ハリー・ポッターと不死鳥の姉   作:駆華野 志想之介

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書きたいことを書いてたら一万字超えた笑


ハロウィーン

 ハリーが初めて箒に乗ってクィディッチの練習をする日の夜。レイラは競技場の席にアルフレッドとともに座っていた。眼下ではハリーと、グリフィンドールチームのキャプテンであるウッドが話していた。

 

「なあ、アルフレッド。クィディッチってどんな競技なんだ?」

 

 コートの上ではウッドが持って来ていた大きな木製の箱を開けていた。その中には、大きさの違う四つのボールが入っていた。

 

「……プレイ人数は片チーム七人ずつ。あの箱の中の赤いボール、クアッフルを投げ合って相手ゴールに入れるチェイサーが三人。相手ゴールの輪に入れれば十点だ」

「赤いクアッフルと、三人のチェイサーね」

 

 要点を押さえてレイラは繰り返した。

 

「各チームのゴールにはキーパーが一人いて、輪の周りで敵が点を入れないように守る。そして今……ウッドとかいうやつが取り出すのが––––」

 

 いうよりも早く、ハリーにバットのような短い棍棒を渡したウッドが、真っ黒なボールを一つ解き放った。とたんに黒いボールは空中高く飛び上がり、ハリー目掛けて飛び込んでいった。ハリーはそれを危なげなく棍棒で打ち、舞い上がったボールはウッドへと飛びかかる。ウッドはボールを勢いよく抱え込み、地面に押さえつけた。

 

「あれがブラッジャー。プレイヤーを箒から叩き落とそうとしてくる。その脅威から仲間を守るのが、二人のビーターだ。さっきの棍棒でもって、ブラッジャーを相手へと打ったりするんだ」

「へえ、なかなか過激なゲームだな。ハリーがブラッジャーに当たらなきゃいいけど……」

「……昔は球の素材に岩を使っていたらしいが、バットで打たれた挙句に砂つぶとなっても選手を追いかけ回したことがあったらしい」

「…………」

 

 この日の後、レイラはクィディッチ今昔という本を読んで、ブラッジャーが鉄製であることを知って驚愕した。選手を殺す気があるんじゃないか、と。

 

 それからウッドは四つ目のボールを取り出した。胡桃ほどに小さかったので観客席のレイラにはよく見えなかったが、金色に輝いていることはわかった。

 

「あれは『金のスニッチ』だ。とても早く、見えにくい。チームの残り一人、シーカーの役目はアレを追うことだ。スニッチを取れば試合が終わり、同時に取ったチームに一五〇点が入る。他の奴らは点を取りながら、シーカーの邪魔もするんだ。……重要なルールはこんなところだ」

「うん、うん。大丈夫だ」

 

 ハリーとウッドは箒に乗って空中に上がる。そこでハリーがレイラに向けて手を振ってきたので、レイラはにこやかに返した。

 ハリーはウッドが持ってきたゴルフボールでシーカーの練習を始めた。ありとあらゆる方向に投げられるボールを、ハリーは三十分間一つも逃さなかった。レイラはその様を見て、誇らしげに笑っていた。

 

 

 レイラは翌日、地下牢の魔法薬学の教室にいた。スネイプに許可を得た、塗り薬の製作を行うためだ。

 指示に従って乾燥したハーブを刻み、オイルに漬ける。大鍋で薬効のある成分を抽出し、蜜蝋を入れる。

––––ああ、楽しいな、これ。

 レイラが大鍋を掻き混ぜているところに、スネイプが声を掛けた。

 

「魔法薬学に興味があるようだな、ミス・ポッター。そのような顔つきをしている」

「……ぇ」

 

 バッ。とレイラは口元をローブの袖で隠す。知らないうちに口角が上がったようで、見事に見られたようだ。やがて観念したように、おずおずと手を下ろした。

 

「生徒に関心を持ってもらうことは良い事だ。君が望むのなら、魔法薬学のさらなる知識を授けることもできるが。いかがかな」

 

 その言葉に、レイラはピクリと反応する。今日、魔法薬の製作をする中で、レイラは確かに魔法薬学が面白いと感じていた。加えて彼女は勉学について、知ることが楽しいと思える性格をしている。その中で特に興味を持っていたのが、魔法薬学だったのだ。

