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ハリーとロンはマルフォイとの決闘へ向かうために寮を出ようとし、それを止めようとしたハーマイオニーを巻き込んで寮から出た。そのときすでに寮へ入れてくれる太ったレディはいなくなっており、ハーマイオニーはぶつくさ言いながら二人についていくことにした。
高窓からの光が廊下に縞模様を作っていた。その中を三人はすばやく移動した。曲がり角が来るたびに、ハリーはフィルチかミセス・ノリスに出くわすような気がしたが、出会わずにすんだのは幸運だった。大急ぎで四階への階段を上がり、抜き足差し足でトロフィー室に向かった。
マルフォイもクラッブもまだ来ていなかった。トロフィー棚のガラスがところどころ月の光を受けてキラキラと輝いていた。
三人は部屋の両端にあるドアから目を離さないようにしながら、壁を伝って歩いた。マルフォイが飛び込んできて不意打ちを食らわせるかもしれないと思ったハリーは、決闘で使う呪文を知らなかったが杖を構えた。魔力を込めて杖を振るうだけでも多少の攻撃にはなるらしい。と、ロンがそう言っていたからだ。数分の時間なのに長く感じられる。
「遅いな、たぶん怖気づいたんだよ」
ロンが囁いたその時、ドアの片方が音もなくゆっくりと開いた。ハリーは杖を振り上げようとしたが、入ってきた人物はマルフォイではなかった。プラチナブロンドの髪ではなく銀髪の持ち主だった。月の光の差すドアから現れたのは、アルフレッド・ルークだった。
「何しに来たんだ、お前」
スリザリン生に嫌悪感を抱くロンが、アルフレッドに食って掛かる。アルフレッドが部屋に入ってきて、それに続く形で女子生徒が一人入ってきた。ハリーにはそれが誰であるか、一目でわかった。綺麗な赤毛がフワリと揺れる。自分と血がつながっているが異なる頭髪の色、同じ緑色の目、双子である自分からしてみても整った顔立ちの少女。レイラ・ポッターだった。
アルフレッドは三人を一瞥すると、大きな音を立てないように小声で話した。
「マルフォイの嘘だ。お前たちは騙されたのさ」
ハリー達はその言葉に愕然とした。ハーマイオニーはいち早くその衝撃から立ち直ると、胸を張ってまくしたてた。
「だから、そう言ったじゃない。マルフォイに嵌められたのよ、ハリー。あなたもわかっていたんじゃない? 初めから来る気なんてなかったのよ」
ハリーもたぶんそうではないかと思ったが、ハーマイオニーの前ではそうだと言いたくなかった。チラリとレイラを見る。彼女は少しだけ開けたドアから、外の様子を窺っている様子だった。
「本当に、マルフォイは来ないのか?」
「ああ、さっき談話室で奴自身がそう言っていたのを聞いた。というよりは話してきたが、な」
未だに信じきれない様子のロンだったが、次の瞬間には顔を青ざめさせることになった。外を見張っていたレイラが、弾かれたようにハリー達を見る。
「フィルチが来る」
その言葉にハリー達は身を硬くしたが、アルフレッドは迅速に動いた。急いで反対のドアに近づくと、そっと開けて外の様子を確認する。
「行くぞ。こっちだ」
アルフレッドとレイラを先頭にして、五人はいくつもの廊下を駆け抜けた。どこをどう走っているのかハリーには分っていなかったが、先頭を走る二人に迷うそぶりはない。壁に掛けられていたタペストリーの裂け目にあった隠し通路に二人が飛び込んだ時には驚かされた。狭い通路を抜けて「妖精の呪文」の教室近くに来て、五人は息をはずませながら冷たい石の壁に背中を預ける。
「トロフィー室からは、だいぶ離れただろうな」
アルフレッドは息を乱さずに告げ、それとは反対に、五人の中で最も息を荒げ、座り込んだレイラが同意する。
「そっ……げほっ、えほっ。ふっ、ふぅ…………ごほっごほっ。そ、そう――あね」
あまりに咳き込みすぎて、最後の言葉はうまく発音できていなかった。見かねたアルフレッドがその背をポンポンと叩く。思えばレイラは運動はできるが、持久力が無かった。
「行こう、みんな。寮に戻らなくちゃ」
立ち上がったレイラがみんなを見回す。歩き出した一行だったが、ドアの取っ手がガチャガチャと鳴り、五人は足を止めた。「妖精の呪文」の教室から何かが飛び出してきた。
ピーブズだ。五人を見ると、ニンマリと笑みを浮かべた。ハリーはとても嫌な予感がしていた。アルフレッドが何かを言おうとして前に出るが、それよりも早くにピーブズが大きく口を開けた。
「生徒がベッドから抜け出した! ――「妖精の呪文」教室の廊下にいるぞ!」
ピーブズは大声で叫んだ。アルフレッドが舌打ちするのが聞こえた。ロンがまず最初に駆け出し、それをハリーとハーマイオニーが追った。あとの二人は慌てたようにハリー達を追いかける。廊下の突き当りでドアにぶち当たった――鍵がかかっている。
