイプが、意地悪な顔をした。

 

「もっとも諸君の中には、自分には必要ないと話を聞かないものもいる。己には力があると思っているのかね?」

 

 ハリーを見たレイラが「はぁ」とため息をついた。スネイプがねっとりとした声を出す。

 

「ハリー・ポッター。我らが新しい、スターだね」

 

 ハリーはバツが悪そうに羽ペンを置いて、じっとスネイプを見た。

 

「ポッター。アスフォデルの球根にニガヨモギを加えると何になる?」

 

 わからなかったハリーはロンをチラッと見たが、隣のロンは降参だという顔をしていた。この時、ハーマイオニーは空中に高々と手を挙げていたが、スネイプは無視した。

 

「わかりません」

 

 ハリーの答えに、スネイプは口元でせせら笑った。

 

「チッ、チッ、チ。有名なだけではどうにもならんらしい。……もう一つ聞こう。ベアゾール石を見つけてこいと言われたら、どこを探すかね?」

 

 ……確か、教科書の後ろの方のページに書かれていたような。範囲からして一年生の範囲外ではあるだろう。ハーマイオニーが椅子に座ったまま限界まで上げられる高さまで手を伸ばしている。マルフォイ、クラッブ、ゴイルが身をよじって笑っているが、おそらく彼らもわかってはいないだろう。

 レイラはハリーとスネイプを交互に見て、首を傾げている。

 

「わかりません」

「クラスに来る前に教科書を開いて見ようとは思わなかったわけだな、ミスター・ポッター、え?」

 

 スネイプはハーマイオニーの手がプルプル震えているのをまだ無視していた。

 

「ミスター・ポッター、モンクスフードとウルフスベーンとの違いはなんだね?」

 

 この質問でハーマイオニーはとうとう椅子から立ち上がり、地下牢の天井に届かんばかりに手を伸ばした。

 

「わかりません。……ハーマイオニーが分かっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうです?」

 

 その瞬間、スリザリン生はニヤリと笑った。レイラは目頭を押さえている。アルフレッドからしたらレイラについてはまだよく分かってはいないが、ハリーはどうやら我慢強くない性格のようだ。ここまでの流れで、口答えすれば事態がまずくなることは分かるだろうに。

 スネイプはチラリとハーマイオニーを見た。

 

「座りなさい」

 

 ぴしゃりとハーマイオニーに告げ、彼女は仕方なくといった様子で席に座った。

 スネイプは腕を組み、教室全体の生徒を見回した。

 

「……ああ。では、ミス・ポッター。わかるかね?」

 

 どこか確信めいた顔で訊ねたスネイプに対し、レイラは静かに「はい」と応じた。

 カタ。と音を立てて椅子から立ち上がる。ゆっくりと、それでいて緊張はかけらも見えない佇まいに、その場の誰もが言葉を発することはなかった。

 

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものといえば、『生ける屍の水薬』という眠り薬です。水のように透明で、成分が強すぎると一生眠ると言われています。ベアゾール石は山羊の胃から採れる萎びた茶色の石で、大抵の毒薬に対する解毒薬となります。モンクスフードとウルフスベーンについてですが、違いはありません。どちらとも植物であり、別名をアコナイトと言われる、毒草のトリカブトのことです。…………これで、よろしいですか?」

「ああ……素晴らしい。スリザリンに五点を上げよう。ところで諸君、なぜ今の言葉をノートに書かないのかね?」

 

 一斉に羽ペンと羊皮紙を取り出す音がして、その音に被せるようにスネイプが言った。

 

「ミスター・ポッターの無礼な態度で、グリフィンドールは一点減点」

 

 ハリーは何故だ、という表情をするが、先生の話を聞かないことから始まった事態である事を忘れたのだろうか。

 その後、二人一組でおできを治す簡単な薬を調合させた。スネイプは長い黒マントを翻しながら、生徒たちが干しイラクサを計り、蛇の牙を砕くのを見て回った。マルフォイとパンジー・パーキンソンのテーブル、アルフレッドとレイラのテーブルを除いて、ほとんど全員が注意を受けた。ツノナメクジの茹で具合をレイラが褒められ、スネイプはそれをみんなに見るように言った。

 その時、「ッ!? ネビルっ、待て!」とレイラが声を張り上げた。みんなが何事かとネビルを見れば、彼の使っていた大鍋からシューシューと大きな音をさせて強烈な緑色の煙を上がらせていた。次の瞬間には大鍋に亀裂が走り、中に入っていた薬が跳ね上がった。

 アルフレッドとレイラは素早く動いた。レイラは薬が落ちる先にいたネビルを掴んで引き寄せる。

 

「リ……」

「レイラ!」

 

 何者かの声をかき消すようにして声を上げたアルフレッドが、身を盾にするように覆いかぶさる。ジュッ、という音がして、衣服を溶かした薬が背中を焼く感覚を、アルフレッドは静かに感じていた。痛みはあるが、それよりも目の前の少女に怪我をさせていないかの方が、彼にとっては大事だった。

 スネイプが険しい顔をしてアルフレッドたちに近づき、溢れた薬を杖を一振りして取り除く。

 

「……ミス・ポッター。怪我は、ないかね?」

「え、ええ。でも、アルフレッドが」

「分かっている。医務室に連れて行け」

 

 二人が医務室へ向かって地下牢を出て行った後、スネイプは鬼のような形相をして、側で作業をしていたハリーとロンを注意した。この時に五点減点され、合計で六点の減点となった。

 

 

 コツ、コツ。

 二人分の靴の音を響かせて、寄り添うように歩く姿があった。赤髪の少女と、銀髪の少年だ。少女は着ていたローブを脱いで、少年の肩から掛けさせている。

 

「……アルフレッド、痛みは?」

 

 覗き込むようにしてアルフレッドを見るレイラは、心配そうに少年を見る。

 アルフレッドは背中に大きな火傷を負った状態でありながら、平然と歩いている……ように見えるだけで、実際はかなり痛みがあった。強がることはなく、彼は真面目に答えた。

 

「痛い、火傷の他におできも出来てるみたいだ」

「だろうな、鉄仮面が歪んでいる」

 

 医務室に着いた二人は、マダム・ポンフリーという校医に事情を説明した。素早く準備をしたマダム・ポンフリーは真っ白なベッドにアルフレッドをうつ伏せ寝かせ、その背中に塗り薬を塗っていった。塗られた瞬間に、痛みからアルフレッドの全身がビクンと反応し、痛みに耐える声が漏れ出た。

 患者に容赦なく治療を施す校医の様子を見て、レイラは自分で怪我をしても治せるようになろうと静かに決意したのだった。




医務室に向かう途中、冷や汗を流しながらも痛みを我慢するアルフレッドさん。絶対塗り薬を火傷に塗るとか激痛……。
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