 二つ返事で返したところ、スネイプは「よろしい」と言っただけだったが、心なしか下に曲がっている口元が、わずかに上がった気がした。

 ちょうどその時、鍋の中の液体が綺麗な緑色をしてきた。スネイプは遮光容器を数個取り出すと、中の液体をその中に移すよう言った。言われた通りに、柄杓で掬って容器に移す。ハーブと蜜蝋による甘い香りが漂った。

 スネイプはそれをひと嗅ぎして、鷹揚に頷いた。

 

「ふむ、良い出来だな。やはり君には才能があるようだ。また何かあれば、遠慮なく言いたまえ」

「先生のおかげですよ、ありがとうございます」

 

 スネイプの教え方は、レイラにとってわかりやすいものであったし、的確であった。

 そうしてレイラは様々な授業を満遍なく学び、知識を蓄えていった。毎日出される宿題を余裕を持って消化し、空いた時間は図書館で勉強をする。そこで時折興味を持った本を借りて読んだりもした。レイラの興味を引く書物が多く、就寝時間が迫った頃にアルフレッドが探しに来るほどだった。

 気がつけば、レイラがホグワーツに来てからもう二ヶ月も経っていた。その頃には、彼女自身は知らないが、周りはレイラのことを勉強のできるやつというふうに認識し始めていた。

 そしてスリザリンの中で、彼女はよく勉強を教えるようになった。初めはグリフィンドール生であるハリーを気にかけていることから遠巻きに見られていたが、周りは次第にレイラの優しい人柄に惹かれ、家族だから気にかけているだけだと割り切る者が増えていった。

 クラッブやゴイルはレイラに宿題の解き方を教えてもらう常連になりつつあった。一番初めの日に答えを教えてくれと言ったがために、レイラに怒られてから彼らは答えを自分で考えさせられている。パンジーも偶に来ては、勉学を共にしている。

 マルフォイはハリー達と関わっている時や、自慢話をする時以外は優等生であるということをレイラは知った。魔法薬学と変身術が得意であるということも。

 アルフレッドとダフネも勉学は優等生だった。二人とも時折レイラが教えているところを見に来たりはするが、彼女が教えたことは一度もない。

 

 

 十月三十一日の木曜日、ハロウィーン。この頃になると、様々な授業の中で魔法の実践を行うようになってきた。しかし、変身術ではマッチを針に変える練習を既にしていた。

 ホグワーツではハロウィーンを祝う行事があるようで、朝からパンプキンパイを焼く匂いが廊下に漂っていた。午後の授業を終えたレイラは、夕食までの時間を校内探索に使うことにした。入学してから二ヶ月のうちに多くの場所を把握したが、今日は厨房がどこにあるのかを探すのだ。

 パンプキンパイの匂いを辿って歩くレイラの隣には、暇を持て余していたアルフレッドが連れられていた。どうせやることはないのだろうと、レイラが連れ出したのだ。一人で探すのは楽しさが少ないと考えた結果でもある。

 二人はまず、地下牢のスリザリン寮を出て、大広間のある一階へと登った。パンプキンパイの匂いが充満していて、どこから来るのかは分からない。そのまま二階、三階と登ったが、だんだんと匂いが薄れていった。

 

「んー、匂いが薄いな」

「そうみたいだな。……レイ、ここは上級生にでも聞いてみるのがいいんじゃないか」

「ああ、それは名案。…………ん、ちょうど前から」

 

 そう言われてアルフレッドが見たのは、同じ顔をした、背丈の高い赤毛の双子の男子生徒だった。

 

「おやおや、誰かと思えばレイラじゃないか」

「じきにハロウィーンパーティだぜ、行かなくていいのか?」

 

 アルフレッドには彼らがロンの双子の兄達であるということは分かっていたが、お互いに名乗りあったことはなかった。そのことに気づいた双子がアルフレッドを見た。

 

「自己紹介をしてなかったよな、俺はフレッド、よろしく」

「自己紹介をしてなかったよな、俺はジョージ、よろしく」

「「……かぶせるなよ」」

 