「もうダメだ!」とロンがうめいた。
「ちょっとどいて」
ハーマイオニーは押し殺したよな声でそう言うと、杖を取り出し、鍵を杖で軽く叩き、呟いた。
「アロホモラ!」
するとカチリと音がして鍵が開き、三人はなだれ込んだ。それを追いかけてきたレイラとアルフレッドが慌てて中に入ると、二人は小声で叫んだ。
「みんな、早く出なさい!」
「急げっ」
珍しく慌てている様子のレイラに、ハリーは「どうしたの?」と言おうとした。しかし、ロンの叫び声がしたので、そちらを振り向いた。
そこには犬がいた。普通の犬ならかわいいものだっただろう。だがその犬は巨大な体躯で廊下の床から天井までの規格外のサイズがあり、頭が三つもあった。
怪物はじっとたったまま、五人を見下ろしていた。レイラたちが慌てていたのはこれの事だったのだろう。そうしてハリーは、自分たちが今いる場所が、四階の『禁じられた廊下』であることに気づいた。五人はドアの外に飛び出し、アルフレッドがその扉をバタンと閉めた。とにかくあの怪物から離れようと、五人は急いで走った。だいぶ離れたところで、五人は再び壁に背を預けた。
レイラは話す前に息を整えると、先に駆け出して『禁じられた廊下』に入った三人を叱った。
「三人とも、もう少し落ち着いて行動して。今回は運が良かったけど、一歩間違えればあの犬に食べられていたのかもしれないんだよ。ホグワーツには危ないところがいくつもあるから、そこをしっかり知っておくこと」
「いい?」と念を押され、三人は渋々といったように首を縦に振った。レイラたちと別れたハリー一行は八階の太ったレディの肖像画までたどり着いた。戻ってきていたレディに合言葉を告げ、三人はやっとの思いで談話室に入り、ワナワナ震えながら肘掛椅子にへたり込んだ。
「あんな怪物を学校の中に閉じ込めておくなんて、連中はいったい何を考えているんだ」
息を整えたロンが真っ先に口を開いた。遅れて、ハーマイオニーは息も不機嫌さも同時に戻ってきた。
「あなたたち、何処に目をつけているの?」
ハーマイオニーは突っかかるように言った。
「あの犬が何の上に立ってたか、見なかったの?」
「床の上じゃない?」
ハリーが一応の意見を述べる。ハーマイオニーは立ち上がってハリーとロンを睨みつけた。
「違うわ、床じゃない。仕掛け扉の上に立っていたのよ。何かを守っているに違いないわ。……あなたたち、さぞご満足でしょうね。もしかしたらみんな殺されていたかもしれないのよ。では、みなさん、おさしつかえなければ、休ませていただくわ」
ロンはポカンと口を開けてハーマイオニーを見送った。
「おさしつかえなんかあるわけないよな。あれじゃ、まるで僕たちがあいつを引っ張り込んだみたいに聞こえるじゃないか、ねえ?」
ハーマイオニーの言った言葉が、ハリーにはロンとは違った意味で引っかかっていた。ベッドに入ってからもそのことばかりを考えていた。犬が何かを守っている。ハグリッドが言っていた、「グリンゴッツは世界一安全な場所だ――たぶんホグワーツ以外では……」と。
七一三番金庫からハグリッドが持ってきたあの汚い小さな包みが、今どこにあるのか、ハリーにはそれがわかったようなきがした。
◇
翌日の朝、レイラはダフネに揺すられて起床した。寝ぼけながらベッドから起き上がると、もうすでに一年生の室内には自分とダフネしかいなかった。パンジーとミリセントはすでに起きて朝食を食べに大広間へと向かったそうだ。
「昨夜はどうされたんです?」
ダフネはお見通しだと言わんばかりに微笑みかけてきた。このお嬢様のような同級生は、案外油断ならないなと、レイラは思った。
「少しだけ夜更かしをね。おかげでちょっと寝坊したみたい」
大広間に入ってスリザリン生のテーブルに着けば、すでにアルフレッドが朝食をとっていた。レイラとダフネはその前に腰を下ろした。なにやらグリフィンドールの席周りが騒がしいことに、レイラは気づいた。
「何かあったのかしら?」
「みたいだね」
レイラはテーブルの上のトーストとヨーグルトを取りながら、チラリとアルフレッドを見た。何か知っているか? という意味を込めて。アルフレッドはそれに気づいたようで、カップに入った水で口を湿らせる。
「ふくろう便がポッターにある届け物をしてな、それを見たやつらが騒ぎ出したんだ」
「届け物、ですか?」
「ああ、箒だよ。しかもニンバス2000だ。マクゴナガル先生が送ったらしい」
「ですが、一年生の箒所持は許されていませんよ?」
ダフネの言うとおりだ。ホグワーツからの手紙の中にもその一文は書かれていた。頷いたアルフレッドは、傍らに置いてあった手紙を差し出した。