 タイミングと言葉を全く同じに重ねてきた双子に、アルフレッドは驚かされた。

 

「アルフレッドだ、よろしく」

 

 レイラとアルフレッドはスリザリン生であったが、グリフィンドール生の双子は気にした様子もなく「どうした?」と聞いてきた。

 

「ちょっと暇つぶしにね、厨房がどこにあるか探しているんだよ」

 

 その言葉に双子は顔を見合わせてニヤリと笑った。

 

「それなら僕たち、ちょうど行ってきたところだ」

「ああ、特別に教えてあげるよ。大広間の下にある地下廊下があるだろ、そこに梨の描かれた絵がある」

「その梨をくすぐってやると取っ手が現れるんだ、それが入り口だぜ。中には屋敷しもべ妖精がたっくさんいるんだ、さすがはホグワーツだ」

 

 双子は「じゃあな」と声を揃えてその場を去っていく。レイラとアルフレッドは言われた通り、地下廊下を目指して歩き出した。

 

「案外簡単に知ってる人が見つかったな」

「だな、あの二人には何か返さなくちゃ。ところで、屋敷しもべ妖精って、なんだ?」

 

 その問いに、アルフレッドはほんの少し考えるそぶりを見せてから口を開いた。

 

「小さな人型の魔法生物だ。こいつらは変わっているというか、人に仕えることを本能的な行動としている。特定の魔法使いにのみ従い、家事や雑用をこなす。給料や休暇を与えることを奴らは拒む」

「拒む? 働いているのにかい?」

「ああ、そういったものを受け取るのは奴らにとって恥だ。だからこちらからは、衣服を除いて与えることはない」

「衣服だけは与えることができるのか?」

「与えるといっても、衣服を貰うことは屋敷しもべ妖精にとって解雇を言い渡されるという意味になるんだ。かなり昔からこの習慣はあるようだな」

「……マグル出身のわたしからしてみたら、驚くほどありえない労働環境だ」

 

 労基に喧嘩売ってると言われても納得できそうだ。というか、法律がマグルとは違うのは当たり前か。

 そうしてたどり着いた絵画の前。レイラはそっと絵画の梨に触れ、くすぐった。すると取っ手が現れ、レイラはそれを引いた。

 中には沢山の屋敷しもべ妖精と思しきもの達がいた。茶色い顔、テニスボールのように大きな目、ボロ布を身に纏って全員が料理を行なっている。開けたドアから最も近かった者達がレイラとアルフレッドに気づき、キーキー声で出迎えた。

 

「これは、ようこそいらっしゃいましたお嬢様方。ささ、クッキーなどはいかがでしょう。紅茶もございますよ」

 

 レイラは対応の早さに驚き流され、いつのまにか椅子に座り、出された紅茶をアルフレッドと飲むことになった。レイラは紅茶を一口飲んで––––あ、おいしい。––––屋敷しもべ妖精に尋ねた。厨房を見つけたら聞きたいことがあったのだ。

 

「ねえ、ここの厨房、どこかを借りることってできる?」

「もちろんでございます! 我らは百人おりますが、予備の作業台などがいくつかあるのです」

「使いたいときは、いつでもお申し付けくださいお嬢様」

「ああ、うん。その時になったらお願いするよ」

 

 もてなされることに慣れていないレイラは疲れた様子で、しかし最後にクッキーを袋に入れて渡されたので満足気だった。ダーズリーの家にいた時、レイラは叔母さんの命令でお菓子を作ることがあり、お菓子を作ることと食べることが息抜きになっていたのだ。

 一階の大広間へ向かう途中、レイラは窓の外に小さな金と白の何かがフワリフワリと浮いているのを見つけた。近づいて見ると、それはダイアゴン横丁で自分を薬問屋へと連れて行ってくれた金髪に白いワンピースを着た妖精だった。中に入りたそうな目でこちらをみてくるので、レイラは窓を開けてやる。妖精は開けられた窓から入ろうとしたが、透明なナニカに阻まれたようにして中に入ってこれなかった。どうしたものかと、二人が考えていると、フリットウィック先生が現れた。

 

「おや、ミス・ポッターにミスター・ルーク。どうかしましたか」

「ああ先生。窓の外の妖精を中に入れてあげたいのですけれど、窓を開けても入ってこれないみたいなんです」

 

 レイラがそう説明すると、身長の低いフリットウィック先生は数歩下がって窓を見て妖精を確認した。

 

「いやー、珍しい。妖精はあまり人目につくようなことはしないのだけどね、きっと誰かに惹かれでもしたのだろう。それこそミス・ポッター、君かもしれないね」

 

 先生はコホンと小さく咳をした。

 

「妖精とはいたずら好きとして知られていることから、ホグワーツには妖精などが入らないように魔法がかけられています。理由はもう一つ、妖精の希少性ゆえです。彼らの羽根はその美しさと、魔法薬の素材としての価値が非常に高く、なおかつ手に入りにくいという点があります。生徒が無闇に妖精を捕まえないためでもありますから、こうして魔法がかけられているのです」

 

 レイラはなるほどと頷き、アルフレッドは黙ってそれを聞いていた。先生の話を聞いたところで、彼ら二人には妖精を捕まえようという気は起きていなかった。それを二人の目から読み取ったフリットウィック先生は誇らしげに見ていた。

 

「うんうん。君たちなら大丈夫そうですね。妖精を中に入れたら、他の誰かに捕まえられないように注意してあげてください。といっても、彼らは人の目につかなくする術を心得ていますけどね。彼らをホグワーツの中に入れるのは簡単です、『お入り』などと呼んであげればいいのですよ。……さあ、ミス・ポッター」

 

 教わったレイラは、言われた通りに言葉を口にした。

 

「『お入り』」

 

 すると妖精は喜びながら窓をくぐって中に入ってきた。そして嬉しさを表すようにレイラの周りを飛び回り、小さな光がいくつも舞った。

 

「上手くいったようだね。ではわたしは行くよ。ハロウィーンパーティに遅れないように。パンプキンパイは美味しいですから」

「ええ、ありがとうございました先生」

「ありがとうございます」

 

 小さな歩幅でトテトテと歩くフリットウィック先生を見送った。先生の言う通り、もうそろそろハロウィーンパーティが始まるようで、多くの生徒が大広間に駆け込んでいた。レイラたちを何人もの生徒が追い越していったが、妖精は姿を見せる人を限定したようで、誰一人としてレイラの肩に腰を下ろした妖精を目に止めるものはいなかった。

 大広間の入り口まで来たところで、レイラは立ち止まった。

 

「どうした、レイ?」

「先に行っててくれ、手洗いに行ってくる」

「……わかった」

 

 アルフレッドと別れ、レイラは女子トイレへと向かった。一階のトイレはかなり綺麗に掃除されていたようで、目立った汚れなどは見当たらなかった。そういえば、ホグワーツの掃除は誰がやるのだろう。屋敷しもべ妖精か?

 蛇口をひねって手を洗いながらそんなことを考えていると、妖精がレイラのローブを引っ張った。

 

「ん? どうしたの」

 

 妖精が一つの個室を指差したので、レイラはそこに近づく。すると中から泣き声が聞こえてきた。当然女の子の声だ。

 どうしたものかと悩んだが、中の人物が扉を開けた。出てきたのは、栗色の髪をしたレイラと同じ同じ一年生、ハーマイオニー・グレンジャーだった。ハーマイオニーは鼻をすすりながら目元を拭い、すぐそばにいたレイラを見たが、フイと目を逸らして洗面台へと向かった。

 

「どうしたんだいハーマイオニー」

「……放っておいてちょうだい」

「もうすぐハロウィーンパーティが始まる、このままここにいれば夕食を食べ損ねるよ?」

「いいから、一人にして!!」

 

 大声を張り上げたハーマイオニーにレイラは目を丸くし、妖精は飛び上がった。取りつく島もないが、レイラはハーマイオニーにゆっくりと近づいた。レイラは事の原因に、一つだけ心当たりがあったのだ。

 近づくレイラに気づき、ハーマイオニーは振り返る。後ろは洗面台のため、彼女は後ろに下がれない。やがて目の前まで来たレイラは少し屈んで、ハーマイオニーの伏せられた顔をしたから覗き込んだ。

 