「さっきヘドウィグがお前宛の手紙を俺に落としていった、差出人はマクゴナガル先生だ」
不思議に思いながら、レイラはその手紙を受け取って開ける。そこには今回のことについてが書かれていた。
ハリー・ポッターの処遇を、家族であるあなたに伝えるべきだと思い、お知らせします。
ダンブルドア校長に掛け合ったところ、特例でミスター・ポッターに箒の所持を許可し、クディッチの選手、シーカーとすることが決まりました。
ついては今夜七時、ミスター・ポッターがクディッチの最初の練習をすることになっています。
他寮の生徒にはまだ内密にするところですが、家族であるあなたには知る権利があります。是非、見に来てください。信用できる友人なら、誘っても構いません。
読み終わった手紙をアルフレッドに見せ、次いでダフネに見せる。
「二人とも、どうかな?」
「わたしは遠慮しておきます。ミスター・ポッターとはあまり関わりがありませんし、部外者が他寮の練習風景をあまり見ないほうが良いでしょう」
「ああ、それもそうか」
ダフネはトーストを取ると、口に運んだ。
「じゃあ俺も、やめておくか」
「ん、しょうがないね。一人で見てくるよ」
アルフレッドの言葉に、レイラは少し肩を落とした。彼女としては、どうせ見に行くなら一人ではないほうが楽しめるかと考えたが、ダフネの言うことはもっともだった。
そのダフネと言えば、不敵な微笑みをアルフレッドに向けていた。それに気づいたアルフレッドが声を掛ける。
「なんだ?」
「いえ、大したことではないのです。わたしたちが行かなければ、レイラは夜に一人で競技場まで行かなければならないのかと、思ったまでです」
「うん? 大丈夫だよ、ひとりで行けるから」
競技場までの道は覚えているし、見回りの先生に見られても、マクゴナガル先生からの手紙を見せれば納得してもらえるだろう。
そのことを話せば、アルフレッドは頷き、ダフネは呆れたようにこちらを見てきた。どうしたというのだろう。
ダフネがアルフレッドに顔をズイと近づけた。
――ん?
「いいですか、女子生徒が夜に一人で外を出歩くのは危険なのですよ。それに……」
そこから先はダフネが声のトーンを下げたために聞き取ることはできなかった。まあいいかと思考を打ち切る。
「レイ……俺も行く」
「ん、わかった。七時前に談話室に来て」
どこかやる気を出したような声音のアルフレッドが参加の意を示した。楽しみだな。
その日に行われた魔法薬学の授業では、スネイプ先生がかなり不機嫌な様子だった。どうやらハリーの特別措置については先生たちに通達が言っていたようで、すれ違う先生からハリーが声をかけられていたのを見た。
今夜には箒に乗って飛べることを想像して上の空になっていたハリーを、スネイプ先生は苦々しそうな顔をして睨んでいた。
––––嫌いなのかな?
最初の授業の時、ハリーに難しい質問をしていた。ハリーが答えられなかったので、質問の矛先はレイラに向いたが、彼女はそこにスネイプからの信頼と確信があったと予想していた。
––––できるのだろう? みたいな顔してたし。
スネイプはハリー個人が嫌いなのだろうか。しかし、レイラの中ではどうにも違うように思えていた。この疑問を先生にぶつけようとは思うが、それは今ではない。スネイプ先生にはお願いがあるのだ。
魔法薬学の授業が終わった後、レイラは一人地下牢の教室に残っていた。杖を一振りして授業道具を片付けたスネイプは、レイラに問いかけた。
「どうしたのかね、ミス・ポッター。もう授業は終わっているが?」
不思議そうにレイラを見るスネイプは、杖をしまって教卓に体を寄りかからせた。
レイラは開かれていた『魔法薬学調合法』の教科書をパタンと閉じて、ゆっくりと立ち上がる。
「……実は、先生に教えて欲しいことがありまして」
「ほう……? 言ってみなさい」
「傷などに塗る、塗り薬などの作り方を教えて欲しいのです。自分で怪我を治したりできるように」
先週のアルフレッドが医務室に運ばれた際の出来事は、レイラを引かせるには十分だった。つまるところ、彼女は痛いものは嫌いだった。ハリーがいた手前、彼女は怪我をしても泣いたりすることはなかった。しかし内心、転げ回りたい時もあった。
スネイプは興味深そうにレイラを見、鷹揚に頷いた。
「よかろう。では、土曜日の午後二時に、この教室に来たまえ」
「はいっ。ありがとうございます、先生!」
レイラは会釈をして、地下牢の教室のドアへと歩いて行く。コツ、と踏み出すたびに、わずかに揺れる赤い髪。
スネイプはその背を、眩しいものを見るかのように目を細めて見ていた。
レイラさんの新情報。体力ないけど運動神経はある。
そういやダフネさん、お嬢様みたいな感じにしてます。感覚的にはプリプリのプリンセスみたいな。