「誰かに悪口でも言われたのかな?」

 

 ピクリと、ハーマイオニーの肩が揺れた。これかと、レイラは目を細めた。

 

「あいつは嫌な奴だ、友達なんかいない」

 

 ハーマイオニーが涙を流す原因となった場にいなかったはずのレイラが、的確に彼女の傷を暴いていく。ハーマイオニーは弾かれたように顔を上げ、泣きながらレイラを見つめた。

 

「……どう、して?」

 

 なぜそのことを知っているのか。もしかしてレイラも、自分に対して悪態をついていたロンと同じ気持ちなのだろうか。涙を流す量が増えたハーマイオニーに構わず、レイラはニコリと微笑んで、屈んでいた体勢を直した。

 

「少し君の話を耳に挟んだことがあってね、そこから推測しただけだよ。わたしが君を嫌っていると思った? あはは、勉強ができる人を嫌うなんて、そんなのはできないやつのやっかみだよ」

 

 レイラの言葉に、ハーマイオニーは目を丸くした。突っぱねる気配がなくなったハーマイオニーの目元を、レイラはハンカチで拭ってやる。優しく、包み込むように。

 やがてハーマイオニーはポツリポツリと何があったのかを話してくれた。

 「呪文学」の授業でロンが呪文の発音を間違えたことを指摘したのだが、その言い方が気に食わなかったらしく、『だから、誰だってあいつには我慢できないっていうんだ。まったく悪夢みたいなヤツさ』とハリーに言っていたのを耳にしてしまったのだ。うすうす自分が嫌われているのではと気付いていたが、ロンの一言で心のダムが決壊した。

––––というところかな。

 

「どっちが悪いかはわたしは言わないけど、君が周りとの関係を良くしたいのなら、相手を否定するだけじゃダメだよ」

「…………うん」

 

 涙を止めたハーマイオニーは、コクリと頷いた。レイラはよしと頷くと、懐からクッキーを取り出そうとした。しかし彼女の方に座っていた妖精が、ポカポカとレイラの肩を叩いて後方を指差す。目の前のハーマイオニーは、呆気にとられたようにレイラの後ろ、女子トイレの入り口を見ていた。

 振り向く前、背後から突然悪臭がしたことに顔をしかめた。

 振り返って見れば、ブァーブァーと唸り声を上げる、四メートルの巨体、鈍い灰色の肌、ずんぐりした巨体のハゲ頭がいた。巨大な棍棒を引きずりながら女子トイレに入ってきたそいつを、レイラは『幻の動物とその生息地』を呼んで知っていた。トロールだ。

 ハーマイオニーは固まったままだったが、レイラは素早く行動した。クッキーを一つ取り出すと、表面に杖で文字を掘る。

『W.C. Call teacher』

 レイラはそれを妖精に持たせる。

 

「これをわたしと一緒にいた、アルフレッドに届けて」

 

 妖精はコクコクと頷くと、クッキーを大事に抱えて飛んでゆく。

 ハーマイオニーからしたら、クッキーがひとりでに飛ぶという光景だったが。視界に入っていただけで、トロールに気を取られすぎて意識していなかった。

 

「ハーマイオニー、動ける?」

「え、ええ……」

 

 ハッとした様子のハーマイオニーをかばうように、レイラは位置取りをした。トネリコの杖を握る手に力が入る。

 レイラは今の自分に何ができるのかを考える。この場で使える魔法といえば、浮遊呪文、小さなものを変える程度の変身術、鍵開け呪文、アルフレッドから教わった身を守る魔法だ。

 妖精がアルフレッドにクッキーを渡せるとして、わたしがするのは時間稼ぎだな。隙があればハーマイオニーを逃がしたいところだ。

 ズシンズシンとトロールがレイラたちへと近づき、棍棒を持ち上げた。

 

「奥に行って!」

 

 レイラはとっさにハーマイオニーへ指示を出し、自分もその場を飛び退る。

 直後に巨大な棍棒がスイングされ、木製のトイレの扉と壁が破片となって飛び散る。レイラはその破片を手に取ると、杖を振って石に変えた。重さはそこそこだが、投げたところでトロールを倒せはしないだろう。しかし、注意を引くことはできる。

 石をトロールの頭にめがけて投げる。狙い過たず直撃し、トロールは嫌そうに顔を振り、犯人であるレイラを睨んだ。

 

「いいかいハーマイオニー。これからわたしが動いて、トロールがそれについてきたら、君は反対に逃げて」

「だめよ、一人でトロールと戦うなんて!」

「二人でここにいたって埒があかない。君が逃げれば助けを呼ぶことだってできるんだ」

 

 本当はもう助けを呼んでいるけど、ハーマイオニーを逃がすための嘘だ。

 レイラは再び木片を石に変えて投げる。怒りを覚えたトロールの注意は、完全に彼女にだけ注がれた。それを確認したレイラはハーマイオニーに逃げるよう頷きで合図する。

 だが、逃げようとしたハーマイオニーの前を、スイングされた棍棒が偶然にも通ってしまった。

 

「きゃあ!」

「ハーマイオニー!?」

 

 棍棒がトイレを破壊し、その木片がハーマイオニーに降り注いだ。怪我こそしなかったが、もう少しで棍棒が当たっていたという恐怖に、ハーマイオニーは立ちすくんでしまった。

 その時、女子トイレの出入り口に人が現れた。ハリーとロンだ。

 

「レイラ!」

 

 叫ぶハリーに、これ幸いとレイラは声をかける。

 

「二人とも、ハーマイオニーを連れて行って!」

 

 ハリーとロンはレイラの言葉通りに、ハーマイオニーを木片の山から連れ出し、大急ぎで出入り口に戻る。

 

「レイラも早く!」

 

 ハリーが声を上げるが、レイラは進めずにいた。いくらトロールの知能が低いとはいえ、目の前を素通りさせることなどないだろう。出入り口へ向かう途中で背中を殴られては無事では済まない。

 だが、ハリーたちが来たということは、まもなく先生方も来るだろう。レイラは一先ずはなんとかなるかと、ホッと息をつく。それもつかの間、トロールはくるりと後ろを向き直った。

 

「……は?」

 

 どういうことだと、トロールを見れば、ハリーが破壊された蛇口を拾って投げていた。トロールは蛇口を投げられ、より強い痛みを感じたハリーに棍棒を振り上げた。

 ハリーはトロールをレイラから引き剥がそうとしてはいたが、その後のことを考えてはいなかった。

 

「––––ッ、ハリー!」

 

 レイラは全力で走った。トロールの脇を疾走し、ハリーへ向けて手を伸ばす。幸か不幸かトロールはハリーへ狙いを定めていて、レイラには見向きもしなかった。

 レイラは動けないでいたハリーを突き飛ばし、自身も同じ方向へ飛ぶ。しかし、斜めに振り下ろされた棍棒が、ハリーを突き飛ばしたレイラへと迫っていた。

 レイラには、その瞬間がゆっくりと見えていた。驚いたようなハリーの顔が目に入り、ついでに目前に迫った棍棒が見える。

––––これは、当たるな。

 

「レイ!」

 

 冷静に、されど諦めを持ち始めていたレイラの思考を、彼女を呼ぶ声が吹き飛ばした。

––––まだ、対抗手段はある!

 棍棒よりも早くレイラの右手は動き、杖をまっすぐ向ける。そしてレイラは呪文を口にした。

 駆けつけたアルフレッドは、果敢にも杖を構えるレイラを見た。その姿は勇ましく、美しかった。

 

「プロテゴ!」

 

 レイラがとっさに唱えたのは盾の呪文であった。さまざまな呪文を防ぎ、物理攻撃も防げる呪文だ。本来なら一年生が習う呪文ではない。レイラはアルフレッドから教わり、知っていただけである。実践するのはこれが初めてだ。だからこそ、盾は不完全であった。

 

「いっ!?」

 

 トロールの棍棒は強度の低かった盾を破ったが、その威力を大きく減衰させていた。しかしそれでも、棍棒はレイラを直撃し、彼女がとっさに出した左腕を力強く打ち据えた。

 レイラが床に倒れ、それを見ていたアルフレッドは駆け出す。倒れたレイラが見たアルフレッドの顔は、今まで見たことがないほど必死の形相だった。自分のためにそんな顔をしてくれる人物がいることに、レイラは場違いにも喜んでいた。痛みに顔をしかめながらもアルフレッドの一挙手一投足に目を向ける。

 アルフレッドが杖を振ると、棍棒を振りあげようとしていたトロールの体に、緑の蔦が幾重にも絡みついていく。初めのうちは乱暴に体を暴れさせて蔦を引き裂いていたトロールだが、その動きが緩慢になっていき、ついにはドウと倒れ込む。アルフレッドはゆっくりと倒れたトロールの顔に近づき、杖先を向ける。

 

「ステューピファイ!」

 

 赤い閃光が走り、トロールの見開かれた目に直撃する。一度ビクリと痙攣し、トロールの全身から力が抜けていった。

 レイラは上体だけを起こし、右手で体を支える。

 

「レイ!」

「レイラ!」

 

 アルフレッドとハリーがレイラのみを心配して駆け寄る。彼女はなんでもないと言うように右手をぱたぱたと振った。

 

「二人とも怪我はない?」

 

 あっけらかんと言うレイラに、「何をバカなことを」と言いかけたアルフレッドだが、バタバタと足音が聞こえて押し黙り、クッキー取り出して見せる。どうやらちゃんと先生方を呼んでくれたようだ。……もう終わったけど。

 まもなくマクゴナガル先生が飛び込んできた。その後すぐにスネイプ、クィレルが駆けつけた。

 

「いったいあなた方はどういうつもりなんですか。ミスター・ルークが伝えなければ、わたしたちはここに来るのが遅れていました。ミス・ポッター以外のあなたたちはいったいどうしてここに来たのですか?」

 

 スネイプはハリーに素早く、鋭い視線を向けた。ハリーはうつむいた。その時、暗がりから小さな声がした。

 

「わたしが悪いんです、先生」

「ミス・グレンジャー!」

 

 恐怖にすくんでいたハーマイオニーは立ち上がった。

 

「私がトロールを探しにきたんです。本で読んだので、倒せると思って」

 

 ロンは驚いて目を丸くしていた。ハーマイオニー・グレンジャーが先生に真っ赤な嘘をついている?

 ロンがそう思うのと同時、レイラは別のものを見ていた。スネイプ先生の足だ。片足がズタズタになって血が出ていた。

 

「そのせいでたまたまいたレイラや、助けに来てくれたハリーたちを巻き込んでしまいました。レイラはわたしを庇ってくれましたし、ハリーたちは心配して駆けつけてくれました。……彼らがいなければ、私は死んでいました」

「なんと、なんと恐ろしいことを。あなたには失望しました、ミス・グレンジャー。危機感が欠けています」

 

 レイラは無表情を装っていたが、内心はハーマイオニーを祝福していた。きっとここが彼女の転換点なのだろうと。

 

「グリフィンドールから五点減点です」

 

 マグゴナガル先生は、今度はハリーとロンの方に向き直った。

 

「あなたたちは運が良かった。大人の野生トロールと戦って無事でいられるものではありません。その勇気に免じて、一人五点ずつ差し上げましょう。生徒たちが、先ほど中断したパーティの続きを寮でしています、お行きなさい」

 

 ハリーがチラリとレイラを見る。レイラはニッコリと笑いかける。

 

「大丈夫だよハリー、心配はいらないよ。また明日」

「うん、また明日」

 

 ハリーたち三人は急いで部屋を出て、寮へと向かった。その後、ハリーとロン、ハーマイオニーは互いに「ありがとう」と言って、仲直りをすることとなった。ハーマイオニーはこの日、二人の友人となったのだ。

 

 しかし、それはまだ数分後のこと。女子トイレには、未だレイラとアルフレッド、三人の先生がいた。

 レイラはアルフレッドに支えてもらい、ゆっくりと立ち上がった。その彼女を、マクゴナガル先生は険しい顔で見ていた。

 

「どうしました、マクゴナガル先生?」

 

 マクゴナガル先生はため息をついた。いったいどうしたのかと、レイラは小首を傾げる。

 

「何が大丈夫なものですか、ミス・ポッター。腕を見せなさい」

「……バレてましたか」

 

 レイラはローブから左腕を抜き、セーターとシャツを捲り上げる。

 彼女の細腕には、大きな青紫色の内出血の模様と酷い腫れが出ており、痛ましかった。マクゴナガル先生はハッと息を呑み、スネイプは顔をしかめた。

 説明を求めるマクゴナガル先生に、レイラは簡潔に「ハリーを庇って棍棒を受けました」と述べた。

 

「すぐにマダム・ポンフリーの元へお行きなさい。もしものために待機してもらっています」

「え……いや……」

「悪化しては目も当てられないでしょう。ほらはやく」

 

 医務室へ向かうことを渋るレイラをマクゴナガル先生は急かし、アルフレッドが引きずっていくこととなった。

 明かりの灯る廊下を二人はゆっくりと歩いていく。レイラの顔は女子トイレを離れるまで澄まし顔のままであった。しかし離れるほどにその顔はくしゃくしゃになっていった。

 今まで痛みを我慢していたが、彼女の腕は打撲では済んでいなかった。トロールの棍棒はレイラの腕を直撃し、骨折させていた。

 毅然としていたレイラだが、その瞳は今や涙が滲んでいた。

 

「人生で初めて骨折した。……いたい」

「まったく。妖精がクッキーを持って来たときは何事かと思ったぞ」

「ちゃんと先生を呼んでくれたみたいでよかった。ありがとー」

 

 人の気も知らないで。と、アルフレッドはため息をついた。もしかすると真に危機感がないのは隣の少女なのではなかろうか。

 レイラはアルフレッドに目を丸くして、ふにゃりと笑った。

 医務室のマダム・ポンフリーは呆れたようにレイラを見ていた。「そんな細身で無茶をして」と、レイラを叱った。それに従順でいたレイラだったが、骨折を治すであろう飲み薬を飲んだ直後、のたうった。喉が焼けるように痛んだ。

 

「……? ッ!? 〜〜〜〜!!」

 

 意地でも口のものを吹き出すまいと堪え、ジタバタと足をばたつかせる。これで骨折が治るとはいえ、あんまりである。

 

「残してはダメよ、全部飲みなさい」

 

 その一言はレイラにとって死の宣告だった。

 

 

 医務室の入り口。木製の扉がわずかに開いており、中でばたつく少女の様子がうかがえた。

 銀髪から覗く翡翠の瞳は、目の前に立つ老人を見ていた。半月眼鏡にキラキラした目が特徴的な、ダンブルドア校長だった。ダンブルドアは穏やかな目で、目の前に立つアルフレッドを見ていた。

 対するアルフレッドは、やや緊張したようだった。

 

「スネイプ先生から聞かせてもらった。わしが推測するに君は……いや、よそう」

 

 アルフレッドは何故、と疑問の眼差しでダンブルドアを見る。

 

「君の出自がどうあれ、君はホグワーツの立派な生徒じゃ。他のみんなと平等じゃよ」

「……はは、お見通しですか。さすが、聞いていた通りの人だ」

「そう大それた者ではないよ、ただのお節介なじじいじゃ。そうそう、耳を隠しておきなさい。解けておるぞ」

 

 ダンブルドアはそう言うと、背を向けて歩き出した。そっと、アルフレッドは自身の耳に触れた。

 あの少女は気づいただろうか。いつかは、己の出自について話したいと思う。その時彼女はどんな反応をするだろうか。それが少し、怖い。

 だがアルフレッドは怖いと思うのと同時に、信じてもいた。レイラが自分を拒絶しないでくれると。なぜならアルフレッドにとってレイラは、初めての––––。

 

 押さえられた手から覗く彼の耳は、常人と比べて尖っていた。手が下された時には、その尖りは消えていた。




妖精なんて、ハリー・ポッター 作品の中に出てこないから、そもそもホグワーツに入らないってことにしました。許可すれば入れる。でも普段妖精は姿を見せたい人にしか見せないから、誰も入れない。って感じ。
スネイプはレイラにリリー・エバンズの面影?を重ねているから甘い。
アルフレッドはエルフ、じゃないよ笑

WC ワールドカップ、ウィンターカップ、What colorではない、
White chairである嘘 でも実際、便器って白いよね。
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